シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第二話 特異災害対策機動部

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああァッ!!!!!」

 

 響の胸から溢れる光が、彼女を球状に包み込む。

 知らない歌、それでいて魂にまで響くような歌が、彼女の胸に刻まれる。

 光が収束した後、響の体に変化が訪れる。

 リディアンの制服は影も形もなく。胴体にオレンジと黒のインナースーツを着用し、その体の節々に白いガントレットや、鎧や、ヘッドギアを取り付けたような服装へと変わっていた。

 

「え? え? 何これ? 何これぇっ!? わたしどうなっちゃったのぉ?!」

 

 突然体に起きた変化に、訳が分からず自分の体を見下ろす。

 

「おー! お姉ちゃんが変身したっ! 良いなぁ〜カッコいいな〜!」

 

「変身?」

 

 男子小学生心を刺激されたのか、キラキラした視線を向けるユウ。

 改めて自分の体を見てみる、体に纏われたその装束は、二年前に見た彼女達の者にそっくりだった。

 

「これなら、もしかしたら……」

 

 響がグッと拳を握った瞬間、一番手前のノイズがコチラへと突っ込んできた。

 

「やあー!」

 

 恐る恐る、それでいて確信を持って拳を突き出す。

 腰の入っていない素人女子高生のヘロヘロのパンチだが、響の拳は粘土細工のようにノイズの胴体を凹ませ、一瞬で炭化させてしまう。

 

「や、やった! やったよユウくん!」

 

 人類の天敵、そして自らのトラウマを撃破した事を喜びながらユウの方を見る。

 

「お姉ちゃん! 前見て、前!」

 

「え? うわぁっ!」

 

 喜ぶのも束の間、ユウが指差した方向を振り向くと、他のノイズ達が雪崩のように押し寄せる。

 

「う、か、数が多いぃ……」

 

 いくらシンフォギアを纏ったとはいえ、響は素人の女の子。一対一なら兎も角、複数を相手取る経験も技量もない。

 

「こう言う時は……逃げるが勝ちっ!」

 

 手前のノイズを二、三体倒すと、踵を返しユウを抱っこすると跳躍する。

 軽く力を入れただけなのに、建物から建物まで飛び上がれるほど高く跳躍する。

 

「すごい凄い! お姉ちゃんカッコいい!」

 

「えへへ〜、そうかなぁ?」

 

 憧れの眼差しで見つめられつい照れてしまう。

 しかし素人の装者が単独で逃げられる程、ノイズ達は甘くは無かった。

 

「う、こっちにも……」

 

 響達が逃走した先にもノイズ達が集まっている。それどころか大型の個体も見られ、ノイズを生み出していた。

 後ろからも先程振り切ったノイズが、追い掛けて来ているのが見える。正面の敵を倒している暇もない。

 せめてユウだけでも守ろうと、響が強く抱きしめたその時――

 

「Imyuteus amenohabakiri tron……」

 

 ――歌が聞こえる。

 毎日聞き慣れた歌声、しかしその歌詞は初めて聞く歌だった。

 

「え?……翼……さん……?」

 

 美しい歌声の後、目の前にいたノイズ達が、一瞬にして刻まれる。

 ノイズの肉片が桜吹雪のように舞い散る中、響の前に降り立ったのは、憧れの存在でもあるあの風鳴翼だった。

 そしてその姿は、青と黒のインナースーツに身を包み、手や足に響の物より軽装らしい白い装飾、なにより特徴的なのが、両足に付いた翼のような二振りのブレード。

 それは二年前、響が見た翼の姿とまるで同じものだった。

 

「あ、あの!」

 

「その姿……ガングニール、奏の……」

 

「え?」

 

「それに……その子、何故貴女が……」

 

「うん?」

 

 響とユウをどこか複雑そうな表情で交互に見つめる。

翼のその様々な感情のこもっていそうな表情の意味を聞きたかったがそんな暇はない。

 こちらの都合を考えずノイズ達は前進してくる。

 

「呆けてないで、貴女は全力でその子を守りなさい! 怪我一つさせては駄目よ!」

 

「は、はい!」

 

 刃の如く鋭い声に、ピシッと背筋を伸ばす。

 彼女にも色々思うことはあるが、今はノイズに集中する。

 今にも敬礼をしそうな程畏まった響を無視し、ノイズの群れへと突き進む。

 

「ハァッ!」

 

 手にした刀状の武器(アームドギア)を振るい、ノイズの群れを蹴散らす。

 空中に刀剣を召喚し広範囲の敵を突き刺し、脚のブレードを展開させ回転しながら辺りのノイズ達を切り刻む。

 

「凄い……」

 

「綺麗……」

 

 体幹もブレブレで拳に振り回されていた響とは違い、翼の動きに無駄は無く、そのしなやかな体を流れるように振るう。

 月夜に照られ、舞うように戦う翼の姿に、響とユウは見惚れてさえいた。

 

「ハアァッ!」

 

 あれだけ居たノイズの群れが、次々と姿を消していく。ユウを守れと言われた響だったが、その圧倒的な光景に手持ち無沙汰すら感じていた。

 そうしている間に、翼は狙いを大型へと変える。

 細長い太刀のようなアームドギアを、身の丈以上の大太刀へと変化させ、跳躍しながら縦に振るう。

 アームドギアに蓄積されたフォニックゲインが、斬撃と一緒に飛ばされる。

 

 《蒼の一閃》

 

 蒼い斬撃が、ノイズの群れの中を通過し、大型のノイズ体を貫通する。

 斬撃が通り過ぎた後、ノイズ達の体がピタッと停止し、ゆっくりとその体を縦にズラしていく。あまりの切れ味に、反応が遅れてやってきた大型ノイズはそのまま消滅していった。

 ノイズを生み出していた大型ノイズが消滅した以上、残りのノイズを蹴散らすのに、そう時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 翼によって全てのノイズが駆逐された後、ユウと響は黒いスーツの人達に保護されていた。

 

「はい、あったかいものどうぞ」

 

「ああ、あったかいのどうも……」

 

「ありがとうございます!」

 

 周りの大人達がバタバタしているのを、少し居心地悪そうに座る。

 自分だけシンフォギアを纏った状態なのが、余計に恥ずかしさを加速させるが、若いスーツの女性が渡してくれたコーヒーを飲むと、何とか落ち着いて来た。

 

「あ……変身が!」

 

 そう思っていると、先程と同じ光が響を包む。一瞬にして光は収まり、元のリディアンの制服に戻る。

 

「助けてくれてありがとう。すっごくカッコ良かったよ!」

 

「えへへ〜ありがとうユウくん。ユウくんが勇気をくれたおかげだよ」

 

 変身が解けようやく一息をつけた響に、改めてお礼を言う。とはいえ響もまたユウに連れ出されてなければノイズに襲われていたかもしれないし、ユウの笑顔が無ければ状況を変える事も出来なかったかも知れない。響もまた改めてお礼を言った。

 

「ふふ、仲が良いのね〜」

 

「え、え〜そうですか〜?」

 

「うん、ぼくお姉ちゃん大好き!」

 

「ブフッ!」

 

 ユウが横腹にしがみついた瞬間、響の鼻から赤い鮮血が滴る。ノイズ相手に奇跡的に無傷で生還したにも関わらず、唯一のダメージがユウからのハグだった。

 

「無事だったのね、貴女達」

 

「うえへへへ〜……あ! つ、翼さん!」

 

 溢れ出す鼻血を強引に擦って拭き取ると、翼へと向き直った。

 

「さ、先程はありがとございました! じ、実は翼さんに助けて貰うのこれで二回目なんですよ!」

 

「二回目……?」

 

「はい! 二年前のライブの日に……」

 

「……っ!?」

 

 二年のライブ。大勢の人の犠牲、貴重な聖遺物二つの損失、そして翼自身も大切な片翼を失い、己の無力さを痛感したあの事件。

 目の前の少女はその日の生き残りだと言うのだ。

 その後も響が感謝の気持ちや、翼のファンだと色々言っているが、今の翼の耳には何も入ってこなかった。

 

「あ、そろそろ帰らないと……ユウくんも、もう遅いし一緒に帰ろ?」

 

「はーい」

 

 そんな事に気が付かず、二年間の思いを吐き出した響は、満足したように時計を確認すると、既に学生なら補導されてもおかしくない時間だった。

 今度こそ最後まで送って行こうとユウと手を繋ぎ、翼達に礼をし去ろうとする。

 

「待ちなさい」

 

 翼が短く言い切った後、黒いスーツとサングラスのガタイの良い男達が二人を取り囲んだ。

 

「え? えっと……どうしてわたし達、囲まれてるんでしょうかぁ?」

 

「このまま貴女を返す訳には行きません。緒川さん」

 

「はい。失礼します」

 

 翼の側に控えていた長身の優男が前に出る。

 緒川と呼ばれた男は、響の前まで行くと、素早い動作でその両手に手錠をかけた。

 

「ええっ!? な、なんでぇ!?」

 

「申し訳ありません。一応必要な事でして、特異災害対策機動部二課本部まで、ご同行願いします」

 

 心苦しそうにしているが、外すつもりは無いらしく、緒川はそのまま連行するように響の隣に立つ。

 

「いや、ちょっと……うわっ!」

 

 手錠されての連行、初めての経験に戸惑っていると、反対側から引き寄せられる。

 

「お姉ちゃんをいじめないでっ!!」

 

「ユウくん……」

 

 響を引っ張ったのはユウだった。大勢に取り囲まれ、手錠をされ、何処かへと連れて行かれようとした響をユウが引き離したのだ。

 

「あ、えっと、いじめる訳じゃないんだ。ただ今日の話を聞きたいだけで」

 

「やっ!」

 

「少しだけお姉ちゃんと、お話しさせてくれないかな?」

 

「やっ!」

 

 腰を落としてユウと目線を合わせながら、笑顔を見せて説得しようとするが、意思を曲げないユウは響にしがみつく力をより強くする。

 ガタイの良い黒スーツの男達に囲まれているにも関わらず一切臆さないユウに、周りの大人達の方が戸惑っていた。

 

「弱ったな……」

 

「緒川さん、この際この子も一緒に連れて行くのは?」

 

「翼さん? ですが……」

 

「一応この子も無関係じゃありません、形式上の事を言うなら、一緒に連行する義務があります。ここで時間を掛けると、余計に帰すのに時間がかかりますよ?」

 

「……分かりました。一応司令に確認をとりましょう」

 

 緒川と呼ばれた男が連絡を取るため少し離れると、数分と経たずに戻って来ると、響とユウを車へと乗せる。

 その間もユウは響から片時も離れず、頬を膨らませながら緒川達をかわいく睨みつけていた。

 

 

 

 

「あれ? ここってリディアン?」

 

 緒川達に続き響とユウも車を降りる。相手が政府の人間らしきところから、見た事もない場所に連れて行かれると響は覚悟していた。

 しかしついた場所は、彼女が毎日通っている学び舎。

 

「こちらです」

 

 緒川に案内され、翼、響、ユウの三人は学園の廊下を進む。その間もユウは響の横腹にしがみついていた。

 

「ゆ、ユウくん、ちょっと歩きずらいかな〜」

 

「やっ! お姉ちゃんはぼくを守ってくれたから、今度はぼくが守るの!」

 

(か、かわいいぃ〜!)

 

 足が取られ歩くのに不便だったが、一生懸命に頭を擦り付ける姿に満足し、どうでも良くなった。

 

「……早く進みなさい」

 

「は、はいっ!」

 

 不機嫌そうな翼の声に背筋を伸ばし、押されるように小走りで進む。

 ちゃんと口元の涎を拭くのを忘れない。

  

「こちらに捕まってください」

 

「あの、これは?」

 

 リディアンの中央棟に設置されている隠しエレベーター。緒川が端末に触れると扉が開き、二人を案内する。

 緒川に言われ、手すりらしき物を握った瞬間。

 

「わああああああああああああっ!!!?」

 

 体全体が浮遊感に包まれ、凄まじいGを味わう。

 エレベーターの下ると言う感覚では無く、遊園地にあるフリーフォールの()()()、と言う感覚に近かった。

 

「はぁ、はぁ、びっくりした〜。ユウくん大丈夫?」

 

「うん! すっごく楽しかった!」

 

 やっと落ちる感覚に慣れて来た響。手すりに捕まってないユウは、もっと怖かったのでは無いかと思ったが、杞憂に終わる。寧ろもう一度とでも言うように、キラキラとした目を向けていた。

 

「気を引き締めなさい。これから向かう先に、微笑みなど必要ないわ」

 

「は、はい……」

 

 アトラクションの後のようなリアクションをするユウに、和やかな雰囲気になりそうだったのが翼の一言で引き締められる。

 

(あの翼さんが、ここまで言うなんて……。一体この先何があるの?)

 

 やがて周りから感じる圧迫感が弱まる、少しずつエレベーターの速度が落ちているのだ。

 それはつまり終着点を意味している。

 ついにエレベーターの勢いが止まり到着した。一体何メートル降りて来たのかは分からないが、明らかに薄暗くなっている。

 先程とは違い翼が先陣を切り、エレベーターの扉を開く。薄暗くなったエレベーター中に一筋の光が差し込み、響たちはこの先に待ち受ける物に、グッと息を呑んだ。

 

 パンッ! パパンッ!

 

「へぇっ?」

 

 光に目を奪われた後、迫り来る軽い破裂音。

 一瞬銃声が何かかと思ったが、その後に降り掛かった、細長い紙で違うことが分かった。

 

「ようこそ! 立花響くん!」

 

 クラッカーの後に、成人男性の低い声が聞こえる。

 目を開けると、屈強な赤いスーツの男が、トンガリ帽子を被りながら大きく手を広げていた。

 

「へ? えっ?!」

 

「……はぁ、緊張感のない」

 

 何が何だか分からない響は辺りを見回す。

『ようこそ、二課へ』『歓迎、立花響様』などの幟がみえ、歓迎会の雰囲気なのが自分の勘違いでは無い事が分かる。

 ここの最高責任者であり、自分の叔父でもある風鳴弦十郎の浮ついた姿に、翼は頭痛を抑えるようにこめかみに指を添えていた。

 

「手荒な真似をしてすまなかった。この場所こそが、人類守護の砦、特異災害対策機動二課だ。最重要機密である以上、こう言う形式を取らなきゃいけないんだ」

 

 ガタイに見合わず爽やかに挨拶した弦十郎は、部下に指示を出し響の手錠を外させる。

 

「オレは風鳴弦十郎、ここを指揮しているものだ」

 

「え? 風鳴って……」

 

「そこの翼とは叔父と姪の関係になる。君が立花響くんだね?」

 

「は、はいっ立花響です。よろしくお願いします!」

 

「ああ、よろしく。そして君が、彼女のボディガードくんだな」

 

 視線を下に向ける。響の腰の横でムーと頬を膨らませたまま、近づいて来た弦十郎を威嚇するユウ。

 そんな彼に腰を落として視線を合わせる。

 

「えらいぞ!」

 

「…………?」

 

 弦十郎はニカっと笑うとユウの頭をポンポンと撫でる。撫でられた側のユウは、不思議そうに彼を見つめていた。

 

「……おじさん達って、悪い人なの?」

 

「そう見えるか?」

 

「わかんない。お姉ちゃんに酷い事してるから、悪い人達なのかなって思ったの。でもおじさんも、さっきのお兄さんも、優しい眼をしてたから」

 

「そうか、君にそう言ってもらえて嬉しいよ」

 

 ユウの答えに満足したのか、鋭い目を優しく細め、わしゃっわしゃっと撫でる力を強くする。

 

(何だろう? この人見てると、お父さんを思い出す……)

 

 豪快で力強くて男らしくて優しい。そんな彼の姿に自分が尊敬する父親の面影重ねた。ユウの中にもう警戒心は残っては無く、徐々にしがみつく力を弱めていった。

 

「はいはいストップ、手を離して弦十郎くん」

 

「おっと、何だ了子くん? 藪から棒に……」

 

「ついつい撫でたくなるのは分かるけど、そんな力任せに撫でたら、折角の綺麗な髪が傷んじゃうでしょ?」

 

 了子の指摘に同意しているのか、女性スタッフ全員が後ろでウンウンと頷いていた。彼女の言う通り、弦十郎の大きくてゴツい手で撫でられた事で、ユウの髪はボサボサに乱れてしまっていた。

 

「なんだいなんだい、全員で人をガサツ扱いしやがって」

 

「叔父様、私も同意見です」

 

「わたしもです! わたしだって、まだ数える程しか撫でて無いのにー!」

 

「二人まで……ちぇ……」

 

 まさかの翼と響からも追撃を受け、弦十郎はバツの悪そうに後ろに下がる。

 

「それで、ええと……貴女は?」

 

「私の名前は櫻井了子。この二課でノイズや、聖遺物、そしてシンフォギアについての研究を主に行なっているわ」

 

「聖遺物、シンフォギア……?」

 

 聞き慣れない単語に首を傾げる響。

 

「それってさっきの鎧の事? 教えて下さい、あれは一体何なんですか!?」

 

「うふふ〜気になる? じゃあまずは…………脱いで貰おうかな?」

 

「へぇっ!?」

 

 意地悪そうな笑顔を見せた後、了子が指をパチンッと鳴らすと、女性スタッフが響を取り囲み別の部屋へと連れて行ってしまう。

 

「なあぁんでえぇぇぇぇぇっ!???」

 

 扉がピシャと閉じられ響の大きな叫び声が遮られる。

 知人の響が居なくなり知らない大人達に囲まれて、ユウは少し不安を感じ始めていた。

 

「えっと……ぼくも脱いだ方がいいの?」

 

「いや、貴女は脱がなくて良いから!?」

 

 恐る恐る自分の服に手を掛けるユウの腕を、翼が急いで掴んで止める。

 

「司令、誤解は解けましたし、あの子はもう帰してあげるべきかと」

 

「そうだな。すぐに車を回して……」

 

 元々連れてくる予定だったのは響だけ。ここからは機密情報も扱う事になる。警戒心を解く事ができた以上、無関係な彼は直ぐにでも家に帰してあげるべきだろう。

 

「…………ぼく、帰りたくない」

 

 弦十郎が何人かのスタッフに指示を出そうとした時、ユウが首を横に振った。

 

「でも遅いし、これ以上は親御さんが心配するよ?」

 

「………………」

 

 何か事情があるのを察した友里がしゃがみ込んで説得しようとするが、ユウは自分の服の裾を両手で握り締めたまま俯いている。

 その姿を見た翼は、立ち上がるとジッと弦十郎の方を見た。

 

「叔父様、この子を私の家で預からせて下さい」

 

「翼さん!? なにを……」

 

 緒川の驚きも当然。

 現在マンションでの一人暮らしで、しかも未成年である翼が、他所の子供を預かるなど言語道断である。

 そんな提案をまともな大人が了承するはずが無い。

 

「お願いします」

 

「「……………………………………」」

 

「……………………まあ、良いだろう」

 

「司令!?」

 

 互いに無言で向かい会う事数秒、弦十郎は渋々ながら了承した。

 普段の弦十郎からではありえない判断に驚く緒川。そんな彼を置いて、再び翼はユウと向かい合い、腰を落として視線を合わせる。

 

「ねぇ、良かったら私の家に来ない?」

 

「お姉ちゃんの?」

 

「ええ、嫌?」

 

「ううん、さっきのお姉ちゃんちょっと怖かったけど、今のお姉ちゃん優しい眼をしてるから、良いよ!」

 

「そう、じゃあ行こうか」

 

「うん!」

 

 笑顔で頷くユウを見た翼は、安心したように微笑むと彼の手を握り、一緒に司令部を出て行く。

 

「司令、良いんですか? 相手の親御さんに確認も取らずに……」

 

「構わんさ、確認ならオレが取っておく」

 

「え? 司令あの子のご両親と知り合いなんですか!?」

 

「ああ、だからこの件はオレに任せて、お前は二人を送ってやってくれ」

 

「…………そう言う事なら、わかりました」

 

 謎に思える弦十郎の判断だが、彼なりの考えがあったと分かった緒川は、少しだけ納得し頷くと翼達の後を追った。

 

「いやでも可愛い子でしたね。あの子将来美人さんになりますよ。あおいさんなんて鼻息荒くしてましたしぃ〜」

 

「な! そんな事無いわよ! そう言う朔夜くんこそ、翼さんが服脱ぐの止めた時、残念そうにしてたくせに!」

 

「は、はぁ?! 誤解を生むような事言わないでくださいよ!」

 

 ニヤニヤとイタズラっぽく言う藤尭、しかし友里からの思わぬ反撃に声を大きくしてしまう。二人とも露骨に動揺してる様子から見て、案外的外れでは無いのだろう。

 

「お前ら、纏めてしょっ引かれたいのか?」

 

「「す、すみません……」」

 

 大の大人が、興奮しただのして無いだの、聞く人によっては豚箱にぶち込まれてもおかしく無い会話を無理矢理終わらせる。

 

「あと、あの子は男の子だ」

 

「「ええっ!?」」

 

 今日一番の驚きを見せる藤尭とあおい。2人だけでなくその場にいたスタッフ全員が動揺している。そんな彼らを無視して、弦十郎は自分のデスクへと視線を向けた。

 デスクの上にはいくつかの写真が置かれている、彼の視線は、その内の端にある小さな額縁へと向けられていた。

 

「大吾、まさかお前の息子に会う事になるとはな。ははっ、あの目昔のお前とそっくりだったな」

 

 写真の中には、学生時代の自分と、弦十郎に負けない大柄な男が肩を組んでカメラに向かって笑っているものだ。

 

(しかし、あの子が本当に星乃結なら、翼が動揺するのも分かる。翼にとってあの子は、奏くんと残した“約束”の一つだからな……)

 

 

 

 

 

 

 現在ユウは翼達に連れられ、彼女のマンションへと赴ていた。

 人気アーティストだけあって、住んでいる場所もセキュリティが万全の高級マンション。シンフォギアの装者が住む場所である以上、政府協力で防犯に力を入れている為ここ以上に安全は場所は無いだろう。

 

「お姉ちゃん、大変! 泥棒さんが入ったみたい」

 

 ――にも関わらず、彼女の部屋は荒されていた。

 タンスや押し入れの戸は全開、床には衣服どころか下着までまるまる錯乱していた。

 空き巣でも、もう少し綺麗に家探しするだろうと言う乱れっぷりだが、当の本人達に見られるのは動揺では無い

 

「…………翼さん、家に人を招くなら部屋の片付けぐらいしておいてください」

 

「……すみません」

 

 呆れた様子で頭を抑える緒川と、申し訳なさそうに頭を下げる翼。

 何故ならこの部屋の惨状は、空き巣では無く翼自身による物だったからだ。

 昔から身の回りの事が苦手な彼女は、昔馴染みでマネージャーでもある緒川に殆ど任せきりだった。

 

「仕方ありませんね、また僕が片付けますから」

 

「い、いえ! 自分で片付けます!」

 

「え? でも……」

 

「自分が散らかしたものを、自分で片付けるのは当然です!」

 

 それが出来ていないからこの惨状なのだろう。

 と口から溢れそうになるのを緒川は飲み込んだ。

 翼としても折れるわけにはいかない。目の前で子供が見ている前で、代わりに部屋を片付けて貰うなど情けなくて仕方ないからだ。

 

「……分かりました。では僕は食事の準備をしておきますね」

 

 そんな翼の真意を察したのか、緒川は心配そうにしながらも、渋々エプロンをつけて台所へと引っ込む。

 

「ぼくも手伝う!」

 

「い、いや! 貴女はゆっくりくつろいでなさい!」

 

「でも、くつろぐ所無いよ?」

 

「うっ……」

 

 ユウの指摘通り、床という床に衣服が乱れ、足の踏み場もない。

 

「お姉ちゃん、これって何?」

 

「そ、それは下着だから! 触ったら駄目!」

 

「おー初めて見た、大人だ〜」

 

「良いから置いておきなさい!」

 

 ユウが足元に落ちていたブラを手に取り、不思議そうにゆらゆら振り回す。

 堂々と散らかしているが、流石にマジマジと見られるのは子供でも恥ずかしいのか、急いで取り上げる。

 

「いい? 女性にとって下着は大事な物何だから、無闇に触ったりしては駄目!」

 

「大事な物なのに何で落ちてるの?」

 

「うっ……!」

 

 お姉さんとしてしっかりと躾けようとしたが、真っ当な返しをされぐうの音も出なくなってしまった。

 何をしても部屋が散らかっている以上格好がつかない。翼は諦めてユウにも手伝ってもらう事にした。

 玄関付近の廊下とリビングと寝室を二人で片付ける。

 

「はい!」

 

「ああ、ありがとう。む、上手いな」

 

 落ちた下着以外の衣服を、ユウが畳み、翼がしまう。

 ユウに渡された衣服は、無駄な皺もなく、一つ一つが丁寧に折り畳まれている。

 

「うん、ぼくのお母さん家に居ない時多いんだ。だからぼくお手伝いしてるの」

 

「へぇ、その歳で偉いのね」

 

「えへへ〜」

 

 彼ぐらいの歳の年齢なら、親の手伝いなどほとんどせず、遊んで過ごすのが普通だというのに。

 

「お姉ちゃんって、お片付け苦手なの?」

 

「そ、そんな事ないぞ! 今日はたまたま忙しくて片付ける暇がなかっただけだ!」

 

「そうなの? でも……」

 

 ユウが指を刺した方を見る。

 片付けやすいように一纏めにしていた衣服の山が崩れて広範囲に散らばっている。

 

「さっきより、散らかってない?」

 

「無念……」

 

 床に膝をつき、自分の不器用さに絶望する翼だった。

 

 

 

 

「ごちそうさまぁ!」

 

「はい、お粗末でした」

 

 満足したユウは、パチンと音が鳴るぐらい元気に両手を合わせる。

 その笑顔に、彼を連れてくる事に複雑そうにしていた緒川も、つい微笑んでしまう。

 

「ああこら、ご飯粒がついてるぞ?」

 

「ん? えへへ〜ありがとう!」

 

「ふふっ」

 

(翼さんが笑顔を……)

 

 ユウに釣られてか翼にも自然と笑顔が溢れる。

 それはマネージャーである緒川ですら、この二年間見た事のない、普通の女性の笑い顔。

 最初は不安だったが、彼を預かって正解だったのかも知れない。

 

「さて、僕はもう失礼します。明日の仕事は幾つか調整しておくので、今晩はゆっくり休んでください」

 

「お仕事?」

 

「僕は翼さんのマネージャーもしてるんですよ」

 

「マネージャーって何……?」

 

「主にタレントさんを影で支えて、お仕事のサポートする裏方みたいなものですよ」

 

「おー! 何だかカッコいい、忍者みたい!」

 

「え? あ、あははは……確かに似てますね」

 

 実際緒川の一族は遡ると忍びの家系に値するのだが、初めて会った少年にズバリと言い当てられ、流石に動揺してしまう。

 

(まさか気づいて? いやただの偶然でしょうか?)

 

 色々と気になるところはあったが、明日の仕事や今日の事後処理など、やる事が溜まっている為早々に司令部へと戻って行った。

 

「じゃあ食事も終わったし、お風呂でも入りましょうか?」

 

「わーい! ぼくお風呂大好き!」

 

 飛び跳ねるように喜びを主張するユウ。思えば朝方は響に連れられリディアンに、夕方からはノイズに追われ、晩は翼達に連れられた後に部屋の掃除の手伝いとの多忙さ。

 波瀾万丈の一日の疲れを早く風呂で洗い流したかった。

 

「わーい!」

 

「ああこら、無理に脱いだら髪が痛むぞ」

 

 脱衣所に飛び込んだユウが服を脱ごうと、パーカーの裾をお腹から頭まで持ち上げるが、頭のポニーテールが引っかかっているのか上手く脱げないでいる。

 

「むぐぐー!」

 

「……………………」

 

 必死で脱ごうともがいてるその姿を、翼はジッと見つめる。

 上半身の服が脱げかけ、もちもちの白い胸とお腹が誘うように揺れ、翼は釣られるように指を近づける。

 

 つんっ

 

「うひゃっ!? な、なに? 何したの?!」

 

「す、すまない、つい出来心で……」

 

 冷たい指先で突かれ身を捩る。

 ユウの驚きの声に、ハッと我を取り戻した翼は、謝りながら急いでパーカーに手を掛け脱ぐのを手伝う。

 数秒の格闘の後、ようやく首回りが、ユウの頭からスポッと抜けた。

 その瞬間、ユウの首元から透明色の石のような物が転がり落ちる。

 

「何か落ちたぞ。これは……水晶?」

 

 翼が拾い上げたのは、クリスタルとも言える、手のひらに収まるほどの小さな菱形状の宝石。それに革製の紐を取り付けたペンダントだった。

 

「あ、それはね、お父さんがくれた宝物なんだ」

 

 服が脱げ、プハーと頭を振ったユウもペンダントが落ちた事に気付いた。

 翼からペンダントを受け取ったユウが、クリスタルの部分を覗き込みながら語った。

 

「このクリスタルはね、宇宙と繋がってるんだよ」

 

「宇宙と?」

 

「うん! 昔ぼくのお父さんは、遠い星の人と友達になったんだ。これはその時に貰ったんだって」

 

「それって、宇宙人……って事?」

 

「そうだよ。“良い子”にしていれば、本当に困った時、そのお友達が少しだけ助けてくれるんだ。だからぼくお父さんの言い付けを守って良い子になるんだ」

 

 宇宙人と言われた時は驚いたが、良い子にしていると言う話の内容からサンタクロースのような物だと解釈した翼は微笑ましく思った。

 

「お父様の事、好きなのね」

 

「うん! 大好き!!」

 

 真っ直ぐな笑顔で大きく頷く。

 その純粋さから本当に尊敬しているのが分かった翼は羨ましさすら感じる。

 

「お父さんよく言ってたよ。『男なら誰かの為に強くなれ』、『男なら母さんの様に優しくあれ』、『男なら辛い時こそ笑顔であれ』あとはあとは!」

 

「男ばっかりね。少しは女の子らしい事も……」

 

「え? でもぼく、男だし」

 

「え?……………ええっ!??!」

 

 小さな手から細い指を折りながら、父との約束を数えていく。その中から彼の本当の性別を聞き驚く翼。

 ユウはもう慣れたのか突っ込む事をやめた。

 

 

 

 

 

「あははっ! くすぐったい!」

 

「す、すまない。自分のは兎も角、人の髪をといた事が無くて……」

 

「んーんいいよ! ぼく誰かに髪といてもらうの好きだから」

 

 風呂から上がったユウは、二人で布団の上に座り、翼にその髪をといてもらっていた。

 漆のように艶のある、サラサラした黒髪を、翼は宝物のように優しく扱う。

 

(そう言えば昔確かに叔父様は男って言っていた。あまりの愛らしさに性別を忘れるとは、不覚!)

 

 ユウの髪をときながら、先程までの自分の勘違い大いに反省する。

 

(ふぅ、しかし見れば見るほど男とは思えない愛らしさだな。私よりも艶のある髪、白い肌、なによりスベスベで柔らかい。特にこの首元とか……食べてしまいたいぐらいに…………はっ! いかんいかん! 落ち着け、風鳴翼!)

 

 口元から溢れ出そうになった煩悩を急いで拭う。

 

「ねぇ、お姉ちゃんどうしたの?」

 

 大きくかぶりを振っている翼を、不思議に思ったユウが、首だけを回して此方を見る。

 透き通るような白い肌が、湯上がりのためかほんのり赤く火照り、艶のある黒髪を靡かせる。

 その姿が、翼の好きな美人画、《見返り美人》と被って見えた。

 

(煩悩退散煩悩退散煩悩退散!!!)

 

「お姉ちゃんっ?!」

 

 黒い髪と反転する白いうなじに、生唾を飲む。いけない気持ちになりかけた翼は、近くの柱へと何度も何度も頭を打ち付ける。

 

「すまない、大丈夫だ」

 

「そ、そうなの?」

 

 おでこを赤く腫らしながらサラリという。

 自覚のないユウは、時々狂気を感じる動揺を見せる翼に驚くが、“良い人”で固定されている為気にしない。

 不器用ながらも一生懸命に髪をといてくれる翼に、ユウも少しずつ気持ち良さそうな顔を見せる。

 

「ねぇ、お姉ちゃんって、響お姉ちゃんの事嫌いなの?」

 

「っ!?……な、何で?」

 

 そんな中不意に出された話題に大きく動揺する。

 それは今日彼女が感じていた心の中を読まれたような感覚。

 

「だって今のお姉ちゃんは優しいけど、さっき響お姉ちゃんと一緒にいた時、すっごく怖かったもん」

 

「それは……」

 

「響お姉ちゃん、良い人だよ? 今日ぼく何度も助けてもらったもん」

 

 ユウにとっては、自分の身を顧みずに何度も助けてくれた恩人。笑顔も元気で、ユウは今日一日だけで響の事を好きになったぐらいだ。

 だからこそ翼の視線の意味がわからなかった。

 

「……嫌いというわけでは無いの。でもあの子は私の大事な物を手にしてしまっているの。あれを返してもらうまでは、私はあの子を認められ無い。認める訳にはいかないの……」

 

「大事な物って……?」

 

「……………………」

 

 沈んだ声でそれだけを言うと翼は、俯き黙りこくってしまう。

 

「ねぇ、お姉ちゃんのお名前教えて?」

 

「え?」

 

 翼が言いたく無いのなら無理に聞くつもりはない。

 ユウに突然話題を変えられ、素っ頓狂な声を出してしまう。

 ――知ってるでしょ? 思わずそう言いそうになったのを飲み込む。

 響、未来、緒川、すでに色んな人に翼の名を聞いている。しかしユウが言いたいのはそういう事では無い。

 

「だってぼくお姉ちゃんから教えて貰ってないもん」

 

「あっ……」

 

 ユウに言われて思い出す。

 確かにあの時のリディアンでの顔合わせは、ユウだけが名乗って、翼は颯爽と去ってしまっていた。

 誰かから聞いたとか、知っているとかの問題じゃない、ユウは翼自身の声からその名を聞きたいのだ。

 顔から火が出そうになる。今思えば人に名を尋ねておきながら自分は名乗らずに去るなど、本来なら言語道断としか言えない事をしてしまったのだ。

 翼は改めて機会をくれた事を心底感謝した。

 

「ねぇ、お姉ちゃんは誰なの?」

 

 淀みの無い澄んだ宇宙(そら)のような瞳に真っ直ぐ見つめられる。

 

「私は風鳴翼、よろしくユウ」

 

 あなたは何者?と言う質問に翼は言い淀む事なくはっきりと見つめ返しながら答える。

 

「うん! ねぇ、翼お姉ちゃんって呼んでも良い?」

 

「ぐぅっ…………ええ構わない」

 

 初めて名前を呼ばれて顔がニヤける。

 何かが込み上げ溢れ出しそうになるが、これ以上醜態を晒すのを避ける為堪え、ポーカーフェイスを貫く。

 

「ユウ……」

 

「お姉ちゃん?」

 

 翼はユウの小さな背中を抱きしめる。

 

「貴方は私が守るわ……防人として、今度こそ」

 

 口だけじゃ無い、この言葉には強い意志が込められていた。

 しかしこの時のユウには、その意味が分かってはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







 星乃結 (ほしのゆう)

 ある日響が出会った謎の少年。
 今年10歳の小学生、男とは思えない愛らしい見た目に、長く艶のある黒髪を未来から貰った白いリボンで纏めており、一目では男と判断できる程。
 父親の仕事の都合でアメリカでの生活が長く、その為スキンシップが激しい。
 三年前父親から貰った、クリスタル状のペンダントが宝物。




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