シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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 お久しぶりの投稿となります。
 ある程度の書き溜めが出来ましたので再開していこうと思います。
 GX編からは、ティガやユウなどが話に関わってきますので、原作のシンフォギアとは展開が異なる所が多くなりますがご了承ください。




GX編
第三十七話 新たな敵


  ☆

 

 

 

 

 ティガとキリエロイドとの戦いから約三ヶ月、世界では様々な動きがあった。

 先ずは、弦十郎率いる《二課》。彼らは超常災害対策機動部タスクフォース――通称《S.O.N.G.》として再編成された。

 主な目的は世界中で起きる災害、そして厄災とも呼べる“怪獣達”に対抗する為に作られた組織だ。

 この三ヶ月、世界中で数多くの怪獣達がその姿を見せた。しかし、未だ人類にはその怪獣達に対抗する明確な手段が揃っていなかった。

 それは絶大な戦闘能力を誇る、シンフォギアであっても同じ事だった。

 

『――デュアッ!』

 

 しかし、そんな彼女達を助けたのが、光の巨人――ウルトラマンティガ。

 人類がピンチの時、光と共に現れたカレは、様々な怪獣と戦った。

 時には陸、時には海、時には空、様々な生態系を持つ怪獣達。中にはどう足掻いても人類では対処できない怪獣達からも、カレは我々を守ってくれた。

 世界に跋扈する怪獣。その圧倒的な存在を前に、未だ人類が文明を保っていられるのは、カレの存在のおかげなのは間違いなかった。

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

「――ふう、本日も異常なし……ですね」

 

 椅子にもたれ、目を細めながら藤尭が一息ついた。長時間の警戒態勢からくる緊張が、ようやく緩む。

 

「はい、あったかいのどうぞ」

 

「どうも。……珍しいねぇ?」

 

 湯気を立てたカップを手渡す友里に悪戯っぽく口元を緩める藤尭。彼女は苦笑しつつもフッとため息をこぼした。

 

「一言余計よ。……でも、ほんとに不気味なくらい平和ね。最後に怪獣が倒されてから、もう一週間……」

 

「この三ヶ月、ずっと非常事態の連続だったからなぁ。世界のあちこちで怪獣が出て、S.O.N.G.も手一杯だったし」

 

「ええ、本当に……。今こうやって生きていることが、奇跡みたいに思えるわ。正直、よく勝ってこれたと思う」

 

「まあ、とはいっても勝てたのは、ほとんどウルトラマンのおかげだけど。オレたちはほとんどお手伝いだよ。後片付けとか、避難誘導とかさ」

 

「そんな言い方しないの。私達や皆んなだって、きっとウルトラマンを助けているわよ」

 

 藤尭は両手で頭を抱え、椅子の背もたれを限界まで伸ばし天井を見上げる。

 

「そうかなぁ? 寧ろ庇ってもらったり、助けてもらう事の方が多かったじゃないですか?…………ウルトラマンが居れば、オレ達なんて要らないんじゃ無いのかなぁ?」

 

「それは………………」

 

 言葉を受けた友里の表情が曇る。彼女もまた、心のどこかで同じ疑問を抱えていたのだ。

 

「ま、今は平和なんだしさ。このまま定年まで、何も起きずに終わってくれれば一番――」

 

 冗談めかして笑おうとしたその時だった。

 アラームが鳴り響き、モニターの画面に赤い《ALERT》の文字が点滅する。

 

「……! 横浜港付近に、未確認の反応を検知!」

 

 友里の指がすぐさま端末を叩き、情報を呼び出す。

 だが――その瞬間、モニターの《ALERT》が《LOST》へと変わり、反応がまるで最初からなかったかのように掻き消えた。

 

「消失……? 急ぎ司令に連絡をっ!」

 

 そこから彼らの対応は早かった。今の現象をすぐさま弦十郎へと報告を行った。

 静寂の中に走った、一筋の違和感。

 それは、新たな戦いの幕開けを告げる、ほんの小さな予兆に過ぎなかった。

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁっ!」

 

 月光の夜道を小さな影が駆ける。

 その影を狙う様に黄色い閃光。まるで弾丸の如き速度、しかしそれは弾ではなく、黄金の小さなコインだった。

 小さな影はそれを、電話ボックスの裏に身を隠し逃れた。

 

「はぁ……はぁ、ドヴェルグダインの遺産……全てが手遅れになる前に、この遺産を届けることがボクの償い……」

 

 少年とも少女とも取れる声で呟いた後、小さな腕に抱かれた小箱をそっと撫でる。

 意を決した様に、小さな影は再び駆け出す。黄金の雨が再び降りかかるが、曲がり角を曲がる事で、その射線から逃げ延びた。

 

「……私に地味は似合わない。……だから次は、派手にやる」

 

 黄金の月の前で派手なポーズを決める女性。その機械的な眼が、影の去った方角を睨み付けていた。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 季節は夏。

 春の陽気、梅雨の湿感が過ぎ去り、暑い太陽が学園を照らす。それに合わせるように、生徒たちもまた、夏服へと着替えていた。

 

「ク〜リスちゅわあぁ――ぶへぇっ!」

 

 そんな暑苦しい中、抱きつこうとしてくる響を、クリスは容赦なく鞄で迎撃し、ウサギのキーホルダーが揺れる。

 

「ったく、お前本当に、アタシが先輩だって事忘れんなよな! そんなだらしない態度じゃ、こいつらに示しがつかねぇだろうがっ!」

 

 クリスが怒りながら指さしたのは、少し後ろにいた月読調と暁切歌。彼女たちもまた“保護観察処分”として、このリディアンに通う身となっていた。

 

「だいたい! このクソ暑い時に、くっ付きに来るんじゃねぇ鬱陶しいっ!」

 

 ぶー垂れる響を一括したその時、明るい声と共にユウが皆の元へと駆けてくる。

 

「クリスお姉ちゃ〜ん!」

 

 明るく透き通った声と共に、ユウが小さな体を揺らしながら駆けてきた。クリスは自分へと向かってくる愛しい少年の前に両手を広げる。

 しかし、そんなユウを、未来が横合いから抱きしめた。

 

「えへへ! おはようユウくん!」

 

「なっ……! お前ぇええええっ!!」

 

 柔らかな笑みを浮かべながら艶のある黒髪の頭を撫でる。自分が味わうはずだった感触を、目の前で奪われ、クリスはワナワナと肩を震わせる。

 

「わっ! 未来お姉ちゃんどうしたの?」

 

「それがね〜。クリスってば、暑いからくっ付いて欲しくないんだって。だったら、代わりに私たちがユウくんとギューってしちゃおうって。ね、響?」

 

「うんうん! あ〜! ユウくんの柔らかなお肌はたまりませんなぁ〜! ウェヘヘヘ~」

 

「やーん、響お姉ちゃんくすぐったいよ〜!」

 

 頬やら太腿やらをさする響の手つきに、ユウはくすぐったそうに身を捩る。

 

「えへへ! でも、ぼくもお姉ちゃん達とギューするの好き!」

 

 その場で和気あいあいとじゃれ合う三人の姿を見て、クリスの周りに黒いオーラが立ちのぼっていく。

 

「それなら、調の手のひらも冷んやりしていてオススメデスよ!」

 

「え? あ、本当だ! 調お姉ちゃんの手、気持ちいいね!」

 

 ユウが無邪気に手を握ると、調は一瞬たじろぎながらも小さく微笑む。

 

「もう、冷たい手って気にしてるのに……」

 

「そうなの? でも“手が冷たい人は心が暖かい”ってお母さんが言ってたよ? 調お姉ちゃんの事を考えると本当だね!」

 

「う〜もう、ユウったら……」

 

 ニッコリと笑顔を見せるユウに、調が少しだけ頬を赤らめて俯くと、それを見た切歌はうずうずしている。

 

「ユウユウ! あたしの二の腕も、冷んやりしてるって評判デスよっ!」

 

 触ってと言わんばかりに切歌が突き出してきた腕に、ユウは優しく触れた。

 

「へぇ〜本当だ。なんだか気持ちいいね」

 

「えへへ〜。ユウの手もスベスベしてて良い気持ちデスぅ〜」

 

「むぅ……ユウ、手が緩んでるよ?」

 

 調はユウの指に自分の手を絡めより強く握りしめ感触を味わう。

 響と未来も混ざり、次第に皆の手がユウへと集まり、ぎゅうぎゅうに取り囲まれ揉まれていく。

 

「お前らなー! 目の前でイチャイチャしてんじゃねー! 大体、そこはお姉ちゃんであるアタシのポジションだろうがーーっ!!!」

 

 なぜか勝ち誇ったように微笑む響と未来の姿に、地団駄を踏むクリス。そんな姿に、思わず吹き出す調と切歌。

 彼女達は、束の間の平和を心から楽しんでいた。

 

 

 

 

   ☆

 

 

 

「また人数増えてねえか?! 聞いてねえぞ!」

 

 授業が終わったあとの夜。クリスの住むマンションの一室は、いつの間にか“寄り合い所帯”と化していた。

 

「すみません、こんな時間に大人数で押しかけてしまいました」

 

 詩織が丁寧に頭を下げる一方、弓美と創世は遠慮のかけらもない様子で堂々とテレビの前に陣取っていた。

 

「ロンドンとの時差は約八時間!」

 

「チャリティロックフェスをみんなで楽しむには、こうするしかないわけでして」

 

 そう今夜は待ちに待った《ツヴァイウィング》とマリアの完全復活ライブ。ロンドンで行われる歌姫の姿に日本どころか世界中が注目をしていた。

 勿論三人を応援する彼女達も例外では無く、一人暮らしで尚且つ大きなテレビを持つクリスの家に集まっていた。

 

「ま、頼れる先輩ってことで!」

 

「そうそう。もし足りないというのなら、苦渋の決断ですがぁ……ユウくんを抱っこする権利を差し上げましょう!」

 

 弓美はいつの間にかユウを抱っこし、いつもクリスが二人でテレビを見ている位置に座っていた。

 

「なら良いかって――って、そこは元からアタシの定位置だっ!」

 

「クリスお姉ちゃん、ぼく皆んなと一緒にライブ見たい。……だめ?」

 

 ユウが上目遣いで見上げてくる。その一言に、クリスの怒りゲージが一気に崩壊した。

 

「しょうがないなぁ〜! ユウのお願いだもんなぁ〜! 許してやるかぁ〜!」

 

 だらしない顔で撫でる手はすっかり甘々モード。全身で「私はユウの一番のお姉ちゃんです!」と主張するかのようだった。

 

「……だけど、ユウを抱っこするの(そのいち)はアタシのだからなッ!!!」

 

「わ、分かったわよぅ……」

 

 クリスの形相に、弓美は渋々場所を譲る。

 先程までとは打って変わって上機嫌にユウを抱っこするクリス。そんな姿を羨ましそうに見つめる少女達だったが、部屋を貸してもらっている以上、黙するしかなかった。

 

「あ、始まったよ!」

 

 テレビの中の会場の照明が一度落ちると、ステージに変化が起きる。

 中央に立つのは、かつての英雄たち――翼と奏、そしてマリアスポットライトが彼女たちを照らし、チャリティライブの幕が静かに上がる。

 

 曲は《星天ギャラクシィクロス》。

 

 ロンドンの夕日が背景に映し出され、水上ステージに反射する。水のカーテンがリズムに合わせて舞い上がり、空中に虹が描かれる。プリマのように舞う三人。音と光と水がひとつに溶け合い、観る者すべてを魅了していく。

 やがて、空に浮かぶ銀河が混ざりあい、クロス状の光が弾ける。超新星爆発を思わせるその輝きに、現地の観客は勿論、テレビで見ていた響達も歓声をあげた。

 

「お姉ちゃん達、綺麗……」

 

「うん。翼さん達もだけど、奏さんも全然負けてない!」

 

「それだけリハビリや、レッスンを頑張ってきたって事だよね!」

 

 未来や響の言う通り、キラキラと輝く翼とマリア、そんな二人にも負けず劣らず奏は輝いていた。

 そこには数年越しのブランクなど全く感じさせない。それは天羽奏の完全復活を表していた。

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 

「素晴らしかったですよ、三人とも!」

 

「へへっ! あったり前だろ?」

 

 ライブを終えた奏達を、緒川が向い入れる。いつも冷静な緒川も、今回は珍しく興奮を抑えられないようだ。

 

「でも本当、素晴らしかったわ奏」

 

「ええ! 正直言って、置いて行かれないように必死だったもの」

 

 翼とマリアの言葉に、奏は少し照れたように頭をかく。

 

「ありがとう翼、マリア! でも、流石に疲れたな」

 

「体力の事は仕方ないわ。そこはこれから二人で一緒に頑張っていきましょう。それよりも――」

 

 翼は静かに、しかし力強く右手を差し出した。

 

「おかえり、奏!」

 

「ただいま、翼」

 

 翼の手を力強く握り返す。伝わってくる互いの温もりに、二人は心の底から復活を実感していた。

 そんな二人の光景をマリアと緒川は、暖かい目で見つめていた。

 

「――任務、ご苦労様です」

 

 そんな穏やかな空気を壊すように、二人の黒服の男達が姿を現す。

 

「…………アイドルの監視ほどではないわ」

 

「監視ではなく警護です。世界を守った英雄を狙う輩も、少なくはないので」

 

 黒服達の言いように、マリアはニヤリと笑うと、皮肉っぽく言葉を返した。

 

「そう……なら今後こそは、キリエル人から、私を守ってくれるのよねぇ?」

 

「そ、それは……っ!」

 

 “キリエル人”の名を出された瞬間、男達は大きく動揺する。同僚が、奴らに殺された事は、彼らの組織の中でも広まっているようである。

 

「ふん。それが出来ないなら、軽々しく私の側に来ない事ね。まだ奴らは私を狙っているでしょうから」

 

 勿論ハッタリだった。あの日以降、そう言った傾向は見られない。しかし彼らには効いたのか、徐々に足元がマリアから離れているのがよく分かった。

 

「それじゃあ皆んな、ご機嫌よう。また一緒に歌える事を願っているわ」

 

 マリアはその場を後にする。黒服の男達の足はその場から動かなかった。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 月が澄んだ光を注ぐ夜更け、都市の片隅にある高層ビルの屋上で、ひときわ異彩を放つ人影が佇んでいた。

 黄色のスーツに身を包み、帽子を深くかぶったディーラーのような女。指先で弄ぶ金色のコインが、月明かりに照らされて冷たく光っている。

 女は口元に笑みを浮かべ、指先で三枚のコインを軽やかに弾く。

 跳ねたコインは、まるで生き物のように曲線を描きながら滑空し、走行中のタンクローリーの車体に突き刺さる。   

 ひとつはタンクに、もうひとつはタイヤに。

 爆音と共に、制御を失った車体が道路を蛇行し、そのまま横転した。運転手が車外へ転がり逃げた瞬間、漏れ出したガソリンに車体の火花が引火。

 凄まじい爆発音が夜を切り裂き、街路を赤く染めた。

 

『第七区域に大規模な火災発生。消防活動が困難なため、応援要請だ』

 

「はい! すぐに向かいます!」

 

 司令室の通信に、響は即座に立ち上がった。隣ではクリスも同じく顔を顰めていた。

 

「わたし達も!」

 

「手伝うデスっ!」

 

 彼女たちの気配に呼応するように、調と切歌も立ち上がる。しかしそれをクリスが押し留める。

 

「二人は留守番だ! もうLiNKERは無いんだからな!」

 

 怪獣との戦闘が多発的に続き、二人がシンフォギアを纏うのに必要となるLiNKERは既に底を尽きていた。

 その言葉に、切歌と調は小さく唇を噛み、視線を落とす。否定できない現実。理解はしているが、自分たちだけが何もできないことへの悔しさが、胸の奥を焼いた。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 夜空を裂くように、黒いヘリが低空を飛行する。響とクリスを乗せたその機体は、燃え盛る第七区域へと急行していた。

 

『付近一帯の避難はほぼ完了。だが、この付近に多数の生体反応を確認している』

 

「まさか人が?!」

 

 弦十郎からの報告に、二人の表情が険しくなる。

 

『防火壁の向こうに閉じ込められているようだ。さらに気になるのは、被害状況は依然、四時の方向に拡大していることだ』

 

「また怪獣が暴れてるって事か?」

 

 クリスが身を乗り出すようにしてマイクに叫ぶ。ヘリの窓越し、街は業火に包まれていた。幾筋もの煙が空へと立ち昇り、オレンジに照らされた建物群は、まるで怪獣が現れたかのような地獄絵図だった。

 しかし弦十郎はかぶりを降った。

 

『今の所それらしき姿と反応は見られない。なので、響君は救助活動に、クリス君は被害状況の確認にそれぞれ当たってくれ』

 

「了解です!」

 

 ヘリはまず響が向かうべき民間人の居るポイントを目指していた。

 

 

  ☆

 

 

 異常が起きていたのは、日本だけでは無い。ここロンドンでもそれは起こっていた。

 大量のステージ衣装と人形が飾り付けられた通路を、マリアは一人で歩く。

 辺りには人の気配は無い。にも関わらずマリアは異様な気配を感じ取っていた。それはまるで周りの人形達に見られているかのような不気味な感覚だった。

 密閉空間であるはずの通路に、吹くはずのない風がマリアの頬を撫でる。

 

「……風? 誰かいるのっ!?」

 

 身構えながらも、マリアは確かな異常を察知していた。そして次の瞬間、空間に響き渡る声。

 

「司法取引と情報操作によって仕立て上げられたフロンティア事変の“汚れた英雄”――マリア・カデンツァヴナ・イヴ」

 

「何者だっ!?」

 

 声の主を探して周囲を見回すが、誰もいない。

 だがその時、人形の整列した装飾の中、一体の人形が――翠の瞳を見開いた。

 ゾクリと背筋が震える。

 鋭い殺気を感じたマリアは、即座に前転してその場を離れる。

 直後、彼女がいた場所に大剣が突き刺さった。

 

「――っ?!」

 

 マリアが振り向くと、そこに居たのは緑色のドレスを着た女性。しかしその優雅な手には似つかわしく無い西洋の剣が握られている。

 

「纏うべきシンフォギアを持たぬお前に用はない」

 

 まるでフラメンコを踊るかのような小粋なステップを踏み。ドレスの女は、再びマリアへと剣を振るった。

 

「っ!――はあっ!」

 

 地面を抉るほどの一撃。しかし身を翻し剣を躱したマリアは、お返しとばかりに後頭部に蹴りを入れる。

 当たり方によっては、死んでもおかしく無い程綺麗に決まった一撃。しかしドレスの女は、ギョロリと目を動かし、首の力だけでマリアの体を浮き上がらせた。

 

「な、しまったっ!!?」

 

 重力に惹かれ落ちてくるマリアの下に、先程の剣が構えられる。

 しかしその剣がマリアの身を貫く事はない。

 それよりも早く、青い旋風が、彼女を救ったからだ。

 

「無事か、マリア!」

 

「――翼っ!?」

 

 素早くマリアを抱き抱えた翼は、剣を弾き華麗に着地する。

 

「ふふふっ。待ち焦がれていましたわ……」

 

「貴様は一体何者だっ!」

 

 翼は正眼の構えで目の前の存在を威嚇する。

 しかし翼の殺気を込めた構えにも、目の前の女性は、同じた様子もなく悠々としている。

 

「オートスコアラー……貴女の歌を聞きにきましたの」

 

 そう言い女性が振るう剣を、翼は自らの剣で応戦した。

 再び閃く剣。翼はそれを受け止め、剣戟が煌く劇場に、新たな戦いの幕が上がった――。

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 その頃、響たちが街で救助活動に奔走し、翼たちが未知の敵に対して奮戦していたその裏で――

 

 一人の少女が、燃え盛るマンションを見下ろしていた。

 

 辺りは赤く染まり、火の粉が夜空に舞い上がっている。人々の悲鳴、崩れ落ちる建材の音、焦げた木材の匂い。あらゆる“今”が目の前にあるというのに――彼女の瞳には、まるで異なる風景が映っていた。

 

 その視線の奥にあるのは、今とは違う時代。石畳が敷き詰められた中世風の街並み。古い教会の鐘が鳴り響き、灰色の煙が空を覆い尽くす。そこでは異形のローブをまとった人々が、青白い炎を掲げながら天を仰ぎ、祈りとも狂気ともつかぬ声で叫んでいた。

 

『パパ! パパっ!!』

 

 小さな少女の声が、炎の中に消えていく。

 手を伸ばす。届かない。必死に足を動かすが、何かが引きずるように地面を這い、前に進めない。

 

『穢れし悪魔を、聖なる炎が焼き払うだろう!』

 

 狂信的な叫びが、空へと舞い上がり、次第に青白い火に溶けていく。

 燃え上がる街の中心に、少女の父の姿があった。だがそのシルエットは遠く、炎の向こうでまるで影絵のように揺れていた。少女は泣き叫びながら父に手を伸ばすが、その手は届かないまま空を切る。

 

 そして――空に浮かび上がる、“それ”が姿を見せた。

 

 巨大な、黒き巨人。

 

 炎と狂気の只中に映るその影を、少女は決して忘れなかった。

 夜よりも、闇よりも、なお深い影で覆われたその巨体。漆黒の仮面、冷笑を湛えた瞳。人とは異なる“何か”が、彼女の存在そのものを見下ろしていた。

 

『あ……あぁ…………』

 

 少女の喉が凍る。

 全身の血が逆流しそうな悪寒。頭上から降り注ぐその“笑み”は、まるで地獄の淵から手招く魔王のようで――幼き少女はただ、声もなく立ち尽くすしかなかった。

 

『ひっ……』

 

 黒い巨人の手が、こちらに伸びる。

 重く、冷たく、逃れられぬ運命のようなその掌が、自分を包み込んだ瞬間――

 

 少女の意識は、そこでぷつりと断ち切れた。

 

(あーテステス、マスター……マスター?)

 

「……っ!」

 

 意識が現実に引き戻された。頭の中に直接響くような念話の声が、少女の思考を急速に現代へと連れ戻す。

 

「……ガリィか? 首尾はどうだ?」

 

(順調そのもの。歌女どもは、計画通りバラバラのポイントで馬鹿みたいに歌ってますよ)

 

「そうか……なら次だ“アレ”を使え」

 

(了解〜)

 

 ふざけたような返答に、キャロルは目を閉じたまま小さく吐息をつく。念話は切れたが、彼女の心は落ち着いてはいなかった。

 目の前で燃え盛るマンションの炎が、かつての故郷を思い出させる。

 けれど、あの頃と違うのは――彼女の目には、もう恐れはなかった。あるのはただ、激情と静かな怒り。

 燃え落ちていく街を、燃えるような眼差しで睨み据えながら、少女は静かに呟いた。

 

「消えてしまえばいい。こんな想い出……」

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

「あーあ。せっかく今日はお泊まりだと思ったのに〜」

 

 残念そうに肩を落とす弓美に、詩織が穏やかに応じた。

 

「立花さん達が頑張っているのに、私達が遊んでいるわけには行きませんから」

 

 家主であるクリスが出動し、残された未来達はそのままお開きとなる。ユウはマンションの入り口まで降りて、彼女達を見送っていた。

 

「今日は残念だったけど、また来てね! ぼく、美味しいご飯作って待ってるから!」

 

「あーん! やっぱりユーユー可愛い〜!」

 

「やっぱ美少年男の娘は天使だわぁ〜」

 

 笑顔で見送ってくれるユウの姿に、我慢できず頬をすり寄せる二人。しかしその背後から、ドス黒い殺気が突き刺さる。

 

「……ねぇ?」

 

((ビクゥッ!?))

 

 慌てて後ろを振り向くと笑顔の未来、しかしその背後のオーラは全く笑っていなかった。

 それを見た二人は、金縛りにあったように固まった後、ゆっくりと引き下がった。

 

「ふぅ……じゃあユウくん、私達はもう帰るけど、物騒だからちゃんと戸締りするんだよ?」

 

「はーい」

 

 しっかりと答えるユウの姿に、未来たちは満足げに頷き、マンションを後にした。

 

「……さてと、クリスお姉ちゃんのお夜食でも作ろうかな」

 

 未来達の姿を見送った後、クリスの部屋へと戻ろうと振り向いた瞬間。

 

『グヒャアアアアアアッ!!!』

 

 マンションの裏から、突如として響いた咆哮。

 ユウは反射的にマンションを回り込み声の方を見る。すると、遠く離れた場所に巨大な影が月に照らされていた。

 

「アレは、《ゲスラ》っ!? 何でいきなり?」

 

 ビルの向こうに立ち上がる、深緑の鱗を纏った異形の姿。魚と爬虫類を掛け合わせたようなその怪獣は、この三ヶ月で何度か観測され撃破した事のある怪獣だった。

 

「でも、どうしてゲスラがこんな街並みに……?」

 

 確かにゲスラに手足は生えている。しかしそれでも陸を好む生物ではなく、以前戦った時も海での戦闘だった。

 それにいつもなら、地響きや波動を伴って現れる怪獣が、今日は唐突に咆哮と共に出現した。明らかに、これまでの法則から逸脱している。

 

「――うん、そうだよね。考えるのは後、今はあの怪獣を止めないと!」

 

 ティグの紋章が淡く点滅する。

 疑問に思う事は多い。しかしあのビルの向こうで怪獣の被害に怯えている人が居る。

 そう思うとユウは、考えるよりも先に駆け出していた。

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 ゲスラの再出現――その報告は、即座にS.O.N.G.の司令部へと届いた。

 

「二人とも大変だ! 今、別の地点にゲスラが出現した!」

 

『なっ! どういう事だよ! んじゃこの騒ぎは怪獣の仕業じゃねぇってのか?!』

 

『場所は何処なんですか?!』

 

 響の問いに、友里が端末に指を走らせ、地図上に赤く表示されたゲスラの位置を読み上げた。

 

「……市街西端、第三管理区域! 現在、そちらに民間人の避難が集中している可能性があります!」

 

 その場所は今響やクリスのいるポイントとは真逆であり、最短で向かうにはヘリでの移動が必須である。

 

『そんな……まだこっちの避難も終わっていないのに……』

 

『だったらアタシがっ!』

 

「いや待てクリスくん。火の手はまだ広がっている。犯人……あるいは何らかの引き金を引いた存在は、この区域内に潜んでいるはずだ。そいつを逃すわけにはいかん」

 

『ならどうしたら……』

 

 数少ない戦力である翼はここには居ない。調や切歌を向かわせてもLiNKERの無い彼女達を行かせるなど、死んでこいと言うようなものだ。

 室内に沈黙が満ち、誰もが心の奥底で、己の無力を呪ったその時だった。

 

「っ!……司令、第三管理区域に、新たなエネルギー反応――!」

 

 藤尭が鋭くモニターを睨みつける。

 

「この反応……まさか……!」

 

 画面が切り替わると、闇の中に光が走った。そこに映し出されたのは、銀と紫と赤に彩られた巨人――光の巨人、ウルトラマンティガ。

 

「ウルトラマンです! ウルトラマンティガが現れました!!」

 

「……! 来てくれたか!」

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

『デュアッ!』

 

 ティガがゲスラの体に取り付く。

 ゲスラの体のトゲには毒が含まれており、本当なら触れるべきでは無いのだが、ティガは怪獣がこれ以上街を壊さないように押さえつける。

 やはりビジュアル通りその表面はヌルヌルしており、押さえる手が滑る。

 

『グヒャアッ!』

 

 強引に押さえられた怪獣は、引き剥がそうともがく。

 見た目以上に力が強くティガは振り払われ、近くのビルに叩きつけられる。

 ティガを引き剥がした怪獣は、そのまま街への進軍を再開した。

 

『デュアッ!』

 

 ティガは進行を止める為に頭部へと手刀を叩き込む。

 しかし――

 

『――アァッ!?』

 

 苦しんだのはティガの方だった。

 ティガだからこそ悶絶で住んでいるが、ゲスラの持つ毒は他の生物なら即死してもおかしく無い強力なものである。

 

『グヒャアアァッ!!!』

 

 痛みに腕を振っていると、怪獣のタックルがぶつかる。

 不意を突かれ、ティガの体は勢いよく押され、ビルを崩しながら倒れた。

 

『グヒャアッ!!』

 

 仰向けに倒れたティガへと、怪獣がのしかかる。

 自分よりも大きな六十メートルの巨大、そして全体重中を乗せたのしかかりに怪獣の猛毒の棘がティガの全身に突き刺さる。

 

『デュ……アァッ!』

 

 全身を蝕む毒に苦しそうな声を上げる。

 しかし彼らの戦いの経験の中では、この程度はピンチでも何でもなかった。

 

『ンーーハアァッ!』

 

 素早い動作で《パワータイプ》へとチェンジしたティガ。のしかかる毒の棘が、盛り上がった筋肉に弾かれる。

 そしてティガは両腕でゲスラの体を掴むと、力任せにその巨体を持ち上げた。

 

『グッ! ヒャア……アッ!』

 

 自身を持ち上げられて ゲスラが驚愕に震える間もなく、ティガは地面に向かって豪快に叩きつけた。

 起き上がったゲスラは再び渾身のタックルを試みる。

 しかしティガは仁王立ちで胸を張り、盛り上がった筋肉だけで突進とトゲを弾き返した。

 

『チャッ!』

 

 今度はティガの反撃だ。

 ゲスラの背鰭を豪快に掴む。そして光の力を右手に集中させると、渾身の手刀を背鰭の根本へと叩き込んだ。

 

『タアッ!』

 

 パワータイプの剛力によりゲスラの背鰭が勢いよく切り裂かれる。ゲソラの背鰭は、一番の武器であると同時に、一番の弱点でもあるのだ。

 

『グ……ヒャアァッ……!』

 

 背鰭を破壊されて見るみる力を弱めるゲスラ。

 ティガはそんなゲスラへと覆い被さるように両腕を回し、がっしりとボールドしバックブリーカーを決める。

 メキメキ……バキバキと、トゲと鱗を破壊する音がこだまする――そしてゲスラの体を、頭上へと持ち上げると、力任せに地面へと叩きつけた。

 

 《ウルトラヘッドクラッシャー》

 

 脳天への凄まじい衝撃に、ゲスラの巨体が一瞬跳ね上がる。なんとか立ち上がろうとするゲスラだったが、力が入らないのか膝をつく。

 そしてティガは、ゲスラの膝を足場に跳び上がると、強化された右足でトドメの一撃を放つ。

 

『デュアッ!!』

 

 パワータイプによるシャイニングウィザード。

 強力な膝蹴りを頭部に受けたゲスラの巨体が大きく揺れ、道路を数十メートル転がった後、動かなくなった。

 

 ――ゲスラ撃破。

 

『………………?』

 

 夜の街に静寂が戻る中、ティガは飛翔する。だがその視線はどこか険しい。

 倒した手応え、それは確かにあった。

 しかし、心のどこかに引っかかる“違和感”が、少年の胸に残っていた。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 変身を解いたユウは、先程ゲスラと戦った現場まで来ていた。

 コンクリートの崩れた街の真ん中にゲスラの遺体がある。ユウはその巨体へと近づき見回した。

 

「やっぱりそうだ……この怪獣、“命”を感じない」

 

 ティガとして戦った時から、確かに感じていた違和感。あの巨体が発する破壊の力も、猛毒の棘も、過去に戦ったゲスラと同じものだ。だが、決定的に違う。そこに「生の息吹」がなかった。

 

「まるで……張りぼてと戦ってるみたいな――」

 

「当然だ。それは“模造品”だからな」

 

「えっ……?」

 

 不意に響いた声にユウが辺りを見回す。

 その時、目の前のゲスラの亡骸が赤い光を放った後、まるで脆い陶器のように砕けて消え去った。

 空中に舞う赤い粉塵。その向こう、一本の街灯の上に立つ影があった。

 背丈よりも長いローブ、魔女を思わせるとんがり帽子、金糸のような長い髪は三つ編みに編まれ、月明かりの中できらきらと揺れている。その風貌はどこか幻想的で、少女とも、魔女とも形容しがたい存在だった。

 

「君は……?」

 

 思わず漏れるユウの問い。だが、その素直で無垢な声に、返されたのは刺すような殺意だった。

 まるで大気が裂けるかのような“圧”が、少女の周囲を歪ませる。空気が震え、冷たく、重く、鋭くなる。

 

「オレは、キャロル・マールス・ディーンハイム」

 

 少女は電柱の上でゆっくりと片手を上げ、ユウを指差した。

 

「――奇跡(おまえ)を殺しに来た」

 

 

 

 

 

 

 

  ☆






 ご愛読ありがとうございます。
 GX編の出来はまだ半分くらいなのですが、次回の投稿を望む声が多かったのでマイペースながら再開していこうと思います。
 応援の声やアンケートなどもモチベーションの上昇になっております。
 よろしければ、感想や評価なども励みになりますので是非お願いします。

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