シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第四十話  Edge Works

  ☆

 

 

 

 

 数日後のS.O.N.G本部。

 司令室には全員が集められていた。皆の視線の中央で車椅子に座るナスターシャが、落ち着いた声で告げる。

 

「データの解析が終了しました」

 

 解析されたのは、エルフナインが持参した《プロジェクト・イグナイト》のデータ。それが信頼に足るものであるかどうか。装者達も、弦十郎も、固唾を呑んで次の言葉を待った。

 

「結果はどうだった?」

 

「解析の結果、信用に足るものと判断します」

 

 弦十郎の問いに、ナスターシャは頷いて答える。

 その瞬間、「おおっ!」と安堵と歓喜が混ざった声が司令室に響き合う。

 

「よし、ならこの《プロジェクト・イグナイト》を本格的に進めていくとしよう。よろしく頼むぞ、エルフナインくん」

 

「エルフナインさん、私にも手伝わせてください。貴方の持つ錬金術の知識を、私に教えてください。基礎さえ教えて貰えれば、後は独自の解釈で何とかします」

 

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 弦十郎とナスターシャの力強い言葉に、エルフナインはわずかに驚いたように目を見開き、すぐに深く頭を下げた。責任者である二人からのお願い、彼女が正式に仲間として認められた証拠であった。

 

「良かったね、エルちゃん!」

 

 側にいたユウが、エルフナインの手をぎゅっと握りながら無邪気に喜んだ。

 

「は、はい!」

 

 頬を少し紅潮させながらも、エルフナインは嬉しそうに微笑み返す。互いに見つめ合い、子供のような純粋さを共有するその姿は、思わず見守りたくなるような微笑ましさに満ちていた。

 

 だが――

 

 その様子を見つめる装者たちは、どこか不満げな視線を交わし合っていた。

 

「「「「「むむむむむ〜〜!」」」」」

 

 響、クリス、翼、切歌、調が、同時に唸るような声を漏らす。

 

「むー! 最近のユウくん、エルフナインちゃんとばっかり一緒にいるよね?」

 

 響の言う通り、最近のユウは、何かにつけてエルフナインの傍にいる時間が多くなっていた。これまで自分たちが独占していた存在が、別の誰かに夢中になっている。そんな現状に、彼女たちは内心穏やかではいられなかった。

 

「ま、まさかユウって、ああ言う奴が好みなのか?」

 

「い、いやいや! 新しい友達が出来て喜んでいるだけだ! うん、きっとそうだっ!」

 

 自分に言い聞かせるように、翼が力強く頷く。だが、額には薄っすらと汗が滲んでいる。

 

「そ、そうデスよ! そもそも、あの子には性別が無いんですから!」

 

「でも、その割には距離が近いような……それに、ユウも性別不明みたいなものだし……」

 

 切歌が勢いよく声を上げる。だが、それにすかさず調が冷静に突っ込んだ。

 

「いや、ユウは確かに男の子よ……。少しは落ち着きなさい、貴女達」

 

 年長者であるマリアが静かに口を開いた。落ち着いた口調ではあったが、その胸中が穏やかでないのは、彼女も同じであった。

 

 

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 

 

 これは、大昔の記憶。

 とある一軒家には木でできたテーブル、そこには試験管やフラスコが置いてあり、壁は石造り、辺りにはあらゆる化学式が描かれている。

 この家で、幼き頃のキャロルは分厚い本を読んでいた。

 

「うわあああ!!?」

 

 突如響いた爆発音と、男の人の悲鳴。びくりと肩を跳ねさせて本を落としたキャロルは、目をぱちぱちと瞬かせながら声を上げた。

 

「パパ?」

 

 音のした方から現れたのは、顔も白衣も黒く煤けた中年の男――彼女の父、イザークだった。

 爆発の跡がまるで漫画のように顔中に広がり、眉毛まで焦げている。

 

「……爆発したぞぉ?」

 

 ぽつりとつぶやく父の姿に、キャロルは堪えきれず吹き出した。

 

「……うふふふふっ!」

 

 笑いが止まらず、本を胸に抱えてころころと笑い続ける。イザークは恥ずかしそうに後頭部をかきながらも、娘の笑顔に心から安堵していた。

 

 夕食時。二人はいつもの木のテーブルを囲んでいた。

 けれどそこに並べられた皿には、真っ黒に焦げた肉のようなものが鎮座し、傍らには固そうなパンと、具のないスープだけ。

 

「はむ……んむっ!!?」

 

 苦笑いを浮かべるイザークの前で、キャロルは意を決してナイフを取り上げ、その焦げた塊を小さく切って口に運ぶ。

 

「う、うまいか……?」

 

「苦いし臭いしおいしくないし、0点としか言いようがないし!」

 

 真正直な感想が飛び出し、イザークは天を仰いで深いため息をつく。

 

「はぁ……料理も錬金術も、レシピ通りにすれば間違いないはずなんだけどなぁ……。どうしてママみたいにできないのか……」

 

 ぽつりと呟いた言葉に、キャロルの目が細められた。

 やがて、彼女は椅子から立ち上がり、誇らしげに胸を張って宣言した。

 

「明日は私が作る! その方が絶対おいしいに決まってる!」

 

「コツでもあるのか?」

 

「内緒! 秘密はパパが解き明かして、錬金術師なんでしょ?」

 

 悪戯っぽく笑う娘に、イザークもつられて笑みを返す。

 

「あははは……この命題は難題だ」

 

「問題が解けるまで、私がパパの料理を作ってあげる!」

 

 皿の中の黒焦げの肉を見つめながら、二人はささやかな誓いを交わした。

 夕食も一段落し、スープの残りを口に運びながら、キャロルはふと口を開いた。

 

「そう言えばパパ。最近研究で忙しそうだよね? また新しい錬金術でも思いついたの?」

 

 その問いに、向かいの椅子に座るイザークが、少し考えるように眉を上げて笑った。

 

「いや……パパは今、人間の“想いの力”って言うのを研究しているんだ」

 

「想い?」

 

 キャロルは小さく首を傾げた後、ふと幼い頃に聞いた言葉を思い出す。

 

「……想い出ってこと?」

 

 かつて父に教わった、“記憶”を糧に変えるという理論。だが、イザークはその問いに優しく笑って、首を横に振った。

 

「似てるけど違うよ。希望、優しさ、勇気、愛……そういった“明るい心”が生み出す、“光”のような力のことさ。燃料でも物質でもない、内から溢れる、心のエネルギーだよ」

 

「……ぷふふっ、なにそれ」

 

 キャロルは吹き出しそうになったのをこらえ、口元を押さえる。

 

「あははっ! パパ、真面目な顔して変なこと言うんだもん! そんなものに力なんてあるわけないでしょ。錬金術の基本は四大元素よ? 火、水、風、土。そこに“光”なんて項目、どの文献にも載ってないもん!」

 

 けらけらと笑う娘の様子に、イザークは肩をすくめ、にこやかに返す。

 

「それでもね、パパは信じてる。辛い日があっても、キャロルのことを思うと不思議と元気が出てくる。悲しみも痛みも、全部軽くなる気がするんだ」

 

 そう言いながら、彼は手にしたスプーンで静かにスープをすくい口に運ぶ。

 

「……それが、きっと“想い”の力だと思うんだ。人の内側から自然に湧いてくる、理屈じゃ説明できない力。無限に広がる可能性……人間には、それがあると思うんだ」

 

 キャロルは、腕を組んでじっと父の言葉を聞いていたが、やがて溜め息をつくようにスプーンを置いた。

 そして、にこりと笑って――

 

「子どもみたいな夢を持つのもいいけど、ちゃんと家のことも忘れないでよね? 洗濯、昨日も失敗したでしょ」

 

「あ、あはは……それは……その……面目ない……」

 

 ばつの悪そうに頭を掻くイザークの様子に、キャロルはあきれたように肩をすくめながらも、どこか満足げだった。

 父は、時に失敗し、時に理屈を超えた夢を語る。けれど彼の中には、いつでも自分への温かい想いがある。

 それを、キャロルは知っていた。

 彼女の思い出の中には、錬金術の研究、焦げた食事、突拍子もない話――それでも確かな「幸せ」があった。

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

「今のは、夢……? 数百年を経たキャロルの記憶……」

 

 目を覚ましたエルフナインは、夢の中で感じた温もりが、今も心の奥で脈打っているのを感じる。

 自分ではない誰かの記憶、それは間違いなくキャロルのものだった。そして目を覚ました彼女の頭には、もう一つの“感触”が残っていた。

 ――ふかふかとした、温かな感触。そして、優しく撫でられる頭。

 

「よしよし……良い子、良い子〜」

 

 その穏やかな声に驚き、エルフナインはがばっと身体を起こした。

 

「ほ、星乃さんっ??!」

 

 そこにいたのは、満面の笑顔を浮かべるユウだった。どうやら彼の膝の上に、自分の頭を預けていたようである。

 

「あ、エルちゃん、起きたんだ!」

 

「ぼ、ボク……いつの間に……」

 

「様子を見に来たら、エルちゃん机に突っ伏して寝ちゃってるんだもん、体に良くないからこうやって休んで貰ったんだ!」

 

 そう言ってにこにこと笑うユウの笑顔は、まるで太陽のように暖かかった

 

「そ、それは良いんですけどぉ……何故膝枕を……?」

 

「だって、エルちゃん、お姉ちゃんたちのためにすごく頑張ってくれてるからさ。少しでも気持ちよく休んでほしくって。良くなかった?」

 

 不安そうに首を傾げるユウだったが、翼達お墨付きの彼の膝枕&撫で撫では、ホムンクルスにも有効だったらしく、不思議と体の軽さを感じていた。

 

「い、いえ! とても寝つきが良かったです……はい」

 

「えへへ! “良い夢”見れて良かったね!」

 

 ユウは得意げに笑い、エルフナインもつられて、照れくさそうに微笑んだ。

 ふと時計を見たエルフナインは、十分ほど眠っていたことに気づく。

 

「寝落ちしてましたか……でもその分頭は冴えたはず。ギアの改修を急がないと……」

 

 エルフナインは再び起き上がって、《プロジェクト・イグナイト》の為、ギアの改修作業を再開させる。その途中、エルフナインは自分の中にあるキャロルの思い出――その中の父の最後の姿を思い出していた。

 

『キャロル。生きるんだ……生きてもっと世界を知るんだ』

 

 炎に焼かれる街の真ん中で、その身を焦がす父の姿。そして街をまるでゴミのように見下ろす“巨大な影”。

 その記憶は彼女のコピーでもあるエルフナインにも流れていた。

 

(でも、どうしてキャロルは錬金術だけでなく、自分の記憶までボクに転送複写したのだろう……? ボクにも自分と同じように、復讐に呑まれて欲しかったのだろうか?)

 

 悲しいだけの過去、復讐に燃える怒りの過去。

 しかしエルフナインの心の中には悲しみはあっても怒りは無かった。

 

(でも……ボクの中には、巨人への“怒り”はない。寧ろ彼女の復讐を“止めたい”って想いが強い。キャロルは復讐心は写さなかったのでしょうか? それとも、これはキャロルのメッセージ……?)

 

 エルフナインが考えを巡らせていると、ユウは彼女の前に置かれた箱の何に入った刃物のようなものに目をつけた。

 それは彼女が持ってきた《ダインスレイフ》の欠片だった。

 

「これが、ダインスレイフか……ねぇ、触ってみても良い?」

 

「はい、触れた程度では、人体に影響はありませんので」

 

 エルフナインに許可を貰ったユウは、その欠片を手のひらに乗せる。少年の手のひらに乗る程度の小さな欠片であるが、ユウはその欠片から禍々しい魔力のようなものを感じ取っていた。

 

「何だか、禍々しい力を感じるね……」

 

「ダインスレイフは魔剣と恐れられた聖遺物ですから。ですがその呪いに打ち勝った時、皆さんに大きな力が与えられる筈です」

 

「呪いかぁ……やっぱりそれって難しいの?」

 

「それは……分かりません。皆さんの心の強さ次第としか……」

 

「“心の強さ”か……じゃあ、ぼくも少しお手伝いしようかな?」

 

「えっ?」

 

 ユウは両の手のひらで抱えたダインスレイフの表面を優しくそっと撫でると、まるで水を飲むようかのように口元へと近づけていく。

 

「お姉ちゃん達を助けてあげてね……チュッ」

 

 そして禍々しいオーラを放つ魔剣へと、優しく口付けをする。呪いを上回るお(まじな)いを受けたその瞬間、禍々しいオーラ放っていた筈の魔剣が、暖かい光を点滅させたように見えた。

 

「…………」

 

「ん? エルちゃん、どうしたの?」

 

「い、いえ!? な、何でも無いですよっ?!!」

 

 まるで神話の世界の天使のような姿を、ボーと見つめていたエルフナインは、慌てて作業を再開しようとしたその時――重々しいアラートが基地全体に響き渡った。

 

 

 

 

   ☆

 

 

 

 潜水艦ブリッジには、けたたましい警報音が鳴り響いていた。緊張した空気の中、オペレーターたちは次々と端末を操作し、状況の把握に全力を注いでいる。

 

「アルカ・ノイズの反応を検知! 座標、絞り込みます!」

 

 焦るような声が飛び交う中、突如として艦体が大きく揺れた。振動と共に、甲高い爆発音が響き、モニターの映像が一瞬乱れる。

 

「爆発音……!? どこだっ!?」

 

「モニター確認、アルカ・ノイズの出現地点は……この艦が補給を受けている、ドックの発電所区域です!」

 

「まさか……奴らの狙いは、発電施設そのものか……!」

 

 映像の切り替わった発電所は、既に戦場と化していた。異形のアルカ・ノイズたち――人型、イモムシ型、パイプオルガン型といったバラエティに富んだ錬金生物たちが、機械設備を片端から分解し、炎と黒煙を撒き散らしていた。

 

 弦十郎達の元に、装者たちが駆け込んできた。響、クリス、翼、奏、マリア、切歌、調、未来。全員が顔を強張らせながら、モニターを睨みつける。

 

「何が起きてるデスか!!?」

 

「アルカ・ノイズに、このドックの発電所が襲われてるの!」

 

 友里が叫びながら、別のモニターを操作する。その画面に映し出されたのは、都内の他の発電施設――そこでも同様の破壊が行われ、煙と瓦礫が画面を覆っていた。

 

「ここだけではありません! 都内複数個所にて、同様の被害を確認! 各地の電力供給率、大幅に低下しています!」

 

「今本部への電力供給が断たれると、ギアの改修への影響は免れない!」

 

 翼の声に、皆が息を呑んだ。エルフナインが進めていた《プロジェクト・イグナイト》。錬金術に対抗する唯一の光が、その完成目前にして暗転しようとしていた。

 映像の中、自衛隊が必死に応戦している姿が映る。銃火器が火を吹き、次々とアルカ・ノイズを撃ち抜いていく。

 

『新型ノイズの位相差障壁は従来ほどではないとのことだ! 解剖器官を避けて集中斉射!』

 

 自衛隊は兵装を用いて、アルカ・ノイズへと一斉射撃を行っている。ライフルやバズーカの弾は、アルカ・ノイズに直撃し、確かにダメージを与えられている。

 アルカ・ノイズは“分解”の力を強める為に、本来のノイズに存在する位相差障壁が弱まっているのだ。

 

『いけそうです――ぐわああッ!!』

 

 確かに、攻撃は効いている。弾丸が命中すれば、アルカ・ノイズは弾け飛ぶ。だがそれでも、全体の数には到底及ばず、次々と人員が“分解”されていく。

 

「くっ! 数が多すぎる! これじゃどのみち持たねぇぞ!」

 

 クリスが歯を食いしばる。戦う力があるはずの装者たちは、ギアを失い、ただ見ていることしかできなかった。

 

「切ちゃん、切ちゃん……!」

 

「え、調っ!?」

 

 唐突に手を取られた切歌は、戸惑いながらも調に引かれ、司令室を飛び出していった。目の前の光景に気を取られていた響達は、その違和感に気が付いていない。

 二人は無言のまま潜水艦内の廊下を駆ける。

 

「ど、どこに行くつもりデスか!?」

 

「……時間稼ぎ」

 

 調の声はいつになく静かだったが、その目には揺るぎのない決意がみられる。やがて二人が辿り着いたのは、メディカルルームの奥、厳重にロックされた薬剤保管庫。

 

「メディカルルーム? こんなところでギア改修までの時間稼ぎデスか?」

 

「そんな訳ない。わたし達の目的は、コレ」

 

 調は素早くロックを解除し、ひとつのケースを取り出す。そこに記されていたのは――

 

「“model_K”…! 奏さんが使っていたっていう、旧型のLiNKERじゃないデスか!」

 

「うん。前に翼さんと奏さんが話してるの、聞いちゃって……ここにあるって知ってた」

 

 切歌は手にしたバイアルを見つめる。その中には緑色の薬液が揺れていた。

 model_Kは、今まで使用して来たLiNKERと比べて身体への負担が大きい。これを使えば、ギアが使えるが、その代償は身体を蝕む可能性を孕む。

 

「今戦えるのはわたし達だけ。わたしは、皆んなを助けたい……切ちゃんはどう?」

 

「……言われるまでもないデスっ!」

 

 調が差し出したバイアルを、切歌は躊躇いなく手に取った。親友が戦うなら、自分も戦う。それだけの覚悟は、もうとっくにできていた。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 発電所の近く、空を切り裂くような轟音とともに爆発が起きた。火柱が幾つか吹き上がり、煙が空を覆い尽くす。

 前線に立っていた自衛隊の兵士たちは次々と撤退を開始していた。アルカ・ノイズの数とその攻撃の苛烈さに、もはや発電所は無防備の状態となりつつあった。

 そんな戦場に調と切歌が並んで立つ。

 

「行くデス!」

 

「うん!」

 

 互いにうなずき合い、迷いのない手でLiNKER《model_K》のアンプルを撃ち込む。激しい痛みが身体を駆け抜けるが、顔を歪める暇もない。

 二人は聖遺物のペンダントを握り締めると、その胸の奥に響く旋律に応じて、声を合わせた。

 

「Various shul shagana tron――!」

 

「Zeios igalima raizen tron――!」

 

 次の瞬間、光が身体を包み、二人の身に装着されるシンフォギアが顕現する。三ヶ月という月日を経て進化したギアは、かつてよりも戦闘的なシルエットに変化していた。

 

「やああああっ!」

 

 《α式 百輪廻》

 

 調のツインテールに装備されたアームドギアから、小型の鋸が一斉に放たれ、地を這うアルカ・ノイズの群れを次々と切り裂いていく。無数の回転刃が金属音を響かせながら宙を舞い、敵を縫うように駆け抜けた。

 その背後からは、切歌の姿が飛び込んでくる。

 

 《切・呪リeッTぉ》

 

 彼女の大鎌からは緑の三枚刃が放たれ、弧を描いて飛翔。一瞬のうちに三方向のアルカ・ノイズを斬り裂き、爆ぜるように消滅させた。

 

「後ろっ!」

 

 調は着地と同時に、アームドギアを巨大な円鋸へと変形。その刃を旋回させながら、突撃してきたノイズの群れを裁断していく。

 

「そこデスっ!」

 

 切歌も調の側面を護るように一閃を放ち、ノイズの群れを斬り伏せる。

 ――刃と刃が交差し、二人は背中合わせに立った。

 

「悪くないデスッ!」

 

「うんっ」

 

 短い言葉。けれどそこには、数え切れないほどの時間共にしてきた絆と信頼があった。

 二人は再び頷き合うと、轟音の中で吼えるアルカ・ノイズの群れへと駆け出していく。

 燃え上がる発電所、その最前線に、彼女たちの小さな背中が躍動する。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

「シュルシャガナとイガリマ交戦を始めました!」

 

 司令室に緊張が走る。藤尭の報告に、ブリッジ内の空気がさらに張り詰めた。次の瞬間、弦十郎の怒号が響き渡る。

 

「お前たち! 何をやっているのか分かっているのか!」

 

『もちろんデスとも!』

 

『今のうちに、強化型シンフォギアの完成をお願いします!』

 

 切歌と調は躊躇わず即答する。

 無断出撃。それは決して許されることではない。上官の命令を無視し、勝手な行動を取れば、処罰は免れない。しかし、それでも彼女たちは出撃した。誰かを守るため。皆の未来を繋ぐため。その心が、少女たちの足を前へと動かしていた。

 

「だから、ここを通す訳にはいかない!」

 

 調の叫びが、通信を通して全員の胸に届く。

 切歌と調は、ギアの力を最大限に引き出して戦場を駆け抜ける。アルカ・ノイズの異形の体が周囲を埋め尽くす中、二人は決してひるまず、連携と研ぎ澄まされた技で敵を蹴散らしていった。

 

 調は、ヘッドギアから展開されたヨーヨー型のアームドギアを振るい、まるで軌道を読ませぬ彗星のように放つ。それは次々と敵の中枢を貫き、赤い煙のような分解痕を空中に刻む。

 

「強くなりたい……! 皆んなに守られるわたしじゃなくて、皆んなを守れるわたしになるためにッ!!」

 

 調の心から絞り出す叫びが、力となって刃となって敵を打ち砕く。

 一方切歌は空中を駆け、鎌を大きく振るって解剖器官の弾を放つアルカ・ノイズを斬り払う。

 

「当たらなければぁ!!」

 

 弾道を読み、空気の流れすら味方につけるように滑空し、すれ違いざまに鎌を振るう。その斬撃は、距離を取っていたはずの敵すら逃さない。

 そして、調はアルカ・ノイズの密集する戦域に突入する。

 

 《艶殺 Δアクセル》

 

 彼女が回転するたび、スカート状のパーツが鋼鉄の刃と化し、周囲のアルカ・ノイズを纏めて切り裂いていく。回転の中心から広がる円形の衝撃波が、まるで花びらのように敵を散らしていく。

 四散した敵の残骸が空に漂う中、調は氷の上を滑るように、流麗に着地した。その姿はまるで氷上のプリマ――戦場に舞い降りた歌う妖精のようだった。

 

「シュルシャガナとイガリマ、装者二人のバイタル安定……? ギアからのバックファイアを低く抑えられています!」

 

 友里の報告に、皆がざわめく。モニターに映し出された二人の心拍、血中成分、神経伝達の数値――どれもが安定しており、通常運用時のような負荷が見られなかった。

 

「いったいどういうことなんだ!!?」

 

 クリスが思わず声を上げる。そのとき、ふと何かに気付いた緒川が目を細めた。

 

「さっきの警報……そういうことでしたか……」

 

 その言葉に弦十郎もまた察しがついたらしく、重々しく頷く。

 

「ああ……あいつら、メディカルルームからLiNKERを持ち出しやがった……」

 

「まさか、model_Kを!」

 

 思わず声を漏らす翼。その名を口にするだけで、当時の苦い記憶が甦る。

 

「アイツら……無茶しやがって!」

 

 奏が悔しげに拳を握りしめる。かつて自分が使っていたLiNKER、それがぞれだけ体に苦痛を与えるかは、その身が良く知っていた。

 

『ギアの改修が終わるまで!』

 

『発電所は守ってみせるデス!』

 

 調と切歌の二人は、アルカ・ノイズの赤き血霞の中を、まるで舞踏のように駆け抜けていった。

 例えアルカ・ノイズとは言え、能力さえ知っていれば遅れを取ることはない。

 そう、奴さえ現れなければ――

 

『そぉ〜りゃあぁッ!』

 

 奇妙な声が空間を裂いた、その瞬間。

 アルカ・ノイズを切り伏せた切歌の背後に、重く鈍い殺意が飛び込んでくる。彼女は咄嗟に振り返り、その攻撃を受け止める――だが、もう片方の腕に握られた鈍器の一撃を完全には防ぎきれなかった。

 

『くうっ……!?』

 

 衝撃に耐えきれず、切歌の身体は後方へ弾き飛ばされ、助けに入った調も巻き込まれて、二人して近くのコンクリートの建造物へと叩きつけられた。

 

『『うああああああああああっ!?』』

 

 土煙が上がり、地響きが広がる。

 

「調! 切歌!」

 

「新手か!?」

 

 モニターに映る敵の姿――それは赤い結晶状の武器を手に、ピエロのようにクルクルと踊る小柄な存在だった。ロール状の赤髪、無邪気に歪んだ笑み。熊手のような両手。切歌や調と体格こそ近いが、明らかに人ではない。

 

「あれは……!」

 

 響の瞳が強く揺れる。それは、あの日、自分のガングニールを破壊した張本人――ミカ・ジャウカーン、戦闘特化型にして最強のオートスコアラーである。

 

『ジャリンコども~。ワタシは強いゾ!』

 

 その無邪気な声に、背筋を凍らせるような殺気が滲んだ。ミカは余裕たっぷりに言い放ちながら、土煙の向こうに立ち上がってくる調と切歌に視線を向ける。

 

『子供だと馬鹿にして……!』

 

『目にもの見せてやるデスよ!』

 

 二人は呼吸を整えると同時に、懐から緑色の薬液――LiNKERの注射器を取り出す。しかもそれは一度使ったはずの《model_K》。明らかに身体への限界を越える投与量だ。

 司令室の面々が一斉に息を呑む。

 

「更にLiNKERを!?」

 

「止めろ二人とも! それ以上は――!」

 

 未来が、そして奏が、思わず叫んだ。ギアの適合値は高まるだろう。だが、その代償として彼女たちの身体が――命が、耐えきれず砕け散ってしまうかもしれない。

 

「二人を連れ戻せ!これ以上は――!」

 

「やらせてあげてください!」

 

 弦十郎が指示を出そうとした時、マリアの声がブリッジに響き渡った。

 

「マリアさん!?」

 

「これは……あの日、道に迷った臆病者たちの償いでもあるんです」

 

「臆病者……?」

 

「……誰かを信じる勇気が無かったばかりに、迷ったまま独奏した私達」

 

 マリアは拳を握りしめ、静かに言葉を紡いだ。

 

「だから、エルフナインがシンフォギアを蘇らせてくれると信じて戦うこと。それこそが、私達の償いなんです!」

 

「お前ッ! それであいつらに何かあったら――ッ!?」

 

 気づけば、クリスはマリアの胸ぐらを掴み上げていた。だがマリアの唇が、わずかに血で濡れているのに気がついた。

 それでも彼女は、声を荒げない。反抗もしない。悔しさを噛み殺し、涙をこらえ、耐えていた。

 

 ――自分が戦えないから。

 

 ――自分が、守れないから。

 

 その無力さを誰よりも痛感している彼女は、戦う者たちを信じる以外の術を持たなかった。

 クリスは拳を強く震わせる。

 

「……ああ、クソッ……!」

 

 マリアの胸ぐらから手を離し、悔しさに顔を歪めながら、再びモニターの向こうを見つめ直す。

 

『ありがとうデス、マリア……』

 

 通信越しに届いた切歌の声は、かすかに震えていた。それは恐怖ではない。覚悟を決めた者の決意と、託された想いの重さを受け止めた者の声だった。

 その声を聞き、ブリッジの全員がモニターに視線を戻す。

 戦場では、調と切歌が向かい合い、静かに頷き合っていた。そして――

 

『二人でなら……』

 

『怖くないデス!』

 

 二人は互いの首筋に、緑色の薬液の満たされたシリンダーを押し当てた。カチリ――小さな作動音と共に、《model_K》が彼女たちの体内へと注入される。

 次の瞬間、耐えがたい熱が身体を駆け巡る。

 全身の血管が焼けるような激痛。鼻を押さえると、掌には鮮やかな赤が滲んでいた。

 それでも、彼女たちの瞳は揺るがない。

 

『過剰投与オーバードーズ……』

 

『鼻血がなんぼのもんかデス!』

 

『行こう切ちゃん。一緒に!』

 

『切り刻むデス!』

 

 ミカ・ジャウカーンへと向き直る二人。今まで高みの見物を決め込んでいたミカの表情が、少しだけ興奮に染まった。

 

「――来るノカ?」

 

 切歌は両肩のアーマーを展開し、二振りの鎌を取り出す。それを背中合わせに合体させ、三日月の刃が交差する異形の大鎌を形成した。

 

 《対鎌・螺Pぅn痛ェる》

 

 続いて調は、ツインテールのギアから、轟音を上げて回転する大型の鋸刃を二枚展開。殺意に似た威圧感を放ち、その場の空気を裂いた。

 

『オォッ! 面白くしてくれるノカ~!?』

 

 二人の得物の殺意の高さに狂気を孕んだ笑みを浮かべ、ミカは手にした赤いカーボンロッドを数本、砲弾のように投擲してきた。

 

『行くデスッ!』

 

 切歌が先陣を切り、巨大な鎌で飛来するロッドを弾き飛ばす。その際に間合いを詰め、横一文字の斬撃、それをミカは受け止めようと構える。

 しかし斬撃の威力は予想を上回り、ミカの身体が数歩後退する。

 

『今デス、調っ!』

 

 調が即座に回転鋸を投擲。ギアから放たれる刃が、音速で振動しながらミカへと迫る。

 ミカは手にしたロッドで応戦し、回転刃を弾く。しかしその刹那、調はさらにギアを車輪状に変形させて突進。

 

《非常Σ式・禁月輪》

 

 回転する鉄の塊がミカの武器を破壊し、火花が飛び散る。

 

「更なる適合係数の上昇で、ギアの出力も上がっています!」

 

「二人のユニゾンが数値以上の効果を発揮しています!」

 

 藤尭と友里の分析が示すように、《シュルシャガナ》と《イガリマ》は、同じ起源を持つギア。二つのギアが共鳴し、重なり合うことで、単体以上の出力を引き出していた。

 

「だが、この輝きは時限式だ」

 

 二人は立ち止まらない。

 切歌が斬撃を放ち、ミカの注意を引く。その瞬間、調が後方から突撃し、合体したヨーヨー刃を一気に振り下ろす。

 

 《β式 巨円断》

 

 ミカは即座に掌から炎の障壁を展開し、それを防ぐ。

 だが、それは囮。

 調と切歌はすでに空中で手を取り合い、回転しながら跳躍していた。

 

『『ハァァァァァァァァァッ!!』』

 

 鋸と鎌――それぞれの脚部アーマーから出現した巨大武装が、一点を貫くように同時に蹴り込まれた。

 その威力は、ミカの障壁に亀裂を生じさせ、ついに強力な一撃を与えようとした――

 

『――ドッカーン!!』

 

 だがその時、球体状に展開していたミカの障壁が膨張し、内側から炎が溢れ出す。

 ――自爆。

 爆心地に近い調と切歌が吹き飛ばされ、爆風は周囲の施設を巻き込みながら破壊のドームを作り出す。

 衝撃は遠く潜水艦のブリッジにまで届き、S.O.N.Gの面々は何かにしがみつくようにしてその場に留まった。

 

「調ちゃん! 切歌ちゃん!!」

 

 爆炎が去った直後、響の張り裂けんばかりの悲痛な声が上がった。

 映像の乱れを必死に調整する藤尭と友里。数秒後、再び映像が繋がり――そこに映ったのは、真っ黒に焦げ、地に伏せた調と切歌の姿。

 

「くっ……!」

 

 弦十郎が拳を握り締める。誰もが息を呑んだその瞬間、モニターの奥、爆心地の向こうに――無傷のミカ・ジャウカーンが、涼しげな笑みで立っていた。

 

『そんな……これでも届かないの? これじゃあ……何も変わらない、変えられない……』

 

『こんなに頑張っているのに……どうしてデスか!!? こんなの嫌デスよ……変わりたいデス……!』

 

 限界を超えた戦い、命を削ってなお思い知らされる力の差。ミカの余裕と無傷の姿が、まざまざと自分たちの“弱さ”を突きつけてくる。

 

『まぁまぁだったゾ? でもそろそろ遊びは終わりだゾォ?』

 

 ミカは口角を吊り上げると、ツインロールの髪から炎をブースターのように吹かし、凄まじい速度で切歌の懐へと急接近する。

 

『っ!?』

 

 反応しようとした刹那、ミカの左腕に装着されたカーボンロッドが唸りを上げて放たれた。

 

『ばいなら~!』

 

 無慈悲な一撃が切歌のギアコンバーターに直撃。

 鋼鉄のような装甲は一瞬で砕け散り、制御不能に陥った切歌のギアは解除された。

 

『切ちゃん!!』

 

 調の叫びは、破裂した胸から迸るような声だった。

 誰もが凍り付いた。その一撃は、響がやられたときと同じ。それが意味するのは、命の危機。

 

「切歌……!」

 

 ブリッジの装者たちが声を上げる。映像の向こう、調はまるで地獄を見ているかのような表情で、倒れた親友へと駆け寄ろうとする。

 だがその進路を、ミカが放ったカーボンロッドの砲弾が遮った。

 

『余所見してると、後ろから狙い撃ちだゾ?』

 

『――邪魔をしないで!』

 

 調は涙に濡れた瞳でミカを睨みつけた。

 彼女のギアが唸りを上げる。ツインテール状の装備から、四本の回転鋸が展開された。

 

『仲良し小好しで、オマエのギアも壊してやるゾォ~!』

 

『……うっ。しら、べ……?』

 

『切ちゃん!……良かった』

 

『調……早く、逃げるデス……』

 

『逃がさないゾォ~』

 

 ミカがニタリと笑うと、まるでキャンディを抱えるかのように、両手いっぱいに持ったアルカ・ノイズ召喚用ジェムを撒き散らした。

 

『マスターから好きにしていいって言われたし、コイツらでたっぷり可愛がってやるゾォ!』

 

 ジェムが地に落ち、赤い魔法陣が地面に刻まれる。

 次の瞬間、無数のアルカ・ノイズが地中から競り上がってくる。

 

「こ、こんな数……!」

 

 未来が思わず口元を押さえる。

 切歌の体は動かず、調一人では到底どうにもならない。弦十郎達から撤退の指示が即座に下されたが――

 

『切ちゃんを置いて逃げるなんて、できない! わたしの命は、切ちゃんに救われた命だもの! だったら……切ちゃんを救う為に、全部使うんだ!!』

 

 叫びと共に、調のギアが光を帯びる。回転鋸は唸りを上げ、軌道を描いてノイズをなぎ払った。

 

『始まるゾ~! バラバラ解体ショー!!』

 

 ミカが合図を送るように叫んだ瞬間、地獄が始まった。

 群がるアルカ・ノイズたち。怒涛のごとく襲い掛かる分解の怪物たちに、調はただ一人、全身をギアで武装しながら飛び込んでいく。

 力を持たない響達には、ただ叫ぶしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 

 S.O.N.G潜水艦の甲板に、ひとりの少年の姿があった。

 その視線の先には、黒煙が立ち上る発電所の方向。遠くて姿は見えなくても、そこに調と切歌がいるのだと、彼には分かっていた。

 

「調お姉ちゃん……切歌お姉ちゃん……」

 

 ユウは胸元から下げた《ティグの紋章》をぎゅっと握りしめた。時折遠雷のように響く爆発音が、戦いの激しさを物語る。

 

(このままじゃお姉ちゃん達が……でも……)

 

 大好きなお姉ちゃんたちを助けたい。その気持ちは何よりも強かったが、それは自分個人の願い。

 そんな自分の欲望に果たしてティガの力を使って良い事なのか、彼の心は揺れていた。

 

(ぼく自身に、もっと力があれば……)

 

 ユウは自身の体を見下ろす。

 短い手足、低い背丈、自分の幼く無力な肉体が恨めしく思う。

 

『ユウ、迷っているのですか?』

 

 その時不意に頭の中に女性の声が響いた。

 振り返ると、そこには透き通るような光の輪郭を持った存在が立っていた。

 

「ユザレ……さん?」

 

『はい。久しぶりですね、ユウ』

 

 かつて遺跡で出会った超古代の巫女、ユザレ。

 彼女が再びユウの前に現れたのは、あれ以来数ヶ月ぶりのことだった。

 

『ユウは、あの子たちを助けたいのですね?』

 

「うん……でも、ぼくには力が無いから……ぼく自身の力で何とかしたいのに。ぼくが、もっと大人だったら……」

 

 ユウは小さな拳を握りしめ、見つめる。迷いながらも、その小さな胸に宿る想いは誰よりも、まっすぐだった。

 そんな彼の姿にユザレはそっと微笑み頷いた。

 

『確かに貴方の言う通り、巨人は……ウルトラマンは人類の選択に干渉しません。何故ならカレは“光”だから。――でも、貴方は違う」

 

「え……?」

 

『貴方は“光”であり、“人”でもある。選択するのは、貴方自身なのです』

 

「ぼくの、選択……」

 

『はい。心配しなくても、それはもう貴方の力です。貴方が信じる意志と優しさで、その力を使って良いのですよ』

 

 まえにナスターシャにも同じような事を言われたのを思い出す。

 ユウは、二人声を頭の中で響かせながら、拳に握ったペンダントを見つめる。その中には、かつて父が託してくれた想いがこもっていた。

 

『それにユウ、前に貴方はカレを友達だと言ってくれましたよね?』

 

「うん……」

 

『なら、貴方がカレを助けたいと思っているように、カレもまた貴方を助けたいと思っている筈です』

 

 “友達とは、困ってる時互いに手を伸ばし合う存在”

 それはかつてユウが父から聞かされ、ユザレに話した事だった。

 

『貴方が望むのなら……カレは、きっと強く応えてくれます』

 

「そうなのティガ? ぼくの大好きな人達を守る為に、力を貸してくれる? ぼくの我が儘を、聞いてくれる?」

 

 少年の言葉に答えるように、拳の中のティグの紋章が淡い光を発した。そして《スパークレンス》へと変化すると、その光を点滅させる。

 

『ユウ、貴方はそのままで良いのです。その強く純粋な“想い”こそが、貴方の一番の武器なのですから』

 

「……ありがとう」

 

 ユウは手元のスパークレンスへとそっとキスを落とすと、それを自分の胸の前へと掲げた。

 刹那光が弾け、少年の身体は、無数の輝く粒子となって舞い散る。赤、銀、紫の三色の粒子が、DNAのように交差し、人型の輪郭を作り出す。

 胸の中心でスパークレンスが変形し、鋼のプロテクターとなって胸に収まった瞬間――

 

 ひとすじの光が、流星の如く空を裂いて飛翔した。

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 調は迫り来るアルカ・ノイズを、まさに命を削るような動きで伐り刻み続けていた。だが、いくら刃を振るっても異形の群れはまるで尽きない。

 装着していた回転鋸が、解剖器官による一撃を受けて粉々に砕け散る。左手にヨーヨー鋸を握りしめ、なんとか応戦しようとするも、ギアの損傷が戦闘能力を急速に削っていく。

 

「誰か、助けて欲しいデス……」

 

 切歌は必死に身体を起こそうとしていた。だが身体は重く動かない。ただ祈るように、指先を伸ばし、目の前の現実を否定するように叫んだ。

 視線の先。アルカ・ノイズの攻撃でコンバーターを破壊され、遂にギアを破壊された調が、壁際へと吹き飛ばされた。

 今まさに獣たちの鋭い魔手に追い込まれている。

 

「すぐに壊しちゃダメだゾ。……虫みたいに手足を一本一本千切ってから殺るんだゾ!」

 

 ミカの残酷な命令が響く。アルカ・ノイズたちは従順に、無機質な顔で調の周囲を包囲し、死の刃を掲げた。

 

「あたしの、大好きな調を……」

 

 切歌の心からの叫びは、音にならない震えとなって漏れ出した。血の味がするほど唇を噛み、涙が滲む視界の中、親友の姿がかき消されようとしていた。

 

「誰かぁぁぁあああっ!!」

 

 その瞬間だった。

 空気を裂いて、一条の光が走った。

 煌めく流星が、まるで地上に突き刺さるかのように、調とノイズの間に落下した。

 

「…………え?」

 

 地面を割り、轟音が響き、舞い上がる爆風と土煙。アルカ・ノイズたちも咄嗟に後退し、ミカでさえも思わず動きを止めた。

 

「な、なんなんだゾッ!?」

 

 轟々と立ち上る煙の中、映える二つの瞳が光を宿す。

 次第に土埃が収まっていく中に、赤、銀、紫の三色に包まれた、堂々たる人影が現れた。

 その姿を誰もが知っていた。

 

「ウルトラマン……ティガ……?」

 

 目を開けた調が虚ろに呟く。だが、そこに立っていたのは巨人ではなかった。

 それは人間と同じサイズで立つ、“光の巨人”の姿だった。

 

「ち、小ちゃなウルトラマンなのデスぅッ!!?」

 

 叫ぶ切歌の声に、誰もが目を疑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ☆






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