シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第二十話 胸に力と偽りと

  ☆

 

 

 

 

 

 

「調、こっちデスよ!」

 

「待って、切ちゃん」

 

 ライブ会場の舞台裏、その長い廊下を二人の少女が駆け抜ける。

 一人は所々跳ねた短い金髪の少女、もう一人は長い黒髪を可愛いリボンで結んだツインテールの少女。

 

「急ぐデス。もうマリアの作戦は始まってるんですから!」

 

 切ちゃんと呼ばれた金髪の少女、切歌が調と呼ばれた黒髪の少女の手を引く。慌てん坊な切歌に対し、調は冷静に諭す。

 

「退路は確保したんだから焦らなくても大丈夫。それよりも焦ってポカする方が心配。ちゃんと誰もいないか確認しないと」

 

「心配症デスね調は、マリアから貰った関係者リストに載ってる人は全員、ノイズ達が外に追い出した筈デスから、誰も残ってる訳――」

 

 切歌は背後を振り向きながら走っていたからか、丁度曲がり角からやってくる存在に気が付かなかった。

 

「「「わあっ!?」」」

 

 三つの小さい影が同時に衝突した。

 

「い、いたたた……調、大丈夫デスか?」

 

「切ちゃんに手を引かれてなかったら、転ばなかった」

 

「うぅ……ごめんデス。調を守るのがあたしの役目なのに、面目ないデス。でも思ったより痛くないデスね……?」

 

「ねぇ、大丈夫?」

 

 声を掛けられた二人が振り向く。そこには、照明に照らされ、長い黒髪を宝石のように美しく光らせる少年の姿があった。

 

「は、はい! 大丈夫デスよっ!」

 

(コクコク……!)

 

「そっか、良かった!」

 

 ユウは二人の手を引き起き上がるのを手伝った。

 

(調、調! ヤマトナデシコ……デスよ! 本物デスよ!!)

 

(切ちゃん、意味わかって言ってるの? でも確かに、すっごく綺麗な子……)

 

 ユウの性別は男なのだが、初見のインパクトが強かった二人は、つい勘違いをしてしまう。

 

「ぶつかっちゃってごめんなさい。急いでてつい。“お姉ちゃん達”は怪我はない?」

 

((キュンッ!))

 

(調、調! お姉ちゃん、あたし達お姉ちゃんだって!)

 

(お姉ちゃん……良い響き……)

 

「?」

 

 施設で育ち、仲間達からはいつも末っ子のような扱いを受けていた二人は、その単語にニヤけてしまっていた。

 

「だ、大丈夫デスよ! 思ったよりも痛くなかったデスし!」

 

「君こそ、痛くなかった?」

 

「うん! ぶつかった後に、こうやって受け身を取ったから!」

 

 そう言うとユウは、上体を後ろにそりバク転をした。少年のアクロバティックな動きに、二人は「おおー!」と手を叩いた。どうやらユウの高い柔軟性と、柔らかい体がクッションになり三人とも怪我をせずに済んだようだ。

 

「――――って! こんな事してる場合じゃないデス! 早く行かないと!」

 

 つい和やかな雰囲気になってしまっていたが、本来の目的を思い出した切歌が叫んだ。そんな彼女とは対照的に、調は小さな声で耳打ちした。

 

(でも、この子をこのままにして置けないよ?)

 

「そ、そうデス! 君、こんな所に居たら駄目デスよ!」

 

「そうなの? じゃあお姉ちゃん達は、どうしてここに居るの?」

 

「え?! そ、それはデスね……。こ、この子が、急に催してしまって!」

 

(え?!)

 

「そうなんだ……あ! さっきお手洗い見つけたから、案内するよ!」

 

「し、心配無用デスよ~! ここらでちゃちゃっと済ませちゃいますから大丈夫デスよ!」

 

(ジーーー)

 

「良いから良いから!」

 

「あ、ちょっと?!」

 

 手をバタバタと振って遠慮する切歌と、恨めしく彼女を見つめている調の手を取り、ユウは来た道を戻って行った。

 

「ほら、着いたよ!」

 

「あ、ありがとうデス!」

 

(ジーーーーー)

 

「ぼくも走り回って、したくなっちゃった。入ろ」

 

「あ! そっちは、男子トイレデスよ?」

 

「うん、ぼく男の子だし」

 

「「え?」」

 

「じゃあお先に!」

 

 二人が呆気に取られているうちに、ユウは青いスーツの男のマークが書かれた方へと入って行ってしまった。

 

「……絶対女の子だと思ったデスよ」

 

「うん。わたし達よりも可愛かった……」

 

 美しい黒髪や、紫色の瞳につい見惚れてしまった二人は、謎の敗北感を味わっていた。

 

「でも、何とかやり過ごしたデスかね……」

 

 緊張が解けたのか切歌が肩をがっくりと落とす。そんな切歌を、調が「ジ――」っと恨めしい視線を送り続ける。

 

「どうしたデスか?」

 

「わたし、こんな所で済ませたりしない、お姉ちゃんだもん」

 

「さいデスか……」

 

 年下相手に、謎のキャラ付けをさせられていた事に、調は不満を覚えていた。

 

「と、とにかく! あたし達は早くマリアの下に!」

 

「でも、あの子はどうするの?」

 

「あ〜えっと〜……そうだ、こうするデスよっ!」

 

 切歌はポケットから一枚の地図を出すと、マジックで文字を追加する。それはマリアから渡されていた、一般人の避難誘導用の地図だった。切歌はそこに「ここが出口デスっ!!!」と字と印をつけ壁に貼った。

 

「これであの子も避難出来る筈デス! さぁ、マリアを助けに行くデスよ!」

 

「うん!」

 

 力強く頷き合った二人は、目的地であるステージを目指して駆け出した。

 

「ふ〜ふふ〜ん! あれ? お姉ちゃん達は?」

 

 用事を済ませたユウがトイレから出てくるが、辺りに二人の姿がない事を不思議に思う。

 周りをキョロキョロ見回すと、壁に一枚の地図が貼ってあるのが見えた。先程切歌が貼った地図だ。

 

「そっか、ここが出口なんだ。お姉ちゃん達は先に行ったのかな? とにかくぼくも行かないと!」

 

 壁から地図を剥がしたユウは、印のついた場所を目指した。

 しかしそれは、切歌達の想定した場所とは真逆の方向だった。何故なら切歌は間違えて、“自分達用の脱出経路の地図”を貼っていたからだ。

 

 

  ☆

 

 

 状況の把握に努める二課指令室に防衛相からの通信が入った。通信モニターには、そばを啜っている老人が映った。

 

「柴田事務次官?!」

 

『厄ネタが暴れてるのはそっちだけじゃなさそうだぜ。少し前にさかのぼるがな』

 

 彼は日本の国外務省事務次官であり、複雑化極まる現在の世界情勢を相手取り、日本の国益と異端技術の結晶であるシンフォギア・システムを守るべく奔走してくれている。今の日本政府の中では数少ない、弦十郎が信頼できる人の一人である。

 柴田はそばを啜りながら新たなる敵、武装組織フィーネに関する情報を弦十郎に話し始めた。

 彼が言うには、米国の聖遺物研究機関でトラブルが発生し、今まで解析してきたデータがだめになったばかりか保管していた聖遺物までもが失われた。との事だ。

 

「こちらの状況と連動していると?」

 

 質問しながらも、弦十郎自身も今回の一件が全て偶然起きたとはとても考えられなかった。

 

  ☆

 

 《フィーネ》の名を語った、黒のガングニールを纏ったマリアは、マイクを構え人質を取った理由と要求内容を告げる。

 

『我ら武装組織フィーネは各国政府に対して要求する。そうだなぁ……差し当たっては、国土の割譲を求めようか!』

 

「馬鹿な……!」

 

『もしも二十四時間以内にこちらの要求が果たされない場合は、各国の首都機能がノイズによって憮然となるだろう……』

 

「何処までが本気なのか……」

 

 一両日中の国土割譲なんて、まったく現実的ではない。そんな事は未成年である翼でも分かっていた。

 

「私が王道を敷き、私達が住まうための楽土だ。素晴らしいと思わないか?」

 

「何を意図しての語りか知らぬが……」

 

「私が語りだと?」

 

「そうだ! ガングニールのシンフォギアは、貴様のような輩に纏えるようなものではないと覚えろ!」

 

 真っ直ぐな正義を貫き通す、それこそがガングニールの真の姿。そんな親友達が纏うシンフォギアを汚されたように感じた翼は、激情のまま己の聖遺物を握りしめた。

 

『待ってください翼さん! 今動けば、風鳴翼がシンフォギア装者だと全世界に知られてしまいます』

 

「でも、この状況で!」

 

『落ち着け翼』

 

「奏……」

 

『お前の気持ちは痛いほどよく分かる。でもここで正体を晒せば、もうユウと一緒に居れなくなる。あの子を悲しませる事になるんだぞ?』

 

「くっ………………ギリッ!」

 

「どうしたの? 確かめたらどう? 私の言ったことが語りなのかどうか……」

 

 挑発するようなマリアの言動に、翼は歯噛みをするが、ここで熱くなって皆に迷惑をかけるわけにはいかなかった。

 二人は無言で睨み合い、静寂が訪れる。

 

「なら……」

 

 その拮抗状態を破るべく、マリアが観客たちに告げた。

 

『会場のオーディエンス諸君を開放する! ノイズに手出しはさせない。速やかにお引き取り願おうか!』

 

「なにっ?!」

 

 マリアの言う通り、周りのノイズ達は一歩も動く気配がなかった。早くこの場を立ち去りたかった観客達は、遠慮する事なく、次々と会場を後にする。

 

「ユウくん……無事でいてね……」

 

 その中には未来達の姿もあった。ユウの事は心配だったが、自分達がここに居ても邪魔になるだけなのは分かっている。

 

(私も、響達みたいに戦えれば……)

 

 未来はユウの身の安全を祈りながら、会場を後にした。

 

「もう一つ、サービスよ」

 

 マリアがマイクのスイッチを押すと、辺りに映し出されていた、世界各国のモニターが消失した。

 つまり今は誰もこの場を見ていないと言う事だ。

 

「何が狙いだ?」

 

 人質を開放し、翼の弱味を消す。有利な状況を自分から消したマリアの行動に、翼は理解が及ばなかった。

 しかしそれは向こう側も同じようだ。

 

『何が狙いですか? こちらの優位を放棄するなど、筋書にはなかったはずです。説明してもらえますか?』

 

 マリアのギアに搭載された通信機から、老いた女性の声が聞こえてきた。

 

「このステージの主役は私……。人質も、丸腰の相手を嬲るのも、私の趣味じゃないわ」

 

『血に汚れることを恐れないで。……はぁ、調と切歌を向かわせています。作戦目的をはき違えないようにおやりなさい』

 

「了解マム。…………ありがとう」

 

 淡々と言い切るマリアに、呆れながらも彼女の意思を尊重する。そんな彼女にお礼を言うマリアは、まるで母親に我儘を言う娘のようだった。

 

「観客はみな退去した。これで思う存分戦えるはずよ」

 

「マリア……貴様は……」

 

「シンフォギアを纏っていない貴女を倒したところで意味がない。さあ纏いなさい、貴女の覚悟の歌を!」

 

 彼女の本心はまだ読めない。しかしここまで言われて引き下がれる翼では無かった。もし例え緒川や弦十郎が止めようとも、この歌を止めるつもりは無かった。

 

「Imyuteus Amenohabakiri Tron……」

 

 ステージを跳び降り、ノイズの群れへと飛び込みながら歌う。フォニックスゲインのバリアーが周りのノイズを吹き飛ばし、光が収束した後には、天羽々斬を纏った翼の姿があった。

 翼はアームドギアを構え、辺りのノイズを切り裂く。民間人の被害を考え、先にノイズを優先して倒す事にしたようだ。

 

 《蒼乃一閃》

 

 大太刀から放たれたエネルギーの斬撃が、ノイズ群れに真っ直ぐなラインを作り出した。

 

 《逆羅刹》

 

 出来た隙間に両手から着地した翼は、そのまま体を回転させ、展開した足のブレードで次々とノイズを細切れにしていった。

 響とクリス同様、エクスドライブを経験した翼もまた、そのギアをパワーアップさせており、この程度のノイズなど相手では無かった。

 すべてのノイズを殲滅した翼はマリアの待つステージに舞い戻り、剣を構える。

 ライブステージの上で二人の装者がにらみ合う。

 

「いざ、押してまいる!」

 

 先に動いたのは翼だ。

 翼の連撃をマリアは舞うように回避。反撃とばかりにマリアのマントによる攻撃を、翼は剣で払うが予想以上の重さに押され後退する。一見ただの布かと思われていたが、あれも立派なギアの一つなのだ。

 翼は何とかマントを弾き、その衝撃で距離を取った。

 

「このガングニールは、本物?!」

 

「ようやく御墨をつけてもらった。そうだ、これが私のガングニール。何物をも貫き通す、無双の一振り!」

 

「だからとて! 私が引き下がる道理など、ありはしない!」

 

 まるでドリルのように高速回転するマントの刃を受け止める。間違いなく本物の重み。ならばこそ、翼は引けない。友と同じガングニール、その力をこんな事に使われ、許すことなどできないからだ。

 

『マリア。フォニックゲインは現在、二十二パーセント付近をマークしています』

 

(まだ七十八パーセントも足りてない?!)

 

 再び聞こえてきた女性の声にマリアが動揺を見せる。その隙を見逃すほど防人たる翼は甘くない。マリアの攻撃を弾き、両大腿部から射出された二本目の剣を手に持つ。

 

「私を相手に気を取られるとは!」

 

 両の柄同士を連結させた瞬間、刃が炎を纏い、それを風車のごとく振り回す。印を結び、脚部と腰部のブースターを点火してマリアに炎の一撃を与えた。

 

 《風輪火斬》

 

「ぐぅ……!」

 

「話は、病院のベッドで聞かせてもらうッ!」

 

 大技を喰らい動きの鈍ったマリアへと追撃を加えようとしたその時、空から円状の物体が翼を襲った。

 

《α式・百輪廻》

 

 それは無数の鋸、翼は咄嗟に剣を回転させその攻撃を防ぐ。

 そうして動きの止まった翼へと、ピンクのギアを纏った調が追撃を仕掛ける。

 

「行くデス! ハァッ!」

 

 翼の動きを固定させ、その背後から緑のギアを纏い、切歌が大鎌を構える。鎌の刃が分裂し、まるでブーメランのように投合した。

 

《切・呪りeッTぉ》

 

 その場に固定されていた翼は、死角からの挟撃に対応出来ない。二人の見事な連携に翼は吹き飛ばされてしまった。

 

「危機一髪……」

 

「まさに間一髪だったデスよ!」

 

「装者が……三人?!」

 

 膝をついたまま翼は驚愕する。ただでさえ貴重な聖遺物。しかもそれに適合する人間はさらに貴重とされている中、三人もの装者が一つの場所に集まるなど考えられなかったからだ。

 

「調と切歌に救われなくても、あなた程度に後れを取る私ではないんだけどね?」

 

「貴様みたいなのはそうやって……! 見下ろしてばかりだから勝機を見落とす!」

 

「っ?!……上かっ!?」

 

 翼の視線に釣られマリアが上空を見上げる。そこにはギアを纏ったクリスと響がヘリを飛び降り、此方へと向かっていた。

 

「土砂降りのぉ! 十億連発!」

 

《BILLION MAIDEN》

 

 調と切歌は左右に散会することで真上からの弾丸を回避し、マリアはマントをシールドにすることでクリスの弾丸を受け止める。

 続いて響の繰り出した拳を回避し、マントで一撃を繰り出す。しかし、響は翼を抱きかかえて飛び退き距離を取った。

 

「やめようよこんな戦い! 今日であったわたし達が争う理由なんてないよ!」

 

 同じ人間と戦う事に抵抗のある響は、かつてクリスにしたように説得を試みた。

 

「そんな綺麗ごとを!」

 

「綺麗ごとで戦うやつの事なんか、信じられるものかデス!」

 

 しかし三人の心は揺るがない。そもそも説得されたぐらいで辞めるぐらいなら、最初からこんな事起こさないだろう。

 

「そんな。話せばわかり合えるよ! 戦う必要なんか……」

 

「偽善者……! この世界には、あなたのような偽善者が多すぎる……!」

 

 その中でも特に苛ついた表情を見せる調が、ツインテールの形のアーマーを展開させ、中から大量の鋸を射出する。反応の遅れた響の前に、翼が躍り出て攻撃を防いだ。

 

「何をしている、立花!」

 

 その隙にクリスがガトリング砲で攻撃を仕掛ける。しかしマリアたちはその攻撃をかわすと、今度は切歌が大鎌を回転させ、銃弾を防御しながらクリスの方へと突っ込んできた。

 

「近すぎるんだよ!」

 

 切歌の攻撃を回避したクリスは、ガトリングをクロスボウに変化させ反撃した。それを鎌で返しながら切歌は再びクリスの方へと向かう。

 一方翼とマリアも激しく戦闘を行っていた。翼がマリアへと斬りかかるもののマリアのマントにすべて防がれ中々ダメージを与えられない。

 

「わたし達はただ……困っている人を助けたくて……」

 

 どうにか話をしようと、調の猛攻をかわしながら言葉を投げかけ続けるが、その声は届かない。

 

「それこそが偽善! 痛みを知らないあなた達に……誰かの為だなんて言ってほしくない!!」

 

 普段大人しい調にしては珍しく声を荒げ、伸ばした頭のアーマーから巨大な鋸を二枚投げつけた。

 

《γ式・卍火車》

 

 精神的動揺のせいか、動きのキレが悪い響を、クリスと翼が助ける。

 

「鈍臭いことしてんじゃねぇ!!」

 

「気持ちを乱すな!」

 

「は、はい!」

 

 二人に叱咤され、気持ちを入れ替えるが、やはりその声は弱々しかった。

 

「……この伸び率では、数値が届きそうにありません。最終手段を持ち入ります」

 

 その六人の戦いを離れた場所から見ていた女性は、目の前の端末に手を掛ける。その瞬間、ライブ会場で大きな変化が起きた。

 一瞬の光の後、ぶよぶとした緑色の物体が風船のように膨らみ、彼女達を見下ろした。

 

「増殖分裂タイプ……」

 

「こんなの使うなんて、聞いてないデスよ!」

 

「……マム?」

 

『三人とも退きなさい』

 

「……わかったわ」

 

 何か言いたそうなマリアは渋々了承すると、右腕のガントレットを変化させ槍を作り出した。

 

「アームドギアを温存していただと?」

 

 見覚えのある槍の形状。それは間違いなくガングニールのアームドギアだった。

 驚きを見せる翼を無視し、マリアは槍の先端を大型のへと向ける。

 槍の先端が展開し放電したかと思うと、そこから高濃度のフォニックスゲインを射出した。

 

《HORIZON†SPEAR》

 

 マリアの放ったレーザーは、ブヨブヨのノイズの体を撃ち抜いた。

 

「おいおい! 自分たちで出したノイズだろ?!」

 

 マリアたちがノイズを攻撃したのに対し驚愕するクリス。攻撃の際に放たれた閃光で目をくらまさせ、マリアたちは撤退を開始する。

 

「こっちデスよ、マリア!」

 

「ここで撤退だと?!」

 

「せっかく温まってきたところで、尻尾を巻くのかよ!」

 

 しかしそんな事を言っている場合では無かった。飛び散ったノイズの肉片が、多数に増殖し分裂し始めていた。

 

「放っておいたら、最限もねぇってか! そのうちここから溢れ出すぞ!」

 

 クリスの言う通り、こうして話しているだけでも、ノイズはどんどんとその体を肥大化させていく。この辺りの肉片が全て先程の大きさになれば、その被害は考えられるものではない。

 そんな時、緒川からの通信が入った。

 

『皆さん、聞こえますか? 会場のすぐ外には避難したばかりの観客たちがいます! そのノイズをここから出すわけには……!』

 

「観客……!」

 

 響の脳裏には、今回のライブを見に来ていた未来達やユウの顔が浮かび上がった。

 迂闊な攻撃では、いたずらに増殖と分裂を促進させるだけ、かといって放っておいてもノイズの増殖と分裂は止まない。そんな危機的状況を打破する方法を、響は提案する。

 

「……絶唱……絶唱です!」

 

「あのコンビネーションは未完成だぞ!!?」

 

 この三ヶ月幾度となくクリスと練習し、翼とも通信で話し合ったコンビネーション。しかしそれはまだ未完成のもので発動させ、それをうまく機能できる保証はない。それでも、この状況を打破できるには、それしかないのも事実である。

 

「増殖力を上回る破壊力を持って一気に殲滅……立花らしいが、理に適っている」

 

「おいおい、本気かよ!!?」

 

 翼は響の案に賛同している。クリスも反対してはいるが、この状況では他に方法が無いことも分かっていた。

 クリスが渋々了承すると、三人は手を取り合った。

 

「行きます! S2CAトライバースト!!!」

 

 手を握った三人は目を閉じ、同時に絶唱を唄う。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl……

Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

 本来なら命を賭ける捨て身技。しかし三人に恐怖はなかった。それを手を取り合う仲間を信じているからだ。

 

「スパーブソング!」

 

「コンビネーションアーツ!!」

 

「セット! ハーモニクス!!!」

 

 三人が絶唱を唄い切ると同時に、彼女達から通常の絶唱とは比べ物にならない凄まじいエネルギーを解き放たれる。絶唱のバックファイアが三人を襲うが、三人はその反動を制御し響に集中させる。

 

「耐えろ! 立花!」

 

「もう少しだ!」

 

 《S2CAトライバースト》は装者三人の絶唱を響が調律し、一つのハーモニーと化する裏技。それは手を繋ぎ合うことをアームドギアの特性とする響だけにしかできない。だがその負荷は響だけに集中させる。これによって、ノイズの身体は抉れていき、その骨格が現れる。

 

「今だ!!」

 

 翼の声に反応した響は、両腕のガントレットを右腕に連結させ、絶唱のエネルギーをこの拳に集約させる。ガントレットパーツが回転し、響は絶唱のエネルギーを保ち、構える。

 

「一撃必殺の拳を!!!」

 

「ぶちかませ!!!」

 

「これがわたし達の……絶唱だああああああああああああああ!!!!!!」

 

 響は腰部のブースターを展開させて、ノイズの増殖が始まるまでに強烈な拳を叩き込んだ。そして、4つのピックが展開し、それを回転させて、ハンマーパーツを解き放った。これによって虹色の竜巻を発生させ、ノイズを貫き、消滅させる。

 

「はぁ……はぁ……良かった、成功したぁ……」

 

「よくやった立花!」

 

「だけど休むのはもう少し後だぜ? アイツらまだ近くにいるはずだ、すぐに追うぞ!」

 

「はぁ……はぁ……………………うん!」

 

 息を整えた響が強く頷いた。三人はマリア達を追うため舞台裏へと向かっていった。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「早く早く! こっちデスよ!」

 

「はぁ……はぁ……分かってる!」

 

 切歌に先導され、あらかじめ予定していた脱出経路を走る。しかし廊下をかけるマリアの足取りは重く、先程の翼を翻弄した動きとはかけはなれていた。

 

「……あっ!」

 

 ついにふらつく足が絡れ、倒れ込みそうになる。そんなマリアを双方から切歌と調が受け止めた。

 

「ごめんなさい、二人とも……」

 

「無理しすぎ。“LiNKER”が切れかけてる」

 

「ええ、ギアがこんなにも重いなんてね。あの三人はこれを何なく背負えるんだから、理不尽なものね……」

 

 彼女達は正式な適合者ではない。奏と同じようにLiNKERによって無理矢理適合率を上げている“後天的適合者”である。その為ギアを纏うには時間制限があり、調達がやって来るまでずっとガングニールを纏っていたマリアの体は既に限界を迎えていた。

 

「切歌、そのスイッチを押して」

 

「は、はいデス!」

 

 マリアに渡されたマイクのスイッチを押すと、廊下の両脇が光り、廊下を挟むようにノイズの列が現れた。

 

「これで時間が稼げるわ」

 

 マリアの言う通り、そのノイズの列は彼女達が向かっている出口まで続いていた。もし翼達が追いたくとも、人に仇なすノイズ達を放置する事はできないはずだ。

 

「…………ねぇ切ちゃん。何か聞こえない?」

 

「え?…………これは声、デスか?」

 

 調に言われて切歌も耳を澄ませる。ここから遠くの方、自分達が目指している出口の方面で中性的な声が聞こえた。目を凝らしたマリアは、その声の正体に気がついた。

 

「――あれは!」

 

 

 

 

 

 

 

「ここが出口、だよね?」

 

 切歌が貼った地図を手に持ったユウは、ようやくその場所へと来れていた。

 

「いっぱい時間かかっちゃった。まだライブやってるのかな?」

 

 その割には音らしいものは聞こえない。ユウが不安になりながら出口のドアに手をかけた瞬間、両方の壁からノイズが出現した。

 

「え? ノイズ?!」

 

 ユウは慌てて距離を取ると、パーカーの上から淡い光を放つ、胸元のティグの紋章(ペンダント)を握る。

 

(ダメだよ。こんな所で、君の力を使う訳には……)

 

 自分を守るように光る紋章を、握りしめて抑える。

 周りの生物を狙うように設定されているのか、ユウの存在に気がついたノイズ達は、ジリジリと距離を詰めてくる。

 

「わっ?!」

 

 後ろに下がっていたユウが、下を這うコードに足を取られてしまい尻餅をついてしまった。その瞬間、周りのノイズ全てが一斉にユウへと飛びかかった。

 

「ハアァッ!!!」

 

 しかしそのノイズ達が少年の柔肌に触れる事はなかった。飛び掛かって来たノイズ達は、赤黒い閃光によって無惨な姿へと変えられたからだ。

 

「え?……マリア……さん?」

 

「………………」

 

 目を開いたユウの目の前には、大きな槍を手に持ったマリアが此方を見下ろしていた。

 

「君、大丈夫デスか?!」

 

「どうして此処に?」

 

「あれ? さっきのお姉ちゃん達……?」

 

 ユウは先程会ったばかりの少女達が、響達と同じようなギアを纏っている事に混乱していた。

 しかし彼女達にゆっくりとしている時間は無い。

 

「マリア、アイツらが来るデス!」

 

 切歌の言う通り、離れた廊下の向こうからノイズを蹴散らし此方へと向かってくる翼達の姿が見えた。いくら数がいても、この程度のノイズでは時間稼ぎにもならない。

 

「早く行かないと!」

 

「でも、この子はどうするの?」

 

 すぐに退かなければ追い付かれる。しかし時間稼ぎの為にノイズを置いておけば、目の前のこの子がノイズに襲われてしまう。

 

「くっ………………」

 

 マリアの中に葛藤が生まれる。「血を流すのを恐れないで」先程言われた言葉が脳裏を巡る。彼女の言う通り生半可な覚悟では、アレだけの力を持つ響達に勝つのは難しいだろう。

 

「「マリアっ!」」

 

「…………一緒に来なさい!」

 

「え?……わあっ!?」

 

 それでもマリアは、目の前のこの小さな命を捨てる事は出来なかった。

 ユウの体を起こすと同時に片腕で抱え上げ、ノイズ達を囮にして出口を出た。

 

「おい、アイツらあそこ! ってアレは…………」

 

「ユウくんっ?!」

 

 ノイズを蹴散らすクリス達もその存在に気が付いた。

 

「ユウくーーーーーーーんッ!!!」

 

「「私(アタシ)の弟に何をするッ!!!」」

 

 マリアがユウを抱えているのに気がついた瞬間、三人の動きが倍増した。クリスや翼だけでなく、意気消沈していた響ですら、修羅の如くノイズを蹴散らし突き進んでいた。

 

「アイツら、スピードが上がりましたよっ!?」

 

「まだアレだけ動けるなんて……流石は正規適合者」

 

「馬鹿な事を言ってないで早く乗るのよ!」

 

 マリアに急かされ、二人も上空でホバリングしている大型ヘリ、エアキャリアへと飛び乗った。

 響達が最後のノイズを倒した頃には、既にヘリは遥か上空へと上昇していた。

 

「逃がさん!!!」

 

「撃ち落としてやる!!!」

 

「ちょっと待ってください! ユウくんに当たったらどうするんですかっ!?」

 

 大太刀とガトリングを構え、ヘリを迎撃しようとする二人を、響が押し止める。そうしている内にユウを乗せたヘリは、雲に隠れ見えなくなってしまった。

 

「「「ユウ(くん)ーーーーーーーーッ!!!」」」

 

 空へと手を伸ばす三人の絶叫が、崩れたライブ会場にこだました。

 

 

 

 

 

 

 

  ☆






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