シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり) 作:トライダー
☆
キャロルとオートスコアラーによる襲撃から、数日が経過した頃、傷の癒えた響たち、そしてロンドンから帰国した翼たちも合流し、《S.O.N.G.》本部の潜水艦には、再び装者たち全員の姿がそろっていた。
「シンフォギア装者勢ぞろい……とは言い難いかもしれないな……」
皆を見渡した後、弦十郎は重々しく呟いた。
その言葉を裏付けるように、彼の背後にあるモニターが切り替わり、三つのギアが映し出される。
「これは……?」
響が思わず声を漏らす。
映っていたのは、損傷を受けた《天羽々斬》《イチイバル》《ガングニール》のペンダント。その状態は、装者たちの顔をさらに曇らせるのに十分だった。
「破壊された天羽々斬とイチイバル、そしてガングニールです。コアとなる聖遺物の欠片は無事なのですが……エネルギーをプロテクターとして固着させる機能が、損なわれている状態です」
「セレナのギアと同じ……」
マリアは、セレナが持っていたシンフォギア、《アガートラーム》の半壊したペンダントを握りしめる。
フロンティア事変の時は、覚醒したアガートラームも、今は機能を失っており、ただの御守りとなっていた。
「もちろん直るんだよな?」
クリスの楽観的な声に、大人達の表情が沈む。
「櫻井理論が世界に開示されたことで、各国の異端技術研究所は飛躍に進行しているわ。それでも……」
「でも、マムなら何とか……!」
切歌が食い下がるように言ったが、それをナスターシャが静かに否定した。
「いいえ切歌。私には聖遺物の知識はあっても、ここまで大きく破損したシンフォギアを修復する技術はありません。それが出来るのは、シンフォギアシステム開発者であるフィーネのみでしょう……」
いかに《櫻井理論》が世界に開示され、異端技術の研究が進歩していようとも、肝心の「修復できる研究者」が不在であれば意味はない。
「つまりは、かなり不味い状況だ。三つのシンフォギアを失い、我々には奴らに対抗する手段が無いと言う事だ」
その言葉に嘘はなかった。響、翼、クリスという主力三名がギアを使用できない以上、戦力の空白は無視できない。
しかしその静けさを打ち破るように、二人の少女が声を上げた。
「そんなことないデスよ!」
「わたし達だって……」
切歌と調。三人がギアを失った今、唯一ノイズと戦える力を持つ装者ではあるが――
「ダメだ!」
鋭く響く弦十郎の声が、二人を押し留める。
「どうしてデスか!!?」
「LINKERで適合値の不足値を補わないシンフォギアの運用が、どれほど体の負荷になっているのか……二人に合わせて調整したLINKERがない以上、無理を強いることはできないわ……」
友里達は二人の戦闘データを見て答える。
それは先日、倒れたクリスを助ける為、LINKERを纏わずに戦った調と切歌の状態、シンフォギアのバックファイアがその小さな身体に、大きな負担をかけていた。
「どこまでもわたし達は、役に立たないお子様なのね……」
「メディカルチェックの結果が、思った以上によくないのは知っているデスよ。それでも……!」
戦うための力があるにも関わらず、それを使用する事が出来ない事に、二人は歯痒さを感じていた。
「そういえば……ユウの怪我は大丈夫なの?」
マリアの一言で、ふと話題が変わる。
そしてそのタイミングを計ったかのように、司令室の扉が音もなく開いた。
「お姉ちゃん!」
「ユウ! 怪我は大丈夫なの?!」
「うん、響お姉ちゃんが助けてくれたから何ともないよ!」
翼が素早く駆け寄り、心配そうにその頬を両手で挟む。マシュマロのように柔らかく潰れる頬が、彼女の胸に安堵を呼ぶ。
「そんな……わたしは何も……ごめんなさい、奏さん、マリアさん。二人から受け継いだガングニール、壊されちゃいました……」
「あーもう、響も落ち込むなっての。お前が戦ってくれなきゃ、ユウは助けられなかったんだからよ。それだけで十分だろ?」
「奏の言う通りよ、響」
唇を震わせながら、申し訳なさそうに視線を伏せる響の方を、元気つけるように奏とマリアが優しく叩いた
「戦えない私たちの代わりに、あなたが命を懸けてくれたのだもの。寧ろ――ありがとう。あの子を助けてくれて」
「奏さん……マリアさん……」
その言葉のひとつひとつが、優しく響の心に染み込んでいく。でも、まだ自分を赦しきれない響は、ぎゅっと拳を握りしめた。
そんな響の手に、そっと重なるように、小さな手が添えられた。
「ありがとう、響お姉ちゃん。……心配しなくても大丈夫だよ。お姉ちゃんの手は、いつだって誰かを助ける優しい手だよ!」
「うん、ありがとう、ユウくん」
人助けの力であるシンフォギアを、戦いの道具として使う事に迷いが生まれてしまっていたこと彼女だったが、目の前の存在を助ける事が出来たのは事実だ。
少年の太陽の様な暖かさを感じる様に、じっくり抱きしめる。
「……そう言えば、どうして今回ウルトラマンは助けてくれなかったんですかねぇ?」
「何言ってるのよ、ちゃんとゲスラを倒してくれたじゃない」
友里が少しムッとしたように答えるが、藤尭引かずに、首を傾げながら続けた。
「でもその後直ぐに、どこか行っちゃったじゃないですか。ウルトラマンが戦ってくれれば、あんな奴ら簡単に倒してくれただろうに」
確かに、今まで幾度となく自分たちを救ってくれた光の巨人――ウルトラマンは、今回に限って装者たちの危機に現れなかった。
「…………」
ユウは、皆の会話に加わろうとはせず、口を紡ぎ何も言わなかった。その違和感に気がついたのは、ナスターシャただ一人だった。
「その話は一旦置いておこう。今の我々の最大の問題は、“破損したシンフォギアをどう修復するか”、あるいは“ギアを用いずに奴らにどう立ち向かうか”、この二点だ」
「そう言えば叔父様」
現実的な問いに、装者たちの表情が引き締まった時、翼が静かに手を挙げる。
「先日保護したと言うエルフナインという少女。今は何処に? 先ずはその子から、敵や錬金術に関する情報を聞き出すのが最優先ではないでしょうか?」
「うむ。翼の言う通りだ」
弦十郎が頷き、手元の端末を操作する。
「あの子の身体検査と医療チェックは既に終わっている。今すぐ面会が可能だ。皆も同行するか?」
装者たち全員が顔を見合わせ、無言で頷いた。
不安と期待が交錯する中、皆の目は自然と新たな情報源へと向けられていた。
「あ、ぼくも――」
「坊や」
ユウが響たちの後を追おうとした時、ナスターシャの静かな声が響く。
「……少し、お話があります。いいですか?」
「え? うん……」
ユウは立ち止まり、素直にナスターシャの元へと戻っていった。
☆
「さぁ、入ってください」
「うん、お邪魔しまーす」
ナスターシャの案内で、ユウは潜水艦内にある彼女のプライベートラボへと足を踏み入れた。
無機質な機材が整然と並ぶその空間は、彼女の知識と経験が凝縮された静謐な場所だった。
ユウが促されるままに椅子へと腰掛けると、ナスターシャは端末を操作し、部屋のロックと防音装置を起動させた。
「これで外部に音声が漏れる心配はありません」
「ありがとう、マムさん」
ユウは素直に頷きながらも、その瞳に静かな緊張を湛えていた。ナスターシャは車椅子をユウの正面に移動させると、表情を崩さずに切り出した。
「さて、先日現れた少女――キャロルと言いましたね。彼女は、まるで貴方を狙っていたように見えました。一体、何があったのです?」
前置きを捨て本題に入る。
彼女が聞きたかったのは、キャロルが先日ユウの前に現れ、彼を襲った事件の事だった。
シンフォギア破壊という大きな事件の騒動で衝撃が薄れ、ユウはあくまで巻き込まれただけと判断された。しかし彼の正体を知るナスターシャだけは、キャロルの目的が彼自身であると察していた。
「うん、実はね――」
ユウはあの日の出来事をゆっくりと語り出した。
突如現れたゲスラを倒した直後、キャロルと名乗る少女が現れ、自分を狙って攻撃を仕掛けてきたこと。そして、彼女が何度も言っていた言葉――
「“巨人を殺す”って、言ってたんだ」
「なるほど……やはり彼女たちの狙いは、貴方自身ではなくウルトラマンティガなのですね」
ナスターシャは考え込むように顎に手を添える。
確かに、ただの少年であるユウが狙われる理由など本来あるはずがない。だが、彼の内に眠る光の巨人を知っていれば話は別だ。
「しかし……それなら、何故あなたは変身しなかったのですか? あの場において、力を使えばキャロルを退けることもできたはずでしょう?」
藤尭じゃないが、彼女もウルトラマンの力ならキャロルを退けるなど簡単だと思っていた。
しかしユウは自らの命の危機にも関わらず、ウルトラマンの力を使わずにいた。
「ウルトラマンは、人間の選択に干渉しちゃダメなんだ。人間が起こした問題は、人間が、自分で解決しなきゃ……。じゃないと、ティガの力をただの“便利な道具”にしちゃう」
「……だから、貴方はギリギリまでティガになろうとしないのね」
人類の手に負えない“怪獣”と違い、キャロルやフィーネ、ウェル博士といった敵は、間違いなく“人間”が引き起こした争いである。
ユウは友であるティガの力を、そんな人間同士の争いに巻き込む便利な道具にしたくなかった。
「ギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張って、それでもどうにもならなかった時――少しだけ力を貸してくれる。ティガの力って、そういうものだと思うんだ」
「……そうね。きっと、貴方の父――大吾も同じ思いだったのでしょうね。だから月から帰還した彼は、ウルトラマンの存在を隠蔽した。……貴方と同じように」
ナスターシャは、そっと目を細めた。
星乃大吾――かつて月でカレと出会った選ばれし者。彼もまた、人類に過ぎたその力の在り方を恐れ、あえて存在を隠すという選択をしたのだろう。
「貴方の気持ちは分かりました……でも坊や、私はこう思うのです。貴方なら、その力を正しい方向に使ってくれると信じてます。だから、貴方が“自分の意志”で決めたことなら……もっと思うままに、その力を使っても、いいんじゃないかしら?」
ナスターシャの言葉を噛み締めながら、ユウはティグの紋章を握りしめた。
「ぼくの……意思……」
☆
S.O.N.Gの潜水艦の一室、弦十郎と装者たちは保護したエルフナインからキャロルに関する情報を聞き出していた。
「ボクは、キャロルに命じられるまま巨大装置の一部の建造に携わっていました。ある時、アクセスしたデータベースよりキャロルの目論見を知り、阻止するために逃げ出してきたのです」
「アイツの目論見ってのは、一体何なんだよ?」
苦い顔で呟くクリスに、エルフナインは真剣な面持ちで頷く。
「キャロルの目的は、世界の分解、そして“奇跡の巨人の抹殺”です」
「奇跡の巨人って……ウルトラマンさん? それを殺すって事?!」
「世界をバラバラにってのも、穏やかじゃないな……」
響とクリスの言葉にエルフナインが頷く。
「それを可能とするのが錬金術です。ノイズのレシピを元に作られたアルカ・ノイズを見ればわかるように、シンフォギアをはじめとする万物を分解する力は既にあり、その力を世界規模に拡大するのが建造途中の巨大装置、《チフォージュ・シャトー》になります」
エルフナインの言葉に、翼とクリスは自分達を襲った新型のノイズの力を思い出す。
なんの抵抗も出来ず、一瞬にして万物を分解してしまうあの力、それらが世界へと放たれたら起きる被害は想像をしたくもない。
「それらを使い奇跡の巨人ウルトラマンティガを破壊、世界を分解するのがキャロルの目的です。ボクの頭の中にインストールされたのは、最低限の錬金知識と装置の建造に必要な、情報のみですのでこれ以上の事は……」
「インストールと言ったわね?」
マリアが口を開くと、エルフナインは頷き、さらに説明を重ねる。
「必要な情報を、知識として脳に転送・複写することです。残念ながら、ボクにインストールされた知識に計画の詳細はありません……でも……それでも、ボクはキャロルを止めたいんです!」
「何故、そこまで……?」
「分かりません……でも計画の目的が巨人を殺す事だと知った瞬間。何故だかボクの中に、“止めなきゃ”って想いが強く出てきたんです」
その想いが、どこから来たものなのかは、誰にも分からない。けれどその瞳には、確かな決意が宿っていた。
「だからお願いです、力を貸して下さい! そのためにボクは、ドヴェルグ=ダインの遺産を持ってここまで来たのです!」
「ドヴェルグ=ダインの遺産……?」
弦十郎の言葉に応じるように、エルフナインは膝の上に乗せていた小箱の蓋を慎重に開けると、中から一振りの刃の欠片が姿を現した。
「アルカ・ノイズに……錬金術師キャロルの力に対抗しうる聖遺物。《魔剣・ダインスレイフ》の欠片です」
ルーン文字が刻まれたその刃は、まるで何かを見透かすように、妖しく輝いていた。
☆
エルフナインとの面会を終えた一同は、再び司令室へと戻ってきていた。
モニターに映る地図の光が室内を淡く照らす中、弦十郎が全員を見回しながら問いかけた。
「さて、皆はどう思う?」
その言葉に、沈黙が落ちる。弦十郎が意見を求めるということは、彼自身も判断に迷いがある証拠だった。
「正直言って怪しすぎんだろ?」
最初に声を上げたのはクリスだった。
「でも、クリス先輩を助けてくれたんデスよね?」
「そ、そうなんだよなぁ……」
こう言った事には、先ず一番に警戒心を強くするクリスだが、一番最初に助けてもらったのも自分であるため、それ以上何も言えない。
クリスが頭を掻き言い淀んでいると、マリアが静かに口を開き、気持ちを代弁する。
「でも、それも含めて作戦だったとも考えられるわ。話に聞いた限りだと、タイミングが良すぎるもの」
「おいおい、仲間の恩人に、そういう言い方は無いんじゃないのか?」
「私は可能性の話をしてるだけよ、奏」
マッチポンプを疑うマリアの言葉に、反応した奏が咎める。
「わたしは、あの子が嘘をついてるとは思えないけどなぁ……」
「でも、慎重にならなきゃ駄目……」
いつものお人好しですぐに信じようとする響と、それでも冷静に対処しようとする調。
「マリアや月読のいう事も確かだ。しかし、私達には他に手段が無いのも事実」
天羽々斬、イチイバル、そしてガングニール――三つのシンフォギアが失われた今、彼女たちには明らかに力が足りていない。どんな危険を孕んでいようとも、エルフナインの持つ《ダインスレイフ》の情報と協力を無下にする余裕など、彼女たちには残されていなかった。
「司令、エルフナインちゃんの検査結果が出ました。念のために彼女の……ええ、彼女のメディカルチェックを行ったところ……」
「身体面や健康に異常はなく、またインプラントや高催眠といった怪しいところは見られなかったのですが……」
藤尭と友里の口調は、どことなく歯切れが悪かった。
「ですが?」
「彼女……エルフナインちゃんには性別がなく、本人曰く、自分はただのホムンクルスであり、決して怪しくはないと……」
「「「「「あ、怪しすぎる(デース)……」」」」」
そう言われても、エルフナインの情報は不自然すぎるため、装者たちは思わずそう呟いた。
彼女達が議論に足踏みをしていると、司令室の扉が開き、ナスターシャが姿を見せた。
「皆さん、彼女との話はいかがでしたか?」
「ああ、ナスターシャ教授。実は貴女に見てもらいたい物がある」
弦十郎は言うが早いか、自身の手元に置いてあったUSBメモリを彼女へと差し出した。
「これは?」
「エルフナインくんが、企画してくれた作戦。《プロジェクト・イグナイト》のデータだ」
弦十郎達は、ナスターシャにエルフナインとの会話の内容を話す。奇跡の巨人の抹殺――その事実を知った彼女は、キャロルに反旗を翻した。そして信用の証として託されたのが、このデータである。
「彼女は、“信用出来ないなら破棄してもらっても構わない”と言っていた」
「でも私達では、データを見ても分からない事だらけだわ。だからマムの知恵を貸して欲しいの」
「マリアくんの言う通りだ。このデータが信用に足るかどうかを、聖遺物研究者である貴女に判断して貰いたい」
弦十郎の頼みに、ナスターシャは一瞬だけ目を細め、深く頷いた。
「……分かりました。その任、お受けいたしましょう」
ナスターシャがUSBメモリを受け取ると、ふと翼が辺りを見渡す。仲間たちの顔が揃っている中で、ただ一人、そこにいない少年の姿に気がついた。
「そう言えば、ナスターシャ教授。ユウは何処に行ったのですか?」
「あら? あの子なら貴女たちと一緒に話を聞きに行くと言ってましたが、合わなかったのですか?」
彼女の問いにナスターシャは首を傾げながら答える。すると調とクリスは、ユウがエルフナインという少女に興味を持っていた事を思い出した。
「まさか、ユウ、あのエルフナインって子の所に居るんじゃ……」
「何だと?! まだアイツが味方かどうか分かってねぇのに」
焦燥感を滲ませるクリスに、弦十郎はすぐさま対応を指示した。
「友里、直ぐにエルフナインくんの部屋の映像を出してくれ」
「はい、分かりました!」
友里が端末を操作すると、司令室の大型モニターに部屋の様子が映し出される。そこには、現在の屋主であるエルフナインと、彼女の対面に座るユウの姿があった。
「えへへ! こんにちは!」
司令室の大画面に映し出されたユウは、皆の心配とは裏腹に満面の笑顔だった。その無邪気さに、画面越しでさえ柔らかな温もりを感じさせる。
「こ、こんにちは……?」
対するエルフナインは、戸惑いがちに声を返す。まだ信用を得ていない自分に、まさか真っ先にこんな子供が会いに来るとは思っていなかったのだろう。
「ぼく、星乃結って言うんだ。君は?」
「ぼ、ボクは、エルフナインです……」
「綺麗な名前だね! ねぇ、エルちゃんって呼んでもいい?」
「え、えぇ! い、良いですけどぉ……」
あまりにも自然で早い距離の詰め方に、エルフナインの目が丸くなる。
赤く染まった頬が、戸惑いと照れを隠しきれていない。
「えへへ〜! そう言えば、エルちゃんって男の子なの? 女の子なの?」
言葉の棘など一切感じさせない純粋な疑問。エルフナインは、少しだけ目を逸らしながら答えた。
「ええと……ボクはホムンクルスなので、確かな性別は無いんですよ」
「そうなんだ〜。すっごくかわいいから、女の子かと思っちゃった!」
「え、えぇっ!!?」
頬だけでなくエルフナインの顔が全体が一気に真っ赤になった。身体ごと硬直して、背中がびくんと跳ねる。モニターの向こうで見守っている面々は、「お前が言うな」と心の奥で呟いていた。
「あ、ありがとうございます……。その、星乃さんも、可愛いらしいですよ」
「ありがと! ん〜でも、可愛いよりは、カッコいいって言って貰いたいかなぁ〜。ぼく、男の子だし」
「え、えええぇっ!!!?」
次の瞬間、エルフナインは文字通り椅子から跳ね上がった。椅子がキィと軋むほどの勢いで背をのけぞらせる。
その姿を見て、ユウは可愛らしく頬を膨らませて、むっとする。
「むー! そんなに驚かなくても……」
「……ぷっ! あははっ!」
初めてこぼれたエルフナインの笑顔。それはまるで、固まった氷が溶けるような自然な変化だった。
「ねぇエルちゃん。良かったら、ぼくと友達になってくれる?」
「で、でも……まだボクは、皆さんの信用を得られていませんし……」
「えー! そんなの関係ないよ。ぼくがエルちゃんと友達になりたいから、言ってるんだよ?」
立場だとか、弦十郎達がどうだとかは関係ない。
ユウ自身が彼女を気に入ったから、友人の誘いをしているのだ。
「エルちゃんは、クリスお姉ちゃんを助けてくれたでしょ? それにティガを助ける為に、自分の身を危険にしながらここまで来てくれたんだもん。だったらきっと良い子だよ! ぼく、そんな良い人と友達になりたいんだ」
その瞳は、曇り一つない澄んだ紫。
少年が差し出す右手は、小さくて、温かそうで、優しかった。
「だめ……?」
「う――」
その一言に、エルフナインは小さく息を飲む。
やがて――
「よ、よろしくお願いします……」
全く逸らされない、宝石のような瞳に、エルフナインは顔を逸らしながら彼の手を握った。
「わーい! ぼく、ホムンクルスさんの友達って初めてだから嬉しい、わーいっ!」
エルフナインの手を握りながら嬉しそうに飛び跳ねる。美しいポニーテールが、まるで尻尾のように跳ねた。
「ふふふっ!」
その光景に、エルフナインもふと微笑んだ。
人工の命と、無垢な少年。
S.O.N.Gの小さな一室に、確かな絆の芽生えが灯った。
「ふっ……」
弦十郎は静かにモニターの映像を消した。
もう彼女達を監視する必要はないと判断したのだろう。
「ナスターシャ教授。データの解析を急いでもらえるか?」
「ええ、直ぐにでも」
もう彼らは、エルフナインを疑ってはいないだろう。だからこそその疑いを晴らす為、データの解析を急ぐのだった。
☆