シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第十四話 月を穿つ

  ☆

 

 

 

 

 

 

 響達がユウとの通信を終え、空母型を撃墜しようと思考錯誤していた頃、リディアンはノイズの襲撃を受けていた。

 敵は大型のノイズが多く、自衛隊が奮戦するがノイズには通常の兵器が効かずジワジワと押されていた。

 

「落ち着いて! シェルターに避難してください! 落ち着いてね……」

 

 そんな中未来とユウは、緒川達と一緒に民間人の避難誘導を手伝っていた。

 

「ヒナっ!」

 

「みんな!」

 

 創世と詩織と弓美の友人達も無事だったようだ。しかしその表情からは不安の色が見えた。

 

「どうなってるわけ?! 学校が襲われるなんてアニメじゃないんだからさぁ……」

 

「みんなも早く避難を!」

 

「小日向さんも一緒に!」

 

「先に行ってて。私、ユウくんと一緒に行くから!」

 

「ユーユーも来てるの?!」

 

 驚いている創世をよそに、ユウが担当している誘導場所を目指して未来は走り出した。

 

「君たち! 急いでシェルターに向かってください、校舎内にも、ノイズがッ――?!」

 

 三人に声をかけた自衛隊員が天井を突き破って侵入したノイズの攻撃を受け、目の前で分解されていく。目の前で起きた出来事に耐えきれなくなった弓美の絶叫が、校舎内に響き渡った。

 

「ユウくん、早くこっちへ!」

 

「うん!」

 

 ユウと合流した未来は皆と同じ様に避難用のシェルターを目指して駆けていた。

 

「学校が……響の帰ってくる場所が……!」

 

 見慣れた風景が破壊され、絶望しかけている未来の手をユウが引いた。

 

「大事なのは場所じゃないよ。未来お姉ちゃんや皆んなが生きていたら、そこが響お姉ちゃんの帰るところだよ。だから頑張って生きないと!」

 

「ユウくん……うん! そうだね!」

 

 未来は力の抜けそうになる足に力を入れて走り出した。全ては帰ってきた響に「おかえりなさい」を言う為に。

 シェルターを目指し二人は走る。するとすぐ側の窓ガラスに亀裂が入った。

 

「危ないッ!」

 

 ガラスの破壊と共に入って来たノイズから未来達を守ったのは、二人を探していた緒川だった。

 

「ありがとう、緒川さん!」

 

「ギリギリでした。次上手くやれる自信は無いですし、走りますよ!」

 

 ノイズ達が動き出すのを確認した緒川は、二人を両脇に抱えたまま走り出した。

 

「三十六計逃げるにしかずと言います! 運び方に関しては我慢して下さい!」

 

「おおー! 速い速い!」

 

 荷物の様な運び方に恥ずかしそうにする未来と、緒川の足の速さに呑気に喜ぶユウ。そんな二人を抱えながら、近くにあった二課へと続くエレベーターへと逃げ込んだ。

 しかし物体を通過するノイズは壁をすり抜けながらも未来達を襲おうとする。緒川は咄嗟の判断でボタンを押しエレベーターは凄い速さで下降していった。ノイズが物体をすり抜けるおかげで何とか逃げ切ることができた。

 

 

  ☆

 

 

 ひとまずの安全にほっと一息ついた二人をよそに、緒川は本部の弦十郎と連絡を取っていた。

 

『……はい、リディアンの破壊は依然拡大中です。ですが、未来さん達のおかげで被害は最小限で抑えられています。これから二人を、シェルターまで案内します』

 

「分かった、気をつけろよ」

 

『それよりも司令! カ・ディンギルの正体が判明しました!』

 

「なんだと?!」

 

『物証はありません! ですが、カ・ディンギルとは恐らく――っ?!』

 

 そこまで言いかけたところで、突如通信機越しに何かが破壊される音と未来の悲鳴が聞こえて来た。

 

「どうした?! 緒川!」

 

 

  ☆

 

 

 三人を襲ったのはノイズではない。金色に染まったネフシュタンの鎧を纏ったフィーネ本人による奇襲だった。

 エレベーターの頑丈な壁を貫き、飛び出して来た黄金の右腕に首を掴まれた緒川が壁に押しつけられる。

 

「こうも早く悟られるとはな……何故分かった?」

 

「ぐっ……天を仰ぐほどの高い塔を誰にも見つからずに建造するには地下に作るしかないと。その言葉をヒントに調査した結果、そんなことが行われているのは特異災害対策起動部、そのエレベーターシャフトこそがカ・ディンギル……! そして、それを可能とするのは……!」

 

 天にそびえる塔というとこでスカイタワーがイメージされていつが、それは完全なるブラフ。彼女は天を仰ぐ程の塔を敢えて地下に作ることによって二課の情報網をすり抜けていたのだ。

 そしてこの二課本部の開発に最も携わっていたのは――

 

「その声……了子さん、だよね?」

 

 声の低さは違えど()()()は変えられない。耳の良いユウにはその声が、二課の科学者櫻井了子のものと同じものに感じた。

 ユウの考えは当たっていた。緒川の話同様、この本部の設計開発に最も携わっていたのは櫻井了子本人だった。

 

「このワタシを、その名で呼ぶな小童」

 

 了子の名で呼ばれたフィーネは不機嫌そうにユウを睨みつける。その眼力にユウを抱きしめる未来の震えが強まった。

 だがフィーネの注意がユウに移った瞬間、その隙をついて脱出した緒川が拳銃を発砲する。弾丸は全て急所である心臓部へと吸い込まれる。しかしネフシュタンの鎧によって守られたフィーネの身体には通じず、潰れた弾丸が床へと転がった。

 

「ネフシュタン」

 

 緒川の抵抗を嘲笑うかの如く指を動かす。すると彼女周りにある鞭が自動で動き緒川の体を締め上げた。

 

「うぐあぁぁぁッ!」

 

「緒川さんっ!」

 

「二人共……! 逃げ、てッ……!」

 

 目の前の光景に未来は悲痛な声をあげる。その声に反応したフィーネの注意が二人へと向いた。

 ユウは自分を抱きしめる未来を振り解くと、彼女の前に立ち庇うように両手を広げた。

 

「アッハハハハッ! お前に何が出来る?」

 

 フィーネは鞭の先端をユウの目前へと近づけた。

 

「怖いだろ童。これが無力と言うものだ。お前の様な無力な者は強い者に媚びるしかない。そうだろう?」

 

 フィーネはまるで跪けとでも言う様に、鋭く尖った先端をユウの喉に這わせる。岩をも簡単に貫くその鋭さにユウの首から少しずつ血が滴る。

 

「怖くないよ。力を誰かを傷つけることにしか使えないあなたを“強い”とは思わないから」

 

 しかしユウの瞳は全く揺らがずフィーネの目を見つめる。自分の脅しにも怯まず真っ直ぐに自分を見つめ返してくるユウに、フィーネはギリッと歯軋りをした。

 

「お前達”親子”は……本当にワタシをイラつかせるのが上手い奴らだッ!!!」

 

 余裕を見せていたフィーネが憤怒の表情を見せると、緒川を捕まえていた二本の鞭の対象を変える。そしてユウの両目を抉り取ろうと突き刺そうとする。

 

「――待ちな、了子」

 

 ――それ遮ったのは天井を突き破り、勢いよく着地した弦十郎だった。

 

「弦おじさん!」

 

「貴様も、まだワタシをその名で呼ぶか?」

 

「女に手を挙げるのは気が引けるが、その子に手を出すと言うのなら、容赦なくお前をぶっ倒す!」

 

 いつも冷静な弦十郎には珍しく、その声には明らかに怒気が宿っていた。親友の息子に手を出された怒りもあるが、それだけではなかった。

 

「待って! 了子さんはお父さんの事知ってるの?」

 

「……ユウ、目と耳を塞いで隠れていろ。緒川、二人を頼む」

 

「はい!」

 

 フィーネの先程の発言が気になったユウだったが、弦十郎はその話題を無理矢理遮る様にユウを引かせた。

 

「調査部だって無能じゃあない。米国政府のご丁寧な道案内で、お前の行動にはとっくに行きついていた。……”あの事件”についてもな」

 

「フフフ……」

 

 あの事件という部分を強調する様に喋る弦十郎に、フィーネは不気味な笑みを見せた。

 

「あとはいぶりだすため、あえてお前の策に乗り、シンフォギア装者を全員動かして見せたのさ!」

 

「陽動に陽動をぶつけたか……食えない男だ。だが、このワタシを止められるとでも?!」

 

「おおとも! ひと汗かいた後で、話を聞かせてもらおうかぁ!」

 

 弦十郎は一歩目を踏み出し、フィーネは鞭で迎撃しようと振るう。しかし弦十郎はそれをたやすく避けると、もう一本の鞭を跳躍して回避し、天井にある梁を掴んで軌道を変え、拳を振りぬく。それを避けたフィーネだったが、その拳圧だけでネフシュタンにヒビが入った。

 

「何ッ?!」

 

 ネフシュタンは問題なく再生するが、傷をつけられた事にフィーネは舌打ちをする。

 

「肉をそいでくれるッ!」

 

 二本の鞭を勢いよく放つが弦十郎は逆にそれを掴み、引っ張る。あまりの力にフィーネの体が引き寄せられ、弦十郎は彼女の鳩尾に渾身の力でアッパーを叩きこんだ。強力な一撃を喰らったフィーネは天井に勢いよくぶつかった後、床に倒れ伏した。

 

「完全聖遺物を退ける……。どういうことだッ?!」

 

「知らいでか! 飯食って映画見て寝る! 男の鍛錬は、そいつで十分よぉ!」

 

「なれど人の身である限りはぁッ!」

 

「させるかぁッ!」

 

 ソロモンの杖を構え、弱点であるノイズを生み出そうとするが、それを許す弦十郎ではない。床を踏み砕いた衝撃で浮き上がった破片をフィーネの手に蹴り込み、その衝撃で杖が天井に突き刺さった。

 フィーネの視線がソロモンの杖に向いた隙に弦十郎は、トドメの一撃を狙う。

 

「ノイズさえ出てこないのならぁッ!」

 

「弦十郎君!」

 

「ッ?!」

 

 櫻井了子の声で名前を呼ばれ一瞬拳が止まる。フィーネにはそれで十分だった。その隙を突かれ、鞭の一本が弦十郎の体を貫いた。

 

「司令ッ!?」

 

「きゃあああっ!?」

 

 その光景に緒川と未来が同時に叫んだ。

 腹部から血を垂れ流し、倒れ込んだ弦十郎の頭をフィーネが踏みつける。

 

「お優しいな、風鳴弦十郎。その甘さに免じて、ひと足先に救済を与えてやろう」

 

 フィーネは鞭を剣の様に直線に伸ばし固定させると、自分の足元で倒れる弦十郎の頭部を貫こうと腕を振り上げる。

 しかしその瞬間、彼女の右腕に重しが加わった。

 

「おじさんを虐めないでッ!?」

 

「星乃くん?!」

 

 いつの間にか緒川の手を離れたユウが、フィーネの右腕にしがみつく形でその凶刃を止めようとしていた。

 

「ユウ……逃げるんだ……!」

 

「その煩わしい目で、ワタシを見るなぁッ!!?」

 

 フィーネが鬱陶しそうに、振り解こうとするのを歯を食いしばって食らいつく。その真っ直ぐな少年の目に、よりイラつきながらも振り払う力を強める。ついに子供の握力ではその力を抗えず、ユウの軽い体は勢いよく壁に叩きつけられてしまう。

 

「あっ!?……うぅ……」

 

「ユウくんッ!」

 

 未来がユウに駆け寄る。壁に叩きつけられた衝撃のせいかユウの胸元から、彼が大事に持っていたペンダントが飛び出し、キラリと光を反射させていた。

 

「――っ!? 何故お前がそれをッ?!」

 

 それを見た瞬間、フィーネの形相が変わった。

 先程までの余裕のあるものから、厳しい表情へと変えたフィーネが未来達へと近づく。

 

「来ないでっ! きゃあっ!?」

 

「未来お姉ちゃん!?」

 

 ユウを庇おうとした未来をはたいて押し飛ばすと、フィーネはユウの胸元に手を伸ばし、ペンダントを握りしめた。

 

「だ、だめっ!?」

 

 ユウはペンダントを引きちぎろうとしているフィーネの腕にしがみついた。しかしネフシュタンを纏い超人の力を持つフィーネは、そのまま片手でユウの体を軽々と吊り上げる。

 

「これは……だめ…………!」

 

「鬱陶しい! その腕ごと引きちぎってくれるッ!」

 

 体ごと持ち上げられようともペンダントを離そうとしないユウに苛立ちが募り、ユウ自身へと手をかけようとする。

 

「オォォォォッ!!!」

 

 それを防ごうと、立ち上がった弦十郎が渾身の一撃を振るう。フィーネは咄嗟に回避することが出来たが、壁を打ち砕くその一撃はとても怪我人のものではなかった。

 

「恐ろしい男だ。だがお前と遊んでやる理由は無い」

 

 これ以上邪魔されることを嫌ったフィーネは、奪った弦十郎の端末を使いドアのロックを外し、ユウを抱えたまま最奥であるデュランダルが保管されている部屋へと入って行った。

 

「ま、待て……!」

 

「司令、無理をしては駄目です!」

 

 直ぐに追いかけたかったが、弦十郎の傷が深い上にユウが人質となっている以上、三人にはただ見ているしか出来なかった。

 

「目覚めよ天を突く魔刀。彼方から此方まで現れいでよッ!」

 

 フィーネが保管庫の端末を操作すると、彼女の詠唱に反応する様にデュランダルは禍々しい光を放っていた。

 

 

  ☆

 

 

 現在指令室では、ノイズの群れを撃退している装者三人の状況を把握していた。

 不意に指令室の扉が開く。そこには未来と緒川に肩を支えてもらいながら運ばれてくる弦十郎の姿が見えた。しかもその腹部には大きな赤黒いシミができていた。

 

「司令?!」

 

「おいおっさん、大丈夫なのか!?」

 

「応急処置をお願いします!」

 

 弦十郎をソファーに寝かせると、友里が持ってきた包帯で患部を止血していく。応急処置をあおいに任せ、緒川は現状を報告した。

 

「本部内に侵入者です。狙いはデュランダル! 敵の正体は……櫻井了子!」

 

「なっ?!」

 

「そんな……」

 

 指令室の全員が驚きの声をあげる。皆の驚きも当然だった。組織の根幹にいた人物が敵の親玉だったのだから。

 

「響さん達に回線をつなげました!」

 

 端末操作していた緒川が、音声機を未来に渡した。

 

「響! 学校が、リディアンがノイズに襲われてるの!――え?!」

 

 響に今の状況を伝えようとした通信が急に切断される。同時に司令室のモニター全てが点滅しアラームが鳴り響いた。

 

「なんだ?!」

 

「本部内からのハッキングです! こちらからの操作を受け付けません!」

 

「こんなこと、了子さんしか……」

 

 オペレーター達が必死にブロックを掛けていくが、それを上回る速度で侵入されていく。その現状から相手が了子であることを嫌でも思い知らされた。

 数分と経たずに全ての機能が停止し、部屋内の電気すら落ちてしまった。

 

「響……」

 

 不安そうな未来の声が小さくこだました。

 どうすれば良いか皆が混乱していると、停電した指令室で弦十郎が目を覚ました。

 

「司令……」

 

「う、くぅ……状況は?」

 

 痛む腹部を押さえながら皆を見渡す。その表情は全員暗いものだった。

 

「本部機能のほとんどは制御を受け付けません。地上及び地下施設内の様子も不明です……」

 

「そうか……あの子は? ユウはどうした?」

 

「以前フィーネに連れ去られて消息不明です……」

 

「くそっ! あたしが戦えれば……」

 

 奏は車椅子の手摺を両拳で叩く。今だに車椅子が無ければ移動すら出来ない自分が、恨めしくてたまらなかった。

 それは緒川も同じだった。自分に何も出来ず、みすみす一人の子供を目の前で連れ去られてしまったのだから当然だ。

 

「ぐっ、行かねば……!」

 

「司令、その傷では無茶です!?」

 

 ユウの安否を気にする弦十郎は、傷が疼くのを気にせず無理矢理立ち上がった。

 

「いや、行かねばならん。奴は、了子は”あの事”をユウに話すつもりだ! あれはあの子には酷すぎる!」

 

 皆が制止するのを無視して司令室を後にしようとする弦十郎。しかし失血が多いのか足元がおぼつかず、倒れ込みそうになるのを近くにいた未来が支えた。

 

「あの事……って?」

 

 焦った弦十郎の一言が気になった未来が尋ねる。弦十郎は「しまった」とでも言う様に顔を顰めるが、観念した様に話し出した。

 

「あの子の、父親の事だ……」

 

 

 

  ☆

 

 

 

 未来からの通信を聞いた響達がリディアンへと到着した。急いでヘリで飛ばして来たが、既に辺りは闇に包まれ、満月が顔を出していた。

 リディアンは既に廃墟と化していた。人口の街頭は全て破壊され、月明かりのみが辺りを照らしている現状。

 

「リディアンが……そんな……」

 

「未来ー! ユウくーん!!!」

 

 今までの日常の風景が消失、在校生であった二人には特にショックが大きかった。皆の無事を確認しようと大声で叫ぶが返事は返ってこなかった。

 

「……おい! あそこ!」

 

 クリスが指を指す。その先には崩れた校舎の上に黄金の鎧を纏った女が立っていた。

 

「フィーネ……ッ!」

 

 

  ☆

 

 

「どうだ童、美しいだろう? これがカ・ディンギルだ」

 

「カ・ディンギル……」

 

 フィーネの視線に釣られユウも同じ様に上を空を見上げる。

 その視線の先には、天を突くと思わせる程巨大な塔がそそり立っていた。しかしその中はエレベーターシャフトを利用した空洞となっており、塔というよりは砲台と言えた。

 

「しかし驚きだったな。まさか《ティグの紋章》を持っていたのがキサマだったとはな。あの男め、とんだ小細工をしてくれたものだ」

 

「ティグの……紋章?」

 

「フィーネッ!!!」

 

 クリスの叫び声が二人の会話を遮った。

 

「う……お姉ちゃん……」

 

「ユウッ?! 貴っ様ッ!」

 

「テメェ! ユウを離しやがれッ!」

 

「喚くな小娘ども」

 

 苦しそうなユウの姿を見て鋭い殺気を向けるが、フィーネはやれやれ首を振ったあと、人質を見せつけるように首元に込める力を強めた。

 

「あ!……うう……」

 

 今直ぐにでも飛び掛かってしまいたかったクリスと翼だったが、苦しそうに顔を歪めるユウの姿に身動きが取れない。

 

「……やっぱり、了子さんがフィーネなんですか?!」

 

「あら、知ってたの? ふふ、出来る女って言うのはいくつもの顔を持ってるものよ〜」

 

 櫻井了子の声と喋り方で自分の顔の前に掌をかざす。するとフィーネの顔つきが一瞬にして櫻井了子のものに変わり、もう一度かざすと再びフィーネのものに変わった。

 

「嘘……。嘘ですよね? そんなの嘘ですよね?! だって了子さん、わたしを守ってくれました」

 

「あれはデュランダルを守っただけの事。希少な完全状態の聖遺物だからな」

 

 デュランダル護衛任務の時、クリスの襲撃でシンフォギアを纏う前の響を、櫻井了子がバリアーのようなものを張って守った事があった。

 思えばあれもフィーネの力だったのだろう。

 

「嘘ですよ……了子さんがフィーネというのなら、じゃあ、本当の了子さんは?!」

 

「櫻井了子の肉体は、先だって食い尽くされた。いや、意識は十二年前に死んだと言っていい」

 

「えっ?」

 

 かつて超先史文明期の巫女フィーネは、遺伝子に己が意識を刻印し、自身の血を引くものがアウフヴァッヘン波形と接触した際、その身にフィーネとしての記憶、能力を再起動する仕組みを施していた。

 十二年前、翼が偶然引き起こした天羽々斬の覚醒は、偶然立ち会った櫻井了子のうちに眠るフィーネの意識を目覚めさせてしまった。

 

「あなたが、了子さんを塗りつぶして……」

 

「まるで、過去からの亡霊!」

 

「フィーネとして覚醒したのはワタシ一人ではない。歴史に記される偉人、英雄、世界中に散ったワタシたちは、パラダイムシフトと呼ばれる、技術の大きな転換期にいつも立ち会ってきた」

 

「技術の転換期……そうか、シンフォギアシステム……!」

 

 今のこの国で最も進んだ技術を思い浮かべた翼は声を上げるが、フィーネは首を横に振った。

 

「そのような玩具。為政者からコストをねん出するための副次品に過ぎない」

 

「お前の戯れに、奏は命を失いかけたのかッ!」

 

「アタシを拾ったり、アメリカの連中とつるんでいたのも、そいつが理由かよ!」

 

「そう! すべてはカ・ディンギルのため! 見よ小娘ども、これこそが! 地より屹立し、天へと届く一撃を放つ過電粒子砲『カ・ディンギル』!」

 

 フィーネがそう宣言すると、彼女の背後にあった巨大な塔が禍々しい光を放つ。カ・ディンギルとは天へと昇る塔では無く、天を穿つ砲台だったのだ。

 

「こいつで、バラバラになった世界が一つになると?」  

 

「ああ……。今宵の月を穿つことによってな!」

 

「月を?!」

 

「穿つと言ったのか?!」

 

「なんで?!」

 

 予想していた以上に壮大で突拍子もない計画に三人は同時に驚く。しかしそんな声も聞こえてないのか、フィーネは一人で喋り出した。

 

「ワタシはただ、あのお方と並びたかった。その為に、あのお方へと届く塔を建てようとした。だがあのお方は、人の身が同じ高みにあることを許しはしなかった……。あのお方の怒りを買い、雷霆に塔が砕かれたばかりか、人類はかわす言葉まで砕かれ、果てしなき罰。バラルの呪詛をかけられてしまったのだ」

 

 それは間違いなく旧聖書に描かれているバベルの塔のお話。

 

「何故月が不和の象徴と伝えられてきたか、それは月こそがバラルの呪詛の源だからだッ! 人類の相互理解を妨げるこの呪いを、月を破棄することで解く。そして再び、世界を一つに束ねるッ!」

 

「呪いを解く? それは、お前が世界を支配するってことなのか?! 安い! 安さが爆発しすぎてる!」

 

 自分の信じて来た世界を平和にする方法のくだらなさにクリスが叫ぶが、フィーネの耳には一切届かない。

 

「永遠を生きるワタシが、余人に歩みを止められることなどありえない。その為のエネルギーもデュランダルで事足りる。だが、()()があるなら確実だ」

 

 クリス達との問答を終えたフィーネは、再びユウのペンダントへと意識を向ける。ユウは奪われまいとしがみつく力を強くした。

 

「だめ! これはお父さんから貰った大切な物なの!」

 

「星乃大吾か……あの愚か者め。こんな小童に渡すとは、()()の価値を分かっていなかったと見える。全く愚かな男だ」

 

「お父さんを悪く言わないで! お父さんは人の可能性を信じて――!」

 

「ん?……ああ、アッハハハハハッ!!! そうか、お前は知らないのだったな」

 

「な、なにを……?」

 

 不安そうに此方を見つめるユウの姿を面白がったフィーネは、顔を近づけ聞き逃さない様に耳元でハッキリと応えた。

 

「お前の父親を殺したのは、このワタシだ」

 

 

 

 

 

 

  ☆

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