シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第二十八話 撃槍

  ☆

 

 

 

 響達の帰りを待つ未来は、ユウの個室の前へと来ていた。ドアに取り付けられた窓から覗き込むと、ユウが寝ているであろうベッドが盛り上がっていた。

 

「ユウくん……」

 

「星乃くんが心配?」

 

「あ、はい……ユウくん凄く落ち込んでたから。なんとか励ましてあげたかったんですけど」

 

「そうねぇ……でも今はゆっくり休ませてあげましょう、ぐっすり眠ってるみたいだし」

 

「はい…………分かりました」

 

 友里に促され、未来は渋々その場を後にした。

 しかし二人は気付いていなかった。盛り上がったベッドの中にユウの体は既になく、纏めた枕や毛布が変わり身として置かれているだけだった事に。

 

 

  ☆

 

 

『司令! コレを……』

 

「これは……」

 

 藤尭からの通信が入り、データが送られて来たタブレットを覗く。

 

『私は、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。月の落下がもたらす災厄を最小限に抑えるため、フィーネの名を語った者だ』

 

 そこに映るのはマリアだった。しかしこの映像は二課に送られて来たものではなく、今この時全世界的に放送されているものだった。

 

(マリアお姉ちゃん!)

 

 荷台の荷物の中に隠れながら、ユウもその映像を見ていた。

 

 

  ☆

 

 

 マリアの突然の世界放送は、ナスターシャからの指示だった。

 

「月を……私の歌で?」

 

『月は、地球人類より相互理解をはく奪するため、カストディアンが設置した監視装置……月の破損で一部不全となった月機能を再起動できれば、公転軌道上に修正可能です。――うっ、ごほぉっ!!」

 

 ナスターシャが強く咳き込んだ。マリアには見えていなかったが、今までにない以上の血を吐いていた。

 

「マム?……マム!?」

 

『……あなたの歌で、世界を救いなさい!』

 

 それを機に彼女からの通信は途絶えた。彼女もまた世界を救うために命をかけているのだ。だったら自分が泣いている暇などない。

 マリアは覚悟を決め再び立ち上がった。

 

 

  ☆

 

 

「全てを偽ってきた私の言葉が、どれほど届くか自信はない。だが、歌が力になるという真実だけは、信じてほしい!」

 

 胸のペンダントを握りしめ、撃槍の旋律を奏でる。

 

「Granzizel Bilfen Gungnir Zizzl……」

 

 マリアの身に漆黒のガングニールが纏われる。かつてはテロリストとして世界を混乱させたその姿は、今度は世界を救う旗印として槍を掲げた。

 

「私一人の力では、落下する月を受け止めきれない……だから貸してほしい! 皆の歌を、届けてほしい!!」

 

 マリアは歌った。ガングニールを通して流れ込んでくる自分の歌を。それが一瞬でも、世界に届く事を望んで。

 

(セレナが助けてくれた私の命で、誰かの命を救って見せる。それだけが、セレナの死に報いられる!!)

 

 しかし焦っていたマリアは気付いていなかった。

 そんな独りよがりの歌などは、誰の心にも届かない事を。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「よし、潜入は成功だ」

 

 弦十郎の声が低く響く。彼らの乗った車はノイズの襲撃を受けることもなく、ついにフロンティアの内部へと侵入した。

 

「目的はウェル博士とソロモンの杖の確保。二人とも、警戒して行くぞ」

 

「はい!」

 

「おうっ!」

 

 緊張した面持ちで頷く緒川と奏。三人は迷いなく、敵の中枢であるブリッジを目指し走り出した。

 そして――彼らが去ってしばらく後。車の荷台の布が小さく盛り上がり、そこから一人の少年が顔を覗かせた。

 

「ぷはぁっ! 苦しかったぁ〜!」

 

 潜り込んでいたのは、もちろんユウだった。息をつく間もなく、彼は身を起こして辺りを見回す。

 

「おじさん達、もう行ったみたいだね……。ぼくも、マリアお姉ちゃんを探さなくちゃ」

 

 荷台から飛び降りたユウの胸元で、ティグの紋章が淡く光を放つ。その光に導かれるように、ユウはフロンティア内部の薄暗い回廊を進んでいった。

 長く続く通路を、ユウはローラーシューズで軽快に滑る。足元の石畳がゴツゴツと体を揺らしても、バランス感覚に優れた彼は表情一つ変えない。

 

「そういえば、キミはこのフロンティアのこと、知ってるの?」

 

 紋章に問いかけるように語りかけると、ティグの光がピコンと点滅した。

 

「“チキュウセイケイビダンが昔使ってた船の一つ”……? うーん、ちょっと難しいなぁ」

 

 超古代文明の用語など、十歳の少年にはまだ理解しきれない。それでも彼は、言葉の意味よりも“導かれている”ことを信じていた。

 

「……あれ? 行き止まり?」

 

 ふと立ち止まると、前方には分厚い石壁がそびえ立っていた。どうやら選んだ道が外れだったらしい。

 

「あっ、ここ……少し開いてる!」

 

 目ざとく見つけたのは、大人では到底通れない、子供でもギリギリな小さな穴。ユウは躊躇うことなくその中に頭を突っ込む。

 まるで蛇のように、柔らかくしなやかな体をうねらせながら通り抜けると、石の壁の向こうには――。

 

「……ここ、どこ?」

 

 そこは、青白い輝きが静かに満ちた神秘的な空間だった。石の柱が光を帯び、天井も床も見分けがつかないほど幻想的な光景が広がっている。

 

「綺麗……うわっ!」

 

 足元に転がっていた、三角形の不思議な石に触れた瞬間、ユウの目の前にホログラムのような人影が現れた。

 

「だ、だれ?」

 

『私は、地球星警備団団長――ユザレ』

 

 ローブに身を包み、顔の大半をフードで隠した女性の姿。声の調子から女性であることは分かったが、その正体までは掴めなかった。

 

「ユザレ……さん?」

 

 ユウが呼びかけると、ユザレは何かを呟いた。口元が確かに動いている――けれど、声が聞こえない。

 

「え? なに? なんて言ってるの……?」

 

 目を凝らし、耳を澄ませる。それでもその声はユウには届かない。やがて口の動きも止まり、ホログラムは霧のように消えた。

 

「……消えちゃった」

 

 もう一度石に触れるが、そこにあった光は完全に失われ、二度と反応を示すことはなかった。

 

「何だったんだろ……。ねぇ、キミはあの人のこと、知ってる?」

 

 けれど、いつもなら返事をくれるはずの紋章からは、何の反応もなかった。

 

「あれ……疲れちゃったのかな……?」

 

 思わず微笑む。そうだ、あの時、響や未来を守るためにティグの紋章は全力を使ってくれた。

 もう今は、休ませてあげるべき時かもしれない。

 

 それでも――。

 

「大丈夫、ぼくが頑張るから」

 

 ユウは、まだかすかに光を灯している別の小石を拾い、暗がりの中に差し出した。

 希望は、灯る。光がなくとも。少年の心にこそ、何よりも強く、まっすぐな“光”がある限り。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 クリスと翼の勝負は苛烈を極めていた。

 正規の適合者同士、しかも二人とも高い戦闘センスを持っているためか実力が拮抗し続けていた。

 

「次で決める! 昨日まで組み立てて来た、アタシのコンビネーションだ!!」

 

「ならばこちらも真打をくれてやる!」

 

 しかしその勝負にも終幕が訪れようとしていた。

 クリスはハンドガン型のギアから弾丸を放ち隙を作ると、両手のギアをボウガンに変形させる。翼はギアを大剣に変え、弾丸を躱しながら蒼ノ一閃を放った。

 咄嗟に回避をとったクリスだったが避けきれずに、左手のボウガンが破壊された。

 クリスは余った右手のボウガンで結晶の矢を撃ち放つ。小型結晶となって分裂した矢が迫るが、翼は大剣を盾にして矢を防いだ。

 

 《MEGA DETH PARTY》

 

 空中で固定された翼へと、追撃としてクリスは小型のミサイルを展開し、全弾を放った。

 

「ハアァッ!」

 

 《千ノ落涙》

 

 そして翼も上空で複数の剣を出現させ、迫ってくるミサイル目掛けて放った。

 

「「うわあああぁっ!!?」」

 

 剣とミサイルがぶつかり合い、二人の間で巨大な爆発が起き、少女達を巻き込んでいった。

 二つの力のぶつかり合いに耐えきれなかった地面が割れた。煙が晴れた後、クリス達の姿が見られず割れた隙間へと落ちて行ったのだと思われる。

 

「ひひひ……シンフォギア装者はボクの統治する未来には不要……! その手始めにぶつけ合わせたのですがぁ……こうもそうこうするとは……チョロすぎるぅ〜!」

 

 二人の戦いの一連の流れを見ていたウェルが楽しそうに坂を滑り落ちて行く。

 二人の死体を確認しようとしていたウェル。しかし底に居たのは、ボロボロなギアを纏いながらも五体満足なクリスの姿。

 ウェルはそれを見てつまらなそうに鼻を鳴らした。

 

「約束通り、二課所属の装者は片付けた。だから……ソロモンの杖をアタシに――」

 

「こんなママごとみたいな取引にどこまで応じる必要があるんですかねぇ?」

 

 ウェルはポケットから一つのスイッチを取り出した。それは現在クリスが首につけている爆弾のスイッチだった。もしクリスが裏切った時、もしくは役に立たないと判断した時に始末できるように彼女に取り付けたものだ。

 ウェルはそのスイッチを嬉々として押した。しかし彼の思惑とは裏腹にそれが爆発する事は無かった。

 

「何で爆発しない?!」

 

「壊れてんだよ。約束の反故とは悪党のやりそうなことだ!」

 

 クリスは損壊していたチョーカーを捨てると、ウェルへと詰め寄る。恐怖の悲鳴を上げながら腰を抜かすも、すぐにソロモンの杖でノイズを呼び出した。

 

「今更ノイズ……ぐっ……!」

 

 アームドギアを展開しようとした時、体に鉛のような重さを感じた。

 

「Anti LiNKERは、忘れたころにやってくる〜!」

 

 廃病院で使用したガスタイプのAnti LiNKER。今更こんな古い手を使ってくるとは思っていなかったクリスは、ダメージと適合率の低下に膝をついた。

 無防備となった彼女を、ノイズが襲おうとした時。

 

「ハアァッ!!!」

 

 降り注いだ剣の雨がノイズ達を貫いた。

 

「……先輩っ!」

 

「馬鹿な?! 何故動けて…………そのギアは?!!」

 

 ウェルは、起き上がった翼が纏っているギアを見た。

 翼が今纏っているギアは、最近装着していた強化されたものでは無く、三ヶ月前の戦いの時に纏っていた物だった。

 翼は敢えて出力の低いギアを纏う事で、Anti LiNKERによるバックファイアの負担を減らしたのだ。

 出力が低いとは言え、この程度のノイズを倒すには問題は無い。力以上の翼の剣技により、ノイズの数が瞬く間に減っていった。

 その様子に、ウェルは怯えたように逃げ出そうとする。

 

「逃がさねぇぞっ!」

 

「ひぃっ!? ヒィイイイイイぃっ!!!?」

 

 重たい体を動かし、何とか弾を一発放った。クリスの放った弾丸がウェルの持つソロモンの杖を捉え、彼方へと弾き飛ばした。

 命の危機を感じたウェルは、落とした杖の事を気にすることも無く、その場を逃げ去った。

 

「や、やったぜ……うっ!」

 

 ようやく取り戻したソロモンの杖を手にした時、ドッと体の中から疲労感を感じた。クリスが体勢を崩し倒れそうにになるのを、翼が素早く支えた。

 

「よくやった雪音」

 

()()()()()、なんて言うんじゃねぇよ……アタシは、裏切っちまったんだぞ?」

 

「お前は何も裏切ってなどいないさ。私も……ユウの事もな。……さぁ帰ろう、あの子の元に」

 

「良いのかよ…………アタシなんかが」

 

「当たり前だ。寧ろお前を連れて帰らないと、あの子が悲しむ。私がそんな事を許すと思うのか?」

 

「………………ほんとに、お前達は甘いやつらなんだからよ」

 

「だが、その甘さが心地良いのだろ?」

 

 クリスは答えず俯いていた。彼女の頬を一筋の涙が伝っているが、その口元は確かに笑っていた。

 

 

  ☆

 

 

 

「……切ちゃんが……フィーネの、魂を……?」

 

「そうデス……」

 

 互いの言葉と思いと言葉をぶつけ合いながら、調と切歌の戦いは続く。

 その中で調は、切歌が抱える思いを聞き出すことが出来た。

 

「施設に集められたレセプターチルドレンだもの……こうなる可能性はあったデス!」

 

「だとしたら、わたしは、なおの事切ちゃんを止めて見せる。これ以上塗り潰されないように、大好きな切ちゃんを守る為に!」

 

 互いが互いを大切に思い合う。だからこそ二人はぶつかり合う。互いと言う存在を守る為に。

 しかしお互いの手の内を知り合う者同士、拮抗は崩れる事は無く時間だけが過ぎていく。

 拉致の開かない二人は、切り札を切る事にした。

 

「「Gatrandis babel ziggurat edenal……Emustolronzen fine el zizzl……」」

 

 LiNKERによって適合率を上げ、同時に口ずさんだ絶唱によって強化されたアームドギアをぶつけ合う。

 

「アタシが調を守るんデス! たとえフィーネの魂に、アタシが塗りつぶされる事になっても!」

 

「ドクターのやり方で助かる人たちも、わたしと同じように大切な人を失ってしまうんだよ! そんな世界に残ったって、わたしは二度と歌えない!」

 

「でも、それしかないデス! そうするしか、無いデス! たとえあたしが……調に嫌われてもおおぉぉ!!」

 

「切ちゃん……もう戦わないで……! わたしから……大好きな切ちゃんを……奪わないでええええぇぇ!!」 

 

 単純な力では切歌の方が優っているのか、衝突しあうたびに、巨大化した調のギアの方が破壊されていく。

 高まっていく切歌のフォニックゲイン。それが強まるたびに切歌の魂が消えていくのを恐れた調は手を伸ばした。

 

「えっ……?」

 

「何……これ……?」

 

 二人間にバリアーのようなものが張られていた。しかしそれは切歌が出したものでは無く、調の手から出たものだった。

 

「まさか……調、デスか……? フィーネの器になったのは調……なのにあたしは、調を……。調に悲しい思いをしてほしくなかったのに……出来たのは調を泣かす事だけデス……」

 

 真実を知り動揺した切歌は、思わずギアを持つ手を離してし呆然と立ち尽くしてしまった。

 

「あたし……本当に嫌な子だね……。消えてなくなりたいデス……」

 

「駄目!! 切ちゃん!!」

 

 まるでそんな切歌の想いに応えるように大鎌の軌道が変わった。その狂刃が親友を貫こうとした時、調は咄嗟に彼女を庇った。

 

「調……?! 調ええええええええぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 親友の悲しみに暮れる声が遠くから聞こえてくる。

 調の意識は、まるで底のない深い海へと沈んでいく。

 

 

  ☆

 

 

「……っ! これは?」

 

 遺跡の中を歩くユウ。そんな時、突如としてティグの紋章が淡い光を放った。

 ユウはその光る紋章を優しく握った。

 その瞬間、ユウの意識は深い海の中へと落ちていった。

 

『……………………久しぶりだね、フィーネさん』

 

『まったく、不思議な子』

 

 ユウが声をかけると、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。その声に振り向くと、ローブで全容は分からなかったが、その特徴的な金髪を見忘れる事は無かった。

 

『口付けを通して、自分の(ちから)を人に送り込み、調(この子)の中に居る私に干渉するなんて……相変わらずとんでもない事をするわね』

 

『なにそれ? ぼく、そんな事してたの?』

 

『……分からずにしていたの?』

 

 フィーネの言う通り、ユウの口付けには光の力が含まれており、奇跡を起こすきっかけを与える力を持っていた。

 しかしユウにとっては、母から教えてもらった“おまじない”以上の意味は無かった。

 

『ねぇフィーネさん。調お姉ちゃんの事消さないであげて? 調お姉ちゃんには、お姉ちゃんを大切に思っている人がたくさん居るんだ。お姉ちゃんが消えちゃったら、皆んな悲しんじゃう』

 

『心配しなくても、私も目覚めるつもりは無いわ。ここで大人しくしてるつもりだったのに、あの子達ったらフォニックゲインを高めるんだもの。引き篭もるのに必死だったわ』

 

『そっか、良かった〜!』

 

 この数週間、強いフォニックゲインを幾つも浴びておきながら、調が自分を保っていられたのは、彼女の中のフィーネが自身を抑えていてくれたからだった。

 その事が分かったユウは、安堵の息を吐いた。

 安心したユウは、フィーネに聞きたい事が出来ていたのを思い出した。

 

『そう言えばフィーネさん、“ユザレ”って人知ってる?』

 

『っ!? 何故貴方が、彼女の事を?』

 

『さっきその人の映像を見たんだ。フィーネさんと似た格好してたから、知ってる人かなって?』

 

 先程あったユザレと名乗った女性も、今のフィーネと同じような古代人の格好をしていた。そこから接点を考えたのだが、フィーネは驚いた様子を見せた。

 

『彼女は、私よりも更に昔の超古代に名を残した巫女。最もカレ等……神に近かった存在で、私が最も憧れた巫女だった。でも、確かにカレに選ばれた貴方なら、彼女の声を聞くことが出来るのもおかしくは無いわね』

 

『声? ぼく、声聞こえてないよ?』

 

『……なに?』

 

『お名前だけは聞けたけど、その後何を言ってたかは全然聞こえなかったんだ。だからフィーネさんなら、何か知ってると思ったんだけど……』

 

『ユザレの声が、聞こえてない……? と言う事はまさか、予言が……………………』

 

『んー? どうしたのフィーネさん?』

 

 フィーネは何やらブツブツと呟いた後、真剣な目をしながらユウの瞳を覗き込んだ。それはユウ達が知っている了子としてでは無く、巫女フィーネとしての目だった。

 

『星乃結、貴方にはこれから過酷な試練が待っているでしょう。それでも貴方は、決して負けないと誓う事は出来ますか?』

 

『うん! ぼく負けない! どんなに大変な事でも、絶対に諦めない! だってぼくは一人じゃ無いから、みんなと一緒ならどんな困難にだって立ち向かえるよ!』

 

『ふふ……そう』

 

 ユウは迷いなく二つ返事で答えた。

 かつては憎んだ男によく似た真っ直ぐな瞳。その瞳を見て、フィーネは優しく微笑んでいた。

 

『フィーネさんも手伝ってくれる?』

 

『そうしてあげたいけど無理みたいね。魂を両断する一撃を肩代わりしたし、長くはもたないわ』

 

『そっか……また会える?』

 

『貴方達が“約束”を守ってくれるなら……きっとね』

 

 “ぼく達頑張る! だから未来を楽しみにしてて? 今度フィーネさんが目を覚ます時には、きっともっといい未来が待ってると思うから!!”

 彼女が目覚めるべき“いい未来”にはまだ程遠い。ならば今彼女の手を借りるのは間違いだろう。

 フィーネとの最後の会話を思い出したユウは、笑顔で頷いた。

 

『……ありがとう、フィーネさん』

 

 優しく微笑みながら消えていくフィーネの気配を感じながら、ユウの意識も現実へと戻ろうとしていた。

 

 

 

  ☆

 

 

 

(――――――――っ! ユウ……?)

 

 海の底から引き上げられるかのような感覚。自分の中から散っていく魂の粒子に、調の意識も引き戻された。

 

「目を開けてよ……調……」

 

「開いているよ、切ちゃん……」

 

「え……? 身体の怪我が!?」

 

 自分を庇った調の背を見てみると、先程まであった致命傷確実の深い傷はまるでなく、それどころか血痕や服の傷すら無くなっていた。それはまるで最初からから最初からそんな事は起きてすらいなかったように。

 

「うぅ〜調ぇ!!」

 

 奇跡としか思えない出来事に、切歌は涙ながらに調の身体を抱きしめた。遠慮なく力一杯抱きしめられ苦しかったが、心の底から心配してくれているのが嬉しく、嫌では無かった。

 

「でも、どうして……?」

 

「多分、フィーネの魂に助けられた」

 

「フィーネに、デスか……?」

 

 命の危機の中、調はフィーネの魂と会話を交わしていた。自分の魂を代替わりとして、調の魂が消えるのを抑えてくれた彼女に心から感謝をした。

 

「みんなが私を助けてくれている。だから切ちゃんの力も貸してほしい。一緒にマリアを救おう?」

 

「あ……うん! 今度こそ調と一緒に、みんなを助けるデスよ」

 

 二人は手を繋ぎ合い互いを支え合う様に立ち上がった。

 

「マリアとマムを助けて、皆んなでユウのところに帰ろ?」

 

「うん! また家族皆んなでご飯を食べるデス!」

 

 再び家族団欒の笑顔を手にする為、二人は最後の戦いへと赴くのだった。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 マリアは歌い切った。今の自分が出せるだけの全力の歌。彼女の歌の終わり共に、フロンティアの砲塔部分から集められたフォニックゲインが月へと放たれた。

 

『……月の遺跡は依然沈黙』

 

 喉の焼けるような感覚を覚え歌が止まる。しかし全力を振り絞ったマリアの歌でも、月の遺跡を再起動させるには至らなかった。

 それもその筈、マリアの歌は想いは、世界に通じてなどいなかった。

 数週間前にテロリストとして世界に宣戦布告をしたマリア、そんな彼女に突然世界を救うために共に歌って欲しいと言われ、人々は混乱の嵐だった。

 結果的に殆どの人がマリアに続く事はなく、結局月へと放たれたのはマリア一人だけの力だった。

 

「私の歌は……誰の命も救えないの? セレナ……」

 

 自分の中の全力の歌を歌ったつもりだった。しかしそれでも、世界どころか人の心一つ動かす事が出来なかった。

 その事実が彼女の覚悟と心を打ち砕いていた。

 

『マリア、もう一度月遺跡の再起動を!』

 

「無理よ! 私の歌で世界を救うなんて……!」

 

 再び再起動をさせようとマリアを激励しようとするが、自分の無力さを痛感している彼女の心を動かす事は出来なかった。

 

『マリア! 月の落下を食い止める、最後のチャンスなのですよ! あの子の未来を守りたいのでしょう!!』

 

(っ!? ユウ……)

 

 マリアの脳裏に、少年の眩しい笑顔が蘇った。

 その瞬間、自分でも不思議な程に力が入りマリアは立ち上がる事が出来た。

 彼の生きる世界を、彼が進んでいく未来を守る為、もう一度挑戦しようと喉に手を添える。

 そんな彼女の頬を黒い腕がはたいた。

 

「月が落ちなきゃ、好き勝手できないだろうがッ!!!」

 

 既にブリッジへと戻っていたウェル。遠目にマリアとナスターシャがしようとしている事を知ったウェルが、マリアを殴り飛ばしたのだ。

 

『マリア!』

 

「あぁん!!? やっぱりおばはんか!」

 

 再びフロンティアを操作しようとするウェルを、説得しようと試みる。しかし今の彼は一切の聞く耳を持っていなかった。

 

『よしなさいドクターウェル! フロンティアの機能を使って、収束したフォニックゲインを月へと照射し、バラルの呪詛を司どる遺跡を再起動できれば、月を元の起動に戻せるのです!!』

 

「そんなに遺跡を動かしたいのなら! あんたが月に行ってくればいいだろぉッ!!!」

 

 逆上したウェルがフロンティアを操作する。するとフロンティア上の一部の施設、今現在ナスターシャが居る筈の区画が激しく白煙を噴射しロケットように月へと向かって射出された。

 

「マムっ!!!」

 

『くっ!……ドクター、ウェルぅ!!!』

 

 倒れ伏したマリアと、全権を奪われているナスターシャは何の抵抗も出来ずに、その残酷な運命を受け入れるしか出来なかった。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「……ん? あれ、地震?」

 

 そしてそのウェルの暴走に巻き込まれたのは彼女達だけでは無かった。

 マリア達を探して、地下探検をしていたユウの足元が激しく揺れる。最初は身体を震わせる程度だったものが、徐々に大きくなり、最後には地震の如き振動を与えていた。

 

「わ、わわわぁっ!!? 何これぇ〜〜〜っ?!!!」

 

 襲い来るGに、体が後ろへと引き寄せれる。ユウの力では抵抗する事が出来ず、少年の小さな体は後ろへと転がっていった。

 

「――うっ! きゅぅ〜……」

 

 勢いよく転がり壁へと頭を打ちつけ、目を回したユウは意識を失った。

 そんな彼を守るようにティグの紋章の光が強まっていく。その光は次第に大きくなり、ユウ達が乗っているロケットもどきを包み込んだ。

 

 

 

 

  ☆

 

 

  

 

「有史以来、数多の英雄が人類支配をなし得なかったのは、人の数がその手に余るからだ! だったら支配可能なまでに減らせばいい!! ボクだからこそ気づいた必勝法! 英雄にあこがれるボクが英雄を超えて見せる……! フハハハハッ!!!」

 

「よくもマムをッ!」

 

 自分達にとって母親代わりであったナスターシャ。時には優しく、時には厳しく自分達に寄り添ってくれたその姿は、たとえ血は繋がっていなくとも本当の母のように慕っていた。

 そんな彼女を奪われて冷静さを失ったマリアは、アームドギアをウェルへと向けた。

 

「手にかけるのか? このボクを殺すことは、全人類を殺すことだぞ!」

 

 ウェルが死ねばフロンティアを操作出来るものはいなくなる。それはつまり月の落下から人類の全滅を防ぐ術が無くなる。

 

「殺すッ!!!」

 

「うわあああああ!!?」

 

 しかし今のマリアにはそんな事関係無かった。家族を奪われ、復讐鬼と化した彼女が槍を振り下ろそうとした時。

 

「待って下さい!」

 

 それを遮るように響が、マリアとウェルの間に立ちはだかった。

 

「そこをどけ、融合症例第一号!」

 

「違う! わたしは立花響十六歳! 融合症例なんかじゃない、ただの立花響が、マリアさんとお話ししたくてここにきてる!!」

 

「お前と話す必要はない! マムがこの男に殺されたのだ!! ならば私もこいつを殺す!! 世界が守れないのなら、私も生きる意味はない!!!」

 

 自暴自棄になったマリアが、容赦なく槍を振り下ろす。しかしその狂突が狂人を捉える事はなかった。

 

「お前……!」

 

 マリアの槍を響が素手で受け止める。無双の槍に手のひらを裂かれ鮮血が垂れるが、響は笑顔で受け応えた。

 

「意味なんて、後から探せばいいじゃないですか。だから、生きるのを諦めないで!!」

 

 響は知っていた。マリアを大切に思う存在を、彼女を慕う調、彼女との生活を楽しそうに語っていたユウ。自分を大切に思っていてくれる存在がいるのに、命を諦めたような事を言うマリアが我慢ならなかった。

 

「Balwisyall Nescell Gungnir トロオオオオオオーーンッ!!!」

 

 響の真っ直ぐな歌に、マリアの迷いの歌が押し負け彼女の手から槍が消えた。

 

「何が起きているの……?! こんな事ってありえない……! 融合者は適合者ではないはず! これは貴女の歌、胸の歌がして見せたこと! あなたの歌って何?! 何なの?!」

 

「撃槍・ガングニールだあああぁぁぁッーーーー!!!」

 

 響の魂の詠唱にガングニールが応え、マリアのギアが響へと吸い込まれるように纏われた。

 融合者ではない。それは響が、ガングニールの真の適合者として覚醒した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

  ☆

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