シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第十三話 結ばれた手

  ☆

 

 

 

 

 

 

「「失礼しました〜!」」

 

 響と未来の二人は、丁寧に礼をして職員室を後にした。ようやく溜め込んでいた課題を全て終わらせた開放感からか、響はまどろみかけていた。

 そんな彼女の耳に、ふと音楽が聞こえた。

 

「ふ〜ふ、ふふ〜ん、ふふふふ〜ん!」

 

 それは我が校の校歌、その落ち着いたリズムに自然と響も鼻歌を口ずさんでいた。

 

「なに、合唱部に触発された?」

 

「んーリディアンの校歌を聴いていると、まったりするって言うか、落ち着くって言うか……みんなが居る所って思うと安心する!」

 

「響も立派なリディアンの生徒だね」

 

「と言っても、入学してまだ二ヶ月ちょっとなんだけどね〜」

 

「……でも、色々あった二ヶ月だよ」

 

「うん、そうだね」

 

 校舎の窓から二人で空を見上げた。

 春の陽気を感じる晴天。そう言えばユウと出会ったのも、こんな風に雲一つない日だった。

 この春の陽気が彼の優しさと暖かさを思い出させた。

 

「んー! なんだかユウくんに会いたくなってきちゃった!」

 

「うん、私も! 早く行こ?」

 

 この後ユウと会う約束をしていた響達は、急いで学園を後にするのだった。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 クリスは現在フィーネの隠れ家である廃屋敷へときていた。目的はフィーネの寝首を掻く事。それが難しくとも、何かネフシュタンの弱点を探れればと偵察しに来ていた。

 

「……どうなって、やがんだ?」

 

 しかし屋敷の中にはクリスの想像を絶する光景が広がっていた。

 屋内が荒らされており、厳つい複数の男達が血を流し倒れていた。彼らの装備と壁についた銃痕から、ここで大きな戦闘があったのは容易に想像できた。

 部屋の中に充満する生臭い血の香りに耐えながら状況を調べようと倒れた男達に近づこうとした時、背後から物音が聞こえた。

 音に反応して振り向くとそこには、二課のエージェント達がこちらを見ていた。その真ん中には、そのトップである弦十郎の姿も見えた。

 

「ち、違うアタシじゃない!? コイツらをやったのは――」

 

「誰もお前さんがやったとは思っちゃいないさ。全ては、“君やオレ達のそばに居た彼女”の仕業さ」

 

 そう言う弦十郎の目は、どこか悲しげな、それでいて覚悟を決めた者の目をしていた。

 弦十郎はクリスの側へと来ると、彼女の足元で倒れていた男達へと視線を移した。

 

「“米国”の奴らか……」

 

「知ってる奴か?」

 

「いや……ただこの国には思う事があってな。……やはり彼女はこの国と通じていたか、だとしたら”あの事件”も、彼女の……」

 

 弦十郎が腕を組んで何かを考えている間にも、現場検証は続いていった。

 途中でフィーネの残したと思われるトラップに襲われるなどと言うハプニングもあったが、皆の起点と弦十郎の超人フィジカルで事なきを得た。

 

「ではオレ達はこれで撤退させてもらう。君もここに居ると危険だ、すぐに移動することを勧めるぞ?」

 

 一時間と経たずに検証を終えた弦十郎達は、フィーネの罠を警戒し素早い撤退を選んだ。

 

「ま、待てよ!」

 

「どうした?」

 

「……捕まえないのかよ、アタシの事」

 

 自分はフィーネの仲間であり多大な被害を出した。捕まえるなり、そうでなくとも一緒に戦うように言ってくるなりして来るものだと思っていた。

 しかしクリスの予想と裏腹に弦十郎は、彼女を拘束も勧誘もせず置いていくつもりだった。

 

「あの子と約束したからな」

 

「約束?」

 

「“クリスお姉ちゃんを信じてあげて欲しい。お姉ちゃんは決して逃げるような人じゃない、自分なりの答えを見つけたら必ず自分から姿を現してくれるから。だからそれまで待っていて欲しい”……あの子はそう言っていたぞ?」

 

「ユウが、そんな事を……」

 

 それが誰が言っていたかなど言うまでもなかった。

 離れていても自分のことを信じてくれる“弟”の存在に目頭が熱くなってきた。

 

「オレはあの子の願いを叶えてやりたい。だから君も、あの子の思いを裏切るような事はするなよ?」

 

「…………言われるまでもねぇ!」

 

 涙を拭ったクリスの顔は、先程の不安に怯える弱々しいものでは無く、覚悟を決めた戦士の目へと変貌していた。

 その熱い瞳に満足した弦十郎はその場を後にした。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「〜♪〜♪」

 

 リディアンの外で響達と合流したユウは、機嫌良く川沿いをお気に入りのローラーシューズで滑っていた。

 機嫌良く歌っているのは、前のライブで聴いた翼の歌だった。

 

「ユウくん、すっかり翼さんの歌にハマってるね!」

 

「うん! こんなに良いものがあるなんて知らなかった。前に住んでたところじゃ聞けなかったから」

 

「そう言えばユウくんって海外暮らしだったみたいだけど、どこの国出身なの?」

 

「“アメリカ”だよ?」

 

 ユウが“米国”出身と聞いて、二人は納得したように頷いた。親しい人に対する距離の近さやスキンシップの激しさなど、日本では珍しい事も米国では挨拶レベルの事だと考えれば納得できた。

 

「じゃあユウくんって英語得意なの?」

 

「うん。書くのはまだ苦手だけど、読んだりお話するのは出来るよ?」

 

「本当! じゃあちょっとお願いがあるんだけど……」

 

「響、小学生に課題の答え教えてもらおうなんて、恥ずかしくないの?」

 

 新しく出ていた課題が英語の問題集だったことを思い出した未来は、響の考がすぐにわかった。

 

「うーだって、未来が教えてくれないんだもん!」

 

「答えを丸写しさせてたら響の為にならないでしょ? 手伝ってあげるから、自分の力で解こう?」

 

「はーい……」

 

「お夜食作ってあげるから、一緒に頑張ろ?」

 

「うー未来〜! やっぱり未来は最高だよぉ!」

 

「もう、調子いいんだから」

 

 しかしそう言う未来の瞳は優しいものだった。

 また響とこんな風にバカらしいやり取りをすることが出来る事が嬉しかった。

 

「うん良かった。やっぱりお姉ちゃん達には笑顔が似合うよ!」

 

「ユウくんのおかげだよ」

 

「ぼく? 何かしたっけ?」

 

「ユウくんが私と響を引き合わせてくれたから、仲直り出来たんだよ」

 

「んーん、違うよ? ぼくはお話ししようって言っただけだよ。お話しして、お姉ちゃん達自身が仲直りしたいって思ってたから戻れたんだよ」

 

 自分はあくまできっかけを与えただけ、例え自分がいなくとも二人は仲直りしていただろう。ユウはそう言うが、それでも響達は、自分たちのために何かをしようとしてくれた少年の気持ちが嬉しかった。

 

「やっぱりユウくんは良い子だー! ギュッてしてあげる!」

 

「えへへ〜! お姉ちゃんとハグするの好き!」

 

 響に急に抱きつかれても、ユウは嬉しそうに抱き返した。あれぐらいの年齢なら恥ずかしがったりするものだが、このスキンシップの激しさや距離の近さも、彼がアメリカ出身であるためだろう。

 

「でもユウくん。いくらスキンシップでも、誰でも簡単に抱きついたり、キスしたりしちゃダメだよ?」

 

「むー。ぼくそんなに馬鹿じゃないよ? ハグは兎も角、チューは本当に好きな人にしかしないよ?」

 

「「えっ!!??」」

 

 頬っぺたにとはいえ、キスをされた経験のある二人は、一瞬で顔が熱くなった。

 

「「そ、そそそ、それってどう言う――」」

 

 ユウの思わせぶりなセリフの真意を問いただそうとした時、響の持つ二課との通信端末が鳴り響いた。

 

 

 

  ☆

 

 

 

『はい、こちら響です!』

 

 響が通話に出る。

 本部に戻った弦十郎は、手に入れた情報を皆に共有する為、信頼のおける主なメンバーに通信していた。

 

「収穫があった。了子君は……」

 

「まだ出勤してません。朝から連絡不通でして」

 

「そうか……」

 

 あおいから報告を受けた弦十郎の声が、沈んだように低くなった。その変貌から了子の事を心配してるんだと思った響は、元気付けるように声を張った。

 

『了子さんならきっと大丈夫です。何が来たって、わたしを守ってくれた時のようにどがーんとやってくれます』

 

『いや、戦闘訓練もろくに受講していない櫻井女史にそのようなことは――』

 

 そこまで言いかけた時、翼の声をまるで遮るように通信が入った。

 ――相手は連絡不通だった了子だ。

 

『やぁっと繋がった。ゴメンね、寝坊しちゃったんだけど通信機の調子が良くなくって』

 

「無事か了子君。そっちに何も問題は?」

 

『寝坊してごみを出せなかったけど、何かあったの?』

 

『よかったぁ!』

 

 了子の身に何も無かった事に響は嬉しそうな声をあげた。これで弦十郎も安心だろうと思ったが、対照的に彼の声は鋭いものだった。

 

「ならばいい。それより聞きたいことがある」

 

『せっかちね〜なにかしら?』

 

「”カ・ディンギル”。この言葉が意味するものは?」

 

『カ・ディンギルとは、古代シュメールの言葉で高みの存在。転じて天を仰ぐほどの塔を意味しているわね』

 

 弦十郎はフィーネの館でのことを話した。

 その間でクリスと話し合い、彼女から以前フィーネが”カ・ディンギル”という単語をよく呟いていた事を教えてもらった。

 

『そっか、クリスちゃんが……』

 

「だが何者かがそんな塔を建造していたとして、何故オレ達は見過ごしてきたのだ?」

 

『確かにそう言われちゃうと……』

 

 クリスはフィーネがカ・ディンギルの完成を喜んでいた事を話した。

 それはつまり天を仰ぐほどの巨大な塔がこの街にある事を表している。しかしそんな目立つものが建造されているなどと言う報告は、二課の情報網にも集まっていなかった。

 

「だが、ようやくつかんだ敵の尻尾。このまま情報を集めれば勝利も同然、相手の隙にこちらの全力を叩きこむんだ。最終決戦、仕掛けるからには仕損じるなよ!」

 

『『了解です!』』

 

『ちょっと野暮用を済ませてから、私も急いでそっちに向かうわ』

 

 弦十郎の激励により全員に気合が入る。ノイズを操る元凶であるフィーネとの最後の決戦が近付いていた。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「……………………」

 

 端末を切った響の目は真剣なものだった。ノイズを使い人々を傷つけ、クリスを騙した敵の親玉との決戦。能天気と言われる彼女でもどれだけ重要な戦いが待っているかは明らかだった。

 

「響お姉ちゃん怖い顔してる。ダメだよ、ほら、スマイルスマイル!」

 

「あははっ! そうだね!」

 

 指で口元を引っ張って笑顔を見せるユウに釣られて、響も同じように口元を引っ張った。

 

「うん、良い笑顔! 忘れちゃダメだよ? 響お姉ちゃんの笑顔を見たら、助けてもらった人もきっと安心できると思うから! だから笑顔を忘れないで!」

 

 ユウがそこまで言い切った時、辺りの街灯からサイレンが鳴り響く。

 

「っ!? これって……」

 

 音に釣られて三人が辺りを見回していると、再び響の端末に通信が入った。

 ――相手は翼だった。

 

『立花、無事か?』

 

「翼さん、これって……」

 

『ああ、ノイズだ。どうやらフィーネが動き出したようだ』

 

 響は心の中で「やっぱり」と呟いた。しかしいくら何でも早すぎるとも思ったが、考えている時間はない。

 

『決戦場所は”スカイタワー”だ!』

 

「スカイタワー?…………もしかしてカ・ディンギルって!?」

 

 スカイタワーはこの国で最も大きな電波塔。高さ600メートルを超えるその高さは、確かに先程の話と一致する。

 

『本部はそう考えているようね。あなたも現場に直行して、私もすぐに向かう。それとユウを知らないか?』

 

「ユウくんなら、わたし達の隣に居ます。今未来と三人で学園を出た後で……」

 

『そうか、なら一番近い避難場所はリディアンね。すまないけど二人を安全な場所まで――』

 

「ぼく達なら大丈夫だよ。響お姉ちゃんは早く行ってあげて?」

 

 二人の話が聞こえていたユウがその会話に割り込み、未来も納得したように頷いた。

 

「ユウくんの言う通りです。学園も近いですし、私達なら二人だけで行けますから!」

 

『ユウ、小日向……すまない。事態は急を要する、直ぐに向かってくれ!』

 

「分かりました!」

 

 翼としても二人の安全を確保したかったが、自分達が遅れる事で大きな被害が出てしまう。そう考えた結果、二人の好意に甘える事にした。

 

「じゃあわたし行くから!」

 

 響は最終決戦の場であろう戦場へと駆け出した。

 

 

  ☆

 

 

 あの後二課が回してくれたヘリに乗った響は、スカイタワーの上空付近へと到着していた。

 タワーの周りでは巨大な空母型のノイズが陣取り、まるでプロペラのようにぐるぐると辺りを回っていた。

 空母型から大量の小型のノイズが放出される。報告ではまだ人を襲っている様子はないようだが、この数のノイズが散らばれば起きる被害は想像したくもない。

 

「Balwisyall Nescell Gungnir tron……」

 

 響はヘリを飛び降り無双の歌を奏でる。その真っ直ぐな(おもい)に胸の聖遺物が反応し、彼女に最強の矛を与えた。

 

「やあぁッ!」

 

 直下と共に真下にいた空母型ノイズを叩き潰し着地すると、近くにいたノイズ達を手当たり次第に攻撃していく。

 響の先手によって他のノイズ達もアクションを起こした。翼の姿はまだ見えず自分一人で相手をしなくてはならないが、響は負けない、あの暖かい自分の居場所へと変える為に。

 

「急がないと……!」

 

 翼は無人となった街中をバイクで駆ける。

 すると正面にノイズの集団を発見した。現場へ直行する為にもここで止まるわけにはいかない。

 

「Imyuteus amenohabakiri tron……」

 

 バイクに乗りながら歌を歌った翼に蒼いシンフォギアが纏われる。右手でアクセルをふかしながら、左手にアームドギアを構えノイズの集団へと突っ込んだ。

 

「ヤッ! タァッ!」

 

 翼と離れた地点で、響は拳や蹴りでノイズ達を粉砕していく。しかし上空から降り注ぐノイズの数に身動きが取れない。

 とは言え遠距離攻撃を持たない響に出来るのは、翼が来るまで少しでも多くのノイズを排除する事だ。二人で力を合わせれば何かいい手が見つかる筈だ。

 

「ハアアアァッ!!!」

 

 地面に拳を叩き込み、ハンマーパーツを押し込む。フォニックスゲインの混ざった衝撃波が地面から噴き上がり、周りにいたノイズを炭化させる。

 クレーター状に広がった響との間を、取り囲んだノイズが距離を詰めようとする。

 その時、響へと飛び掛かろうとしてたノイズ達に、蜂の巣のような風穴が空いた。

 

「クリスちゃん!」

 

 響を援護したのはクリスの弾丸だった。

 

「勘違いすんなよ、アタシは――」

 

「ユウくんの為、だよねっ! 一緒に戦おっ!」

 

「先に言うんじゃねぇッ!」

 

 文句の一つも言ってやりたかったがそんな暇は無い。ノイズの群れがこちらへと向かってくるのが見えたクリスは、両腕のガトリングをぶっ放した。

 クリスの広範囲射撃で大まかに辺りのノイズを崩し、響がノイズが固まった一点を突破火力で粉砕する。二人の真逆の特性の前にノイズの数が減るが、それでも大元の空母型を倒すまでには至らない。

 

「くそッ! これでも手がたらねぇ! 早くあのデカいのを倒さねぇとジリ貧だぞ!」

 

「大丈夫だよ。きっともう直ぐ――」

 

「ハアァッ!!!」

 

《蒼ノ一閃》

 

 二人の背後から巨大な斬撃が飛び出し、はるか上空にいる空母型の一体を破壊した。

 それは翼の天羽々斬による一撃だった。

 

「翼さん!」

 

「あの女のか。少しはマシな奴が来たみたいだな」

 

 二人が振り向くと、大太刀を肩に担いだ状態でバイクに乗った翼が、こちらへの来ていたのが見えた。

 憎まれ口を叩きつつも、翼の実力を知っているクリスは安堵の声を出した。

 

「あれ、翼さん?」

 

 しかし様子がおかしかった。こちらが手を振っているにも関わらず、翼のバイクはスピードを落とす気配が無く、まるでこっちへと突っ込んで来るように見えた。

 

「雪音クリスううううううううゥッ!!!」

 

「のわぁッ?!!」

 

 そのままスピードを維持したまま、バイクを乗り捨てるようにジャンプした翼は、その勢いのまま大太刀のアームドギアを振り下ろした。

 クリスは咄嗟にガトリングを十時に組んで受け止めた。

 

「つ、つつつ翼さんッ?!?!」

 

「てっめえッ! いきなり何しゃがんだッ!!?」

 

「惚けるなッ! キサマ、よくもユウを攫ってくれたな!!!」

 

 獲物を弾き、互いに距離をとる。

 流石のクリスもいきなりの不意打ちに怒りを見せるが、翼はそれ以上の怒声を返した。

 

「翼さん、ユウくんは無事だったんですから……」

 

「そう言う問題では無い!!! キサマ、ユウに変な事はしていないだろうな?」

 

「へ、へへへへ変な事ッ!?!? って何だよ?!」

 

「惚けるな! あの愛らしいユウにイヤらしい事はしてないだろうなと聞いている!」

 

「し、して……ねぇよぉう?」

 

「何だその動揺は!? まさかキサマ、あの子をたぶらかしたのかッ!? 私のユウを!?」

 

「う、うるせぇッ! 大体何でお前にそんな事言わなきゃいけないんだよ! ってかユウはお前のもんじゃねぇぞ、この……()()()()()()!」

 

「「――――っ!!!?」」

 

 クリスの一言に、翼だけでなく響も含め同時に言葉を失った。

 

「き、キサマ……ついに、ついに行ってしまったな。その禁句を……!」

 

「クリスちゃん……それだけは、それだけは言わないでおこうと思ったのに……」

 

 ユウを溺愛するもの達の中で自然とできていた禁断の言の葉。そこを突かれた二人の体がワナワナと震えていた。

 

「違うもん! 小っちゃい子が好きなんじゃ無くて、好きになった子がたまたま小さかっただけだもん!」

 

「その通りだ!」

 

『でも翼が初めてユウに会った時って、あいつが赤ん坊の時だよな?』

 

「奏は黙ってて!」

 

 彼女達の会話が本部のモニターに流れており、弦十郎達と共に待機していた奏に突っ込まれた。

 

「あ、赤ん坊の頃だとぉ?! お前変態かよ! お前みたいな変態女、アイツの姉としてユウに近づけてたまるか!」

 

「勝手にユウの姉を名乗るな!」

 

「勝手じゃねぇ! アタシはアイツの母親に頼まれたんだ!」

 

「いいなぁ、クリスちゃん……」

 

「兎に角、アタシは姉として、ユウの側でアイツを守るって決めたんだ!」

 

「いいや! ユウを守るのは私だ! そしてあの子の隣には私がいるから必要ない!」

 

「わ、わたしだってユウくんとずっと一緒に居たいんですから! それにユウくんの事だって守ってみせます!」

 

「「「むむむむむむむむッ!!!」」」

 

 互いの想いを一歩も譲らない三人は睨み合う。ショタコン三人の醜い争いにより戦場が混沌と化した。

 

「おいお前達! 今はそんな事を争ってる場合じゃあ無いだろ!」

 

 本部で指揮していた弦十郎が三人を抑えようとするが、姦しい三人の耳にはまるで入っていなかった。

 

「まったく……あおい、あの子に繋いでくれ」

 

「よろしいんですか?」

 

「仕方あるまい。このままにしておいても時間を無駄にするだけだ」

 

 あおいは頷くと弦十郎の指示通り通信を繋いぐ、数秒のコールの後ユウの顔がモニターに映し出された。

 

『あれ、弦おじさんどうしたの? あ、今日の晩ご飯はね! おじさんの大好きな――』

 

「ああ、すまんユウ。嬉しいが晩飯の話じゃ無い。今現場ではクリスくんを含めた三人が戦っていてな」

 

『本当! クリスお姉ちゃんが?!』

 

 三人が力を合わせる事を誰よりも望んでいたユウは嬉々として目を輝かせた。

 

「しかし三人とも苦戦してるみたいでな。是非ユウに彼女達を元気づけて貰おうと思ってな」

 

『分かった! お姉ちゃん達の為なら、ぼくなんでもするよ!』

 

「すまないな。ユウの端末を三人の通信機と繋いでくれ。…………あおい? 聞いているのか?」

 

「……は、はい! 今すぐに!」

 

 ボーとモニターを見つめていたあおいは、弦十郎に言われ慌てて通信を繋いだ。

 

『お姉ちゃん! 聞こえてる?』

 

「「「っ!?」」」

 

 自分達の持つ通信機からユウの声が聞こえると、三人は一斉に反応した。

 

「ユウ、無事なの?!」

 

『うん。あの後緒川さんと直ぐに会えたから大丈夫だったよ。今は未来お姉ちゃんと一緒に避難誘導のお手伝いしてるの!』

 

「ユウ、怖いだろうが心配すんな。姉ちゃんがすぐにノイズ共をぶっ潰してやるからよ!」

 

『ありがとう。でも怖くなんてないよ。だってお姉ちゃん達が一緒に戦ってくれてるんだもん! お姉ちゃん達が頑張ってるから、ぼくも自分にできる事をしようって思えるんだ!』

 

 嬉しそうに話すユウに対し、三人はバツの悪そうに黙り込んだ。ユウが純粋に自分達を信じてくれているのに、自分達は何をしているのか、と目を覚ましたのだ。

 

『ぼくも頑張るから、だからお姉ちゃん達も諦めないで。どんなに大変で、辛い時でも、希望を捨てなきゃきっとその先に光はあるから!』

 

 それだけを言うとユウは通信を切った。まだ避難が終了してない為手伝いに戻らなくてはならない。通信を終えたユウは、未来と緒川のいる場所へと戻っていった。

 

「雪音クリス」

 

「……何だよ?」

 

 翼に声をかけられ、クリスは不機嫌そうに返した。

 

「私はまだ貴女のことはよく知らないし、完全には信用できない」

 

「翼さん……」

 

「でも貴女があの子を大切に想ってくれていることは認めているわ。だからあの子の生きる世界を守る為に力を貸して欲しい」

 

「はっ! ずるい言い方だな」

 

 世界を守る為なんかでくだらない理由で戦うなどごめんだ。しかし()()()()()()()()()()()為と言うなら、クリスが断る理由など無かった。

 響は翼とクリスの手を取った。

 

「わたし、どうして自分にはアームドギアがないんだろうって考えてた。いつまでも半人前は嫌だなぁって。でも、今は思わない。何もこの手に握ってないから、みんなとこうして手を握り合える、仲良くなれるからね」

 

「立花……」

 

「ユウくんがわたし達を結びつけてくれた。だったらわたし達は一緒に戦えるはずだよ!」

 

 響の言葉に感化されたのか翼は、地面に刀を突き刺すと空いた手をクリスへと向けた。毒の抜けたクリスは照れくさそうにしながらも、武器を手放し翼の手を取った。

 

「ふん、足、引っ張んなよな?」

 

「貴女こそ」

 

「クリスちゃん、翼さん。三人で一緒に戦いましょう!」

 

 二人の軽口をキッカケに戦闘が再開された。

 クリスが撃ち抜き、翼が斬り、響が叩き潰す。己のギアの特性を最大に活かし、三者三様の戦法で次々とノイズの数を減らしていった。

 言い合っていた合間にノイズ達は再び数を増やしていたが、初めてとは思えない三人の連携になす術もなかった。

 

「ハァッ!」

 

 《蒼ノ一閃》

 

 周りのノイズを蹴散らした後、翼は空母型を狙う為近くの高いビルを足場として飛距離を稼ぐと蒼い斬撃を放った。

 

「くっ、遠い……!」

 

 無数の飛行型ノイズを切り裂いていったが、空母型に届かないと言うところで斬撃が消えてしまった。

 一体を翼に撃墜された事で警戒心を高めた残り二機の空母型は、スカイタワーのテッペンというはるか上空まで上昇していた。これでは翼の斬撃では届かない。

 

 《BILLION MAIDEN》

 《MEGA DETH PARTY》

 

 ならばとクリスによる一斉射撃。しかしガトリングは途中で失速し届かず、無数のミサイルは辺りを漂う飛行型ノイズが盾となり防がれてしまった。

 

「翼さん、ヘリを使って空から!」

 

「駄目よ、ヘリの速度では的になってしまう」

 

 響は最初にやったように上空からの落下を利用しての攻撃を提案するが、翼の言う通り飛行型の多いこの場では、ノイズの攻撃を防ぐ手がなく集中砲火を喰らってしまう。

 

「だったらアタシに考えがある。イチイバルの特徴は長射程広域攻撃、派手にぶっ放してやる!」

 

「貴女まさか絶唱を……」

 

「そ、それは駄目!」

 

 響の脳裏にあの日の翼の姿が甦り止めようとする。

 

「バーカ、アタシの命は安もんじゃねぇ。ギアの出力を引き上げつつも放出を押さえる。行き場のなくなったエネルギーを臨界までため込み、一気に解き放ってやる」

 

「でもその間は貴女は身動きが取れなくなる」

 

「だったらその間、わたし達が守ればいいんだね!」

 

 響と翼は頷き合うとクリスを守る様に、彼女の前に躍り出た。

 

(頼まれてもいないことを。アタシも引き下がれねえじゃねえか!)

 

 本当に成功するかも分からない、しかもかつては敵同士だった自分の策に二人は何も言うでも無く信じてくれた。そうなってはクリスも応えなければ気が済まない。これは信頼では無く、彼女の意地だった。

 翼が空中のノイズ撃ち落とし、響が地上のノイズを吹き飛ばす。二人はペース配分など考えずに全力で周りの敵を倒していった。まるで短距離走の様に長くは続かない戦い方、しかし二人に不安は無かった、後ろの彼女が必ず決着をつけてくれると信じていたからだ。

 

「「託した!!」」

 

 クリスのチャージが完了したのを感じ取った二人は大きく飛び退くと、クリスのための射線を開けた。

 

 《MEGA DETH QUARTET》

 

 クリスは両手にガトリング砲、腰に小型ミサイル射出機、そして両肩に巨大なミサイルを左右にニ門、合計四つを展開し、その全てを上空からのノイズ全てに一斉掃射した。

 今まで以上の最高火力に小型ノイズ達は一掃され、大型ミサイルの直撃により残った二体の空母型ノイズは跡形もなく消滅した。

 

「やったやったぁ! やったよぉクリスちゃんっ!!」

 

「やめろバカ! 何しやがるんだ!」

 

 戦闘の終了と共に変身を解いた響が、同じく私服姿に戻ったクリスへと抱きついた。

 クリスは暑苦しく抱きついてくる響を引き剥がした。

 

「いいかお前たちの仲間になった覚えはない! アタシはただフィーネと決着をつけて、やっと見つけた本当の夢を果たしたいだけだ!」

 

「夢!? クリスちゃんの? どんな夢?! 聞かせてよ~!」

 

「うるさいバカ! お前は本当のバカ!!!」

 

 しかし口では悪く言いつつもクリスの表情はとこか楽しそうだった。二人がじゃれ翼が遠目から微笑ましそうに見ていると、響の端末が通信を傍受した。

 ――相手は未来だった。

 

「はい、もしも――」

 

『響! 学校が、リディアンがノイズに襲われ――(ブチッ)』

 

 彼女達に真の最終決戦が近づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

  ☆

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