シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり) 作:トライダー
☆
―特異災害対策機動部2課本部内通路―
司令室を後にした弦十郎たちは、非常用の懐中電灯を頼りにニ課の通路を歩いていた。
「奏さん、揺れは大丈夫ですか? かなり足場が悪いですが」
「ああ、大丈夫だ。運んでもらってる身なんだ、気を使わなくていいよ」
奏は車椅子を緒川に押してもらい、弦十郎は藤尭達に肩を貸してもらいながら、皆で力を合わせてゆっくりと確実に進んでいた。
「防衛大臣の殺害手引き、デュランダルの狂言強奪……そして、本部にカモフラージュして建造されていたカ・ディンギル……オレたちはすべて、櫻井了子の掌で踊らされてきた……」
「ネフシュタンの鎧とイチイバルの強奪を含め、他にも疑わしい暗躍はありそうですね」
「それでも、同じ時間を過ごしてきたんだ。その全てが嘘だったとは、オレには……」
「司令……」
「甘いのは分かっている……。性分だ」
「分かってるよ。そんなおっさんだから、あたし達は喜んで着いて行けるんだ。だからそんな、メソメソすんなよな」
「……ありがとう、奏くん」
ここまでの事をされてもまだ、弦十郎の中には了子を信じたいと言う思いがあった。自分の甘さを自嘲するが、それが風鳴弦十郎という人物という事を、ここに居る誰もが分かっていた。
そうしている内に皆は、何とか電波の拾えそうな部屋を見つけ、入り口を防いでいる瓦礫を退かし中へと入った。
「小日向さん!」
「よかった! みんな無事で!」
そこにはノイズ達から逃れて来た創世たち三人の姿があった。未来は友達が無事だった事が分かりホッと胸をなでおろした。
その間に藤尭はもってきた端末を起動させる。
「この区画の電源は、生きているようです!」
「他のところを調べてきます!」
緒川や他の面々も自分にできる仕事を探し動きだす。それを見ながら、状況を理解出来ていない創世は未来に問いかけた。
「ヒナ、この人たちは? しかもそこに居るのって、天羽奏だよね?!」
「えと、うん……あのね?」
周りの多忙な空気を読んで三人は黙っていたが、流石に目の前にトップアーティストがいるのが気になり未来に尋ねた。
「我々は、特異災害対策機動部。一連の事態の収束に当たっている」
「それって、政府の……」
特異災害対策機動部。ニュースでよく聞く名を聞き、弦十郎たちが政府の関係者であることを理解した。
まだまだ聞きたいことは多かったが、それよりも先に未来は弦十郎に問いただしたい事があった。未来は質問したそうな三人を制すると、ソファーに座らせた弦十郎に向き直った。
「それより弦十郎さん。さっきの話の続き……ユウくんのお父さんの事について話してくれますよね?」
「……………………ああ」
弦十郎は少し考えた後、覚悟を決めたように口を開いた。
「あの子の父親の名は星乃大吾。オレの親友だった男だ」
「星乃大吾って……まさか、あの星乃大吾ですか!?」
通信を繋ごうとパソコンを操作していた藤尭が、聞き覚えのある名前に反応した。
「知ってるの?」
「知ってるもなにも、日本人で初めて月へ行った宇宙飛行士って一時期有名だったじゃないですか!」
「ああそうだ。アメリカのとある研究チームに所属していた大吾は、その功績を認められて一大プロジェクトの中心人物に選ばれた」
「一大プロジェクト?」
「人類初の火星の有人探査」
それはまだ人類が果たせていない偉業。無人機での探査は何度か行われているが、人が火星に降り立つにはさまざまな問題が多いからだ。
「最初は誰もが不可能と笑っていた。米国政府の無茶振りで、日本人であるが故に目の敵にされたのだと。だかアイツはその不可能を可能にした。アイツの乗ったロケットは順調に火星へと向かい、目標到達は目の前とされていた。しかしロケットが火星圏に入った所で謎の事故によってその反応は消えた」
「それが、ユウくんのお父さんが亡くなった事故……」
弦十郎は顔を顰めながら静かに頷いた。親友を失ったあの日の事を今でも思い出すのだろう。
「ですが、それは既に公表されている話ですよね? その話とフィーネにどう言った関係が……」
緒川の言う通り、ここまでは全て調べれば簡単に出てくる情報。つまりこの話はここからが本番という事だ。
「大吾は火星に行く為のシャトルを自分で設計したんだ」
「自分で?! それはスゲェな」
「だが例え設計出来たとしても自分一人で作れる物ではない。だから米国政府は世界中から有能な科学者を集めた。その科学者の一人に“櫻井了子”と言う名があった」
突然知った名前の登場に奏は驚きの声をあげる。これでフィーネがユウの父親のことを知っていた理由が分かった。彼女はロケットの設計時に会っていたのだ。
「……まさかおっさんは、ユウの親父さんの死には了子さんが関わっていたって思ってるのか?」
「…………そうだ。ロケットの事故は、中核となる“新エネルギー”の暴走による爆発と言われている。しかし怪しく思ったオレは独自で調査を行なった」
星乃大吾という人間をよく知っている弦十郎は、彼がそんな事故で命を落とすなど、どうしても信じる事が出来なかったのだ。そしてその結果恐るべき真実を知った。
「調査の結果、出発直前に動力部に何者かの手が加えられた事が分かった。そしてそれが可能だった唯一の人間が、最後の調整と機体チェックを行った櫻井了子のみだった」
「そんな……でも、何でそんな事を……?」
「これはオレの推論でしか無いが、了子くんの提唱した“櫻井理論”と大吾の提唱した“星乃理論”は競い合っていた事があった。カ・ディンギルを作る為に多くの資金や物資が必要だ。その為には日本政府だけでなく、米国政府からの援助が必要な筈だ」
聖遺物を起動させる櫻井理論と、聖遺物のルーツを辿る星乃理論では大きく異なる上に、結果的に政府が認めたのは了子の理論。しかしそれでも一部の人間でも星乃理論の方に期待を持ってしまえば、それカ・ディンギルの制作は遅れる。
ある意味フィーネにとって星乃理論は目の上のタンコブだったのかもしれない。
「そんな……じゃあユウくんのお父さんは、そんな事のために、こんな物を作るためだけに、邪魔だから殺されたって言うんですかッ!!?」
未来の叫びにこの場にいる全員が言葉を失った。
「…………あっ! システム繋がりました!」
タイミングが良いのか悪いのか、藤尭の努力が功を奏した。
「モニターの再接続完了。こちらから操作できそうです!」
藤尭の操作していた端末に廃墟となった母校、その場に聳り立つ巨大な建築物、そしてそこに並び立つ親友達の様子が窺えた。
「響……ユウくんッ!?」
長時間吊り上げられその顔を青くしているユウの姿に、未来は思わず叫んだ。
『星乃大吾か……あの愚か者め。こんな小僧に渡すとは、
『お父さんを悪く言わないで! お父さんは人の可能性を信じて――』
『ん?……ああ、アッハハハハハッ!!! そうか、お前は知らないのだったな』
『な、なにを……?』
『お前の父親を殺したのは、このワタシだ』
「「「っ!?」」」
モニターの向こうでフィーネが真実を語る。予想していながらもその衝撃の真実に、響達だけで無くモニター越しに見ている未来や弦十郎達も一緒に言葉を失っていた。
☆
「…………どういう……こと?」
数秒の沈黙の後、ユウの口から絞り出されたのは、それだけだった。
「了子さんが……ユウくんのお父さんを……」
「お父様、大吾さんを……」
「殺したってのか!? ユウの親父さんをッ!!」
放心しているユウよりも遠目から聞いていた響達の方が先に回復する。
「お父さんが、殺された?……うそ。だってお父さんは宇宙の事故で……」
「何も知らない者には事故にしか思えなかっただろう。忌々しいが奴の設計したロケットは完璧だった。唯一のエネルギー問題も
「どうして、そんな事を……?」
「奴は許し難い男だ。あの男は人の身でありながら、“彼”との接触を果たした。このワタシを差し置いて、“神”と並んだのだ! 決して許して置けるものか!」
「そんな事の為に……」
それが誰のことを指しているのか、この時の響達には分からなかった。しかしそれが誰であれ、そんな事で人一人の命を奪って良いはずがなかった。
「お前達の価値観に理解を得ようなどとは思わん。たが面白かったのは、奴の死を望むのはワタシだけでは無かったと言う事だ」
「え?」
「何故なら、ワタシに星乃大吾暗殺を依頼して来たのは、米国政府だからだ」
「「「なっ?!」」」
☆
「……どう言う、こと?」
「クソッ! そういう事か、クソッタレめッ!!!」
珍しく感情的になった弦十郎が怒りのまま後ろの壁を殴りつける。大怪我しつつも現役なその力でコンクリートの壁にヒビが入る。
その馬鹿力に弓美達が「ひっ!」と小さく悲鳴を上げるが、弦十郎にはそれを気にする余裕はなかった。
「おいおっさん! どう言う事なんだよ!?」
「考えれば簡単な事だった。最後に細工した者が怪しいなど子供でも分かる。なのに何故この事件は事故として処理されたか、何故他国のオレたちが調べれば簡単に出てくる事実を米国側では隠されていたのか、それは“米国政府自体”が関与していたからだ!」
☆
「米国が……ユウの親父さんを……殺す? なんでそんなことになるんだよ!?」
クリスの叫びは、信じたくない真実を拒絶するように響く。
だがフィーネは、冷笑を浮かべながら言葉を継いだ。
「星乃大吾は、人の身でありながら”神の領域”に手を掛けてしまった。愚かな米国の連中は、その力を欲した。だがあの男は、その力を他者に渡すまいとした。隠し、黙し、語らなかった――それを見た奴らは恐れたのだ。“日本人の科学者が神の力を独占しようとしている”と」
「それで殺すなんて……!」
「ワタシに依頼が来た。“星乃大吾と、その力を、秘密裏に処理してくれ”とな。……ええ、喜んで引き受けさせてもらったわ」
ぞっとするような口調だった。背筋が凍るほどの冷たさを纏いながら、彼女は続けた。
「彼の死の報酬として得た資金は、今こうしてカ・ディンギルの建造に使われている。――滑稽だろう? 自国の英雄を自らの都合で殺させ、世界を一つに束ねるという名目で、ワタシを援助する。どこまでも愚かで、どこまでも滑稽!」
そして、視線を再びユウへと向けた。
「分かるか? 童よ。確かにお前の父親を殺したのは、このワタシだ。だが――その死を望んだのは、お前達が信じてきた“人間”だ! お前の父は、“人間の可能性”などという幻想にすがり、そしてその幻想に裏切られて死んだのだ!」
その場にいた響、翼、クリス。そしてモニター越しに真実を聞いた未来、奏、弦十郎――誰もが、言葉を失っていた。
「そっか……そうだったんだ。……だからお父さんはあの時、これを……」
「どうだ童? これが絶望。これがお前達親子が信じた人間と言う存在の真実だ。憎いだろう? この醜い世界が! 哀れな人間共が! このワタシが!! アッハッハッハッハ!!!」
フィーネの語る衝撃の真実。弦十郎の予想した通り、
子供のユウに聴かせるにはあまりにも酷な話。それを高らかに笑いながら語るフィーネの姿は、巫女というより悪魔としか思えなかった。
「ぼくは憎んでないよ。アメリカの人達も、フィーネさんの事も」
しかしユウは否定するように、ゆっくりと首を振った。
彼のその瞳には、フィーネが想像していたような、怒りや絶望の色は見えなかった。
「何だと? はっ! 随分と薄情な子だな、父親の恨みを晴らそうとは思わんのか?」
「思わないよ。だってお父さんは恨んでいないもん。だってお父さんは、自分が殺される事を知ってたんだから……」
「何っ? 貴様、何を言って……?」
「お父さんは、宇宙に旅立つ前の日にコレをぼくにくれたんだ。お父さんは、コレを使って火星に行く事を計画してたんでしょ? なのにコレをぼくに渡したって事は……」
そこまで言われてフィーネも自分の話の矛盾に気がついた。大吾が作ったロケットは、彼が持っていたであろうティグの紋章の中に眠る未知のエネルギーを利用して火星を目指す設計だった。そのキーである紋章を、飛び立つ前に自分の息子に渡したという事は、考えられる事は一つだ。
「奴は初めから……火星に行くつもりなど無かった……?」
フィーネは言葉を失っていた。自分が罠にかけたと思っていた大吾が、自分達の思惑を読みその上で宇宙へと旅だったと言うのだ。
ユウは哀しそうに頷いた。
「……ずっと疑問だった。ぼくがどんなにねだってもコレだけは譲ってくれなかったお父さんが……。きっとお父さんは、自分が危ないことが分かってたんだ。だからお父さんは、自分が死ぬ事でコレが誰かの手に渡るのを防いだんだ。自分の想いと一緒に、ぼくにコレを託して」
自分がティグの紋章を持っていれば、それを狙う存在に永遠に狙われる事になる。最悪家族であるユウ達にまで被害が出る可能性も高い。だが持ち主である自分が、紋章と共に死ねば、ユウ達に手を出す理由は無くなる。
勿論これはあくまてユウの想像。しかし自分の父親がどんな人間か知っている彼は、決して間違っていないと確信していた。
「想いを託すだと? くだらん!」
吐き捨てるように言ったその声には、苛立ちと理解不能への戸惑いが滲んでいた。
「己が死んでしまっては、何も意味がない。奴の死は――無駄死にだ!」
フィーネはそう言い放ち、手に吊り下げたユウをあざけるように見下ろした。
だがユウは、揺るがなかった。
「無駄死になんかじゃない」
その声は震えていなかった。確かに小さな身体の少年から、真っ直ぐに紡がれた言葉だった。
「確かにお父さんはもういない……でも、お父さんの“想い”は、ぼくの中で生きてる!」
その瞬間、フィーネの眉がピクリと動いた。
「想いを継ぐ人がいる限り――お父さんという存在が消えることはないんだ!」
その言葉は、まるで刃のようだった。
他者の身体を乗っ取り、自らの存在を永劫に繋いできたフィーネにとって、「想いを託す」などという生き方は、最も無意味で愚かなものに映っていた。
「だから、ぼくは絶望なんてしない!」
ユウの瞳は輝いていた。
重ねた時間と、受け継がれた想い。それらすべてを背負って――なお、その少年は笑おうとしていた。
「お父さんが託してくれた光と一緒に……笑顔で未来を生きるためにっ!」
「な、何だと……?」
その言葉に反応するように、フィーネの手が僅かに震えた。
ネフシュタンの鎧が与える超人的な力――そのはずの右手が、吊るしあげたユウの体重を押し返されるように、じり……じり……と開かれていく。
(バカなッ!? 力は抜いていない……!)
少年の小さな手が、じわりと自分の指をこじ開けようとしている。
その瞳に宿るまばゆい信念と向き合ったとき、フィーネの中に、言葉にならぬ何かが走った。
(なぜだ……! なぜ私が、こんな小僧に、恐怖を……!?)
今のフィーネには、目の前の少年が自分よりも遥かに大きく神々しい巨人の姿に見えた。
恐怖――それは間違いなく、己よりも“上”を感じた瞬間に芽生える感情だった。
「さ、触るなッ!! 穢らわしいッ!!」
叫ぶように、ユウを弾き飛ばす。まるで、自分の中に生じたその感情そのものを、投げ捨てるかのように。
「うわっ!?」
軽い体は簡単に吹き飛ばされ、背中から瓦礫へと叩きつけられた。鋭い衝撃にユウは小さく呻き、意識を手放した。
その瞬間、彼の首から提げていた紐がちぎれ、ペンダントのクリスタルが宙を舞い――フィーネの手の中に収まった。
「はぁ……はぁ……」
握り締める。砕けてほしいと願うように、その手に力を込めた。
「星乃……大吾ぉ……ッ!!」
だが、砕けない。
フィーネの握力がどれだけ強かろうと、そのクリスタルは一点の曇りも無く、静かに淡い光を放ち続けていた。
それはまるで、ユウの瞳のようだった。
穢れを知らぬ、まっすぐな――想いの光。
「ッ……!!」
その輝きが、フィーネの心を、無意識の底から掻き乱していた。
「フィーネッ!!!」
しかしそれは彼女達も一緒だった。
ユウとフィーネの問答に呆気に取られていたクリス達も、彼が投げ出された事で意識を取り戻した。
「フィーネ……お前だけは、お前だけは許さねぇ!!!」
「櫻井女史……いやフィーネ! たとえユウや大吾さんが恨んでいなくとも、あの子から家族を奪ったあなたを私は許さない!」
「了子さん……今でもあなたとは戦いたくありません。でもわたしは未来を、皆んなを……そしてユウくんを守りたい!!! その為にあなたと戦います!」
三人は覚悟と同時に胸の奥の歌を浮かべる。
「Balwisyall Nescell Gungnir tron……」
「Imyuteus amenohabakiri tron……」
「Killter Ichaival Tron……」
流れ込んで来た歌詞をなぞるそうに歌う。それぞれの覚悟、別々の思い、しかし“ユウを守りたい”という想いだけは三人とも同じだった。
同じ想いを共にする三人の歌は何よりも美しかった。
「来い、歌女どもッ!」
「「「ハアァッ!!!」」」
拳を、剣を、弓を、ほぼ同時に三人は飛び掛かった。フィーネもまた先程のイライラをぶつけるように三人を迎え打った。
☆
「……どうなってんの? こんなのまるでアニメじゃない!」
「ヒナは、ビッキーの事知ってたの?」
「うん……」
「もしかして、一時期立花さんと小日向さんが気まずい雰囲気だったのって……」
「うんそう、響ったら私達に迷惑かけないようにって……」
「そうだったんだ……」
ここ二ヶ月の響の様子のおかしさに納得が行った三人は落ち込んだように声を沈める。その表情を見た未来は胸の奥がズキッと痛んだ。それはかつて自分が響に見せていた表情に似ていたからだ。
(そっか、響もこんな気持ちだったんだ……)
彼女がどんな気持ちで戦っていたか、少し分かった未来は、モニターの先の響を静かに見守るのだった。
☆
「オラオラオラァッ!!!」
距離を話したクリスが、ボウガン状のアームドギアを構え連射する。
「ふん!」
《ASGARD》
クリスが放った矢の雨あられを、フィーネはエネルギー状のバリアを張り防いでしまった。
「羽虫に等しいな。しかし物覚えの悪いことだ。以前手も足も出ずに逃げ帰ったのを覚えていないのか?」
「あの時のアタシと、今のアタシを同じだと思うなッ!」
《BILLION MAIDEN》
《MEGA DETH PARTY》
防がれた事を気にせず火力を増やして撃ち続ける。それをASGARDで難なく受け止めるが、彼女の言う通りイチイバルの力は前よりも増していた。
覚悟を決め、大切な者を守る為に戦う彼女の歌は以前よりも遥かに輝いていたからだ。
「今だ、行けバカ!」
「やあァッ!」
クリスもやけっぱちで撃っている訳ではない。煙を突き破り、バリアを張ってない背中側からハンマーパーツを引き絞った響が姿を現す。クリスはミサイルの爆発によって起きる煙幕を利用して一番攻撃力の高い響を突っ込ませていたのだ。
「っ……!? 甘いわァッ!」
咄嗟に反応したフィーネは、踵のヒールで蹴り付け響の拳を受け流し衝撃を殺した。
「うわっ! とととっ……!」
「そんな直線的なら攻撃に当たるほどノロマでは無いわァッ!」
「だったらこれはどうだッ!」
《千ノ落涙》
フィーネが地上の二人に気を引かれている隙をついた翼は、脚部のバーニアを噴かし高く飛翔すると、無数の剣を形成し放った。
「ばら撒きでどうにかなると思うなァッ!」
フィーネは手に持ったイバラの鞭を渦状に振うと、刃の渦巻きが次々と剣を破壊し落としていった。
「見たか? 二人とも」
「ああ」
「すみません、避けられちゃいました」
「いや、あれで良いんだ立花」
「え?」
「先程の攻防からフィーネは、立花の一撃のみに警戒をおいている」
「奴から見ても、コイツの馬鹿力はやべえって事だな」
今までの攻防からも、クリスや翼の攻撃は防御なり迎撃をしているが、響の攻撃に関しては回避か受け流しを行い直接ぶつかる事を避けていた。
ネフシュタンの鎧を使い、直接響とぶつかった事のあるクリスは、鎧を破壊する響の一撃を身をもって知っていた。
「な、なるほど……って言うかクリスちゃん、バカバカ酷いよっ!?」
響のツッコミをスルーし、フィーネを打ち破る策を考える。
「つまり立花の攻撃を囮にすれば、私達の一撃を当てる事ができる」
「けど、どうすんだ? アンタの攻撃は威にも返しちゃいねぇ。当たった所で効かねぇし、大技は防がれちまうだろ?」
「私に考えがある。私の一撃で隙が出来たら、二人は容赦なく大技を決めて」
翼の提案に二人は同時に頷くと、再びフィーネに攻撃を仕掛けていった。
「やあァッ!」
まず先方は響。弦十郎仕込みの体術を活かしフィーネへと肉薄する。フィーネからすれば警戒すべき響が突貫してくるのはありがたかったが、力のある響にとっつかれるのは鬱陶しくもあった。
拳の届く近接戦では鞭のリーチを生かす事ができない。それを嫌ったのか、響の拳を避けると同時に彼女の体を蹴り飛ばし、素早く距離をとった。
「そこだァッ!」
タイミングを測っていたクリスは、響との距離が開いたのを見て、再びMEGA DETH PARTYを放った。
響を避けるように放たれたミサイルがフィーネの目前へと迫る。
「いい加減学習しろ」
フィーネは当然の如くバリアで防ぐ。
しかし先程のように爆発と共にやってくる衝撃が腕に伝わらない。それもその筈、クリスが放ったミサイルはスモーク弾だったからだ。
「何っ?!」
クリスの目的はダメージを与える事ではなく目隠し、そしてバリアを張らせてフィーネの動きを止める事だった。
「でりゃあッ!」
今度は正面から飛び出した響が、バリアごとフィーネを殴りつける。クリスのミサイルの時以上の衝撃にかざしている右腕が痺れる。響はその隙を見逃さず、引き絞ったハンマーパーツを勢いよく押し込む。
多段式にやって来る衝撃に、ついにフィーネのバリアが砕かれた。
「くっ! このおォッ!」
渾身の一撃の後で隙の出来ている響へと鞭を向ける。その体を貫こうとした時、自分の頭上に影が差している事に気がついた。
「今度こそ貰ったッ!」
それは先程同様上空でホバリングしながら、先程の倍以上の刀剣を生成していた翼だった。
《千ノ落涙》
「数に物を言わせたところでぇッ!!!」
いくら数を増やそうとも、完全聖遺物のネフシュタンの鎧にとってはナマクラ同様。フィーネも先程同様、鞭を振るって迎撃しようとする。
「集えッ!」
しかしそれは翼の読み通りだった。翼は辺りに散った刀剣達を集結させる。
(っ!?……一点集中、涙を束ねてッ!?)
翼の生み出した刀剣が、まるで一つの巨大な大剣を思わせるほどに塊り、ネフシュタンの鞭の一点を集中攻撃する。
ネフシュタンの鎧と同じ強度を持つ鞭であっても、一点に連続しての刺撃に耐えきれず破壊された。鞭の防御を突破した刀剣達は、そのまま体勢を崩しているフィーネの体を襲った。
「今だ、立花ッ!」
「はいッ!!!」
落涙のダメージで出来た隙を見逃さず、響はフィーネへと突貫する。ハンマーパーツを限界まで引き絞り、膝をついたフィーネの胴体を衝撃が貫いた。
「ガハァッ?!」
バリアを破壊した時以上の一撃を叩き込まれ、傷付いたネフシュタンの鎧にヒビが入り、ボロボロに砕ける。
「ダメ押しだァッ!!!」
《MEGA DETH QUARTET》
その間にエネルギーを溜め、背後に巨大なミサイルを拡張していたクリスは、肩に担いだミサイルを二発フィーネへと放った。
既に二人の大技を喰らいふらついているフィーネに、防御も回避もする手段は無かった。
巨大な爆炎が夜の廃校を照らした。
「やったかッ?!」
風が吹き煙が晴れる。その向こうにはボロボロの鎧を纏い、体の所々を欠損しているフィーネの姿。流石のネフシュタンの鎧の防御力でもコレだけの攻撃には耐えられなかったようだ。
しかしネフシュタンの鎧の真の力は防御力ではない。
「何っ!?」
その特徴はあくまで再生力、ヒビだらけの鎧を治し、所々を欠損したフィーネの身体をまるで液体のように溶かし固め再生させた。
「ネフシュタンとの融合……まさかそこまでしてるとは」
かつてネフシュタンの鎧を使用していたクリスはよく知っていた。ネフシュタンの鎧は、無限に近い再生力を持っているが生身の人間は別。大きなダメージを無理矢理ネフシュタンの再生力で回復させ続ければ、鎧の再生力に生身の部分が取り込まれてしまうのだ。
クリスはそれを嫌い鎧を纏うのをやめたのだが、フィーネは自身が鎧そのものとなる事を受け入れたのだ。
「貴様らごときにワタシを倒すことは出来ない。そして準備ももう終わる」
「準備?」
フィーネがほくそ笑むと背後のカ・ディンギルの光がさらに強まった。
「フハハハハッ! カ・ディンギルのチャージが完了した。これで月は砕かれ、混沌とした世界で愚かな人々は、ワタシを崇める事になるだろう! そうすればワタシは、あのお方と同じ“神”として隣に並べるのだ!」
月が砕かれる事で起きる天変地異、そんな世界に降り立つネフシュタンを纏ったフィーネはまさに神と同じ。フィーネの目的はそうして愛した神と同格になる事なのだ。
「さて、お前たちと玩具で戯れるのも終わりだ。新たな世界に聖遺物を纏う者は、二人と要らん」
フィーネが鞭で上空に円を描くと、黒い雷を迸らせるエネルギーの球体を作り出した。
それはかつてクリスが大技として放っていたNIRVANA GEDONと同じもの。しかし一つ二つ作るのが限界だったクリスとは違い、フィーネは同時に六つものエネルギー球を作り出していた。
その恐ろしさが瞬時に分かった三人は咄嗟にその場を飛び退く。
「逃すかッ!」
フィーネは開いた方の鞭を地面へと突き刺す。地中の中で分裂した鞭が地面から彼女達を襲う。鞭とは思えない繊細で多彩な動きに反応しきれず、三人とも足を取られてしまった。
その隙を見逃さず、上空に溜めていたエネルギー球を振り下ろした。
「「「うわあああああァッ!!!」」」
高エネルギーの塊を六方向に投げられ、響達は爆発に巻き込まれた。
「うう……」
「くそッ! あのヤロ、まだ本気じゃ無かったのか!」
「当たり前だ。カケラが三つ集まった程度で、完全なる聖遺物と化したワタシに勝てると思ったか?」
三人が倒れ伏している間にもカ・ディンギルの光が増していく。もう発射までの時間はない。
(ユウ……)
クリスが横目でユウのたおれている場所を見る。
戦いに巻き込まない為に引き離したが無事だろうか?
クリスが
「こっちだフィーネッ!」
先に復帰した翼と響が接近戦を仕掛ける中、チャージを完了させたクリスは再び巨大ミサイルを二つ肩に担ぐ。
そのうち一発をフィーネに向かって放つ。先程まではクリスの攻撃はバリアで防いでいたフィーネだったが、先程の一発で警戒心を強くしたのか、ネフシュタンの飛行能力を使い、追尾して来るミサイルを回避する。
クリスは残った方のミサイルをカ・ディンギルへと向ける。
「スナイプデストロイッ!」
片方のミサイルでフィーネを抑え付け、もう片方でカ・ディンギルを破壊する。それがクリスの策。
「キサマ程度の頭でェッ!」
それを読んでいたフィーネは鞭を伸ばし、カ・ディンギルへと向かうミサイルを迎撃する。
「っ?!……奴はどこだ?!」
しかしそれこそがクリスの真の策だった。
フィーネが地上を見下ろした時、既にクリスの姿は無かった。何処だと探していると、翼と響が目を見開いて空を見上げているのに気がついた。
「上かッ!?」
カ・ディンギルを狙ったミサイルは囮。回避されたもう一つのミサイルにしがみつき、クリスの体はカ・ディンギルよりもはるか上空へと上昇していた。
「チッ……だが、足掻いた所で所詮は玩具! カ・ディンギルの発射を止める事など……」
フィーネの言う通り、カ・ディンギルは計算上シンフォギアを含めあらゆる兵器で破壊出来ないように設計している。
櫻井了子ことフィーネの計算は完璧だった。例えイチイバルの火力であっても、カ・ディンギルを止める事は叶わないだろう。
「Gatrandis babel ziggurat edenal……」
しかし天才であるフィーネであっても、クリスの
「これは、絶唱!? まさか……」
「駄目だよ、クリスちゃん!!」
この歌を歌うことが何を意味するのか、彼女達は嫌と言うほど分かっていた。
クリスのスカート状のアーマから小型のリフレクターユニットが展開される。ユニットから反射され収束した光が蝶の羽根を思わせる軌道を描く。
クリスは両手を重ね合わせると、腕の巨大なロングライフルの形状にアームドギアを変形させ、絶唱によるエネルギーを砲口の一点に集中させた。
遂にカ・ディンギルが放たれる、そしてそれを迎え撃つ為にクリスも砲撃を放った。
「一点集束!? 押し留めているだと!?」
世界を破壊しようとする光と、大切な者を守ろうとする光が衝突する。
互いの砲撃は一瞬拮抗する。しかし徐々にクリスの方が押され始め、その破壊力に耐え切れずイチイバルが自壊していく。
(ずっと……アタシは、パパとママの事が大好きだったっ。だから、パパとママの代わりに、二人の夢を受け継ぐんだ)
口元から血を流しながらも、クリスの中に恐怖は無かった。
(アタシから全てを奪ったこの世界だけど…アタシを庇ってくれた奴がいる…仲間と呼んでくれた奴がいる! 何かを壊す事しかできないアタシの歌を綺麗って言ってくれた、あの子が生きる未来を―――)
クリスの命の鼓動は、そこで途絶えた――
☆