シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり) 作:トライダー
☆
その夜、潜水艦を抜け出したマリアは車を走らせ、とある住宅地へと来ていた。
「……ここね」
エージェント達から送られた資料を確認し一息つく。
マリアは、写真立てに付いていた男の指紋を元に、その男の身元をエージェント達の組織に特定させた。
彼らも最初は渋っていたが、マリアに借りを作らせる事を徳と思ったのか、意外と容易に事は進んだ。
「ふぅ…………」
車のエンジンを切り再び深く深呼吸をする。
痛いぐらいに心臓が跳ねている。いくら修羅場を潜ってきた彼女でも今回の超常現象と謎の存在は初めての事であり、強がっているが不安と恐怖が彼女の精神を蝕んでいた。
「よし、行くわよ――」
「うん、行こ」
「うわっきゃぁっ?!!!」
覚悟を決め扉を開けようとした時、隣のシートから可愛らしい声が聞こえマリアは人生で初レベルの高い悲鳴を上げた。
「ゆ、ゆゆゆゆユウっ?! ど、どうして此処に……?」
慌てて助手席に目をやると、そこには気付かないうちに、ユウがちょこんと座っていた。
「マリアお姉ちゃんが何処か行こうとしてたから、こっそりついて来たんだ」
キリエル人の爆破予告により皆慌ただしくしており、抜け出すのは容易だったが、思い詰めたマリアの姿を見ていたユウだけはその動きをよく見ていた。
マリアが車に乗るよりも前に、乗り込み後部座席に隠れていたようだ。
「ユウ、此処は危険よ。直ぐに帰りなさい」
「マリアお姉ちゃん、また自分一人で背負おうとしてるでしょ?」
「そ、それは……」
ユウの真っ直ぐな瞳に、マリアは目を逸らしてしまう。
彼の言っている事は正解だった。本来であれば、身元の追跡など二課のリソースで対応可能だった。
それをわざわざエージェントに頼ったのは、仲間たちに知られず自分一人で解決しようとしたからだった。
「緒川さんや、翼お姉ちゃん達に連絡するね?」
「でも……」
「……あの爆発はマリアお姉ちゃんのせいじゃないよ。あのキリエルって人達がやった事だよ。だからお姉ちゃんがしなきゃいけない事は、“早くこんな事を止めさせる”事だよ」
「……ユウ」
「だから、一人で背負わないで皆んなで力を合わせよ? 一人でやるより皆んなで頑張ったほうが、上手く出来るって……マリアお姉ちゃんは、もう知ってるでしょ?」
それはどこまでも真っ直ぐで、あたたかい言葉だった。
あのフロンティア事変の日。一人で背負おうとしていた自分を、響たちが救ってくれた。
あのとき、手を取り合ってこそ、不可能を可能にできたはずなのに、自責の念の重さについそれを忘れてしまっていた。
「……ええ、そうね。ありがとう、ユウ」
ふっと力が抜けるように微笑むと、マリアはそっと手を伸ばし、ユウの頭を撫でた。
☆
「ここです、ミス・マリア」
資料にあった男の部屋の前に着くと、昼間マリアを監視していたエージェントの二人が立っていた。
「男の名は板橋三雄。特にこれと言った特徴の無い普通の会社員だそうです。もう少し時間を頂ければ、もっと細かい記録も出てきますが……」
「そんな時間は無い、今は住所さえ分かればいい。ありがとう。あとは私達に任せて、貴方達は帰って構わないわ」
「それはできません。我々の任務は、あなたの“護衛”ですから」
「護衛、ね……」
マリアの視線は、冷たい刃のようだった。
その言葉の裏にあるのが“監視”であることを彼女はよく知っていた。表向きは護衛でも、その実態はただの足枷。二人の頬を伝う汗から、かなり焦った様子が見える。大方マリアを見失った事で上司にどやされたのだろう。
「大丈夫だよお姉ちゃん。今緒川さん達もこっちに向かってるみたいだし。もしもの時は、ぼくがお姉ちゃんを守るからね!」
「ええ、ありがとう」
マリアは嬉しそうにユウの髪を撫でる。
仕事の建前上に護衛を名乗るエージェント達よりも、純粋に自分を守ろうとしてくれる少年の方がよっぽど心強く感じた。
やがて、エージェントたちが大家から借りた鍵で部屋のドアを開ける。
薄暗い玄関から差し込む空気は、重く、どこか湿っていた。
「意外と……広いのね」
部屋は整頓されていた。だが家具の数は最小限で、生活感がほとんどない。唯一存在感を放っていたのは、隅に置かれた一台のパソコンだった。
「ぼく、隣の部屋を探してくるね」
「ええ。お願い。私たちはこっちのシステムを調べてみるわ」
マリアとエージェント達はパソコンの前に座り、素早くシステムの解析を開始する。
「こ、これは……!」
操作していたエージェントの一人が声を上げる。
「どうしたの?」
「住人データの更新が……三年前で止まっています」
「どういうこと?」
「体調記録や警備システムのログが、三年前を最後に完全に停止しています……つまり――」
重い沈黙が落ちた。マリアの背筋が冷たくなる。
「板橋三雄は……三年前に死亡していた、ということです」
「――そんな……!」
ならば、先程目の前に現れた“あの男”は何だったのか?
他人の空似? 指紋まで一致するそっくりな誰か? それとも――。
「な、何だコイツはっ!?」
突然、辺りを見張っていたエージェントの一人が叫ぶ。銃を構えたその瞬間、青い炎が彼の全身を包み込んだ。
「うわあああああああああアアァッ!!!?」
凄まじい叫びと共に、男の身体はみるみるうちに焼かれ、骨すら残らず消えていく。
「……っ!」
マリアは凍りつきながらも、炎の発生源を睨みつけた。
そこには、炎でできた人型の怪物が立っていた。蒼く、揺らめき、悪魔のように。
「う、うわあああぁっ!!」
「や、やめなさいっ!」
同僚の死に、もう一人のエージェントが発狂した様に、拳銃を乱射する。だが、弾は炎に近づく前に溶かされ、黒煙すら残らない。
――次の瞬間。炎の悪魔が腕を振りかぶり、正拳突きのように光弾を放つ。
「ぎゃ、ギャアアアアアアァァッ!!!?」
男の身体が青い炎に包まれる。
自分の体についた炎を消そうともがくが、それら全ては無意味だった。数秒と経たずにその体は消え去り、後に残ったのは僅かな焦げ跡を残した床だけだった。
「あなたが、キリエル人……?」
瞬間、空気が弾ける音と共に圧縮された衝撃波がマリアの身体を宙に浮かせ、背後の壁へと強かに叩きつけた。
「――ッぐ……!」
肺から空気が絞り出される。だが、焼かれることはなかった。拘束。これは殺意ではなく、意志ある力の誇示だと悟ったマリアは、血の滲む唇で叫ぶ。
「どうして……私なのっ!?」
「あなたがアイツを認めようとするからですよ」
マリアが悪魔を睨みつけると、人型の炎が収縮し板橋三雄の姿へと変わった。その表情は先程までの無感情なものではなく、目の奥に確かな憤怒を感じさせた。
「アイツ……?」
「キリエル人は、アイツよりもずっと前、中世の頃からこの地球へと来ていたのです。後から出て来て好き勝手されたのではたまらない。分かりますよね?」
その理屈に怒りが沸き上がるよりも先に、キリエル人の手が再び振り上げられ、マリアの身体を締めつける力が増す。
「マリアお姉ちゃんっ!――」
その時、部屋の扉が勢いよく開く。飛び込むように入室したユウの背後には、連絡を受けて到着した緒川と奏の姿も見えた。
マリアの拘束された姿を目にしたユウは、何のためらいもなく足元のゴミ箱を全力で蹴飛ばした。
サッカーボールの如くキリエル人の顔面めがけて飛んでくるスチール製のゴミ箱。
予想外の奇襲に反応が遅れたキリエル人は身をかわし、拘束が解除されたマリアを、奏が受け止める。
「逃しませんッ!」
飛び退き着地したキリエル人の影へと、緒川は弾丸を撃ち込んだ。《影縫い》で動きを封じた男へと、緒川は銃口を向け近づいて行く。
「抵抗しないでください。あなたには聞きたいことが山ほどありますから」
緒川が銃口を構えながら、ゆっくりと近づいていく。
「……ふん」
キリエル人は鼻で笑った後、縛られていたはずの足元の影を何の苦もなく動かした。
「なっ!?……影縫いを……!」
「この程度の遊戯で、我々を封じれるとでも?」
キリエル人が片方を振るうと青い光弾が放たれた。緒川は咄嗟に近くのソファーを盾にして、爆炎から身を守った。
「緒川さん!」
「大丈夫、掠っただけです」
緒川に怪我はない。しかし煙が晴れた後板橋三雄の姿は、もうそこには無かった。
『次の預言を伝えましょう』
重苦しい空気の中に、不気味な声だけが響き渡る。
『次に聖なる炎が焼き尽くすのは……
「何ですって!?」
「オマエ、一体どこに……!」
その姿を見つけ出そうと奏も見回すが確認出来ず、先程まで充満していた禍々しい気配が消え去った。
「マリアお姉ちゃん、大丈夫?」
ひとまずの安全を得たユウ達が、倒れ伏しているマリアへと駆け寄った。
「私の事はいいから……皆んなを避難させて……」
「でも……」
「早くっ!!」
自分の身など気にしている時ではない。
時間は既に八時、預言の時は目の前へと迫っていた。
☆
「早く! 急いでくださいっ!!」
サイレンが夜の街に鳴り響き、人々の喧騒と足音が錯綜する。
キリエル人からの“予言”を受けた弦十郎たちは即座に避難指示を出し、対応に追われていた。
ノイズ襲撃時と同様、町内放送とサイレンによる強制避難が功を奏し、街の住民たちは戸惑いながらも避難を開始する。
「こっち! こっちだよっ!」
ユウもまた、緒川や防災班に交じって懸命に誘導を続けていた。
本来なら彼を安全な場所に送るべき立場の緒川も、今回ばかりは彼の行動を許していた。
――人手が、決定的に足りないのだ。
周囲の大人たちに負けない声量で、ユウは腕を振り誘導し、時にはお年寄りに手を貸して避難を進めた。
☆
『お前達、準備は良いな?』
「はい! 大丈夫です師匠!」
弦十郎からの無線に響は元気よく応える。
皆が避難し無人となった広い交差点に、マリアを除いた装者全員が集まっていた。
「本当に、この作戦でいけるんだろうな?」
『理論的には可能です』
少し不安げに呟くクリスの言葉に、ナスターシャが即座に答える。
『奴らの攻撃は、地下を通って行われていることが分かりました。攻撃を防ぐには、地下を通るエネルギーに、同等以上のエネルギーをぶつけて相殺するしかありません』
「そこでまた、《S2CA》か……」
翼の呟きに、無線の向こうのナスターシャが頷く。
『ビルを一瞬で消し飛ばす程のエネルギー。しかも地下深くからとなれば、それを打ち破るにはコレしか無いでしょう……』
「わたしなら、へいきへっちゃら! ですよナスターシャさん! あんな被害をもう出す訳にはいきませんから!」
また彼女達に絶唱を使わせ、尚且つその負担を響に押し付けてしまう事に迷いのあるナスターシャ。しかしそんな彼女の背を押す様に響は笑顔で強く手を握った。
『響くんの言う通りだ。今回の作戦に失敗は許されない。そこで二人には、LiNKERの使用を許可する』
「ようやく、あたし達の出番デスねっ!」
「うん……やろう、切ちゃん!!」
切歌と調は意を決してLiNKERを打ち込む。
今回の作戦でもし響の放つエネルギーが、地下のエネルギーを下回ってしまっては意味が無い。
今回は特別に二人にもLiNKERの使用許可が出た。切歌と調の力も合わせて、確実にエネルギーを相殺させる作戦だ。
『地下からのエネルギー波を観測しました。……速度を計算すると、その地点を通過するのは、約0.5秒です』
「れ、0.5秒!? そ、そんな短いんですかっ……!」
友里からの報告に、計算の苦手な響が戸惑いの声を上げる。
『焦らなくても大丈夫です、立花響。発射タイミングは私たちが計算してカウントします。あなたは指示に合わせて、ただ“打ち込む”だけでいいのです』
「……はい! 分かりましたっ!」
響は深く息を吸い、目を閉じる。
そんな彼女に自分達の想いを託す様に、翼、クリス、切歌、調の四人は手を繋ぎ絶唱の準備を進めるのだった。
☆
「おじさん! こっちの避難終わったよ!」
『よし、ユウ。君も直ぐに避難してくれ、もう作戦が始まる!』
高密度のエネルギーとエネルギーのぶつかり合い。例え相殺に成功したとしても、その時に生じる衝撃は想像できるものでは無い。
巻き込まれない為にも、直ぐに避難をした方が良いだろう。
「よし、ぼくも避難を……あれ? マリアお姉ちゃん?」
避難を開始しようとしたその時、ユウの目に入ったのは、無人となった通りの奥から、ゆっくりと現れた一つの影。
それは――マリアだった。
足を引きずりながら、マリアは懸命に歩いてきていた。避難を後回しにしてまで人々を導き、自分の怪我を後回しにした結果、時間に間に合わなくなってしまったのだろう。
ユウは咄嗟に走り出す。しかし、横目に見た時計は、既に【20:59】を指していた。
『カウントが十秒を切ました。攻撃の準備をしてください』
無線から、ナスターシャの冷静な声が響く。
☆
五人の絶唱のエネルギー。響は両手のガントレットを組み合わせ、それを右拳に集中させる。
「《S2CA・ペンタゴンバースト》、準備出来ました!」
『よく出来ました。カウントが十秒を切ました。攻撃の準備をしてください』
「はいっ!」
ナスターシャの宣言通り、街の地下を紅蓮の炎が突き進む。作戦に参加する皆の耳に、彼女の発するカウントが一つずつ聞こえてきた。
5秒前……
響は攻撃のタイミングを今か今かと待ち構える。響とそれを見守る翼や、弦十郎達の頬にも冷たい汗が伝った。
4……
避難しようとするマリア、しかし足が上手く動かないのか、その足取りは重い。
(マリアお姉ちゃん――!)
3……
自分がいる地点も衝撃に巻き込まれるかのギリギリ。それでもユウは迷いなくマリアの元へと駆け寄ろうとする。
2……
足に力の入らないマリアはついに力尽き、その場に膝をついた。
1……
ユウは胸の《ティグの紋章》を握りしめ。
そして、跳んだ。
0
気合いを込めた、響の拳が振り下ろされる。
「ハアアアアァッ!!!!」
カウントと共に拳がアスファルトへと叩き込まれる。拳から放たれた虹色のエネルギーは、ドリルのように真っ直ぐに地中を突き進み、地下の紅蓮の炎を捉えた。
――瞬間、起きる衝撃。そして眩い閃光。
「う――」
二つのエネルギーの衝突。しかしその余波がマリアを襲う事は無かった。
それよりも早く、銀色の手が彼女を守ったからだ。
夜の街に姿を現した光の巨人――ウルトラマンティガ。
その身をもってマリアを衝撃から守ったカレは、静かに地に降り立ち、手のひらの上の彼女をそっと下ろす。
「「マリアっ!」」
作戦の瞬間、突然現れたウルトラマンの姿、調達はそのカレの手の中でマリアが眠っている事に気がつき駆け寄る。
「マリア、大丈夫かっ!?」
「……え、ええ、私を、ウルトラマンティガが……?」
静かな安堵が広がる中、ティガは彼女たちを見下ろしながら、ゆっくりと頷いた。
一切の被害を出さず爆破を防ぐことが出来た。作戦の成功に、自然と皆の頬が綻んでいた。
「――君を待っていたのだよ、ウルトラマンティガッ!」
しかしそんな空気を壊す様に、怒気の混じった声が夜の街にこだまする。
その声に釣られ響達は、視線を向ける。ティガも立ち上がり、その場所を見下ろした。
「あの男はっ?!」
先程まで無人だった交差点の真ん中に一人の男――板橋三雄が立っていた。
「君はこの星の守護神になるつもりかね? おこがましいとは思わないか? 君がその巨大な姿を現すずっと前から、この星の愚かな生き物達は、キリエル人の導きを待っていたのだっ!」
「アイツ……何言ってやがんだ……?」
その傲慢としか言えない姿に、クリス達の中には、怒りよりも先に戸惑いが生まれていた。
『皆んな、その男を絶対に逃すな。辛いだろうが、緒川もそちらに向かっている、協力して必ず捕まえるんだ!』
「「「「「はい(おう)っ!」」」」」
響、翼、クリス、切歌、調が、足元を震わせながら立ち上がる。絶唱直後で身体が重い。だが、今回の騒動の黒幕であろう、あの男を逃がす訳にはいかなかった。
そうしている間にも、男の演説は続く。
「君は招かれざる者なのだ! 見せてやろうキリエル人の力を!――キリエル人の“怒りの姿”をッ!!!」
男が天に両手を掲げた瞬間、その肉体は爆ぜるように燃え上がった。
地面が割れ、紅蓮の炎が噴き出す。アスファルトの合間から、炎が螺旋を描いて天へと昇っていく。
やがて、その炎は一つの“姿”を形作った――白と黒の不気味なコントラスト。顔は人とも骸骨ともつかぬ造形。
左胸に浮かぶのは、心臓のように脈動する赤いコア。
《炎魔戦士 キリエロイド》
「あれが……キリエル人の正体……」
「なんて、禍々しいの……」
「こ、怖いデスぅ……」
調と切歌が思わず一歩後ずさる。
ティガの姿にどこか似ていながら、対極にあるその存在に、誰もが本能的な「拒絶」を感じていた。
月光が照らす二つの影――
一つは、滅びの炎。
一つは、希望の光。
夜の街に、悪魔と巨人が対峙していた。
『キリィッ――!』
『デュアッ――!』
二対の巨大な影は、同時に駆け出した。
手刀と手刀、蹴りと蹴りが空間を裂き、衝撃がビルのガラスを震わせた。
『キリィッ!』
キリエロイドが鋭く尖った右手を、槍のようにティガの顔面へ突き出す。
ティガはそれを体を逸らしてかわすと、空いた胴体へ肘打ちを打ち込む。
さらに腕を掴み、そのまま地面に叩きつけようとした――だが。
キリエロイドはその投げに合わせて跳躍。空中で宙返りしながら着地すると、背後から迫るティガを狙い、後ろ回し蹴りを振り抜いた。
『デュア……ッ?!』
吹き飛ばされたティガが後ろのビルを砕きながら倒れる。直ぐに体勢を立て直し起き上がるが、そんなティガを嘲笑いながら追撃を仕掛けてくる。
突き、払い、蹴り、身軽な四肢による連続攻撃を、ティガは巧みに防ぐ。
『キリィッ!』
キリエロイドのアイアンクローがティガの頭部を締め上げる。だがティガは、脇の下に肘を叩き込み拘束を解くと、一本背負の要領で投げ飛ばした。
しかしそれでも決定打にはならない。再び蹴りと蹴りがぶつかり合った後、素早い動きでティガの腕を掴んだキリエロイドはお返しとばかりに投げ返した。
『デュアッ!』
《ハンドスラッシュ》
受け身を取ったティガは反撃に移る。
《ハンドスラッシュ》を発動し、鋭い光の刃を放つ。正面から直撃したキリエロイドは後方に跳ね飛ばされ、地面にたたらを踏んだ。
『ンーーーーーハァッ!』
ティガの全身が一瞬光に包まれ、《スカイタイプ》へとチェンジする。蒼白い光の装甲が闇夜を裂き、すぐさま加速するティガの蹴りが、キリエロイドの胴体を穿った。
『キリィッ!!』
声を荒げ腕を振るうキリエロイド。しかしティガは腕が完全に振り切られる前に手刀で止めると、体全体を使って投げた。
『デュアッ!』
倒れ起きあがろうとするキリエロイドへと、素早く飛び掛かり、空中で回転しながらの踵落としを繰り出した。
「よっしゃッ!!」
クリスが歓喜の声を上げる。追撃はまだ終わらない。
連続の蹴りの後、反撃の右の爪を逸らすと、開いた胴体へ手刀を与え投げる。
そして倒れたキリエロイドへ、ティガは迷いなく飛び掛かる。空中で身体をひねりながらの飛び蹴りが、見事に敵の胸部を捉えた。
『キ……キリィッッ……!!!』
キリエロイドは苦悶の唸りを上げ、怒りに任せて連続火球――《獄炎弾》を放つ。しかし、スカイタイプとなったティガには当たらない。宙を切る獄炎に焦燥が宿る。
『ギイィィィッ!…………ッ?!』
その時だった。キリエロイドの視線が、ティガの向こう側――響達の方へと逸れた。
その瞬間、泣いているかのような顔が、悪魔の如き微笑みを見せる。
『キリィッ!!!』
キリエロイドは再び《獄炎弾》を放った。
狙いはティガではない。火炎は、負傷し地面に座り込むマリア、そして彼女を支える響達のもとへ一直線に迫っていた。
「「「「「「っ!?」」」」」」
その一瞬、戦場に緊張が走った。
絶唱の反動で未だ動けない翼たちの眼前へ、真紅の死が迫る。
彼女たちは走ることも、構えることもできない。ただ、目の前の地獄を見つめることしか出来なかった。
――が、
『デュアッ……!!?』
誰よりも速く動いたのは、ティガだった。
音すら置き去りにし、スカイタイプの機動力で割って入る。業火を胸に受けながら、ティガは少女たちの前に立ち、全身で炎を受け止めた。
「ティガっ!?」
悲痛な声を上げる響。ティガはそんな彼女達を安心させる様に頷いた。
『キィリィッ!』
しかしその背中を見逃すキリエロイドでは無かった。
ティガが膝をついたその瞬間、キリエロイドが突進し、その首を締め上げる。左腕で喉元を押さえ込み、右拳で胴を殴打に膝蹴り――スカイタイプの防御を超える強烈な追撃が襲いかかる。
「ウルトラマンティガ! 負けちゃダメ!」
「あたし達がついてるデス!」
「だから勝て! そんな野郎に負けんなっ!」
「私達は信じてる! 貴方の力をっ!」
ティガは吹き飛ばされ、近くのビルへと叩きつけられる。建材の破片が宙に舞い、瓦礫が夜空を焦がす。
その姿に調が叫び、彼女に続く様にクリス、切歌、翼の声も響き渡る。
『キィリィキリキリイリィッ!!!』
そんな彼女達の声援を嘲笑うかの様な悪魔の雄叫びの後、キリエロイドは手から火炎――《獄炎放射》を放つ。
『デュ、アァッ…………!』
ピコーン ピコーン ピコーン――
咆哮と共に、キリエロイドが放つ火炎。
それは止むことのない炎の波。ティガの全身が包まれ、カラータイマーと共に苦しげな声が夜を貫く。
「私も信じているわッ!」
立ち上がったのはマリアだった。
捻った足の痛みも構わず、炎に焼かれるティガへと声を投げる。
「貴方が、私達を守り導いてくれる事を!! だからお願い、勝ってッ!!!」
既に戦う手段のない彼女達が出来るのは、声援を送ることだけ。それがどれだけ意味があることなのかは分からない。それでも少女達は叫ばずにはいられなかった。
『デ…………ュアァァァッ!』
『キィッ……っ!?』
ティガは立ち上がる。カラータイマーが危険を発し、その身が業火に焼かれようとも、少年の耳に大切な人達の声が聞こえたから。
だから少年は立ち上がる。
『キリィッ!!!』
キリエロイドが動揺する。まさかまだ立ち上がるとは思っていなかったのだ。ならば、と憤怒の火力がさらに増す。空間が歪むほどの熱量がティガを包もうとする。
しかしそれでは少年は止まらない。
『――タァッ!』
身を捻ることも、かわすこともせず、真正面から突き進み――拳を突き出す。
『キ……キリィッ!!!』
炸裂した拳が、キリエロイドの顔面を打ち抜く。
たじろいだキリエロイドが怒りの反撃に転じ、鋭い右手の爪を振り上げた。
だがティガは、その腕を掴み、自らの懐へと引き込んだ。
次の瞬間、ティガはキリエロイドの巨体を、そのまま背で転がすように逆方向へと回り込ませる。
キリエロイドの身体が一瞬、空を切る。
その刹那、ティガはキリエロイドの脚を蹴り、跳躍する。
そして――。
『デュアァッ!!!』
――シャイニングウィザード。
その跳び膝蹴りは、真下から顎を貫き、キリエロイドの巨体が地面を転がるほどの衝撃を生んだ。
それでもなお立ち上がろうとする敵に、ティガは静かに胸の前にエネルギーを集める。
《ティガ・フリーザー》
放たれた光線が空中で破裂すると、超低温の冷気が降り注ぐ。回避の暇もなく、キリエロイドの全身が凍り付いていく。
『キ……キリ……ィッ!』
呻き、もがく悪魔。だがその動きは、凍結と共に次第に緩慢になり、ついには――動かなくなった。
『ンーーーーハァッ!』
ティガの姿が変化する。俊敏なスカイタイプから、力と技の均衡を備えた《マルチタイプ》へ。
両腕をクロスし、そして開く。その中心に生まれる紫と白銀の輝き。ティガが右腕をL字に構えると、光が集まり――放たれた。
《ゼペリオン光線》
凍りついた悪魔の像に白銀の閃光が直撃し、砕け散る氷が夜空に舞って花開いた。
キリエロイド――撃破。
☆
「やった! やったよ皆んな! ウルトラマンさんが、ティガが勝ったよぉっ!」
「ああ……!」
隣歓喜の声を上げる響に、隣に立つ翼もまた、深く息を吐き、強く頷く。二人の表情には安堵と、感謝と、何より希望の光があった。
「へへっ! アタシは信じてたけどな!」
どや顔を浮かべながら胸を張るクリス。しかしそれを聞き逃す切歌と調ではなかった。
「よく言うデスよ、あんなに心配そうな声してたくせに」
「うん。すごく“ティガ大丈夫かな……”って顔してた」
「なっ、し、してねぇっつーの!」
わちゃわちゃとじゃれ合うようなやり取りに、場の空気が一気に和らいでいく。
緊張と不安に縛られていた数時間が嘘のように、笑顔と笑い声が夜に戻ってきた。
「ありがとう……ウルトラマンティガ」
その中心で、マリアは静かに呟いた。
勝利したこと、守ることが出来たこと、そして何よりウルトラマンが自分達の声に応えてくれた事が嬉しかった。
ティガは皆の方を振り返ると、そっと頷くような仕草を見せる。
そして――飛翔した。
銀と赤、そして紫の美しいボディラインが、月光に照らされて浮かび上がる。
その姿はまるで一筋の流星。
夜空を裂いて、静かに、そして力強く――ティガは闇を越えて消えていった。
「……」
誰もが無言で夜空を見上げていた。
戦いの終わりを噛み締めるように、空を見つめる。
そんな静寂を破ったのは――可愛らしい足音だった。
「マリアお姉ちゃーん!」
「ユウっ!」
満面の笑みを浮かべて走ってくるユウ。そんな二人の間に切歌と調が入った。
「はい、ストップデスよユウ」
「マリアは足を怪我してるから。代わりにわたし達が、抱っこしてあげる」
「えへへ〜! ありがとうお姉ちゃん!」
「むぅ〜別に構わないのに……」
両側からぎゅっとハグされて、嬉しそうに笑顔を浮かべるユウ。
だがそのハグのタイミングを奪われたマリアは、少しだけ唇を尖らせて子供のようにむくれていた。
「……キリエル人とは、一体何だったんだろうな……?」
ふと呟いた翼の言葉に、マリアは表情を引き締める。
「分からない……でも奴は、“我々”って言っていた。もしかしたら、まだ終わってはいないのかも知れない」
その言葉に、誰もが静かに頷いた。
あの不気味な気配、異様な存在感――それが一体だけとは思えなかった。
この戦いが始まりを告げる事を感じながら、装者達はティガの飛び立った夜空を見つめていた。
☆
キリエル人の、ウルトラマンティガへの挑戦は失敗に終わった。
だが、カレらは言っていた。「我々」と。
そう、カレらは、何千年も前からこの星に潜伏していたのだ。
もしかすると――
貴方のすぐ傍にも、居るのかもしれません。
☆
《キリエロイド》
ウルトラマンティガに挑戦する為にキリエル人が変異した戦闘形態。マルチタイプのティガと互角の格闘戦を行い、赤と青の炎を自在に操る。
彼らキリエル人は、主に中世の時代に地球上で暗躍していた。
「聖アントニウスの火」や「魔女狩り」、「ロンドン大火」に「死の舞踏」など、人の歴史の大きな事件で“炎”に関係するものは、カレらが関与していたとも言われている。
カレらの目的が何なのか、それはまだ不明である。
これにてTIGA編は一旦終了になります。
次回からとうとうGX編に突入します。今までの無印編やG編とは違い、ティガの出番が増えたりしますので、原作とは展開が大きく変わる可能性がありますので、ご了承ください。
GX編自体もまだ全部書き終わっておりませんので、投稿頻度も落ちると思いますが、お楽しみにお待ちください。