シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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 ※キャラ崩壊注意
 今回は彼女達が壊れます、お気をつけください。


第十一話 休息

  ☆

 

 

 

 現在ユウは、二課の司令室へと来ていた。

 去ったクリスと入れ替わるように翼達が現れ保護されたユウは、弦十郎達の居る司令室へと案内され、攫われていた間の話をする事になった。

 

「ああ、ユウ。……ユウッ!!」

 

「あははっ! 翼お姉ちゃん、くすぐったいよ〜」

 

 ユウはくすぐったそうに身を捩った。しかしそんなユウの声も届いていないのか、翼は自分の膝に座らせたユウの髪に顔を埋めている。

 久しぶりにユウを身近に感じた翼は、その存在を確かめるように抱きしめる力を強くし、ピッタリとくっついたまま離れなくなっていた。

 

「ウォッホン! それで雪音クリスが……」

 

「うん。クリスお姉ちゃん、ぼくを助けてくれたんだ」

 

 ハスハスと貪るようにユウの髪の匂いを嗅いでいる翼を横目に、弦十郎はユウとの話を続けることにした。

 

「だからクリスお姉ちゃんの事、虐めないであげてね?」

 

「当然だ。しかしその話を聞いている限り、現状雪音クリスは、フィーネとやらと敵対していると言う事だな? なら――」

 

「翼さん! 五分経ちましたよ。交代の時間です!」

 

「ご、後生だ小日向ッ! このままでは私は枯れてしまう!」

 

「ダーメーでーすー。さっきもそうやって時間守らなかったじゃないですか! わたしや響も同じ気持ちなんですから、我慢して下さい!」

 

「ううんッ!……で、ユウ、彼女の事なんだが――」

 

「未来のいう通りですよ! わたしだって早くユウを、抱っこしたいんですからー!」

 

「響は私の後! 順番は守って!」

 

「……雪音クリスは――」

 

「待ってくれ! 私にこの後、十分も待てと言うのかッ!? 無理だ、死んでしまうッ!!」

 

「わたしもあと五分も待てないよー! お願い未来、早く変わって〜!」

 

「貴様らいい加減にせんかァッーーーー!!!?」

 

 真面目な話を幾度となく遮られ、流石に堪忍袋の尾が切れた弦十郎が大声を上げる。上司からの怒声に、周りのスタッフ全員の背筋が伸びた。

 しかし現役女子高生には効いていないのか、ユウを中心に、やいのやいのと言い合っていた。

 

「……………………はぁ、姦しいとはこの事だな」

 

 そんな言葉の意味を思い出しながら、弦十郎は深くため息をついた。

 

 

  ☆

 

 

 弦十郎への報告を終えたユウは、響達と一緒に二課内の休憩所であるソファーに座りくつろいでいた。

 

「弦おじさん疲れちゃってたね? 帰ったら元気のつくものいっぱい作ってあげよ!」

 

「うーん! やっぱりユウくんは、良い子だねぇ〜!」

 

「えへへ〜! 良い子良い子〜!」

 

 ジャンケンで権利を勝ち取った響が、ユウを膝の上に座らせながらその長い髪を撫でる。

 弦十郎が疲れていたのは、この四人のマイペースぶりのせいなのだが、当の本人達は気付いていなかった。

 

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぅ!!?」

 

 そんな二人を挟む形で座った翼と未来が、そのやり取りを羨ましそうに見つめていた。翼はプルプルと拳を振るわせ、握られるスカートがミチミチと悲鳴をあげていた。

 

「むぅ……嫉妬しちゃうよぉ」

 

「どちらにですか?」

 

「どっちにもですッ! もう!」

 

 緒川が差し出してくれたジュースを、未来はやけ酒の如く流し込んだ。未来も翼ほど分かりやすくはないが、鼻血を流しながらデレデレしている響と、自分以外にユウの笑顔が向けられている事に、黒い感情を募らせていた。

 

「しかし、雪音クリスとやらけしからん奴だ。私からユウを奪うなど!」

 

「むぅ! クリスお姉ちゃんの事悪く言わないで? ぼくのお姉ちゃんなんだから!」

 

「どう言う事、ユウくん?」

 

「クリスお姉ちゃん、お父さんとお母さん居ないんだって。だからお母さんとぼく達で家族になろって話したんだ!」

 

 ユウは翼達に、病室であったやり取りを嬉しそうに話した。

 

「え? それって、つまり……」

 

「ユウくんの…………」

 

「お母様公認だとおォォォォッ!!!!?」

 

 しかしそれが彼女達の逆鱗に触れ、翼の絶叫が広い廊下へと広がった。

 

「許せん……許せんぞ、雪音クリスゥ……! なんと羨まけしからん!」

 

 翼は修羅の如き怒気を発しながら、ギリギリと食いしばっていた。

 

「いいなぁ……クリスちゃん、いいなぁ……」

 

 響はひたすら羨ましさを呟いていた。しかしその瞳からは光が消えていた。

 

「…………………………」

 

 未来はただ無言だった。しかし俯いている為表情はわからず、彼女の周りを黒いオーラが包んでいた。

 

「んー? お姉ちゃん達、どうしたの?」

 

「えーと……簡単に言うと、星乃くんを中心に彼女達の心が一つになった……と言う事でしょうか?」

 

「そっかー! お姉ちゃん達が仲良さそうで良かった!」

 

 緒川の嘘をつかない程度に言葉を選んだ説明に、ユウは嬉しそうに頷いた。

 ユウと言う少年を愛してやまない、彼女達からすれば、ユウに”お姉ちゃん”と呼んでもらっているだけの、自分達“お姉ちゃん(仮)”と違い、実の母親から認めてもらっている“公式お姉ちゃん”とは大きな違いがあったのだ。

 勿論彼女達が勝手にそう思っているだけで、ユウ自身に彼女達の序列は存在しないのだが。

 

(良い子なんですが、時々恐ろしさを感じますね……)

 

 この歳で年頃の少女を魅了してしまう魔性の少年に、緒川は恐ろしさすら感じていた。

 

「あら、いいわね。ガールズトーク、私も混ぜてくれない?」

 

 するとどこから聞いていたのか、櫻井了子が悠々と割り込んできた。

 

「ぼく、男の子だよ?」

 

「あらあら、星乃くんは可愛いから良いのよ!」

 

「どこから突っ込めばいいのかわかりませんが、僕を無視しないでください」

 

 「“ガール”なんて歳じゃないだろ」とか、「男も混ざってる」など、突っ込みたいことは多かったが、了子の意見に真剣な顔で頷いているJK三人に押され、何も言えなかった。

 

「了子さんもそいうの興味あるんですか?!」

 

「モチのロン!私の恋バナ百物語聞いたら夜眠れなくなるわよ~。遠い昔の話になるわね。こう見えて呆れちゃうくらい一途なんだから」

 

「「おぉ~っ!!」」

 

「意外でした。櫻井女史は恋というより、研究一筋であると思っていたのですが?」

 

 大人の女性の恋バナに、年頃の少女である響と未来がテンションを上げる。そんな中ユウだけは話の流れがよく分からず首を傾げていた。

 

「いちず……ってなぁに?」

 

「一途って言うのは、誰か好きな人の事を強く思い続ける事よ」

 

「そっか! じゃあぼくと一緒だ!」

 

「え?」

 

「「「えっ!?」」」

 

 恋バナとは程遠いと思っていたユウからの同意に、その場にいた全員が視線を向けた。

 

「ゆ、ゆゆゆユウくん! 好きな子いるのッ!?」

 

「うん、いるよ」

 

「だ、誰なんだそれはッ!!!」

 

「翼さん、落ち着いてください」

 

 緒川の言葉も届いていないのか、翼はユウに顔を近づけ鼻息を荒くしている。翼だけでなく、響と未来の目も見開いていて、側から見ると恐怖を感じる光景だった。

 

「ぼく、皆んなが好き。翼お姉ちゃんも、響お姉ちゃんも、未来お姉ちゃんも! あと、クリスお姉ちゃんや、弦おじさんや緒川さん達も皆んな皆んな大好きっ!!!」

 

 ユウは大好きと言う気持ちを全身で表現するように、両手を大きく大きく広げた。

 

「そうかそうか、ユウは良い子だな〜!」

 

「あ〜やっぱりユウくんは天使だわ〜!」

 

「良い子〜良い子〜!」

 

 ユウの子供らしい価値観に安堵した三人は、そんなユウの姿を微笑ましく見つめながら、彼の頭を撫でた。

 先程まであった気まずさを一瞬で吹き飛ばしてしまい、緒川は再び彼の恐ろしさを感じていた。

 

「…………………………ガキが」

 

 微笑ましい空気が流れる空間の中で、ただ一人だけが不機嫌そうに舌打ちをしていた。

 しかしその事に気がつくものは居なかった。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 多忙な了子が仕事の事を思い出し去った後、再び五人で雑談をしていると、緒川は腕時計を確認すると立ち上がった。

 

「翼さん、そろそろお時間です。行けますか?」

 

「大丈夫です。もう十分にユウ成分を回復出来ましたから」

 

 そう言いながら翼は、膝に乗せていたユウを隣に降ろした。結局公平になるように、三人で交代しながら膝に乗せる事にしたようだ。

 

「もうお仕事入れてるんですか?!」

 

「復活ライブの事もあるし、少しづつね。今はまだ、慣らし運転のつもり」

 

 復活ライブの件はまだ世間的には放送されていないが、ライブを行うには色々と準備が要る。その為にも早く動くに越した事はない。

 

「じゃあ、以前のような過密スケジュールじゃないんですよね?」

 

 逆に言えばこれからどんどん忙しくなると言う事。響はこのチャンスを見逃すまいと、身を乗り出しながら詰め寄った。

 二人の間に座っているユウを押し潰す形になってしまっていたが、響は気が付いていなかった。

 

「だったら翼さん! わたし達とユウくんを入れてデートしましょッ!」

 

 

 

  ☆

 

 

 

「あ! 翼お姉ちゃん、早ーい!」

 

 響のデート宣言から数日後。ユウが集合場所されていた公園に到着すると、既に翼が到着していた。

 普段とは違う服装と佇まいから、今日を楽しみにしていたのがよく分かった。

 

「そう言うユウも、集合時間はもっと後でしょ?」

 

「えへへ〜! だって楽しみで待ってられなかったんだもんっ!」

 

(ああ〜〜〜! かわいいぃッ!!!)

 

 ユウは恥ずかしそうにチロリとピンク色の下を出す。そんなあざとい姿に、翼は心の中で叫んだ。

 

「そう言えば、こうやって翼お姉ちゃんと二人になるのって久しぶりだね?」

 

「ええ、そうね」

 

 退院してからの翼は、より一層歌手としての活動も頑張っていた。それも全て奏の帰って来る場所を守る為だ。

 その為弦十郎は、忙しい時間が増えた翼とユウが一緒に住む事は困難だと判断し、翼が退院した後も自分の屋敷で預かる事にした。

 

「この前、弦おじさんと映画見たんだ! その後一緒にご飯食べて、美味しいって言ってくれたんだ!」

 

「そう、叔父様と仲良くやってるみたいで良かったわ」

 

「うん! でも翼お姉ちゃんにも、ぼくのご飯食べて欲しいなぁ」

 

「っ!!?」

 

 弦十郎の屋敷での暮らしを話していると、翼との生活を思い出して寂しさを感じたのか、ユウは甘えるように翼の手を握った。

 不意にやって来る、ユウの小さくともしっかりとした手の感覚に、翼の心臓が跳ねた。

 

「また一緒に暮らせたら良いのにね?」

 

「ふふっ、ええ、そうね……」

 

(あ〜幸せ過ぎる! この時間が一生続けば良いのにッ!)

 

 翼はこの状況でポーカーフェイスを維持出来る自分を褒めてやりたかった。

 そのまま凛とした表情で僅かに手をニギニギと動かして、ユウの手のひらの感触を楽しんでいると、遠くの方から元気な声が二人の耳に入った。

 

「お待たせしましたー!」

 

 声に釣られて振り向くと、こちらへと走って来る響と未来の姿が見えた。

 二人の存在にユウが嬉しそうに手を振る。そのせいで繋いでいた手が離れてしまった。

 

「むぅ……もう少し遅れて来ても良かったのだけど?」

 

「そうはいきませんよ! せっかくの翼さんとユウくんとのデートなんですからッ!!」

 

「今日の為に何個も目覚ましセットしてたもんね? 普段からそれぐらいの意気込みで起きてくれれば良いのに」

 

 二人っきりの時間が思ったより早く終わってしまい口を尖らせる翼。しかしユウ達と会う事を楽しみにしていたのは響も同じで、学校に行く時以上に気合が入っていた。

 

「わーい! ぼく、でーとって初めて! 早く行こっ!」

 

「待ってユウくん。デートは仲の良い子と手を繋ぐものだよ」

 

「未来の言う通りだよ。先ずはわたしと手を繋ご?」

 

「ま、待て! それなら私が――」

 

「翼さんはさっきまで繋いでましたよね?」

 

()()……ですよ?」

 

「う……分かった」

 

 笑顔にも関わらず、二人から発せられる謎の圧力に、翼は頷くしかなかった。

 

「じゃあ翼さんはわたしと繋ぎましょうか。響もちゃんと順番守ってよね?」

 

「分かってるよ! じゃあユウくん、行こっか?」

 

「わーい! でーとだ、でーとだ!」

 

「デートだぁ!」

 

「あ、あまり大きな声で連呼するな!」

 

 テンションの高いユウと響のコンビが、先陣を切りながら先々と進んで行く。それによって向けられる周りからの微笑ましそうな視線に、未来と翼は恥ずかしそうに後をついていった。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「いやぁ! さっきの映画良かったですねぇ!」

 

「私、ボロボロ泣いちゃった!」

 

 四人がまず入ったのは、大型デパートの中にある映画館。創世達から最近流行りの恋愛映画の話を聞いていた未来達の提案で決まった。

 ソリの合わない男女が出会い、喧嘩しながらも互いの魅力に惹かれ合い、その間で育まれる人間関係や女同士の友情。王道な恋愛映画に乙女達の心は射抜かれた。

 

「ユウくんは退屈じゃなかった?」

 

「うん。でもぼくはもっと、アクション多めな映画の方が好きかな?」

 

 しかし男子小学生のユウにはイマイチだったようだ。普段弦十郎と見ている映画とは、ジャンルが違うからこそ余計にそう思うのかもしれない。

 

「そう言えば、あの人達何で裸で寝てたんだろ? 寒くないのかなぁ?」

 

「ええっ!? そ、それは……」

 

 映画の内容は少し大人(アダルティ)なもので、俗に言うベッドシーンもあり響達も顔を赤らめる事になった。しかしユウにはそのシーンの意味が分かっていなかった。

 

「未来、お願い!」

 

「ええっ!? 私ぃ!?」

 

 年齢=恋人いない歴の響には荷が重く、自分よりも恋愛漫画を愛読している未来に丸投げした。

 

「未来お姉ちゃんは知ってるの? じゃあぼく未来お姉ちゃんに教えて欲しいなぁ」

 

「えっ、良いの?! 私が教えちゃって?!」

 

「ちょっと待て小日向! 一体何を教えるつもりだ?!」

 

 ユウの純粋な瞳を見て、何かのネジが外れたのか未来は、鼻息を荒くさせながら彼の手を引く。その様子に気づいた翼がその手を掴んで止めた。

 

「な、何もしませんよ? ただちょっと()()()まで……」

 

「休憩所ってベンチとかソファーの事だよね?!!」

 

 それから数分にわたって暴走した未来を、二人がかりで押さえ込むことになった。その時の未来の力は、ただの女子高生とは思えず翼は驚愕を隠せなかった。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「そう言えばユウくんって、いつも似たような服着てるよね?」

 

「うん。こう言うの気に入ってるんだ!」

 

 ユウの服装はパーカーと短パンと愛用のローラースニーカー。こっちに来る前に着替えを持って来たが、色が違うだけで同じ種類の物を着回していた。

 

「えーでも勿体無いよ。絶対ユウくんって色んな格好似合うのに」

 

「じゃあさ、わたし達でユウくんの新しい服探すのどうかな?」

 

「賛成! ほら行こ、ユウくん!」

 

「わーい、お洋服だー!」

 

 未来の提案で服屋に入った後、店の品数にテンションの上がった少女達は次々と服を手に取り、さながらファッションショーの如く着回しては見せ合いっこをする。

 

「ユウくん、これどう?」

 

「うん。すっごく似合ってる!」

 

「これは?」

 

「それも良いね!」

 

「じゃあ、こっちは?」

 

「すっごくかわいい!」

 

 響が次々と違うタイプの服装を披露するのを、ユウは笑顔で答える。

 

「もーユウくん! それじゃ全部同じだよぉ」

 

「だって、響お姉ちゃんなら、どんな格好してても大好きなんだもん!」

 

「よし! 全部ください!」

 

 ユウに笑顔でそう言われた響は、思考を停止して近くの定員に全ての服を持っていく。

 

「響、そんなに買ってお小遣い大丈夫なの? もっと考えて買わないと――」

 

「未来お姉ちゃんの、そのワンピースも好き!」

 

「これください!」

 

 考える事をやめた未来が、自分の着ている服を店員へと見せに行く。

 

「二人共。服というのは理性的に、かつ最も合う物を的確に買う審美眼を――」

 

「翼お姉ちゃんってモデルさんみたいに綺麗だから、全部似合っちゃうね!」

 

「ここからここまで、全部ください!」

 

 理性などどこかへ投げ捨てた翼は、ドラマで見るお金持ちのような買い物をしようとする。

 流石に買い方が目に余ったのかユウに説得され三人の暴走は抑まった。自分達の買い物が落ち着いた響達は、元々の目的を思い出し、今度はユウの服を探し出した。

 

「じゃあユウくん、今度はこれね?」

 

「未来お姉ちゃん。これってスカートじゃない?」

 

「大丈夫」

 

「でも――」

 

「大丈夫」

 

 一体何が大丈夫なのか問いただしたかったが、無言の笑顔の未来の謎の圧力に負け、ユウは大人しく試着する事にした。

 

「どうかな?」

 

「いい! いいよ、ユウくん!」

 

「そう? でもこのスカートすごく短いんだけど……」

 

 ユウの言う通り、未来の持って来たスカートはかなり短く、裾の下から短パンの下に履いていたスパッツが見えてしまう程だった。

 

「ていうか、これってお姉ちゃん達の学校の制服だよね?」

 

 未来が店の奥から持って来たのはリディアンの制服。しかもご丁寧に小等部の物だった。

 

「ユウくん! ”お姉様”って言ってみて!」

 

「えっと、未来……お姉さま?」

 

「ああぁ……良いぃ。持って帰りたい!」

 

 最初は三人も真面目に服を選んでいたのだが、ユウに似合う服を探すうちに、服の種類がどんどんと可愛い方向へと進んでいった。次第に誰かがレディースを持って来た事で三人の暴走は勢いを増し、今ではコスプレ会場になっていた。

 

「それも良いけど、やっぱりユウくんの魅力は足だよ! だからこっちの方が――」

 

「いや待て立花。ユウの良さは首元だ! こちらの着物の方が――」

 

 どこから持って来たのか、響と翼が服を見せ合っていた。一つはチャイナドレス、もう一つは時代劇で見るような着物だった。しかしそのどちらも膝下まで届かない丈の短い物だった。

 

「あれ? ユウくん、ペンダントなんてしてるんだ?」

 

「うん。昔お父さんがくれたんだ!」

 

 響はふと、ユウの制服の首元から見えるペンダントに気がついた。未来も同じような興味深そうに見つめる。

 

「へぇー綺麗な石だね。どこで買ったのかな?」

 

「買ったんじゃないよ? これはね、“月”から持って来たんだって」

 

「えっ? 月!?」

 

「そうだよ。ぼくのお父さんは、昔月に行った事があるんだ!」

 

 えっへんと誇らしく胸を張る。日本人が月へと到達する事は、かなりの偉業であり、ユウはそんな父親を誇りに思っているのだ。

 

「じゃあ月の石ってこと? でも石って言うよりは、クリスタルみたいだけど……?」

 

「えっとね。月にいる”友達”から貰ったんだって」

 

「月の……友達? 兎さんから貰ったの?」

 

 その程度の知識しか無かった響には、それしか答えれなかった。そんなわけなでしょとツッコミたかったが、未来も詳しい事は知らないので、この時の二人は何も言えなかった。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「ありがとう。大切にするね!」

 

 ユウの腕には、三人に買ってもらった新しい服の入った袋がぎゅっと抱きしめられていた。リボンつきのスカート、袖がふわふわしたブラウス、どれもこれも“男の子の普段着”とは言いがたいものばかりだが、選んでくれた気持ちが嬉しくて、ユウは笑顔だった。

 

「いやぁ〜! 楽しかったですねぇ!」

 

「うんうん! ファッションショーとかやっぱテンション上がる〜!」

 

「ふふ……私の審美眼が試される良い機会だったわ」

 

 満足げな三人。着せ替え会場と化した服屋でのひとときを思い出し、ほくほく顔で歩いていた。

 だが、そんな空気をユウの一言が一変させる。

 

「でもこの服って、普段着れないよね?」

 

「「「……あっ」」」

 

 凍りつく三人。確かに“普段使いの服”を探していたはずが、気付けばドレッシーなものや制服風、果てはチャイナドレスやミニ丈和服まで……。

 

「不覚……完全に本末転倒だったわ」

 

「ごめんね、ユウくん。わたし達、自分の趣味に走っちゃったかも……」

 

「んーん。大丈夫! だって、お姉ちゃん達が選んでくれて嬉しかったもん」

 

 ユウはくるりと振り返って三人を見上げた。大きな瞳を細めながら、ほんの少し照れくさそうに笑う。

 

「かわいいって言われるのは、ちょっと苦手だけど……でもお姉ちゃん達が喜んでくれるなら、それでもいいかなって」

 

「ユウくん……」

 

 未来が思わず口元を押さえる。響も翼も、心を撃ち抜かれたようにその場で固まっていた。

 そしてユウはふと思いついたように、パッと顔を明るくした。

 

「あっ、そうだ! じゃあこの服、お姉ちゃん達と二人きりの時に着るよ!」

 

「「「……ッ!?!?」」」

 

 三人の背筋に電流が走った。

 

「だってぼくがこの服着ると、お姉ちゃん達が喜んでくれるんでしょ? 二人きりの時なら、もっと喜んでもらえるかもだし……!」

 

「も、もっと……」

 

「仲良く……」

 

 三人の脳裏に、それぞれの“イメージ映像”が流れる――。

 夜の部屋に二人きり、自分のためだけに着てくれたユウ。

 小さな椅子にちょこんと座って、お茶を飲む彼。

 もしくは、ベッドの上で「どう? 似合う?」と首をかしげる彼――。

 

(((……ダメだ……絶対我慢できない……!!!)))

 

 そんな状況で理性を保てる人間がどこにいるというのか。むしろ、試されているのでは? これは愛と欲望の“審判の刻”なのでは!?

 

「ん? やっぱりやめておく?」

 

 ユウが少し不安そうに首を傾げる。

 

「「「いえ! 是非お願いします!!」」」

 

 三人は即答だった。

 ――理性なんて、とうに捨てていた。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 ゲームセンター、カラオケ、服屋と巡った四人のデートも、夕暮れの時間を迎えていた。

 最後の目的地は、かつて流星を見に来た街外れの丘。今日の締めくくりにふさわしい、風の気持ち良い場所だ。

 

「わー! きれい〜!」

 

 西の空に沈みゆく夕陽を見て、ユウがぱあっと笑顔を浮かべた。

 

「ほらほら! お姉ちゃん早くー!」

 

 元気に階段を駆け上がるユウに対し、後ろから来る三人は少し息を切らせながら、ゆっくりと歩いていた。

 

「はぁ……今日はよく歩いたな……」

 

「それでもまだ跳ね回る元気があるなんて、さすがだよね、ユウくん」

 

 ぴょんぴょんと弾むように跳ねながら、ユウは階段の上で待っていた。やがて頂上に辿り着いた三人を出迎えるように、くるりと側転を決める。

 

「すごい! アクロバットもできるの!?」

 

「えへへ! 宇宙飛行士になるために体力つけてるんだ!」

 

「夢は宇宙飛行士だったよね。ユウくんのお父さんみたいに……」

 

「うん!」

 

 夕陽を背景に、ユウは空を見上げた。金色に染まったその横顔は、どこまでも前を向いていた。

 

「怖くないの? お父さんが……事故で……」

 

 響が恐る恐る尋ねると、ユウはハッキリと頷いた。

 

「怖くないよ。宇宙はね、ぼくにとって“希望”なんだ。無限に広がってて、無限の可能性がある場所だよ!」

 

「……!」

 

「お父さんは言ってた。宇宙は人類の未来だって。だからぼくは、お父さんが叶えられなかった夢を、代わりに叶えたいんだ!」

 

 純粋な瞳に揺るぎはない。自分の道を自分で決めて、そのために努力を重ねている。その姿は小さな“戦士”だった。

 

「……だが、全員が良い人とは限らない。敵意を持つ相手もいるかもしれない」

 

 あえて水を差すように言ったのは翼だった。

 

 しかし――

 

「分かってる。でも、会ってみないと分からないじゃない? だから、まずは会って話してみたいんだ」

 

 その返答に、翼は言葉を失った。子供らしい無垢な理想に見えながら、そこには確かな芯があった。

 

「クリスお姉ちゃんもね、待ってるんだ。今は自分の中で答えを探してる。だから、ぼく達は“待つ”ってことも大切なんだよ」

 

「うん……わたしも、そう思う」

 

 響が微笑みながら、ユウの言葉に頷いた。

 

「皆んな、今日は本当にありがとう」

 

「そ、そんな! お礼を言うのはわたしの方ですよ!」

 

「いや言わせてくれ。防人であるこの身は、常に戦場にあったからな。本当に今日は、知らない世界ばかりを見てきた気分だ」

 

「そんなことありません」

 

 響は翼の手を掴むと丘の端の方へと引っ張る。そこからは街の全貌が見回せた。

 

「あそこが待ち合わせした公園です。みんなで一緒に遊んだところも、遊んでないところも全部翼さんの知ってる世界です! いつも翼さんが戦ってくれたから、今日みんなが暮らせてる世界です。だから、知らないなんて言わないでください」

 

「響お姉ちゃんの言う通りだよ。皆んなが戦ってくれてるから、今のぼく達があるんだ。だからありがとう、ぼく達を守ってくれて」

 

 三人の顔と街を見比べる翼の脳裏に、かつて奏との会話が浮かび上がった。

 

『戦いの裏側とか、その向こうには、また違った物があるんじゃないかな? あたしはそう考えてきたし、そいつを見てきた』

 

「そうか、これが奏の見ていた世界なんだな……」

 

 今までも見えていたんだろう、知っていたのだろう。ただ、これまでわき目もふらずに戦って来た翼には見えづらかった。少しぐらい立ち止まって、一休みして見てみれば、こんなにも世界は広いのに。

 

「今日のお礼ってわけじゃないけど、これを受け取って」

 

「これって……復活ステージのチケット?! もう決まったんですか!?」

 

「ええ。十日後のアーティストフェス、是非聴きに来て欲しいの」

 

 翼から貰ったチケットを裏返す。裏にはライブの時間帯や場所が書かれていた。そしてその場所は響のよく知る所だった。

 

「翼さん。此処って……」

 

「立花にとっても、つらい思い出のある会場だな……」

 

 そこは三年前、二人に大きな傷を残したあの会場だった。

 再びあの会場に響を誘うのは酷だとも思えたが、きっと自分と同じ思いを持ってくれていると確信していた。

 

「ありがとうございます、翼さん!」

 

「響……」

 

「いくら辛くても、過去は絶対に乗り越えていけます。そうですよね、翼さん!」

 

「そうありたいと、私も思っている」

 

 翼も同じ気持ちだった。過去を乗り越え未来に進む為に、復活ライブの場所はこの場所にしようと決めていた。その為緒川には無理を言って今回のフェスに無理矢理捩じ込んでもうことになった。

 

「ユウも是非来て。あなたに聞いて欲しいの、今の私の歌を」

 

「うん! ぼく楽しみにしてる」

 

 初めて見る翼のライブ。それを断る選択肢などユウには無かった。

 

 

 

 

 

 

 

  ☆

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