シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第四十一話 小さな巨人

  ☆

 

 

 

 

「う、ウルトラマンっ?!」

 

 モニターに映ったその姿を見た瞬間、S.O.N.G.本部の空気が凍りつき、全員が一斉に声を上げる。

 

「いや、小さい……いや、普通にデカいんだけど……」

 

 調と切歌の命が奪われようとしたその時、それを遮るように流星の如く降りて来たウルトラマンティガ。

 しかしその大きさは、我々のよく知るものではなく、大柄な成人男性サイズ程度の等身大のものだった。

 

『…………』

 

「う、ウルトラマン……?」

 

 言葉はなく、静かに歩む。

 ティガはゆっくりと調の側へと歩み寄ると、苦しげに倒れていた彼女の身体をそっと抱き上げた。

 

(暖かい……まるで、“あの子”と一緒にいる時みたいな不思議な感じ……)

 

 意識の薄れかけた調の瞳に、ぼんやりと柔らかな光が映る。ティガの腕の中の温もりは、どこかで感じたことがあるような、そんな不思議な安心感に包まれていた。

 ティガはアルカ・ノイズとミカに背を向けたまま、静かに切歌の倒れる場所へと向かう。

 その姿に、モニター越しの翼やクリス、未来たちは息を呑む。

 

「い、戦場で背中を向けてるなんて……!」

 

「まずいぞ……! アルカ・ノイズが……!」

 

 あまりにも隙だらけなティガの姿に、ミカが得意げに笑う。

 

「ひひっ! そっちがその気なら……まとめてバラバラにしてやるゾッ!」

 

 ミカの号令と共に、パイプオルガン型のアルカ・ノイズが隊列を組み、強烈な砲撃を開始した。

 放たれたのは分解能力を持つ赤黒い砲弾。数十、数百と集中して放たれる光弾が、ティガの背中へと収束する。

 

「調ぇっ!!?」

 

 そして、無数の爆発がティガの背後を包んだ。辺り一帯が赤黒い煙と閃光に包まれる。

 

「アハハハハハッ! 終わったナ! あの小ちゃな巨人、もう塵になってるゾ!!」

 

 ミカが高らかに嘲笑を上げた。

 ――だが。

 

「ナッ……!?」

 

 煙の向こう。爆発の中心にいたはずの場所から、赤と紫の輪郭が、何事もなかった様に立っていた。

 ――ティガは、無傷だった。

 それどころか、カレの背に守られていた調にも、微塵の損傷も見られない。

 

『…………』

 

「――うっ!」

 

 無言のまま、ティガがゆっくりと振り返った。

 その仮面の様な顔つきの奥に表情はない。けれど、その瞳の奥に宿る強い意志と迫力にミカがたじろいだ。

 

「調っ! 大丈夫デスかっ!?」

 

「うん……カレが、ティガが助けてくれたから……」

 

 切歌が駆け寄る。痛む体を引きずりながら、それでもその腕は震えずに調をしっかりと抱きしめた。

 そんな二人の側でティガは膝をつくと、手のひらをそっと翳した。

 

「……え? 傷がっ!?」

 

「治っていく……!」

 

 ティガの掌から溢れた淡い金色の光。ティガの持つ《治癒能力》が二人の身体を癒していく。

 三十秒と経たず、二人の傷が完全に回復したのを見届けると、ティガは静かに立ち上がる。

 そして今度は敵――アルカ・ノイズとミカへと向き直り拳と手刀を構えた。

 

『――デュアッ!』

 

 力強く放たれた咆哮のような掛け声。その刹那、辺りにいたアルカ・ノイズたちが一斉に反応する。低いうなり声を上げながら、異形の群れがティガに殺到した。

 ティガは無言のまま、腰を低く落とす。

 地面を蹴り上げた瞬間、足元のコンクリートが爆ぜ、小さなクレーターを発生させながら、次の瞬間にはノイズ達の目の前にいた。

 

『デュアッ!!』

 

 拳を突き出す。怪獣をも殴り飛ばすその腕力に、直撃を受けた人型ノイズが飴細工のように歪み砕ける。

 一体を倒すのを皮切りに、辺りのノイズへと追撃を仕掛けていく。

 

『チャァ! タァッ!!』

 

 拳、蹴り、手刀、《マルチタイプ》の無駄の無い動きに、ノイズ達は瞬く間に砕けて行き、赤い粒子の霧が空を舞う。

 後続であるイモムシ型のノイズが体を丸め、車輪のように回転しながら突進してくる。

 だがティガはそれを片手で受け止めた。

 

『ハーーーータァッ!』

 

 そしてその重量を利用して反転、遠心力を纏わせて別の群れに向けて投げつけた。

 轟音と爆風。弾丸のように飛ばされたノイズが、仲間を巻き込みながら破裂を引き起こす。赤黒い閃光と金属質な悲鳴が交錯する中、ティガの周囲に次々と敵が集まってくる。

 

『ッ!?』

 

 ティガの周りを取り囲んだ人型ノイズが、無数のムチ状の解剖器官を振るい、カレの全身を縛るように絡みつけた後、四方からパイプオルガン型の砲撃の雨が降り注ぐ。

 

「ティガっ!?」

 

 調が叫ぶ。それは分解能力をも備えた致命の連撃。

 だが、ティガの肉体は、それらの攻撃を拒絶した。

 まるで装甲のような皮膚が、砲撃を弾く盾のようにそれらを受け止め、怒涛の攻撃の中ティガの瞳が閃いた。

 右腕に力を込め、ムチを鷲掴みにすると何十体ものノイズを、掴んだ解剖器官ごと力任せに叩きつけた。

 地面が揺れ、衝撃波が爆風となって辺りを薙ぎ払う。

 純粋な腕力でムチを引きちぎった後、ティガは跳躍し、右手から光弾を放った。

 

 《ハンドスラッシュ》

 

 ティガの放った光弾は、空中で幾つにも分裂し蜘蛛の巣のように広がると、複数のノイズの体を次々と貫いていった。

 

「わたし達が苦労したアルカ・ノイズを……」

 

「あっさり倒してしまったデス……」

 

 調と切歌は呆然とした表情で、戦場に立つ小さな巨人を見つめていた。まるで嘘のように、アルカ・ノイズの群れはティガの手によって瞬く間に殲滅される。

 等身大のその姿であっても、カレは間違いなく“光の巨人”なのだ。

 

『……ッ!』

 

 最後のノイズを撃破した後、ティガの背後へと飛んで来た赤い結晶体、ミカが放ったカーボンロッド。

 ティガは振り向くことなく、それを片腕で弾き落とす。衝撃と火花が散り、地面に突き刺さったロッドが震えながら崩れ去った。

 

「いいゾ、いいゾッ! お前すっごく面白そうだゾッ!!」

 

 最強のオートスコアラーであるが故に、強敵に飢えていたミカは、嬉しそうに手をワキワキと動かしながらティガへと突っ込んだ。

 ミカは両手のひらをティガへと向けると、赤いカーボンロッドをまるでマシンガンの様に連射する。

 響や切歌のギアをも破壊する硬度の一撃。

 しかしティガはそれを一つ一つ、手刀で的確に打ち砕く。風を裂く音とともに、ロッドの残骸が四方に飛び散る中、ティガは一歩も退かず前へと進む。

 

「そりゃあァッ!」

 

 ミカが両手にロッドを生成し、棍棒のように振り下ろす。だが、その一撃はティガの両手により難なく受け止められた。

 

「ヌぅっ?」

 

 自分の力に絶対の自信があったミカが、一瞬何が起きたのか分からず首を傾げた瞬間、ティガの右脚が腹部に突き刺さるように叩き込まれた。

 小さな身体が弾丸のように吹き飛び、コンクリートの壁に激突し、亀裂と土煙が広がる。

 

「くっ、やってくれたナッ!」

 

 怒りに燃えた声と共に、ミカは両手を広げて再び立ち上がる。その手のひらから迸るのは、灼熱の火球。

 それは、調と切歌を吹き飛ばした炎を更に数倍大きくしたもの。

 ティガを焦がすための破壊の火球が音を割って真っ直ぐに向かう。

 だが、ティガは微動だにせず、片手をゆっくりと翳した。

 その瞬間、火球が空中で“止まった”。

 

「……ナッ?!」

 

 ミカが絶句する。信じられない光景だった。自分の最大出力の火球が、片手であっさりと受け止められたからだ。

 

『チャッ!』

 

 ティガが軽く右手を押し出す。

 そして次の瞬間、止まった火球が、元来た方向へと押し返された。

 

「ッ――!?」

 

 ミカは慌てて防御態勢を取る。正面にバリアを張るが、それでも自分の渾身の火球の質量と爆発の余波を押さえきれない。彼女の小さな身体は再び後方へ吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

 

 

 

「すごい……あの赤いオートスコアラーを、圧倒してる」

 

 響は、目の前の映像に息を飲んでいた。かつて自分のギアを破壊したオートスコアラー。その最強と謳われる自動人形を、ティガはまるで子供扱いしていた。

 その姿に、改めてウルトラマンの力の大きさを感じていた。

 

「皆さん、お待たせしましたっ!」

 

 そしてその時、ブリッジの扉が開かれ、エルフナインとナスターシャが姿を見せた。二人の顔には疲労が色濃く滲んでいたが、その手には確かな成果が握られていた。

 聖遺物のペンダントが三つ。その形は完全に修復され、ギアとしての力を取り戻していた。

 

「出来たのかエルフナインっ!」

 

 真っ先に駆け寄ったのは翼、彼女に続いてクリスと響が傍に並ぶ。

 

「はい……時間が掛かってしまってすみません。ですが、三つとも無事に改修を終えました。これで……キャロルを止めてくださいっ!」

 

「任せろ! コイツがあれば、百人力だっ!」

 

「ありがとう、エルフナインちゃん! 行ってくるね!」

 

 深く頭を下げるエルフナインの姿に、響はにっこりと笑い、彼女の肩に軽く手を置いた。

 三人の装者が戦場へと駆け出していく後ろ姿を、エルフナインはただ静かに見送ると、未来たちの隣に並ぶ。

 再びモニターには、ティガとミカの激しい交戦が映し出されていた。ミカの攻撃を真正面から受け止め、それを上回るティガの姿に、エルフナインは目を見開く。

 

「あれが……ティガの巨人……」

 

 キャロルから与えられた知識。

 それによれば、この“巨人”は、決して人類を破滅へと誘う存在だとされていた。

 だがエルフナインはそうは思わない。

 

(……違う。やっぱりボクには、あの巨人がそんな存在には見えない……)

 

 炎の中で仲間を救い、苦しむ者に手を差し伸べる存在。その姿は、少なくともあの夢で見た、“黒い巨人”とは重なって見えなかった。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「……ガッ……くそっ! よくもやってくれたナッ!」

 

 身体にかかった瓦礫を押し除けながらミカが立ち上がり、自分へと構えるティガを睨みつける。

 隙を感じさせない無駄のない構え。その姿がよりミカの怒りを誘う。

 

「苦戦しているようね、ミカ」

 

 怒りのまま突っ込もうとしたその時、場の緊張を裂くように、別の声が風に乗って響いた。

 

「っ!? 別のオートスコアラー!?」

 

 声の方を向くと、電光灯を足場に、風のオートスコアラー――ファラが、身の丈の西洋剣を携え、静かに立っていた。

 

「ファラ! 邪魔するんじゃないゾ! アイツはアタシの獲物だゾッ!」

 

「強がっちゃって〜。そのミカちゃん一人じゃ相手にならないから、あたしらが呼ばれたんでしょうが!」

 

「マスターからの命だ。派手にやって来いとの事だ」

 

 余計な助太刀に来た同胞にミカが叫ぶが、その反対方向から、軽やかな足音と共に二体の人形が姿を現す。

 水のオートスコアラー――ガリィ。

 そして土のオートスコアラー――レイアだった。

 

「オートスコアラーが、四体……?!」

 

 切歌と調は戦慄した。

 一体ですら自分達を苦しめた戦闘人形達が、今この場に全員揃っているのだ。二人は、何十体ものノイズに囲まれる以上の殺気を感じ取っていた。

 

「巨人の排除は計画の最優先事項。戦力の温存など考えず、全力で排除せよとのお達よ」

 

 ファラの言葉は冷ややかだった。四体のオートスコアラーが並び立ち、そのすべてがティガ一人を倒す為に武器を構え戦闘体制をとった。

 向かってくる殺気にティガは警戒を強める。

 そして次の瞬間、四体の影が一斉に跳んだ。赤、青、緑、黄――四色の疾風が、ティガという名の小さな巨人を中心に取り囲む。

 

「「ハアァッ!!」」

 

 交差する風と土の斬撃。

 西洋剣を構えたファラと、黄色いトンファーを振り抜くレイアが、左右からティガに襲いかかる。

 二体ともミカほどのスペックはないが、連携と手数においては抜群だった。

 ティガは身をひねり、ファラの剣とレイアのトンファーを手刀で弾き返し捌いていく。

 

『……チャッ!』

 

 二体のコンビネーションに対し、ティガは跳躍し包囲から脱出する。しかしその空中にも罠が張られていた。

 

「そらァッ!」

 

 ガリィが氷をまとった右腕を突き出し、槍のように鋭く伸ばしてくるのを、左手でがっしりと受け止める。

 だが次の瞬間、頭上から声が響いた。

 

「はい、ドーーンッ!!!」

 

 ミカが構えたカーボンロッドを、まるでハンマーのように叩きつける。ティガはその衝撃を右腕で防御するが、空中から叩き落され、地面に大きな土煙を起こした。

 

「派手に追撃といこう」

 

 体を起こし立ちあがろうとするティガへと、ファラとレイアの冷静な追撃。

 風の剣がカマイタチとなって飛び、土のトンファーがコイン状に変形し、マシンガンのように弾幕を張る。

 ティガは飛んで回避するが、二人はすぐさま攻撃を対空に切り替え追撃を行う。

 対しティガは、胸のプロテクターにエネルギーを集中させ両手を広げる。

 そこから放たれたのは鋭く輝く光の刃だった。

 

 《ティガスライサー》

 

 飛翔する光の斬撃が、風の刃とコインの弾幕をすべて切り裂き、ファラとレイアの体を切断する。

 

『ッ!?』

 

 しかし斬られたはずの二体の体は、水のように崩れて霧散した。今ティガが切ったのは、ガリィが作り出した水の分身だったのだ。

 

「はい、隙あり〜」

 

 ティガが分身に対応している間に、ガリィとレイアが、すでにティガの真上に回り込んでいた。二体が手をかざすと、氷に覆われた巨大な岩塊が頭上に出現する。

 ガリィの氷とレイアの岩――ふたつの力が組み合わさった超重量の塊が、ティガを押し潰さんと迫る。

 ティガは両手でそれを受け止める。

 しかしその背後で、ファラとミカが力を溜めていた。

 

「ミカ、思いっきりやりなさい」

 

「言われるまでもないゾッ!」

  

 ミカが生み出した火球を、ファラの風が旋回させて増幅させる。赤熱の炎は龍のごとく膨れ上がり、直径数十メートルを超える火球へと変貌した。

 

『デュ――ッ!?』

 

 逃げようにも頭上の氷岩に押さえつけられていたティガに、回避の仕様はない。

 巨大な氷岩と火球が衝突し、強烈な爆発の花が戦場の空に咲く。轟音と閃光が広がり、凄まじい衝撃が響いた。

 空を覆うほどの煙の中、ティガの姿は見えなかった。

 

「ティガっ!?」

 

「待つデス調! 今のあたし達が行っても何も出来ないデス!」

 

 四体の連携に翻弄されるティガ。そんなカレを助けようと駆け寄る調を切歌が止める。

 実際ギアを破壊された自分達では、足手纏いでしか無い。

 

「ふふ、あらあら〜? なんか、あっさり勝てちゃった?」

 

「む〜〜〜! こんな勝ち方じゃつまんないゾォ〜!」

 

 ガリィが邪気を多く含んだ笑みを浮かべ、ミカが口を尖らせながら、残る散らばったコンクリートの残骸に蹴りを入れた。

 四体分のオートスコアラーの合体技に、勝利を確信するガリィとミカ。

 やがて、風に流され黒煙が晴れてゆく。

 

「「「「……っ!?」」」」

 

 その中に居たのは、全身を球体状の虹色のバリアーに守られ無傷のティガの姿だった。

 

 《ウルトラシールド》

 

 四体分の破壊のエネルギーを前に、カレは真正面から受け止めて見せたのだ。

 バリアーの中心で、紫と赤の超人が凛と佇む。

 

「……チッ、このっ……!」

 

「さすが、マスターが執着するだけのことはあるわ」

 

「なら、もう一度叩き込むだけだ。より派手にな」

 

 苛立ちを露わにしたガリィが、手の中の氷の塊を握りしめ砕いた後、四体のオートスコアラーは、再度ティガを包囲しようと距離を詰める。

 もう一度全力の連携攻撃を狙おうとしていた。

 しかしその瞬間、ティガの姿がフッと揺らめく。

 

『ンーーハァッ!』

 

 空気が震えるような掛け声と共に、ティガの両手が額の前で交差する。

 次の瞬間、カレの姿が変貌する。

 細く、軽く――鋭く。

 紫のラインが空を切り裂くように走り、ティガは《スカイタイプ》へと変化を遂げた。

 次の瞬間、取り囲んでいた筈のティガの姿が、彼女らの視線から消える。

 

「なっ! 消え――かはァッ!?」

 

 最初に動揺を露わにしたのはガリィだった。

 背後から突如現れたティガの蹴りが、彼女の背中を捉え、弾丸のように地面へ叩きつける。

 即座に反応したファラが、手にした西洋剣を連打し、反撃に出る。

 

「くっ! 速い……!」

 

 その速さは、かつて戦った翼をも上回る。

 援護に入ったレイアが反対側からトンファーを振るうが、結果は変わらない。

 二体の反応は正確だったが、ティガの動きはさらに一段上。しかも等身大となり、よりキレを増したスカイタイプのスピードを捉える事は出来ない。

 

『タァッ!』

 

 ティガは踵を鋭く返し、ファラの腕を蹴り上げる。ファラのバランスが崩れたその瞬間、ティガはその腕を掴むと、回転しながら空中へと投げ飛ばす。

 

「なっ――!」

 

「わっ!? ちょっとッ!」

 

 放物線を描いて飛ばされたファラの身体がレイアへと激突。二人はそのままガリィの倒れている場所へと巻き込まれ、絡み合いながら崩れ落ちた。

 

「こっノォッ!」

 

 ミカが上空からカーボンロッドを雨のように放つ。スカイタイプの速さを見越して、広範囲にわたる面攻撃で捉えようとする。

 しかしロッドが着弾する寸前、再びティガの姿が突如と消えた。

 直後、ミカの背後にカレは居た。

 

「グェッ……!?」

 

 ティガは空中で回転しながらミカの背中へと踵落としを放ち、そのままミカの身体を、もつれ合うレイアたちの上に叩きつけた。

 

『ハーーチャァッ!』

 

 《ランパルド光弾》

 

 チャージ時間を最小限に抑えた高速射出版。スピード重視で放たれた光弾が一直線に四体のオートスコアラーへと迫る。

 

「くっ……!」

 

 ファラたちはすぐに障壁を展開。それぞれの属性の防御結界を張り、光弾の直撃に備える。

 しかしランパルド光弾は、たとえ縮小したとはいえ、怪獣相手に放たれる一撃。たかが人形である彼女達に防げるはずもなく、四枚の障壁は簡単に砕け散った。

 爆炎が巻き起こり、四人のオートスコアラーのいる地面が土煙をあげ戦場を覆った。

 

「これが、ウルトラマンの力か……」

 

「凄いです。ミカどころか、オートスコアラー全機を圧倒するなんて」

 

 モニター越しに観戦していた弦十郎とエルフナインの声。彼らもまた、戦場の光景に言葉を失っていた。

 瓦礫の舞う戦場。爆煙の奥、スカイタイプのティガが静かに降り立つ。

 煙が晴れると、明らかにダメージを感じさせる四体の人形の姿が見えた。

 

「……くっ、これがマスターが危険視するウルトラマンの力……」

 

「巨人の姿でなくともこの力とは……確かに危険な存在だ……」

 

 ダメージを受けながらも、ファラとレイアは冷静に戦況を分析し、軋む身体を引きずって立ち上がる。

 ガリィも服の汚れを払い落としながら態勢を整え、ミカはむくれて唇を尖らせながらも立ち直った。

 

「ティガさんっ!」

 

 その時、戦場に少女の声が届いた。

 砕けた瓦礫を踏み越えて駆けて来たのは、響・翼・クリスの三人だった。その身に新たなギアを纏い、改修を終えた三人が遂に戦場に到着したのだ。

 

「お待たせ、調ちゃん、切歌ちゃん! 二人とも大丈夫?」

 

「は、はいデスっ!」

 

「響さん……」

 

 調の隣にいた切歌が、涙を拭いながら懸命に笑顔を作る。倒れていた二人が、仲間たちの姿を見て力を取り戻し立ち上がる。

 

「ありがとう。二人のおかげでわたし達また戦える。大切なものを守れる!」

 

「良かった……」

 

「だから、ここはわたし達に任せて。二人は早く避難を」

 

「は、はいデス! 先輩達、頑張ってくださいデス!」

 

 自分達の役目を終えた調と切歌はその場を退く。二人が避難したのを確認した翼達は、ティガの隣へと並び立った。

 

「ティガ、こうして貴方の隣に立つとはな。二人を助けてくれて、感謝する」

 

「何か変な気分だけどよ、細かい事は後だ! こいつらにアタシの後輩を傷つけてくれた礼、しっかりと味合わせてやるからな!」

 

 翼とクリスは鋭い視線を敵へと向けながらも、その背中でティガに礼を告げる。

 

「歌女達までやって来ましたか……さて、ここはどう致しましょうか?」

 

「地味だが……退避したほうが、良いかもしれないな」

 

 ファラがため息をつきながら剣を下ろし、レイアが冷静に戦況を見極めてつぶやいた。戦況は明らかに変わっていた。数分前までの優勢が嘘のように、いまや自分たちが包囲される側に立っていた。

 

 だがその時――

 

「やはり、お前達では手に余るか」

 

 少女の不思議な音色の声が空気を震わせた。

 

「っ!? この声は……」

 

 聞き覚えのある声に響がびくりと身を震わせ、周囲を見渡す。翼もクリスも同様に、警戒を強めながら視線を巡らせる。しかし、どこを見てもその姿はない。

 そんな中ティガは、静かに空を見上げていた。

 

「……空……?」

 

 その視線に気づいた響たちも、徐々に顔を上げていく。

 雲間に揺らぐように、現れたのは一人の少女だった。

 身の丈に不釣り合いな大きなローブ。複雑な文様が刻まれた魔術帽――キャロル・マールス・ディーンハイムが、そこに居た。

 

「キャロル……ちゃん……」

 

「ふん! 貴様如きが、馴れ馴れしくオレの名を呼ぶな」

 

 キャロルは不快そうに目を細め、鋭い視線を響に向ける。その顔は怒りに歪んでいるが、彼女の視線はすぐに響から離れ、ただ一人の存在に向けられる。

 そう、光の超人であるティガへと。

 

(キャロちゃん……)

 

(オレと戦う覚悟を決めたか、小僧?)

 

 キャロルとティガ、正確にはその中にいる星乃結は、互いに念話を使い、誰にも聞こえぬ“心の声”で、二人だけの会話を交わしていた。

 

(うん。ウルトラマンとしてではなく、ぼく自身の意思として、大好きなものを守る為に君と戦う!)

 

(ふん……)

 

 ユウの覚悟を聞き、キャロルは不敵に、それでいてどこか嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「ならば、貴様相手に油断も加減も慈悲も必要無いッ!」

 

 彼女が真横に手を伸ばすと、虚空に赤黒い錬成陣が現れる。キャロルは、その中に手を突っ込むと、身の丈もある大きなハープを取り出した。

 美しくも不気味なその楽器を、キャロルはそっと奏でると、彼女を中心に膨大なエネルギーが出現した。

 

「これは、アウフヴァッヘン波?」

 

「……いえ、違います! ですが、非常に近いエネルギーパターンです!」

 

 聖遺物の装者だけが奏でることができるはずの“歌”と酷似した波形。それを紡ぐキャロルは、常識の枠すら超越していた。

 

『《ダウルダブラ》のファウストローブ……!』

 

 エルフナインがそう呟いた時、キャロルの身体に異変が起こる。

 ハープから放たれた無数の鋼糸が、キャロルの身体を絡め取りまるで傀儡人形のように、空中に吊り上げられる。

 その糸が、肉体を引き裂くように動き出しす――いや、引き裂かれていたのは、赤いワンピースだけだった。

 剥き出しになったその肉体は、徐々に質量を増す。骨格が、筋肉が、その小さな器に積み上がるように形成されていく。

 見る間に成長を遂げていく肢体を、ダウルダブラが鎧となって各部を覆い、帽子のようなヘッドギアに4色の宝石が飾られた。

 やがて、鋼糸が焼き切れ、地上へと落下する影。

 

「シンフォ……ギア?」

 

 まるで自分たちが纏う《ギア》と酷似した形状。変貌したキャロルの姿に、響は思わず言葉を漏らした。

 

「いえ……あれは《ファウストローブ》。聖遺物の欠片から放出されるエネルギーを、錬金技術の粋を以て、外装として具現化させた鎧です」

 

「つまり理論的には、皆の《シンフォギア》と同じ仕組み……という事ですね?」

 

 通信越しにエルフナインとナスターシャの補足が聞こえる。

 それこそが、キャロルの完全戦闘形態。

 《ダウルダブラ》が鎧となり身を包み、地に降り立ったキャロルは、静かにティガを見据えた。

 

「さぁ第二ラウンドだ、巨人よ。貴様の化けの皮を剥いでやるッ!」

 

 キャロルが言い放つと同時に、鋭く腕を振る。

 その合図に、四体のオートスコアラー――ミカ、ファラ、ガリィ、レイアが音もなく動き出す。

 狙いはただ一つ、ティガ。

 彼女たちの視線には、装者三人は存在していなかった。

 

「アタシらは眼中にねぇってかッ! 舐めんなッ!!」

 

「我らの友を、貴様らに傷つけさせはせん! 迎え打つぞ、立花、雪音ッ!!」

 

 翼が鋭く言い放つと、三人の装者は四体の自動人形をそれぞれの位置で迎え撃った。

 爆音と風圧が戦場を揺るがし、装者と人形の激突が始まる。

 そして――その間を縫うように、キャロルとティガの視線が再び交錯し、ゆっくりと距離を詰めていく。

 

「はあァッ!」

 

 先手を打ったのはキャロルだった。

 その左腕が閃いた瞬間、空気が音を立てて裂けた。紫のオペラグローブを纏った腕が描いた弧の先、舗装された基地の地面が、まるで紙のように刻まれていく。

 見えざる刃――それはダウルダブラの糸。強靭で、鋼よりも鋭利なそれが、裂波のように迫る。

 

 だが、ティガは既に動いていた。

 《スカイタイプ》の俊敏性を活かし、爆風のような蹴りで体を翻す。目にも留まらぬ速さで空を舞い、糸の隙間を滑るように斜めへ跳ぶ。

 

「流石に素早いな。だが、これはどうだァッ!」

 

 キャロルが唇を吊り上げる。両肩のパーツが展開し、弦を張ると同時に彼女の左右に二色の錬成陣が浮かび上がった。赤と青――二色の炎のエネルギーを放出し、爆風のような熱の奔流が交差しながら襲いかかってくる。

 

『デュアッ!』

 

 《ティガ・フリーザー》

 

 ティガは反射的に腕を前に構え、冷凍光線を放つ。向かって来る炎を突き破り、光線がキャロルへと向かう。

 

「チッ……!」

 

 回避したキャロルの足元が、まるでスケートリンクのように一瞬で凍った。

 火と氷が同時に激突したことで、周囲の水分が一気に蒸発し、白く厚い水蒸気が舞い上がる。

 

 その一瞬――ティガの動きが僅かに鈍った。

 

 全方位を包む水蒸気の中で、ティガの肉体に“それ”は絡んでいた。見えないはずの糸が、湿気に触れて僅かに鈍く光る。

 

「はっ! 捕まえたぞ!」

 

 キャロルの声が響く。水蒸気を割って姿を現した彼女の手から、無数の糸がティガへと伸びていた。

 キャロルが拳を強く握りしめると、ギリギリと糸が締まる嫌な音が空気を振動させる。

 だが、ティガの肉体に傷は生じない。まるで鋼鉄すら通さぬ装甲のように、ダウルダブラの糸の切断を拒絶した。

 

「ダイヤすら切り裂くダウルダブラの糸を弾くか、流石に甘くはないか」

 

 キャロルが忌々しげに呟く。

 

「ならば、その重さごと地に沈めてやる!」

 

 彼女が手を振り下ろすと、捕縛されたティガの身体が強引に叩きつけられた。発電所の床を破砕し、壁を割り、地響きを伴ってティガの体が地に沈む。

 しかし音が止んだ一瞬後、ビリビリと糸に伝わる逆圧にキャロルが顔をしかめた。

 

「くっ!……」

 

 視線を向けると、ティガは糸を右手で掴み、逆にキャロルを引こうとしていた。

 幾ら小型化しているとはいえ相手はウルトラマン、力勝負ならティガに分があった。

 

『ンーーハァッ!』

 

 ティガは空いた片手を、クリスタルに添えると《マルチタイプ》へと変化した。力と速さの均衡の取れた形態だが、キャロル相手ならそれでも十分の力だった。

 

「っ!?」

 

 急に増した力に、キャロルの身体が逆に引きずられ、空中に跳ね上げられる。

 次の瞬間、轟音と共に、ティガの腕力がキャロルの体を地面へと叩きつける。土煙が舞い、コンクリートが崩れる音が響く中、ダウルダブラの糸がプツン、と切れた。

 

「くっ……そッ!」

 

 すぐに体勢を立て直したキャロルは、炎と風を混ぜ合わせ火炎の旋風を巻き起こした。

 自分へと向かってくる炎の竜巻、だがティガは両手を翳すと念力の力でそれを押し留めた。

 

『ハァアッ!』

 

 《ウルトラ念力》によって炎の竜巻を受け止めたティガは、そのまま自身の体を回転させる。

 彼の回転に合わせるように竜巻も逆回転を始め、そのままキャロルの方へと戻って行く。

 炎が集まり爆発を起こす。

 黒煙の中から二色の錬成陣が目視され、緑の竜巻と黄金に輝く岩塊が同時に解き放たれる。暴風に乗せられたそれは、鋭い弾丸のようにティガへと迫った。

 

『チャッ!』

 

 ティガは右腕を煌めかせ、手刀と共に光弾を放った。

 

 《ハンドスラッシュ》

 

 煌めくエネルギーの弾が、迫る岩塊を打ち消し、そのままキャロルの元へと迫る。彼女は咄嗟に右手を渦のように回し糸のバリアーを張るが、光の弾はそれを簡単に押し除けた。

 追撃としてティガは距離を詰める。

 

「舐めるなァッ!!!」

 

 叫びと共に、キャロルは新たな錬成陣を複数展開した。黄色の光が輝き、そこから稲妻のようなエネルギー波が次々と放たれ、向かってくるティガを、光の奔流が飲み込んだ。

 

 

 

 

「戦況はどうなってるデスかっ!?」

 

 その時、S.O.N.Gの司令室に切歌達が戻って来た。

 キャロルの錬金術により、爆発が連鎖するように広がり、爆風が地を抉り、鉄を溶かし、発電所の外壁を抉り砕く。

 その破壊力は、強化されたシンフォギアすら上回っていた。

 

「ティガ……」

 

「唄うわけでもなく、こんなにも膨大なエネルギーを、一体どこから……?」

 

「想い出の焼却です」

 

「想い出の?」

 

 エルフナインの言葉に未来が眉をひそめる。その意味を理解しかねているようだった。

 

「キャロルやオートスコアラーの力は、“想い出”と言う脳内の電気信号を変換錬成したもの。数百年を長らえて、相応の思い出が蓄えられたキャロルは、それだけ強大な力を秘めています……」

 

「……力に変わった“想い出”は、どうなる?」

 

 重く響く弦十郎の問いに、静寂が満ちる。

 

「燃え尽きて、失われます」

 

 エルフナインの声には、微かな震えがあった。

 

「キャロルは、この戦いで結果を出すつもりです……!」

 

 自身の存在証明である“記憶”を、躊躇いなく戦力へと変換する少女。その姿から、彼女がどれだけティガに対し憎しみと執着を持っているかがよく分かる。

 

 

 

 爆煙が晴れる。

 その中から膝をついたティガの姿が浮かび上がった。キャロルの高密度のエネルギーの直撃をその身に受け、焦げたように体からいくつもの白い蒸気が立ち上っている。

 

「殺してやる……! 今度こそ、悪魔をッ!!!」

 

 ティガとぶつかり合うたびに、キャロルの瞳は怒りに震えていく。

 燃え上がる激情のまま、紫のオペラグローブをした右腕にすべての糸を旋律のように束ねる。集まった強靭な糸が、ドリルのような形を作り出した。

 四つの錬成陣が宙に浮かび、各属性の力が渦巻く。

 緑の竜巻が巻き起こり、大気が悲鳴を上げる。体勢を崩していたティガに避ける術はなく、激しい気流の檻に囚われてしまった。

 

『……フッ……!?』

 

 風が回転を加速させ、

 土がドリルを硬質化し、

 氷がその刃を鋭く研ぎ澄まし、

 炎が破壊力を最大限に引き上げる。

 

「死ねッ! 滅びの巨人よッ!!!」

 

 四大元素の全てを込めたキャロルの必殺の一撃が、ティガの胸の宝玉を目指し突き進む。

 だが、それと負けず巨人の瞳に、少年の心が浮かぶ。

 

(ぼくは…………死ぬ訳にはいかないんだっ!!!)

 

 身動きの取れなかったティガの拳が強く握られる。

 それは、ティガの力ではなく、星乃結という一人の少年の想いだった。

 

 《ウルトラ・ライトナックル》

 

 右拳が、朝明けのような輝き光を纏って爆ぜる。

 キャロルと少年の拳が――正面から、激突した。

 

((……っ!?))

 

 キャロルの“想い出”のエネルギーと、ユウの“想い”の力。

 火、水、風、土の四大元素と、“光”の力がぶつかり合ったその瞬間、二人の拳撃の間に激しい閃光が生まれたかと思うと、次第に二人の体を包み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ☆






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