シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第十二話 防人の歌

  ☆

 

 

 

 

 

 

 皆が寝静まる深夜。シトシトと小雨の降る街の中をクリスは歩いていた。

 

「…………あの女のライブか」

 

 近くのオーニングテントで雨宿りをしていると、翼の写ったアーティストフェスのポスターが、自然と目に入った。

 風鳴翼の復活という事もあって、突然の報道にも関わらず、数十分と経たずにチケットは完売した。

 アーティストフェスの映像はテレビでも報道されるという事で、街中がお祭り騒ぎなのはクリスも知っていた。

 

(あの女のライブ……フィーネの野郎が何もしないわけがねぇ)

 

 装者の一人が動けなくなるという事は、二課の戦力が減るという事だ。

 ライブがどうなるとしても、フィーネの性格の悪さを知っているクリスは、彼女が何らかのアクションを起こす事は想像できた。

 

「ま、アタシには関係無いけどな」

 

 しかしクリスには関係ない。怪我は治ったが、フィーネにやられた体はまだ本調子では無かった。

 それを抜きにしてもネフシュタンの鎧を纏った、フィーネへの対抗手段がまだ浮かんでいない。そんな状態で動くのは、居場所をバラすようなものでリスクでしか無い。

 興味を無くしたクリスは、雨が止んだ事を確認するとポスターに背を向けた。

 

『今度翼お姉ちゃんの復活ライブがあるんだ! ぼくライブって初めて行くから、すっごく楽しみなんだ!』

 

 しかし去ろうとした瞬間、彼女の脳裏にユウとの笑顔が浮かび上がった。

 それは以前、街のモニターで翼の歌を楽しそうに聞いていた時のユウの姿だった。

 

「……………………ふんッ」

 

 その記憶にクリスの足が一瞬止まったが、つまらなそうに鼻を鳴らした後、夜の街を走り抜けて行った。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 星乃結は夢を見ていた。

 

 ――それは、大切な記憶。

 父と母、三人で過ごした最後の朝。

 

 まだ、父が宇宙へと旅立つ前日のことだった。

 

 玄関先に立つ父・星乃大吾の手には、大きな宇宙服用のバッグ。

 その背中は、宇宙を目指す者らしい誇りと決意に満ちていた。

 

『じゃあ、行ってくる』

 

 静かな声が、家の中に響いた。

 その響きは、大人の強さと、どこか子供っぽい照れくささが混じっていた。

 

『…………』

 

 母・茜は何も言わず、その姿を見つめていた。

 だが、彼女の瞳には明らかに涙が浮かんでいて、それを必死に堪えていることが結にも分かった。

 

『おとうさん、いってらっしゃい!』

 

 結は明るい声で手を振った。

 それが笑顔で見送るということだと、幼いながらに分かっていたから。

 

『茜、笑顔で見送ってくれ。ユウみたいにな』

 

 父が振り返ってそう言うと、母は微笑んだ。

 だがその微笑みはどこまでも儚くて、強がりで、優しかった。

 

『ええ、分かってるわ……。宇宙に行くのは、大吾さんの夢だものね』

 

 そう――人類初の火星到達を目指す有人飛行。

 それは、宇宙飛行士である星乃大吾の人生を懸けた挑戦だった。

 だが、それがどれだけ危険なものかは、家族全員が分かっていた。

 成功すれば偉業、しかし一度でも失敗すれば二度と地球の土を踏めないかもしれない。

 

『心配するな。今回のロケットは俺自身も設計に関わった。俺と彼女たちが作ったロケットなら、一年もあれば帰ってこられる。……だからユウと待っていてくれ』

 

『だいじょうぶだよ、おかあさん! おとうさんがいないあいだ、おかあさんはぼくがまもるからね!』

 

 そう言って胸を張る結に、茜はついに堪えきれず、そっと抱きしめた。

 

『ああ……ユウ』

 

 その小さな背中を、母はどれほどの想いで抱いたのだろう。

 

『ああ、頼んだぞユウ……それじゃ、行ってくる』

 

 父は静かにドアノブに手を掛ける。

 ――が、次の瞬間、その動きがぴたりと止まった。

 

『……どうしたの? おとうさん?』

 

 振り返った父は、何かを決めたような目をしていた。

 そして自らの首にかけていた、光を宿したクリスタルのペンダントを、結の首にそっとかけた。

 

『これって……おとうさんがだいじにしてるペンダントだよね? いいの?』

 

『ああ。これはお前が持っているべきだと思った』

 

 結はそのペンダントの事をよく知っていた。

 何度も欲しいとねだったが、父はそのたびに首を横に振っていた。

 

 ――それが今、自分の胸にある。

 

『わーい! わーい!!』

 

 無邪気に飛び跳ねる結の頭に、父は大きな手を置いた。

 

『俺は結局、その石に光を灯すことはできなかった……。でも、お前なら――できるかもしれない』

 

『え?』

 

 目を丸くする結に、父は真っ直ぐな瞳で見つめ返した。

 

『ユウ、心の光を信じろ。そして、絶対に諦めるな。お前がその光を失わない限り――この石は、きっと応えてくれる』

 

 それがどんな意味なのか、当時の結には分からなかった。

 

 でも――父の言葉が真剣で、優しくて、暖かいということだけは、しっかりと伝わっていた。

 

『んー。よくわかんないけど……わかった! ぼく、ぜったいにあきらめない!』

 

 その約束の言葉を聞いて、父は満足げに頷いた。

 そして今度こそ背を向け、歩き出す。

 

 ――それが、結が星乃大吾と交わした最後の会話だった。

 夢は、静かに途切れた。

 そして結は、ペンダントを抱きしめながら、眠ったまま微笑んでいた。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 熱気に包まれる大型ホール。高鳴る照明、飛び交う歓声。日本屈指の音楽イベント「アーティストフェス」は、その名に恥じぬスケールで観客を魅了していた。

 

「すごいなー……」

 

 客席の中央、最前列近く。星乃結――ユウは、初めて体験する大舞台の熱に飲まれるように、目を輝かせていた。

 

 隣では響と未来が座っており、三人は肩を並べて座っていた。響はステージを見つめながら、心の奥である緊張と静かに向き合っていた。

 

「響、大丈夫?」

 

 未来が心配そうに囁く。

 

「大丈夫だよ。寧ろわたし今、燃えてるぐらいだよ! あー、早く翼さんの番にならないかな!」

 

 その明るさは本物だった。あの事件の舞台となった場所に足を運ぶのは決して軽くない選択だったが、響は前を向いていた。それだけ翼の復活に懸ける想いが強いということだ。

 

 会場内には既に数組のアーティストが登壇しており、パフォーマンスのたびに客席の熱は高まっていく。そんな中、ユウは圧倒されつつも興奮の面持ちで叫ぶ。

 

「こんなに凄いなんて思わなかった! ライブって、まるで魔法みたいだね!」

 

「ふっふっふ。ユウくん、でもね、翼さんのライブはこんなもんじゃないよ!」

 

「えっ、これ以上に!?」

 

 純粋な少年の眼差しに、未来も優しく微笑む。

 

「ふふふ。そんなに焦らなくても、もう直ぐよ」

 

 ライブも半ばを過ぎ、場内のボルテージが一段と上がる中、響のポケットの携帯が静かに震えた。

 

「はい、響です」

 

 ディスプレイの名は――風鳴弦十郎。

 

『ノイズの出現パターンを確認した』

 

 その声と内容は、響にとってはもう聞き慣れたものだった。

 

『これから翼にも連絡を――』

 

「師匠、現場にはわたし一人で行きます!」

 

 きっぱりとした口調に、弦十郎は一瞬だけ沈黙した。

 

『……やれるのか?』

 

「はいッ!」

 

 短い返事に、揺るぎない決意が宿っていた。もはや響は「巻き込まれた少女」ではない。自らの意思で戦う、「装者」として立つ覚悟を持っていた。

 

『よし分かった。車を回す。すぐに向かってくれ』

 

「ありがとうございます!」

 

 通話を終えると、響は即座に立ち上がる。喧騒の中でその動きを見逃さなかったユウが声をかける。

 

「お姉ちゃん、行っちゃうの?」

 

「うん。でも大丈夫! ライブは続けてもらうよ。だからユウくん、代わりに翼さんのこと、いっぱい応援してあげて!」

 

 ユウはぎゅっと拳を握ると、まっすぐな瞳で頷いた。

 

「分かった! ぼく、頑張るよ! 翼お姉ちゃんを、元気にする!」

 

「うん……ユウくんなら、絶対できるよ!」

 

 響はその場を離れた。自分の戦場へと向かうために――。

 

 ステージはなおも続いている。周囲の観客が歓声を上げる中、ユウは一人強く呟いた。

 

「……やっぱり凄いな、お姉ちゃん達。自分に出来ることを、いっぱい頑張ってる」

 

 そして、自分にも今できることがあるはずだと、ユウは拳を胸に当てた。

 

「よし! ぼくは、ぼくにできることをしよう!」

 

 翼のライブを――“家族”として、全力で楽しみ、想いを届ける。それが今、少年にできる最も強い「戦い方」だった。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 ノイズの発生源である工業地帯へとやって来た響は、早速戦闘を始めていた。

 

「やあぁぁぁぁッ!!!」

 

 響のガントレットがノイズの中心を捉える。重い一撃を喰らったノイズは、身体をくの字にしならせ、他のノイズ達を巻き込みながら吹っ飛んだ。

 

「はぁ、はぁ、数が多い!」

 

 既に三十を超えるノイズを蹴散らしたが、一向に数を減らさない。

 ノイズ達は後方に大型の要塞型ノイズを中心として、広範囲に広がっていた。

 響のガングニールは、一撃の破壊力は大きいがその分広範囲への攻撃に乏しい。その為津波のように押し寄せるノイズの群れに邪魔をされて、ノイズを生み出す大型を倒せずにいた。

 

「でも、負けるもんか。ユウくんと約束したんだ! 翼さんのライブの邪魔はさせない!」

 

 この場所はライブ会場から遠く離れていない。自分が押し負けてしまえば、ノイズの群れはライブ会場を襲うだろう。

 

「こうなったら、一か八か!」

 

 そうはさせまいと、全力の攻撃で周りのノイズごと親玉を倒そうと、力を込めてノイズの群れへと突っ込もうとする。

 無謀にも見える響の特攻。それを遮るように、頭上から降り注いだミサイルの軍団がノイズ達を吹き飛ばした。

 

「っ?! これって……」

 

 現代兵器の効かないノイズを倒せる爆発物。響には一つしか心当たりがなかった。

 

「クリスちゃん!」

 

 そう雪音クリスの持つイチイバルの力だ。

 後方からの援護射撃に響が振り向くと、背後にイチイバルを纏ったクリスが立っていた。

 

「勘違いすんなよ。アタシはお前を助けたわけじゃねぇ」

 

「えっ?」

 

「ただ、弟の笑顔を守りたいだけだ」

 

「っ!……うん、それで良いよ! 一緒に戦おう!!」

 

 その子が誰の事を表しているのかは、言うまでもなかった。響はクリスが自分と同じ思いで戦ってくれていることが嬉しかった。

 

「雑魚どもは蹴散らしてやるから、とっととあのデカいのをぶっ潰せ。いいな?」

 

「うんッ!」

 

 クリスがミサイル用のアーマーを展開し両手のガトリングを構えるのと同時に、響も右腕のハンマーパーツを限界まで引き絞る。

 

「いっけえええええええええぇッ!!!」

 

 イチイバルによる一斉射撃。津波がさらなる高波に呑まれるように、ノイズ群はクリスの弾幕の中に消えていく。

 

「はあああああああああぁッ!」

 

 薄くなった波を一閃の戦槍が貫く。クリスに大半を倒され、残ったノイズが親玉までの道を塞ごうとするが、その程度の壁では、ガングニールの前では無いに等しかった。

 

「でりゃあああああああああぁッ!!!」

 

 響の拳が大型ノイズを捉える。それと同時に限界まで引き絞ったハンマーパーツが押し込まれ、鋭い衝撃と共に、大型ノイズの体に巨大な風穴を開けた。

 

『ノイズの群勢、後退していきます!』

 

『この気を逃すな! 一気に殲滅しろ!』

 

 小型ノイズを生み出す大型を倒した事で、敵の布陣は完全に崩れた。残りを殲滅するのに大きな時間は掛からなかった。

 

 

  ☆

 

 

 

 響達の戦闘が終わるのと、翼の歌が終わるのはほぼ同時だった。

 

「すごい……!」

 

 生まれて初めて見るライブの感想は、最高の一言だった。

 美しく力強い翼の歌声と煌びやかな音楽が混ざり合い、広い会場全体を覆い。ステージ上の演出と音声が観客を盛り上げ、観客もまた音楽に合わせて翼を盛り上げ、その想いに応えるように翼の歌もより素晴らしいものへと昇華する。

 歌手とファンの想いの相乗効果がこんなにも輝かしい空間を作り出しているのだ。

 

「これが、これが歌なんだ!」

 

 皆の心を一つにする歌の力に感度したユウは、盛り上がりを見せる会場に合わせ、未来と一緒に全力で翼を応援した。

 途中でユウと目を合わせた翼は、より笑顔と歌声を優しいものへと変えた。

 

「ありがとう、皆んな! 今日は思いっきり歌を歌えて、気持ちよかった!!」

 

 最後の歌を歌い切った翼は、息を切らしながらもその表情は実に晴れやかなものだった。

 

「こんな思いは久しぶり……忘れていた……でも思い出した! 私は、こんなに歌が好きだったんだ! 聞いてくれるみんなの前で歌うのが、大好きなんだ!」

 

 翼の涙ぐんだ声に会場が静まり返った。彼女の真剣な話に数万人全員が聞き入っていた。

 

「もう知ってるかもしれないけど、海の向こうで歌ってみないかって、オファーが来ている。自分が何のために歌うのか、ずっと迷ってたんだけど……私はもっとたくさんの人に歌を聞いてもらいたいと思っている。言葉は通じなくても、歌で伝えられることがあるならば……世界中の人たちに、私の歌を聞いてもらいたい!」

 

 それは入院する前から来ていた話。

 あの時の自分は戦う事しか考えていなかった。歌など二の次、ツヴァイウィングを無くさない為に続けていたに過ぎなかった。

 でも今は違う。自分の歌が誰かを、そして愛しいあの子を笑顔にしている、それが嬉しかった。

 

「私の歌が、誰かの助けになると信じて、みんなに向けて歌い続けてきた。だけどこれからは、みんなの中に、自分も加えて歌っていきたい! だって私は、こんなにも歌が好きなのだから! たった1つのわがままだから、聞いてほしい……許してほしい……」

 

『許すさ。当たり前だろ』

 

「っ!? 奏?!」

 

 奏の声が聞こえる。幻聴ではなくステージ全体のスピーカーから彼女の声が聞こえた。

 その瞬間、ステージの照明が全て消え、辺りは暗闇に包まれる。

 突然の演出に翼を含め全ての人が戸惑っていた。

 

『皆さんこんばんは。知らない奴も居るだろうから、改めて挨拶させて貰います。ツヴァイウィングの天羽奏です』

 

 翼の背後の巨大なモニターに、車椅子に乗った奏の姿が映った。

 意識不明の天羽奏が目覚めた事は、全国的に報道されていたが、突然の出現に皆驚かずにはいられなかった。

 

「奏!? どうして……?」

 

『マネージャーに頼んでな。まあそんな事より翼、お前もっと広い世界で歌を歌いたいんだろ?』

 

「…………うん。でも私は……」

 

 確かに世界で歌を歌いたい。しかしそれは同時に目覚めたばかりの奏を置いていくという事だ。

 せっかく目覚めた親友。そんな彼女を置いて自分だけが夢を目指して良いのか翼は悩んでいた。

 

『あたしの事なら心配すんな!』

 

 悩み項垂れる翼に奏が声をかけた。

 

『よっ……と!』

 

 突然モニターの奥の奏が車椅子に手を掛ける。震える両腕に力を入れ身体を浮かし、生まれたての子鹿のように力が抜けようになる両足を歯を食いしばりながらも、その身体を立たせていく。

 

「奏! 貴女、足が……!」

 

『ああ、リハビリも順調さ。これもお前が夢を目指してくれるからだ』

 

「私が……?」

 

『そうさ、翼が世界を目指して羽ばたいてる。そんな姿が、あたしに勇気をくれるのさ。あたしも負けてられないってな!』

 

 奏はニカっと笑う。笑顔とは対照的にその額には脂汗が滲み、手すりに捕まらなくては立つ事すら出来ない。そんな弱々しくとも力強い姿に涙を流す者もいた。翼もその一人だった。

 

『だからあたしの事なんて待たなくて良い。こんな身体直ぐに治して追いついてやるからよ!……だから先に行っててくれ』

 

「奏……ありがとう」

 

 看護婦に手伝ってもらい車椅子に戻った奏は一息つく。そんな彼女に礼を言うと、翼は再び会場を見渡した。

 

「私は世界に羽ばたきます! ツヴァイウィングの“片翼”として! いずれ世界を、”二人”で羽ばたく為に!!!」

 

 ワァーーーーーーーーーーーーッ!!!!!

 

 “完全なツヴァイウィング”の実質的な復活宣言に、まるで地響きのように会場全体が震えた。

 リハビリも世界の歌も決して甘いところでは無い、前途多難で待ち受ける障害も多いだろう。しかしそれでも、この二人なら乗り越えられる。

 ここに居る全員が、そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 アーティストフェスが幕を閉じ、会場からは観客の波が引いていった。

 華やかだったステージも照明が落ち、照明スタッフや音響スタッフが静かに片づけを進めるだけの空間になった今、そこに残っていたのはたった一人。

 

 風鳴翼は、舞台の真ん中に立っていた。

 喧騒の名残と、満ち足りた静寂。

 その両方を、翼は胸いっぱいに吸い込むように目を閉じて味わっていた。

 

 ――ああ、これが「歌を届ける」ということなんだ。

 

 そう感じた瞬間だった。

 

「お姉ちゃーん!」

 

 聞き慣れた元気な声がステージに響いた。

 振り返ると、**星乃結(ユウ)**がステージ袖から全力で駆けてきていた。

 案内してくれた緒川の姿と、少し後ろで未来と話している響の姿も見える。

 

「どうだった? 私の歌」

 

「すっごく良かった!」

 

 ユウは目を輝かせ、息を弾ませながら語り始めた。

 

「あのね、お姉ちゃんが歌うと会場がわーって震えて、そしたらお姉ちゃんがキラキラってして、それで皆の笑顔が眩しくて――」

 

 まるで自分の感情があふれ出すかのように、子供らしい例えで全力で伝えようとするユウ。

 翼は思わず微笑むと、その小さな身体をそっと抱きしめた。

 

「ありがとう、ユウ。あなたのおかげよ」

 

 優しく言ったその言葉に、ユウは小さく首を振った。

 

「違うよ。翼お姉ちゃんが頑張ったからだよ。ぼくは頑張ってるお姉ちゃんを助けたかっただけ。だから、これは翼お姉ちゃんの力だよ」

 

 ――本当に、あなたは不思議な子ね。

 

 翼は心の中で呟いた。

 ユウと出会ってから、自分の周りには変化が起きた。傷ついていた心に希望が芽生え、見失いかけていた未来が、もう一度照らされた。

 響との確執も、奏の目覚めも――きっと偶然ではない。

 ユウの存在が、心に勇気をくれた。

 

「ねぇユウ。良かったら、あなたも一緒に――」

 

 自然と出てきた誘いの言葉だった。

 けれどその先を言う前に、ユウは柔らかく笑いながら首を横に振った。

 

「ぼく、待ってるね。ここで、翼お姉ちゃんのこと、いっぱいいっぱい応援してる」

 

 ――そうよね。

 

 彼には病気の母親がいる。離れられない理由が、ちゃんとここにある。

 それを分かっていながら、それでも一緒に行きたいと思ってしまった弱い自分に、翼は胸の奥でそっと悔いを呑み込んだ。

 

「私も頑張るわ。ユウが居なくても、大丈夫なように」

 

「うん! 忘れないでね。離れていても、ずっと心は繋がってるから。いつだって翼お姉ちゃんは、一人じゃないから!」

 

 胸の奥が、じんわりと熱くなった。

 翼はもう一度、ユウをしっかりと抱きしめた。これから始まる新しい日々。離れる時間と距離を越えて、互いを想い合えると信じて。

 二人は強く強く抱き合った。

 言葉ではなく、心と心で交わす“再出発”の約束を胸に刻んで。

 

 

 

 

 

 

  ☆

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