シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第一話 覚醒の光(AI挿絵追加)

 

 

 

 

 

 

 《私立リディアン音楽院》

 海を臨む高台に建てられた、今年設立10周年を迎える私立の音楽学校。

 女子校であり、生徒数は、高等科のみでも約1200名と大所帯。

 通常の高等学校にもカリキュラムの中に音楽科を設けるものであるが、リディアン音楽院はまず各種音楽教科を中心に据え置き、そこに一般教科を組み込むという独自のスタイル。それだけに音楽に力を入れた特別な学校ともいえる。

 総合音楽教育以外に、タレントコースが特設されているのもひとつ特徴で、幾人ものトップアーティストが卒業している。

 

「はぁ、はぁ……ヤバいヤバい、遅刻だよぉーー!!」

 

 そんな学園へと現在ダッシュで駆ける少女。リディアンの高等部一年の立花響である。

 親友の未来が早めに起こしてくれたにも関わらず、結局の二度寝でギリギリの時間になってしまった。

 走ればまだ間に合う。そんな淡い希望に全力疾走。彼女の良いところであり、悪いところでもある。

 

「そーと……そーと……」

 

「え? あれって……」

 

 学園の近くの公園に差し掛かったところで、響の足がピタッと止まった。公園の一際大きな木。その枝の先に小さな人影が見えたからだ。

 

「大丈夫? 怖くないよ?」

 

「女の子……?」

 

 年齢で言えば小学生ぐらいだろう、肩下まで伸ばした艶のある黒髪、お餅のように白く傷一つない柔らかそうな肌、宝石のように澄んだ綺麗な目。

 

(うっわー……綺麗な子…………)

 

 

【挿絵表示】

 

 

 誇張を抜きにしての美少女。

 その愛らしさに響は、急いでいたのをつい忘れ、足を止めて見惚れてしまっていた。

 

「よーしよーし。良いこ良いこ」

 

 そうしている内に少女が子猫を抱えている。

 少女に見惚れて気が付かなかったが、どうやら枝の端で震えていた子猫を助けていたようだ。

 少女に撫でられ腕の中の子猫は、「ミャ〜」と気持ちよさそうな声をあげる。

 可愛らい少女と小動物のセットに響は、無意識にその光景を脳内で永久保存していた。

 そうして見つめていたからか、響はその変化に直ぐ気づいた。

 

「あ、危ないっ!?」

 

「え? わわわっ!?」

 

 少女と子猫が乗っている枝がその体重に耐えられず徐々に曲がる。

 このままでは折れるのが分かった響は、叫ぶより早く駆けつけた。

 

「とぉーーーーーーーっ!!!」

 

 バキッと嫌な音が鳴るのと、響がダイビングキャッチの体勢に入るのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

「……ねぇヒナ。ビッキーまだ来ないのかな?」

 

「うーん。一度起こしはしたから大丈夫だと思うけど。やっぱり一緒に来た方が良かったかな?」

 

 白いリボンが特徴的な少女。小日向未来は、教室に立て掛けられた時計を見ながら答える。

 既に一時限が始まり半分程経っていた。寝坊助な親友が起きられるか心配だったが、まさにその通りになってしまった。

 前列で教鞭を振るう担任の先生が、露骨にイライラしているのが伝わる。

 

「仕方ありませんわ。小日向さんは今日日直でしたし」

 

「今ごろ遅刻遅刻ー!……ってアニメみたいに食パンとか咥えて走って来てるわよきっと」

 

「ビッキーの事だから、また猫でも助けてんじゃない?」

 

「前みたいに猫と一緒に入って来て怒られるかもね!」

 

「「あははははっ!」」

 

「もう、二人とも」

 

 友人である創世、詩織、弓美。彼女達もいつもの調子で談笑していると、キッと先生に睨みつけられ声を顰める。流石にこれ以上イラついている先生を怒らせないよう自重する事にした。

 暫くして、教師の戸が勢いよく開かれた。

 

「お、遅れましたーーー!!!」

 

「立花さんっ!! 貴女また…………」

 

 ようやく待ち人が来たる。

 元気な挨拶で勢いよく教室に入って来た響に、待っていたとばかりの怒声。

 

「響、もう心配…………」

 

 対して安心しきった声を上げる未来が立ち上がりながら、響の入って来た方を向いた。しかし両者とも、教室に入って来た響の姿を見て言葉を失った。

 不思議に思ったクラスメイト達は、「また響が猫でも連れて来たのか?」そんな風に思いながら彼女達の向いている方へと視線を向けるが、そんなレベルでは無かった。

 

「お姉ちゃん、ここどこ?」

 

「え?」

 

 耳触りの良い声に釣られた響は下を見る。

 すると自分の腕の中で穢れの無い真っ直ぐな瞳の少女が、自分を見上げているのに気づく。

 猫は確かに抱えていた。しかしその間に少女を挟み、()()()()()()()()抱えていた。

 その存在に気がついた響は、ワナワナと口を震えさせる。

 

「間違えて、連れて来ちゃったーーーーーっ!!!」

 

 響の絶叫が無音となった教室中に広がった。

 

 

 

 

 

 

「た〜ち〜ば〜な〜さーーーん!!!」

 

「す、すみません〜!」

 

「貴女という人は何度も何度も、遅刻するわ、猫を連れてくるわ。しかも今回は関係のない子まで連れて来てッ!!」

 

「いや、これには事情がありまして……あの子達が落ちそうになってるのを助けてですね。人助けなんですよ!」

 

「じゃあ何でウチに連れて来たんですかっ!!」

 

「えーとそれは……寝坊してたの思い出して、降ろすの忘れて、つい抱えて来ちゃったと言いますか……」

 

「やっぱり寝坊してたんじゃないですか!!!」

 

「す、すみません〜!」

 

 唖然とした状態から戻った先生の怒声が、改めて発せられる。何とか怒りを抑えようとするが、不器用な彼女に言いくるめは似合わない。結局全て素直に吐いては、降り掛かる雷に頭を下げる。

 

「もう、響ったら」

 

「まあビッキーらしいっちゃらしいけどね」

 

「いや、流石に子供連れて来るなんて思わなかったわ。アニメでも中々見ない展開よ」

 

「そうだね……」

 

 弓美に同意しながら未来は隣を見た。本来なら響の席だが、彼女が怒られているせいで授業がストップしている為、代わりに響が連れて来てしまった少女が、猫を抱きながら座っていた。

 

「よーしよーし」

 

 しかし連れて来られた当の本人は、気にした様子もなく子猫を撫でていた。

 見た目にそぐわず大物なのだろうか?

 子猫も気持ちが良いのか、少女の腕の中でゴロゴロと喉を鳴らしている。

 

「可愛い子ですね。お名前はなんですか?」

 

 そんな少女に詩織が話しかける。少女はうーんと少し唸った後首を横に振った。

 

「んーと、分かんない。初めて会った子だから」

 

「貴女の猫ちゃんじゃ無いのですか?」

 

「違うよ? 木の上で震えてたの。だから下ろしてあげようとしたんだ」

 

「あらそうですの。知らない子の為に頑張れるなんて、良い子ですね」

 

「えへへ〜。うん! ぼく良い子なの!」

 

 褒められて嬉しくなったのか、少女がニッコリと笑う。

 

(((かわいい)))

 

 少女の笑顔に三人どころか、クラスメイト全員の胸の奥の何かが射抜かれていた。ただでさえ器量の良さに加え、無垢な心から生み出された笑顔はとてつもない破壊力だったようだ。

 

「何この子!? チョーかわいいんですけどっ!」

 

「その上ボクっ子……だと!? アニメじゃあるまいし、そんなの反則でしょっ!?」

 

(すごいドキッとしちゃった……もしかして私って小さい女の子も好きなの!?)

 

「いい子いい子、ですわ」

 

 鼻息を荒くする創世と弓美。息が荒くなりそうなのを深呼吸して抑える未来。笑顔を見せながら少女の頭を、愛しそうに優しく撫でる詩織。

 近くにいた四人には特にクリティカルだった。

 

「ねえお姉ちゃん?」

 

「は、はいっ!?」

 

 溢れ出しそうな煩悩を抑えているところに声をかけられた未来は、つい声が上擦ってしまった。

 

「あのお姉ちゃんが怒られてるのって、やっぱりぼくの所為なの?」

 

「う、うーん、半分はそうかな? 一応部外者は立ち入り禁止だし」

 

「そうなんだ」

 

 未来の説明に納得したように頷くと、少女は椅子から立ち上がり、未だ怒り浸透中の教師と響の間に入る。

 

「あのね、このお姉ちゃん、ぼくとこの子を助けてくれたの。だから怒らないであげて?」

 

 小さい体を背伸びさせながら精一杯詰め寄り、鋭く尖った教師の目をまっすぐに見つめる。

 その濁りのない瞳に教師の方がたじろいでしまう。

 

「お願い」

 

「……次からは気をつけるようにして下さい」

 

 軽く咳払いをして教壇へと戻る。

 厳しい事で有名な自分たちの担任が引き下がった事に、クラスの皆が目を丸くしていた。

 

 

 

 

 

 

「いや助かったよ〜ありがとう!」

 

 午前の授業が終わり、朝食を取る為、響達は食堂へと集まっていた。

 授業中は邪魔になるので、終わるまで食堂で待っていた少女にお礼を言う。

 

「ぼくの方こそ、助けてくれてありがとう!」

 

「うーん! やっぱりかわいい! ギュッってしたい!」

 

「もうしてるじゃない」

 

 未来の言う通り、素直にお礼を言ってくれる少女に嬉しくなった響は、頬同士がくっ付くぐらい強く抱きしめていた。

 

「そう言えば、君名前は?」

 

 皆で可愛がっていたが、自己紹介をするのを忘れていた事に気づく。

 少女も名乗っていなかった事に気づいたのか、椅子から降りると、響たちからよく見えるところで丁寧に頭を下げる。

 

「初めまして、星乃 結(ほしの ゆう)って言います。よろしくお願いします」

 

「ユウちゃんだね。私は小日向未来」

 

「未来、お姉ちゃん?」

 

「う、うん! よろしくね」

 

 お姉ちゃんと言う単語にドキッと未来の胸が高鳴る。

 

「わたしは立花響! よろしくユウちゃん!」

 

「うん、響お姉ちゃん!」

 

 一人一人丁寧に、指差し確認しながら名前を確認していく。その動作の一つ一つが愛らしく、五人はホッコリとした視線を向けていた。

 

「いや〜しっかし、こんなかわいい子拾って来るなんて、響さんもやりますな〜」

 

「だからその言い方やめてって、ワザとじゃあ無いんだよ〜」

 

「でも実際寝坊した上に、知らない子を連れて来ちゃったんでしょ? もう、ドジなんだから」

 

「うー……耳が痛いです」

 

「むー、響お姉ちゃんをいじめちゃ駄目!」

 

「ああ、ユウちゃん優しい〜」

 

 しゅんと落ち込む響を見たユウが、プクーと頬を膨らませる。怒ってるのかもしれないが、全く怖くないその姿に響は思わず抱きしめる。

 

「うはー! ほっぺたモチモチ、柔らか〜い!」

 

「ぷひゅ〜」

 

 ユウの頬の柔らかさに気づいた響が、その白い肌をプニプニと押す。その度にもっちりとした肌が沈み、かわいらしい声が漏れる。

 

「ズルいですわ響さん。私も」

 

「私も私も!」

 

「こらこら皆、おもちゃにしないの」

 

 食堂の一部で姦しく騒ぐ。その騒ぎに周りの生徒の注目を浴びる。

 特に制服を着ていない少女はよく目立ち、所々からヒソヒソ話す声や、ハァハァ息遣いの荒い声も聞こえるが、未来は気にしない事にした。

 

「あ、ねぇ、風鳴翼よ」

  

 食堂の一部に集まっていた視線が、不意に別の方へと向かう。

 ユウ達もそちらへと目を向ける、すると青空のように澄んだ長髪の一部をサイドテールのように編んだ美しい少女が、食堂へと入って来るのが見える。

 彼女の名は風鳴翼。トップアーティスト《ツヴァイウィング》の片割れである彼女の人気は学園でも顕在であり、その凜とした姿勢は歩くだけでも様になり、皆の視線を集める。

 

「あら? この子は?」

 

 そんな皆の注目の的の彼女が、もう一つの注目の集団の前で足を止める。

 

「つ、翼さんっ!?」

 

「あ、あわわわわ〜〜〜っ!?」

 

 未来達もその存在に気が付き、つい背筋が伸びてしまう。響に関しては、緊張のせいか携帯のバイブレーションのように小刻みに震えている。

 

「……………………」

 

「…………………?」

 

 そんな彼女達を無視して、翼はジッとユウを見下ろす。ユウもまた自分を見つめる翼を、真っ直ぐ見つめ返すが、一言も喋らない翼を不思議に思い小さく首を傾げる。

 翼は腰を落とし、ユウと目線を合わせる。

 

「あなた、名前は?」

 

「ぼくは、星乃結。お姉ちゃん、どこかで見た事あるような……?」

 

「ほしの……ユウ……」

 

 ユウの名を聞いた翼は、勢いよく立ち上がり颯爽と食堂を後にした。

 緊張しながらも、何とかして話しかけようとしていた響は、何が起きたか分からずキョロキョロと辺りを見回していた。

 

「あのお姉ちゃん、なんだか悲しそうな目をしてたような……?」

 

 騒々しくざわついている食堂の中で、ユウはジッと翼が去っていった方向を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜残念。せっかく翼さんと話せるチャンスだったのにな〜」

 

 放課後。響が連れて来てしまったユウは、責任を持って自分で送り返す事にした。

 響と未来がユウの両手を繋ぎ、歩き慣れた道をゆっくりと下校する。

 

「ビッキーって翼先輩のファンだもんね。まあいつか機会があるって」

 

「う、うん。それもあるんだけどぉ……」

 

 確かに響は二年前のライブで彼女の歌声と、その姿に心打たれた。

 しかし彼女が会いたい理由はそれだけではない。

 

(翼さんに会ったら、あの日のお礼を言おうと思ってたのに)

 

 不思議な装束に身を包み、ノイズと戦う歌姫。彼女達が何者なのか気にならないわけではない。しかし響は、そんな事よりも先にお礼を言いたかった。

 あの日あの時二人がいたから今の自分があると、だからありがとうございます。

 ただそれだけを言えれば十分だった。

 

「なのに、な〜。はぁ……わたし呪われてんのかな〜」

 

「むぅ、響お姉ちゃん、ため息ばっかり。ダメだよ? ため息ばっかりついてると幸せが逃げちゃうって、お父さんが言ってたもん!」

 

 項垂れながら歩く響の顔を、ユウは下から覗き込むと、自分の頬に人差し指を添え頬を吊り上げ眩しい笑顔を見せる。

 

「ほら、スマイルスマイル!」

 

「あはは、ありがとうユウちゃん。うん、元気出た! おんなじ学校なんだし、またチャンスあるよね!」

 

 そんな微笑ましい姿につい頬が緩む。

 自然と沈んでいた心が照らされ、響はまるで魔法のように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ここまでで良いよ? あとの道分かるから」

 

 そういうとユウは、二人の手を離すとスニーカーの踵部分を片足で叩く。

 するとユウの靴底についた四つのローラが展開され、ローラーシューズへと変わる。

 

「うっそ、何それ! アニメみたいでカッコいいじゃない!」

 

「うん! ぼくのお気に入りなんだ! でも日本だとあんまり使ってる人居ないよね?」

 

「まぁ日本は交通に煩いし……ってユウくん日本人じゃ無いの?」

 

「えっとね、お父さんとお母さんは日本人だよ? ただお父さんのお仕事の都合で海外で暮らしてるんだ。だから日本は久しぶりなの」

 

「そうなんだ。日本には何しに来てるの?」

 

「会いたい人が居るんだ」

 

「会いたい人?」

 

「うん。とっても大切な人。これから会って来るんだ。だからここまでで大丈夫だよ?」

 

「駄目だよ? もう少しで暗くなるし、女の子の一人歩きは危険なんだから」

 

 未来の言う通り、既に夕陽が登っていた。面倒見のいい彼女が、こんな時間帯に一人で帰せるわけが無かった。

 

「むぅー。ぼく()()()だよ?」

 

「男の子でも、ユウちゃんみたいな可愛い子………………えっ?」

 

「「「「えっ?」」」」

 

 ユウはプクーと頬を膨らませ抗議する。

 そんな彼女、いや()の暴露に全員の脳の処理が一瞬停止していた。

 

「えーーーっ!!! ユウちゃん男の子だったのっ!?」

 

 一番最初に復帰した響は大きく叫ぶ。もし辺りに人がいたら注目を集めていただろう大袈裟なリアクション。

 

「ユーユーが美少女だと思ったら、男の娘……だと? しかも美少年!?」

 

 創世はいつの間にかつけていたあだ名を呼びながら、鼻息を荒くしていた。

 

「自分はロリコンなんだと思っていたら、ショタコンにされていた……何を言ってるのか分からねぇと思うが、あたしでも分からねぇ……」

 

 弓美は何かのアニメに影響されたのか、よく分からない危ないことをボヤいている。

 

「かわいいですわ〜」

 

 詩織だけは性別が分かった後も雰囲気を崩さない。しかし先程よりも視線が熱っぽく見える気がする。

 

(ユウちゃんって男の子だったんだ……良かったぁ、正常で………………いやこれって正常なの?)

 

 一番動揺していたのたのは無言の状態の未来だった。

 自分が小さい女の子に興奮してしまったのかと不安になっていたのが解消されたのは良かったが、また別の問題に苛まれていた。

 全員から強い動揺が見られ、ユウはそれを見て俯く。

 

「…………ぼくってやっぱり可愛いの?」

 

「「「「「うん」」」」」 

 

「うぅ……」

 

 恐る恐るたずねるユウとは真逆で即答される。

 ノータイムで五人同時に頷くその姿は謎の圧力を感じた。

 

「……やっぱり髪切ろうかな。そうすればもっと男らしく見えるかも」

 

 ユウはいじらく肩にかかった髪を、人差し指でくるくると弄る。

 

「ええっ!? 絶対駄目だよ、勿体無い!」

 

「そうだよ! それにそこまで伸ばしてるって事は理由もあるんでしょう?」

 

 この中の女性陣全員が羨む程の艶のある長い黒髪、それを短くしてしまうのは惜しい。

 正直言って髪を短くした程度では、大きな差は出ないだろうが、それを言うと余計に落ち込みそうなので控えておいた。

 

「お母さんがね、褒めてくれたから。綺麗な髪だねって……」

 

「だったら尚更切ったらダメだって!」

 

「でも……」

 

「うーん、じゃあこう言うのはどうかな?」

 

 ポンと手を叩いた未来は、鞄の中から一本の白いリボンを取り出すと、ユウの長い髪を優しく撫で丁寧に結んでいく。

 

「お母さんの言う通りだよ。こんなに綺麗なのに切っちゃうなんて勿体無いよ。こうやって纏めるだけでも雰囲気なんて変わるんだから」

 

 未来によってポニーテイルの形で結われた艶のある黒い髪を、大きな白いリボンがより引き立たせる。

 

「わー! すごいお侍様みたい! ねぇねぇ、ぼくカッコいい?」

 

(((((かわいい)))))

 

 ユウはぴょんぴょん跳ね、喜びを全身で表す。その勢いに束ねられた黒髪が尻尾のように揺れ、より喜びを主張させる。

 そんな姿を見た五人は鼻に手を添え、込み上げて来るものを押さえている。

 

「ぶふっ……ちょ、ちょっとイメージとは違うかな……」

 

 鼻を押さえながら未来が答える。

 

「ありゃりゃ、でもぼくこれすっごく気に入った! ねぇねぇ、このリボン貰っていいの?」

 

「うん、私からのプレゼントだよ」

 

「わーいわーいっ!!!」

 

 嬉しくなったユウは、フィギュアスケートのようにその場で器用に回転する。

 

「アレって未来が昔使ってたやつだよね?」

 

 響の記憶には、幼き頃にあの白いリボンを付けていた未来の姿が残っていた。

 

「うん。お気に入りだったから、お守り代わりに持ってたんだ。でも使う機会無くなってたし、ユウくんが貰ってくれると嬉しいな」

 

「ありがとう未来お姉ちゃん! ぼく大事にするね」

 

 こちらが目を逸らしたくなるほどの笑顔を見せ、未来へと抱きつく。

 

「未来お姉ちゃん大好き!!……チュッ!」

 

「……………………ッ!!??」

 

 その喜びのままユウは未来のそばで背伸びをして、彼女の頬にキスをした。

 

「ブフーーーーーーーーーッ!?!?」

 

「みくううううううううううぅっ!?」

 

 男の子とは思えない柔らかさと、鼻をくすぐる良い匂いに、ついに堪えていたものの限界が来たのか、未来の顔面から鮮血が飛び散る。

 倒れ込んだ未来は、響の腕の中で幸せそうに眠っていた。

 

「お姉ちゃん、大丈夫?」

 

「大丈夫大丈夫! 未来もすぐ起きると思うからユウくんは気にしないで」

 

 急に倒れた未来を心配そうに見つめるが、これ以上刺激を与えたら命に関わると思った響はユウを遠ざけた。

 

「そう? あ、そろそろ行かないと。今日はありがとうお姉ちゃん達! また遊ぼうねぇっ!」

 

「あ、ユウくんっ!」

 

 最後まで送ろうと思っていたが、未来を抱えていた為止めることが出来ず、ユウは走り去ってしまった。

 小さくても男の子なのか、意外と足が速く、あっという間に見えなくなってしまった。

 

「うーん。流石海外育ち、スキンシップが進んでるわねぇ」

 

「まるでアニメみたいな子だったね。まさか男の人が苦手な未来がこうなるとは」

 

「でもヒナがビッキーの事好きなのは分かってたけど、男の娘もいけるんだね?」

 

「甘いわ創世。アニメだと未来みたいな大人しい子ほど、ムッツリだったりするもんよ!」

 

「なるほど、ビッキーと言うものがありながら、ユーユーまで手籠にしようなんて、ヒナったらなんて強欲なの!」

 

「しかも美少年ショタっ娘に、ポニーテイルとは未来さん、良い趣味してるわねぇ」

 

「あー分かる! あの持ち上がった黒髪から見える、白いうなじが堪らないよね!」

 

 下世話な話へと盛り上がり出す弓美と創世。そんな二人の肩へと白い手が置かれる。

 ビクッと反応した二人が、ギギギッと首を回すと。

 

「二人とも? ちょっと黙ろうか?」

 

「「ヒイィィィィィィィっ!!?」」

 

 目を覚ました未来が、笑顔でこちらへと向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 皆と帰宅した後、響は未来と今日の反省文と、課題であるレポートを纏めることになった。

 しかし風鳴翼のニューシングルCDの発売日が、本日出会ったことを思い出した。

 人気アーティストとは言っても、CDそのものは後日でも手に入る。しかし早期購入特典は一日で完売する可能も高かった。

 

 「CD! 特典! CD! 特典!」

 

 そう思うと居ても立っても居られず、響は呆れる未来をよそに、休憩と名目で寮から離れたCDショップを目指す。

 もし今日一日中彼女を見ている者がいれば、走ってばっかりだと思うだろう。

 

「まだ残っててね。わたしの特典っ!………………ってあれ?」

 

 行きつけのお店まで後数十メートル。曲がり角を曲がった所で響の足が止まる。

 人が一人もいないのだ。一般の女子高生でしか無い響に気配を探る技術など無いが、行き慣れた街の賑やかさはよく知っている。

 にも関わらず、人の話し声や、足音すら全く聞こえない。

 不思議に思った響は少し辺りを見回す、するとふと視界の端に黒くて細長いものが目に入る。

 

「ヒッ!?」

 

 息を呑む。それは人の腕だ。炭のように黒く染まった人の腕が、風にさらされ崩れ去った。

 

「これって…………」

 

 人の体がゴミのように消える。響にはその光景に見覚えがあった。

 二年前のあのライブ。その日目の前で消えていった人たちも同じ消え方をしたからだ。

 

「ど、どこ?…………何処にいるの?」

 

 ()()()の光景がフラッシュバックされ、小刻みに体を震わせながら辺りを見回す。

 ノイズの姿は無い。しかしこういう時、全く姿が確認出来ない方が、逆に恐怖心を刺激される。

 

「ヒィッ?!」

 

 不意に近くの茂みが、ガサガサと音を鳴らす。

 突然の騒音に尻餅をついてしまい、腰が抜けた響は立ち上がれず、ズルズルと後ろへと下がる。

 そうしているうちに茂みの音が強くなり、中から小さい影が飛び出す。

 

「あれ? 響お姉ちゃん、何してるの?」

 

「………………ってあれ? ユウ……くん?」

 

 恐ろしいノイズを覚悟していた響の前に姿を見せたのは、黒いポニーテールを風に靡かせる少女……いや少年だった。

 

「転んじゃったの? 大丈夫? ケガはない?」

 

「う、うん大丈夫。ちょっとビックリしただけ……」

 

 年下の前で情け無く尻餅をついたのが恥ずかしく、あはは……と頭を掻いて誤魔化す。

 倒れてる響を心配したユウが、駆け寄ってくると、腕を掴み引き起してくれた。

 

「大丈夫? 歩ける?」

 

「大丈夫だよ。でも何でここにユウくんが?」

 

「用事の帰り、それより急ご!」

 

「え? 急ぐってどこに……ってうわぁっ!?」

 

 引き起こしたまま、ユウは響の手を掴み歩き出す。決して力が強いわけではないが、急に引っ張られつんのめってしまう。

 ユウ達が離れた瞬間、再び茂みが激しく揺らぎ、オレンジ色の物体達が姿を現した。

 

「の、ノイズっ!?」

 

「ほら、走ろ。いい?」

 

「う、うん!」

 

 ユウが急いで歩き出したのはノイズの存在を認知していたからだ。意図を察した響は、ガクガクと震える足に気合を入れて走り出す。

 

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……」

 

 走る。走る。走る。夕焼けは既に沈み真夜中へと変わる。最初はユウに引っ張られる形だった響も、なんとか状態を立て直し、今では二人で隣立って走る。

 何とか捕まらずに済んではいるが、所詮女子高生と、男子とはいえ小学生。既に二人の体力は底をつきそうになっていた。

 

「……囲まれた……」

 

 これ以上走るのは無理だと思い、障害物の多い工場に隠れていたが、ついにそれも限界となる。

 炭化して消滅するどころか、どんどん数を増していくノイズの人海戦術に逃げ場を無くしていく。

 

「ど、どうしよう……?」

 

 工場の屋上へと追い込まれ、端ギリギリまで下がる。

 ジリジリと距離を詰めて来るノイズに響の体が震える。

 目の前のオレンジ色の人型のノイズ。二年前に自分達を襲ったノイズと同型。その姿が響のトラウマを刺激していた。

 

「お姉ちゃん」

 

「ユウ……くん?」

 

 震える響の手を、ユウの両手が優しく包む。

 

「大丈夫だよ。ほら、スマイルスマイル!」

 

 目を細め、上目使いでユウは笑顔を見せる。

 ――強い子だ。

 “生きるのを諦めるな”。ユウの強い眼差しが、かつて自分へとそう投げかけた、彼女の姿と重なって見えた。

 自分だって怖いだろうに、それでも彼は諦めず、笑顔を崩さず、それどころか自分を励まそうとしてくれるその笑顔に響の胸が熱くなる。

 

(守りたい……)

 

 ドクンッ

 

(守りたい、この笑顔を……)

 

 ドクンッ ドクンッ

 

(わたしに勇気をくれる、この笑顔を守りたい!!)

 

 響の想いに反応するかのように、胸の奥の鼓動が煩いぐらいに強くなる。

 その瞬間、ユウの胸から光が漏れる。

 

「っ!? これって……?」

 

 ユウは服の中に手を突っ込み、胸元から一つのクリスタル状のペンダントを取り出した。

 ペンダントから放たれた眩ゆい光に、周りのノイズ達が怯えたように後ずさる。

 

「う、わあああああああああああぁッ!!!!!」

 

「お姉ちゃんっ!?」

 

 ユウのペンダントに共鳴するかのように、響の胸の中心部からも光が溢れ出す。

 二つの光が夜の港を、真昼間のように明るく照らした。

 

 

 

 

 《特異災害対策機動部二課 司令部》

 認定特異災害ノイズが出現した際に出動する政府機関。

 一課は主に、避難誘導やノイズの進路変更、さらには被害状況の処理といった任にあたっているのに対して二課は、シンフォギアシステムの保有、解析を主として、ノイズの対策を担っている。

 そんな司令部の中央で突如アラームが鳴り響く。

 

「司令! 突如、高濃度のエネルギー反応が!」

 

「まさかこれは……アウフヴァッヘン波形っ!?」

  

 二課のオペレーターである、藤尭朔夜と友里あおいからの報告に、司令部のスタッフ達全員に動揺が見られる。

 《アウフヴァッヘン波形》とは、シンフォギアを纏うに必要となる聖遺物、あるいは聖遺物の欠片が、歌の力によって起動する際に発する、特殊なエネルギーの波形パターン。

 その波形は聖遺物によって異なっており、パターンの照合によって、その種別を特定する事も可能。

 

(まさか……私以外のシンフォギア……)

 

 司令部で待機している風鳴翼もまた、聖遺物《天羽々斬》を持つ者。

 しかし当然ながらこの反応は彼女の物ではない。

 では何故アウフヴァッヘン波形が?

 この世に起動が可能な聖遺物は、()()()()()()()()

 未知の聖遺物では無い。数秒と経たず波形の特定が終了する。

 

「ガングニール!……だとぉッ!!!」

 

「ッ!?……奏の……?」

 

 それは彼女達がよく知っている聖遺物。

 共に戦場を駆け抜けた戦友である、天羽奏のガングニールと、全く同じものだったからだ。

 

「……っ!」

 

「待て翼ッ! くっ、すぐに現場に人員を回せッ!!」

 

 居ても立っても居られなくなった翼が、弦十郎の抑制も聞かずに出て行く。

 恐らく現場に向かったのだろう。

 彼女の心情を察した弦十郎は、混乱する司令部の皆に適切に指示を出し落ち着ける。

 しかし内心穏やかでは無いのは弦十郎もまた同じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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