シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第二十五話 悪の覚悟

  ☆

 

 

 

 

 マリア達が湖の散歩をしていた頃、切歌達は食糧等などの補給の為の買い出しをしていた。

 

「楽しい楽しい買い出しだって、こうも数が多いとめんどくさい労働デス!」

 

 人の出入りの少ないスーパーから顔を出した切歌は、少女が持つには多い荷物にぶつぶつ文句を言っている。

 

「仕方ないよ。過剰投与したLiNKERの副作用を抜き切るまでは、おさんどん担当だもん。それに、これがユウの手料理になると思うと、重くなんて感じない」

 

「それもそうデスねぇ〜! この前のナポリタンは最高でしたよぉ〜! 今晩の献立はなんデスかねぇ〜?」

 

「切ちゃん、よだれ垂れてるよ?」

 

 行方不明になっていたウェルを回収するために行動していた調達は、途中響と戦闘を行う事になった。

 二人がかりでも響の力を押さえ切ることは出来ず、自分の身を案じたウェルによって、強制的にLiNKERを打ち込まれる事になった。

 体への負担の少ないLiNKERを使っているとはいえ、劇薬を使用している以上、念の為にと休養を与えられていた。

 

「……持ってあげるデス。調ってばなんだか調子悪そうデス」

 

「ありがとう……でも平気だから」

 

「……じゃあ、少し休憩して行くデス!」

 

 表情にこそ大きな変化は無いが、付き合いの長い切歌には、いつもの調では無いのが分かった。

 切歌に手を引かれて二人は、帰り道にある人気の少ない工事現場で休息を取る事にした。

 

「嫌な事もあるけど、こんなに自由があるなんて。施設にいた頃には想像出来なかったデスよ。あたし今幸せデス!」

 

「幸せ?」

 

「デス! 調が居てマリアが居てマムが居る、それとユウも! こうして家族みんなで過ごせるなんて、最高の幸せデス!」

 

「うん……そうだね。家族で、一緒に……」

 

 フィーネの器として、集められた《レセプターチルドレン》である彼女達。元々身寄りのない彼女達にとっては、施設内での繋がりは、ある意味家族以上と言っても差し違いもなく、否定するつもりはなかった。

 

「……でも、わたし達のしてる事って、ユウから幸せを奪ってしまってるんじゃ無いのかな?」

 

「え? な、何を言ってるデスか、調!」

 

「だって、わたし達と違って、ユウにはちゃんと家族が居るんだよ? それをわたし達の都合で引き離して、もう何週間も会えてない」

 

「し、調は、ユウと離れ離れになっても良いって言うんデスか! あたしは嫌デスよ! あの子と離れ離れになるなんて……」

 

「わたしも嫌……ユウを手放すなんて、絶対に嫌」

 

 調は力強い言葉で反応した。普段の彼女にしては珍しく感情を表に出し、強く握った手に巻き込まれてか、手元のパンが潰されていた。

 

「わたしはユウが好き。あの子といるとドキドキして胸の奥が熱くなる。あの優しい笑顔を見てると、こっちまで優しい気持ちになれる。まるで、この暗い世界に差し込んだ光みたいに。ユウと同じ時を過ごすのは、切ちゃんの言う通り最高の幸せ」

 

「(お、重いデス……)だ、だったら!――」

 

「でもわたし達が幸せを得るのと同時に、あの子の中の本当の幸せを奪ってしまってるんじゃないのかな? 家族と過ごす時間っていう、最高の幸せを……」

 

「それは…………でも、あたしは!」

 

 自分でも驚く程に熱くなってしまった切歌が大きな声を出した時、隣の調の体がゆらりと崩れ倒れた。

 切歌は慌てて調を抱き起こした。

 

「調?! ずっとそんな調子だったデスか?」

 

「大丈夫……ここで休んだからもう」

 

 調のオデコに手を触れてみると異常な熱を感じた。こんなに体調を崩していたにも関わらず、その大きな変化に気付けなかった事に、悔しそうに拳を握らせる。

 そんな切歌を心配させまいと、立ち上がった調が体を支えようと手をついた瞬間。

 

「調!?」

 

 工事現場に立て掛けられた鉄パイプが揺れ、頭上の足場が崩れ、設置された工材達が雪崩の様に二人の上に落ちて来た。

 切歌は、咄嗟に調を庇おうと彼女の上に覆い被さる。直ぐ様やってくるであろう痛みの暴力に耐える為に目を閉じた。

 

「……あれ?」

 

 しかし想像していた様な痛みは愚か、衝撃の一つも訪れることは無かった。不思議に思った切歌が、頭上を見上げると、咄嗟に掲げた切歌の手のひらの先にエネルギー状のバリアーの様なものが展開されていた。

 

「何が……どうなってるデスか?!」

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

「……出鱈目、だと?」

 

「はい、NASAが発表している公転軌道には、僅からながら差異がある事を確認しました」

 

「誤差は非常に小さな物ですが、間違いありません。そして……この数値のズレがもたらすものは」

 

「《ルナアタック》の破損による月の公転軌道のズレは、今後数百年の間は問題無いと言う、米国政府の公式見解を鵜呑みには出来ない、という事か」

 

 “月の落下にて損なわれる、無辜の命を可能な限り救い出す事だ!”

 

「……いや、遠く無い未来に落ちてくるからこそF.I.Sは動いていた訳だな……」

 

 弦十郎の脳裏に、前日のウェルとの決闘の日の光景が思い出される。

 信じたく無い事だが、それならば彼女達がこんなテロリスト紛いの強引な手段を使っている事にも説明がつく。恐らくそう遠くない頃にに、あの黄金の衛星は落ちてくるのだろう。

 

「また、ウルトラマンが何とかしてくれたりぃ〜……なんて?」

 

「あのねぇ……」

 

「三ヶ月も音沙汰のない者に縋っている様では、この国は本当にお終いだろうな」

 

「す、すみません……」

 

 半分は冗談のつもりだったのだが、友里や弦十郎からの反応は悪く、藤尭は居心地の悪さを感じた。

 しかしもう半分は本気だった。月の落下と言う最悪は、それだけ絶望的な状況なのだ。

 それこそあの日の様な、奇跡の力(ウルトラマン)に頼りたくなってしまう程に。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「お待たせ! ご飯出来たよ!」

 

 エアキャリア内に用意されたテーブルに皆の分の食事を並べる。相変わらずウェルは来ないが、マリアやナスターシャ達と一緒に食べるのが当たり前となっていた。

 

「いただきまーす!」

 

「………………」

 

「どうかしたの切ちゃん?」

 

「な、なんでも無いデスよ!?」

 

 普段誰よりもユウのご飯を楽しみにしている切歌にいつもの元気がない。不審に思った調が声をかけるが、切歌は誤魔化すように飯を口に含んだ。

 

(……あれは、あたしのしたことデスか……?)

 

 切歌の脳裏に浮かんでいるのは、数日前に調と共に買い出しに出ていた日のこと。

 

(あんなこと……どうして。あれは……)

 

 人とは思えない不思議な力。切歌はその力に心当たりがあった。彼女達《レセプターチルドレン》が、魂の器として想定されていたフィーネの力。

 “もしや自分こそがフィーネの器として覚醒してしまったのでは無いか?”

 そんな悩みが切歌の脳内を巡っていた。

 

(マム……どうして?)

 

 そして悩みを巡らせるのはマリアだけでは無かった。

 切歌と調が買い出しに行っている間、マリアとナスターシャにもやり取りがあった。

 

『あなたにこれ以上、新生フィーネを演じてもらう必要はありません』

 

『マム! 何を言うの?!』

 

『あなたは、マリア・カデンツァヴナ・イヴ……。フィーネの魂など宿していない……。ただの優しいマリアなのですから』

 

 ナスターシャから告げられた計画の根底を覆す言葉。

 あれだけ計画に固執していた彼女が、何故そんな事を言い出したのかマリアには分からない。

 食事をとりながらチラッとナスターシャの方を見る。当の彼女は、特に気にした様子もなくユウの作ってくれたステーキを口に含んでいた。

 

 

 

 

 食事を終えたマリア達はエアキャリアを動かし、とある海の上へと来ていた。操縦桿を握るマリアは、目的地に到達するとその場でホバリングさせる。

 目的は計画の一番の要である《フロンティア》の起動だった。

 

(だけど……マムはこれ以上フィーネを演じる必要はないと言った……神獣鏡とネフィリムの心臓……フロンティア起動の鍵が揃った今……どうしてマムはこれ以上、嘘をつく必要はないと言ったのか?)

 

 決闘の日のハプニングによりネフェリムの肉体は失われた。しかし最上の餌を得ることが出来たネフェリムは心臓だけとなっても強力なエネルギーを秘めていた。

 計画の為に必要なものは既に揃っている。にも関わらず計画を覆すような事を言うナスターシャの真意が、マリアには分からなかった。

 

「マリア、お願いします」

 

 考える間もなくナスターシャからの指示が来た。

 マリアはエアキャリアを操作し、シャトルマーカーを射出させると海洋上に展開させた。

 

「シャトルマーカー、展開を確認。ステルスカット、神獣鏡のエネルギーを収束」

 

 エアキャリアのステルス機能を解除し、全エネルギーを神獣鏡に収束させる。

 長野県水上山より出土した神獣鏡とは鏡の聖遺物。その特性は光を屈折させて周囲の景色に溶け込む鏡面迷彩と古来より伝えられる魔を払う力。今までのエアキャリアの透明化はこの神獣鏡の鏡面迷彩能力によるものだった。

 五年前にフィーネがノイズを放ち、二課の発掘チームを襲わせて、強奪したものがこの神獣鏡。そして、この時両親についていったツヴァイウィングの片割れである天羽奏はその時に一人だけ生き残った生存者でもあった。

 

「聖遺物由来のエネルギーを中和する神獣鏡の力を持ってして、フロンティアに施された封印を解除します。リムーバーレイ・ディスチャージ」

 

 ナスターシャがスイッチを押すと、収束した神獣鏡のエネルギーがシャトルマーカーに向けて放たれた。シャトルマーカーがエネルギーを反射し、フロンティアが眠っているであろう海の底へとエネルギーが沈んでいく。

 

「これでフロンティアに施された封印が解ける……解けるぅ~!」

 

 ウェルが嬉々とした表情でフロンティアの解除を心待ちにする。放たれたエネルギーが勢いを増し、水飛沫をあげた。

 

「…………解け、ない? と、と……解け……ない?」

 

 しかし、あくまでそれだけで、フロンティアが浮上してくることはなかった。

 

「出力不足です。いかに神獣鏡の力といえど、機械的に増幅した程度ではフロンティアに施された封印を解くまでには至らないということ」

 

「あなたは知っていたのか!? 聖遺物の権威であるあなたが、この地を調査に訪れて何も知らないはずなど考えられない! この実験は、今の我々ではフロンティアの封印解放には程遠いという事実を知らしめるために、違いますか!?」

 

 失望し怒りを露わにするウェルに対し、ナスターシャは落ち着いていた。ウェルの言う通り、彼女はこうなる事が予測できていた。だからこそ今の計画では目的を達せないと考えたのだ。

 

「……これからの大切な話をしましょう」

 

 自分の理想とはかけ離れた結果に、ウェルは悔しそうに強く歯軋りをさせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ………………」

 

 切歌はエアキャリアから少し離れた林の中、大きな木の根元に腰を下ろし、ため息を吐いていた。風が木々を揺らし、鳥たちのさえずりが静かな午後を彩る。そんな心地よい自然の中でも、切歌の心はざわついていた。

 

(あたしが、フィーネの器だったら……)

 

 ここ数日、何度も自分に問いかけてきた言葉が、また心の中に浮かび上がる。答えの出ない問いと、説明のつかない力の記憶が、切歌の胸を締めつける。

 

「切歌お姉ーちゃん!」

 

「ユウ……」

 

 聞き慣れた声に顔を上げると、陽の光を背に、黒髪をさらりと揺らしたユウが立っていた。その髪は陽光に照らされて、まるで水面のように輝いていた。

 

「どうしたの? こんなとこで」

 

 ユウはそう言いながら、切歌の隣に自然と腰を下ろした。驚く間もなく、彼の頭が切歌の肩にふわりともたれかかる。

 

「ゆ、ユウ! ち、近いデスよぉ……」

 

「近いと、いや?」

 

「い、嫌じゃあないデス!」

 

 真っ赤になってしどろもどろに答えると、ユウは嬉しそうに微笑み、そのまま肩に頬をすり寄せる。まるで甘える小動物のような仕草に、切歌の胸がバクバクと高鳴る。

 

(だ、駄目デス……このままだと、心臓が爆発しちゃうデス……)

 

 気まずさを紛らわそうと、切歌は話題を切り出した。

 

「あ、あのねユウ!」

 

「んー?」

 

「その……ユウは、もし自分が自分で無くなるって分かったら、どうするデスか?」

 

 突飛な質問だった。けれどユウは眉を寄せることも笑い飛ばすこともなく、少しだけ首を傾げ、真剣に考え始めた。

 

「んー……それって、やっぱり凄く怖いよね」

 

「デスデス!」

 

「でもね、ぼくなら……たぶん、誰かの為に何かを残したいって思うな」

 

「誰かの……為に?」

 

「うん。ぼく、昔お父さんに助けてもらったことがあるんだ。その時、お父さんはもういなくなっちゃったけど、それでも助けてくれたことはずっと心の中に残ってる。それって、すごいと思わない?」

 

 ユウは切歌の方を見上げて、静かに続けた。

 

「たとえ自分がいなくなっても、誰かの笑顔や優しさの中に、自分が残るなら……それは、きっと意味のあることだと思うんだ」

 

「…………意味の、あること……」

 

 切歌の胸に、ユウの言葉が優しく染み込んでくる。

 

 フィーネの器であることに怯え、自分を見失いそうになっていた。けれどユウの言葉に触れたことで、たとえ何かが自分の中で目覚めたとしても、自分の意思次第でその意味を変えられる――そう思えた。

 

「ユウ……ありがとデス」

 

 そっと切歌は、ユウの手を握った。

   

「……ねぇユウは、帰りたいデスか?」

 

「んー? 帰るって……どこに?」

 

「何処って、その……アイツらの所にデス」

 

「もちろん翼お姉ちゃん達には会いたいよ。でも帰りたいとは思わないかな? だってここもぼくの大切な居場所だもん」

 

「ユウ……」

 

 それはかつてクリスに拐われた時と同じ事だった。大事なのは、どこに居るかではなく誰と居るか。例えどこに居ようとも、そこに大切な人が居るならそこは自分にとっての大切な居場所なのだ。

 

「それとも、ここがぼくの居場所じゃあダメ?」

 

「駄目じゃない! ずっとここに居たっていいデス! あたしはユウの事大好きデスから、居なくなったら寂しいデス」

 

「えへへ! 嬉しい!」

 

 嬉しくなったユウが眩しい笑顔を見せる。その笑顔に釣られ切歌もまたいつもの元気な笑顔を見せた。

 

「切歌お姉ちゃんに元気が戻って良かった。ぼくいつも元気いっぱいな、切歌お姉ちゃんが大好き!」

 

「そ、そうデスか? でも皆んなにはお気楽って言われちゃうデスよ……」

 

「そうかなぁ? いつも元気で、周りや周りの人達を明るく出来る人って、素敵だと思うけどなぁ」

 

「デ、デスデスっ!?」

 

 自分を褒めてくれながら、ニッコリと微笑んだ笑顔に、切歌胸の音が高鳴った。

 とても少年とは思えないその色気のある微笑みに、胸の鼓動が強みを増していく。

 高まる胸の音に比例する様に、顔が熱くなり焦った様に言葉が出てこなくなる。

 

「ふふっ、切歌お姉ちゃんかわいい〜!」

 

「デスデスデスぅっ!?!?」

 

 “かわいい”という単語。何のことのないそのセリフも、今のユウに言われると、自分でも驚く程に動揺してしまっていた。

 

「んー………………チュッ」

 

「デッ?!」

 

「えへへ! 切歌お姉ちゃんかわいいから、ついチューしちゃった!」

 

「デ、デデデデデデデ……デーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!?」

 

 自らの頬に柔らかい感触を感じ、それがユウの唇だと分かった瞬間、すでに真っ赤になった顔が更に赤みを増し、溜まったエネルギーが爆発する様に、赤い鮮血が切歌の鼻から噴水の如く吹き出した。

 

「お、お姉ちゃん?! 大丈夫?」

 

「……なに、してるの?」

 

 突然爆発した切歌に、流石のユウも驚き慌てて抱き起こそうとする。その時背後から声が聞こえ振り向くと、可愛らしいエプロンをつけた調が立っていた。

 しかしその愛らしさとは裏腹に、瞳に光は宿っておらず冷たい目をしていた。

 遠目から、ユウのキスシーンを見ていた調の心は既に壊され、どす黒い感情が渦巻いていた。

 

「し、調!? ち、違うデスよ! これは……」

 

「…………………………」

 

(や、ヤバい目をしてるデス……あれは昔、調が最後に残していたイチゴを食べてしまった時と同じ目デス。あの日の調は、マムやマリアが止めるのも聞かずに、ずっとあたしのおしりをツネってきたデス……)

 

 怒った調の怖さを思い出し身震いさせ、何が何なのか分かっていないユウは小さく首を傾げていた。

 そんな二人を見た調は、体をゆらしながら近づいてくる。まるで妖かの様な姿に切歌の心臓はバクバクと音を鳴らせる。

 

「デデデ――ってあれ?」

 

「……切ちゃんだけズルい、わたしにもして?」

 

「……デ?」

 

 どんな制裁が来るのか怯えていた切歌だったが、彼女の心配とは裏腹に、調は切歌の方ではなくユウの隣に腰を下ろした。

 

「デース! 駄目デース! それはあたしだけの――」

 

「うん! いいよっ!」

 

「デスぅっ!!?」

 

 切歌が止める間もなく、ユウは切歌にしたように調の頬についばむように口付けをした。

 

「………………ふぅ、ありがとうユウ。お返ししてあげる」

 

「あはは! 調お姉ちゃんくすぐったーい!」

 

「うぅ……ユウは尻軽デス!」

 

「……? ぼくのお尻って軽い?」

 

「そんな事無い、良いお尻してる」

 

「おっさんみたいデスよ、調……」

 

 テンションが上がっているのか様子のおかしくなっている調にツッコミをいれるが、当の本人に聞こえていないのか無言でユウのお尻を撫でていた。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 都内の中心部にある巨大な塔。スカイタワー内のエレベーターがの扉が開き、ナスターシャとマリアが姿を見せた。マリアが後ろから車椅子を押し、長い廊下を歩む。

 

「マム……あれは、どう言う?」

 

 “貴女にこれ以上フィーネを演じてもらう必要はありません”。

 マリアは、前日のナスターシャの言葉を追求した。

 

「言葉通りです。私達のしてきた事は、テロリストの真似事に過ぎません。真のなすべき事は、月がもたらす最悪の被害をいかに抑えるか……違いますか?」

 

「つまり……今の私達では、世界を救えない……と?」

 

 廊下の先の扉が開き入室すると、部屋の真ん中に黒ずくめの集団が集まっているのが見えた。

 

「っ?! マム、コレは……?」

 

「米国政府のエージェントです。飽和を持ちかける為、私が召集致しました」

 

「飽和を……結ぶつもりなの?」

 

「ドクター・ウェルには通達済みです。さぁこれからの大切な話をしましょう」

 

 自分たちのやり方では月の災害を抑える事は不可能。そして、もうマリア達にテロリスト紛いの事に手を染めさせたくなかったナスターシャが下した判断は、離反した米国政府との共同。

 自分が持つ聖遺物や異端技術の情報を提供すると共に、最も大きな技術力を持つ米国との共同を取引とした。

 

「異端技術に関する情報、確かに受け取りました」

 

 ナスターシャに言われ、マリアは渋々ながら聖遺物などの研究資料の入ったチップをエージェント達に渡した。

 彼女が独自開発してきた貴重な資料だが、世界の人を救う為には致し方がない。

 しかし彼女達を待っていたのは、同盟の握手ではなく裏切りの暴力だった。マリアから受け取ったチップを懐にしまった男は、代わりに拳銃を取り出しマリア達へと向けた。

 

「なっ!? マム!」

 

 ナスターシャを守ろうと前に出るが、複数の拳銃が彼女に向いており、マリアは動きを制限させられる。

 

「あなたの歌よりも、銃弾は遥かに早く、躊躇なく命を奪う」

 

「最初から、取引に応じるつもりは無かったのですね?」

 

「世界の警察として、テロリストに屈する訳にはいきませんからねぇ? それに貴女の排除は政府直属のお達しです。貴女は我々に取って不都合な事を知り過ぎている」

 

「愚かな……! このままでは大勢の人間が死ぬ! 貴方達は、また無駄な犠牲を出すつもりですか、彼の……星乃大吾のように!」

 

「そのセリフを貴女がいいますか? ダイゴ・ホシノを宙に打ち上げたのは、貴女でしょう?」

 

「――っ!? ゴホッ! ゴホッ!!」

 

「マムっ!!」

 

 リーダーらしき男の言葉に、大きく動揺したナスターシャが強く咳き込み口から血を流す。

 これ以上の話は無駄だと判断した男の合図により、その場の全員が、マリア達に銃口を向ける。

 あとは軽く引き金を引くだけで全てが終わろうとした、その時――

 

「の、ノイズ!?」

 

 突如空に出現したノイズが、壁を通過しエージェント達を襲った。男達も抵抗を試みるが、彼らの装備では時間を稼ぐ事すら出来ず、数秒と経たずに全滅した。

 

「Granzizel bilfen gungnir zizzl……」

 

 何が起こっているのか分からなかったが、この好機を逃すべきでは無い。

 直ぐにガングニールを纏ったマリアは、落ちたチップを回収すると正面のノイズを薙ぎ払い、扉を破壊して脱出を試みる。

 ナスターシャを担ぎ長い廊下を駆け抜ける。正面から待機していたであろう、武装した米国のエージェント達が発砲してくるが、マリアはマントを盾にし銃撃を防ぎ、伸ばしたマントで叩きつけ気絶させていく。

 

「マリア、待ち伏せを避ける為、上の会からの脱出を試みましょう」

 

 ナスターシャの助言に頷いたマリアは、非常口の扉を蹴破ると上を目指し駆け抜けた。

 しかし上の階にもエージェント達は控えており、マリア達は挟撃される形となってしまった。

 

「このままじゃ……あっ!?」

 

 被弾を避ける為、マントを球状に纏めて前後からの攻撃を凌いでいたマリア達。しかしこのスカイタワーは、有名な観光地でもあり、当然この場にも一般の人間が大勢いた。マリアのマントによって起こった跳弾により、周りの人達が血を流し倒れていく。その姿からすでに息途絶えているのは明らかだった。

 

「私のせいだ……」

 

「マリア……」

 

「全ては、フィーネを背負い切れなかった……私のせいだぁああああっ!!!」

 

 目の前から消え落ちていく命の輝きに、マリアの形相が変わる。守りに徹していた姿から、修羅の如くアームドギアを振るい、エージェント達をボロ雑巾の様に薙ぎ払った。

 

「もう迷わない! 一気に駆け抜ける!!」

 

 回転する烈槍を天に掲げ、マントで全身を螺旋状に包み、ドリルの様にタワーの中を駆け抜けていく。

 その勢いは、まるで弱い自分自身から逃げ出している様に見えた。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 陽が沈みかけた頃、マリア達は帰って来た。

 しかし覚悟を決めて出て行った二人の姿とは裏腹に、帰って来た二人の気は深く沈んでいた。

 

「……教えてマム、一体何があったの?」

 

 悔し涙を流しながら、拳が痛むのも気にせず壁を殴りつけるマリアを、調達は心配そうに見つめていた。

 

「それはボクからお教えしましょう」

 

 ナスターシャが言いにくそうに黙っていると、ウェルがが会話に割り込んできた。

 

「ナスターシャは、十年を待たずに訪れる月の落下より、一つでも多くの命を救いたいと言う私達の崇高な理念を、米国政府に売ろうとしていたのですよ」

 

「マム……」

 

「それだけではありません。マリアを器にフィーネの魂が宿ってたと言うのもとんだ出鱈目。ナスターシャとマリアが仕組んだ狂言芝居」

 

「本当なのデスか?」

 

 ナスターシャは、目を閉じ俯いている。それが肯定を意味しているのは、二人にも分かった。

 

「ごめん、二人とも……ごめん」

 

 たとえテロリスト紛いな事をしても、自分達を信じてついて来てくれた二人を騙してしまった。寂しそうにこちらを見つめる二人に、マリアはただ謝罪の言葉を呟くしか出来なかった。

 

 

 

 

 

「ふーふふ〜ん!」

 

 個室でマリア達の話が終わるのを待っているユウは、暇つぶしに編み物をしていた。

 

「出来た! これは、切歌お姉ちゃんの!」

 

 ユウが鼻歌混じりに編んでいたのは緑色のマフラーだった。

 以前フロンティアの封印ポイントに行った時、寒さを感じたユウは、また行くことになった時に皆が風邪をひかない様にとマフラーを編んでいた。

 出来た作品を、既に作っていた調用のピンク色のマフラーの隣に置くと、次の制作に移る。

 小柄な二人の小さい物を先に済ませ、大人二人のマフラーは、より大きなのを作るつもりだった。

 

(マムさん体冷やすと良く無いし、うーんと大きなの作ってあげよ!)

 

 その時、ユウの耳に扉が開く音が聞こえた。

 

「あれ? マリアお姉ちゃん?」

 

 音に釣られて顔を向けると、顔を俯かせたマリアが扉を背に立っていた。

 

「お帰り、どうしたの?」

 

 スタスタスタ…………ポフっ!

 

 声かけにも反応せず、マリアは無言でユウの隣に腰を下ろすと、彼の膝の上に頭を下ろした。

 

「マリアお姉ちゃん? どうし――」

 

「…………………………」

 

 自分の膝の上に置かれたマリアの顔を覗き込んだユウは、微笑んだ後何も言わずに作業を進めた。

 マリアの今にも泣きそうな顔から何かがあったのは一目瞭然だったが、ユウは何も言わなかった。

 

「……何も言わないのね?」

 

 数秒とも数時間とも思えるような沈黙の後、夕陽が沈み月明かりが照らす薄暗い中でマリアは一言だけ呟いた。

 

「昔ね、お父さんがこうしてくれたんだ。その日はお母さんに叱られて悲しくて、お父さんはただ黙って側に居てくれたの。それだけでぼくは嬉しかったんだ」

 

「……ありがとう」

 

 かつて父親がしてくれたように、何も言わずにただ側にいる。そんな優しさが、マリアには心地良かった。

 マリアの瞳から哀しみが薄れているのが分かったユウは、小さな声で歌を口ずさんだ。

 

「リンゴは浮かんだ、お空に〜。リンゴは落っこちた、地べたに〜♪」

 

「その歌は……」

 

 それはマリアとセレナの思い出の歌。

 ユウにおねだりされ、毎晩子守唄代わりに聴かせていた為、いつの間にか覚えてしまったようだ。

 

「ぼくこの歌好き。マリアお姉ちゃんの歌は殆ど聴いたことがないけど、きっとこの歌が一番だと思う」

 

「この歌が?」

 

「うん! この歌を歌っている時のマリアお姉ちゃんって凄く優しい表情をしてて大好き。聴いてるとこっちまで優しい気持ちになれるし、この歌はマリアお姉ちゃんの優しさがよく分かる歌だと思う。だからぼくこの歌大好き!」

 

「ユウ……」

 

 マリアは胸が熱くなった。

 今まで歌を褒められた事は何度もあった。しかしどれだけ偉い人にステージ用の歌を褒めてもらうよりも、一人の純粋な少年に故郷の歌を褒めてもらった方が、何倍も嬉しく感じた。

 

「よし! 出来た!」

 

 そうしている間に、新しいマフラーが出来た。切歌や調用の物よりも少し長さのあるそれを丁寧に折り畳む。

 マリアを座らせたユウは、彼女の正面に立つと折り畳んだマフラーを差し出した。

 

「いつもありがとう、お姉ちゃん!」

 

「これは……」

 

「またあの寒いところに行くんでしょ? 風邪ひいちゃわないように作ったんだ!」

 

「ユウ……ありがとう」

 

 マリアはマフラーだけではなく、目の前のユウごと胸元に抱き寄せた。

 

「お姉ちゃん大袈裟だよ」

 

「大袈裟なんかじゃないわ。貴方を見ていると、まだこの世界に希望が持てるもの。貴方の様な子が、一人でも多く幸せに生きる世界、それを守る為なら私は……」

 

 こんな状況でありながら、裏切り足を引っ張り合う米国政府の姿に絶望していたマリアだったが、目の前の尊い命の存在に覚悟を強める。

 抱きしめる力を弱めたマリアは、窓の外から見える欠けた月を見上げた。

 

「……あの月ね、落ちてくるのよ」

 

「えっ?」

 

「後十年もの時もないわ。そうなれば大勢の人が命を落とす。そうなる前に私は、一人でも多くの人を救って見せる。その為なら、どんな事でもしてみせるつもりよ」

 

「お姉ちゃん……」

 

「今夜ここに来たのは、私の中の甘えを捨てる為。貴方に甘えるのは、これが最後よ」

 

 甘えを捨て非常になりきる。マリアの目はその覚悟を告げていた。

 その目を見て止めることはできないと分かったユウは、マリアの首に抱きつくと、その頬にキスをした。

 

「ユウ……」

 

「おまじない……だよ。お姉ちゃんが覚悟を決めたなら、ぼくに止める事は出来ないんだよね……でも、一つだけ約束して?」

 

「約束?」

 

「“優しさを忘れないで”。優しいお姉ちゃんの歌には、きっと人を紡ぐ力があるから。だから、優しさを忘れないで?」

 

「……分かったわ」

 

 マリアは目を閉じながら答えた。

 真っ直ぐで煌びやかなユウのを目見ながらでは、嘘をつく事が出来なかったからだ。

 

(優しさなんかじゃ、何も守れないのよ……)

 

 

 

  ☆

 

 

 

 後日、エアキャリア内の格納庫に背を預けていたマリアは、セレナのペンダントを見つめながら歌を歌っていた。

 そんな彼女の前にあるのは、かつてネフェリムを閉じ込めていた檻。

 その中に一人の少女が座り込んでいた。

 

「マリアお姉ちゃん、どこぉー?」

 

 食事の準備を済ませたユウは、マリアを探す為格納庫に来ていた。マリアを呼ぶ聞き覚えのある声に、檻の中の少女は顔を上げた。

 

「……ユウ、くん?」

 

「えっ? 未来お姉ちゃん……?」

 

  檻の中に居たのは、なんと未来だった。

 ウェルによるノイズによるスカイタワーの襲撃。表向きは、ナスターシャを助けるためと言っていたが、明らかな民間人への被害に、当時響と一緒に遊びに来ていた彼女もまた巻き込まれた。

 今にも崩れそうなタワーと、迫り来る火炎に死を覚悟した彼女を助けたのは、丁度上階を目指していたマリアだった。

 

「未来お姉ちゃんっ!」

 

「ユウくんっ!!」

 

 未来の存在に気がついたユウは、彼女が囚われている檻へと駆け寄った。

 未来もまた、ライブの日以降別れたままだったユウとの再会に、檻の隙間から手を出して彼を抱きしめた。

 

「ユウくん!……ユウくん!!! 良かったぁ、やっと会えた……」

 

「ごめんね未来お姉ちゃん。約束破っちゃって……」

 

「いいの……いいんだよ。ユウくんが無事で……」

 

 すぐに戻って来るから、一緒にライブを見よう。

 そう言って別れてから、多くの時間が経ってしまった事を、ユウは申し訳なく思っていた。

 

「ユウくん、あのね響が――」

 

 そして未来もまた、あれから自分達の周りで起こった悪夢の様な出来事を、ずっと誰かに相談したかった。

 

「そんな……響お姉ちゃんが……」

 

 秋桜祭の後の決闘の夜。ウェルの策略とネフェリムの聖遺物を喰らう力によって、響が大怪我をする事になった。

 怪我自体は、彼女の胸の奥に埋め込まれたガングニールの破片が反応し、新陳代謝を上げることによって再生し事なきを得た。

 しかしそれからが本当の悪夢の始まりだった。

 腕を再生させる程のエネルギーを生み出す為に、ガングニールの融合深度の促進を招くことになった。

 結果響の体内のガングニールの欠片は、胸どころか全身に行き渡り、彼女自身は既にほぼ聖遺物と同等の存在と化していた。

 

「ユウくん……私、どうしたら……」

 

「未来、お姉ちゃん……」

 

 シンフォギアを纏うごとに融合は進み、彼女は人ならざるものになってしまう。それを防ぐ為に、響を戦わせない事を誓ったが、結果的に失敗に終わってしまった。

 自らの身を案じず、目の前で変身した響の姿を見た未来は、絶望の淵に立たされていた。

 

「なんとかなりますよ」

 

 そんな重苦しい空気の中、その空気を読まない軽々しい声が聞こえた。

 やって来たのはウェルだった。

 ユウと未来のやり取りを、不機嫌そうに見つめていたマリアが視線を移した。

 

「この子を助けたのは私だけど、ここまで連行する事を指示したのはあなたよ。一体なんの為に?」

 

「勿論、今後の計画遂行の一環ですよ」

 

「どう言う――」

 

 マリアの質問を無視して、ウェルは未来の前に腰を下ろした。以前ソロモンの杖を持った彼に、襲撃された経験のある未来は警戒の目でウェルを睨み付ける。

 

「そんなに警戒しないでください。立花響を助けたくはありませんか?」

 

「え?」

 

「ウェルさん、響お姉ちゃんを助けられるの?」

 

「ええ、ですがそれには、彼女の力が必要なのですよ」

 

「私の、力?」

 

 自分の話に興味を持った未来を見て、ウェルの口角が上がった。

 ウェルは手のひらに収まった一つのペンダントを見せた。それはマリア達が持っている、聖遺物のペンダントと同じものだった。

 

「それは?!」

 

「これは神獣鏡(シンショウジン)という聖遺物の欠片ですよ。立花響が戦う度に人を失うのなら、二度と戦わせなければ良い。彼女の代わりにあなたが戦えばいいのですよ。彼女の目指す平和をあなたが守ればいい」

 

「でも私……シンフォギアを纏う事は……」

 

 ルナブレイクから三ヶ月、未来は何度か聖遺物との適合を確かめた事があった。理由は一つ、響達と一緒に戦う為だ。

 しかし幾たびの検査の結果、未来には現状の聖遺物との適合は不可能とされていた。

 

「問題ありませんよ。あなた達リディアンの生徒は元々聖遺物の適合候補者、一般の人間よりは遥かに適合率が高い。足りない部分は、ボクがお手伝いしますよ」

 

「っ! あなた、彼女に一体何をするつもりなの!?」

 

「なーに、彼女の体をちょちょいっと弄るだけですよ」

 

「ふざけるなっ!! 私達なら兎も角、一般の彼女に無理矢理聖遺物を適合させて、その身が無事である筈がない!」

 

「そ、そんなのダメだよ!」

 

「あなた達の意見など聞いていませんよ。どうするのかは、彼女の意思です。まぁ? 他に手があるなら無視してもらっても構いませんがぁ?」

 

「……………………私、やります」

 

「っ?! ダメだよお姉ちゃん! そんな危ない事――」

 

「危ない事だからだよ!! 三ヶ月前(あの時)だって、私はただ見てる事しか出来なかった……響やユウくんが苦しんで、傷ついているのに、私はただ見てるだけ! 今回だって、私が戦えればユウくんが攫われる事もなくて、ずっと私の側に居てくれたかも知れないのに……」

 

「み、未来お姉ちゃん?」

 

 ユウは、自らの思いの丈を吐き出す未来の心にドス黒い感情を感じた。

 今までは響の問題やら何やらで我慢し、それを吐き出す事はなかった。

 しかし彼女は元々、嫉妬深い少女であった。自分が好きなユウの太陽の様な笑顔が、響にすら向けられている事に心の奥では気に入らなかった。

 そんな彼女が、他の女にユウを攫われて、秋桜祭の時触れる事すら出来なかった事を許せる筈がなかった。

 

「もう嫌だ。(大切な人)が傷つくのも、ユウくん(大切な人)が離れちゃうのも、それを待ってるだけなのも、もう嫌!! その為なら、私は!!!――」

 

「グーーッド! 素晴らしい!!」

 

 感情を爆発させる未来の姿に満足したウェルが、檻を消失させる。彼女を閉じ込めるものはもう必要無いと判断したのだ。

 

「シーユー! 過去の自分。そしてハロー! 新たなあなた!!」

 

「…………」

 

 テンションの上がったウェルが差し出したペンダントを、未来は無言で受け取った。そして彼が促すまま、未来は格納庫を後にした。

 

「未来お姉ちゃん!」

 

 未来の後を追いかけようとするユウを、マリアが受け止めた。

 

「離して! 未来お姉ちゃんは、関係ないでしょ?!」

 

「流石ですマリア。今自分がどうすべきか、よく分かってるじゃあないですか!」

 

(フロンティアの封印を解くには、神獣鏡の力が不可欠……ならば私が撮る手は……)

 

「お願い、マリアお姉ちゃん。未来お姉ちゃんを――」

 

「言った筈よユウ。私は、世界を救う為ならどんな事でもすると!」

 

「マリア、お姉ちゃん……」

 

「ユウ……貴方は、ここから先の景色を見ないほうがいいわ」

 

 目を逸らしユウの思いを否定したマリアは、彼の体を抱え上げた。

 無理矢理適合率を上げる人体改造、それがどれだけ悲惨な光景なのかマリアは分かっていた。

 その光景だけは、ユウに見せたくなかった。

 

「は、離して! 未来お姉ちゃん! 未来お姉ちゃーーーんっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

  ☆

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