シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第十七話 エクスドライブ(AI挿絵追加)

  ☆

 

 

 

 

 

限定解除形態(エクスドライブ)……だと?」

 

「お姉ちゃん達、かっこいい……」

 

 シンフォギアの中に眠る三億個以上のロック。それを一時的にいくつかを開放し、シンフォギアとしての全力を繰り出す限定解除形態。理論上はフィーネも理解していたが、まだ未熟な彼女達がその域に達する事は不可能と踏んでいた。

 

「ユウくーーーーーんっ!!!」

 

 空を舞う三人の天使が一斉に向かって来る。フィーネはそれを迎撃しようとするが、三つの閃光は彼女の周りを素通りした。

 慌てて辺りを見回すが響達の姿は無い。それどころか先程まで首を絞めていたユウすら消えていた。

 

「ど、何処に……!」

 

「ユウくん。大丈夫?」

 

「っ?!」

 

 声のした方を向くと、既に響達は空中で停止していた。響のその腕の中には先程まで捕まえていたユウが、お姫様のように抱っこされていた。

 

「ありがとうお姉ちゃん! ぼくを助けてくれて」

 

 腕の中で笑顔を見せるユウに、響は首を横に振った。

 

「お礼を言うのはわたし達の方だよ。ありがとうユウくん。ユウくんの声、ちゃんと届いてたよっ!」

 

 響達にも聞こえていた。ユウの優しさを、彼の立ち上がる勇気を、けっして諦めない強い心を、三人は眠っていながらも心で感じていた。

 

「うん! お姉ちゃん大好きっ!!……チュッ!」

 

「うへ……うへへへ〜……!」

 

 自分の思いが届いといたと分かり、嬉しくなったユウに勢いのまま響にキスをした。だらなくニヤけた響は背後に殺気を感じる。

 

「「それ以上ニヤけたら斬る(撃つ)」」

 

 ユウから見えない死角部分に短剣と短銃を突きつけ、聞こえないぐらい小さな声で呟やいた。

 

「はっ! ご、ゴホン!」

 

「んー?」

 

 翼とクリスから浴びせられる殺気に、咳をして気を引き締める響。そんな彼女達のやり取りをユウは首を傾げて見ていた。

 

「いい加減にしろキサマ等ッ!! 戦場で何を悠長なッ!」

 

 まるで余裕を見せる様に日常のような会話をしている響達に、ついにフィーネの堪忍袋の尾が切れた。

 

「だが奴の言う通りだ。立花、先ずは先にすべき事がある」

 

「はい!」

 

 同時に頷き合った三人は、自分達を見上げるフィーネへと視線を移す。フィーネもまた彼女達を迎え撃とうと得物を構えた。

 戦いの火蓋が切られようとしていた時、不意に響達は背を向け、自分と反対方向へと飛んで行った。

 

「なッ!? 逃げるつもりかッ!!!」

 

『心配しなくても、こっちの用が終わったら相手してやるよ!』

 

『それまで逃げずに大人しくしていろ!』

 

 フィーネの挑発に見向きもせずに響達は飛び去っていった。

 彼女達のその余裕にフィーネのプライドを引き裂さかれ、怒りのまま自らの歯が欠ける程強く噛み締めていた。

 

 

  ☆ 

 

 

「ユウくんっ! 響っ!」

 

 空を駆けた三つの光が、静かに地へと降り立つ。その先にいたのは、既にフィーネとの戦いに備えて外へと出てきていた未来たちの姿。リディアンのシステムが奇跡的に復旧し、地上との道が開かれたのだ。

 

 未来は響に駆け寄り、そして抱きしめた。

 

「未来、みんな、ありがとう。みんなの“歌”のおかげで……わたし達、もう一度立ち上がれたよ!」

 

 響の言葉に、未来、弓美、創世、詩織――誰もが堪えていた涙をこぼした。さっきまでの絶望が、ひとつの希望へと変わっていた。

 

「翼、生きててよかった……それに、ごめんな。あの日、あんな思いさせちまって」

 

 奏が近寄り、少し照れくさそうに口を開いた。翼は優しい表情で微笑むと、首を横に振る。

 

「もういいのよ、奏。私も、あの日のあなたの気持ちが……ようやく分かった。それで充分よ」

 

「へへ……そっか」

 

「まぁ……これに懲りたら、少しは無茶を控えてね?」

 

「ははっ、翼は相変わらず意地悪だなぁ」

 

「……奏は、泣き虫よ」

 

 ふと、翼が涙を流す奏の目元を指先でそっと拭った。ほんの一瞬、そこには過去も痛みも許し合う、姉妹のようなぬくもりがあった。

 

 一方、クリスは弦十郎の姿を見るや否や、少しだけ照れながらも歩み寄った。

 

「雪音クリス、よく来てくれた」

 

 弦十郎の言葉に、クリスは腕を組んでふんっと鼻を鳴らす。

 

「当たり前だ。アタシはお姉ちゃんだからな! 弟を泣かせるわけにいかないんだよ!」

 

「ああ……きっと君のご両親も、喜んでいるに違いないな」

 

「……ったく、当たり前のことを言ってんじゃねぇよ! アンタに言われなくても、パパとママの事はアタシが一番よく知ってんだからな!」

 

 言葉とは裏腹に、クリスの頬には安堵の色が浮かんでいた。まるで、誰かに褒められるのが久しぶりで、嬉しさを隠せない少女のように。

 

 そして三人の戦士たちは、最後の決戦へと向かおうとしていた。

 

「師匠、ユウくんのこと……お願いします!」

 

「ああ。お前たちは、思いっきし暴れてこい!」

 

「「「はい(おう)っ!!!」」」

 

 弦十郎の腕に抱かれていたユウは、静かにその腕を抜けると、翼とクリスに駆け寄り――

 

「ま、待って!」

 

 そのまま二人の首に腕を回し、その頬にキスをした。

 

「……頑張って!」

 

 小さな応援に、翼もクリスも思わず顔を赤らめたが、それ以上に誇らしそうに微笑んだ。

 

「へへっ、おう!」

 

「安心して。ユウが応援してくれるなら、私たちは無敵よ!」

 

 ユウの応援で彼女達のギアが再び輝きを増す。三人は再び空を駆け、最後の戦場へと飛び去っていった。

 その姿を、ユウはただ静かに見送っていた。

 

「ユウくん、怪我の手当てしよ?」

 

「大丈夫」

 

「大丈夫じゃないよ! こんなに怪我して……」

 

「大丈夫だよ。後でちゃんと手当する。だから今は聴かせて欲しいんだ、お姉ちゃん達の歌を……」

 

 心配する未来を制して、ユウは響達が飛び去った方角を、ただ真っ直ぐに見つめていた。

 

 

 

  ☆

 

 

「うえへへへっ!」

 

「クリスちゃん。よだれ垂れてるよ?」

 

 響に指摘され、ニヤけていたクリスは「おっと」と口元を拭った。

 

「まったく、コレから決戦だと言うのに緊張感のない」

 

「いや、鼻血垂らしてるアンタにだけは言われたくねぇよ……」

 

 クリスの言う通り、真剣な顔をしている翼の鼻からは、凛々しい顔に似合わない赤い鮮血が二筋垂れていた。よく見ると口元が強く強張っていた。一瞬でも気を抜くとクリスや響同様ニヤけてしまうのだろう。

 

「これは愛だから問題ない」

 

「なんでも愛で片付けんなよ……」

 

 そんな事をしているうちに響達は決戦の舞台へと戻って来た。待たされていたフィーネの額には青筋が浮き上がっていた。

 

『へっ、良い子で待ってたみたいだな!』

 

「念話までも……限定解除されたギアを纏って、すっかりその気かッ!」

 

 飛行能力に念話、それは間違いなく彼女達がエクスドライブの力を手にした証拠だった。フィーネもまたネフシュタンの念話を使い、彼女達の会話に割り込んだ。

 

『まさかキサマ等がエクスドライブを獲得するとはな』

 

『わたし一人の力じゃない。みんなの歌声が、ユウくんの強い思いがくれたギアが、わたしに負けない力を与えてくれる。クリスちゃんに翼さんにもう一度立ち上がる力を与えてくれる! 歌は戦う力だけじゃない。命なんだ!!』

 

「ギリィッ……!」

 

 歯軋りしたフィーネはソロモンの杖使い、辺りにノイズ達を召喚させた。

 

『またノイズを! いい加減に芸が乏しいんだよッ!』

 

『世界に付きぬノイズの災禍は、すべてお前の仕業なのか!?』

 

『ノイズとは、バラルの呪詛にて相互理解を失った人類が、同じ人類を殺戮するために作り上げた自立兵器だ。ノイズを生み出すバビロニアの宝物庫は扉があけ放たれたままでな、そこからまろび出る十年に一度の偶然。

それをワタシは必然へと変え、純粋な力として使役しているのだ』

 

『人が、人を殺す為に……?』

 

『そうだ! 人とは殺し合うものだ! キサマの言う分かりあうや、あの小僧の言う力を合わせるなど人間に出来る筈がない! あの男の言う甘い世界など、何処にもあるものか!!』

 

『お前は何故、そこまで大吾さんに固執する? お前にとってあの人は取るに足らない存在の筈だ!』

 

『……許せるものか。人の身であの方と接触を果たしたあの男を、何故ワタシが許せようかッ!!!』

 

『また訳の分からねえ事を!』

 

『怖じろッ!』

 

 フィーネはソロモンの杖を空へ向けると、今までとは比べ物にならない巨大な光線を放つ。花火の様に大量に分散した光線は街に降り注ぐと、一つ一つがノイズを召喚し、数秒と経たずに街はノイズに覆いつくされた。

 

「あっちこっちから……!」

 

「よっしゃぁ! どいつもこいつもまとめてぶちのめしてくれる!」

 

「うん! 翼さん、クリスちゃん、行こう!」

 

 響の号令を皮切りに、三人は同時に飛び出した。

 響は腕のハンマーパーツを引くと、ビル群を破壊している大型ノイズへと拳を振るう。今までは大型ノイズ一体を倒すのがやっとだったが、限定解除した響は、その一撃で後ろに並ぶ大型ノイズや、足元で群がる小型ノイズを纏めて吹き飛ばした。

 

「オラオラオラァッ!!」

 

 《MEGA DETH PARTY》

 

 クリスはアームドギアを乗り物のように変形させると、限定解除によってミサイルからビームへと強化された拡散射撃によって、飛行型ノイズを撃ち落としていった。

 

『凄い乱れ撃ちっ!』

 

『バッ!? ちゃんと狙って撃ってんだよッ!』

 

『あーそうなんだ……。じゃあわたしが! 乱れ撃ちだあああぁッ!!!』

 

 小型ノイズを一掃したクリスに感化され、響も地上のノイズを狙う。ハンマーパーツを引かず、一撃の威力では無く手数の多い拳の連打を叩き込んでいった。

 

「ハアアアァッ!!!」

 

 響とクリスが地上と空中のノイズを相手している間に、翼は上空で鎮座する空母型ノイズへと狙いを定める。

 元々敏捷性の高かった翼に、エクスドライブの飛行能力によって高い機動力が足された。翼の名に負けずフォニックスゲインによって作られた足の翼をはためかせ上昇する。

 

 《蒼ノ一閃》

 

 大太刀から振り下ろされるエネルギーの斬撃。この技も強化されており、空母型の強固な装甲を切り裂き、真下にいた空母型ごと纏めて切り裂いた。

 連打、連打、連打。全力を込めずに放たれる手数の多い連撃。それでも唯のノイズ達では耐える事ができず、次々とその数を減らしていった。

 

「どんだけ出ようが、今更ノイズ!」

 

 油断では無く確信から得られる一言。クリスの言う通り、エスクドライブの域に達した響達にとっては、いくら数が多かろうが唯のノイズなど相手ではなかった。

 

「フッ……ならば!」

 

 その光景を見ていたフィーネは最後の切り札を切る事にした。手にしたソロモンの杖を自分の腹部へと突き刺したのだ。

 

「ガッ………………フフフフフッ!」

 

 貫いた痛みなど無いのか、不気味に笑うフィーネ。そんな彼女に反応する様に、ノイズ達の様子が変わった。

 突如街に散らばっていたノイズ達が、集まりフィーネを包み込んだのだ。

 

「ノイズに……取り込まれて……?」

 

「そうじゃねぇ、あいつがノイズを取り込んでんだ!!」

 

 街に散らばっていたノイズ全てだけでは飽き足らず、再びノイズを召喚する光線を発したかと思うと、その光線ごとノイズ全てを取り込んでいった。

 まるで竜の首の様に這い出てくるノイズの塊を、三人は飛んで回避した。

 

「来たれ! デュランダルッ!!!」

 

 フィーネの召喚に応じる様に、カ・ディンギルの奥深くでエネルギーを蓄えていたデュランダルが輝きを増し、地下へと這い出したノイズの塊によって取り込まれた。

 デュランダルの蓄えていたエネルギーを吸収したノイズの塊は、まるで赤い竜の首の様に形を形成した。

 コレこそがフィーネの最後の切り札《黙示録の赤き竜》の姿だった。

 

「来るぞ、回避しろ!?」

 

 翼が合図した瞬間、竜の首が熱線を発した。赤い閃光は着弾と同時に巨大な爆発を起こし、街の一部を吹き飛ばしてしまった。

 

「くっ……街がっ!?」

 

『逆さ鱗に触れたのだ……相応の覚悟は出来ておろうな?』

 

 赤き竜の首の一部が開き、デュランダルを左手に持ったフィーネが姿を見せた。

 再び熱線が響達を狙う。

 

「「「うわっ!!?」」」

 

 避けたにも関わらず、その余波のみで響達は吹き飛ばされた。

 

「こんのぉおぉぉッ!!!」

 

 吹き飛ばされながらも体勢を立て直したクリスが、無数のレーザーを放つ。

 しかしフィーネ本体を狙った射撃は、彼女の周りを囲う黄金のシャッターによって阻まれた。そしてお返しとばかりに赤き竜の体からレーザーが放たれた。

 

「ぐあぁっ!?」

 

 回避しようとしたが、追尾してくる無数のレーザーを、避けきれず被弾してしまった。

 

「ハアァッ!」

 

 《蒼ノ一閃》

 

「やあァッ!!」

 

 続いて翼と響による時間差攻撃。しかしどちらの攻撃も表面を傷つけるだけで奥へのダメージは与えられなかった。その上二人がつけた傷は、ネフシュタンの再生力によって瞬く間に再生し元の状態へと戻ってしまった。

 

『言ったはずだ! いくら限定解除されたギアであっても、所詮は聖遺物の欠片から作られた玩具! 完全聖遺物に対抗できるなどと思うてくれるな!』

 

 完全聖遺物を三つも取り込んだフィーネは、正に無敵の力を得ていた。だがしかしその慢心が彼女達にヒントを与えた。

 

『聞いたか?』

 

「チャンネルをオフにしろ」

 

 翼達は、自分達の考えをフィーネに悟られない様に念話を切った。

 

「もっぺんやるぞ!」

 

「しかし、そのためには……」

 

 クリスと翼が同時に響の方を振り向く。

 

「えっと……よくわかりませんが、やってみます!!」

 

 二人が何を考えているのかまだ分からなかった。だがどんな策であっても二人を信じると決めていた響は、強く頷いた。

 その響の眼差しに満足した二人は、赤き竜へと突っ込んだ。

 

「私と雪音が露を払う!!」

 

「手加減なしだぜ!!」

 

「分かってる!」

 

 クリスが先行しレーザーの注意を惹きつける。翼はその間に大太刀をさらに大きな大剣へと変化させ、超巨大な斬撃を放った。

 

 《蒼ノ一閃 滅破》

 

 巨大な爆発を起こし大きな穴を開ける。それすら直ぐに再生されてしまうが、クリスが一人入る隙間さえあれば十分だった。

 

「なっ!?」

 

「くらえぇッ!!!」

 

 フィーネの居る内側へと入り込んだクリスは、全身の砲口からレーザーを放ち、竜の装甲を内側から破壊しこじ開けた。

 

「ハアァッ!」

 

 こじ開けられたシャッターの向こうでは、既に二撃目のチャージを完了していた翼が、再び斬撃を放った。

 

(まずい!? 防御を……!)

 

 咄嗟に手の空いている右手でバリアーを張ろうとした。しかしフィーネの右腕は、先程クリスタルから発した光によって溶かされ、未だに再生ができていなかった。

 

(ぐっ……おのれェッ!!!)

 

 そのせいでバリアーが張れず、悔しくは歯噛むフィーネの残った左手を、翼の斬撃が切り落とした。

 持ち主から切り離されたデュランダルが、外に放り出され宙を舞った。

 

「そいつが切り札だ! 勝機をこぼすな! つかみ取れ!!」

 

 翼の声に押され響は前に進む。クリスの援護で響はデュランダルをその手に取った。二人と力を合わせて今切り札が、響のその手へと宿ったのだ。

 

『GRuuu……』

 

 デュランダルを手にした響の世界が再び反転する。デュランダルの凄まじい力に、響の中の破壊衝動が再び目覚めようとしていた。

 

「くそ! 後少しと言うところで!」

 

 奏や弦十郎たちも歯噛みする。希望が見えた矢先に押し返されるかのような絶望の兆し。しかしそのとき、誰よりも早く声をあげたのは、ひとりの小さな少年だった。

 

「お姉ちゃん、がんばれーーーーーーーーっ!!!」

 

 星乃結——ユウは、懸命に声を張り上げた。その響きに、皆がはっと息を呑む。

 

「何やってるのみんな! 早くお姉ちゃん達を応援してあげよ! ぼく達の声は、歌は、お姉ちゃん達に届いてるんだよ!」

 

 その言葉は、彼が今までずっと信じてきた「人の想いの力」そのものだった。

 

「ユウくん……うん! そうだよねっ!」

 

 未来はすぐに頷き、響へ向けて叫んだ。弓美も創世も詩織も、そして大人たちも、次々に声を重ねていく。

 

「響、ガングニールを信じろ! そいつはお前の味方だ、だから恐れんなッ!」

 

 命の恩人であり、憧れの存在でもある先輩が――

 

「正念場だ!踏ん張りどころだろうが!」

 

「強く自分を意識してください!」

 

「昨日までの自分を!」

 

「これからなりたい自分を!」

 

 自分達の戦いを見守ってきた大人達が――

 

「あなたのお節介を!」

 

「あんたの人助けを!」

 

「今日は、私達が!」

 

 自分が守りたいと思った友達(日常)が――

 

「屈するな立花。お前の構えた胸の覚悟を、私に見せてくれ!」

 

「お前を信じ、お前に全部かけてんだ! お前が自分を信じなくてどうするんだよぉ!」

 

 かつてはぶつかり合い、そして同じものを守ろうと志を同じくする仲間達が――

 

「「響(お姉ちゃん)がんばれーーーーーっ!!!」」

 

 そして自分を側で支え、暖かく照らしてくれた大切な存在が――光を照らしてくれる。

 

(そうだ……。今のわたしは、わたしだけの力じゃない……! そうだ、この衝動に!……塗りつぶされてなるものかぁぁッ!!!)

 

 響の心の闇をみんなの光が照らしていく。響の胸のガングニールが輝きを増し、デュランダルが光の剣を伸ばしていく。

 

「その力! 何を束ねた?!」

 

「響き合うみんなの歌声がくれた! シンフォギアだああああぁァァッ!!!」

 

 《Synchrogazer》

 

 デュランダルの一撃が、赤き竜と激突する。無限の再生力を持つネフシュタンの鎧、無限大のエネルギーを発するデュランダル、その二つの矛盾が重なり合い、対消滅を引き起こしていた。

 

「どうしたネフシュタン! 再生だ! この身、砕けてなるものかぁぁッ!!!」

 

 フィーネの叫びは、爆音の中へと消えていった。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 朝日がゆっくりと昇り、激戦の爪痕が残る街並みに柔らかな陽光が降り注いでいた。

 破壊されたビルの残骸にも、崩れた道路の先にも、かすかな温もりが宿るようだった。

 

 戦いの終結により、各地の避難シェルターも解放され、長く暗い不安の中にいた人々が、次々と地上へと戻って来る。

 その様子は、まるで“世界が息を吹き返していく”瞬間だった。

 

 そして、そんな静けさのなかに、意外な光景があった。

 

「お前……何を馬鹿なことを……」

 

 肩を貸して歩いてくる立花響の隣には、かつて“敵”であったはずのフィーネ——いや、櫻井了子の姿があった。

 

「このスクリューボールが……」

 

 悪態をつきながらも、その声に刺はなかった。

 雪音クリスは唇を尖らせながらも、優しげな目で二人を見つめていた。

 

「みんなに言われます。親友からも“変わった娘だ”って」

 

 小さく笑う響の顔には、戦いの後の疲労が色濃く滲んでいたが、それでもその声には確かな“想い”が宿っていた。

 

「……もう、終わりにしましょう? 了子さん」

 

 その呼びかけに、フィーネは顔を歪める。

 

「ワタシはフィーネだ……。櫻井了子など、とうの昔に……」

 

「でも、了子さんは了子さんですから」

 

 響の瞳に一切の揺らぎはなかった。

 彼女にとって名前など、過去など、意味を成さない。

 大事なのは、その人と過ごした“時間”と“心”——それがすべてなのだ。

 

「わたしにとって、了子さんは……ずっと大切な人です」

 

「……!」

 

「きっとわたし達、分かり合えます」

 

 響の言葉は、決して偽りでも理想でもなかった。

 彼女は今まで、たくさんの“理解できない存在”と出会い、そのたびに諦めずに言葉と心を重ねてきた。

 

 だが——フィーネは、どこか苦しげに目を伏せる。

 

「ノイズを作り出したのは、先史文明期の人間だ……。統一言語を失った我々は……手を繋ぐことよりも、相手を殺すことを選んだ……。そんな……人間が、分かり合えるものか……」

 

 その言葉は、戦いの歴史を誰よりも間近で見てきた“過去の亡霊”の痛切な叫びだった。

 

「人が……ノイズを……」

 

 驚きを隠せず呟く未来たちの言葉も、今は遠く響く。

 

「だからワタシは、この道しか選べなかったのだッ!」

 

 咆哮とも言える言葉に、響は小さく首を振った。

 

「でも、わたしたちは知ってます」

 

 彼女は一歩、フィーネへと近づく。

 

「人が言葉よりも強く、心でつながれること。それを、わたし達は何度も、何度も証明してきたから!」

 

 まっすぐに見つめ返すその瞳に、迷いはなかった。

 ただ、希望があった。願いがあった。手を差し伸べる心が、そこにあった。

 二人の視線が静かに交わる。

 そして世界は、一瞬だけ——息を潜めるような静寂に包まれた。

 朝の空がようやく訪れ、荒れ果てた街に微かな陽の光が差し込む。

 

「こ、これは!?……大変です! 欠けた月の欠片が、こちらへと向かっています!」

 

 最初に異変に気づいたのは藤尭だった。端末を操作する彼の顔色が、次の瞬間に一変する。

 

「なんだとぉ?!」

 

 彼の声に、全員の視線が空へと向いた。

 そこには確かに、月の欠片——巨大な破片が、ゆっくりと、しかし確実にこの地へと迫っていた。

 

「フハハッ! どちらにせよ、ワタシの勝ちだ!」

 

 哄笑するフィーネの声が、朝焼けの中に響く。

 

「そんな……破壊は阻止したのに……!」

 

 友里の声に、皆の顔が曇る。

 

「欠片が大きすぎたのだよ! あの大きな破片は地球の重力に引かれ、この辺り一帯を焼き尽くすだろう!」

 

 その言葉の通り、フィーネの最期の一撃で砕かれた月の一部は、軌道を変え、今まさにこの地に落下しようとしていた。

 

「軌道計算、出ました。直撃は避けられません……!」

 

「……あんな物が落ちたら……私たち、もう……」

 

 重力、質量、衝突エネルギー。その全てが“終わり”を告げていた。

 計算された未来は、救いの無い“破滅”だった。

 

「ワタシの悲願を邪魔する者はここでまとめて叩いて砕くッ! この身はここで果てようと、魂までは絶えやしない! 聖遺物の発するアウフヴァッヘン波形がある限り、ワタシは何度だって世界によみがえる! 今度こそ世界を束ねるためにぃ、アハハハハッ!!!」

 

 血のように赤く染まった空の下、フィーネの高笑いが響く。

 不気味なその宣告は、まるで終焉の鐘の音のように、皆の心を打ち砕こうとしていた。

 

「くっ!……とにかく避難を!」

 

「無理です! この街に何人いると思ってるんですか! それに避難たってどこへ――」

 

 焦りと混乱が全体を包む中、弦十郎が叫ぶ。

 

「無茶でもなんでもやるんだ! ありったけの人と乗り物をかき集めて、とにかく遠くへ逃す。彼女達の戦いを無駄にしてたまるかっ!」

 

 あくまでも希望を手放さず、弦十郎は力強く仲間たちを鼓舞した。

 その言葉に皆が動き出す中——

 

「お、おい! ユウは? ユウの奴は、どこに行ったんだよ?!」

 

 突然のクリスの言葉が、場の空気を変える。

 

「「「え?」」」

 

 誰もが顔を見合わせ、辺りを探す。

 

「そんな……ユウくん、さっきまで……」

 

「ユウ! どこに行ったの?! ユウっ!!」

 

 心配で胸を押さえる未来。翼も辺りを見回すが、あの少年の姿はどこにも見当たらない。

 

(…………やっぱり、わたしが何とかしないと!)

 

 ひとり、響は決意を固めていた。

 再び、自分の手で世界を救わなければならない。

 月を目指して飛び上がろうとしたその時——

 

 ――光が辺りを包んだ。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 ――数分前。

 

 響たちのもとを離れたユウは、一人崩れ落ちたカ・ディンギルの麓に居た。

 

「えーと……えーと……」

 

 そこは戦いの余波で瓦礫と煙塵に包まれた危険な場所だった。けれども、ユウの目に恐れはなかった。地面に膝をつき、手のひらでがれきを掻き分ける。

 割れたガラス片が手のひらを裂く。鋭利な金属片が指を切る。だけど、ユウは止まらなかった。小さな身体で、必死に、必死に探し続ける。

 やがて、灰に染まった瓦礫の隙間に、かすかに輝く光を見つけた。

 

「あ、あったっ!!」

 

 ユウの手がその輝きに触れる。掌にすっぽりと収まるサイズの、透き通るような結晶――それは父・星乃大吾の形見、そして、希望の結晶だった。

 クリスタルは静かに光を放っていた。先程フィーネの手を焼いたほどの輝きだったが、今、その光はユウを傷つけることなく、むしろ温かささえ伝えてくるようだった。

 

「良かったぁ……」

 

 ユウはそれを両手で抱きしめ、まるで失われた友を見つけたかのように、そっと背を丸めた。

 だが、その安堵は長くは続かなかった。

 

「ドゴォォォンッ!」

 

 突然、空気が震えた。重低音が地面を伝い、ユウの小さな身体を揺らす。反射的に見上げた空。そこには、地球の重力に引かれ、確かな速度で落ちてくる巨大な月の欠片の影があった。

 街の方角から、ざわめきと悲鳴が響いてくる。安堵から絶望へ――再び人々が恐怖に包まれようとしていた。

 それでもユウは、逃げなかった。むしろ、そっとクリスタルを見つめながら、小さく、けれど強く語りかけた。

 

「ねぇ、聞いて? お姉ちゃん達、頑張ったんだよ……」

 

 語る声は、まるで友達に秘密を打ち明けるかのように優しく、温かかった。

 

「いっぱい頑張って、いっぱい踏ん張って、それで……みんなで力を合わせて、最後にはちゃんと勝ったんだよ……」

 

 そう語るユウの声は、震えていなかった。恐怖も、戸惑いもなかった。ただ、その目には“覚悟”が宿っていた。

 

「でも、そんなお姉ちゃん達に……また、辛い試練が来ようとしてるんだ。お願い。少しでいいから、ぼくに力を貸して……助けたいんだ、ぼくの大切な人達を……」

 

 ユウは両手を合わせ、クリスタルを掲げた。小さな掌に乗せられたそれに、願いを込めるように語り続ける。

 するとユウの想いに反応するように、手のひらのクリスタルが光を放った。

 ユウが手を開くと、その小さな掌に包まれていたクリスタルが、光の粒子となって散った。かと思うと散らばった粒子が集まりユウの手に、祭事に使われる神具のような物が形作られた。

 

「……ありがとう。一緒にいこう?」

 

 ユウは神具――《スパークレンス》を宙へと掲げると友の名前を叫んだ。

 かつて月で出会ったと父親から聞かされた友の名前。

 彼の名は――

 

「ティガァーーーーーーーッ!!!」

 

 その時、少年は光となった。

 

  

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

  ☆






 やっとウルトラマン要素の出番だよ……
 
 お待たせしました。無印編は次回で最後となります。G編は現在執筆中ですので、楽しみにお待ちください。
 感想・評価などよろしくお願いします。

 

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