シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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TIGA編 
第三十二話 少年と光


  ☆

 

 

 

 

 

 

 フロンティア事変から数週間が過ぎた頃、世界は大きく変化していた。

 その一つが世界中で立て続けに起こる地震。地震大国である日本だけに限らず、ユーラシア、アフリカ、南米、地震とは縁遠かったはずの地域である、世界中のあちこちで多発していた。

 専門家や政府の人間は、フロンティアの浮上によって起きた地殻変動が原因と見ている。

 だがしかし、今この地球上では、そんな人間の常識では計り知れない大きな変化が起こっている事に、まだ誰も気が付いていなかった。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 ――モンゴル平原――

 

 どこまでも続く草原、澄んだ空。人の手の入らぬ自然が広がる大地が、突如として唸り声を上げた。

 

『グオオオオオオオオオオオオオォッ!!!』

 

 ――地割れ。

 

 大地が揺るぎ、まるで地獄の底からの雄叫びのような咆哮がモンゴルの大地にこだました。

 地響きに比例するようにその咆哮は強まり、割れた大地から巨大な獣が姿を現した。

 

 《超古代怪獣・ゴルザ》

 

 筋肉の束のような腕、岩のように分厚い背、獰猛な爬虫類の面構え。巨体の尾が振り払うだけで、地面に生える木々がなぎ倒されていく。

 《怪獣》と呼ぶに相応しい巨大な影が、自分の存在を誇示するように天高く吠えた後歩みを進めた。

 一歩一歩が大地を震わせ、その視線の先にある民家へと向かって行った。

 

 

   ☆

 

 

 ――同時期、イースター島――

 

 伝説と信仰の島。海を望む断崖に刻まれた古代の記憶。

その象徴――モアイ像の背後の崖に、突如として巨大な亀裂が走る。

 

『キシャアアアアアアアアァッ!!!』

 

 裂けた崖から、まず現れたのは巨大な翼。

 

 鋭利な嘴が岩壁を突き破り、辺りに残骸が散らばる。

大気を切り裂くような羽音が響き、崖の中から姿を現した太い足が、モアイ像を踏み潰しそれは姿を現した。

 貴重な世界文明遺産であるが、そんな事は《怪獣》であるカレらには関係なかった。

 

 《超古代怪獣・メルバ》

 

 巨大な鳥とも竜ともとれる赤い怪獣。外皮にフジツボのような鎧を胴体に纏い、両腕ととれる部位は、鋭い鎌のように鋭利に尖っている。その体の節々に見られる刃のようなものが、月光を反射させていた。

 翼竜のような怪獣が、その背の翼を広げ羽ばたかせる。倍以上に広がった体積を浮かせ夜の海へと飛び上がると、刃物のような体が空を切り裂き、音の速度で夜の空へと消えていった。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

「ん……」

 

 深夜、静まり返った部屋の中で、小さな寝息とともに布団に包まれているユウは、夢を見ていた。

 深い深い海の中。真っ暗な深海の中で、一筋の光が見える。

 

(この夢……ティガ?)

 

 このタイプの夢を見るのは初めてではなかった。

 三年前、初めてカレと出会った日以降、こういった夢を見ることはよくあった。

 だから特に不思議に思うとも無いのだが、今回の夢はいつもと少し違っていた。

 

(あれ?……光が弱い?)

 

 いつもは、遠くで輝く光が、自分の心にそっと語りかけてくる。

 優しくて、力強くて、まるで太陽のような光――

 しかし今日の夢の光は、明らかに弱かった。

 

(ティガ?……どうしたの?)

 

 カレは何も答えなかった。

 その後もユウは何度も心の中で問いかけた。しかし返事はない。光は、ただ揺れているだけだった。

 

(ティガ……聞こえてる……?)

 

 焦りと不安が混ざった声で呼びかける。それでも、沈黙は破られなかった。

 やがてユウの視界が霞み、周囲の深海がゆっくりと崩れ落ちていく。

 ――意識が現実へと引き戻される感覚。

 

(……ティガ……?)

 

 ――夢が、終わる。

 最後にもう一度、光を見つめた。

 そのかすかな輝きは――まるで、何かに蝕まれているように、儚くゆれていた。

 

 

  ☆

 

 

「…………はっ!」

 

 ユウは突然、胸の奥からこみ上げる焦燥に目を覚ました。心臓が妙に早く打っている。まるで夢の続きを警告するような、そんな奇妙な目覚めだった。

 寝返りを打ち、周囲を見回す。

 薄暗い部屋の中、月明かりに照らされて白く浮かぶテーブルの上――。

 そこに置かれたティグの紋章が、かすかに、いや、弱々しく点滅していた。

 

「っ!?……ティガっ!」

 

 弾かれるようにベッドを飛び出したユウは、慌てて紋章を手に取った。

 

「ティガ、どうしたの?! 大丈夫?」

 

 手の中のペンダントは、これまでのような確かな光を放つことなく、小さな脈動を繰り返していた。

――まるで、眠る者の微かな息遣いのように。

 だがその脈も、次第に……消え、ぴたりと光が止まる。

 

「…………ティガ」

 

 息を呑み、胸に紋章をそっと押し当てる。

 眠りについた“彼”の気配を感じようと、じっと耳を澄ませるように、ユウは目を閉じた。

 けれどそこには、温もりではなく、不安だけがあった。

 そしてその時。

 

 ――むにゅっ

 

「ユウ〜。どこ行ってんだよぉ〜……」

 

 背中から何かが抱きついてきた。声と同時に、耳元に柔らかな感触。ユウが驚いて振り返ると、そこにはパジャマ姿で目をとろとろさせたクリスがいた。

 

「わっ!? クリスお姉ちゃん? どうしたの?」

 

「どうしたもこうしたもねぇよ〜……急にいなくなって寂しかったんだぞぉ〜……アタシは、ユウを抱きしめてねぇと、寝れないんだからなぁ……」

 

「あはは! ごめんね、ちょっと目が覚めちゃって。ほら戻ろ?」

 

「うん〜……」

 

 クリスはそのままユウの手に導かれ、ベッドの奥へと戻った。ユウはティグの紋章を首から掛けなおし、彼女の隣にそっと横たわる。

 

「ユウ〜……」

 

「えへへ、おやすみお姉ちゃん」

 

 クリスは先程までと同じように、ユウの身体を抱き枕のように抱きしめ眠りにつく。ユウはそんな彼女の髪を撫でながら、自分も再び眠りについた。

 クリスのおかげで少し和やかになった。

 しかし胸の奥のざわめきだけは、どうしても消えてくれなかった。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 後日、ユウは、響やクリスたちと共に、二課の仮設本部となっている潜水艦の中にいた。

 彼らが案内されたのは観測ドームに似た広い制御室。

その奥――透明なアクリルパネル越しに、数人の技術者たちが作業を行っているのが見えた。

 

「……あれが、フロンティアで見つかった物?」

 

「ああ、そうだ」

 

 弦十郎の返答に、ユウは神妙な面持ちで前方の物体を見つめた。

 それは、ただの岩だった。

 色も形も特別なところはない。だが、フロンティア内部を調査した、聖遺物探索チームの報告によれば、この石の内部から通常の聖遺物と同じようなエネルギー波が検出されたという。

 

「見た目は、ただの石にしか見えないけど、本当にアレが聖遺物なんですか?」

 

「聖遺物とはああ言うものよ。私の天羽々斬や貴女のガングニールだって、元はああ言う形で発見されたんだから。中の聖遺物を壊さないように慎重な作業になる。もしかすれば丸一日掛かるかもしれない」

 

 しかしそんな翼の予想とは裏腹に作業は一時間と経たずに終了した。レーザーを使用しての掘削作業だったが、あっさりと外部を覆う岩肌は剥がれ、その正体を表した。

 

「……これが、中身?」

 

 近くで見ることを許可されたそれを、司令室に集まった皆で囲み覗き込む。

 それは銀色の円錐形をした物体だった。

 形状はピラミッドにも似ており、まるで鏡のように輝く金属面が光を反射していた。

 

「鏡みたいにピッカピカデス」

 

「綺麗……」

 

 切歌の声に、隣の調が興味深そうに身を乗り出す。その鏡面には、彼女達の顔がはっきりと映っていた。

 

「……傷一つないのね」

 

 翼が呟く。

 確かに、何万年も地中にあったとは思えぬほど、その表面には劣化の兆しがなかった。

 今回早く作業が終了したのも、中の物質が劣化しておらず、岩石が表面だけにしか付いていなかったからだろう。

 

「でも、これ……ホントに聖遺物なのか? なんか、機械っぽいけど……」

 

 クリスの疑問に答えるように、部屋の扉が開き、ナスターシャと彼女の車椅子を押すマリアが姿を見せた。

 

「それは聖遺物ではありませんよ」

 

 櫻井了子がいなくなりF.I.Sが壊滅した今、世界で最も聖遺物に詳しいのは彼女だと白羽の矢が立ち今回の任務が与えられた。

 ナスターシャとしても、自分に出来ることがあるというのならと好意的に受け取り参加してくれて、マリアはそんな彼女の助手をしている。

 

「ではナスターシャ教授、貴女はこれを何と見る?」

 

「私の推測では、恐らくこれは《タイムカプセル》ではないかと思われます」

 

「たいむ……かぷデス?」

 

 そう言ったものとは縁の薄い切歌が、聞きなれない単語に首を傾げる。

 

「タイムカプセルってのは、昔の人がその時代の物を、未来に伝える為に保存して残した物の事だよ。昔私も響と一緒に埋めた事あったでしょ?」

 

「あーそう言えば、あったねぇ! 結局すぐに気になって一年ぐらいで掘り起こしちゃったんだよねぇ」

 

 未来と響が思い出話で盛り上がる中、クリスが改めて口を開いた。

 

「ってことは、これの中には……何か入ってるのか?」

 

「いいえ、この中には言っているのは、物ではなく“情報”です」

 

 ナスターシャの言葉に、全員が一瞬、息を呑む。

 

「既にスキャンの結果から、この装置には極めて高密度なデータが記録されていると判明しています。おそらくは、超古代文明が何かを後世に残そうとしたのでしょう」

 

「それって、かなり貴重なものなのでは?」

 

 緒川が驚き混じりに声を漏らす。

 現代人類がいまだ解き明かせぬ謎を多く持つ“聖遺物”と“シンフォギア”――。

 その源流にあたる記録がここにあるとすれば、これは文明史にとっての金鉱とも言える。

 

「現在解析中です。しかし状況は芳しくありません。膨大なデータ量に加え、未知の言語で厳重に暗号化されています」

 

 ナスターシャは淡々と答える。だが、その眉間には深い皺が寄っていた。

 

「そうか……ならば仕方がない、今は――」

 

 弦十郎が指示を出そうとした瞬間、何かが起きた。

 

「――な、何だっ?!」

 

 部屋の照明が一斉に落ち、電子機器が一時的に沈黙する。それと同時に、タイムカプセルの中央から淡い光が点滅を始めた。

 

「反応……してる?」

 

 ユウが呟いたとき、円錐の一部がゆっくりと開き、内部から柔らかな光が噴き出した。

 光は空中に集束し、人の姿を象るように変化していく。

 

「綺麗な人……」

 

「ホログラム、か?」

 

 未来と奏の言葉通り、現れたのは白銀のローブを纏った一人の女性。その姿は神秘的で、美しく、それでいてどこか“懐かしい”雰囲気を纏っていた。

 

(……ユザレ、さん?)

 

 ユウだけが、その姿に覚えがあった。かつて、フロンティアの地下遺跡で出会った“幻”の女性――。

 

『私は、地球星警備団団長ユザレ。このタイムカプセルが見つかったということは、地球に大異変が起きようとしています』

 

 女性の声が、空間に直接響くように再生される。

 

『まず、大地を揺るがす怪獣・ゴルザと、空を切り裂く怪獣・メルバが復活します』

 

「……何だと?」

 

『大異変から地球を守れるのは、ティガの巨人だけです』

 

「ティガの……巨人?」

 

『我が末裔たちよ。巨人を目覚めさせ、ゴルザとメルバを倒すのです。巨人を目覚めさせる方法は、ただ一つ――』

 

 そこまで言いかけて声は途切れた。ホログラムの女性が数秒口元を動かした後、光はふっと途切れた。

 タイムカプセルは沈黙を取り戻し、どんな手を尽くしてもそれ以上の映像を引き出すことはできなかった。

 

「何だったの今の……? “怪獣”って……」

 

「誰かの悪戯……ってわけじゃ、無さそうだよな」

 

 未来とクリスの言葉に、誰もが無言で頷く。

 このタイムカプセルに付着していた鉱石は、間違いなくフロンティア由来のもの――超古代の遺物であることは確かだった。

 

「司令、まさか……」

 

「ああ、オレもそう思っていたところだ」

 

「どうしたのですか、叔父様?」

 

 翼の問いに、弦十郎はモニターに向き直り、藤尭と友里に指示を送った。

 緒川がその前に立ち、タブレットを操作してモニターを操作する。

 

「先日モンゴル平原で、巨大な影を見たと目撃証言がありました」

 

 映し出される夕焼けのモンゴル平原の画像。しかし美しい平原や辺りの村々は、ただれ荒らされていた。そしてその真ん中に推定六十メートルは超える巨大な影、逆光と手振れのせいで詳しくは見えないが、そのシルエットは巨大なトカゲのように見えた。

 

「目撃者の証言では、大地震と共に地面の下から獣の鳴き声が聞こえたとの声も。そしてその影は辺りの村を破壊した後、再び地底へと戻っていったと……」

 

「そんな……」

 

 まるで大嵐が去った後かのように、破壊しつくされた村の画像を見て響達は声を漏らす。

 

「そしてコチラは、ほぼ同時期にイースター島近辺の海域で、漁師の人達が撮った画像になります」

 

 月光が照らす夜空の中に、一つの赤い影が見える画像。

 かなり距離がある為、小さく詳細は分からない。藤尭達が画像を引き伸ばし赤い影を大きくする。

 引き伸ばした事で画像がより荒くなるが、そのシルエットはまるで翼を広げた翼竜のようにも見える。

 

「その報告を受けて、調査団が向かったイースター島の画像がコチラです」

 

 調査は明るい時間帯に行われたのだろう。そのおかげで破壊され辺りに残骸を撒き散らしたイースター島の姿が、鮮明に映し出されていた。

 世界文化遺産であるイースター島をここまで容赦なく破壊するなど、どんな悪人でも行わないだろう。

 それらが、コレが怪獣によるものという説得力に拍車をかけていた。

 

「大地震と共に現れたというコチラの影がゴルザ、夜の海を飛び回るコイツがメルバと見て間違いないだろう」

 

「まさか! オッサンは、コイツらがさっきの話に出てきた怪獣だって言うのかよ! そんな偶然――」

 

「偶然では無いのかも知れません。ユザレは、“このタイムカプセルが見つかったという事は”と言っていました。彼らにはこの未来が分かっていたのかも知れません。そして私達にその事を伝える為にこの情報を残した……」

 

「予言、か……」

 

 ナスターシャの仮説を聞き、弦十郎は重苦しく呟いた。

 

「あの……じゃあさっき言ってた、“ティガの巨人”って言うのは?」

 

「巨人って……やっぱり、ウルトラマンさんの事かな? でも目覚めさせるってどういう事かな? ウルトラマンさんはもう居るし……」

 

 調と響が「うーん」と首を捻る。

 ユザレは巨人を目覚めさせろと言っていた。しかし響達は、自分達の前に現れ救ってくれた巨人の存在をよく知っていた。

 

「もう目覚めてるって事は、心配しなくても今回もウルトラマンが解決してくれるって事じゃないですか?」

 

 藤尭の投げやりな言いように、ユウだけは服の下のティグの紋章を握りしめ俯いていた。そんなユウの姿に気づいていたのは、ナスターシャだけだった。

 

「……いえ、楽観的な考えを持つのは良くやめましょう。私達の世界は私達の力で守るべきです」

 

「教授の言う通りだ。兎に角オレ達は、この事を上に掛け合ってみよう。いつ出動かわからない、翼、響くん、クリスくんは、いつでも動けるように準備していてくれ」

 

「「「はい(おう)っ!」」」

 

「「…………」」

 

 力強く返事をする響達、そんな彼女達とは対照的に切歌と調は複雑そうな表情を見せていた。

 

 

 

   ☆

 

 

 

「……また、キミに頼らないといけないのかな?」

 

 潜水艦内の自室に戻りベッドに腰掛けたユウは、ティグの紋章を握りしめて声をかける。

 緒川達に見せてもらった怪獣の画像、そしてユザレの予言とも言える言葉。それらが偽物でも偶然でも無い事を、ユウは何となく分かっていた。

 あの時のネフェリムにも劣らない大きさの怪獣達、もしあの二体が日本にやって来たら響達だけで対処できるとは思えない。

 彼女達を守る為にはティガの力が必要だ。しかしカレの力が、日に日に弱まっている事を知っているユウは、その力を酷使する事に抵抗が生まれていた。

 

「いつもありがとう。何かぼくに出来る事は無いのかな? いつもぼく達を助けてくれるキミに何かしてあげたい。だってぼくは……」

 

 紋章を握りしめた手をおでこに添え、祈るように語りかける。その時、手の中のティグの紋章が淡い光を放ち出した。

 

「え? これって――」

 

 その瞬間、ユウの意識は暗い闇の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 深く深く、暗く暗い深海。そんな闇の中にユウは放り出された。

 

(これって、いつもの夢……? でも何だろう、とても寒い……)

 

 光がない。

 いつもそこにあるはずの、あたたかい太陽のような輝きが、どこにもない。

 

(ティガ?……ティガっ?!)

 

 そこにある筈のカレの存在を感じず、ユウは慌てて辺りを見回す。

 すると自分の足元の方が一瞬光を放ったのが見えた。

 ユウがその光の方を向いて目を凝らすと、更に深い海底に今にも消えそうな光の巨人が倒れているのが見えた。

 

(――ティガっ!!?)

 

 ユウは夢の中で泳ぐように、暗い海を下へ下へと潜っていく。

 

 そこにいたのは――倒れたティガの巨人だった。

 

 重力に押し潰されたように伏したその身体は、まるで岩石と化したかのように動かず、かろうじて光を放ってはいるが、腕や足先は既に失われつつあった。

 

(そんな……こんなに弱ってたなんて…………気付いてあげられなくて、ごめんね)

 

 カレが弱ってたことには何となく気がついていた。それでもいつも通り日が経てば回復すると油断していた。

 そんな甘い考えを持っていた自分を叱ってやりたかったが、後悔している暇はない、今何とかしなければカレは本当に消えてしまう。

 

(お願い消えないで!)

 

 ユウは胸から絞り出すように叫ぶ。

 

(ぼくに出来る事ならなんでもするから! だからお願い、消えないでっ!!!)

 

 ――その瞬間。

 ティグの紋章が、彼の手の中で強く輝いた。

 伏したままだったティガの巨体が、ゆっくりと首を持ち上げる。

 光のない瞳が、ユウを真っ直ぐに見つめた。

 

(“あの場所で待っている”……? それって――)

 

 ノイズ混じりの心の声。

 けれどその一言だけは、はっきりと届いた。

 力を使い果たしたのかティグの紋章の光が消えたかと思うと、巨人は気を失ったように倒れ伏した。

 

(ティガっ――)

 

 光は失われ、巨人は再び沈黙した。触れようと手を伸ばすも届かない。

 次の瞬間、闇が全てを呑み込んだ。

 

 

  ☆

 

 

(――ティガぁっ!!!)

 

 目が覚めたユウは辺りを見回す。先程まで潜水艦の中にいた筈が、いつの間にかクリスの部屋のベッドの上にいた。

 夕方に弦十郎たちとタイムカプセルの話をしていたときから、どれだけ時間が経ったのかもわからない。

 だが、ユウははっきりと“カレの声”を覚えていた。

 

(――行かないと!)

 

 “あの場所で待っている”

 カレが、今にも消えそうな状況を自分に助けを求めている。少年を突き動かすにはそれだけで十分だった。

 

「う〜ん……ユウ〜……」

 

(ごめんね、クリスお姉ちゃん)

 

 もはやルーティンと化している、自分を抱き枕にして寝ているクリス腕の中から抜け出す。かなりの力で抱きしめていたが、ユウは自身の柔らかい体を生かしスルリと抜け、代わりに自分の愛用している枕をその隙間に詰めた。

 ベッドから脱出したユウは、お気に入りのリュックに荷物を詰め支度をする。

 

(行ってきます、お姉ちゃん)

 

「くかー……」

 

 最後に自慢の髪をリボンで結び気合いを入れると、気持ちよさそうに寝ているクリスの頬にキスをし、マンションを後にした。

 

   ☆

 

 マンションの階段を駆け下り、夜風の中へと飛び出す。

 地面に足を着けた瞬間、ユウの足元のローラーシューズが音を立てて光る。

 

「よし……行こう!」

 

 まだ薄暗い暁の街を駆ける。

 舗装されたアスファルトを滑るように走り抜け、信号を避け、人々の視線をすり抜けて――

 その背に宿るのは、確かな決意。

 

(行こう。“あの場所”――キミと初めて出会った、あの場所に!)

 

 少年が走るたびに、ティグの紋章が胸元で揺れ、淡い光を帯びていた。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

「お疲れ様でした、司令」

 

「上層部の方はどうでしたか?」

 

 発掘されたタイムマシンの事、そこから映し出されたユザレの予言にも等しい言葉、そして世界で目撃された二体の怪獣。それらの事を上層部へ伝えにいった弦十郎が、仮説本部へと帰って来た。

 しかしその表情は重かった。

 

「……やはり、駄目でしたか?」

 

「ああ……タイムカプセルや怪獣の事は信じていたが、問題はその対処法だ。お上は自分達の身の上を守ることに精一杯で、今すぐ怪獣への対策をとるつもりはないらしい」

 

「被害がまだ世間的に知られていないのと、怪獣達が日本の領土に侵入していないから……ですね」

 

「そうだ。自衛隊は国外で起きている事、ましてや怪獣被害などで動かせない。しかも怪獣がこっちに来るという確証がない以上、戦車の一つも動かせん」

 

 まだ日本に来ていない怪獣撃退のために自衛隊を動かしたとなれば、それだけで国際問題となってしまう。

 弦十郎の話を聞いた上層部が取った行動は、現状の戦力を調整する程度であり、海外で活動している怪獣に今すぐ何かをするつもりはないらしい。

 

「そんな……今もこうしているうちに、怪獣の被害に遭ってる人達が居るかもしれないのに……」

 

「落ち着きなさい立花。私達が日本の装者である以上、出来る事はない。今は怪獣の襲撃にいつでも対処できるように、私達だけでも準備しておく事だ」

 

 昨日、怪獣に破壊された村々の画像を見てから、響の心境は穏やかでは無かった。

 元々人助けの為にシンフォギアを纏う彼女が、あの映像を見て黙っているなど出来るはずがない。

 勿論それは響だけではない。人々を守る為に剣として鍛えてきた翼も、戦う力を持っていながら実質戦力外通告を受けている調達も同じ気持ちだった。

 

「でも流石翼先輩デス! こんな状況でもどっしりと構えているなんて」

 

「うん、頼りになる」

 

「当然のこと。一本の剣のように研ぎ澄まし、冷静で繊細な対処をするのが防人の――」

 

「た、大変だああああああぁっ!!?」

 

 翼がそこまで言いかけた時、司令室の扉を開き慌てた様子のクリスが入って来た。

 

「ど、どうしたんデスか? クリス先輩」

 

「何があったの?」

 

「ゆ、ユウが……ユウが居なくなっちまったんだぁっ!!!」

 

「な、なん「何だとおおおおおおおおおぉっ!!!」」

 

 響の声を覆い被すように、司令部内に翼の一際大きな声が響き渡った。

 先程まで瞑想するかのように目を閉じ冷静さを維持していた翼が、勢いよくクリスの肩を掴んだ。

 

「ユウが居なくなったとは、どぉ言う事だァッ!!! 説明しろ雪音ぇっ!!!」

 

「ぐ、ぐえ! せ、先輩……苦し……!」

 

 翼に激しく肩をゆすられ、クリスは何も言えずに苦しそうな声を上げる。

 

「ストップ! ストーップ! ですよ翼さん!」

 

「はぁ……はぁ……」

 

「で、どどどどう言う事なのクリスちゃん! 何があったのか教えて!!!」

 

「ぐえええぇっ!!!」

 

 このままでは話にならないと翼を引き剥がした響。そして今度は、響がクリスの肩を掴み激しく揺らした。

 

「落ち着いて響さん」

 

「そんなに揺すったらユウの事が聞けないデス!」

 

「ぜぇ……ぜぇ…………」

 

「「ユウはどうしたの(デスかぁ)!!!」」

 

「ぐわあああああああぁっ!!!」

 

 今度は調と切歌が響を引き剥がし、クリスを左右から揺する。流石のクリスも気分が苦しそうに顔を青ざめていた。

 

「――って、もういいわぁっ!!!…………はぁ……はぁ……ふひぃ……。ど、どうしたもこうしたもなくて、朝目が覚めたらユウがどこにも居なくて、よく見たらこの紙が……」

 

 クリスはポケットから一枚の紙を取り出す。

 

 “思い出の場所に行ってきます。心配しないでね”

 

 その可愛らしい丸っこい字は、確かにユウの字であった。その文脈から自分の意思で出て行った事がわかる。

 

「そんな……ユウくん、一体何処に……?」

 

「ユウの思い出の場所って、何処デスか?」

 

「うーん。ユウは日本にきて日が浅いからな、そもそも海外暮らしが多かった子だから思い出の場所って言っても……」

 

「まさか! アメリカに帰っちゃったとかっ?!」

 

「それは無いだろう。あの子はそんなに馬鹿な子じゃない。それにホームシックにしても母親は日本にいるんだ。わざわざアメリカに行く必要はないだろう」

 

 ならば母親のいる病院かとも思われたが、ユウがお見舞いに行くなどいつもの事であり、こんな回りくどい言い方をする事は無いだろう。

「うーん」とその場の全員が首を捻る。考えても埒があかないと、弦十郎は友里達に指示を送る。

 

「仕方ない。マンションの監視カメラを映してくれ。そこからユウがどの方角に行ったのか考えよう」

 

 頷いたオペレーター達は、すぐさまモニターにクリスのマンションのカメラの映像を映し出した。

 時刻は午前四時を過ぎた頃、ユウがマンションの入り口を出て行く様が見えた。

 

「ユウのやつ、こんな時間に何処に……?」

 

 マンションを出てから右に曲がる。直ぐにその方角にある近くのカメラの映像に変え、それを続けながらユウが向かった方角を特定する。

 

「あ、電車に乗ったぞ!」

 

 奏の言う通り、ユウは一時間程ローラーシューズで北へと走った後。電車が動き出したのを見て、近くの駅に入って行った。

 何駅か通り過ぎた後、ユウは電車を降り、今度は新幹線へと乗り換えた。その光景から彼の目的地は、かなり離れた場所である事が分かる。

 

「ユウ、自分で電車に乗れるんだ……」

 

「あたし達よりもしっかりしてるデス……」

 

 特に迷った様子もなくサクサクと電車を乗り継いでいく様を見て、施設暮らしの長かった二人は謎の敗北感を感じていた。

 

「目的地は……東北地方か?」

 

「師匠! わたし達も!」

 

「そうだな。直ぐにヘリを出して――」

 

「大変ですッ!!」

 

 迎えのためのヘリを出させようとした時、今度は緒川が勢いよく入室して来た。

 普段冷静な彼にしては珍しい姿に、それがただ事でない事が分かった。

 

「何があった!」

 

「海外で活動中の二体の怪獣の動きが観測されました。現在二体が目指しているのは、この日本です!」

 

「何だとォッ!!?」

 

 緒川が持ち帰った情報を手掛かりに二体の怪獣の予測進路を割り出す。二つの大きな反応が、一つのポイントを目指し真っ直ぐに進んでいる。

 そこは日本、その東北地方であった。

 

「怪獣の目的地は、東北地方だと言うのか?!」

 

「そんな……あそこには、今ユウくんが……!」

 

「緒川さん、政府の対応はどうなっているのですか?」

 

「怪獣の動きが早過ぎて対応は間に合っていません。ですが政府はこの怪獣達を《認定特異災害》として認定致しました」

 

 認定特異災害。つまり人類の天敵であるノイズ達と同等の存在と政府が決めたと言う事である。ならば特異災害対策機動部である二課も、自分達の判断で対応できると言う事だ。

 

「ヘリを準備している時間が惜しい。このまま目的地へと向かうぞ!」

 

 弦十郎の指示に素早く出撃の準備を終えたスタッフ達。仮説本部である潜水艦を起動し、目的の地である東北を目指し出発した。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 

――ガタン、ゴトン。

 

 新幹線の一定の揺れと、時折聞こえるアナウンスの声。

 ユウはその揺れに身を委ねながら、いつしかまどろみに落ちていた。朝早くからの出発と緊張のせいか、瞼が自然と閉じていた。

 その夢の中で、彼は一つの“記憶”を追体験していた――

 それはカレとの思い出の記憶だった。

 

 

  ☆

 

 

『うぅ……うぅっ!……』

 

『…………………………』

 

 ユウが隣を見上げると、真っ黒な喪服を着た母が押し殺したような泣き声をあげている。

 それは大好きだった父、大吾が亡くなり彼のお葬式の日の記憶だった。

 だがその中で、ユウの目はずっと母を見ていた。

 

『……だいじょうぶだよ、おかあさん。おかさんのことは、ぼくがまもるから』

 

『……あぁ、ユウっ!』

 

 言葉を聞いた茜は、涙を堪えきれずにユウを強く抱きしめた。

 

 幼い彼は、泣いていなかった。

 それは決して、悲しんでいなかったからではない。

 母が声を殺して涙を堪える姿を見てしまったから。自分まで泣いたら、母がもっと悲しむと分かってしまったから。

 

 “だいじょうぶだよ、おかあさん! おとうさんがいないあいだ、おかあさんはぼくがまもるからね!”

 

 父が宇宙へと旅立つ前に交わした約束。守ると約束した母が、自分のために堪えているのだから、自分が悲しんではいけないと思っていた。

 悲しそうな目をしつつも涙の一つも溢さない。そんな姿を不気味に思う者もいたが、ユウは気にしていなかった。

 

『――うぅ……おとうさん……おとうさん…………』

 

 夜、自室に戻ったユウは、誰もいない空間で堰を切ったように泣き始めた。

 

 もう父の声が聞けない。

 もうあの大きな手で頭を撫でてもらえない。

 もう二人で星を見ながら話すこともできない。

 

 彼との思い出を、一つひとつを思い出すたびに、幼い胸は締め付けられて、どれだけ堪えようとしても、涙は止まらなかった。

 

『ひっぐ……ひっぐ…………………………んぅ?』

 

 そんな時、彼は自室の机の中が光っているのが目に入った。

 

『これ……おとうさんがくれた……』

 

 中を開けてみると、宇宙へ飛び立つ前に父から受け取ったペンダントが光を発していた。

 そのペンダントが、まるで慰めるかのように、やさしい光を放っていた。

 そっと手を伸ばし、触れた瞬間――ユウの身体は、光に包まれた。

 

『きみは……だれ?』

 

 重力のない光の空間。

 淡く輝くその空間に、ひときわ大きなシルエットが現れる。それは全身を光に包んだ巨人の姿だった。

 

『…………………………』

 

『きみが、てぃが……なの?』

 

 巨人はゆっくりと頷く。

 その名は父から聞いていた。彼が月に行った時に出会ったと言う友の名前。

 巨人はその大きな手をユウの体へと添えた。

 

『……なぐさめて、くれてるの?』

 

 自分を覆い隠すほどに大きな手、しかしユウは自然と恐怖を感じなかった。寧ろその優しく暖かい光に、心の悲しみが少し緩和された気がした。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 そこからユウとカレとの生活が始まった。

 ティグの紋章を常に首から下げ、暇があったらそこに手を添えカレと話した。

 自分の好きなもの、自分の苦手なこと、色んなことをカレと話した。

 父が自分や母にまでその存在を隠していた事から、自分もその存在を誰にもバレないように常に気を配いながら。

 

『ねぇ、キミはどこから来たの? やっぱり月?………………“もっと遠い星雲”? へぇーそうなんだ! いつか行ってみたいなぁ〜』

 

 カレは言葉を持たなかったが、その想いは不思議とユウには伝わった。そして何より、カレがいつも傍にいてくれることが、少年にとって何よりの救いだった。

 母が倒れ日本に運ばれ、米国で一人となった後も、彼には心強い味方がそばに居た。

 

 

 

   ☆

 

 

 

『……んぅ、どうしたの?』

 

 カレと過ごし一年が経過した頃。

 深夜の二時ごろ、眠っていたユウは、胸のペンダントが光っていることに気がつき目を覚ました。

 いつもの話す時のような落ち着いた光ではなく、激しい点滅を繰り返す光。ユウは自然とその光に触れていた。

 

『……えっ? ここどこ?』

 

 ティグの紋章に触れた瞬間、ユウの意識は遥か空高くにあった。辺りを見回すと深夜の夜ではなく、夕方の太陽が海に沈みかけているのが見える。

 この時のユウは気が付いていなかったが、ここは日本であった。米国との時差で夕方が見えているだけである。

 不思議そうに周りを見渡すユウの視線の先に、巨大な影が入った。

 

『あれって……怪獣?』

 

 まるでテレビの世界の存在がそのまま出て来たような黒い怪獣が海を渡り、その先にあるライブ会場を破壊している姿だった。

 破壊される会場の中に、三つの小さな人影が見える。

 そのうちの二つは、身体中から血を出し倒れていて、そのうちの一人はそんな彼女達を守るため盾となろうとしている姿だった。

 そんな彼女達へと無慈悲に怪獣が熱線を放とうとする。

 

『だめっ!!!』

 

 この人達にだって家族や大切に思っている人達がいる。もしこの人達が亡くなったら、その人達が悲しむ。

 父を亡くし母が病に倒れ、死の重さを悲しみを痛い程知っていた。

 あんな苦しい思いを他の誰かにさせたくないユウは、咄嗟に「助けたい」と強く願っていた。

 その瞬間、全身を光が包み込んだ。

 

『え?……なに、これ?』

 

 光が収まったかと思うと、少年の視線は海と空の中間にあった。

 何が起きたのか分からず自分の体を見回す。すると自分の体が、全身を光に包んだ巨人の姿となっていた。

 

『ぼくが……ティガになってるっ?!』

 

 今にも崩れそうな不完全な巨人の形態。

 突如そんな巨人となった事に驚いていると、ユウの頭の中にカレの声聞こえる。どうやら現状の説明をしようとしているようだった。

 

『そんなの後でいい! いまはこの怪獣をとめないと!』

 

 しかし何が起きたのかは今はどうでも良い。今大切なのは、この姿なら目の前のこの人達を助ける事ができる、それだけで十分であった。

 少年は戸惑い捨て、戦う覚悟を決め、怪獣へと向かって走り出した。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 再び舞台が変わる。

 しかも今回は更に過去、四年前へと飛んだ。

 それは四年前、父の聖遺物の遺跡発掘調査について来た時の記憶だった。

 

『……だれ?……だいご? だれが、おとうさんを、よんでるの……?』

 

 その日ユウは謎の声を聞いた。

 掠れながら頭の中に直接響く不思議な声。何故か自分の父の名を呼ぶその声に、ユウは引き寄せられるように歩いていた。

 吊り橋のようなところを歩いていると、下の川の所から翼や奏が何かを言っているが、ユウには聞こえていなかった。

 皆から離れた別の遺跡入り口が見えた頃、ユウにはその声が助けを求めているよう感じた。

 

『だれ? だれをたすけてほしいの……?』

 

 キョロキョロと辺りを見回すが、声の主は見えない。するとユウは頭上でガサガサと音がしたのが聞こえた。

 それは子猫だった。かなり高い木の枝の上で降りられなくなったのか、その小さな体を震わせていた。

 

『だいじょうぶっ?!』

 

 その姿を見た瞬間ユウは、根元まで行くとその木を登った。宇宙飛行士を目指し、父とトレーニングしていたユウにとってこの程度の木登りは難しくなかった。

 

『だいじょうぶ、こわくないよ』

 

 ユウは怖がらせないように優しく声をかけながら、子猫に近づく。子猫も探るような目をコチラに向けるが、少年のニッコリと柔らかい笑顔を見て落ち着いたのか、逆立てていた毛を収める。最後には子猫の方からユウの方に寄って来た。

 

『よーしよーし。いいこ、いいこ』

 

 ユウは子猫の背中を優しく撫でると、木を飛び降りる。足元にやってくる衝撃を、膝を曲げて吸収し無事に着地した。

 子猫を足元に置くと、「ニャ〜ン」と一言鳴いた後子猫は森の中へと消えて行った。

 子猫が見えなくなった後、再びユウの頭の中に先程の声が聞こえて来た。それはまるで「ありがとう」と言っているように聞こえた。

 

『んーん。キミのおかげだよ、ありがとう!』

 

 しかしユウは寧ろお礼を言った。カレの声のおかげで、目の前の小さな命を助けることが出来たのが嬉しかったのだ。

 

『えへへ! キミ、やさしいんだね! ねぇ、よかったら、ぼくとともだちになってくれない? このくににきたのはじめてだから、しらないひとばっかりなんだ。ぼく、キミみたいなやさしいひとと、ともだちになりたい!』

 

 少年の可愛らしく純粋なお願い、頭の中に聞こえる声が、照れくさそうに反応した気がした。

 

『ほんと! わーいわーい!!!』

 

 それがOKの返事だと分かったユウは、嬉しそうにその場で飛び跳ねた。喜びを全身で表すと、少年の美しい黒髪が太陽の光に照らされ輝いていた。

 その時、背後で物音が聞こえた。

 

 ――ガサガサッ

 

『――えっ? ノイズっ?!』

 

 振り向くと何体かのノイズ達が木々を掻き分けコチラへと向かっていた。

 さっき通って来た道はノイズに塞がれ、ユウは前方にある遺跡の入り口に向かうしかなかった。

 ユウが入り口に入った瞬間、ノイズが遺跡の天井を崩し塞いでしまう。その瓦礫を通り抜けようとするノイズ達を見て、ユウは更に奥へと逃げて行った。

 今思えば、これは櫻井了子ことフィーネが差し向けたものだったのだろう。

 

『はぁはぁ……うわぁっ!!?』

 

 逃げる最中、古くなっていた遺跡の足場がノイズによって破壊され崩れ落ちて行く。

 幸い怪我は無かったが、ノイズに追いつかれてしまう。

 周りをノイズに囲まれ逃げ場を失ったユウに、ノイズ達がにじり寄る。

 

『……っ! なに?』

 

 今にもノイズ達が飛び掛かろうとした瞬間、遺跡の奥から光が溢れ出した。その光を浴びたノイズ達は、瞬く間に消失し炭と散った。

 

『……………………なん、だったの…………』

 

 ここまでの疲れと安心感からか、ユウはその場で意識を失った。

 この後、ユウの身は奏と翼によって救出され、フィーネの目論見は失敗する事となった。

 今思い出せは、この日話しかけて来たのは、助けてくれたのはティガだったのだろう。

 ユウとカレは、初めて会ったその前から知り合っていたのだ。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「…………ん、ぅん」

 

 目を覚ましたユウは、窓の外を見る。

 景色は街の中を過ぎ去り山の中を進んでいた。周りを見回すと、もうそろそろ目的の地へと着こうとしているところだった。

 

(もう直ぐ着くよ、待っててティガ。今度はぼくがキミを助けるから……!)

 

 ユウは己の誓いを高める為、ティグの紋章に手を添え、強く強く心の中で祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ☆

 






 《プロト・ティガ》

 エネルギーが不十分な状態で形成したティガの姿。
 常にエネルギーを垂れ流している状態であり、変身時間は更に短い。
 光線技も殆どが使えず、唯一使えるのは《プロト・スペシウム光線》のみ。


 《ティグの紋章》
 ユウが亡き父、大吾から受け取った不思議なクリスタルのペンダント。
 光の力を集める性質があり、光が最大になるとスパークレンスへと変わる。
 しかしティグの紋章そのものに巨人となる力がある訳ではない。

 
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