シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第三十一話 フロンティア事変・終

 

第三十一話 フロンティア事変・終

  ☆

 

 

 

 

 

「「やったぁっ(デス)!」」

 

 爆発が収まり、完全な空間の消滅を確認した響と切歌が元気な声を上げる。

 二人程ではないが、翼やマリア達も訪れた勝利に歓喜の笑みを見せていた。

 

「へへっ!…………はっ! ウェルの野郎は?!」

 

 元凶であるウェルの存在を思い出したクリスが、辺りを見回す。しかし既に彼が乗っていたエアキャリアの姿は見えなくなっていた。

 ウェルは、ネフェリムが劣勢に追い込まれた時点で敗北を確信し、爆発に巻き込まれないように逃亡していたようだ。

 

「クソっ! まだ近くにいるかも知れねぇ! すぐに探し出して――うわぁっ?!」

 

 エクスドライブの機動力なら追いつけるかもしれない。手当たり次第にでも飛び立とうとした時、クリスは突然の浮遊感を感じた。

 クリスの纏っていたシンフォギアが消滅したのだ。

 

「クリスちゃんっ!?……わぁっ?!」

 

「ギアが……消えた?!」

 

 響や調、マリアたちも同様に、フォニックゲインの消耗により、次々とギアを強制解除されていく。

 それと同時に、彼女たちは高度を失い、無防備な状態で地上へと落下していった。

 

「きゃあっ……!」

 

 だが、誰一人として地に叩きつけられることはなかった。それを、巨大な銀の手が、優しく受け止めたからだ。

 

「……ウルトラマン?」

 

 カレは六人の少女たちを傷つけまいと、慎重に膝をつき、その手のひらを地面へと下ろしてくれた。

 

「ありがとうございます、ウルトラマンさん!」

 

 手のひらから降りた響が、満面の笑みを浮かべながら深々とお辞儀をした。

 だがティガは、無言のまま、彼女たちを静かに見下ろしていた。

 

「え、あ、えっとぉ……」

 

 その圧力に押されてついどもってしまう。

 沈黙と共に微妙な空気が流れる中、そうしている間にティガの体から光の粒子が溢れ出した。

 それは月の欠片を破壊した後姿を消した時と同じ現象。全身が光に包まれ、まるで炭酸の泡のようにその巨大な姿が消え去ろうとしていた。

 

「あっ、あの、待ってください! 今日のことも、未来のことも! ルナアタックの時も……二年前のライブの時だって!」

 

 響は焦るように、声を張り上げた。

 

「全部全部助けてくれて、本当に、本当に――ありがとうございましたぁっ!!」

 

 このままでは二度とお礼を言う機会がない。

 そう焦った響は、これまでにずっと心の中に溜め込んでいたウルトラマンへの感謝の気持ちを全て吐き出した。

 今にも消え去りそうな巨人は、答える事なく無言でその右手を差し出した。

 

「え……?」

 

 その突き出された手に、響は一瞬戸惑う。

 だがすぐに、自分の右手を伸ばし、その巨大な指に手のひらを重ねた。

 

 手を――繋いだ。

 

 圧倒的なサイズ差。けれど、確かな“温もり”がそこにあった。

 

(コクリ)

 

 響が触れた瞬間、ティガは静かに頷いた。

 そして、次の瞬間、光の粒子となり巨人の姿は夜空に溶けて消えていった。

 

 “皆んなの歌を、光を、諦めないで”

 

 耳には何も聞こえなかったが、響の心には、まるでウルトラマンが最後にそう言ったように刻まれた。

 

「…………ありがとう、ウルトラマン」

 

 響は空に消えて行く光を見つめながら、もう一度感謝の言葉を呟いていた。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 世界の脅威となったネフェリムが消失し、フロンティアが機能を停止し、ひとまずの平穏が訪れた後、ニ課の面々は事態の収集にあたっていた。

 

「月の軌道は、正常値へと近づきつつあります。全てナスターシャ教授のお手際のおかげです」

 

「私の手柄ではありませんよ。全てマリア達の……彼女達の頑張りのおかげです」

 

「ありがとう……お母さん」

 

 マリアはナスターシャの頭を抱え抱きしめ、調や切歌も同じように彼女の手を握った。

 

「……これからあたし達、どうなっちゃうデスか?」

 

「大丈夫だよ。きっと大丈夫……」

 

 不安そうに目を細める切歌の手を、安心させるように調は自分の手を重ねた。

 

「調くんの言う通り、君達を悪いようにはしないさ。取り敢えず潜水艦(コイツ)が動かない以上、救助を待つ必要がある。それまでに傷の手当てをしよう」

 

 弦十郎は自分の背後で座礁している潜水艦をコンコンと叩いた。

 

「よろしいのですか? 私達は――」

 

「世界を月の落下から救ってくれた、“英雄”だろ?」

 

「私達は、そんなんじゃ……」

 

 謙遜では無かった。弦十郎達からすれば、誰よりも早く月の落下を察知し、解決のために動き最終的にそれを止めた英雄。

 しかし当の彼女達は、自分達の浅い考えで世間を騒がし無駄に混乱を招いた事を悔いていた。

 

「…………そうだな。なら英雄としてではなく、“家族”としてもてなさせてくれ」

 

「家族?」

 

「ああ、オレ達の大切な家族の家族だ」

 

 つい冗談のつもりで英雄などと言ってしまったが、弦十郎達にとって彼女達に、そんな安っぽい言葉は似合わなかった。

 調の時と同様、彼女達も自分達にとって大切な人の家族である。そんな彼女達をもてなす事に何の抵抗もなかった。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 二課の人達により治療を受けた後、私は彼らの仮設本部である潜水艦の廊下を歩いていた。

 テロリストとしてではなく客人として案内された為か、出歩きも自由と言われたが、その優しさが逆に落ち着かなかった。

 

「……ここね」

 

 それでも私には行きたい場所があった。

 そわそわしながら廊下を歩いていると、壁のネームプレートに《ユウの部屋》と書かれた個室を見つけた。

 その名前が目に入った瞬間、私の足は自然とその部屋に向かっていた。

 私が扉に触れると、自動のドアが何の抵抗もなく開いた。

 

「ユウ? 居るの?」

 

「……くぅ……すぅ……」

 

 鍵のかかっていない扉に、もしや留守なのかと不安になったが、杞憂だったようだ。その部屋のベッドの膨らみの中に待ち人はいた。

 性別を勘違いしそうな程、キュートで愛らしい少年。リボンを外し広がった艶のある黒髪をふかふかの枕に埋め、ぷっくりとした柔らかそうな唇からは、小さな寝息が溢れていた。

 

「ユウ……良かった」

 

 身体中に包帯やガーゼなど手当ての跡が見えるが、大きな怪我がないようで安心する。自分達の策略のせいで、彼の大切な人を洗脳し、それを助けようとした彼自身を傷つけてしまった。

 

(本当に、ごめんなさい……)

 

 この傷は私達がつけてしまったも同然だ。彼の優しさを、この子の想いを、裏切った私がこの子の側にいる資格は、もうないのだろう。

 

「……ありがとう、ユウ。貴方のおかげで……私は分かった。歌に大切なのが、一体何なのか」

 

 それでもこの一言だけはどうしても言いたかった。

 よっぽど疲れているのだろう、思わず頭を撫でてしまったが、ユウが目覚める気配は無かった。

 

「――マリア……お姉ちゃん」

 

「っ!……ユウ?」

 

 寝言だった。

 ユウは目を開く事もなく、まるで子猫のように、気持ちよさそうに私の手に頭を擦り付けてきた。

 

「大好きだよ……お姉ちゃん」

 

「――っ!? ユウっ!!」

 

 その言葉に、私の胸の奥の何かが熱く燃え上がる。

 こんな私を、まだ好きと言ってくれる彼が愛おしくてたまらなかった。

 

「ユウ……ありがとう」

 

 また私の名前を呼んでくれる、その柔らかい口元に、まるで吸い込まれるように私は顔を近づけていった。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「「「――ちょっと待ったァッ!!!」」」

 

 今にも二人の唇がくっ付きそうになった瞬間、背後の扉が開く。聞こえてきた大きな声に驚いたマリアは、ビクッと身体を震わせた。

 恐る恐るマリアが振り向くと、ワナワナと肩を振るわせる翼達の姿があった。

 

「ま、マリア貴様……ユウと会う事は許可したが、そこまでする事は許したおぼえはないぞっ!!!」

 

「マリア……それは流石にずるい」

 

 翼の抗議に、その後ろに居た調達も続く。

 

「し、仕方がないじゃない! あんなキュートな事言われたら、我慢できないわよ!」

 

「あー分かる……って、なに言ってんだこの変態女!! だいたいお前、自分の年齢考えろよ!」

 

「そうデスよ! あたし達なら兎も角、マリアの歳でそれは犯罪デスよ!!」

 

 まだ未成年のクリス達からすればギリギリセーフだが、現在二十歳のマリアが、十歳の少年のベッドに顔を寄せている姿は、いかにも犯罪感の強い絵面である。

 クリスと切歌の指摘に、他の皆も「そーだ、そーだ」と抗議の声を上げる。

 

「わ、私は世界に宣戦布告した女よ! 今更その程度の罪なんか怖くないわ!」

 

「「「「「開き直るなっ!!!」」」」」

 

 堂々と胸を張って開き直るマリアに、五人の装者が同時にツッコンだ。

 

「ん……んん〜……ぅ」

 

 決して広くはない個室に響き渡る五人の声に、眠っていたユウの眉が歪む。

 その小さな寝音に、彼が眠っている事を思い出した全員が、ハッと口を押さえた。

 

「…………………………すぅ……すぅ……」

 

「「「「「「「……はぁ〜(デスぅ)」」」」」」」

 

 それが功を呈したのか、数秒してユウは再び気持ち良さそうな寝顔に戻った。

 

「もう皆んな、そんな大きな声を出したら、ユウくんが起きちゃうでしょ?」

 

 そんな光景を、一人黙って見守っていた未来が、慌てて口を押さえている五人を咎める。

 

「ご、ごめん未来、でもマリアさんが――」

 

 響が慌てて弁解をしようとするが、未来はそれを遮るように、頬に赤みを帯びさせながらふわりと笑う。

 

「まぁあんなに柔らかくて気持ちいい、ユウくんの唇だもんねぇ〜、マリアさんの気持ちも分かりますけどねぇ〜」

 

「「「えっ?(デス?)」」」

 

 未来の口から放たれた衝撃発言に、マリア、クリス、切歌が気の抜けた声をあげた。

 未来は頬を両手で押さえ、くねくねと体を捩らせながら目を潤ませている。

 

「お、おい……どう言う事だ? その言い方だと、まるでお前がユウと…………」

 

「え〜?…………………………うへへへへ〜!」

 

 クリスからの質問に、未来は不気味な笑い声を返す。

 その花の女子高生とは映してはいけないような不気味な笑顔と、口元から垂れるヨダレに、起こった出来事を察したマリア達は真っ白な石像のように固まった。

 

「……そ、そんな……ユウが……ユウが――」

 

「ユウがねとられたのデスぅ〜!!!」

 

「切ちゃん、そう言うのは寝てから…………寝てるね、わたし達」

 

 切歌がどこで覚えたのか分からない言葉を叫ぶが、現にマリア達は、一緒に生活している時にユウと一緒に添い寝をした経験のある為、間違ってはいなかった。

 それを聞いた翼達が続くように声を上げる。

 

「そ、それなら! 私だってユウと一夜を共にした事があるんだ!!」

 

「アタシなんて、最近はほぼ毎日一緒に寝てるんだからなっ!!!」

 

「そうだ、そう――――どう言う事だ雪音?」

 

 勢いのまま出てきたクリスの一言に、翼の体がピシッと固まる。そのまま首だけがグググッと回転し、失言してしまったと顔を背けるクリスを睨みつけた。

 

「あれ、翼さん知らなかったんですか? ユウくん今はクリスの部屋に住んでるんですよ」

 

「なん……だと……?」

 

 海外で活動していた翼は知らなかったが、ユウは現在クリスの部屋に滞在している。理由としては学園に通いやすく、尚且つ保護観察の二人を一纏めにしていた方が都合が良いからである。

 

「くっ! 何故叔父様はその事を……」

 

「多分翼さんが知ったら、真っ先に日本に帰国してくると思ったからだと思いますよ?」

 

「くぅ………………雪音、貴様ぁ……!」

 

 怨念の籠ったような目で翼に睨みつけられ、クリスは慌てて両手を振った。

 

「ま、待てって!? 先輩は、アタシのユウへの気持ちを認めてくれたんじゃないのかよっ!」

 

「それとこれとは、話が別だっ!! 私が夢の為に命懸けで我慢している間に、そんな羨ましい時間を……」

 

「そ、それならコイツらだってなっ! ほぼ毎日ユウを自室に連れ込んでやがるし、週に二回はそのままお泊りさせてんだぞ!」

 

「ちょっとぉっ! 何で今それを言うのぉっ!??」

 

 いきなりの飛び火に響も声を上げる。

 

「お前達ぃっ……! もう許さん! 帰ったらユウは、私のマンションに住まわせるっ!!」

 

「なっ?! そんな勝手、許すかよォッ!」

 

「ええい、五月蝿い! これまでのこの子との時間を取り戻すんだ!」

 

「――って、言うか! あたし達を放って勝手に話を進めないでほしいデス!」

 

「……やっぱりここは変態の巣窟……わたし達が、ユウを守らないと」

 

 謎の決意を強める調と、それまで傍観していた切歌達も交わり、室内は再び混沌と化していた。

 

「だいたい! 小日向の件だって、あれはただの人工呼吸! つまり人命救助だ! だからノーカンだッ!」

 

「……でもユウの唇と触れたのは事実デスよね?」

 

 現実を否定しようと声を上げる翼。しかし切歌の指摘に未来以外の全員がズーンと肩を落とし、辺りはお通夜ムードのように重い空気が流れた。

 

「まあまあ〜皆んな。誰が先にしたかとか、順番なんて関係ないって〜! えへへ〜!」

 

「……ごめん未来。ちょっと黙ってて?」

 

 謎の余裕と、まるで自分が一歩リードしているかのような上から目線の喋り方と、とろとろに惚気た顔に、流石の響も苛立ちを覚えていた。

 

「もう、そう言うなら、響も今しちゃったら良いんだよ。ユウくんと!」

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

 未来からの予想外の提案に、全員の目がカッと開いた。

 

「で、ででででも!? 今ユウくん寝てるし! 勝手にそんな事!」

 

「響は、ユウくんとしたくないの?」

 

「したいですっ!!!」

 

 間髪入れずに即答する響。

 そして、その場にいた誰もが、彼女の魂の叫びに心の中で頷いていた。

 

「なら大丈夫だよ〜。ユウくんって私達のこと大好きだし、きっと許してくれるよ〜」

 

「で、でもぉ……」

 

 色々と欲望を解放しつつも生娘の彼女は、流石に恥ずかしいのかモジモジと手を擦り合わせる。そんな可愛らしい反応を見せる響を見た未来は、彼女の両肩に手を乗せ耳元で囁いた。

 

「ユウくんの唇って、すっごく柔らかいんだよ〜。プリンみたいにぷるんぷるんで、マシュマロみたいに柔らかくて、リップも塗ってないのにしっとりしてるんだ〜」

 

「……(ゴクリ)」

 

「それにね? ユウくん、キス凄く上手いんだ〜。ほっぺにしてくれた時も、胸の奥がザワザワ熱くなって頭の中が、ほわぁ〜ってなったけど、あの時とは比べ物にならないよ」

 

「あ、あれ以上……!?」

 

「「「「(ゴクリ)……」」」」

 

 未来の口から発せられる、天使のような甘い声で悪魔の囁きに、響だけでなく無言で耳を傾けていたマリア達も、生唾を飲んだ。

 その場の全員の視線が、その柔らかそうな唇に集まる。

 

「ねぇ〜ユウく〜ん。お姉ちゃん達の事、だーい好きだもんねぇ〜?」

 

 眠ったままのユウが、くすぐったそうに笑って囁く。

 

「……えへへ〜。……大好き……」

 

 ――プツン

 

 その瞬間、彼女達の中の何かが壊れた。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

「…………ん、ぅん?」

 

 マリア達が入室し約一時間程が経過した頃、その細い眉が歪み少年は目を覚ました。

 

「あ、ユウくん起きたんだ」

 

「あれ? お姉ちゃん達どうしたの……?」

 

 霞んだ視線の先には、愛おしそうな表情で自分の髪を撫でている未来の姿が見えた。眠そうに目を擦りながら辺りを見回してみると、未来だけでなく響や翼達の姿も目に入る。

 しかし何故か彼女達は、ユウから顔を背け、壁の方を向いていた。

 

「……あ! マリアお姉ちゃん達も居る! 良かった、戻って来れたんだね!」

 

「え、えぇ……」

 

「お、おう……」

 

「デスぅ……」

 

 敵対勢力となっていたクリス達が、ここに居る姿を見て彼女達の問題が解決したのを察したユウは、嬉しそうにベッドから飛び降り皆んなに近づく。

 しかしユウが駆け寄ったにも関わらず、切歌達は何やら罪悪感でもあるのか顔を背けている。僅かに見える彼女達の頬と、耳の裏は何を恥ずかしがっているのか、熟した柿のように真っ赤に染まっていた。

 

「えへへ! 良かったねマリアお姉ちゃん!」

 

「う…………ええ、そうね。ありがとうユウ、貴方のおかげで私は、優しい歌を取り戻すことが出来た」

 

 そんな事を気にせず抱きついて来るユウに、一瞬戸惑うマリアだったが、改めて想いの内を伝えた。

 

「あ……そういえばマリアさん、コレ……」

 

 マリア達の真面目な雰囲気を見て、普段の調子を取り戻した響が、思い出したように懐からペンダントを取り出した。

 それはマリアのガングニールだった。状況の整理や治療などで忙しなくしていた為に返却するのを忘れていたが、元々コレはマリアの物である。

 

「……いいえ、ガングニールは貴女にこそ相応しいわ」

 

 しかしマリアは、突き出された響の手を優しく握ると、その手を彼女の方へと返した。

 マリアもまた、自分よりも響の方がガングニールの適合者に相応しいと認めたのだ。

 

「マリアさん……ありがとうございます! わたし頑張ります! このガングニールに負けないぐらい真っ直ぐに、自分の意思を貫き通して見せます!」

 

 響はマリアから託されたガングニールを、自分の胸元へと強く押しつけた。そしてこの力と想いの重さを、空洞となった胸の内へと強く刻み込んだ。

 

「良かった、お姉ちゃん達が分かり合えて」

 

「でも、月の遺跡は再起動させてしまった……。バラルの呪詛……世界を救う為とはいえ、人類の相互理解は、また遠のいてしまった……」

 

「へいき、へっちゃらです。だってこの世界には、歌があるんですよ!」

 

 ネフェリムを倒し、ノイズ達の大元であるバビロニアの宝物庫は消滅した。それでも世界から争いが無くなるわけではない。

 しかし響には自然と希望が残っていた。

 

「ウルトラマンさんが言ってたんです“諦めるな”って。言葉の通じないあの人とだって手を繋げたんです。だったら歌で繋がれるわたし達が、手を繋げない筈がないですよ!」

 

「ぼくもそう思う。だってお姉ちゃん達の歌は、一度は世界を繋いだんだもん! きっともう一度繋げる筈だよ」

 

 響のユウの楽天的な考え。しかしこの二人には、それが理想ではなく、本当に現実にしてしまいそうな不思議な雰囲気があった。

 

「……ええそうね。ユウ、貴方達に出会えてよかった」

 

「ぼくも! 大好きだよ、お姉ちゃん!」

 

 マリアはユウの小さな体を愛おしそうに抱きしめた。その光景を、翼達は先程までの羨ましそうな目ではなく、どこか微笑ましい目で見つめていた。

 

「そう言えばマムも一緒なんデスよ!」

 

「うん。向こうで休んでるけど、ユウに会いたがってたよ」

 

「ほんと! ぼくも会いたい! 早く行こ?」

 

 ナスターシャの無事を早く確認したかったユウは、勢いよくドアに駆け寄り外に出ようとする。

 

「……っ!」

 

「ん? どうしたのユウくん?」

 

「……えへへ! なんでも無い。ほら、早く行こ?」

 

 部屋を出ようとしたユウの動きが止まり、未来達は不思議そうに首を傾げる。しかしユウはいつもと変わらない笑顔を見せたあと、すぐに部屋を後にする。疑問に思いながらも翼達もその後ろをついて行った。

 いつもの元気な後ろ姿。しかし彼女達は気が付いていなかった。その小さな体にいつの間にか、幾つもの生傷が増えていた事に。

 

「そう言えば、さっきからお口が、ひりひりするんだけど何でだろう?」

 

 ユウから質問に、マリア達はただ無言で目を逸らすだけだった。

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 フロンティア事変から、一週間が過ぎた。

 

 人々の間では、突如現れた「光の巨人」の話題がいまだ尽きることなく、街角のテレビでも、ネットの片隅でも、「ウルトラマン」という存在がセンセーショナルに語られていた。だが、その騒ぎの中心にいたはずの少年は、ひっそりと、ある場所へと足を運んでいた。

 政府が管轄する高度医療管理施設。その白く静かな建物の前で、星乃結は深呼吸をひとつ。

 

「マムさん、こんにちは!」

 

 明るく手を振って病室の扉を開けた少年に、ベッドに腰かけていた老女は微笑を返した。

 

「ええ、こんにちは。来てくれたのね、坊や」

 

「うん! 本当はもっと会いに来たかったんだけど……」

 

 頬をかくユウの表情には、どこか申し訳なさと、それ以上の嬉しさがにじんでいた。

 この施設には現在、かつてF.I.S.の指導者であり、科学者でもあったナスターシャ・セルゲイヴナ・トルバチュクが拘束・入院している。かつて世界に刃を向けた組織の一員――それでも彼女は、今なお少年の「大切な人」だった。

 フロンティア事変終結後、彼女たちは拘束された。世界を敵に回した代償として、米国政府は彼女らの引き渡しと処刑を要求した。しかし、外務省事務次官・斯波田賢仁の働きによって状況は大きく変わる。

 月の落下に関する情報隠蔽、F.I.S.という存在の経緯、裏にある「不都合な真実」――それらが国際社会で暴かれたことで、米国は最終的に「F.I.S.は存在しない」という声明を出すに至った。

 それは事実の有耶無耶を意味し、結果として装者たちは処罰を免れた。

 ナスターシャもまた、望めば自由を得ることができたはずだった。だが彼女は、自らの罪と向き合うため、そして体に蝕む病を治療するため、この施設にとどまることを選んだのだ。

 

「ねぇねぇ、今日もお話、聞かせて?」

 

 ユウが椅子を引いてベッドの横に座る。目を輝かせて問いかける姿に、ナスターシャは自然と笑みをこぼした。

 

「ふふ……ええ、構いませんよ。今日は何が聞きたいの?」

 

 話の内容は、彼の父親である大吾の事。ユウが生まれるより前から共に仕事をしていたナスターシャから、自分も知らない父の姿を聞く事が最近の楽しみとなっていた。

 

「大吾はね、日本人であることで最初は周囲から強く当たられていました。でも彼は諦めなかった。相手の長所を探しては自分に取り入れて、丁寧に人と接して……そうしていつしか、周囲にはたくさんの仲間がいたのです」

 

「ふむふむ……」

 

 ユウは小さなノートを開いて、メモを取りながら聞き入る。そこには“父から受け継いだ光”を未来に繋げるための、彼なりの準備があった。

 

「坊やは、やっぱり将来は宇宙飛行士になりたいの?」

 

 ナスターシャの問いに、少年はにっと笑って、胸を張る。

 

「うん! お父さんみたいな……んーん。お父さんよりももっと凄い宇宙飛行士になるのがぼくの夢。それでお父さんが見た景色や、見られなかった景色をぼくが見たいんだ!」

 

「……宇宙は、怖い場所よ」

 

 思わず出た言葉だった。ナスターシャは、大切な友を宇宙で失い、その息子もまた同じ空を目指すという現実に、胸が痛んだ。

 だが――。

 

「そうかもしれない。でもぼくはお父さんから受け継いだ(おもい)”を果たしたい。この胸の光を持って、未来を生きるって決めたんだ」

 

「……そう」

 

 少年の瞳は、どこまでもまっすぐで、どこまでも父と同じだった。

 止められない――そのことを、ナスターシャはよく知っていた。

 

「そう言えば、昔の大吾は英語が苦手だったのですよ」

 

「えっ? そうなの?」

 

「ええ、何度あの子の発音に笑いそうになったか。そう言う意味では、坊やの方が一歩リードしてるかもしれないわね」

 

「ほんと! やったー!」

 

 だからナスターシャは、少年の夢を応援する事にした。彼の夢が決して止まらないのなら、彼が少しでも飛べるように、少しでも安全に夢に到達するようにその背を押してやる事を誓った。

 

「そう言えば体の調子はどう? ちゃんとお薬飲んでる?」

 

「心配しなくても飲んでますよ。それにあの日以降すこぶる調子が良いのですよ」

 

 それは強がりではなかった。月面からの帰還以降、彼女は一度も血を吐いていなかった。医師たちは首をひねるばかりだったが、ナスターシャは心の中で答えを知っていた。

――あのとき、自分の身を包んだ“光”。

 それはまるで、魂の深奥にまで届いたような温もりだった。彼女はそれを、ティガの光がもたらした小さな奇跡だと信じていた。

 

「この身が完治した訳ではありません……でもお陰で僅かに猶予が生まれました。貴方やあの子達が、成長していく姿をもう少し見ることができる。ありがとう……」

 

「ぼくは何もしてないよ。言ったでしょ? マムさんは頑張ったって。そんなマムさんの頑張りに、カレは応えてくれただけだよ」

 

 ティガの力は、決して万能でも奇跡でもない。人の強い想いに応じ、ほんの少しだけ背中を押してくれる――ユウは“光の力”をそう解釈している。

 

「――じゃあ、ぼくもう行くね?」

 

「もう行くの? まだ迎えの車が来ていませんが?」

 

「うん! これから走って帰るんだ。少し遠いけど、トレーニングにはちょうど良いからさ!」

 

 彼の目指す夢は、決して簡単に叶うものでは無い。だからこそ、ユウは今のうちから自身を高める。

 ユウは、耳にイヤホンを掛けシューズの紐を固く締め直すと、ナスターシャの病室を後にした。

 

 

 

 

はっ……はっ……はっ!」

 

ユウは河川敷を駆け抜けていた。汗が額を伝い、呼吸は荒い。それでも目は輝きを失わない。

 

『1266-1160は?』

 

「……56!」

 

『64×12は?』

 

「768!」

 

イヤホンから聞こえるのは、ナスターシャが教えてくれた、昔父がしていた訓練法――計算ランニング。脳と体を同時に使うことで、判断力・持久力・瞬発力を養う訓練だ。

 

(お父さんも……こんな風に走ってたのかな)

 

 ユウの中には、父・大吾の影がいつもそっと寄り添っていた。

 

「――ゴク……ゴク……っぷはぁっ!」

 

 頭の中に聞こえてくる算数や英語に答えて行きながら数十キロ走った後、ユウは休憩の為に腰を下ろし持っていた水を飲んだ。

 水分を補給し深呼吸をする。瞑想のように心を沈めながら空を仰ぐと、ユウの視線のずっと先に薄い白色の月が目に入った。

 見えずらいが、白昼の間でも月は見ることができる。本来の軌道を取り戻した土星のような月は、なんの問題もなく地球の周りを回っている。

 

(……ぼく、本当に、あそこに行ったんだ)

 

 かつて父が見た景色。写真でしか知らなかったその世界に、自分はたしかに立った。

 

(綺麗だったな……もう一度、見てみたい。今度は、自分の力で)

 

 ウルトラマンとしてではなく、宇宙飛行士・星乃結として。自らの足で、己の力で、もう一度あの場所に立つこと――それが彼の“本当の夢”だった。

 

(あの光景を見れたのも、あそこから帰って来られたのも、全部キミのおかげだよ。ありがとうティガ………………ティガ?)

 

 ティグの紋章を握りしめ声をかける。しかし紋章からの反応は無かった。

 

(……寝ちゃったのかな?……最近いっぱい頑張ってくれたもんね、ありがとう)

 

 以前月の欠片を破壊した時もこんな風に反応が鈍くなったことがあった。

 だから深く気にせず夢へ向かって走り始めた。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 荒れ果てた街並みを白衣の男が走る。

 男の正体はウェルだった。エアキャリアに残った神獣鏡のステルスを使い海外への逃亡を図ったウェルだったが、逃亡した先の国にも米国政府の手が伸びており、現在待ち構えていた米国のエージェントから逃亡していた。

 

「ひぃ……ひぃ……」

 

 いくらネフェリムの細胞を取り込んでいるとは言え、元はただの科学者。逃亡の為の体力は底をつき、スラム街の路地裏に膝をつく。

 

「…………やっぱり、ネフェリムなんかじゃあ駄目だ。あんな紛い物ではなく、本物が必要だ。あの力だ、あのウルトラマンの力さえあれば、今度こそボクは英雄になれるぅっ!!」

 

 しかし彼の頭の中にあるのは、この状況をどう打開しようかではなく、未だ諦めていない野望だけであった。

 

「手に入れてやるぞ、神の如き巨人の力を……!!!」

 

 路地裏の中心で野望を叫ぶウェル。そんな彼を米国のエージェントが取り囲み銃口を向ける。

 絶体絶命のピンチに関わらず、ウェルは狂ったように笑い声を上げている。

 そんな彼を不気味に思いながらも、エージェント達は引き金を引こうと指先に力を入れる。

 左腕以外は普通の人間と殆ど変わらないウェルに、銃弾が放たれようとした時、男達の視界は真っ赤に染まった。

 

「……あ?」

 

 ウェルを取り囲んでいたエージェント達が、まるで鋭利な刃物に切り裂かれたかのように、一瞬してバラバラに崩れ落ちた。

 流石のウェルも何が起きたのか分からず困惑した様子で辺りを見回す。

 するとそんな彼の元に一人の女性が姿を現した。

 

「お迎えにあがりました、ドクター・ウェル」

 

 深い緑と黒のドレスに身を包み、その左手には似合わない程の身の丈上の大剣を持った女性。

 彼女はスカートの端を掴み優雅にお辞儀をした。その型にはまりすぎた“人形”のような動きは、寧ろ不気味さすら感じさせる。

 

「……なんですかぁ、あなたは?」

 

「それは、オレの付き人みたいなものだ」

 

 ウェルが警戒を強めていると、人形のような彼女の後ろから一人の少女が姿を現した。

 

「子供……ではありませんねぇ? それにそっちも“人間”ではありませんよねぇ? 何者ですか?」

 

「ほう、一目見ただけでそこまで分かるか。ただの狂人では無いようだな」

 

 少女の格好は、背丈に合わない大きなとんがり帽子に地面に着きそうなほどに丈の長いローブを纏っていた。見た目だけなら“魔女っ子”の真似をしている女の子にも見えなくないが、ウェルは目の前の少女から感じる波ならぬ雰囲気を感じ取っていた。

 

「それで? ボクに一体なんのようですかぁ?」

 

「欲しいんだろ? “巨人の力”が」

 

 少女はまるで手招きをするように拳を握りしめる。まるでこっちに来いと誘っているかのようであった。

 

「オレ達と来い、そうすれば力をくれてやる。あの巨人と同じ力をな」

 

「…………クヒヒッ!」

 

 どこからどう見ても怪しい勧誘。しかしF.I.Sという後ろ盾を無くしたウェルに悩む理由など無かった。

 目の前の少女達は自分を利用するつもりなのだろう。ならばそれでも構わない。ウルトラマンの力を得られるなら、そんな事はどうでも良いからだ。

 

「それで? どこに行くんですかぁ?」

 

「目的地は、日本……そのトウホクとかいう地だ」

 

 少女は、懐から赤い液体のようなものが入った小瓶を取り出し、地面に落とした。

 小瓶が割れ少女達の周りが赤く発光したかと思うと、次の瞬間にはウェル達の存在は、その国から完全に消失した。

 

 

 

 

 

 

  ☆






 これにてG編終了となります。
 応援してくれた皆様ありがとうございます。
 本当はもう少し短くする予定でしたが、思ったよりも長くなってしまいました。
 次回はGX編、と言いたいところですがその前にユウとティガの掘り下げをしたいので、次章はもうしばらく後になります。
 ですのでまた暫くの間は、書き溜め期間に入りますので投稿は遅れると思いますが、お楽しみにお待ちください。
 よろしければ感想・評価などお願いします。


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