シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第九話 罪と罰

  ☆

 

 

 

 

 

 

「落ち着ついてください、翼さん!」

 

「離してください!! ユウが、ユウがッ!!!」

 

 クリスとの戦闘を終えた後、響達は翼達の病室へと戻っていた。

 翼の参戦のおかげで何とかイチイバルを纏うクリスを追い払うことが出来たが、偶然にも近くまで来てしまっていたユウが拐われてしまった。

 今頃怖い思いをしていないか? そう思っては居ても立っても居られず、直ぐに助けに行こうと暴れる翼を、弦十郎と緒川の二人掛かりで押さえる。

 

「今出ていってもあの子の居場所など分からんだろ!? それにまだお前は怪我人だ」

 

「そんなもの、あの子への“愛”で補って見せます!!」

 

「いい加減にしろって翼!」

 

 大の大人が二人で押さえているにも関わらず翼は止まらなく、奏の静止にも反応しない。

 

「くっ……いい加減に、落ち着け!」

 

「うっ……!」

 

 弦十郎の当て身で暴れる翼を気絶させると、ようやく大人しくなった彼女をベッドに寝かせる。

 

「恥ずかしい所を見せてしまったな、二人共」

 

 身内の恥に頭をかきながら、一部始終を見ていた少女二人に向き直った。

 一人は暴れる翼を病室に連れて来た響と、今回の襲撃に巻き込まれ、尚且つシンフォギアの姿を見てしまった未来だった。

 

「小日向未来くん、だね? 巻き込んでしまって申し訳ない」

 

「そんな事より、ユウくん怪我はしていませんでしたか?! あんな高い所から落ちて……」

 

「あ、ああ……」

 

 弦十郎としては、一般人である彼女を巻き込んでしまった事を第一に謝罪したかったのだが、今の未来の心情はそれどころではなかった。

 

「心配しないで未来。わたし達が見た時は、特に大きな怪我はして無かったから」

 

「そうなんだ……良かったぁ……」

 

 安堵する未来の目元に涙が溜まる。

 未来にとっては自分が巻き込まれた事よりも、崖から落ちたユウの方が心配だったのだ。

 

「…………師匠。お願いがあります」

 

「………………………………分かった」

 

 そんな未来を見た響は意を決する。

 弦十郎も自分を見つめる響の真剣な眼差しから、彼女の気持ちを尊重する事にした。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 人気の無い場所を考えた結果二人はそのまま屋上に出ることにした。

 夕暮れの陽気で気持ちのいい風が二人の頬を撫でる。

 リディアンと隣接して施設だけあってか、放課後の活気に満ちた生徒達の声が聞こえる。

 

「未来、大事な話があるんだ。聞いてくれる?」

 

「また、誤魔化さない?」

 

「うん。もう未来に嘘はつかないよ。わたしの嘘は未来を悲しませるだけだって気付いたから」

 

 もう自分と親友の間に嘘は必要ない。

 だからこそ本当のことを、本当の気持ちを伝えようと思った。

 

「と言っても、何から話せば良いかな……」

 

「最初からで良いよ? 全部聞くつもりだから」

 

 真剣な顔をみせる未来に、響は頷くと彼女の希望通り一から話す事にした。

 始まりは三年前、あのライブの日、大怪我をした自分の中に聖遺物が宿った事。

 一カ月と少し前、ユウと一緒にノイズから逃げていた際に、自分の中のシンフォギアの力が覚醒した事。

 自分が未熟なせいで翼が入院してしまい、強くなろうと弦十郎の元で修行の日々を送っていた事。

 そのせいで未来達に嘘をついて約束を破ってしまっていた事、全てを話した。

 

「そっか……」

 

 全ての事情を知った未来は、短く一言だけ呟いた。

 

「怒ってないの?」

 

「怒ってるよ。でもちゃんと全部聞くって、ユウくんと約束したから」

 

 本当なら話の途中にでも癇癪を起こして思いの丈をぶち撒けてしまいたかった。

 だが未来はあの少年と約束した。そして響を信じている、彼女には彼女なりの考えがあって黙っていたのだと。

 

「……わたしは、わたし一人が頑張ればみんなを守れると思ってた。たとえ未来達が離れて行っても、それは未来達の笑顔を守る為の仕方のない事なんだって……」

 

「そんなわけ無いよ。響がいつも辛そうな顔をして帰ってきてるの知ってるんだから。それなのに皆んな笑顔になんてなれる訳ないよ……」

 

「…………そうだよね」

 

 自分だけが犠牲になれば良い、それはただの自己満。犠牲になる自分のことを大切に思っている人がそれで幸せになれるはずがない。

 今までは先のことばかり考えて今の彼女を見ていなかった。

 そのせいで親友、そして自分自身を傷つき、自分を思ってくれていた少年に心配まで掛けさせてしまった。

 結局自分は友達を守ると言いながら自分の事しか見えていなかったのだと響は反省した。

 

「私は響が心配だった」

 

「うん」

 

「でも響は何も話してくれなくて、私に心配すらさせてくれなかった」

 

「うん……」

 

 響の言い分を全て聞いた未来は、今度は自分が胸の奥で押さえ込んでいた想いを吐き出した。

 

「私……はそれが苦しかった。響が大変な事は分かっているのに、何もしてあげる事が出来ない。それじゃわたし響の友達じゃ居られなくなるって思ってた」

 

「わたしも、同じ事を思ってた」

 

 響もまた未来を悲しませてしまうような自分は、友達としてふさわしく無いと考えていた。

 お互いを大切に思うからこそ、お互いを傷つけあってしまい、お互いに友達で居られないと思ってしまっていたのだ。

 

「わたし達、本当にすれ違ってたんだね」

 

「ほんと、馬鹿みたいだね……」

 

 二人は苦笑いしながらそっと抱き合った。

 久しぶりに感じるお日様の香りに響の心は安堵した。

 

「ユウくんのおかげだね」

 

「うん。そうだね」

 

 もしあの時彼が勇気をくれなかったら、事実を知った後自分達はもっと拗れてしまっていたかもしれない。

 自分達を結びつけてくれた少年の笑顔を思い出しながら、二人は体を離すと目元に溜まった涙を拭った。

 

「ねぇ、ユウくん無事かな?」

 

「大丈夫だよ未来。クリスちゃんきっと悪い子じゃ無いから、ユウくんに酷い事はしてないと思う」

 

 二人の問題が解決すると、今度の悩みの種はユウの安否に変わる。

 響と未来は沈みゆく夕陽を見つめながら、彼の無事を祈るのだった。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

「ここだ、入れ」

 

「わわっ!?」

 

 背中を軽く押されたユウは、よろめきながらも一歩中へ踏み込む。連れて来られたのは、廃墟と化したアパートの一室だった。

 

 薄暗く、埃が舞い、壁紙は剥がれ、畳の上には薄く砂埃が積もっている。人の気配はまるでなく、全体的に湿っぽい匂いが鼻についた。

 

「いたたぁ……」

 

「ほら、手を出しな」

 

「ん? こう?」

 

 ユウは言われるままに両手を差し出す。すると、カチャリと金属の音が鳴り、両手首に冷たい感触が走った。

 

「んー? これ何?」

 

「手錠だよ。見たことぐらいあるだろ?」

 

「あっ、ほんとだ! ドラマで見たやつだね!」

 

 まるで珍しいオモチャでも見つけたかのように、ユウは手錠をじっと見つめ、かしゃかしゃと音を鳴らして試している。

 

「つーわけで、しばらくここにいてもらうからな」

 

「どうして?」

 

「今お前を帰したら、こっちの居場所がバレるかもしれねぇだろ。こっちの用事が済むまで人質だ」

 

 そう言いながら、クリスはいたずらっ子のようにニヤリと笑う。その表情は少しだけ誇らしげで、ほんのり寂しげにも見えた。

 

 でも――

 

「そっか! 分かった! じゃあ晩ご飯つくるね!」

 

「いや、ちょ、おい待てェ!!?」

 

 言い終わるが早いか、ユウは立ち上がってキッチンの方へとスタスタと歩いていく。

 

「……おいコラ! どこ行くんだ!? 勝手に動くなってば!」

 

「えー? だってお腹空いたでしょ?」

 

 そう言ってユウは冷蔵庫を開けた。しかし当然、中には何も入っていない。いや、それどころか電気すら通っていない。

 

「あれ? 空っぽだよ?」

 

「だから言ってんだろ! ここは廃墟なんだよ! 冷蔵庫も電気も止まってるに決まってんだろが!」

 

「じゃあご飯どうするの?」

 

「それは……お前……っ……て、何でアタシが普通に会話してんだよォォッ!!!」

 

 頭を抱えて崩れ落ちるクリス。気づけば完全にペースを崩されていた。

 強引にでも場の空気を戻そうと、クリスは背筋を正して命じる。

 

「座れ」

 

「はい」

 

 大人しく畳にちょこんと正座するユウ。手錠をつけたまま、それが当然のように、神妙な顔で待つその姿にクリスは言葉を選ぶ暇もなく問いかける。

 

「……お前、自分が誘拐されたって、分かってんのか?」

 

「え? ぼく誘拐されてたの?」

 

「うそだろ!?」

 

 完全な無自覚に、今度は目を剥いて叫ぶクリス。息を切らしながら、あんぐりと口を開けている。

 

「いや、じゃあなんだと思ってたんだよ……?」

 

「間違えて連れて来ちゃったのかなって」

 

「そんなヤツがいるかぁぁぁ!!」

 

 勢いよく畳を叩いてツッコむが、そのリアルな予想に、思わず真顔になる。そう――この少年、実際に“間違えて連れ去られた過去”があるのだ。

 

(くそっ……やべぇ、なんだこのガキ……調子狂う……)

 

 睨もうとしても、憎めない。手錠をつけられながらも無邪気に笑うこの少年の前では、クリスの怒気も空回りするばかりだった。

 

「ん? お前怪我してるじゃねえか」

 

 足を崩したユウの靴下が赤く滲んでいるのが見える。

 それは先程崩れた崖から滑り落ちてた時に出来たものだ。

 

「あ、ほんとだ。さっき崖から落ちちゃった時かな?」

 

(そっか、アタシのせいで……)

 

 怒りのままに響を攻撃した結果、全く関係のない少年を怪我させてしまい後悔の念に駆られる。

 

「ほら、見せてみな」

 

「ん? うん」

 

 改めて怪我した所を見てみると、大きくこそ無いが、ユウの白い足に赤く腫れた傷がよく目立っているのが良く分かった。

 

「痛いか?」

 

「んーん! ぼく男の子だからこれぐらいへっちゃらだもん!」

 

「そうか……」

 

 差し出してきたユウの右足を、クリスはまじまじと見つめる。

 

(しかし、やっぱり良い足してんなぁ……)

 

 細すぎず太すぎず、フニフニと柔らかくありながらよく引き締まっており、それでいて肌触りの良さにずっと触っていたくなる。

 そして手錠をしながら靴下を脱ぎこちらに両足を向け姿は、クリスに背徳感のようなものを感じさせた。

 

(ゴクッ……!)

 

「お姉ちゃん?」

 

「あ、いや! な、何でも無いぞ!」

 

 男の足とは思えない程に艶めかさに、思わず生唾を飲んでしまったのを誤魔化す。

 

「そういえば、こうやってクリスお姉ちゃんに手当してもらうの、これで二回目だよね?」

 

「え? ああ、そうだよな……」

 

 初めて会った日、転んでしまったユウをクリスは助け起こして、今と同じように擦りむいた膝に絆創膏を貼ってくれた事があるのを思い出した。

 

「あの時も助けてくれてありがとう!」

 

「そんな顔……すんじゃねぇよ……。これはアタシが付けちまった傷だ」

 

 ユウの純粋な笑顔にクリスはつい顔を逸らしてしまう。

 しかしユウはそんな罪悪感に囚われるクリスの両手をぎゅっと握りしめた。

 

「でもぼくは嬉しかったし、今も嬉しいんだ。だから、ありがとう!」

 

「…………あ」

 

 こちらを見下ろす太陽のような笑顔にクリスの胸の奥がトクンと高鳴った。

 

「ほ、ほら! これで大丈夫だ!! 飯は買って来てやるから、それ食ったらもう寝ろよな!!!」

 

「はーい」

 

 消毒をし簡単に包帯を巻くと、クリスは顔を赤くしながら晩御飯を買う為部屋を後にした。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「すぅ……すぅ……」

 

 アタシが近くの人気の少ないコンビニから買って来たパンを食べた後、ユウは直ぐに眠りについた。

 崖下に落ちた後、登れる所を探そうとかなり歩いたらしく、思った以上に疲れていたらしい。

 

「…………綺麗な寝顔だな」

 

 隣で眠るユウの髪を撫でながら、起こさないよう小さく呟いた。

 

「アタシのやってる事は、正しいんだよな?……()()()()

 

 アタシは悩んでいた。

 ノイズを使い争いの火種を消す。それこそがアタシの目的。

 しかしそれと同時に火種とは関係の無い人を犠牲にしてしまっている。

 フィーネは平和の為には犠牲は仕方がないと言っていた。大勢の人間を救う為にごく僅かな人間を切り捨てる。それは当然の事で、平和のために犠牲になったのなら、その人達は幸せなのだとも言っていた。

 

「ユウ……」

 

 その寝顔はまさに平和そのものだと思わせる程に綺麗だった。

 目の前の柔らかい頬を撫でながら、先程巻いた包帯を見る。

 

(そんで、綺麗なコイツにギズを付けちまったのも、アタシなんだ……)

 

 今までは小さな犠牲が出ても見ないふりをしていた。

 でも今目の前で傷ついたユウの姿を見て、考え方を改めさせられる。

 ユウだけじゃない。アタシのやってきた事で人が傷つき、こんな風に綺麗な光景を失ってしまっているんだ。

 

「こんないい子が傷つくのが、本当に平和への近道なのかよ……?」

 

 答えてくれる奴はここには居ない。

 明日フィーネと話そう。

 アイツの考えとアタシの考えを話し合って、答えを導き出そう。

 そう決めると、アタシは迎えに来た睡魔に逆らわず瞼を閉じた。

 

 

  ☆

 

 

 次の日、クリスは昨晩の決意のまま、ある場所へと来ていた。

 人気のない森の中にある湖。その辺りに聳え立つ大きな屋敷、そこが彼女達の隠れ家だった。

 

「フィーネ! フィーネ居ないのかーッ!?」

 

 屋敷の奥深く、まるで研究所のように様々な機械類が設置された大広間で家主の名前を呼ぶ。

 その声に反応したのか、奥の影になった場所から一人の女性が姿を現した。

 

「あら? 帰って来たのクリス?」

 

「アンタに聞きたい事があったからな」

 

 女性の格好は一糸纏わずの姿。普段そんな人を見たら恥ずかしがるクリスだが、とっくに見慣れたのか気にせず近づく。

 

「でも、よく帰って来れたわね?」

 

「まあな。色々不本意な手を使わされたが、なんとか――」

 

「そうじゃないわクリス。あんな無様な姿を晒して、よくのこのこ戻って来れたわねぇって言っているの」

 

「なッ!?」

 

 予想外の反応を見せるクリスを見たフィーネと呼ばれた女は、心底呆れたように首を振る。

 

「簡単なお使いは出来ない。命令は無視する。ネフシュタンの鎧を持ってして無様を晒し、その上怒りに任せて素顔まで晒してしまうなんてね」

 

「そ、それは…………」

 

 フィーネの物言いに対しクリスは押し黙ってしまう。

 実際、完全聖遺物であるネフシュタンの鎧を使用しておきながら、『新人の装者一人を連れてくる』と言った簡単な命令すら果たせていない為仕方なかった。

 

「また、()()()()しないといけないかしらぁ?」

 

「っ……!?」

 

 自らの指を舐めながら、大蛇のような瞳でこちらを睨み付けてくるフィーネ。そんな妖艶ともとれる姿にクリスは両肩を抱き震えさせる。

 かつて翼相手に不覚をとってしまった際に受けた、治療兼仕置きを思い出していた。

 

「なんてね。冗談よクリス」

 

「…………え?」

 

「今回の件、お手柄だった事もあるもの」

 

「お手柄……?」

 

「あの可愛い可愛い人質ちゃんの事よ」

 

「なっ!?」

 

 それが誰のことを指しているのか言われるまでもなかった。クリスの脳裏には、今頃廃アパートで眠っている、ユウの寝顔が思い浮かんでいた。

 

「あの子一人居れば、立花響と風鳴翼の二人を同時に無力化できるもの」

 

「ま、まさか、アイツを巻き込むつもりかよッ!!?」

 

「当然でしょう。前々から考えてはいたけど、邪魔な奴の近くに居たせいで手が出せなかったのよ。今なら問題なく利用できるわ」

 

「アイツは関係無いだろッ!!!」

 

「関係ない? あはははッ! おかしな事を言うのね。散々関係のない人間を巻き込んだアナタが今更何を言うの?」

 

「そ、それは……」

 

 それは昨晩クリスが悩んでいた事。

 その悩みの真意を話し合う為に、この場所へと戻って来たのだ。

 

「なぁフィーネ……。本当にこれで良いんだよなぁ?」

 

「?」

 

「あんたが言うように力を持った奴らを叩き潰していけば、本当にいずれ世界から争いはなくなるんだよな!?」

 

「くくっ…あははは! アッハハハハッ!!!」

 

「な、何がおかしいんだよ……」

 

 戸惑いつつもクリスには、フィーネの高笑いの意味が何となくわかった。

 だがそれは彼女が最も聞きたくない真実だった。

 

「そうね。でもそのやり方じゃ、争いの種を1つ潰す代わりに、二つ三つばら撒く事になりそうね。争いがなくなる頃には、地球上から人間は全滅してるでしょうね?」

 

「なっ!? あんたが言ったんじゃないかっ! どれもこれもあんたが――」

 

「ねぇクリス。アナタの良い所を教えてあげましょうか?」

 

 こちらを小馬鹿にした態度でゆっくりとクリスへと近づき、彼女の首元を指差した。

 

「人間嫌いを歌っておきながら、心の奥底では誰かを信じてみたくてたまらない。だからこんな簡単に騙されてしまう、そんな可愛い所よ」

 

 自分の思想の理解者だと思っていたフィーネから告げられた裏切りの言葉。クリスの足取りは全身の血を抜かれたかのように重くなる。

 そんなクリスをニタニタと笑っていたフィーネが、右腕を掲げると全身を黄金の鎧が包み込んだ。

 

「その鎧はッ!?」

 

 フィーネの髪色と同じく趣味の悪さを感じる黄金の鎧。色合いこそ違えど、特徴的なイバラの装飾と鞭を見間違える筈がなかった。

 

「そんな目で見ないで? ただあの子のような融合体を、人為的に作り出せるのかちょっと試してみたいだけなのよ」

 

 それはクリスが纏っていたネフシュタンの鎧。

 クリスが脱ぎ捨てた鎧を回収し、それを響と同じように自らの体内へと取り込んだのだ。

 

「クリス、アナタはもういらないわ。せめて最後にこの鎧の性能のモルモットとしての仕事ぐらいはこなしてみせてね?」

 

「っ!?」

 

 嘲笑うかのような視線が殺意を帯びたものに変わる。

 フィーネが鞭を振るうと同時に、爆発物でも使ったかのように屋敷の壁が吹き飛んだ。

 

「あ……う、ぐぅ…………」

 

「どうした? 変身しないのか?」

 

 イチイバルを発動させず逃げる事を選択したクリスは、あまりの衝撃に避け切る事ができず、屋敷の外へと放り出された。

 

「まあ歌が嫌いなアナタらしいわね。道具(うた)を道具として割り切れない、そう言うところが甘いって言うのよ?」

 

「あぐっ!?」

 

 フィーネは、そのまま地面に倒れ伏したクリスを、なぶるように蹴り飛ばした。

 

「安心して? 簡単には殺さないわ。アナタにはまだあの子の居場所を吐いてもらわないといけないもの」

 

「っ!?」

 

 今のフィーネならシンフォギアを纏っていないクリスを殺す事など動作もない。

 にも関わらずトドメを刺さないのは、重要な人質であるユウの居場所を吐かせる為だ。

 それが分かったクリスは、歯噛みし痛いぐらいに拳を強く握りしめた。

 

「させねぇ……!」

 

 意気消沈していたクリスの脳裏に、あの少年の笑顔が蘇る。

 あの笑顔をこんな奴に汚させるわけにはいかない。

 その一心で立ち上がった。

 

「Killiter Ichaival tron……」

 

 戦いの旋律を唱えるクリスに、赤いシンフォギアが応える。

 

「へぇ? 歌が嫌いなアナタが、どう言う風の吹き回しなのかしら?」

 

「させねぇ! アイツには、ユウにだけは手出しさせねぇ!!!」

 

 イチイバルを装着したクリスは、両腕のガントレットをガトリングに変形させ裏切り者へと銃口を向ける。

 

「ふん、何を必死に。まさかあんな小さな子に、本気で惚れたわけじゃないでしょうね?」

 

「ほっとけぇッ!!!」

 

 クリスのガトリング砲が火を吹くと同時に、戦いの火蓋が切られた。

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん遅いなぁ……」

 

 ユウが朝起きた時には既にクリスの姿は無かった。

 買い物にでも行ってるのだろうとじっと待っていたが、昼過ぎになっても部屋のドアが開く事はなかった。

 

「あれ? クリスお姉ちゃん……?」

 

 手錠を繋がれた状態では寝て待つしか出来ず、流石に退屈になって来た頃、人の気配が近づいてくるのを感じた。

 しかしその気配は入り口付近で止まったまま動こうとせず、数秒後ドサリと何かが倒れる音がした。

 誰が来ても開けては駄目だと言われていたが、流石にその気配を疑問に思ったユウはドアをゆっくりと開けた。

 

「お、お姉ちゃん!? どうしたの、大丈夫!?」

 

 扉の先にいたのは、全身を傷だらけにしたクリスの姿。その光景にユウも焦らずにはいられなかった。

 

「しっかりして!? とにかく運ばないと……」

 

 こんな場所で倒れていては傷に障る。

 ユウは、小柄なクリスよりも更に小さな体を潜り込ませ、背負う形で彼女を持ち上げた。

 手錠で両手が塞がっているせいで動かしづらかったが、傷だらけになりながらうなされているクリスを見て気合を入れると一歩一歩歩み出した。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「…………んぅ、ああ……?……ここは?」

 

 深い脱力感から意識がクリアに戻る。

 ぼやけていた視界も次第におさまり見慣れた天井が目に入る。

 そこはアタシがフィーネの野郎に黙って使っていた隠れ家、次第にさっきまでの出来事が思い起こされる。

 

「――勝てなかった」

 

 フィーネは強かった。

 あのバカ女と同じように自らの体内に取り込んだネフシュタンの鎧を使いこなしていた。

 しかもあの女とは違いカケラではなく完全の聖遺物を全てだ。単純な出力としても差が大きく、攻めても攻めても攻撃が通用してる様子はなかった。

 結局防戦一方のアタシは、奴の攻撃に対して目眩しをする事で離脱する事しか出来なかった。

 命からがら逃げ延びたアタシは、アイツの無事を確認しようと此処に戻って来たが、部屋の前での記憶が無い。

 

「そうだ、アイツは……!」

 

 ここまで来た目的を思い出し、首を動かして部屋を見渡す。

 するとアタシの枕元にソイツはいた。

 既に陽が落ちて暗くなった部屋の隅で、三角座りをしながら眠りについていた。

 

「おい、お前……ぐっ!? つぅ…………」

 

 ユウの姿を見た瞬間、反射的に起き上がった時に身体中に激痛が走る。

 よく見るとアタシの体の至る所に包帯やガーゼなどが巻かれて処置されている。枕元には洗面器と手拭いも見えた。

 それらの数々から、コイツが看病してくれていたのが分かった。

 

「んぅ………………ん? あ、クリスお姉ちゃん! 目が覚めてよかった!」

 

 物音で目を覚ましたのかユウは、嬉しそうに身を乗り出して来た。

 

「これはお前が……?」

 

「うん! お姉ちゃんの救急箱の中身全部使っちゃったけど」

 

 視線を移すと確かにアタシが念の為に置いておいた救急箱の中身が全て散乱している。

 その散らかりようから、それだけ看病に必死だったのもよく分かった。

 

「……………………余計な事しやがって」

 

「……え?」

 

「誰が助けてくれなんて言ったんだよっ!!!」

 

 ――だからこそ、今のアタシにはその優しさが苦しかった。

 フィーネの奴に良いように利用されて多くの犠牲を出し、血で手を汚してしまった自分には今のコイツは眩しすぎた。

 目の前でチカチカと光るのを振り払うように、アタシは声を荒げた。

 

「言ってないよ? でもぼくが助けたいと思ったんだ」

 

「何でだよ! アタシは……死んで当然なのに……」

 

 動揺のせいか訳のわからない事を口走ってしまう。

 しかしアタシの怒声にも、ユウは真っ直ぐな視線を逸らさない。

 

「ぼくはお姉ちゃんに生きていて欲しいよ?」

 

「……ッ!!!」

 

 こちらの気も知らず淡々と言ってのけるユウに、いい加減苛立ちが募り、体が悲鳴を上げるのも気にせずユウを勢いよく押し倒す。

 

「お前はアタシが怖く無いのか!?」

 

「どうして?」

 

「どうしてって……アタシはお前を拐ったんだぞ!? それだけじゃない。ノイズを使って幾つもの命を奪ってきたんだ。そんなの怖いだろッ! 生きていて良いわけが無いだろッ!!」

 

 戦闘時と変わらない程の殺気を込めながら睨み付け、小さな肩を押さえつけた状態で怒鳴るように吠える。

 

「怖くないよ?」

 

 しかしコイツは一切怯まず、逆にアタシの両眼を真っ直ぐに見つめて来る。

 その眩しい瞳にこっちの方が目を逸らしてしまった。

 

「だってクリスお姉ちゃんは優しいもん」

 

「アタシは優しくなんかねぇよ……」

 

「でも、ぼくの怪我治してくれたよ?」

 

 そう言って自分の足を見せてくる。そこにはアタシが巻いた白い包帯がついていた。

 

「ぼく嬉しかったんだ。あの時感じたお姉ちゃんはとっても暖かくて優しかった。お姉ちゃんは自分で言うほど悪い人じゃあ無いよ?」

 

 ユウの白い手がアタシの頬を撫でる。細い指から伝わる暖かさに、アタシの心は落ち着ついていく。

 ズキリと胸の奥が痛んだ。

 何でコイツはこんなにアタシに優しいんだ?

 どうしようもない馬鹿野郎なアタシなんか、めちゃくちゃに罵ってくれれば良いのに……

 

「クリスお姉ちゃんは、自分が悪い事をしたって分かってるんだよね?」

 

 アタシはコクリと小さく頷いた。

 

「じゃあお姉ちゃんは()()()()()()()()、なんかじゃないよ」

 

 緊張の解けたアタシの体を、ユウはゆっくりと布団に押し戻す。

 自然とアタシは、抵抗する気は起きなかった。

 

「アタシは……生きていて、良いのかよ……?」

 

「生きなきゃダメ。お姉ちゃんが死んだって何も帰って来ない、何も変わらない、誰も救われない。だから、今は生きて自分に出来る事をするべきだよ」

 

 コイツはアタシに生きろと言う。

 死んではいそうですかと終わらせるのではなく、自らの命を生かして償うべきだと。

 一見優しくも聞こえるが、それは死ぬ事に逃げるなと言う叱咤でもある。

 

「それに、ぼくはお姉ちゃんに生きて欲しい。償うとか関係なく、優しいクリスお姉ちゃんが大好きだから死なないで欲しい。それじゃダメ?」

 

「お前…………」

 

 横になったアタシの肩まで、ゆっくりと布団を掛ける。心身の疲れが出たのか再び眠気がやって来る。

 

「きっと大変だと思う。でもぼくも手伝うし、ずっと側に居る。だから一緒に頑張ろ?」

 

 そう言うとユウは寝転ぶアタシに近づき顔を近づける。距離がゼロになると同時に、柔らかい感触を頬に感じた。

 

「頑張れるおまじない。今はゆっくり休んで?」

 

 ユウの唇が頬に触れた瞬間、全身が優しい光に包まれたかのような暖かさに包まれた。

 まるで母親の腕の中に居るような感覚を、アタシは一切の抵抗をせず受け入れた。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

「…………皆んな傷ついてばっかりだ。翼お姉ちゃんも響お姉ちゃんも、クリスお姉ちゃんも…………」

 

 少ししてクリスが寝音を立て出したのを確認した後、ユウはポツリと呟いた。

 

「ぼくがもっと大人だったら、お姉ちゃん達に何かしてあげられたのかな……?」

 

 子供である自分にはこんな事しか出来ない。ユウにはそれが堪らなく悔しかった。

 そんなユウの気持ちに反応するように、服の下で隠れているクリスタルのペンダントが淡い光を放っていた。

 

「……分かってるよ。キミの力は借りない。これはきっと、ぼく達が自分の力で解決しないといけない事だからね……」

 

 光を放つクリスタルのペンダントを、服の上から握りしめながら眠る為に目を閉じる。

 

「ぼく自身にもっと、お姉ちゃん達を守れる力があればな……」

 

 “早く大きくなりたい”そんな事を願いながらユウは、隙間風の吹く部屋の中で眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ☆

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