シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第四十三話 よみがえる鬼神

  ☆

 

 

 

 

 ――宿那山――

 

 富士山の全貌がよく見える森の中、暗い自然の夜道を、一台のバンが走っていた。

 落ち葉の絨毯を踏み鳴らし止まると、中から三人の男が姿を見せる。一人は背が高く、一人はサングラスをかけ、一人は小柄な男達だった。

 

「あ、あったぞ! このお堂だ!」

 

 バンを降りて道なき道を、ひーこら言いながら歩いた彼らは、やっとのこと目的の場所を見つけた。

 そこは自然の多い山の中で、不自然な程に開けた空間。そのど真ん中に、古くなったお堂が一つだけ建っていた。

 

「ヒヒっ! やっと見つけたぜぇ……おい!」

 

「あいよっ!」

 

 長身の男がアイコンタクトを送ると、小柄な男が懐から幾つものピッキングツールを取り出す。

 すると、小柄な男は見事な手際でお堂に唯一つけられた大きな鍵を解錠していく。

 古い割には何処か力強さを感じさせる立派なお堂だが、取り付けられている鍵は、何百年も昔の古い物、解錠するまでに時間は掛からなかった。

 

「へへっ! ちょろいちょろい」

 

「指紋つけまくってるけどな」

 

 小柄な男はツールの紐をくるくると回すと、お堂の扉をゆっくりと開いた。

 勿論中には明かりなどなく、夜の森よりも更に暗くなっている。何百年も放置されてきたからか、内部全体に蜘蛛の巣が張り巡らされており、辺りには何十枚もあるお札、そしてそのど真ん中には、兜武者のような像が此方を睨んでいた。

 

「ひゅ〜! 厳つい顔してやがるぜぇ」

 

「化け物退治で名の売れた剣豪の像だからな」

 

 今更言わなくても分かるだろうが、彼らは“泥棒”である。目的はこのお堂にあると言われているお宝。

 男達は異様な雰囲気に怯えるどころか、何処か面白そうに土足で堂々と物色していく。

 

「おい、これ何だよ?」

 

 一番値打ちの高そうな武将像を持ち出そうとした時、長身の男は、像の足元に細長い箱が置かれているのに気がついた。

 

「ああ……それは、やめとこうぜ?」

 

「あん?」

 

「いや……その中によ、刀が入ってんだよ……魔除けみたいなもんらしいんだけどよ」

 

「そんなお宝、放って置けるかよ」

 

 サングラスの男が静止するが、長身の男は聞く耳を持たず武将像を預けると、刀が入っているであろう箱を持ち出した。

 お堂を出ると、二人の話が聞こえていたのか、小柄な男が小さな体を振るわせている。

 

「ま、魔除けってなんだよぉ……おれ祟られるのは、嫌だよお……」

 

「なーに言ってやがんだよぉ。散々罰当たりな事してんだ、いまさらこんな刀一本取ったぐらいで祟りなんざ――――」

 

 その時、激しい地響きが彼らを襲った。

 

「な、何だぁっ?!!」

 

『グォオオオオオオオオオオオオォッッッ!!!』

 

 突然の地震に堪えきれず三人の男達が無様に地に倒れる。まるで地獄の底から唸るような声が山全体に響き渡った。

 更に地響きが強まると、自分たちの足元を巨大な何かが移動しているかのような、異様な気配を感じる。

 

「「「ひっ、ひぃいいいいいいいいいぃっ!!!」」」

 

 その気配が生き物のものだと分かった三人の男達は、急激に恐ろしくなり、手に持った荷物を全て捨て、一目散に逃げ去って行った。

 

「――ん? 何だ?」

 

 そしてその振動を感じ取っていたのは、男達だけでは無かった。付近を巡回していた高齢の警官もまた、その地震に巻き込まれる。

 

「うわぁっ!!?」

 

 木々が揺れ、激しい振動に自転車ごと横倒しになり、辺りに置かれたお地蔵様もまた同じように倒れる。

 やがて振動が収まった頃、警官は恐ろしい物を目の当たりにした。

 彼の目視する山の表面が、爆破されたように吹き飛び、中から巨大な腕が突き出したのだ。

 

『オノレェ……怨ミヲ、晴ラスゾォ……!』

 

 それはまるで、地獄の亡者のような低く、聞く此方の神経を身震いさせる恐ろしい声だった。

 

『蘇リ、怨ミヲ晴ラスゾォ!!!』

 

「す、宿那鬼……宿那鬼が、蘇ったぁっ!!?」

 

 そう言いながら、警官は自転車の事など忘れ、死ぬ気の思いで山を降りて行った。

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

「ハアァッ!!」

 

 空気を裂くような気合の入った声と共に、翼は腰の刀を振り抜く。

 一瞬の静寂の後、彼女の目の前に立てられた巻藁が斜めにズレ、綺麗な断面を残し切り裂かれた。

 

「すっごーい!」

 

 翼の鍛錬を近くで見ていたユウは、その見事な居合斬りにパチパチと拍手を送る。

 

「全然見えなかった、かっこいい〜!」

 

「ふふんっ! 相手の隙の一瞬を突く、これこそが最速の剣の技よ」

 

「凄い凄い! ぼくもやってみたい!」

 

 キラキラした目で、ユウにそう言われては翼は断れない。流石に真剣では危ないので、翼が昔使っていたと言う木剣で練習を試みる。

 

「あ、あれ?……抜けない?」

 

 素材は木だが、その刃と鞘の形はまさに日本刀。

 ユウはさっそく翼の真似をして引き抜こうとする。しかし、途中で引っ掛かてしまい振り抜く事ができなかった。

 

「腕の力だけで抜こうとしてはダメよ。腕だけじゃなくて腰と背中、そして体全体の回転の力で振り抜くの」

 

 翼は背後に回り、ユウの両手を補助して居合の動きをさせる。

 すると先程まで引っ掛かっていた木の刃が、最も簡単に振り抜けてしまった。

 

「おおっ! 凄ーい!」

 

「後は集中して心を研ぎ澄ませ、相手の気配を読む事…………と言っても、ユウはこんな事覚えなくても良いのかも知れないけど」

 

「そんな事ないよ! ぼく、もっともっと強くなって、いつか翼お姉ちゃん達を守ってあげたいって思ってるもん!」

 

 ユウは真っ直ぐな眼差しで答える。

 それは心からの言葉だった。ウルトラマンとしてではなく、自分自身として強くなり大好きな人達を守る事は、宇宙飛行士になるのと同じ程、大切な少年の夢である。

 

「ふふ、ユウは本当に良い子ねぇ」

 

「えへへ! 良い子良い子〜!」

 

 その愛おしい笑顔に、翼は添えていた手を胴体へと回し、ユウを後ろから抱きしめる。

 一見真面目な表情で、ユウの感触や匂いを味わっていると、翼の通信機に連絡が入った。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 “宿那鬼が蘇った”。

 そんな報告を地方の警察官から受けた我らが、《S.O.N.G》の面々は、急ぎ調査へと乗り出していた。

 

「それで、ここが問題の山ですか……?」

 

 調査に躍り出たのは、緒川、響、切歌、変装した翼、そしてS.O.N.Gの誇る調査員達である。

 そして彼らのお手伝いとしてついて行ったユウは、事件の現場となった宿那山を見上げていた。

 

「大っきい穴……」

 

 ユウ達が見上げる山の頭頂部付近には、とても自然に出来た物とは思えない程、大きなトンネルがくっきりと残っていた。

 

「確かに、とても自然に出来たものとは思えないな」

 

「でも、重機で掘ったにしては荒っぽ過ぎるデスよね? それに、ああ言う穴……何処かで見た事あるような……」

 

「んー……あっ! ほら小さい頃、砂場とかで作った砂山にトンネルを作った時って、あんな感じの穴の形になった事ない?」

 

「「あー……」」

 

 響の思い付きに、二人は同時に納得したような声を漏らす。

 

「何でも化け物の腕が伸びて来たって事でね、一応地元の消防が調査したんですけど、結構穴は深いんですが、そんなデカい化け物が通れるほどデカくは無いんですよ」

 

「と言うと?」

 

「いや〜第一発見者の山田さんが言うには、腕だけであの穴のサイズって言うんですから、体全体ならもっと穴も大きく無いとおかしいでしょう?」

 

「なるほど……確かにその通りですね」

 

 緒川が若い警官から聞いた話をメモに纏めていると、もう一人高齢の警官がやって来る。頭に包帯を巻いた姿から、彼が山田さんなのだろう。

 

「宿那鬼だ……宿那鬼が蘇ったんだ!」

 

「報告にもありましたね。その宿那鬼とは一体……?」

 

「ああ、この地方にある伝説の鬼神ですよ」

 

「「「「伝説の鬼神(デス)?」」」」

 

 邪魔をしないようにしていたが、その摩訶不思議な単語に、四人は自然と声を漏らしていた。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

「鬼神か……どう思うエルフナインくん? 今回の一件、キャロル達が関わってる可能性は?」

 

 本部である潜水艦の中で、報告を待つ弦十郎は、エルフナインへと問いかけた。

 

「恐らくかなり低いかと。キャロルは前回の戦闘で多くの戦力を失ってますし、こんなに早く仕掛けて来るとは思えません。それにこの地方一帯からは、錬金術の反応らしきものも見られません」

 

「だとすると、キャロル達とはまた別の“怪獣騒動”と言うわけか……」

 

 ここ最近はキャロル達錬金術師による事件が多発していたが、元々怪獣や災害は彼女達とは関係なく起きている。今回もその一つなのだろう。

 しかしここ最近落ち着いていた怪獣騒動が、何故今回起きたのか理由を探る必要もある。弦十郎は、現在調査中の友里達に声をかけた。

 

「宿那鬼とやらの伝承は、何か見つかったか?」

 

「まだです。別の鬼退治の伝承や、聖遺物の伝説などは出て来ますが、宿那鬼の話は一つも」

 

「そうか引き続き調べてくれ、それまで全員待機だ、いざという時に動けるようにしておけ」

 

 弦十郎の指示に、待機していたクリスや他の面々も強く頷いた。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

(鬼か……確かにこの土地、なんだか変な気配がする)

 

 山道を歩くユウは、一歩ごとに足元から立ちのぼるような禍々しい歪みを感じ取っていた。

 地元の住人から情報収集を終えた翼達は、鬼神を封じていると言われているお堂へと辿り着く。

 

「これは……明らかに荒らされていますね」

 

 開いた錠前、締め切っていない扉、中身のないお堂の内部には、破られた蜘蛛の巣だけが散らかっている。

 響達の素人目にもそれは明らかだった。

 

「泥棒デスかね?」

 

「恐らく。街の人達の話では、このお堂の中に鬼神を封じていた何かがあったと言う事です」

 

「その何かが泥棒さんに持って行かれて、それが原因で鬼神が目覚めた……って事なんですかね?」

 

「その可能性が高いですね。先ず手掛かりとして、このお堂に侵入した者達を見つけましょう。元二課の腕の見せ所です」

 

 緒川は近くにいた調査員達に指示を送り、すぐにお堂を調べさせる。

 粗雑な泥棒達だったのか、調べると指紋やら足跡やら証拠が次々と出て来る。彼らの調査力なら、泥棒達が特定されるのも時間の問題だろう。

 その間翼達は、手分けして辺りの散策を行う事にした。

 

 

  ☆

 

 

「ん?……何だ?」

 

 少し山を下ったところで、翼は茂みの奥に一瞬だけ光る反射を見つける。

 両手で茂みを掻き分け中を覗き込むと、その中で眠る漆黒の太刀を見つけた。

 

「刀……?」

 

 普通の少女なら触れることをためらうだろう。しかし刀剣を扱い慣れた翼は、吸い寄せられるように手に取ってしまう。

 

「いい刀だ……よく鍛えられている。それにただの観賞用の物ではなく、幾つもの激戦を乗り越えているな」

 

 刃を半分ほど引き抜き見定める。

 美しい刀身によく見ると無数の傷が見える。それが幾つもの敵を斬り払い、その度に打ち直されて来た歴戦の業物なのが翼には分かった。

 

「しかし何故これほどの業物が、こんな山の中に……?」

 

 鞘や柄にも劣化は見られない、この場に置かれてからそう時間は経っていない。

 翼が思考を巡らせていると、弦十郎からの通信が入った。

 

『翼、お堂の調査が完了したそうだ。情報の整理をしたいから一度戻ってくれ』

 

「了解です、叔父様」

 

 通信を切った後翼は、その手に握った先程の太刀に視線を落とす。

 

(不思議な魅力のある刀だ……もしかしたら、今回の一件に関わっているかもしれない。一度持ち寄って、皆んなと相談してみましょう)

 

 そう思い、両膝に力を入れ立ちあがろうとした時。

 

(えっ?――)

 

 視界が揺らぎ、翼の意識はその場で途絶えた。

 

 

  ☆

 

 

「それでね――あれ、翼さん?」

 

 山を降りている途中で合流した響と切歌は、雑談を交わしながら隣だって歩く。

 その道中、二人は翼の姿を発見した。

 

「あれ翼先輩? そっちは反対デスよ!」

 

「翼さん!……翼さん?」

 

 だが翼が自分達とは反対の山の奥の方へと向かっているのを見て二人は声をかける。しかし翼は答えず、どんどん山の奥へと進んで行く。

 

「つ、翼さん!!」

 

「……む、拙者の事か?」

 

 慌てて駆け寄り大きな声で呼びかける。すると気が付いた翼は、まるで惚けたように振り向いた。

 

「どうしたんですか? 何度も呼びかけたのに」

 

「いやはや、そうでござったか。それはかたじけない」

 

 はっはっはと笑い、翼は豪快に頭を掻いた。

 その姿を不思議に思いながら響は、翼の腰のベルトに差し込まれている黒い太刀に気が付つく。

 

「あれ? 翼さん、その刀どうしたんですか?」

 

「む? 何かおかしい所でも? 刀は侍の魂。こうして腰に差すのは、武士として当然のこと!」

 

「おおっ! 流石翼さんデス、ジャパニーズサムライデース!」

 

「え、ええ〜……そう言う事なんですか?」

 

 腰に手を当て、まるで当然のことだと胸を張って言う翼。切歌は両手を叩き、茶化すように感嘆の声を上げた。

 

「そう言えば翼先輩、どこに向かってたんデスか? そっちは反対の道デスよ?」

 

「うむ、拙者はこの先に用事があってな」

 

「え? 師匠からの指示ですか……?」

 

「そんな所だ、では拙者はこれで」

 

 軽くお辞儀をすると翼は胸を張り、風を切るようにずんずんと森の奥へと入って行った。

 その堂々とした姿に、響達はそれ以上何も言うことが出来きなかった。

 

「ねぇ切歌ちゃん、何だか……さっきの翼さん、変じゃなかった?」

 

「そうデスかぁ? 普段からあんな感じだと思いますけど?」

 

「ええ……ううん、そうだった……かも?」

 

 明らかに様子のおかしい翼なのだが、普段から防人として、武人のように振る舞っている彼女姿を思い出し、おバカコンビはあっさりと受け入れてしまった。

 

「あ、切歌お姉ちゃん! 響お姉ちゃーん!」

 

 翼が去ってから少しして、入れ替わるように今度はユウが二人と合流した。

 

「あれ? 翼お姉ちゃんは一緒じゃないの?」

 

「それが翼さん、さっき森の奥の方に向かっちゃって」

 

「えっ、弦おじさんが呼んでたのに不思議だね? どうして止めなかったの?」

 

「いやーなんだか当たり前のように行っちゃったから、つい……」

 

「そっか……じゃあぼくが、翼お姉ちゃんを追いかけるよ。二人は先に行ってて!」

 

 弦十郎達と作戦会議がある二人を先に帰らせ、ユウは翼が向かった道を駆けて行った。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 先程よりも荒い獣道を歩いていると、直ぐに翼の後ろ姿を発見する。

 ユウは嬉しそうに手を振りながら駆け寄った。

 

「翼お姉〜ちゃ――」

 

 その瞬間、銀の刃がユウの目前へと迫った。

 

「――っ!?」

 

 ユウは上体を逸らしバク転の形で刃を避けると、驚きながらもその相手を見据えた。

 それを放ったのは勿論目の前の人物――翼だった。

 

「キサマ……人ではないな?」

 

「翼お姉ちゃん…………じゃ、ない?」

 

 抜き身の刀を構える翼。しかしユウは、彼女の肉体の更に奥に居る別の人物の存在を感じ取っていた。

 今ユウの目には、古い着物を纏い刀を掲げる侍の姿が映っていた。

 

「物の怪?……いや、邪な気配が全く無い」

 

 暫く間合いを取りユウの事を観察した侍。次第にその表情から険しさが抜け、やがて刃を収めると静かに頭を下げた。

 

「失礼、平にご容赦を」

 

「えっと、貴女は? どうして翼お姉ちゃんの身体を?」

 

「この身体の持ち主の知り合いか? 拙者は既に肉体を持たない故に今は借りておるのだ」

 

「肉体が無い……?」

 

 理解が追いつかず、ユウは目を瞬かせる。侍は姿勢を正し、名乗った。

 

「拙者は、錦田小十郎景竜と申す物だ」

 

「かげ……たつ?………………だれ?」

 

 聞き覚えのない名前に、ユウは小さく首を傾げた。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 山の麓で簡易拠点を築いていた弦十郎たちと合流した響は、彼らが見つけ出したという宿那鬼の伝承について話を聞いていた。

 

「錦田小十郎景竜……?」

 

「それがこの像の名前デスか?」

 

 彼女達の目の前には、お堂から盗まれていたとされる黄金の武将像が置かれていた。

 泥棒の調査はあれからあっさりと終わった。と言うのも恐怖に怯えた彼らは、あの後猛スピードで車を飛ばして逃げたせいで、付近の警察に捕まっていた。

 その際車の中を調べられ、明らかに盗品であるこの像も回収されていたのだ。

 

「かつてこの山で暴れていた怪物を、旅の女武士である景竜さんが退治し、この地に封印したみたいです」

 

「その封印された怪物ってのが、噂の鬼神って事か。なら、その像を元の場所に戻せば解決なのか?」

 

 クリスは机の上に置かれた黄金の像を、つん、と指先で軽く突く。

 

「いえ、伝承では景竜さんは、鬼が復活しないように四肢と首をバラバラにして封印し、心臓の眠るこの土地の真上に刀を納め封印を強固にしたそうです」

 

「刀……デスか?」

 

「はい、像やお堂自体は飾りのようなものなので、鬼を再び封印するには、その刀が必要となってくるでしょう」

 

「刀…………」

 

 エルフナインの説明を聞きながら、切歌と響は“刀”と言う単語を頭の中で反復させる。

 すると二人の脳裏に、先程翼がいつの間にか持っていた黒い太刀を思い出す。

 

「……もしかして、さっきの翼さんが持ってた刀が、その封印の刀なんデスかね?」

 

「何だと? どう言う事だ二人とも」

 

 驚愕する弦十郎に、響たちは翼の異変を手短に説明した。

 

「つまり……その封印の刀は、今翼が持っていると言うのか?」

 

「しかもその話を聞くと、もしかしたら翼さんの身体に、女武士の魂が取り憑いているのかも……」

 

「ってか気付けよ!? このバカ二人!」

 

「「面目ないデス……」」

 

 クリスの叱責に、二人は肩をすくめて小さくなる。

 

「仕方ない、今すぐ翼を探して――」

 

 その時、激しい地震が宿那山を中心に響き渡った。

 当然山の前でテントを張っていた彼らも、その地震を直に浴びる事となる。

 しかも振動だけではない。

 ドォンッ、ドォンッ、ドォンッ、ドォンッ――と四度の爆発音のようなものが、宿那山の方から轟く。

 

「な、なんだっ?!」

 

「し、司令! あれを……」

 

 爆発音と共に振動が収まり、皆は緒川が指差した方に視線を向けた。

 視線の先は宿那山の上部、そこから巨大な太い柱のようなものが、山を突き破り迫り出していた。

 

「腕……? いや、足か……?」

 

 それは人間の四肢を思わせる巨躯。だがそれは、一体の身体を形作ってはいない。

 山のあちこちから、バラバラの手足がそれぞれ隆起するように突き出ていたのだ。

 

「バラバラの手足……まさか、アレが宿那鬼っ!?」

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

「拙者は生来、物の怪を見破る力に長けていてな、そこから生涯物の怪退治に明け暮れていた。宿那の鬼もその内の一体なのだ」

 

「へぇー、お侍さん凄い人なんだね」

 

「はっはっはっ! それほどでもある」

 

 翼の身体を借りた景竜は、特に謙遜もなく豪快に笑う。

 二人で並んで歩いてはいるが、ユウの機嫌は決して良くは無かった。

 

「ねぇ、早く翼お姉ちゃんを返してよ」

 

「いや、そうはいかぬ。拙者には宿那の鬼を退治する大切な使命がある。この者の身体、かつての拙者と比べると力も美貌も物足りないが致し方あるまい」

 

「むー! お姉ちゃん美人だもん、失礼なお侍さん!」

 

 勝手に借りておきながら好き勝手な事を言う景竜に、ユウは不機嫌そうに頬を膨らませる。

 その時、翼の通信機に弦十郎からの通信が入った。

 

『翼、聞こえているか? 今一体何処に――』

 

「うん? 何だこれは?」

 

 しかし翼の身体を借りている景竜は、片耳につけられた通信機をあっさりと外してしまった。

 しかもそれだけでなく、指先サイズまで小型化された通信機を、景竜は握り潰してしまった。

 

「ああっ! 何やってるの!?」

 

「おや? 聞こえなくなったな、いやはや未来の道具というのは壊れやすい物だな」

 

「もう! 後で怒られるのは翼お姉ちゃんなんだよ!」

 

「うむ、若者と言うのは叱られる事で成長を進める物。この者の次の成長に繋がる事を祈ろう」

 

「冤罪で叱られても成長しないと思うけど……」

 

 全く悪びれない景竜の姿に、流石のユウも呆れていた。

 そうして二人が歩みを進めていると、景竜とユウは周りの空気が一変して淀んだのを感じ取った。

 

「む、この気配は……」

 

「何か……来る?」

 

 景竜は腰の刀に手を添え、ユウは胸のティグの紋章を握りしめる。

 すると辺りの淀んだ空気が一箇所に固まり、巨大な鬼の顔を作り出した。

 

『カゲタツ、カ……』

 

「また生を受けたようだな、哀れな奴じゃ」

 

 実態のない蜃気楼のような姿、しかしその怨念の塊となった姿は凄まじい闇を感じさせた。

 

『カゲタツ、マッテオレヨ。貴様ヲ、コノママ生カシテハ、オカヌカラナ!』

 

 凄まじい殺気を放ちながら、鬼の影は背景に溶けるようにその場から消え去った。

 

「……拙者も別に生きてはいないのだがな」

 

 まだ空気の淀みは残っているが、奴が一時的に引いたのを察した二人は警戒を解く。

 あの様子から察するに、目覚めた鬼は自分が眠ってからの時の流れが分かっていないのか、宿敵である景竜に憎しみを強めているようだ。

 

「ふむ……予想よりもかなり、怨念の力を蓄えておったようじゃな。いやはや、アレほどの力となると今の拙者では倒す事は出来んなぁ」

 

「……なんで、投げやりなのこの人?」

 

 

 

  ☆

 

 

 

 再び振動が山全体に響き渡る。

 山の上部に突き出した手足が、今度は逆に山の中へと沈んでいく。

 そして数秒の静寂の後、大地が割れ中から巨大な二本のツノに白い髪、そして大きな一つ目の物の怪が姿を現した。

 

 《二面鬼 宿那鬼》

 

『グォオオオオオオオオオォッ!!!』

 

 天地を裂くような咆哮が山々に反響し、鳥たちが一斉に飛び立つ。

 

「アレが……宿那鬼?」

 

 ギアを纏い、一足先に調査に戻っていた響とクリスもまたその姿を認識する。

 二人の気配を感じ取ったのか、宿那鬼は振り向き灼熱の火炎を口から放った。

 

「なっ! やりやがったな!」

 

『問答は無用だ、二人とも攻撃を開始しろ!』

 

「了解です!」

 

 火炎を避けた後、クリスは宿那山の正面に立ちガトリングとミサイルで頭部を攻撃する。

 宿那山は両腕を組み頭部を守るが、クリスとしてもそれは、ダメージではなく視線を奪うための攻撃だった。

 

(貰ったッ!)

 

 その隙にイグナイトを纏った響が、宿那鬼の背後へと回り込み攻撃を開始する。

 狙いは、生物の弱点である後頭部だった。

 パワーアップした響の拳が届きそうになった時、鬼の白髪が不気味に持ち上がった。

 

「なっ?!」

 

 そこから姿を覗かせたのは、鬼のもう一つの顔。

 “二面鬼”の名の通り宿那鬼は、正面と後頭部に二つの顔を持つ鬼だったのだ。

 

「うわっ!?」

 

 宿那山は、後ろの顔から突風を発射し、響の軽い体を簡単に吹き飛ばしてしまった。

 

「くっ! やったなぁッ!」

 

 木々をクッションに起き上がった響は、再び目の前の鬼を睨み返した。

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

「さて、行くがよい童よ。あとこの身体の持ち主のこと、よく頼んだぞ。中々素質のある女子ゆえ、しっかり支えてやるがよい」

 

「えっ? あ、ちょっと待って!」

 

 しかしユウの静止も聞かず、突如翼の身体が糸の切れた人形のように力を失い崩れ落ちる。

 慌てて受け止めたユウは、近くの木に背を預けさせ、そっと眠らせておく。

 

「全くもう! 勝手なんだから!」

 

 ぷりぷりと怒りながらも、ユウはスパークレンスを手に持つと、それを天に掲げた。

 

『――デュアッ!』

 

 姿を現したウルトラマンティガが高らかに吠える。

 その存在の大きさに気がついた宿那鬼は、狙いをクリス達からティガへと変えた。

 巨体な体には似つかわない、身軽な動きでティガへと接近すると、獣のような両腕を豪快に振るう。

 しかし格闘能力ならティガに分がある。

 最小限の動きで捌いたティガは、逆に拳と蹴りを叩き込む。

 

『ウォオォッ!!』

 

 重い打撃にタタラを踏んだ後、宿那鬼は頭部を下げその巨大な二本ヅノでティガを貫こうと突進する。

 

『チャァッ!』

 

 だがティガはそのツノを両手でがっしりと受け止めると、顔面に膝を叩き込んだ後、巴投げの要領で投げ飛ばした。

 宿那鬼はすぐさま起きあがろうと膝をつくが、そこへティガの追撃が決まる。

 

『チャッ! タアァッ!!』

 

 ワン・ツーの後に回し蹴り、ティガの強力なコンビネーションに、宿那鬼は思わず背を向けた。

 勿論このチャンスを見逃すティガではない、背を向ける宿那鬼へと組み着こうと試みる。

 

「ティガ、気を付けて!」

 

『ウオォッ!』

 

 その光景に響が警告を促すがもう遅い。

 宿那鬼の背後から組みついたティガの目前に、もう一つの鬼の顔が姿を見せた。

 

『ッ?!……ヂャッ!?』

 

 驚くティガの顔面に、凄まじい突風の塊が叩き込まれる。不意の一撃に踏ん張りが取れなかったティガは、吹き飛ばされ近くの廃屋を壊しながら倒れた。

 

『フンッ!』

 

 宿那鬼は付近の山への腕を突き刺す、するとそこから身の丈程の巨大な剣を抜き出した。

 二度三度と確かめるように素振りする、たったそれだけの動作で激しい風圧が森を揺らす。

 自分の腕に剣を滑らせ構えると、立ち上がろうとするティガへと斬り掛かる。

 

『……チャッ!』

 

 ティガは咄嗟に転がり刃から逃れる。しかしティガの背後にあった山の上部が、ズルリとスライドし崩れ落ちた。

 

「山を……斬りやがった」

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

「ん……んんぅ……あれ? 私は……?」

 

 轟音に揺さぶられ、翼が目を覚ます。

 寝惚け眼を擦り、微かに痛む頭を振りながら周囲を見渡す。

 

「アレは、ティガと…………夢に出てきた鬼?」

 

 すると遥か向こうで戦うティガと鬼の姿が目に入った。

 なぜこんな状態になっているのか、分からない事は多いが、今自分がすべき事は直ぐに分かった。

 

「Imyuteus amenohabakiri tron……」

 

 詠唱を唱え、天羽々斬を見に纏いアームドギアをその手に構えた。

 

『ふむ……未来の女子とは、なんとも面妖な格好をするものだな』

 

「――えっ?」

 

 しかし翼が構えていたのはいつもの剣ではなく、先程手にした日本刀だった。そして翼は、自分がいつの間にか自分の意思以外の言葉を紡いでいる事に気が付いた。

 

「え? えっ?!

 

『うむ、まだ力が物足りないがこの姿なら奴とも戦う事が出来るかもしれん。すまぬが女子よ、共に戦って貰うぞ?』

 

 困惑する翼をよそに、刀を通じて別の声が重なる。それは、夢で聞いたあの古めかしい響きだった。

 

「ま、まさか貴女は、さっきの夢に出てきた景竜どのなのか?」

 

『いかにも、奴を倒すのにこの刀の力が役立つだろう。お主には剣の才がありそうだ、この刀を使い“光の人”を助けるがいい』

 

「な、なんて投げやりな……いや今はそんな事を言ってる場合じゃない! 戦場に向かは無くては!!」

 

 まるで多重人格のように交互に意識が切り替わるのを、鬱陶しく感じながら、翼は抜き身の刀を手に皆の居る戦場へと向かった。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

『ウォオッ!!!』

 

『――フッ!?』

 

 刀というより牛刀と呼ぶのが正しい程に分厚い刃、ティガは身を屈め避ける、避ける、避ける。

 避け切れない攻撃は、両腕にエネルギーを込め硬化し受け止める。しかしそれでも防ぐのが手一杯で、反撃に回れないでいた。

 

「ハアァッ!」

 

 《蒼ノ一閃》

 

 そんな時、降り注いだ蒼い刃が、宿那鬼の頭部を捉え火花を散らす。その衝撃に鬼はたたらを踏み、ティガとの距離が離される。

 戦場に降り立った青い影、それは一本の日本刀を構えた翼だった。

 

「翼さん!」

 

「先輩、無事だったかよ?」

 

「心配をかけてすまない立花、雪音――――おお、先程の女子か久しいな、もう一人は奇抜な髪色をしておるな?」

 

「「はあぁ?」」

 

 まるでいきなり人が変わったかのような翼の喋り方に、二人は間抜けな声をこぼしてしまう。

 反対に翼は、そんな二人を見て、申し訳なさそうにしている。

 

「いやすまない二人とも、実は今大変面倒な事になっていてな、どう説明したものか――――うむ、若いのに色々と大変だな。しかし苦労というのは若い時にこそ――――勝手に喋らないでくださいっ!!」

 

 まるで自分一人で漫才してるかのような光景。しかし響は、普段の翼以上に古風な喋り方をするその姿に、思い当たる事があった。

 

「も、もしかして……さっきのお侍さん、ですか?」

 

「いかにも。しかしお主達、随分と破廉恥な格好をしておるものよな、女子ならもう少し慎みを持つものぞ?」

 

「なっ!? せ、先輩に言われたくねぇよ!」

 

「今言ったのは、私じゃないっ!!」

 

 シンフォギアの姿をまじまじと見られ、恥ずかしそうに体を隠すクリス。冤罪をかけられ、翼もつい声を荒げてしまう。

 

「お主達、遊んでいる暇は無いのではないか?」

 

「「「誰のせいだ、誰のッ!!!」」」

 

 マイペース過ぎる魂のみの侍に、一斉にツッコミを入れる。

 三人と一魂がそんな事をしている間にも、戦いは激化している。ティガは再び宿那鬼が手にした大剣を苦戦しながらも巧みに躱していた。

 

『ウォオッ!!!』

 

『デュアッ!』

 

 宿那鬼の突きを回避した後、両腕を抱えるように掴み動きを制限させる。

 そこからティガは肘を数回叩きつけ、怯んだ隙に蹴りを与え距離を離した。

 

『ウォオオオオオォッ!!!』

 

『………………』

 

 宿那鬼は怒りの雄叫びを上げながら、大剣を上段に構える。小細工を抜きにした渾身の一撃を狙い力を込めている。

 対してティガは、静かに足を開き半身に立つ、そして両手のひらを重ねズラし、左腰溜めに構えた。

 

「居合か?……」

 

 翼はその構えに見覚えがある。

 右の手刀を刀剣の代わりとして静かに構える居合のような型、ティガもまた必殺の一撃を狙っていた。

 

(腕だけじゃなくて腰と背中の回転……そして、心を研ぎ澄ませ、相手の気配を読む…………)

 

 翼の教えを思い出し、ユウは瞳を閉じる。

 真っ暗な視界の中で、ぼんやりと目立つ宿那鬼の邪な気配を感じ取った。

 間合いを測り、一撃のタイミングを測る鬼と巨人。その張り詰めた空気に皆が息を呑む。

 

『ウォオオオオォッ!!!』

 

 先に動いたのは宿那鬼、ティガはまだ動かない。

 剣の間合いに入った瞬間、鬼は風のような速さで剣を振り下ろす、しかしティガはまだ動かない。

 鬼の刃が煌めき巨人の脳天へと触れようとしたその瞬間、ティガの目がカッと眩やいた。

 

『デュアッ!!』

 

 一瞬青い光が点滅すると、巨人の姿が消え、宿那鬼の真後ろに右の手刀を振り抜いた《スカイタイプ》のティガの姿があった。

 数秒の静寂の後、宿那鬼の首がぐらりと回転し、体から離れ地に落ちた。

 

 《スカイ・サンダーダッシュ》

 

 すれ違いの瞬間、一瞬にしてタイプチェンジをしたティガは、雷の如く加速しその手刀を振り抜いたのだ。

 

「「やったっ!」」

 

 首の落ちた宿那鬼の体が、炎に包まれ消滅していく。

 その光景に勝利を確信した響とクリスが歓喜の声を上げる。しかし翼こと景竜だけは、まだ喜びの表情を見せていなかった。

 

『………………ッ?!!』

 

「なっ?!」

 

 空を見上げ飛び立とうとしたその瞬間、カレの背後に巨大な影が迫り、ティガの首へと噛み付いた。

 それは宿那鬼だった。

 切り落とされ首だけとなった宿那鬼が、再び動き出したのだ。

 

「アイツ、首だけで動いてやがる……!」

 

「やはりか、では行くとしようか武士達よ」

 

「え? 行くって……」

 

「ヤツは力の殆どを失った。今のヤツなら、拙者達でも討てるだろう。この国の物の怪ならば、拙者達が討つのが役目――――景竜どののいう通りだ、この時代を守る防人である、私達の力を見せてやろうぞッ!」

 

 首だけで動く鬼の姿に一瞬恐怖を覚えかけたクリスと響。しかし景竜と翼、二人の侍の強き心に背を押され、彼女達も同じく戦場へと飛び込んだ。

 

『ヤツは二つの顔を持つ、後ろの顔が出す突風に気をつけるのだ』

 

 翼は右手に刀、左手にアームドギアを構え突貫する。

 後方から向かって来る翼に対し、宿那鬼は髪を掻き上げ後ろの顔を露わにする。

 そして放たれる突風、しかし景竜から既に情報を得ていた翼は、脚部のスラスターで軌道をずれ回避し、二振りの刀を大きな一つ目へと振り下ろした。

 

『グゥオオオオオオオォッ!!!』

 

 翼の刃に一つの目を潰され、宿那鬼は悲痛な雄叫びを上げ離れる。やはり翼のアームドギアよりも、景竜の刀の方が大きなダメージを与えられるようだ。

 

「凄い……イグナイト・モジュールも使っていないのに」

 

『鍛え抜いた技と心があれば、邪な力など必要ない。お主達は、少しこの鎧に頼りすぎておるようだな。得物を生かすかどうかは、その者自身だ。精進しろよ』

 

「は、はい!」

 

 今の翼には景竜の魂が宿っている。

 それによって景竜が元々持っていた力と剣技をシンフォギアに乗せ戦う事が出来るのだ。

 翼は自身のうちから溢れ出すその強い力に、自然と尊敬の念を持っていた。

 

「ヤツの力の源は、あの二本のツノだ。先にそこを破壊し力を弱めるのだ――――了解した。立花、雪音!」

 

「「はい(おう)ッ!」」

 

『ウォオォ……カゲ、タツゥ!』

 

 宿那鬼の矛先は景竜が宿っている翼へと向いている。

 翼は敢えて自分を囮とし、その隙にクリスと響が左右に展開し二本のツノを狙う。

 

「「いっけぇッ!!!」」

 

 クリスは大型のミサイルを四門斉射し、響は反対側から強化した右腕で殴り掛かる。

 力の源なだけあって強固なツノだったが、イグナイトを纏った二人の高火力に派手に砕け散った。

 

『オノレェ……カゲタツゥッ!!』

 

 苦しみながらも、怒りの矛先が翼から逸れることは無い。口が開き、その大きな口の中に炎を溜め翼を撃ち抜こうと狙う。

 しかしそんな事を、カレが許すはずがなかった。

 

『デュアッ!』

 

 炎が放たれようとしたその瞬間、割り込んだティガが跳躍し、宿那鬼のもう一つの目を目掛けて強力な膝蹴りを叩き込む。

 当然そんな一撃を喰らった宿那鬼は苦しみ悶え、炎の発射はキャンセルされる。

 その隙をつき、翼は鬼の首へと突っ込んだ。

 

『今だ、拙者の技をお主に託そう。お主の思い描いた通りに剣を振ってみろ』

 

「はいッ!」

 

 目を閉じリラックスする、すると翼の脳裏にかつての宿那鬼を退治した女侍の姿が映り出される。

 その映像の中の侍の動きをイメージしながらも、翼は自身の技に繋げていく。

 知らぬうちに、翼の持つ刀が青白い光を放っていた。

 

 《蒼ノ一閃・鬼斬》

 

 過去の侍の剣技と、現代の侍の剣技が合わさり、新たな技となって宿那鬼の頭部を切り裂いた。

 

『オ……オオォ…………オノレェ、カゲタツゥッッ……!!!』

 

 鬼の頭部が青白い炎に包まれ浄化されていく。

 その全てが燃え尽きる最後まで、宿那鬼は景竜への怨みの言葉を吐き続けていた。

 

 ――宿那鬼討伐。

 

 

 

『光の人よ……』

 

(……景竜さん?)

 

 ティガとなったユウの頭の中に、景竜の声が響く。

 その声は薄れており、宿那鬼を退治した事で彼女が消え去りかけているのが分かる。

 

『強者とは常に孤独だ』

 

(孤独?)

 

『強者は、勝ち続けなければならない。勝ち続ける為に孤独になる……お主は耐えられるか?』

 

(強者は勝ち続ける、か……なら、ぼくには関係ないよ)

 

 ユウは優しい心の声でハッキリと答えた。

 

(ぼくは小ちゃくて弱い存在だもん。だから孤独になんてならない、皆んなと一緒に“守る為”に戦う)

 

 勝ち続ける為ではなく守る為に。自分は強者ではなく弱者。同じく怪物と戦う者であっても、景竜とユウの心に宿しているものは全くの別だった。

 

『そうか、ならば何も言うまい。さらばだ光の人よ、負けるなよ――』

 

 そう言い残し、景竜の魂もまた役目を終え、この世から消え去ったのだった。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

「なんか今回は、いつも以上に疲れた気がするな〜」

 

 作戦を終え本部へと帰投したクリスは、ソファーで寛ぎつつ溜息を吐いた。

 山の調査には参加しなかったが、伝説の鬼神やらそれを退治した侍だとか、オカルトな要素に振り回される事が多く、肉体よりも精神的な疲れが多かった。

 

「っていうか翼、お前それ持って帰って来たのか?」

 

 奏が翼の手に握られた太刀を指差す。

 元々が宿那鬼を封じる為のお堂と刀であり、宿那鬼が完全に倒された今、古くなったお堂は取り壊されこの刀は不要とされた。

 それを聞いた翼が、是非にと頼み景竜の刀を譲ってもらったのだ。

 

「捨てちまえよ、そんな刀。また取り憑かれちまうかもしれないだろ?」

 

「そう言うな雪音。まぁ確かに、色々アレな人物なのは確かだが、剣士としての腕と心意気は本物であり、尊敬できるお人だったぞ」

 

 勝手に翼に取り憑いた事に、奏やマリアと言った面々は怒りを燃やしていたが、当の翼自身が意外と満足している以上何も言えない。

 

「景竜どのは、言っていた。“得物を生かすかどうかは、その者自身だ”とな。今回の一件は、私自身の未熟さを知る良い機会だった」

 

 シンフォギアも纏っていないただの人が、アレだけの強さを持っている。弦十郎や緒川と言った人物を見て来たが、直接取り憑かれた事で自分の修行不足をより感じ取る事が出来た。

 

「でも、いつもの翼お姉ちゃんに戻って良かった。また刀振り回されたら危ないもん!」

 

「「「またぁ?」」」

 

「うん。翼お姉ちゃんを見つけた時に、斬り掛かられて――」

 

 ユウは景竜とのやり取りを話す。

 斬られそうになった話、通信機を壊した話、翼のビジュアル面やスタイルに文句を言っていた話。

 ユウは何処か笑い話のように話すが、その為に皆の表情から笑みは消えていく。

 

「……なぁ先輩、やっぱその刀折ろうぜ?」

 

「それはやり過ぎた。しかし、当分はぬか漬けにでもしておこう」

 

 翼の目は笑っていなかった。

 この後、景竜の刀は弦十郎の屋敷でぬか漬けとなり封印され、当分忘れ去られるのはまた別のお話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ☆






 今回は外伝的なお話として、好きな話をピックアップしました。
 こんな風に合間にティガの好きな話も混ぜていきたいと思います。

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