シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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G編
第十九話 ガングニールの少女


  ☆

 

 

 

 

 炎が舞い踊り、瓦礫が崩れ散った施設の中、逆巻く炎の中に白銀の装束を身に纏った少女が立ち尽くしていた。

 その栗色の髪の少女の手にはなにやら蛹のような物が見える。彼女とそう歳の変わらない桃色の髪の少女が瓦礫と炎の中で必死に呼び掛ける。

 その声に気付いたのか、白銀の装束を普段着に戻した少女は振り返った。そのあどけない顔には似つかわしくない、血液が全身から溢れ出していた。

 力無く立ち尽くす栗色の髪の少女が、なにやら語りかけた瞬間、上空から無数の瓦礫が降り注いだ。

 慌てて老練の女性が近くにいた桃色の髪の少女を庇い覆いかぶさった。

 しかし女性が救えたのは一人だけ。膝をつき倒れる栗色の髪の少女の上に、まるで埋葬するかのように瓦礫が降り注ぎ、彼女の体を埋めてしまった。

 その光景をただ黙って見ているしかなかった桃色の髪の少女は、己の無力さを嘆きつつもひたすらに彼女の名を叫び続けた。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 雨が降り注ぐ暗闇の中を一台の列車が走る。

 列車の後方から、追跡するように飛行型のノイズが後ろにつく。列車の機関砲が対空砲撃を始めるが、ノイズの位相差障壁によって弾は全て通り過ぎてしまった。

 列車を追い回しているノイズたちは自身を弾丸へと変え、対空砲ごと中の兵士達を撃退した。

 

「きゃあっ!?」

 

「大丈夫ですか!」

 

 襲撃により激しく列車が揺れ、友里が転倒してしまった。その後ろで大事そうにアタッシュケースを抱える銀髪と眼鏡の白衣の男性が友里を気遣った。

 彼の名はジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス。

 米国連邦聖遺物研究機関に所属する生化学専門の研究者である。何故米国の研究者が彼女と一緒にいるのかと言うと、彼の持っているアタッシュケースがその理由だった。

 

「平気です、それよりもウェル博士はもっと前方の車両へ避難してください!」

 

「ええ……」

 

 不安そうに答えるウェルの背後の扉が開き、響とクリスが姿を見せる。

 

「大変ですッ! すごい数のノイズが追ってきていますッ!」

 

「連中、明らかにこっちを獲物と定めていやがる……。まるで、何者かに操られてるみたいだ」

 

「とにかく急ぎましょう!」

 

 クリスの疑問も気になるが、今は全員の身の安全を確保することが先決だ。友里達は今の車両を捨て、非戦闘員である博士を避難させる。

 そしてその情報は、特異災害対策機動部二課仮説本部にも届いていた。

 

『第七十一チェックポイントの通過を確認! 岩国の米軍基地到着まで、もう間もなく……ですがっ!』

 

「こちらとの距離が伸び切った瞬間を狙い撃たれたか……」

 

「司令……やはりこれは……」

 

「ああ、何者かがソロモンの杖強奪を目論んでるとみて、間違いない!」

 

 フィーネが居なくなった後も、ノイズは自然発生していた。しかしそれら全てはあくまでも近くにいる人間を手当たり次第にねらっており、今回のように統率の取れた動きは初めてだった。

 その動き方から、(ブレーン)となる者が何処かから指示を出しているのは明白だった。そしてノイズの動きと、列車の中にある重要物を考えれば、日本に残った唯一の完全聖遺物“ソロモンの杖”目的であると推測出来る。

 

 

 

「……はい、多数のノイズに交じって高速で移動する反応パターン?」

 

 同時刻、響たちと共に列車の前方を目指し移動する友里は本部の弦十郎等から逐一通信を受け取っていた。

 雨に打たれ列車間を移動するウェルは、移動しながら響たちになにやら話しをしていた。

 

「三ヶ月前、世界を震撼させた“ルナアタック”を契機に、日本政府より開示された櫻井理論。その殆どが、未だ謎のままとなっていますが、回収されたこのアークセプター、ソロモンの杖を解析し、世界を脅かす認定特異災害ノイズに対抗し得る新たな可能性を模索する事が出来れば……」

 

 ウェルの口から語られたのはソロモンの杖の岩国基地への移送の目的と理由であった。

 三ヶ月前のフィーネによる次への攻撃、そしてウルトラマンによる月の欠片の破壊事件。それ以降、日本国政府は米国政府をはじめとした国際社会からの圧力により、シンフォギアをはじめとした異端技術の研究理論、櫻井理論を世界に向けて開示した。しかし日本政府が開示した櫻井理論の多くはいまだに解明し切れておらず謎に包まれた部分が多かった。

 その為、今ウェルがその手に持つケースの中にある、現在唯一の完全聖遺物であるソロモンの杖を解析し、櫻井理論を紐解くことが今回の目的だった。

 

「そいつは……ソロモンの杖は、簡単に扱っていいもんじゃねえよ」

 

 拳を強く握ったクリスは、ウェルの言葉に懐疑的な意見を述べた。

 クリスは今回の作戦に乗り気では無かった。

 ソロモンの杖の機能は七十二のコマンドによってノイズを召喚し、それを使役するという一歩間違えば多くの人命を奪う危険極まりない物。そして何よりその杖を起動させたのはクリスの奏でた歌だった。世界から戦いを無くすという自身の夢、その想いを利用されクリス自身が歌により起動させたもの。

 そしてその力によって多くの命が失われた。クリスにとってそれは彼女の罪そのものだった。壊すなり封印するなら兎も角、利用するという考えに賛同できるはずがなかった。

 

「大丈夫だよ」

 

 複雑な感情が巡り、顔を背けるクリスの手を響が握った。突然手を繋がれて照れるクリスだったが、響の力強い眼差しに頷いて返した。

 

「了解しました。迎え撃ちます!」

 

「出番なんだな?」

 

 通信を切った友里が、懐から拳銃を取り出す。それはつまり戦闘の許可が出たという事。現在最重要機密であるシンフォギアの起動の許可。それだけ事態は急を要しているという事だ。

 そうこうしているうちに列車の天井をノイズの体が突き破る。迷う暇もなく、響とクリスは胸の内の歌を歌った。

 

「Balwisyall Nescell Gungnir tron……」

 

「Killter Ichaival Tron……」

 

 二人の身に黄色と赤のシンフォギアが纏われる。あの決戦、そして三ヶ月の戦いと鍛錬の経験が、二人のシンフォギアに新たな姿を与えていた。

 首元のマフラーをたなびかせ、響達が列車の上に移動すると既に飛行型のノイズに取り囲まれていた。

 

「夜雀共がうじゃうじゃと!」

 

「どんな敵がどれだけ来ようと、今日まで訓練してきたあのコンビネーションがあれば!」

 

「あれはまだ未完成だろ。実戦でいきなりぶっこもうなんて、おかしなこと考えてんじゃねぇぞ」

 

「うん! とっておきだもんね!」

 

「わかってんなら言わせんな」

 

 そう言うとクリスは上空にボウガンを向け、彼女の射撃を皮切りに戦闘が始まった。クリスのイチイバルによる面射撃で次々とノイズを落としていく。勿論ノイズの攻撃対象もクリスへと移り、射撃を妨害しようと突撃する。

 

「やぁあッ!!」

 

 そんなクリスに負けじと力強く歌う響が、彼女の背中を守るように近づくノイズ達を撃破していく。この三ヶ月の戦闘訓練で響の技術は格段に上がっていた。それこそ苦手としていた飛行型でさえ相手にならないほど。

 

「落ちやがれェッ!」

 

 二つのボウガンを連結させ大型化させた大弩弓を空へ向ける。その先に二連装で装填された巨大なクリスタル状の矢を空へと放つ。射線上のノイズを撃破しながら空中で分解した矢が、今度は下にいたノイズの群を撃ち抜いた。

 

 《GIGA ZEPPELIN》

 

 クリスの放った無数の矢は、小型だけでなく以前は苦戦した空母型のノイズすら撃破した。

 そんな中、飛行型の群れに隠れるように形状の異なる大型の飛行型ノイズが見えた。

 

「あいつが取り巻きを率いているのか」

 

 それが群れのボスだと判断したクリスは、腰のミサイルアーマーを展開させ、無数のミサイルを放つ。しかしその大型ノイズは、まるで戦闘機のような高機動でミサイルを避けてしまった。

 

「だったらっ!」

 

 《BILLION MAIDEN》

 

 クリスはボウガンをガトリングに変形させ大型ノイズを狙う。その弾幕を避けられないと判断したのか、大型ノイズは甲羅のような羽を折り畳み、まるでロケットのようにこちらへと突っ込んで来た。

 

「クリスちゃんっ!」

 

 ガトリングでは迎撃出来ないと判断した響が、ハンマーパーツを引き殴りつける。しかしその滑らかな形状のせいか衝撃がうまく伝わらず、かつ硬い甲羅は響の一撃すら防いでしまった。

 

「くそッ! あん時みたく空を飛べるXDモードなら、こんな奴におたつく事なんてねぇのにッ!」

 

「うわぁ!? くくく、クリスちゃん!」

 

「あん?」

 

 響に呼ばれ、背後を振り向くと、列車がトンネルへと差し迫り天井が此方へと激突しようとしていた。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

「お姉ちゃん達まだかなぁ……」

 

 所変わって、ここは東京のライブ会場、《Queen of Music》。数十万人はいる巨大箱、その特等席ルームにユウ達は座っていた。

 

「まだビッキーから連絡こないの?」

 

「うん……」

 

「期待を裏切らないわね〜。でもこの夢の舞台を見逃すなんて勿体無いわよね!」

 

 まだ始まってもいないのに既にライブ会場は、大きな盛り上がりをしていた。それもそのはず、今回のライブは三ヶ月ぶりに日本に帰国した風鳴翼、そしてたったの数ヶ月で全米チャートの頂点へと登り詰めた“マリア・カデンツァヴナ・イブ”のコラボなのだ。

 世界でもトップクラスのアーティスト二人のコラボに、世界中のファンが盛り上がりを見せている。

 

「そう言えば、ユウくんはマリアさんの事って知ってるの?」

 

「んーん。ぼく向こうで音楽聞く事少なかったし。このマリアって人が有名になったのって、ぼくが日本に来てからみたいだから、よく知らない」

 

 ユウも米国からやって来た。だから知ってるのかと思ったが、ユウが米国にいる頃はまだそこまでの人気では無かったようだ。

 

「お姉ちゃん達と一緒に見たかったのにな〜……」

 

 ユウは手元のチケットをギュッと握りしめた。

 それは日本に帰国する前に、翼から届いた今日のライブのチケット。それを貰ったユウは、響達や未来達を誘ってライブへと来ていた。大好きな翼のライブを大好きなクリス達と一緒に見る。この日をずっと楽しみにしていたユウは、失意せざるを得なかった。

 

「なーに落ち込んでんだよ!」

 

 そんなユウの頭を後ろから撫でる手があった。「わぷっ」と驚いたユウが後ろを振り向くと、帽子とサングラスで顔を隠した女性が立っていた。顔こそ隠しているが、その特徴的な赤髪と声で正体は直ぐに分かった。

 

「奏お姉――んぷっ?!」

 

(しー! 声が大きいっての!)

 

 思わずその名を叫びそうになったユウの口を、奏の手が押さえた。二年以上経ってるとは言え、奏の人気は今でも健在。そんな彼女が客席側にいると知られれば大混乱になるのは確実。事情を理解したユウがコクコクと頷くと、奏はゆっくりと手を離した。

 

「よし、良い子だ」

 

「ぷはっ、奏お姉ちゃん足はもう大丈夫なの?」

 

「大丈夫って程じゃないが、少し歩くぐらいなら出来るようになって来たよ」

 

 奏は足の状態を見せるように、その場で足踏みをする。多少ふらついてはいるが、立つのにも苦労していた三ヶ月前とは段違いの回復だ。それだけで彼女の努力がよく分かった。

 

「良かった。でもどうして奏さんがここに?」

 

「まだ開演まで時間があるからな、リハビリを兼ねてユウを迎えに来たんだよ」

 

「ぼくを?」

 

「おう。なぁユウ、翼に会いたくないか?」

 

「会いたい!」

 

「そうだろう、そうだろう。あたしの権限で一人だけなら連れて行けるんだが、一緒に行かないか?」

 

「うん、行きたい! ねぇ良いでしょ未来お姉ちゃん?」

 

「勿論だよ。でも早く返って来てね? 私だってユウくんとライブ見るの楽しみにしてるんだから」

 

「うん! すぐに戻って来るからね!」

 

 ユウは嬉しそうに奏と手を繋ぐと、一緒に翼の控え室へと向かった。

 ライブ会場の裏へと回ったユウと奏は、関係者専用と書かれた扉の前に立つ屈強な警備員と挨拶をする。その他のスタッフが関係者用パスを見せる中、奏はサングラスをずらすだけで中に入ることが出来た。

 

「おお、凄い! かっこいい!」

 

「だろ? あたしぐらいになると、顔パスで通れるんだよ」

 

 入り口に入り少しすると、通路の壁に奏の車椅子が立てかけられていた。

 

「ぼくが押してあげるね!」

 

「悪いな。正直そろそろキツかったんだよ」

 

「よーし、翼お姉ちゃんの所に出っ発ー!」

 

「おー!」

 

 奏が座った車椅子をユウが押し、道順を教えてもらいながら、翼の居る控室を目指した。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「ありがとう、クリスちゃん!」

 

「本当にこんなので良いのかよ?」

 

 場面は列車での戦闘に戻る。

 クリスの矢で列車同士の連結部分を壊し分断する。

 トンネルの危機を響の機転で脱した後、再び響の機転で残りのノイズを一網打尽にする策を思いついた。

 二人は分断した車両を、トンネルを通って自分達を追いかけてくるノイズの群れに押し込んだ。

 しかし通常の物体をすり抜けるノイズ達は、当然の如く列車を避けてしまう。

 しかしそれすら響の策だった。

 列車を通り抜けた先では、大きくスタンスを開き拳を構える響の姿だった。

 

「いっけえええええええええっ!!!」

 

 大型化させた右腕のブースターが噴射し、響の体ごと必殺の一撃を運ぶ。歌の力を全開にしながら、列車の壁から頭を出す大型ノイズを打ち抜いた。その重い衝撃に、辺りの小型の飛行ノイズも巻き込まれ全滅する。

 閉鎖空間を利用し、相手の機動力を封じつつ遮蔽物を使って相手の目を眩ませた所に重い一撃。それこそが響の作戦だった。

 

「この短期間に、アイツどこまで……」

 

 戦いの技術、咄嗟の判断、そしてクリスの砲撃を防いだノイズを簡単に破壊してしまう力。

 たった三ヶ月での響の急激な成長にクリスは、どこかしら不気味さというか、不信感を感じていた。

 

 

 

   ☆

 

 

 

「凄い声援ですね。日本に帰って来たって気がしますよ」

 

 客席からの声援や熱気。それは控え室で待機している翼達にも伝わっていた。比べるわけではないが、やはり本国での応援というものは聞いていて嬉しいものだ。

 

「この声援に応えないといけないと思うと、少し緊張しますね」

 

「何を言ってるんですか、緒川さん。海外も本国も関係ありません。私はただ、いつも通り歌うだけです」

 

(流石翼さんです……この状況でも平静を保っていられるとは。海外での経験は、彼女を一回り成長させたみたいですね)

 

 世界の歌姫とのコラボコンサート。歴戦のマネージャーである緒川でさえ浮き足立っているにも関わらず、当の本人はいつもの調子を保っていた。

 そんな時、コンコンと控室のドアが叩かれる。

 

「どうしたんでしょうか? まだ出番には時間がある筈ですが……」

 

 スタッフが呼びに来たのかと思い、緒川が返事をすると、扉が開かれ長い桃色の髪を靡かせた女性が入って来た。

 

「ま……マリア・カデンツァヴナ・イヴっ!!?」

 

 特徴的なその髪を見間違える筈もない。彼女こそが今回のコラボ相手のマリア・カデンツァヴナ・イヴその人である。突然の大物の来客に緒川も驚きを隠せないでいる。

 

「……なんだ、ここも同じなのね。やっぱり日本のライブ会場は全体的に狭いわね」

 

「な、何故貴女がここに……?」

 

「あら? 今日のデュエット相手に挨拶をするのがそんなに変?」

 

 動揺している緒川を鼻で笑った後、彼を素通りし翼の側に立つ。その一連の動作だけでも、スターとしてのオーラを感じ圧倒されてしまう。

 

「ツバサ・カザナリね?」

 

「……ああ」

 

 マリアが翼を見下ろす。まるで互いの立場を分からせる為に見下すような立ち振る舞い。世界の歌姫の圧倒的なカリスマオーラ、しかし日本のトップアーティストである翼も負けてはいなかった。

 

「今日は、はるばる日本まで来てもらって感謝する。貴女程の相手と一緒に歌える事、誇りに思う」

 

「構わないわ。別に誰でも良かったもの」

 

「なに?」

 

「どうせ日本で歌うのだから、それに見合ったバックダンサーが欲しかっただけ。その条件に貴女がちょうど良かったってだけよ。だから、今日は存分に私を引き立ててちょうだい」

 

 たった二ヶ月で全米チャートのトップへと上り詰めたマリアと比べれば、翼とは格がちがうのは確かだが、それでも高飛車なその態度には文句を言いたくなる。小馬鹿にしたような笑顔を見せながらマリアが差し出した手を、翼は無言で握り返した。

 しかしそれは、敗北を認めた者の弱々しい手では無かった。

 

「だが、ただ引き立て役で終わるつもりはない。高飛車なのも構わないが、油断していると後ろから喰われてしまっても知らんぞ?」

 

 翼は手を握る力を強くした。自らを見下ろすマリアの目を真っ直ぐに見つめる。まるで日本刀のように美しくとも芯の通った瞳に、見下ろしているにも関わらずマリアの方が後ずさった。

 

「…………ぷっ! あはははははっ!! 良い! 良いわ貴女! アハハハハッ!!!」

 

 プライドを傷つけられ怒るかと思っていたが、寧ろマリアはお腹を抱えて笑い出した。

 

「ふー……さっきはごめんなさい。試すようなことをしてしまって」

 

「試す? ですか?」

 

「ええ、日本のトップアーティストで世界からも注目されてるツバサ・カザナリがどんな人なのか気になってね。あの程度の事で意気消沈しないかと思ったけど、無用の心配のようね」

 

「そんな事だろうと思った」

 

「あら、気付いていたのね。いつから?」

 

「入って来た時からだ。日本を小馬鹿にする割には、流暢に喋ると思ったのだ。わざわざ馬鹿にするために、あそこまで日本語を練習する事はないと思った」

 

「ええ、日本は好きよ。独特な文化に歴史……特に好きなのはサムライかしら? 貴女の目はまさにそんな感じの凛々しいものね。今日のライブが楽しみだわ」

 

 その刀剣の如き眼光と、自分に媚びず自分の意思を通そうとした翼の姿に、自分と同じく世界のトップアーティストとしてのカリスマ性を感じていた。

 満足したマリアは、再び手を差し出した。その目は先程の高飛車なものではなく、対等の相手に対する目だった。

 

「さっきの言葉、半分は本気よ。気を抜いていたら、皆の視線は私が全て貰ってしまうわよ?」

 

「ふ……望む所だ。勿論私も、絶対に負けない。私を応援してくれる皆の期待――」

 

 ガチャリ――

 

「翼お姉ちゃーん!」

 

「ユウぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!」

 

 翼がマリアの手を握り返そうとした時、控室の扉が開き、ユウと奏が入室して来た。

 その瞬間、先程まで刀剣のように鋭く美しかった眼差しは、まるでスライムの如くふにゃふにゃにとろけていた。

 

「この匂い、この感触……間違いなくユウだ! ああ〜お姉ちゃんは会いたかったぞぉ〜!」

 

 目の前のマリアを差し置き、ユウに抱きつくとその柔らかい頬に頬擦りする。

 

「えへへ〜! 翼お姉ちゃん、くすぐったいよ〜」

 

「ああ〜……相変わらず良い声だ……。足りなかったユウ成分が、満たされていく……」

 

「ぼく、すっごくすっごく会いたかったよ」

 

「私もだ。途中向こうで、何度発作が出そうになったか」

 

「あははっ! 冗談ばっかし。あ、見て見て! お姉ちゃんのCD、叔父さんのお手伝い頑張って、貰ったお小遣いで買ったんだ! ね、サインして!」

 

 ユウは肩からかけたカバンから翼の写真の貼られたCDケースを幾つか見せた。その中にはここ最近出たばかりの新曲のものも見られた。

 

「ユウは本当に可愛いなぁ〜。もう二度と手放さないぞぉ〜!」

 

「ん、ンンッ! お二人とも、そろそろ時間です。翼さんも準備がありますから」

 

「そうなんだ。もっと一緒に居たかったけど、しょうがないね」

 

 緒川に催促され、ユウは翼から身を離した。残念そうにするユウだったが、翼はそれ以上に悲しみに満ちた顔を見せる。

 

「翼お姉ちゃん、今日のコンサート頑張ってね! ぼく、いっぱい、いーぱい応援してるからね!……チュッ!」

 

「〜〜〜〜〜っ!!? あ、ああ〜お姉ちゃんに任せなさい、最高のライブを見せてあげるぞぉ〜! ふへへ……」

 

 ユウからの久々の“おまじない”。過剰なユウ成分を受けた翼は、酔ったように顔を赤くし、舌足らずな返事をした。

 そんな翼を見た後、ユウは元気に手を振ると楽屋を後にした。

 

「――――期待に応えるのが、私の歌手としての」

 

「いや待って、続けないで」

 

 ユウが去った瞬間、先程の調子を取り戻した翼が、キリッとした顔つきでマリアに向き直る。いきなりのテンションの変化の大きさにマリアはついていけなかった。

 

「え? なに、今の?」

 

「あーえっと、さっきの子は翼さんの弟のようなもので、翼さんはあの子を溺愛していまして……」

 

「あんまし気にしないでやってくれ」

 

 ユウと離れてから、一ヶ月経った辺りで様々な禁断症状を起こしていた翼の姿を二人はよく見ていた。なので、久しぶりにユウに会うと、こうなる事はある程度予想出来ていた。

 

「二人とも、何故そんな呆れたような顔をしているんだ?」

 

「惚けるなら、せめて鼻血拭け」

 

 奏に指摘され、翼はキョトンとした顔で鼻を拭う。

 その後、スタッフの人間がやって来て、翼とマリアはライブへの準備を進めていった。

 

「早く戻らないと、未来お姉ちゃんが待ってる!」

 

 近くの時計を見ると既にライブの時間も迫っていた。一瞬たりとも見逃したくないユウは、帰り道を思い出しながら走る。

 

「早くこっちだ!」

「急がないと間に合わないぞ!」

「ライブが始まっちゃう!」

 

「わあああああああぁ〜っ!」

 

 すると、ちょうど曲がり角からやってきたスタッフの集団に巻き込まれてしまった。ライブの事で急いでいたのかユウに気が付かず、その荒波を飲まれたユウはグルグルと目を回す。

 

「うう〜……あれ? どっちから来たっけ?」

 

 かぶりを振り辺りを見回す。しかし十字に分かれた道のせいか、帰り道が分からなくなってしまった。

 

「えーと、えーとぉ……うん! こっち!」

 

 早くライブに向かいたいユウは焦り、適当に道を選び走り出した。そのせいか、背後にあった道案内表に気が付かなかった。

 ユウが選んだ道は、見事に真逆の道だった。

 

 

  ☆

 

 

 迫り来たるノイズ達を全て殲滅して数分、響達の乗る列車は無事に米軍基地に到着した。友里がタブレットを操作して、電子判子を押した。これによって、ソロモンの杖搬送作戦は終了だ。

 

「これで搬送任務は完了となります。ご苦労様でした」

 

「ありがとうございます」

 

 米国基地の司令官は手を差し出し、友里がそれを握って互いに握手を交わす。仕事をやり切り満足そうな笑顔を見せる二人にウェルが声をかけてきた。

 

「いや〜確かめさせていただきましたよ。流石はあの戦いを勝ち抜いた装者達です」

 

「えへへ~、普段誰も褒めてくれないので、もっと遠慮なく褒めてください~。むしろ~、褒めちぎってくださ……あいた!!?」

 

 ウェルに褒められ調子に乗る響の頭をクリスがはたいた。

 

「このバカ! そういうとこが褒められないんだよ!」

 

「痛いよ~、クリスちゃ~ん!」

 

「しかし、やはりノイズとは恐ろしいものです。世界がこんな状況だからこそ、ボク達は英雄を求めている。誰からも信奉される、偉大なる英雄の姿!……そう、あの光の超人(ウルトラマン)のように……」

 

「ウルトラマン……ですか?」

 

「ええ! アレこそが我ら人間が目指す進化の姿! 人類を導く英雄とも言える存在でしょうッ!!」

 

 その時のウェルの顔には僅かな狂気とも言えるものがみられたが、この時の彼女達は気にしていなかった。

 

「皆さんが守ってくれたものは、ボクが必ず役立ててみせますよ」

 

「不束なソロモンの杖ですが、よろしくお願いします!」

 

「頼んだからな」

 

 輸送任務を終えた以上長居は無用。響達は米国の軍人たちに一礼し、基地から去った。

 

「……ねぇ? クリスちゃんは、ウルトラマンの事どう思ってる?」

 

「なんだよ藪から棒に?」

 

「うん、ウェル博士と話してちょっとね」

 

「そんな事言われても、分んねぇよ」

 

 響に聞かれてクリスも考える。しかし彼女は答えに迷っていた。と言うのもこの三ヶ月間ウルトラマンの情報は全くと言って良いほど掴めていないからだ。

 それは世間の人達も同様。あれだけ世間を騒がせたウルトラマンも、九十日以上音沙汰が無ければ忘れられていた。あれからウルトラマンは姿を現す事は無く、残ったものはあの日の動画のみ。それすら何かの合成で、実はあの日の事は夢だったのでは無いかと言う者も増えて来ているぐらいだった。

 

「……そうだよね」

 

「そんな事より! 無事に任務も完了だ! そして……」

 

「うん! この時間なら翼さんのステージに間に合いそうだ!」

 

「なら早く行くぞ! 何モタモタしてんだよ!」

 

「クリスちゃん、気合が入ってるわね?」

 

 翼のファンである響は兎も角、先輩後輩程度の関係でしかないクリスが、翼のライブを楽しみにしているのは以外だった。

 

「あったりまえだ! 今頃ユウがお姉ちゃん(アタシ)と見たくてウズウズして待ってんだからな!」

 

「ああ、そう言う……」

 

 友里は納得したように頷いた。クリスの目的は、翼のライブではなく、ユウと一緒にライブを見る事だった。

 

「もう、クリスタルちゃん! ユウくんが一緒に見たいのは()()()()、でしょ?」

 

「いいや! アイツはきっと、アタシを一番待っている筈だ! お姉ちゃんとしての勘だ!」

 

「ぶー! そんな事ないよぉー!」

 

「まぁまぁ二人共。二人が頑張ってくれたから、司令が東京までヘリを出してくれるみたいよ。それで急ぎましょ?」

 

「マジっすか!?」

 

 ドガアアアアン!!!

 

 突如として背後の米国基地が大爆発を起こした。そして爆発から大型のノイズ達が出現した。

 

「マジっすかぁ……」

 

「マジだな!」

 

 任務まだ終わっていなかった。お姉ちゃんの顔から、戦士の目に変えた二人は、すぐさま米軍基地の人達の救援に向かった。

 しかし二人の健闘空しく、護衛対象であったソロモンの杖と、ウェル博士の姿は跡形も無く消えていた。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 ステージの明かりが落ち、観客たちは一斉に翼とマリアをイメージしたサイリウムを灯らせる。

 リフトの上でステージ衣装に着替えたマリアが、翼に問いかけた。

 

「見せてもらうわよ。戦場に冴える、抜身のあなたを!」

 

「…………」

 

 翼の沈黙もってこれを了承とし、今夜限りのデュエットライブが始まる。剣を模したマイク、そして演炎のグラフィックを演出として使ったもの。素人ではない剣の腕をもつ翼と、そんな彼女についていくマリアの美しい舞に、人々は魅了されていた。

 

「流石マリア・カデンツァヴナ・イヴ。ですが翼さんも負けていません」

 

「くっそ〜翼の浮気もんめ、楽しそうに歌いやがって〜! あたしだって、本気を出せればあれぐらい出来るんだからな!」

 

「はいはい、早く復帰する為にも、今はゆっくり座って下さい」

 

 今にも立ち上がりそうになる奏を、緒川が抑え車椅子に座らせる。

 

『ありがとう、みんな!』

 

 観客たちに手を振り、翼は来てくれたことに感謝を述べる。また一つボルテージが上がった。

 

『私は、何時もみんなからたくさんの勇気を分けてもらっている。だから今日は、私の歌を聞いてくれる人たちに少しでも、勇気を分けて上げられたらと思っている!』

 

 観客は沸き、負けじとマリアも続いた。

 

『私が歌う全部、世界中にくれてあげる! 振り返らない、全力疾走だ。ついてこれる奴だけついてこい!』

 

 その宣言は世界中に生中継されており、二人のカリスマ性に涙を流す者もいた。

 

『今日のライブに参加できたことを感謝している。そしてこの大舞台に日本のトップアーティスト、風鳴翼とユニットを組んで歌えたことを』

 

『私も素晴らしいアーティストに巡り合えたことを光栄に思う』

 

 二人は静かに手を差し出し、今度こそ確かに握手を交えた。別の国、二人のトップアーティストの手を取り合う姿に会場の盛り上がりは最高潮と化していた。

 

『私達が世界に伝えていかなきゃね、歌には力があるってこと』

 

『それは、きっと世界を変えていける力だ!』

 

 マリアは翼の手を放し、彼女に背を向けて歩き出しながらマイクに言葉をのせる。

 

『そして、もう一つ……』

 

「?」

 

 マリアが衣装のスカートを翻した瞬間、ステージの下、客席に無数のノイズが召喚される。当然の人類の天敵の出現に、翼や弦十郎達も動揺を隠せず、戦う術を持たない一般人達は混乱している。

 

『うろたえるなッ!』

 

 マリアのその力強い一声で、騒ぎ立てられていた観客たちが静まり返った。出現したノイズは人を襲うことなくその場に立ち尽くしているだけだ。

 動揺は特別席にいる未来たちにも広がっていた。

 

「アニメじゃないんだよ?!」

 

「なんでまたこんなことに……」

 

「ユウくん……」

 

 未来は今だに戻って来れていない、ユウの身を案じていた。

 

「あれ? ここもだ……」

 

 現在ユウは舞台の裏で客席までの出口を探していた。多くのスタッフが行動する為か、複雑な内部構造に迷ってしまったユウは、適当な出口を見つけ外に出る事にした。しかしどの扉も強く閉ざされており、道を聞こうにも誰の姿も見えなかった。

 

「なんで誰もいないんだろ? んー! 早く行かないと、ライブ終わっちゃう〜!」

 

 

 

  ☆

 

 

 

「怖い子ね。この状況にあっても私にとびかかる気を窺っているなんて。でもはやらないの、オーディエンスたちがノイズからの攻撃を防げると思って?」

 

「くっ……!」

 

「それに……」

 

 ファン達を人質に取られ、身動きが取れない翼を見たマリアは、全世界に中継されていると言うカメラの方に視線を向けた。

 

「ライブの模様は世界中に中継されているのよ? 日本政府はシンフォギアに関する概要を公開しても、その装者については秘匿したままじゃなかったかしら? ねぇ……風鳴翼さん?」

 

「甘く見ないで貰いたい。そうとでも言えば、私が鞘走るのをためらうとでもおもったか?!」

 

「貴女のそういうところ、嫌いじゃないわ。貴女のように誰もが誰かを守るために戦えたら……世界は、もう少しまともだったかもしれないわね」

 

「何だと? マリア・カデンツァヴナ・イヴ、貴様は一体……」

 

「そうね……そろそろ頃合いね。」

 

 観客席の方に向くマリアは高らかに宣言した。

 

「私達は! ノイズを操る力をもってして、この星のすべての国家に要求するっ!!」

 

「世界を敵に回しての口上?! コレはまるで、宣戦布告……」

 

 ノイズを出現させ人質を取ったかと思えば、今度は世界全体へと宣戦布告。翼にはマリアが何を考えているのか分からなかった。

 しかし驚いている間もなく、マリアはマイクを投げると突然歌い出した。

 

「Granzizel Bilfen Gungnir Zizzl……」

 

「まさか?!」

 

「その詠唱は……?!」

 

 翼も、二課の面々もその歌詞はよく知っていた。かつては奏が、今は響の歌声でよく聞く歌。

 “Gungnir”二課のメインモニターに、アウフヴァッヘン波形を感知し、その歌の正体が映し出される。

 

「ガングニール……だとぉ?!」

 

「マジかよ……」

 

 その名は偽りではなく、マリアはガングニールを纏った。だが配色は奏や響のものとは異なり、紫を基調とした黒に、黒いマントを纏った二人と比べるとダークな雰囲気を思わせるものだった。その姿と歌に、元々の持ち主の奏だけで無く、その光景を見ていた全員が言葉を失っていた。

 

『私は、私達はフィーネ。そう……終わりの名を持つものだっ!!!』

 

 そんな皆を横目に、マリアは高らかに宣言した。

 かつての強敵の名を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ☆






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