シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第二十三話 秋桜祭

  ☆

 

 

 

 

 

 

 

 響達は病院の廊下を歩いていた。

 仲間の誰かが入院したわけでは無い。しかし自分達の義理を通す為にある人に挨拶をしに来ていた。

 

 コンコンッ

 

「どうぞ」

 

 弦十郎が個室の病室のドアをノックすると、綺麗な声が返ってくる。軽く会釈した弦十郎が、その声に惹かれるように扉を開き、翼達もその後に続いた。

 

「あら、弦十郎さん。どうかしたの?」

 

「久しぶりだな、茜」

 

 迎え入れてくれたのは、ユウと殆ど同じ顔をした大人の女性。彼の母親である星乃茜である。彼女は弦十郎や彼の後ろにいる響達を見ると嬉しそうに微笑んだ。

 

「あらあら、響ちゃん達も来てくれたの? ありがとうね」

 

「こんにちは茜さん! お土産持って来ましたよ!」

 

「私はお花を持って来ました!」

 

「まぁ綺麗ね。ありがとう」

 

 響と未来が手に持った果物と花束を見せる。

 ユウのお見舞いに付き合っていた二人は、この三ヶ月ですっかり茜とも仲良くなっていた。

 

「おい! なんでお前らが持って来たみたいに言ってんだよ!」

 

「選んだのは私達なんだからな!」

 

「静かにしないかお前達。茜は病人なんだぞ?」

 

 まるで自分達の手柄のようにしている二人に、クリスと翼が抗議する。

 病室で騒ぐ彼女達を弦十郎が嗜めていると、そんな光景を見て茜は笑っていた。

 

「うふふっ! 弦十郎さん、ちゃんとお仕事出来てるみたいね。昔はあんなに大吾さんとやんちゃばかりしてたのに」

 

「お、おい茜! やめてくれ部下の前で!」

 

 茜と弦十郎は学生時代の幼馴染である。大吾ほどの付き合いでは無いが、やんちゃしていた頃の自分を知っている茜相手に、たじたじになってしまう。

 

「それで、今日は皆でどうしたの?」

 

「…………その事なんだが、すまん!」

 

 不思議そうに見つめる茜に頭を下げる。弦十郎に続き翼達も一緒に頭を下げた。

 

「……もしかして、ユウの事?」

 

 頷いた弦十郎は、今回の作戦でユウの救出に失敗したことを話した。

 

「……すまない! オレ達の落ち度だ。だがお前の息子は必ず助ける、オレの命に変えてもな!」

 

「もちろん、わたし達も同じ気持ち――」

 

「頭を上げて」

 

 重々しい雰囲気に、茜はただ一言呟いた。その声は優しくとも怒っているように聞こえた。

 

「命に変えて……なんて二度と言わないで。そんな事をして助けて貰って喜ぶような子じゃ無いわ」

 

「す、すまない……」

 

「響ちゃん達もよ。貴女達がユウにとってどれだけ大切な存在なのかもっと自覚して。たとえ貴女達が命を賭けて誰かを守ったとしても、貴女達が死んでしまっては、貴女達を大切に思っている人が悲しんでしまうのだから」

 

「は、はい!」

 

 旦那を亡くし、自らもまた病に伏している身であるが故に、命の尊さというのを誰よりも自覚している彼女だからこその言葉の重さだった。

 優しくとも厳しく諭すその姿は、間違いなくユウの母親の姿だった。

 

「それにユウなら大丈夫よ。あの子の事は、きっと大吾さんが見守ってくれてるもの……」

 

 そう言うと茜は、窓の外に映る空を見上げた。その視線は空のさらに向こうの宙を見つめていた。

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 新たな隠れ家に身を潜めたマリア達は、今後のことについて話し合っていた。

 

「アジトを押さえられ、ネフィリムの成長に必要な餌……聖遺物の欠片もまた、二課の手に落ちてしまったのは事実ですが、本国の研究機関より持ち出したその数も残りわずか……遠からず、補給しなければなりませんでした」

 

 あの異形の化け物……ネフェリムは生物の形をしているが立派な完全聖遺物の一つである。その大きな特徴は、他の聖遺物を喰らう事で力を大きく蓄えていくと言う、異例中の異例の力である。

 しかしその為に与える餌も貴重な物ばかりであり、手に入れるのは難しい。

 

「わかっているのなら、対策もまた、考えているということ?」

 

「対策などと、大袈裟なことは考えていませんよ。今時聖遺物の欠片なんて、その辺にごろごろ転がっていますからね」

 

 そう言いながらウェルは、調と切歌の持つギアのペンダントを見つめていた。彼女達、そして翼達のもつそれもまた聖遺物の欠片であり、ネフェリムの貴重な餌である。

 

「まさか!……このペンダントを食べさせるの?」

 

「とんでもない。こちらの戦力であるギアを食べさせるなど、みすみすする筈が無いでしょう?」

 

「だったら私が、奴らが持っているシンフォギアを――」

 

「それは駄目デスっ!!」

 

「絶対駄目! マリアが力を使うたび、フィーネの魂がより強く目覚めてしまう。それは、マリアの魂を塗りつぶしてしまうこと。そんなのは……絶対にダメ」

 

「二人とも……」

 

 フィーネの魂は強いフォニックスゲインにより原型する。シンフォギアを使う為に歌を歌えば、それだけ魂の上塗りが早まってしまう。

 マリアと付き合いの長い二人が、そんな事を許せるはずがなかった。

 

「あたしたちがやるデス! マリアを守るのは、あたしたちの戦いデス!」

 

 切歌と調は強く拳を握る。マリアが自らの存在を賭けて世界の人々を救おうとするなら、自分達がマリアを守ると意志を固める。

 

 

  ☆

 

 

「ユウ、居るデスか?」

 

 エアキャリア内のとある一室に入る。そこに隔離されて暇を持て余していたユウは、ストレッチで体を伸ばしていた。

 

「あれ? お姉ちゃん達どうしたの?」

 

 I字バランスで体を伸ばしているユウが、切歌達の入室に気付き振り向いた。

 

「ユウは、あの女達が何処にいるか知ってるデスか?」

 

 切歌達がユウに会いに来たのは、響達の居場所を聞く為だった。“聖遺物の欠片を集める”という与えられた使命に勢いよく飛び出して来た二人だったが、そもそも響達が今何処にいるのかがさっぱり分からなかった。

 ウェルに聞くのも癪なので、こうやって彼女達と親しいユウに聞く事にした。

 

「んー? お姉ちゃん達の事? 今日は平日だし学校じゃないのかな?」

 

「学校……デスか、アイツらの学校は確か……」

 

「私立リディアン音楽院……だっけ?」

 

 二人はライブテロを起こす前に読み込んでいた、響達のプロフィールを思い出していた。

 

「そう言えば、今日って秋桜祭だったね」

 

「「秋桜祭?」」

 

「うん! 学校全体でお祭りをするんだよ! ぼくも何日も前からお手伝いしてて、今日を楽しみにしてたんだけどなぁ……」

 

 学園全体を上げてのお祭り。勿論現在リディアンの小等部に所属しているユウも、クラスメイト達と一緒に準備を進めていて、翼達と見て回るのを楽しみにしていた。

 しかし前の地下での一件以降、この部屋に軟禁されていて外に出る事をマリアから禁止されているユウは、寂しそうに目を伏せた。

 

「だったら、ユウも一緒に行くデス!」

 

「良いのっ!」

 

 そんな寂しそうな姿を気の毒に思った切歌からの提案。ユウは嬉しそうに顔を上げると目を輝かせた。

 

「ちょっと切ちゃん、勝手に外に出したらマリアに怒られるよ?」

 

「ケチケチするもんじゃ無いデスよ。それにずっとこんな所に引きこもってたら、体を悪くしちゃうデス! マリアはユウの事が心配だから外に出ちゃ駄目って言ってるんです。って事はユウの健康の為に外に出るなら、何の問題も無いのデス!」

 

 よく分からない理論で丸め込もうとするが、調は頬を膨らませ譲らない。

 不安に思ったユウは、上目遣いで調を見つめながら首を傾げた。

 

「そんな理屈で納得出来るわけが――」

 

「お願い調お姉ちゃん。ぼく、学園祭行きたい…………だめ?」

 

「行こう」

 

「早っ?!」

 

 ユウの可愛らしいおねだりに、堅牢な筈の調の心の壁は一瞬で破壊された。

 

「わーい! 調お姉ちゃん、大好きっ!」

 

「わたしも、好き」

 

「むー! ズルいデスよ調っ!!」

 

 抱きついて来たユウを、調は愛おしそうに抱き返す。自分が提案したにも関わらず、ユウを独り占めしている調に切歌が抗議する。

 

「でも切ちゃん、ユウを連れて行ったら目立っちゃうよ? どうするの?」

 

「ふっふっふっ!……あたしに考えがあるデスよ!」

 

 

 

  ☆

 

 

 

「おお〜! 目まぐるしくキラキラしてるデスよ!」

 

「わーい! キラキラだー!」

 

 準備を終えた切歌達三人は、リディアンの校門へと着いていた。元廃校ながらも生徒達の手で彩られた飾り付けに、生徒達だけでなく街の人達も集まり、お祭り騒ぎとなっていた。

 

「でも切ちゃん、この格好なに……?」

 

 テンションを上げている切歌達を尻目に、調は自分達の格好を見下ろした。

 特徴的な髪を大きな帽子で覆い、縁の大きな伊達メガネをかけて顔を見えない様にして、大きめのコートで体型も分からなくしている。

 

「ふっふっふっ! 完璧な変装デス。これで誰が見てもユウやあたし達の事なんて分からないデスよ!」

 

「わーい! へんそーへんそー! 懐かしいな〜!」

 

「……大丈夫かなぁ?」

 

 調は不安そうにしながらも、久々の変装を仮装のように楽しんでいるユウの姿に微笑んでいた。

 

「ほらユウ、あーんデス!」

 

「あーん…………えへへ! はい切歌お姉ちゃんも!」

 

「あーん! ふへへ〜幸せデスぅ〜!」

 

「切ちゃんズルい。ユウ、わたしも」

 

「うん! はい、どうぞ!」

 

「ふへ……ふへへ……最高」

 

 学祭を見て回っていた三人は、幾つかの出店から食べ物を買うと、近くのベンチに座り食べさせ合いっこをする。

 ユウと楽しむ学祭に、切歌だけでなく、彼女のブレーキ役である調まで楽しんでしまい、二人揃って元々の任務を忘れてしまっていた。

 

「えへへ〜!……………………あれ?」

 

 出店で買ったクレープを食べさせ合っていると、不意にユウは屋上に居る人物に気が付いた。

 

「…………………………はっ! いやいや切ちゃん、わたし達の任務は学祭を全力で満喫することじゃないよ」

 

 切歌同様幸せ空間に囚われていた調が意識を取り戻し、元々の目的を思い出した。

 

「分かっているデスよ! これもまた、捜査の一環なのデス! 人間だれしも美味しいものに引き寄せられるものデス。つまり学院内のうまいもんMAPを完成させることが、捜査対象の絞り込みには有効なのデス!」

 

 などと言っているが、本当は自分が遊びたいだけなのは、付き合いの長い調にはお見通しだった。

 流石の切歌も、調に冷めた目で睨まれバツが悪そうにする。

 

「し、心配しなくてもちゃんと覚えてるデスよ! ただ今日の任務は、ユウを楽しませる事も目的の一つなんデスから、ちょっとぐらい…………………………あれ?」

 

 ふと隣を見ると先程まで一緒にお祭りを楽しんでいたユウの姿が無くなっていた。

 

「ゆ、ユウが居ないっ?!!」

 

「ユウ! ユウっ!? 何処に行ったデスかーーーーーっ!!!」

 

 愛らしい弟が姿を消してしまい、調ですら冷静さを失って二人揃ってユウの名前を大声で叫んでいた。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「……………………はぁ」

 

 暑すぎず寒すぎず過ごしやすい気候の晴天。そんな気持ちのいい空の下の屋上で響は静かにため息をついていた。

 見下ろしている校庭では、学祭に集まった人たちが笑顔を見せていた。にも関わらず響の心は澱んでいた。

 

(わたしのしてる事って、間違ってるのかな?)

 

 響が悩んでいるのは、ライブテロの時の調との問答。この一週間考えに考えたが、いつまで経っても堂々巡りで自分の納得できる答えが出ていなかった。

 

「はぁ………………ユウくんに、会いたいなぁ」

 

 こんな時自分を癒してくれる少年の笑顔を思い出す。しかし現在行方不明である彼がこんな所に居るはずも――

 

「響お姉ちゃん、どうしたの?」

 

「…………えっ?!」

 

 声に釣られ振り向くと、帽子や眼鏡で顔を隠した少年が側にいた。子供でなければ怪しい風貌だが、その心地良い声と、今にも抱きしめたくなる背丈を見て響はそれが誰なのかが本能的に分かった。

 

「ユウ……くん? どうしてここに、だってマリアさん達に……」

 

「そんな事どうでも良いでしょ? ほら、こっちこっち!」

 

 混乱している響の手を引きベンチに座らせると、手に持っていたクレープの片方を渡した。

 

「一緒に食べよ!」

 

 ユウは響の手にクレープを持たせると、隣の席にちょこんと座った。

 

「あーん!」

 

 大きな口を開けてクレープを頬張る。ハムスターの様に柔らかい頬を膨らませる姿が愛らしかった。

 つられて響もクレープを口に含む。口の中にクリームと果実の甘みが広がる。少しばかり笑顔が戻ったが、複雑な心境の響の顔はまだ曇っていた。

 

「何があったの?」

 

「……え?」

 

「お姉ちゃん悲しそうな顔してる。何かあったんでしょ?」

 

「そ、そんな事は……わたしはただ――」

 

 会いたいと思っていたユウと会えた。しかし抱え込みやすい性分の響は、つい誤魔化そうとしてしまう。

 それが分かったユウは、頬を膨らませる。

 

「むー! またお姉ちゃん誤魔化そうとしてる!」

 

「……あっ」

 

「前にも言ったでしょ? ぼくの前でぐらい、我慢しなくても良いんだよ?」

 

「…………うん。そうだね」

 

 以前迷っていた時も結局堂々巡りで意味が無かった。あの日の事を思い出した響は、またユウに甘える事にした。

 

 

 

 

 

「――――そうだったんだ」

 

 ユウは響の話を聞いた。クレープを頬張りながら、それでも一語一句聞き逃さず彼女の悩みに耳を傾けた。

 響も最初は喋りづらそうにしていたが、ユウの相槌のおかげか口元も滑らかになり手に持ったクレープを食べ進める余裕も出来るほどだった。お腹も膨れた為か、響の顔色も少し良くなってきていた。

 

「………わたしのしてる事って、間違ってるのかな?」

 

 自分のしている事が偽善と言われた事、自分は間違った事をしているのでは無いか? それが彼女の悩みだった。

 絞り出す様な声は、戻りかけていた元気を全て吐き出してしまうほどに弱々しかった。

 

「ぼくは、お姉ちゃんに助けてもらって幸せだったよ?」

 

「……え?」

 

 ユウはクレープの端を口に含んで飲み込むと一言呟いた。

 

「ねぇお姉ちゃん。お姉ちゃんは“偽善”って言われた事が悲しかったんでしょ? でも、偽善じゃ駄目なの?」

 

「それは……」

 

「偽善でも良いじゃない。それで誰かの笑顔を守れるなら一緒だよ!」

 

 自分の正義が偽りではないのかと悩む響に、ユウはたとえ偽りでも構わないと肯定した。

 そして響は、自分が何の為に戦ってるのかを思い出した。

 

「そっか……そうだよね! わたし忘れちゃってたかも、わたしは大切な人達を守りたくて戦ってるんだ。それが合ってるか間違ってるなんて、大した問題じゃ無いよね!」

 

 自然と自分は正しい事をしていると思い込んでしまっていた。しかしそうでは無い、自分はあくまで正しい事のために戦っているのでは無く、守りたいと思っているものの為に戦っているのだ。

 

「うん! それにもし世界中の人の全員が間違ってるって言っても、ぼくは違うって言うよ。だってぼくはお姉ちゃんに助けて貰って、毎日が楽しいもんっ!」

 

「ユウ、くん……」

 

 助けてもらった本人は、こうして眩しい笑顔を見せている。それが間違ってるなど、ユウにはとても思えなかった。

 純粋な想いをぶつけてくれるユウを、響は愛おしそうに目を細めた。

 

「だから頑張って! ぼくもお手伝いするから!」

 

 そう言うと、ユウは響に優しく口付けをした。

 

「えへへ〜。ユウくんにキスしてもらうと、元気が出るよぉ〜!」

 

「ほんと! じゃあ、いーーーーっぱいしてあげる!」

 

「――え? わあぁっ?!」

 

 嬉しくなったユウは、響を勢いよく押し倒した。

 この後、響の鼻血によって屋上にできた血の池によって、リディアン内で恐ろしい都市伝説ができるのだが、それはまた別のお話である。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「――びき…………響!」

 

「――――――はっ!?」

 

 親友に声をかけられ響は意識を取り戻した。辺りを見回すとそこは、先程まで居た屋上ではなく体育館の中だった。体育館に用意された椅子には、学校中の生徒だけでなく、街の人達も大勢座っていた。

 

「あ、あれ? わたし、さっきまで……?」

 

「ちょっと響! あたし達の歌ちゃんと聞いてたんでしょうね!?」

 

「え、歌?」

 

 キョロキョロと辺りを見回す響に、弓美達が声をかけて来た。

 そこで響は思い出した。今目の前で行われているのは秋桜祭一番の目玉であるカラオケ大会だった。ただのカラオケ大会と言ってもリディアンが音楽に力を入れている学校である為期待してる人も多く、体育館内はほぼ満員だった。

 今現在奇妙な格好をしている弓美達も、先程までステージの上で歌っていたのだが、響の記憶には一切残っていなかった。

 

「えー! ビッキー達が聞いてるって思ったから、恥ずかしいの我慢して歌ったのに〜!」

 

「ご、ごめん!」

 

 カマキリ怪人らしい格好をしている創世は、特に恥ずかしかったのか分かりやすく肩を落としていた。

 

「…………ってかアンタ、何でそんなに顔赤くしてんの? 虫にでも刺されたの?」

 

 弓美に指摘され近くの鏡を見てみると、彼女の言う通り響の顔中に赤い点が出来ていた。虫刺されにも見えるが、先程のやり取りが夢で無かったことが分かった響は、それが何であるか分かりニヤけていた。

 

「ま、まぁそんなとこかな〜。デュへ、デュヘヘへへへ〜〜〜!!!」

 

 虫に刺されたと思っている弓美達は、突然花の女子高生がするとは思えない笑い声を上げる響を恐ろしさを感じた。

 

「……随分と可愛い虫さんだったんだね?」

 

「(ギクっ?!)な、何を言ってるのかなぁ……?」

 

 動揺しながら誤魔化そうとする響見て、未来は彼女の頬の赤い点の一つをペロリと舐めた。

 

「うひゃっ?!!」

 

「とぼけても無駄! この味この形この匂い、ユウくんでしょっ!」

 

「うう……やっぱり分かるよね?」

 

「当然だよ!」

 

(((何で分かるんだ……?)))

 

 まるで分かるのが当たり前の様に話している二人に、ドン引きする弓美達。

 

「それでユウくんは何処にいるの?」

 

「え? 未来見てないの?」

 

「知らないよ。屋上に響を迎えに行ったら、鼻血流して幸せそうに座ってたから、起こして引っ張って来たんだよ」

 

 どうやらユウは、響が幸せ過ぎて意識が朦朧としてる間にどこかに行ってしまったようだ。

 そうしていると、ステージの上が一層盛り上がりを見せていた。

 

『さぁ続いての挑戦者の登場です!』

 

 進行役の女の子が手を向けると、舞台の袖からクリスが姿を現した。

 

「響、あれって?!」

 

「うそぉ!?」

 

「お、クリスの出番か?」

 

 聞きなれた声に釣られ振り向くと、そこにはサングラスで変装をしている奏と制服姿の翼が立っていた。

 

「奏さん!? 来てたんですか?」

 

「翼に誘われてな。しかしクリスの歌、ちゃんと聞くの初めてだな」

 

 二人は響達の隣の空いた席に腰を下ろした。

 スポットライトに照らされたクリスは、恥ずかしさからか顔を真っ赤にしてもじもじとさせていた。

 

「クリスちゃん……」

 

 心配そうに響達が呟く。しかし心配そうに見つめる響達とは違い、ステージでの経験を持つ奏と翼は安心して見守っていた。

 

「クリスの奴、いい顔してるじゃねぇか!」

 

「いや、もの凄く緊張してるみたいなんですが……」

 

「それで良いんだよ。あたし達も初めて舞台に立った時はあんな感じだったもんな。なぁ翼?」

 

「ふふっ! ええそうね」

 

「ああいう顔をしてる奴はな、良い歌を歌うんだよ」

 

 奏達は目の前のクリスの姿を昔の自分達と重ねていた。

 クラスメイトに頼まれなし崩しに参加する事になったクリスは、緊張の為かマイクを握る手が震え俯いていた。

 

 “クリスお姉ちゃん頑張って!”

 

「……っ?!」

 

 何処からかユウの声が聞こえた気がした。

 勿論現在攫われている彼がここに居るはずがないので、幻聴に決まっているのだが、おかげでクリスの緊張は解きほぐされた。

 周りを見渡すと、自分の背を押してくれた彼女達が「頑張って」と手を振っていた。

 意を決したクリスは、自分の歌をマイクに注ぎ込んだ。

 

(楽しいな……アタシ、こんなに楽しく歌を歌えるんだ……)

 

 かつては歌を嫌っていたクリス。自分の歌への想いを思い出した後も、戦う為にしか歌った事がない。そんな自分がただ楽しむ為に歌えるのが意外だった。

 

「これは素晴らしいっ! 勝ち抜きステージ、新チャンピオン誕生ですっ!」

 

 戦う為の激しい歌ではなく、優しくしっとりとした歌声は会場に居る人達の心に響き、最高得点を叩き出した。

 

(アタシがこんな風に歌えるのも、ユウのおかけだ。出来ることなら、この歌をアイツにも聞いてもらいたかったな……)

 

 今までで最高の歌を歌えたと自負している。しかし今自分が最も歌を聞いて欲しいと思う少年はここには――

 

「クリスお姉ぇちゃーーーんっ!!!」

 

「え? わあっ?!」

 

 舞台袖から飛び出した小さな影が、クリスの腰へと飛び付いた。

 

「「「「「ユウ(くん)っ?!」」」」」

 

 それがユウである事に気がついた翼達と別の場所で見ていた切歌達が同時に声を上げた。

 

「お、お前……何でこんなとこに……?」

 

「クリスお姉ちゃん! 今の歌、すっごくすっごく良かったよっ!」

 

「っ!? 聞いて、くれてたんだな……」

 

「うん! ぼくクリスお姉ちゃんのお歌大好きっ!」

 

「……ユウっ!!」

 

 最も聞いて欲しいと思っていた存在のユウ。彼が喜んでくれた事に嬉しくなったクリスは、周りの目があるのも気にせず思わず抱きしめた。

 そんな光景を遠目から見つめるお姉ちゃんズは、羨ましそうにしていた。

 

「ユウ! こっちに来るデス! お姉ちゃんはこっちに居るデスよー!」

 

「んー? はーい!」

 

「ふへへ〜…………あっ! て、テメェらはっ?!

 

 真ん中の席に座っていた切歌達が立ち上がり舞台の上へと登って来た。当のユウも、切歌に呼ばれて嬉しそうに二人の元へと走る。

 

「ユウ! 心配したデスよ!」

 

「もうお姉ちゃん達から離れたらダメだからね?」

 

「えへへ! くすぐった〜い!」

 

 逸れてしまったユウを二人で抱きしめる。耳元で囁かれる声にユウはくすぐったそうに身を捩っている。

 勿論そんな光景を目の前で見せられ、黙っているクリスでは無かった。

 

「テンメェら……! 一体全体どう言うつもり――」

 

 怒りのまま突っかかろうとした時、切歌がビシッとクリスを指差した。

 

「チャンピオンに……」

 

「挑戦デェスッ!!」

 

「なぁっ?!!」

 

 突然の勢いに後ずさったクリスに、二人は宣戦布告をする。

 

「おおーとっ!? 突然の乱入者による宣戦布告! 勿論飛び入り大歓迎! 果たして新チャンピオンの牙城を崩す事が出来るのかーっ!!!」

 

 急展開の連続に会場内の人達は混乱していたが、お祭りを楽しんでいる皆は、この展開に大きく盛り上がっていた。

 

「あんな女よりも、あたし達の歌の方が良いってのをユウに教えてあげるのデス!」

 

「切ちゃん、目的が変わってる。わたし達の目的は――」

 

「分かってるデスよ。あたし達の目的は、勝負に勝ってそのペンダントをいただく事デス!」

 

 このカラオケ大会で優勝したものには、生徒会権限内で可能な限りの願い事を叶えてもらえる権利が与えられる。切歌の目的は、それを利用してクリスの聖遺物を手に入れる事だった。

 

「それはそれとして、あたし達の歌でユウをメロメロにしてあげるデスよ!」

 

「うん、負けない」

 

「上等だ! アタシが勝ったら、ユウはアタシのものだからなっ!!」

 

「望むところデスッ!!」

 

「あの〜あくまで生徒会権限内のお願いごとですので、そういうお願いは〜…………」

 

「わーい! お姉ちゃん達、頑張れー!」

 

 勝手に話を続けるクリス達に困惑している進行役の女の子を無視し、切歌達はマイクを持ち前に出る。

 ユウ自身は話の流れがよく分かっていないのか、調達の歌を聴ける事に嬉しそうに飛び跳ねていた。

 二人が並び立つと同時に曲が流れ出した。

 

「この歌?!」

 

「翼さんと奏さんの……!」

 

「何のつもりの当てこすり? 挑発のつもりか!」

 

「落ち着け、翼」

 

「でも奏!――」

 

「歌は歌だ。誰が歌ったって良いじゃねぇか」

 

 それは彼女達がよく知っている曲、ツヴァイウイング のナンバーの一つ『ORBITAL BEAT』だ。

 敵対している当の本人がいる場での選曲、翼達からすれば挑発と受け取られても仕方がないのだが――

 

「どうしてこの曲?」

 

「前にユウが好きって言ってたデス! どうせならあの子の好きな曲を歌ってあげたいデェス!」

 

 ――当の本人達には、特に深い意味は無かった。

 曲が流れ二人が歌う。元々がデュエットであるが故お互いの呼吸が命。現に翼と奏も最初の頃は何度も失敗しながらお互いの息を合わせていった。

 

「――凄いな」

 

 自然と翼は呟いていた。

 自分達が極めるのに苦労した曲の一つ。しかし舞台の上の二人は、それを意に返さず息を揃えていた。

 見た目も性格もまるで違う二人、それでもここまで息を揃えられるのは、それだけお互いを信じているからなのだろう。

 

「……ユウくんが、何であの子達に懐いてるのか分かった気がするよ。二人とも、響や翼さんやクリスと同じ、凄く楽しそうに歌ってるもん」

 

「未来……」

 

「未来の言う通りだ。あれは挑発なんて軽い気持ちで歌える曲じゃねぇ。あれは本当に歌を楽しんでる者の歌だ」

 

 未来と奏の言う通りだった。舞台の上の二人はとても楽しそうに歌っている。ただ自分達を挑発する為では、あんな風な笑顔を見せる事は出来ない。この二人は心から歌が大好きなんだろう。

 調と切歌が歌い終わり、講堂が拍手で包まれた。

 

「これはチャンピオンとてうかうかしていられない! 素晴らしい歌声でした! コレは得点が気になるところっ!」

 

「二人がかりとはやってくれる!」

 

 悔しいがクリスも認めざるを得なかった。審査員達も判定に困っているのか首を傾げている。

 優勝判定まで時間がかかりそうになる中、二人の耳にナスターシャからの通信が入った。

 

『アジトが特定されました。襲撃者を退けることは出来ましたが、場所を知られた以上、長居は出来ません。私達も移動しますので、こちらの指示するポイントで落ち合いましょう』

 

「そんな?! あと少しでペンダントが手に入るかもしれないのデスよ?!」

 

『緊急事態です。命令に従いなさい』

 

 結果を聞くことすらせず退くのは悔しかったが、ナスターシャからの命令では仕方がない。ここでゴネればマリア達に被害が被る可能性も高い。

 

「さあ! 採点結果が出た模様です!」

 

「くっ! 仕方がないデス!」

 

「おい! ケツを捲んのかぁ?!」

 

「好きに言えば良い。ユウ行こう」

 

「え? あれれ〜?」

 

「早く行くデスよ、二人とも!」

 

 調と切歌がユウの両手を引き舞台を去る。勿論それを許すクリス達ではなく、席を立ち上がった響達もユウ達を追いかけた。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「二人とも、手が痛いよ」

 

 二人に手を引かれてつんのめりながら校門までの道を歩く。しかしもう少しで出口という所で巨大なオブジェを運ぶ生徒の集団に遮られてしまう。

 その間に追いついた翼と奏が前を、響とクリスが後を挟んだ。

 

「あ! 翼お姉ちゃんだ!」

 

「ようやく追い詰めたぞ? さぁ! ユウを返して貰おうか!」

 

「駄目!」

 

 詰め寄ろうとする翼を見て、渡さない意思を示す様に調と切歌が両サイドから抱きしめる。

 

「この子はあたし達のものデス!」

 

「ふざけんな! 第一ユウは物じゃねぇ! 勝手なこと言うな!」

 

「…………それクリスちゃんが言う?」

 

 さっきまでユウをカラオケ大会の景品にしていたクリスを横目で見るが、当の本人には聞こえていないようだった。

 今度こそユウを取り返そうと、三人は少しずつ距離を積める。

 

「四……いや三対二……数の上ではそっちに分がある。だけど、ここで戦うことであなた達が失うもののことを考えて」

 

「「「っ!?」」」

 

 調達が胸のペンダントを握る。それが何を意味しているのか、言わずともよく分かった。

 この場で五人もの装者が戦えば起きる被害は想像したくもない。最悪、守ろうとしていたユウすら大怪我をさせてしまう可能性が高い。

 

「お前ら、そんな汚いことするのかよ! さっき、あんなに楽しそうに歌ったばかりで……」

 

「……あたし達だって、ここで今戦いたくないだけ……そうデス! 決闘デス! 然るべき決闘を申し込むのデェス!!」

 

「お姉ちゃん達、喧嘩しちゃうの……?」

 

「け、喧嘩じゃ無いデス! これはそう! 誰がユウのお姉ちゃんに相応しいかを決める為の……」

 

「ぼくは、切歌お姉ちゃん達も響お姉ちゃん達もみんな好きだよ? それじゃ駄目なの?」

 

「そ、それは……」

 

 ユウに悲しそうな目で見つめられ、切歌は気持ちが揺らぎそうになる。

 

「駄目」

 

「調?」

 

「ユウは、渡さない」

 

 しかし調は譲らず、響達を人睨みすると、ユウの手を引いてこの場を去ろうとする。勿論翼達も追いたかったが、ユウと学園の人達を人質に取られている状況で動くことは出来ず、黙って見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

  ☆





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