シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第二十二話 終焉を望む者、終焉を臨む者

  ☆

 

 

 

 

 

 ユウが攫われてから、つまりマリア達《フィーネ》によるライブ会場襲撃から一週間が経とうとしていた。

 この一週間、武装組織フィーネによる動きはなく、表向きは平和な日々が続いていた。

 

「…………」

 

 変わらない授業景色。いつもの日常の中、響の心はここにあらずとなっていた。

 

『わたしはただ、困ってる人を助けたいだけ! だから……っ!』

 

『それこそが偽善! 痛みを知らないあなたに、誰かの為になんて言ってほしくない!!』

 

 彼女が思い浮かべるのは、一週間前の襲撃でぶつかり合った調とのやり取りだった。

 

(わたしが戦う理由……自分の胸に嘘なんてついてないのに……)

 

 調に言われた事が心の奥底に突き刺さって、彼女の中に迷いを生んでしまっていた。

 

「立花さん。何か悩み事でもあるのですか?」

 

するとそこへ担任の教師が響に声を掛けてきた。

響は担任教師の問いに上の空のまま答えた。

 

「はい…悩んでます…」

 

「秋ですものね。立花さんにだって、いろいろ思うところがあるんでしょう……たとえば私の授業よりも大事な」

 

「はい………………えっ?!」

 

 そこでようやく響は、今が授業中であることを思い出した。見渡すと隣の席にいた未来は呆れた様子をしている。未来も気づかせようと声をかけたが、心ここに在らずの響には届いていなかったようだ。

 

「新校舎に移転し、三日後には学祭も控えて、みんな新しい環境で新しい生活を送っているというのに。あなたときたらいつもいつも…。いつもいつもいつも――」

 

 三ヶ月経っても変わらない響の姿に、担任は怒りのボルテージを上げていく。

 この後、響の余計な一言のせいで目の前の火山が爆破したのは言うまでもない。

 

(はぁ………………ユウくんに会いたい…………ユウくん)

 

 そんないつもの光景を見ながら、未だ行方不明の少年に思いを馳せていた未来もまた、ボーとしながらノートを書き込む。

 

(ユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくん)

 

 自分でも気づかない内に、自らのノートのページいっぱいにユウの名前を刻んでいた。この後ノートを回収した担任が、未来のノートを見て大きな悲鳴を上げることになるのは別の話である。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「ふ〜ふふ〜ふふふ〜ん!」

 

 皆の心配とは裏腹に、ユウは楽しそうに鼻歌を歌いながら廃病院の掃除をしていた。

 

「あ、落としちゃった!」

 

 掃除を終えた後、ナスターシャの為の薬を運んでいる途中、その中の一つがユウの腕からこぼれ落ちた。円柱のケースはユウによって整理された廊下を転がり、地下への階段を落ちていった。

 大事な薬を回収しようとユウも階段を降りる。薬は階段の一番奥で止まった。

 

「あれ? こんな所に部屋あったんだ」

 

 所々が錆びついた古い扉。よく見ると錠前が外れて僅かに扉が開き、中から闇が顔を覗かせていた。

 恐怖心を煽るその光景。しかし子供特有の好奇心を強く持つユウは、未知の空間の発見にウズウズしていた。

 

「おじゃましま〜す……」

 

 恐る恐る中に入る。案の定扉の向こうは暗く、僅かな蛍光灯が照らす程度だった。

 足元を踏み外さないように探っていると、服の下のティグの紋章が光を放つ。強い光ではなく懐中電灯程度の僅かな光、それでも視界を確保するには十分だった。

 

「えへへ、ありがとう!」

 

 自分を気を遣うように光るティグの紋章にお礼を言うと、ユウは歩みを進めて行く

 しかし暗闇の為かユウは気付いていなかった。彼が通った扉の端に立ち入り禁止の看板が置いてあったことに。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 切歌と調は体の汚れを落とす為、一緒にシャワーを浴びていた。何年も見慣れた体同士、特に恥ずかしがる様子もなく世間話を始める。

 

「でね! 信じられないのは、それをご飯にざっばーっとかけちゃったわけデスよ。絶対におかしいじゃないデスかそしたらデスよ…………?」

 

 話の途中、調べの反応が薄いことに気がつき横を見る。髪を下ろした調は、シャワーに打たれながら何やら思い詰めている様子だった。

 

「……まだ、あいつの事気にしてる……デスか?」

 

「うん。何も背負ってないあいつが、人類を救った英雄だなんて。わたしは認めたくない」

 

「うん……本当にやらなきゃいけないことがあるなら、たとえ悪いと分かっていても背負わなきゃいけないものだって……」

 

 そう言ってシャワーを止めた調は、思いっきり壁を殴りつける。その拳は怒りに震えていた。

 

「困っている人たちを助けるというのなら、どうして……」

 

 彼女の気持ちに何やら思うことのある切歌は、ただ黙って赤く腫れた調の手を優しく包み込む。

 浴室の扉が開き、入室したマリアもその長い髪にシャワーを浴びせる。

 

「それでも私たちは私たちの正義とよろしくやっていくしかない。迷って振り返る時間は残されてないのだから……」

 

 それはまるで自身に言い聞かせているようだった。覚悟を語るその目はとても弱々しいものだった。

 そんなマリアを調達は心配そうに見つめ、静寂が辺りを包む。

 そんな静かな空間を壊すように警報アラームが鳴り響いた。

 

 

  ☆

 

 

「……なにか聞こえる」

 

 警報が鳴る少し前。暗い地下の道を歩いていると、奥の方から唸り声のようなものが聞こえる。

 獣の唸り声のような、おどろおどろしい声にユウはまるで引き寄せられるように歩みを進めた。

 

「誰か居るの……?」

 

 数メール先に影の盛り上がりが見える。モゾモゾと揺れる姿から、それが生物である事は予測出来た。

 しかし胸からの光で照らされたその姿は、今までに見たことの無い異形の生物。四つ足で這い、黒い甲殻に覆われた黒いの姿は、トカゲとも虫とも言えない未知の生き物だった。

 

「GRuuuuuuuuu……」

 

 その生き物は、低い唸り声を上げながら、獲物を品定めするようにゆっくりと此方に向かって来る。

 ユウはその姿に、三ヶ月前に暴走した時の響の姿が重なった。

 

「GRaaaaaッ!!!」

 

 化け物が飛び掛かる。ユウは反射的に横に飛び直撃を避けたが、その後ろの壁に鋭い爪痕が刻まれる。

 

(逃げないと……!)

 

 来た道を戻ろうとする。しかしその道は、いつの間に出現したシェルターによって封鎖されてしまった。

 

 

  ☆  

 

 

 ナスターシャが目の前のパネルを操作し、病院内のシャッターが閉まる。強固に何層も閉じられる姿は、まるで何かを閉じ込める檻のようだった。

 

(あれこそが伝承にも絵がかれし、共食いすらいとわぬ飢餓衝動……。やはりネフィリムとは、人の身に過ぎた……)

 

「人の身に過ぎた、先史文明期の遺産……とかなんとか思わないでくださいよ?」

 

「ドクターウェル……」

 

 暗影から姿を見せたウェルが、まるで彼女の心を見透かしたように言う。

 

「たとえ人の身に過ぎていても、英雄たるものの身の丈にあっていれば、それでいいじゃないですか」

 

 そう言って見せる笑顔は、どこか淀んでいるように見えた。

 すると警報に反応したマリア達が慌ただしく姿を見せた。

 

「マムっ……!」

 

 ウェルの存在に気がついた三人が、キッと睨み付ける。しかしウェルは全く気にした様子がなく、まるで酔いしれるように、モニターを覗き込んでいた。

 

「これがネフェリム……『天より来る者達』『神の子』そして『巨人』。素晴らしい! これぞまさに、あの光の超人(ウルトラマン)と同等の力! 我々が英雄へと到達する為の道標(みちしるべ)っ!!」

 

 テンションを上げ意味不明な事を叫んでいるウェルを、怪訝な目で見つめる。

 

「心配してくれたのね? でも大丈夫。ネフィリムが少し暴れただけ、隔壁を下ろして食事を与えているから、じきに納まるはず」

 

 落ち着いた様子のナスターシャとは反対に、激しい衝撃で施設が揺れる。

 

「マム!」

 

「対応措置は済んでいるので大丈夫です」

 

 マリアはナスターシャを信じているが、ネフィリムとは過去に因縁がある為に余計に不安を駆り立てる。

 

「あれ? ユウはどこデスか?」

 

「あの子がどうしたの?」

 

「マムに薬を持って行ってくれるって言ってたデスから、てっきりこの部屋にいると思ったのデスが……」

 

「坊やが? 彼は来ていませんが……」

 

「……………………まさかっ!?」

 

 嫌な予感を感じたマリアが、ウェルを押し退けパネルを操作する。カメラの位置をずらして視界を広げると、その端に長い髪の少年の姿が映った。

 

「ユウっ?!」

 

「な、なんであんな所に居るデスっ?!」

 

 見覚えのある少年の姿に、調と切歌が声をあげる。

 

「マム、直ぐにシャッターを開けてッ!」

 

「分かりました!」

 

 マリアは直ぐに部屋を飛び出し地下を目指した。調と切歌もその後へと続いていく。

 

「まったく。子供一人に大忙しですね」

 

 ウェルはその光景をつまらなそうに見ながら、メガネの位置を整える。

 

(しかし……何故ネフェリムは、あそこまであの子供を狙うのでしょうか?)

 

 ネフェリムを抑える為に、既に奴の餌を放っている。にも関わらず、ネフェリムが餌を無視してユウの方を向いていた事に疑問を覚えていた。

 

 

  ☆

 

 

「うわっ!?」

 

 ついに逃げきれず、ネフェリムの腕に引っ掛かり、隔壁に叩きつけられる。

 弱った獲物を品定めするように、黒い獣がにじり寄って来る。

 ティグの紋章がユウを守るように光り、ネフェリムを威嚇する。

 

(無理しちゃダメ……まだキミは、力が戻ってないんだから……)

 

 光を強めようとするティグの紋章を握りしめて抑える。しかしネフェリムは止まらない。寧ろ光るティグの紋章を見て舌舐めずりしながら、ユウとの距離縮める。

 背後は隔壁で遮られているせいで逃げ場は無い。

 今にもネフェリムが飛び掛かってこようとした、その時。

 

「ユウ! こっちに来なさいッ!!」

 

 隔壁が僅かに開き、ガングニールを纏ったマリアが、こちらへと手を伸ばす。そのままユウの首根っこを掴むと、密室から引っこ抜いた。

 

「わぁっ?!」

 

「マム! 直ぐに閉めてッ!」

 

 ユウを救出すると直ぐに隔壁が閉まる。同じくシンフォギアを纏った調と切歌が扉を押し込み速度を上げる。

 獲物を奪われたネフェリムが、唸り声を上げながらこちらへと向かって走る。

 あと少しというところで僅かにネフェリムの速度が勝り、隔壁の隙間に爪を挟みこじ開けようとする。

 

「くっ!……コイツ!」

 

「邪魔するなデスッ!!」

 

 二人も推す力を込めるが、ネフェリムの勢いに負け

しているのか徐々に開かれていく。僅かに空いた隙間から首を突き出したネフェリムが、ユウの胸元へと食いつこうとする。

 

「消えろッ!!!」

 

 首を伸ばすネフェリムの頭部を、マリアが殴り付ける。マリアの一撃を喰らった黒い獣は、弾かれたように部屋の奥へと押し飛ばされ、その隙に門を閉じ、完全に封鎖させた。

 ユウを助ける為の一撃だったが、拳を握りしめるマリアの目にはそれ以上の殺意が込められていた。

 

「いたた……ありがとう、マリアさ――」

 

 バチンッ!

 

「ま、マリアっ!?」

 

 変身を解いた彼女達に、お礼を言おうと近づいたユウの頬をマリアが叩いた。

 

「一人でこんな所へ来て……もし死んでしまったら、どうするのっ!!!」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 ユウの肩を掴み、凄い形相で叱る。いつもなら割り込んでくる調達も、そのマリアの雰囲気に何も言えなくなっていた。

 申し訳なさそうに俯くユウに背を向ける。そのままその場を後にしようした時、マリアの膝が崩れた。

 

「マリアっ! うっ……」

 

「切ちゃん…………うぅ」

 

 倒れそうになるマリアを助けようとした切歌、そして調もまた同じように膝をつく。

 

「ど、どうしたのお姉ちゃん達!?」

 

「やれやれ。まさかLiNKERを使わずに行ってしまうとは、どれだけ焦っていたのやら」

 

 暗闇から姿を現したウェルが、手に持った注射器に薬を装填すると、倒れ込む三人に撃ち込んだ。

 

「ぐ……助かったわ、ドクター……」

 

 薬が効いたのか、フラつきながらも三人は立ち上がる。お礼を言うマリアとは反対に、調と切歌は面白くなさそうに唇を尖らせている。

 

「まったく。こんな事では先の事が思いやられますね。ねぇ、フィーネ?」

 

「……え? フィーネって、どう言う事なの?」

 

「そう言えは君には話していませんでしたね。このマリアの魂には、かつての月の破壊者フィーネの魂が宿っているのですよ!」

 

「…………本当なの? マリアさんの中に、フィーネさんが?」

 

「ええそうよ。私の胸の内には、フィーネの魂が宿っているの」

 

「……………………そっか」

 

 マリアの目を見据えたユウは、ただ一言呟いた。

 

「さて、ナスターシャ教授は、これからフロンティアの視察に出るのそうです。なので御三方も準備してください」

 

「分かったわ。切歌、調、それと…………」

 

 ユウの方を見て止まる。今さっき危険な目にあった彼を連れて行くべきなのかマリアは悩んでいた。

 

「よろしければ彼の面倒はボクが見ておきましょうか?」

 

「……いえ、結構よ。ユウ、来なさい」

 

「う、うん!……」

 

 ウェルの提案を、すっぱりと断る。先日まで厄介者扱いしていたユウに対し、そんな提案をするなど怪しすぎるからだ。ウェルは笑顔を見せるが、マリア達はそれがとても歪んだものに見えた。

 マリアは三人を連れその場を後にし、後に残されたウェルはそっと閉じられた隔壁を撫でた。

 

(ふむ…………………………まぁいいでしょう。“餌”は他にもありますからね。さて、獲物はかかってくれるでしょうか?)

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 

「ここに居なさい」

 

「……うん」

 

 マリア達の移動大型ヘリ《エアキャリア》の一室に案内されたユウは、渋々部屋の奥へと入る。ユウが入った後、マリアは部屋の扉を閉めると外からロックをかけてしまった。

 

「…………どうして」

 

 先程マリアに叩かれ、赤くなった頬に手を添えながら考え事をする。

 そうして数分後、部屋の扉が開かれた。

 

「ユウ、居る?」

 

「調お姉ちゃん?」

 

 入って来たのは調だった。彼女はベッドに座るユウを確認すると、その隣にちょこんと座った。

 

「切歌お姉ちゃんは?」

 

「むぅ……わたしより、切ちゃんの方がいいの?」

 

 二人きりの状況で、自分よりも切歌の名を出され調は不機嫌そうにしている。

 

「んーん。でも二人ともいつも一緒にいるから」

 

「うん。切ちゃんは、いつもわたしを守ってくれる」

 

「二人は仲良しさんなんだね!」

 

「うん大好き。切ちゃんの事も、マリアの事も……」

 

 クールだが優しい声色で調は答える。すると彼女は赤く腫れたユウの頬に、優しく指を添えた。

 

「……マリアの事、嫌いにならないでね?」

 

「嫌いになんてならないよ。マリアさんは、ぼくの為に叱ってくれたんだから」

 

「そっか。ユウは、良い子だね」

 

 マリアの気持ちを理解してくれたユウの頭を優しく撫でる。同じ髪質の二人だからか、遠目に見ると本当の姉妹に見えた。

 

「えへへ〜!……あ、調お姉ちゃん怪我してるよ?」

 

「えっ? あ……さっき壁叩いた時……」

 

 自分と同じぐらい小さな手に、気持ちよさそうに頭を擦り付けていると、彼女の手の甲に擦り傷が出来ているのが分かった。

 先程怒りのままに壁を殴りつけた時、古い病院である為出来ていたささくれなどで切ってしまったのだろう。

 

「痛そう……ね、見せて?」

 

「え? あ……」

 

 ユウは調の手を取ると、元は物置だったのか部屋内にあった救急箱を使い手当する。

 

「でもどうして壁なんか叩いたの?」

 

 ユウは驚いていた。この数日間彼女達を見ていたが、特に調は三人の中でも大人しく、こんな風な感情的な動きをするとは思っていなかった。

 

「その……アイツの事を思い出して」

 

「あいつ?」

 

「ガングニールを纏った。あの綺麗事ばかりを言う偽善者……」

 

「もしかして……響お姉ちゃんの事? どうしてそんな事……」

 

 それが誰のことを言っているのか最初は分からなかったが、ガングニールの名を聞いて、それが響の事を指しているのが分かった。

 

「あの女は何も知らない。痛みも……世界の残酷さも、そくせに甘い戯言をほざいて、……わたしは、アイツが嫌い」

 

 包帯を巻いてもらった手を強く握りしめる。今にもまた何かを殴ってしまいそうなその手を、ユウは優しく包んだ。

 

「ユウ……?」

 

「ねぇ、響お姉ちゃんとお話ししてみたら?」

 

「……えっ?」

 

「響お姉ちゃんすっごく良い人だよ? 確かに響お姉ちゃんは知らない事は多いのかも知れないけど、調お姉ちゃんも響お姉ちゃんの事よく知らないでしょ?」

 

「それは……」

 

「お父さんが言ってたんだ。争いはお互いの事をよく知らないから起きるって。ぼく調お姉ちゃんの事も、響お姉ちゃんの事も大好きだよ! 二人ともとっても良い人なのに、お互いの事よく知らないで喧嘩しちゃうなんて勿体無いと思うんだ」

 

 調の正面に立ったユウは、ベッドに座る彼女を笑顔で見下ろした。幼いながらも整った顔つきに見つめられ、つい顔を逸らしてしまう。

 

「………………か、考えておく」

 

「うんっ! 大丈夫、きっとお姉ちゃん達なら仲良くなれるよっ!!」

 

(ドキッ!?)

 

 自分を見下ろす眩しい笑顔に調の胸が高鳴った。初めての感覚に戸惑う調。

 

(な、なに?……今の感覚……)

 

「響お姉ちゃんってね、すっごく優しいんだ! それに強くてカッコよくて、あとあとすっごく可愛い! だからぼくお姉ちゃん大好きなんだ!」

 

(……………………やっぱり、アイツ嫌い)

 

 そんな彼女に少しでも仲良くなってもらおうと、響の魅力を伝えようとするが、それが逆に調の嫉妬心を煽ってる事にユウは気がついていなかった。

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 

『いいか! 今夜中に終わらせるつもりでいくぞ!』

 

『明日も学校があるのに、夜半の出動を強いてしまい、すみません』

 

「気にしないでください。これが私達、防人の務め。そして愛するユウの為です!」

 

「うん! 絶対にユウくんを取り戻しますッ!」

 

「そんであのショタコン女共に、目に物見せてやる!」

 

 謎の団結力を見せる二課の装者達は現在、マリア達が隠れ家としている廃病院の前へと来ていた。

 

「しっかし、本当にこんな所にユウが居るのか?」

 

『あの子のバッグには発信機を仕込んである。少なくとも何かのヒントはあるはずだ』

 

 あの日ユウがライブに持って行ったカバンは、弦十郎からのプレゼントだった。表向きはお手伝いのご褒美と言う形で渡していたが、実際は彼の身を心配した弦十郎が、何かあった時のために助けられるように仕込んだものだ。

 この数日は妨害電波などのせいか正確な位置を特定する事は出来なかったが、ほんの一瞬だけこの場所で反応が出たのをオペレーター達は見逃さなかった。

 

「二人とも、今回の目的はユウくんの救出なんですから、喧嘩しないでくださいよ?」

 

「分かっている、今は一時休戦だ」

 

「ああ、任せとけ!」 

 

 クリスが先陣を切り廃病院を駆け抜ける。

 薄暗く今にも何か出てきそうな暗闇。普段の彼女達なら恐怖心を感じる所だが、この先に愛するユウが居ると考えると、そんな事はどうでも良かった。

 

「……あっ! 翼さんコレっ!?」

 

「これは……叔父様が言ってた発信機?」

 

「反応もここで合ってる。間違いない」

 

 響が見つけたのは、ユウがマリアからサインを貰おうとした時に落ちた機械。それこそがユウに持たせていた発信機だった。

 

「って事は、ユウはもう此処には居ないって事かよ!」

 

『諦めるな! まだ何か手がかりがあるかも知れん!』

 

 弦十郎の一言で気合いを入れ直した三人は、再び探索を進める。

 

「おもてなしと行きましょう……」

 

 それを別室からモニタリングしていたウェルが、キーボードのボタンを一つ押すと、ダクトから特殊なガスが散布される。同時に彼が召喚したノイズがクリス達の前に姿を見せた。

 

「……意外に早い出迎えだぞ」

 

「……の野郎ぅ! こちとら弟に会えずにイライラしてるってのに! 邪魔すんじゃねぇ!!」

 

 落胆していたクリスが、奥から現れるノイズ達に怒りを見せると前に躍り出た。

 

「Killter Ichaival Tron……」

 

 クリスが深紅のギア《イチイバル》を纏い、両腕部装甲をガトリング砲に変形させ、無数のノイズを塵へと変えていく。

 

 《BILLION MAIDEN》

 

 ある程度のノイズは減らせたが、後続のノイズが現れ、先ほど撃破した数よりも増していた。

 

「やっぱり、このノイズは……!」

 

「ああ、間違いなく制御されている」

 

 人間を見つけたら一目散に襲ってくる自然のノイズと違い、じわじわとこちらの動きを制し取り囲むような動きを取る。間違いないなく何者かの指示によって動いている証拠だった。

 とは言え相手は普通のノイズ、大型でなければ飛行型でもない。あの戦いを生き抜いた彼女達の敵ではない。

 ――と思っていたが、様子がおかしい。

 

「なんでこんなに手間取るんだッ?!」

 

 クリスの矢による一掃。にも関わらず完全に破壊されなかったノイズ達は、残った部位を再生させ動きを再開させる。

 フォローに回った響や翼も同様、拳や斬撃によってダメージを与えているにも関わらず、ノイズは直ぐに再生してしまう。

 

「まさか、ギアの出力が落ちている……?!」

 

 敵は普通のノイズ、決して硬いわけではない。なら理由は一つ、翼達自身の攻撃力が落ちているのだ。

 己の纏うギアがまるで鉛のように重く感じ、なんて事のない動きですら疲労を感じる。

 力が思うように入らず疲労のせいか、徐々に部屋の中央に追い詰められる。

 

「――ッ?! 二人とも気を付けてッ!」

 

 すると突然、暗闇の中から異形のバケモノが響に襲い掛かった。咄嗟に拳で迎撃すると、再び襲い掛かってきたのを今度は翼が迎え撃つ。しかし大したダメージは見られない。

 

「アームドギアで迎撃したんだぞ?!」

 

「なのになぜ炭素と砕けない?!」

 

「まさか……ノイズじゃ、ない?」

 

「じゃあ、あの化け物は何だってんだ!」

 

 ノイズでもない異形の化け物。その存在に三人が動揺していると、奥からパチパチと手を叩く音が聞こえる。

 

「意外に聡いじゃないですか」

 

「ウェル博士っ?!」

 

 姿を現したのはウェルだった。化け物は彼に従うようにその足もとのゲージへと入った。

 

「…………つまりノイズの襲撃は全部……!」

 

「ソロモンの杖を奪うため、自分で制御し、自分に襲わせる芝居を打ったのか?!」

 

「バビロニアの宝物庫よりノイズを呼び出し、制御することを可能にするなど、この杖を置いて他にありません」

 

 杖を取り出し展開させたウェルは、さらに追加でノイズを召喚していく。

 

「そしてこの杖の所有者は、今や自分こそがふさわしい。そう思いませんか?」

 

「思うかよッ!」

 

 ソロモンの杖をまるでオモチャのように扱うウェルに、逆上したクリスが考える間もなくミサイルを放つ。

 

「ぐあぁッ?!!」

 

 ギアの出力が落ちている。それはつまり聖遺物との適合率が下がっている状態での大技。無理に聖遺物の力を引き出そうとしたバックファイアによって、技を撃ったクリスの方がダメージを大きくする。

 クリスのミサイルが廃病院の壁を破壊する。しかしそれのみで、出力の落ちた状態ではノイズの壁を突破出来ず、ウェルは無傷だった。

 

「――あれは?!」

 

「ノイズがさっきのケージをもって……!」

 

 空から奇怪な音が聞こえ、響がその方向を向くと、先程の化け物が入ったケージを、気球のようなノイズが移送しているのが見えた。

 

(さて。身軽になったところで、もう少しデータを取りたいところだけど……ん?)

 

 響が拳を構えると、ウェルはわざとらしく両手を上げ、降参の意を示した。

 

「立花、その男の確保と、雪音を頼む!」

 

 アレが一体何なのか、彼女達には分からなかったが、謎の生物を敵の手に渡す訳には行かない。

 翼は剣を抜刀し、ノイズ目掛けて一直線に駆け出す。

 

(天羽々斬の機動性なら……!)

 

『翼さん! 逃走するノイズに追いつきつつあります!ですが……!』

 

『指令ッ!』

 

 破壊力、制圧力ではガングニールやイチイバルに劣るが、二つにはない高いスピードと脚のスラスターを生かし高く飛翔する。

 しかしそれでも海の上を飛ぶノイズには届かず、落ちる翼の足元に鉄の塊が現れる。

 

『そのまま飛べッ! 翼ァ!』

 

 翼を援護するのは、二課の二課仮設本部である潜水艦の甲板だった。翼はそれを足場にしてさらに高くジャンプし、ノイズへと刃を向ける。

 翼の剣は見事にノイズの体を貫き、零れ落ちたゲージに手を伸ばす。

 しかしそれは黒い影に阻まれた。

 

「うあッ?!」

 

 横からの力に翼の体は弾かれ、水飛沫を上げながら海へと落下した。

 

「翼さんっ?!」

 

「時間どおりですよ。フィーネ……」

 

「フィーネだと?」

 

 ウェルのフィーネという言葉に反応し、一層強くクリスが反応する。

 

「終わりを意味する名は、我々組織の象徴であり、彼女の二つ名でもある」

 

「まさか……じゃあ、あの人が……?」

 

「新たに目覚めし、再誕したフィーネです!」

 

 彼女達の視線の先に映るのは、見慣れたフィーネの姿ではなく、黒いガングニールを纏ったマリアの姿だった。飛来するゲージが彼女の黒い手に掴まれる。

 水面上に浮かぶ槍に立ち、光輪に照らされる姿はまるで神話の登場人物のようだった。

 

(ネフィリムを回収できたのは僥倖。だけどこの盤面、次の一手を決めあぐねるわね)

 

 派手な登場をしたは良いが、状況はマリア達の方が不利。数的不利をどう覆そうかと策を練っていると突然、水柱が上がり、その中から翼が飛び上がった。

 

「マリア・カデンツァヴア・イヴゥゥゥゥッ!!!」

 

 翼は着水すると、脚部のスラスターでホバークラフトのように海面を突き進み、マリアへと斬りかかった。

 

(ぐっ……重いっ!?)

 

 マリアは咄嗟にマントを翻して防御する。

 顔には出さないがその一撃の重さに驚愕する。ポーカーフェイスを維持しながら、渾身の力で翼を押し返す。

 足場を確保する為、二人は潜水艦の甲板に着地した。

 

「いきなりご挨拶ね、翼」

 

「先に仕掛けてきたのはそちらだろう。そんな事よりユウは無事なのだろうなッ!!」

 

「ええ、貴女の弟ですもの。丁重にもてなして、毎日可愛がってあげているわよ」

 

「「――なぁっ?!」」

 

「毎日……可愛がってる……だとぉっ……?!!」

 

 マリアの一言に翼だけでなく響やクリスも絶句する。

 マリア的には、毎日調と切歌がユウを溺愛している姿を見ての発言だったのだが、この一週間ピンク色の妄想をしていた彼女達にはクリティカルだった。

 

「なんて……なんて……羨まけしからんッ!」

 

 逆上した翼がマリアへと切り掛かる。

 マリアは手に持ったゲージを放り捨てると、代わりにアームドギアをその手に握る。彼女の手を離れたゲージは、まるで空に溶けるように姿を消すが、今の三人にはそれを冷静に判断する余裕が無かった。

 

「……の野郎ッ!」

 

 逆上しているのはクリスも同様。バックファイアで痛む体に鞭を打ち、響の静止を無視しボウガンを構える。

 遠距離からの援護、それを防ぐように緑の軌跡がクリスへと振り下ろされる。

 緑の大鋸である切歌のアームドギア。いち早く殺気に気がついたクリスは飛び退く事でそれを回避する。

 

「クリスちゃんっ!?」

 

 クリスの援護に向かいたかったが、ウェルを拘束してなければいけない為、動けないでいた。

 そんな響へと、今度は小型の丸鋸が飛んで来る。回避には成功したが、腕を狙った攻撃に思わず手を離してしまい、ウェルの拘束を解いてしまった。

 クリス達の妨害をしたのは、己のギアを纏った切歌達だった。

 

「クソッ……テメェら、ユウを返しやがれッ!!」

 

「お前達には関係ないデスッ!」

 

「関係あるよっ! あの子はわたし達にとって大切な人なんだから! だからお願い、ユウくんを返して!」

 

「ダメ……ユウはわたし達のもの」

 

「あの子をお前らなんかに渡すものデスかっ!」

 

「人様から奪っておいて、抜け抜けとぉ……ッ!」

 

 互いの譲らない言い分にクリス達がぶつかり合う。響もその場を止めようとするが、戦場が混沌とかしている為声が届かない。

 

(アンチリンカーを、あれだけ吸っておきながらここまでやるとは……流石は正規適合者でしょうか。それともそれだけあの子供にかける“愛”の強さが大きい……ということか)

 

 没収されていたソロモンの杖を回収したウェルは、六人の戦いを観察していた。彼が響達に吸わせたガスは《アンチリンカー》と呼ばれ、聖遺物と装者の適合率を強制的に下げさせる効果を持っていた。

 それを吸った翼達は、リンカーを使用していないマリア達と同等かそれ以下にまで適合率が下がっていた。だからこそすぐに勝負がつくと予想していたのだが、翼達の予想外粘りに驚いていた。

 とは言えやはり適合率の差は絶対。特にバックファイアでダメージを受けていて、元々機動力の低いクリスは、切歌のスピードについて行けず徐々に追い込まれていた。

 

(少しずつだが、力が戻って来た……いけるか?)

 

(……くっ、ギアが重い。時限式ではここまでなの?)

 

 しかし追い込まれているのはマリア達も同様。

 持久戦になればなるほど、翼達は力を取り戻し、逆にマリア達は力を弱めていった。

 

『適合率が落ちています。目的は達しました、撤退を』

 

 これ以上の戦闘は得るものが無いと判断したナスターシャからの指示に頷いたマリアは、ジャンプし空中に足を乗せた。

 

「なにっ?!」

 

 空中に立つマリアの背後が歪み、空の中から大型のヘリが姿を見せた。

 二課の情報網でも見抜けないほどの光学迷彩、それこそがマリア達が突然現れることの出来た理由だ。

 

「あなたたちは、いったい何を?」

 

「正義では守れないものを守るために」

 

「え……?」

 

 切歌と調も、ウェルを連れヘリへと飛び乗った。響も追いたかったが、傷ついたクリスを支えている為動けないでいた。

 

「あそこにユウくんが……」

 

「くそっ!!」

 

 クリスは響を突き放すとアームドギアを拡張し、ヘッドギアのバイザーをスコープのように変形させると、狙撃手のように上体を沈めた。

 

 《RED HOT BLAZE》

 

「ユウを……! ソロモンの杖を返しやがれ……!」

 

 スコープの覗き狙いを定めるが、溜まったダメージのせいか指に力が入らず視界がぼやけていた。

 結局引き金を引くことは出来ず、大型ヘリは暁の空に消えていった。

 

「く、そぉ…………」

 

「クリスちゃんっ?!」

 

 ギアが消失しクリスが倒れる。響が心配そうに駆け寄る中、他の面々は目視にもレーダーにも写らないヘリの行き先を無言で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ☆





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