シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第三十三話 光を掴む者(AI挿絵追加)

  ☆

 

 

 

 

 

 東北の山深い森。空が見えないほどに生い茂った木々と草の海をかき分けながら、ユウは歩いていた。

 その目に宿るのは、迷いではなく、確信。

 ここが、“あの場所”だと知っていた。

 

「はぁ……はぁ………………見つけた」

 

 朽ちかけた石の三角形が姿を現す。苔に覆われながらも、確かにそこに“在る”と語るかのように。

 四年前、父と訪れた遺跡の森。

 命を落としかけ、そして“出会い”が起きた場所。

 翼や奏と再会してから、記憶の奥底に眠っていたその日の映像が、鮮明に蘇るようになった。

 草を踏み、蔓を払う。

 かつてのノイズ襲撃で破壊された入り口は、崩れていたものの、翼と奏がユウを助けるために開けたルートがまだ残っていた。

 

「ここ、ぼくが落ちた穴だ……」

 

 遺跡を進み見つけた、瓦礫と蔦に覆われた大穴を前に、ユウはリュックからロープを取り出す。柱に巻きつけ、しっかりと結ぶ。

 降り立った先は、ひんやりとした空気が満ちる、真っ暗な広間だった。懐中電灯を点け、壁を照らしながら歩く。足音が、静寂のなかにカツン、カツンと反響する。

 

 ――まるで時間が止まったかのような空間。

 

 その奥にあったのは、古びた石造りの祭壇。

 まるで時間の中に取り残されたかのように、悠然と、しかし寂しげに、そこに佇んでいた。

 ユウは、なにげなくその縁に手を触れる。

 

 その瞬間――

 

『来てくれたのですね、大吾』

 

「っ!? だ、だれ?」

 

 不意に空気が震え、耳元でささやかれるような声が響いた。ユウは思わず後ずさる。懐中電灯を振るい、周囲を見渡す。

 すると、祭壇の中心から光が溢れ出した。無数の粒子が舞い上がり、宙に集まって人の形を形作っていく。

 

「…………ユザレ……さん?」

 

『はい』

 

 美しい白銀の衣を纏い、静かに立つ女性――それは確かに、フロンティアの地下遺跡でユウが出会った“彼女”だった。

 

「ホログラム……じゃないの?」

 

 驚きに目を丸くしながら、ユウは問いかける。

 今までのユザレは、録音されたように一方的に言葉を告げるだけだった。しかし目の前の彼女は――ユウの言葉に、確かに反応していた。

 

『はい違います。私は正真正銘、本物のユザレの魂です。私は巨人がこの地で眠ったあの日、この地に己の魂を封印したのです。遥か未来に封印が解け世界が滅びに向かう時、巨人を目覚めせる“選ばれし者”を導く為に』

 

「滅びって……もしかして、あの怪獣達のこと? あれは一体何なの?」

 

『ゴルザ、そしてメルバ……カレらは《闇の眷属》と呼ばれる存在です』

 

「闇の眷属……?」

 

 ユザレは頷いた後、昔話を話すかのようにゆったりと話し出した。

 

 昔――人々が聖遺物と呼ぶ物が、当たり前のようにあった遥か昔。人と神々は共存し、文明を発展させていた。

 しかしそんな平和なある日、遠い遠い宇宙から降り立った外なる神、“邪神”が全てを滅ぼした。

 

「邪神……」

 

 邪神は、世界を闇で覆った。

 邪神が放つ闇は、人々を死に至らしめ、生命力の強い動物達を異形の怪物、“怪獣”へと変化させた。

 変化した怪獣達の一部はそれぞれの生態系を持ち、残りの一部は邪神に仕える眷属となった。ユウ達が聞いたゴルザとメルバは、その内の一体だと言う。

 邪神の作り出した怪獣の軍団。生き残った人々と地球の神々は手を取り合い戦った。しかしその力は圧倒的で、彼らは徐々に追い込まれた。

 滅びの未来が目前に迫った時、光の巨人が舞い降りた。

 

「それって、ティガのこと?」

 

 ユザレは頷いた。

 遥か遠い星雲から地球に降り立ったカレと共に、闇の眷属を押し返し、多くの犠牲の中、ついに邪神と怪獣達を封印する事が出来た。

 しかし巨人の封印も完全なものでは無い。遠い未来に封印が解かれることが分かっていた巨人は、自身を封印の依代にする事でより強固なものにして、未来の末裔達に託す事にした。

 

「封印って……ティグの紋章(コレ)の事?」

 

 ユザレは首を横に振り否定した。

 

『それは巨人の魂でしかありません。巨人は封印する際に、己を魂と肉体の二つに分けたのです。そして肉体をこの地に、魂を“選ばれし者”が、やって来る月へと移しました』

 

「月にやって来るって……どうしてそんな事が分かったの?」

 

『私には未来を見通す力があります。その力を生かし神々との交流を図る巫女をしていました。私には見えていました、月でカレと接触し、カレと共に戦う一人の男の姿が』

 

(お父さんの事だ……)

 

 何故彼女が予言めいたメッセージを残す事ができたのか、それこそが彼女の言う巫女の力というものなのだろう。

 しかし未来を見通す彼女が、予想にしていない出来事がこの時代では起きてしまったのだ。

 

『――ですが、貴方は予言よりも若く見えますね。一体どう言う事なのですか大吾?』

 

「んーん違うよ。ぼくは結。大吾は、ぼくのお父さんだよ」

 

『大吾の子供……なるほど。では大吾は何処にいるのですか? ゴルザやメルバが目覚めたという事は、カレの力が弱り、封印が壊されようとしている証拠です。一刻も早く大吾にカレを目覚めさせて貰わなくては――』

 

 期待を込めた眼差しのユザレの姿に、ユウは少しうつむいた。胸にある小さな痛みを押し隠すように、穏やかな声で応える。

 

「お父さんは……三年前に、亡くなったんだ」

 

『…………え?』

 

 まるで時が止まったかのようだった。長きに渡って予言を信じ、待ち続けた者がもうこの世にいない――その事実は、彼女にとってあまりにも大きな衝撃だった。

 

『そんな……大吾が、死んだ? そんな、なら予言は? 予言が外れたと言う事?! だとしたらカレは、この世界は……!』

 

 苦悩と困惑がその声に滲む。

 

「ゆ、ユザレさん! お願い、巨人を……ティガを復活させる方法を教えて!」

 

『それは無理です……巨人を目覚めさせる方法はただ一つ、“大吾が光になること”。大吾がこの世に居ないのなら、もう巨人を目覚めさせる手立てはありません……』

 

「そんな……」

 

 その絶望的な言葉は、まるでこの部屋のように真っ暗な暗闇に包まれていた。

 

 

 

 

   ☆

 

 

 

 

「メルバ、東北地方上空に差し迫りました」

 

 友里の報告が静かな空気を切り裂いた。その言葉と同時に、司令室のモニターには巨大な飛影が映し出されている。赤い外皮を持ち、翼を広げるその姿はまぎれもなく、怪獣メルバ。異形の存在が人の空を裂いて飛来するという異様な光景に、誰もが言葉を失った。

 そして地中では、もう一体の反応――。

 

「ゴルザの姿は確認できませんが、東北地方周辺の地下に高エネルギー反応が集中しています。地中を移動している可能性が高いです」

 

「やはり……」

 

 弦十郎は腕を組み、顎を引いた。二体の怪獣は、まるで何かに引き寄せられるかのように、同じ場所を目指している。その座標が示す先は――。

 

「……この場所は、私達がかつて探索した遺跡の近くだ」

 

 翼が呟いた。記憶の底に沈んでいた過去の任務が、怪獣達の動きによって今、浮上してくる。

 

「あたしも覚えてるよ。あの時はユウも一緒で……まさか、あの遺跡が関係してるのか?」

 

 奏の眉がわずかにひそむ。かつて命懸けで挑んだ遺跡。その記憶と怪獣の接近が、嫌な予感を呼び起こす。

 

「考えていても埒があかない。ここからはヘリを使い奴らへと向かう。お前達、準備はいいな!」

 

「「「はい(おう)ッ!」」」

 

 元気よく返事をした翼達は、ニ課が用意してくれたヘリを目指し走り出した。

 

「待ってください! あたし達も一緒に行くデス!」

 

「駄目だ」

 

「な、なんで! わたし達もシンフォギアを持ってる。みんなと一緒に戦える!」

 

「風鳴司令の言う通りです二人とも」

 

 切歌と調が弦十郎の判断に異を唱えようとした時、司令室に入って来たナスターシャが二人を止める。その後ろにはマリアの姿も見える。

 

「マム……」

 

「いくら貴女達が戦えても、それはLiNKERがあってこそです。頼みの綱であるLiNKERは今や貴重な存在、無闇な仕様は出来ません。ましてはLiNKERを使用していない貴女達が戦場に出ても皆の足を引っ張るだけ。今は司令の指示に従い大人しくしていなさい」

 

「「く……」」

 

 櫻井了子もウェル博士もいない以上、彼女がシンフォギアを纏うのに必要となってくるLiNKERを生成する事は出来ない。

 見た目とは裏腹に負けん気の強い二人だが、ナスターシャに言われては引き下がるしかなく口をつぐんだ。

 

「マリア、貴女もですよ?」

 

「…………分かってるわ、マム」

 

 悔しがる切歌と調。そしてナスターシャの後ろで車椅子の背を押すマリアもまた、戦う力を持たず傍観していることしか出来ない自分が悔しくてたまらなかった。

 

 

 

  ☆

 

 

『キシャアアアアアアアアッ!!!』

 

 クリス達と緒川がヘリで遺跡の近くまで来ると、羽を折り畳み歩行で目的地を目指すメルバの姿が見えた。

 

「あれが、メルバか……デカいな、あの時のネフェリムと大差ねぇじゃねぇか」

 

 クリスが呻くように呟いた。視界に映るその巨体は、ネフェリムを彷彿とさせる――だが、それ以上の“何か”を漂わせていた。

 

「あれが、イースター島を破壊したっていう」

 

「恐らくそれだけではありません。あの辺りの海域で、幾つかの漁船が謎の沈没をしたという噂も上がっています。恐らくはあの怪獣が……」

 

「そんな……」

 

 響は、胸の奥がずきりと痛んだ。自分たちが動くのが遅かったせいで、守れなかった命がある。その事実が、心に重くのしかかる。

 

「悔やんでる暇はない。奴が街に出たらどれだけの被害が出るか想像できない。奴が地上に降りてる間がチャンスだ、今のうちに仕留めるぞ!」

 

「「はい(おう)!」」

 

 マッハの速度で海を渡るメルバに飛び回られたら、もう対策手段はない。ヘリがメルバの頭上に差し迫った瞬間、一撃で決めようと、響達は頭部目掛けてヘリから飛び降りた。

 

 Balwisyall Nescell gungnir tron……

 

 Imyuteus amenohabakiri tron……

 

 Killiter Ichaival tron……

 

 三人の装者が己のギアを纏って空をかける。

 響と翼は、ギアに内蔵されたスラスターを吹かし、メルバの頭部へと接近し。クリスは地面に着地すると、両手のギアを構えた。

 

「「「ハアァッ!!!」」」

 

 響の拳が眉間を、翼の剣が首を、クリスの矢が羽を捉える。完全に無防備な状態での直撃に、手応えを感じる三人。

 

『?……キシャアッ!』

 

「「「なっ!?」」」

 

 しかし特に気にした様子のないメルバは、何が起きたのか分かっていないのか、首を傾げると一言吠え再び進軍を開始した。

 

「なっ! き、効いてねぇのか?!」

 

「はやるな雪音! “怪獣”が生半可な相手ではない事は百も承知だ! 攻撃の手を緩めず攻めて攻めまくるぞッ!」

 

 《蒼乃一閃》

 《千ノ落涙》

 《風輪火斬》

 

 唯一怪獣との戦闘経験のある翼は、直ぐに立て直すと、メルバの体を足場にして連続の攻撃を仕掛ける。

 一気呵成に攻める翼の姿を見て、様子見が不要なのがよく分かったクリスと響も追撃を仕掛ける。

 

 《BILLION MAIDEN》

 《MEGA DETH PARTY》

 《MEGA DETH QUARTET》

 

 クリスの火力の高い連続攻撃、響もそれに続くように右腕のギアを肥大化させ、スラスターを全開にして突っ込んだ。

 

『キシャアアアアアアアアッ!!!』

 

「「「うわあぁっ!!!」」」

 

 連続でやって来る爆発と大きな衝撃に、流石に鬱陶しくなったのかメルバが吠えながら勢いよく羽を広げる。

 たったそれだけの動作による風圧で起きる暴風、三人の装者の軽い体は簡単に吹き飛ばされてしまった。

 再び羽をしまったメルバは、ゆっくりと歩みを進める。その大きな瞳には、クリス達の姿は写っていなかった。

 

「くっ……舐めやがって、飛ぶまでもねぇって言うのかよ!」

 

「こんな生き物が、地球上に居たなんて……」

 

「諦めるな! 私達が倒れたら全て終わりだぞ!」

 

「は、はい! これ以上皆んなを、傷つけさせるわけにはいきません!!」

 

「当たり前だ! こんな鳥ヤロウに舐められてたまるかッ!!」

 

 初めての怪獣との戦闘に心が折れかけるが、翼の激励に二人は立ち上がる。たとえ相手が大きな力を持っていたとしても諦めるわけにはいかない。

 まだ彼女達は心で負けていない。ならばどんな状況でもひっくり返せる、そう思っていた。

 しかし三人は忘れていた。()()()()()()()()()と言うことを――。

 

『グオオオオオオオオオオオオオォッ!!!』

 

「「「っ?!!」」」

 

 大地が揺れ森が競り上がり、巨大な頭が姿を現した。

 

『ゴルザ……やはりこの場所に現れたか!』

 

「大地を揺るがすって……過剰表現じゃ、ねぇのかよ……」

 

 二つ名同様、木々を薙ぎ倒し大地にそそり立つ怪獣。クリスの皮肉も、もう一体の怪獣の出現の前にいつもの覇気がなかった。

 

「…………何としても、ここで食い止めるぞ!」

 

「はい!…………わたし達で守って見せます!」

 

 再び気合を入れ直す。心が折れたわけでは無い、しかしもう一体の怪獣の出現に、三人はダメージ以上の疲労を感じずにいられなかった。

 

 

  ☆

 

 

「響、翼、クリス!!」

 

 モニター越しに映る三人の苦戦する姿を見つめながら、潜水艦の一室にいるマリアは、爪が食い込むほどに拳を握りしめていた。手を差し伸べたくとも届かない。戦う術を持たぬ自分が、ただ見ている事しかできない現実が、彼女の心を苛んでいた。

 

「やっぱり、あたし達も行くデス!」

 

 調の言葉に、ナスターシャがすかさず首を横に振った。

 

「駄目です」

 

「でもマム! このままじゃあ……!」

 

 切歌の叫びも届かない。マリアも口を開こうとしたが、ナスターシャの鋭い声が遮る。

 

「貴女達が行って何が出来るのです!」

 

 思わぬ叱責に、調と切歌は肩を震わせた。冷静沈着なナスターシャが声を荒げるのは極めて稀だ。だが、彼女の言葉は正しかった。正規の適合者である響たちでさえ圧倒されているのだ。適合率の低い彼女たちが飛び込んだところで、足手まといになるだけ――その事実が、無力さを際立たせた。

 

「司令! 弾の準備出来ました。いつでも撃てます!」

 

「よし! ありったけを喰らわしてやれ! メルバの羽だけでも破壊するんだッ!!」

 

 弦十郎の命令と共に、潜水艦から音速で発射される無数のミサイル。目標は二体の怪獣、メルバとゴルザ。そのどれもが精密に狙いを定めていた。

 

『キシャアァッ!』

 

 死角から飛んでくる音速の物体。しかし怪獣の本能でそれを察したのか、突如、メルバが振り向き、巨大な翼を大きく広げる。そしてその目から放たれたのは、鋭い山吹色の光弾――メルバニックレイ。空を切り裂くような光が、迫るミサイルを一瞬で撃ち落とした。

 

『グオオオオオオッ!!!』

 

 一方のゴルザは一切迎撃の構えを見せない。その全身でミサイルの直撃を受け止める。爆風が巻き起こり、黒煙が巨体を包み込んだ。

 だが、数秒後。煙が晴れた先に立っていたのは、無傷のままの巨獣だった。

 

「くっ……化け物め……!」

 

 弦十郎の唇が震えた。

 どれだけの火力を浴びせようと通じない。怪獣――その存在は、人類がこれまで相手にしてきた“脅威”とは次元が違う。理屈も、戦術も、常識も通用しない。あれは“天災”だ。否――それ以上の、“破滅”そのものだ。

 

 

 

  ☆

 

 

 

『……ゴルザとメルバが、来たようですね……』

 

「えっ……あの怪獣たちが? どうして、この場所に……?」

 

 ユウは一歩前に出ながら訊ねる。彼女の言葉に、ユザレはわずかに目を伏せた。

 

『封印から目覚めた彼らが求めるのは、もう一つの封印の場……この地の封印を破壊し、封じられた邪神を目覚めさせること。それが“闇の眷属”の本能なのです』

 

 その言葉に、ユウの喉が自然と鳴る。闇の、眷属……。ただの怪獣ではない、災厄そのもの。

 

「じゃあ……邪神が目覚めたら……この世界は、どうなるの?」

 

 ユザレはわずかに目を細め、苦しそうに言葉を絞り出した。

 

『……世界は再び、闇に呑まれるでしょう』

 

 ユウは無意識に拳を握りしめていた。

 

『今は聖遺物を纏った者達が戦っていますが……』

 

「お姉ちゃん達が!? 勝てるの?」

 

 ユザレはその場に沈黙する。言葉を濁すのではなく、事実が語る痛みの沈黙だった。

 

『彼女たちは、勇敢に戦ってくれています。ですが……過去に幾人もの勇者が挑み、怪獣一体さえも封じられず倒れていった記憶を、私は忘れられません。彼女たちの力では……二体同時に相手取ることは困難です』

 

 唇を噛み締めながら語られるユザレの言葉は、ユウの心に重くのしかかる。

 

「……ねぇユザレさん! なんとかティガを復活させる方法はないの?! ぼくなんでもするから!!」

 

 少年の声は切実だった。誰かに命じられたのではない。ただ、自らの意志で――救いたいという想いだけで叫んだ言葉だった。

 だがユザレは、苦悩を滲ませながら首を横に振る。

 

『それは叶いません。カレを目覚めさせることが出来る者は、“選ばれし者”だけ。大吾がいない今、方法はありません……』

 

「そんな……お願いだよ。ティガは、今にも消えそうなぐらい苦しんでた。ティガは、ぼくの大切なものを守る為に一緒に戦ってくれたんだ。だから今度は、ぼくがカレを助けたいんだ!」

 

『ですがっ!……………………ちょっと待ってください』

 

 どれだけ想いが強くともそれが必ず叶うわけではない。

純粋な少年の願いを裏切らなくてはならない。

 しかしその時、ユザレの目が僅かに揺れた。何かに気づいたように、彼女の表情が変わる。

 

『今……貴方は、“一緒に戦った”と、そう言いましたね? まさか貴方は“ティガになれた”のですか?』

 

「え?……うん、ティガと一緒になったよ。でも直ぐに疲れちゃって消えちゃうんだ」

 

 ユウは自分がティガとなり三度巨人となったことを話した。

 一度目は、二年前のライブ会場付近で不完全な状態で。

 一度は、落下する月の欠片を破壊する為に。

 一度は、世界を焼き尽くそうとするネフェリムと戦う為に。

 

 ユウの返答は、まるでそれが当然と言うかのように、自然体だった。だが、ユザレの中でその真実が稲妻のように衝撃として走る。

 

(まさか……この子が? 魂だけの状態だったティガと“融合”し、不完全ながらも巨人の姿を保てたというの……?)

 

 本来、ティグの紋章には“変身する力”など無い。それは魂の結晶であり、器ではない。それでもユウは三度、巨人になっている。

 ならば――それは紋章の力ではない。この少年自身の中に眠る、圧倒的な“光”が起こした奇跡だ。

 

(……まさか、大吾は……気づいていたのですか? この子が持つ“心の光”の強さに……だから、この少年に託したのですか?)

 

 その答えは誰にも分からない。けれど確かに今、この少年の中には誰よりも強く、まっすぐな光が宿っていた。

 ユザレは静かに決意を込め、遺跡の壁にそっと手をかざす。するとゴウンという鈍い音とともに、壁の一部が地面へと沈み、奥に続く新たな通路が現れた。

 

『……この先に、ティガの肉体となる依代が眠っています。魂だけだったカレと融合できた貴方なら、きっとカレを“本当の意味”で救えるはず』

 

「本当!」

 

『ですが――この先には危険が待ち構えています。長い年月により通路は荒れ果て、さらにゴルザ達の攻撃による遺跡の崩壊も迫っています。それでも……それでも行くのですか?』

 

 通路の先は、まるで地の底に吸い込まれるかのような暗闇だった。遠くで微かに石が崩れる音が響き、空間そのものがきしんでいる。

 だが、ユウの表情に迷いはなかった。

 

「うん!」

 

 少年は胸の前で拳を握る、その答えは決まっていた。

 

「ティガはぼくに助けを求めてた。だから今度はぼくが手を差し伸べるんだ! ティガは――ぼくの大切な“友達”だから!!!」

 

 その言葉に、ユザレは微かに目を潤ませた。

 

(……なる程、星乃大吾が何故この子に託したのか、少し分かった気がします)

 

 巫女であるユザレには“魂”を見抜く力がある。

 少年の魂は、予知で見た大吾や、過去に見たどんな戦士のそれよりも、真っ直ぐで強く、そして美しかった。

 それは運命や予言に与えられたものではなく、ただ純粋な子供の想いから生まれた濁りのない光。

 

『カレを……ティガをお願いユウ』

 

「ありがとうユザレさん! ぼく、行ってくる!」

 

 薄暗い遺跡よりもさらに暗い“闇”。しかし少年は恐れる事なく、一歩踏み出し駆け出した。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

『キシャアァッ!!』

 

「わわわわわッ!!?」

 

 慌てて森へと逃げ込む響。だが頼みの木々は、メルバの放つ光弾を防げるような盾ではない。爆風を上げて木々を貫いた光の奔流は、一直線に響へと迫っていた。

 

「ハアァッ!」

 

 《天ノ逆鱗》

 

 翼が咄嗟に投擲した二本のアームドギアが巨大化し、そのうちの一本が響を守る盾となり。もう一本はバーニアと共勢いよくメルバの頭部へと蹴り込んだ。

 響を守った剣は一瞬にして破壊される。しかし同時に繰り出された翼の一撃にメルバの射線がわずかにズレ、響は光弾の直撃を受けずに済んだ。

 

「こんのォッ!!!」

 

 《MEGA DETH QUARTET》

 

 クリスのガトリング、小型ミサイル、大型ミサイルが全てゴルザに直撃する。しかしゴルザは止まらない、鬱陶しそうにコチラを睨んだ後、体を反転させ体以上に長い尻尾を振り回してきた。

 

「くっ……!」

 

 ムチのようにしなる尻尾が空気抵抗を破り、見た目以上の速度でクリスへと迫る。回避は不能だと察したクリスは、ガトリングを構え防御の姿勢を取った。

 

「雪音っ!」

 

 《千ノ落涙》

 

 翼は大量の刀剣をゴルザの尻尾の影へと突き刺し、《影縫い》の形で動きを鈍らせた。怪獣の剛力に、影に突き刺した刀剣は一瞬で砕かれ拘束が解かれたが、僅かに動きを鈍らせる事には成功した。

 クリスは直ぐ様ジャンプし尻尾の範囲から逃れた。

 

「大事ないか二人とも!」

 

「はい、なんとか!」

 

「助かった先輩、だけど……」

 

「ああ、このままでは……」

 

 翼のフォローのお陰で難を逃れたが、状況は芳しく無かった。機動力で致命傷を避けてはいるが、攻撃の余波だけでも十分に痛い。三人がかりでも、二体の怪獣を抑えきれない現実が浮き彫りになっていた。

 

『グオォッ!』

 

 疲弊するクリス達に興味を失ったゴルザが、再び遺跡の方を振り向き、頭部から紫色の超音波光線を放った。

 

「「「ああっ!?」」」

 

 ゴルザの光線は遺跡の結界を破り外壁を破壊する。古い遺跡が時間と共に崩れていくのが鮮明に写った。

 

「私とユウの思い出の地を、よくもッ!!」

 

 三人は足に力を入れると、コチラへと背を向ける二体の怪獣へと再び立ち向かった。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……あうっ!」

 

 息を荒げながら、ユウは崩れかけた石造りの通路を全力で駆け抜けていた。重く軋む振動が絶え間なく響き、時折足元の石が崩れかけるたびにバランスを崩して転ぶ。

 

「……負けるもんか!」

 

 膝に擦り傷、手のひらには砂利が食い込む。それでも、彼は立ち上がる。

 前に進むしかない。ティガを――友を助けるために。

 

「……えっ?」

 

 やや開けた通路の先、石壁の影に体を預けたユウは、鋭く視線を送った。耳を澄ませると、空気の張りつめた音が微かに聞こえる。気配がある。確かな“敵意”を帯びた何かが、そこにいた。

 慎重に身をかがめ、角を覗き込んだ瞬間、ユウの背筋が凍る。

 そこにいたのは、オレンジ色の体躯をした人型の異形――ノイズだった。

 

「ノイズっ?! 何で……!?」

 

 驚愕のあまり声が漏れる。ユウも知っている。ノイズはネフィリムとの決戦時、バビロニアの宝物庫の消滅と共にその姿を消し去ったはずだ。だが今、彼の目の前には、その失われたはずの存在が何体も――しかも遺跡の奥へと進みながら何かを探索するように、ゆっくりと動いている。

 

『なぜ、あんなものが?』

 

 突然、頭の中に女性の声が響いた。ユザレの声だった。

 

「ユザレさん? どこから……?」

 

 辺りを見渡しても、彼女の姿はない。ただ心に、静かに語りかけるような声が届いていた。

 

『今、あなたの心に直接語りかけています。……ティガの依代はこの先です。ですがあの物体がその道を塞いでいる……どうすれば……』

 

「……行くしか、ないよ」

 

 答えるようにユウは、もう一度自分の胸元に手を当てた。ティグの紋章がほんのりと微熱を帯びる。けれどその光は弱く、鼓動のような脈動もどんどん消えていきそうだった。

 迷っている時間も、引き返す余裕もない。ユウは今、前に進むしかなかった。

 

「……っ!」

 

 ノイズの一体が背を向けた瞬間。ユウは呼吸を整える間もなく、全身に力を込めて飛び出した。

 足音が通路に響く。ノイズたちが振り返るが、それよりも速くユウの小さな体はその背後を駆け抜けていく。

 

『――!』

 

 当然、すべてのノイズを騙し通せたわけではなかった。気づいた個体の数体が、腕をムチのように伸ばしてユウに攻撃を仕掛ける。しかしその瞬間にはすでに、ユウの姿は通路の角を曲がった後だった。

 

「……あった!」

 

 通路を進むと開けた空間に辿り着く。長い年月を過ごして来たからか遺跡が崩れかけて天井から長いツタが所々に垂れ下がっている。

 崩れかけているおかげか、ヒビの一部から入った太陽の光が、僅かに奥を照らし視野が広がっていた。

 そしてその下方、更に一番奥に巨大な石像があった。胸から下は瓦礫に埋まっており全貌は分からなかったが、その特徴的な頭と形状をユウが見間違う筈が無かった。

 

「……あれが、ティガの石像(からだ)

 

 その圧倒的な存在感に、初めてカレと出会った日のことを思い出し、感傷に浸りそうになるが後ろから先程のノイズ達が追いかけて来ている。浸っている時間はない。

 石像の周りにも複数のノイズが居るが、ユウは恐れず走り出した。

 辺りを見渡すと、半壊した足場が下り坂のようになっており、石像の頭上まで続いているのが見えた。

 

(あそこを伝って行けば、ティガの所まで行ける!)

 

 ユウはシューズのローラーを展開させると、壁から迫り出した僅かな足場をつたって石像を目指した。

 前方に居たノイズ達がユウの足音に反応し姿を捉える。

 ノイズが放ったムチのような器官をジャンプして避ける。その瞬間、ユウの足元にあった瓦礫が四散した。

 

「うわっ!? “分解”した……?」

 

 破壊というよりは分解と言うのが正しい攻撃、ノイズにそんな機能があるなど聞いた事が無かったが、そんなことを気にしている暇はない。

 一体のノイズがユウの存在に気が付いたのを皮切りに、他のノイズもコチラに攻撃を仕掛けてきた。

 

「うわわわぁっ!!?」

 

 坂道で徐々に加速しているおかげで、攻撃は当たらずに済んでいる。しかしノイズ達の謎の分解能力によって後ろの足場が崩され、尚更引くことはできない。

 するとノイズの一体が跳躍しユウの目の前に着地した。

 

「くっ!」

 

 ノイズに触れては消滅する、しかし足を止めたら分解される。

 ならばとユウは寧ろ地面を蹴る力を強め加速し、手前の瓦礫を足場にすると壁に向かってジャンプする。そのまま反対の足で壁を蹴ると三角蹴りの要領でノイズの頭上を超えた。

 

『上手いですよ、ユウ!』

 

「えへへ! パルクールには自信があるんだ!」

 

 続いて別のノイズ達が正面に立ち塞がるが、ユウは得意の身軽な動きで躱し、最後のノイズ股下をスライディングで抜けると、石像への距離が残り十メートル程まで近づく。

 

『っ!? ユウ、止まってください!』

 

 ユザレが引き止めた瞬間、ユウの正面の足場が崩れ崖となった。ノイズの攻撃と着地の衝撃に足場が耐えられなかったのだ。

 ついに遺跡全体が耐えきれず天井が崩れ落ちようとしていた。

 

(止まるもんかっ!)

 

 しかしユウはユザレの忠告を聞いた瞬間、さらにローラーを加速させた。

 

(ティガが言ってたんだ、“あの場所で待ってる”って。ティガが、友達が、ぼくを待ってるんだッ! だからぼくは止まらない! 諦めないッ!!)

 

 瓦礫と崩壊の連続する遺跡の中、少年はほぼ落下に近い速度で坂を滑り降りていた。激しく振動する地面、耳を劈く崩落音。だが、ユウの目は前だけを見ていた。

 ――少年の胸の中心から光が漏れる。

 その光に呼応するようにティグの紋章が眩い白い光を放ち始める。少年の想いが、再び光を灯したのだ。

 

(待たせてごめん、さぁ一緒にいこ!)

 

 

【挿絵表示】

 

 

 跳躍。風が鳴く。重力が引き戻そうとする中で、ユウは全身の力で手を伸ばした。

 

「ティガァーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

 次の瞬間、少年の全身が眩い光に包まれる。人の姿は跡形もなく、意志を持つ“光”が石像の胸へと吸い込まれた。そしてそれと時を同じくして、天井が崩れ、遺跡全体が音を立てて崩壊していく。

 そしてそんな中、巨像の額が力強い光を放っていた。

 

 

 

  ☆

 

 

『グオオオオオオッ!!!』

 

『キシャアアアアッ!!!』

 

 ゴルザの放った紫色の光線が遺跡を貫き、メルバの黄色い光弾が追撃するように破壊の波を浴びせた。結界は砕け、遺跡はついに完全崩壊。勝利を確信した怪獣たちは、天に向かって吼えた。

 

 だが――

 

 その咆哮を裂くように、瓦礫の中心から一条の白い光が吹き上がった。

 爆風と共に瓦礫が吹き飛ぶ。その中心、拳を高く掲げ、全身を白銀の輝きに包まれた存在が立っていた。

 

『――デュアッ!!』

 

 復活せし光の巨人。

 その名は、ウルトラマンティガ。

 

 

   ☆

 

 

「あれはっ!?」

 

「……ウルトラマン?」

 

「なんで、アイツが此処に?」

 

 傷だらけになったギアを纏い膝をつく響達もまた、ウルトラマンの復活を刮目した。

 それは仮説本部に居る弦十郎達も同じだった。

 

「何故……ウルトラマンがあの遺跡から?」

 

「巨人の目覚め……ユザレが言っていたのは、この事かも知れませんね」

 

(やっぱりカレは、私達を……人類を守る為に現れているの?)

 

 マリア達は遺跡から出現したウルトラマンの存在に疑問を持つばかりだったが、ナスターシャだけはそこに一人の少年の頑張りがあった事を察していた。

 

 

 

  ☆

 

 

 

(すごい……力が……力が溢れ出してくる!)

 

 ユウは己の手を開いたり握ったりさせ確認する。それだけで今までとは違う力強さを感じた。

 胸の奥底から湧き上がるような熱が、ティガとなったユウの全身を包み込む。これまで幾度となくティガとして戦った時は、常にどこかに重圧があった。それはまるで水底で息を止めるかのような息苦しさ。

 だが今は違う。

 力が、溢れる。体が軽い、意識が澄んでいる。

 巨人の体が、自分自身と完全に同化しているのをはっきりと感じ、まるで自身が羽になったかの様に軽やかだった。

 ティガとなった少年は、自分達へと威嚇してくる二対の怪獣を睨み付けた。

 

(いこう、ティガ! 再び闇が、世界を覆うなら、ぼく達が――世界を照らすんだッ!)

 

 胸の内に感じる、完全に一つとなった友の鼓動。ユウはそれを力に変え、怪獣たちの咆哮を迎え撃った。

 

『グオオオオオオッ!!!』

 

『キシャアアアアッ!!!』

 

 封印から目覚めし光の戦士の復活に、二体の怪獣は怒りを露わにする。だがその怒りに怯むことなく、ティガは地を蹴り、空を裂いて突撃した。

 

『デュアッ!』

 

 先に狙うはゴルザ。突進の勢いを殺さぬまま、その巨体に飛びつく。額を掴んで顔をそらし、喉元へと鋭い手刀を打ち込む。その反動で浮かんだ胴へ、もう一撃――返し刀のように手刀を叩き込む。

 ゴルザが怯んだ隙をつき、ティガは頭部を掴み、その顎に膝を叩き込む。同時に反対方向から向かってくるメルバを蹴り返した。

 二体の怪獣の変則的な攻撃を、ティガはバランスよく捌いていた。

 

『グオオッ!!!』

 

 ゴルザは頭部を紫色に発光させ光線を放とうとする。しかしティガは頭部の角を掴みそれを妨害した。

 そのまま押さえ込もうとするが、力ではゴルザに利があるのかその手を掴まれ取っ組み合いになる。

 

『キシャアァッ!』

 

『……デュッ!?』

 

 背後から飛翔して来たメルバが、ティガの背中を襲う。その一撃で体勢が崩れた。

 

『グオォッ!』

 

 受け身を取り転倒は防いだが、距離を取ったゴルザが、ためていた紫の光線を解放する。ティガはコチラへと放たれる光線を、側転の動きで素早く回避する。

 しかし回避した先にはメルバが居た。巨大な大鎌の様な両腕が振り下ろされる。

 ティガも負けじと腕と嘴を押さえて攻撃を防ぐが、その隙を背後のゴルザに突かれてしまった。

 

『デュア……ッ!?』

 

 ゴルザの光線を背中に喰らい、体勢が崩れた所をメルバに勢いよく弾き飛ばされた。

 

「ああ!……ウルトラマンが!」

 

「やはり、いくらウルトラマンでも、二対一では!」

 

 苦戦する巨人を見て、響や翼たちは歯を噛みしめる。立ち上がりたくても身体は動かず、限界を越えた体が叫びを上げていた。

 

『三人とも無理をしないでください! バイタルが限界を超えています!』

 

 友里の警告が響くが、誰よりもその事実を痛感しているのは彼女たち自身だった。

 

『グオオオオオオッ!!!』

 

『キシャアアアアッ!!!』

 

『………………』

 

 起き上がったティガは、ゴルザとメルバの二体をじっと見つめた。重苦しい空気の中で、相手の力を測り、状況を分析する。――パワーとスピード。力のゴルザと、空を舞うメルバ。どちらかを押さえれば、もう一方に隙を突かれる。

 

(二体を同時に相手するから苦戦するんだ……だったら先ずはどちらか一体を……)

 

 その時、ティガの額の《ティガ・クリスタル》が赤く煌めき、ユウの頭の中に一つのイメージが思い浮かんだ。

 

『ンーーーーハァッ!』

 

 ティガはクリスタルに両拳をクロスさせ念じると、気合と共に腕を払う。

 閃光とともに、巨人の姿が変貌を遂げる。赤い鎧を纏ったかのような《パワータイプ》へのチェンジだった。

 

「色が変わった……?」

 

 その姿にクリスが驚きを漏らす。紅に染まった巨人は、全身の筋肉が膨れ上がり、一回りも二回りも大きくなったように見える。ティガは両拳を固め、地を踏みしめるように構えを取る。

 

『グオオオオオオッ!!!』

 

 ティガの変化に挑発されたように、ゴルザが突進してきた。しかしティガは一歩も引かず、真正面から迎え撃つ。

 潜水艦のミサイルでも怯みすらしなかったゴルザの突進が、ティガの重い拳の一撃で止まる。

 

『ハァーーーーーーーァッ!』

 

 そのまま腰を落とし、ティガはゴルザの腹に腕を差し込む。そして――巨体を、片腕で持ち上げた。

 

『ッ?!?!?』

 

 ゴルザも自分が左手一本で持ち上げられるとは思っていなかったのか、焦ったように手足をバタつかせる。

 

『デュアァッ!』

 

 そのまま身体を反転させ持ち上げたゴルザを勢いよく投げ飛ばす。激しい地響きと共に、六万八千トンもの質量のあるゴルザが地に叩きつけられた。

 

『グ……グオオオオオオッ!!!』

 

『キシャアアアッ!!』

 

 立ち上がったゴルザとメルバが光線と光弾を放つ。

 しかしティガは両掌から生成したバリアーで簡単に受け止めるとゴルザへと突っ込む。剛力怪獣としてのプライドがあるのか、ゴルザもまた迎え打つように突進した。

 

『デュアッ!』

 

 身体を丸めた状態でゴルザとぶつかる。剛力と剛力、勝ったのは赤い巨人だった。

 ティガのタックルに押し負けたゴルザがたたらを踏む。体勢を崩したゴルザの胴体に両手を回すと、ティガは全身に力を込める。

 

『グ……グオオッ……!?』

 

 パワータイプによるバックブリーカーに、メキメキメキと背骨と筋肉が悲鳴を上げ、もがくゴルザ。

 力ずくてクラッチを外そうとするゴルザだったが、ティガは素早く手を離すと、今度は頭を抱えるように全身を持ち上げ叩き落とした。

 

 《ウルトラヘッドクラッシャー》

 

 垂直落下式の頭への一撃。その凄まじい轟音の後ゴルザの体が力無く崩れ落ちた。

 

『キシャアァッ!!』

 

 ゴルザが倒れ、今度はメルバが向かって来る。ティガは回し蹴りで迎撃しようとするが、剛力と引き換えに身軽さを捨てたパワータイプではメルバの速度を捉えられず避けられてしまった。

 

『グォォッ……!』

 

 ティガがメルバに気を取られていると、まだ息があったのかゴルザが地面を掻き分け逃走を図ろうとしていた。

 直ぐに追撃を仕掛けようとするが、空中からメルバに妨害され逃走を許してしまう。

 

『キシャアァッ!!!』

 

 上空から攻撃を仕掛けてくるメルバ。ティガはハンドスラッシュを空中に放ち撃ち落とそうとするが、マッハの速度で飛び回れ当たらない。

 反撃として放たれるメルバニックレイに視界を奪われる。その隙にメルバは、ティガの背後に回り込みその鋭い嘴で、その背中を貫こうと企む。

 

「ウルトラマンさんっ!!」

 

 響の声が聞こえたその時、ティガクリスタルが紫色の光を放った。新たに生まれたイメージを元にクリスタルに手を添える。

 

『ンーーーーーーハァッ!』

 

 雄叫びと共にティガの姿が再び変わった。真紅の筋肉が引き締まり、しなやかで流線的な青紫の光に包まれた――《スカイタイプ》への変身だった。

 

「また色が――」

 

『ハッ!』

 

 翼が反応しきるより早く、ティガは軽やかに跳躍する。肉体に宿ったバネのような弾力で、空中に浮かんだまま、一瞬で距離を詰める。

 

『ハァッ!!!』

 

 その脚が、飛翔するメルバの頭部を捉えた。カウンターの一撃――

 

 《ティガ・スカイキック》

 

 衝撃の瞬間、メルバの角が砕け、悲鳴と共にバランスを崩して地上へと落下していった。

 

『キ……シャ……ァッ!』

 

 怪獣としての意地なのか立ち上がるメルバ。その様子を見たティガは、両手を広げると光のエネルギーを頭上に集めた後、手裏剣のように光の弾を放った。

 

 《ランバルト光弾》

 

 その光弾が一直線に走り、メルバの胴体へと突き刺さる。

 次の瞬間、内部で炸裂した光弾が、メルバの体内から爆発を起こし、その肉体を内側から破裂させた。炎とともに爆風が吹き上がり、メルバの体は一瞬にして崩壊し、残響のように空に散っていった。

 

 ――メルバ撃破。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

「やった! やったよ! ウルトラマンさんが勝ちましたよ!」

 

 響の歓声が、静まり返った戦場に明るく響いた。全身を泥と汗にまみれながらも、満面の笑顔で拳を握りしめて喜ぶ彼女の姿は、まるで自分が勝利したかのようだった。

 

「ああ……本当に、勝ってしまうとはな……」

 

 翼は呆れたような、それでいてどこか感心した声でぽつりと呟いた。だがその表情にはどこか釈然としないものが残っていた。隣に立つクリスもまた、腕を組んだまま目を細め、無言で空を見上げていた。

 

「……あれ? 消えない?」

 

 首を傾げる。響の言う通り、いつもなら戦いが終わったその瞬間、まるで蜃気楼が晴れるようにティガは消えていた。だが今は違う。カレはその場に立ち尽くし、ただ静かに空を見上げていた。

 

『――デュアッ!』

 

 そして次の瞬間、ティガは力強く地を蹴って跳躍し、そのまま天へと飛び立っていった。夜空の彼方へ、星々へ向かうように。

 

「「「…………」」」

 

 三人の装者はその光の巨人の背を、言葉もなく見つめ続けた。

 

「………………はっ! 藤尭、ウルトラマンの反応は?」

 

「…………ダメです。消えてしまいました」

 

 藤尭が眉をしかめて報告する。上空一万キロメートルを超えた地点で、ティガの反応は唐突に途切れ、まるで最初から存在していなかったかのように、完全に消失していた。

 

「ウルトラマン……カレは一体何処に?」

 

 それは目視で確認していた翼達も同じだった。

 一瞬にして豆粒のように小さくなり消えてしまった空の向こうを見上げる。

 するとその時、近くの木々から人の足音が聞こえた。

 

「あっ、おーい! お姉ちゃ〜ん!」

 

「「「ユウ(くん)?!!」」」

 

 その声に反応して振り向くと、そこには土埃にまみれながらも、元気いっぱいに手を振る星乃結の姿があった。まるで先ほどまでの死闘などなかったかのように、無邪気な笑顔で走り寄ってくる。

 

「えへへ! 良かったお姉ちゃん達が無事で!」

 

「なんでユウがこんなとこに? ってか、お前何処行ってたんだよ!」

 

 クリスが駆け寄りながら声を上げる。その声には心配と怒り、そして安堵が混ざっていた。

 

「え? お部屋に書き置きしてたでしょ? “思い出の場所に行ってきます”って」

 

「思い出の場所って……」

 

「うん! ここはぼくにとって大切な場所だから!」

 

 心配していたクリス達とは裏腹に、ユウは笑顔であっさりと答えてしまう。その眩しさについ許してしまいそうになるが、そうはいかない。皆を心配させてしまったのだから、しっかりと叱らないといけない。

 そうクリスが心に決めた時、彼女達の耳に本部からの通信が入った。

 

『皆さんご無事で何よりです。話したい事も多いでしょうが、立ち話もなんです。先にこちらに戻ってはいかがですか?』

 

「ナスターシャ教授……いえ、了解致しました。これより帰投します」

 

「って事だから、一緒に帰ろユウくん?」

 

「はーい!」

 

 未だ明かされぬ謎を胸に抱きながら、それでも笑顔で歩き出す少年。その背を、装者たちは静かに追いかけた。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 穏やかなエンジンの音が響く帰還用のヘリの中。戦いを終えた疲れがじわじわと皆の体を蝕む中、ユウはふと、静かに瞼を閉じた。

 

『ユウ……ユウ、聞こえますか?』

 

 その瞬間、心の中に、柔らかく、それでいて確かに響く懐かしい声が聞こえた。

 

(うん。聞こえるよ、ユザレさん)

 

 思い出の遺跡が崩れ去った今、もう会うことはできないと思っていた。しかしその声は、まるで変わらず優しく、彼の中に確かに生きていた。

 

『ユウ……貴方は決して運命に“選ばれし者”ではありません。本来なら来るべき怪獣達、そして邪神との戦いは、貴方が背負う必要のないものです。それでも、貴方は戦うのですか?』

 

 その問いかけには、重くて厳しい意味が込められていた。けれど、ユウの答えは少しの迷いもなく、すぐに心から溢れた。

 

(“選ばれた”なんて関係ないよ。ぼくはただ“友達”を助けたいだけ)

 

『友達……貴方にとってティガは友人なのですね?』

 

(うん! お父さんが言ってた。“本当に辛い時、手を伸ばし合えるのが、本当の友達だ”って。この戦いがティガの背負う運命なら、ぼくも一緒に背負いたいんだ)

 

 自分は運命に選ばれた者じゃない。特別な資格を与えられた訳でもない。けれど、それでも手を伸ばさずにはいられなかった。ティガが自分を救ってくれたように、自分もティガを救いたい――それだけが、ユウのすべてだった。

 その想いが、ユザレの中に何かを灯したようだった。

 

『…………分かりました。なら私は貴方の行く末を、遠くから見守るとしましょう』

 

 穏やかな言葉と共に、ユザレの気配がすっと消える。それは永遠の別れではない。ただ、どこか遠くから見守ってくれているという確信だけが、静かにユウの胸に灯った。

 

「んぅ……んん…………すぅ、すぅ…………」

 

 気づけばユウの小さな体を、とてつもない疲労が包み込んでいた。張り詰めていた心がようやく緩んだのだろう。暖かなヘリの中、少年は静かに、静かに目を閉じた。

 

 自らの手で“掴んだ光”を大事そうに抱きしめながら。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 ユウ達を乗せたヘリがこの場を去った頃、とある丘の上から二つの人影が崩れた遺跡を見下ろしていた。

 

「……ふん、失敗か」

 

 一つは、大きすぎるとんがり帽子を目深に被った少女。まるで絵本の中の魔女のような愛らしい装いだが、その瞳に宿るのは老獪な知性と冷ややかな敵意だった。

 

「せっかく作った《アルカノイズ》が生き埋めになってしまいましたねぇ」

 

 もう一つは、つやのある黄色と茶色のスーツに身を包んだ、機械仕掛けのような女性。無機質な瞳と滑らかな動きは、人形めいた不気味さを漂わせていた。

 

「構わん。そんな物はまた作ればいい。……だが、貴様が直接行けば、話は早かったのではないか?」

 

「ご冗談を、余りにも地味な仕事、私向きではありません。それにあの“結界”は我々では越えることが出来ませんから」

 

 少女はそれを良く知っていた。だから結果に弾かれないノイズを使用したのだから。

 

「しかし良かったのですかマスター? また、あの男が口煩くなりますが」

 

「構わん。あんなものは放っておけばいい。それより……」

 

 少女は唇の端をわずかに吊り上げた。

 

「候補は“もう一つある”。あちらで《石像》を手に入れれば、奴も文句は言えまい」

 

「まぁ、マスターがよろしければ。我々は従うのみです」

 

 女は優雅に一礼し、その場に風のように立つ。

 遺跡の崩壊。作戦の失敗。それでも、少女は微笑んでいた。その笑みは、何よりも不吉で、不敵で――そして、どこまでも冷酷なものだった。

 

「むしろ……そうでなくては、面白くない。奴は……“ティガの巨人”は、オレ達が殺すのだからな」

 

 

 

 

 

 

 

  ☆






 《ウルトラマンティガ》
 ユウと、完全な融合を果たした事で力を取り戻した。
 肉体の依代を手にしれた事でエネルギー問題は解決。寧ろユウの“心の光”をエネルギー源にしているおかげで、彼の心が折れない限り、そのエネルギーは尽きる事はない。
 しかしそれは逆に、このティガのカラータイマーが鳴るということは、ユウ自身の命の危険を表しているという意味でもある。


 《ゴルザ》
 超古代に邪神が率いた“闇の眷属”の一体。
 鈍重なのを差し引いても余りあるパワーと頑丈な体は、シンフォギアや現代兵器を受け付けない。
 必殺技は、頭部のツノから放たれる紫色の光線――《超音波光線》である。


 《メルバ》
 超古代に邪神が率いた“闇の眷属”の一体。
 「空を切り裂く怪獣」の名の通り、全身に刃のようなものが見られ、広げた羽は空を切り裂き、マッハの速度で海を越えた。
 必殺技は、目から発射する山吹色の破壊光弾――《メルバニックレイ》である。
 

 《闇の眷属》
 超古代に降り立った邪神から放たれた闇の力。
 それは弱い生物を死に至らしめ、生き残った生物は怪獣となり邪神の眷属として、世界を蹂躙した。
 光の巨人の活躍により、邪神と共に全てが封印されたが、数々の事変により巨人の力が弱まったことで、封印が解かれ再びこの地上にその姿を現し始めた。
 
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