シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第四十五話 海の日の精神修行

  

 

 

 

 

 キャロルとオートスコアラーの襲撃から数週間が経過した。

 初めての襲撃から怒涛の展開の連続だったが、今では嘘のように静寂さを取り戻していた。

 

「壊されたイガリマと……」

 

「シュルシャガナの改修完了デス!」

 

 そんな中、エルフナインとナスターシャの協力により、調と切歌のギアも改修が完了していた。

 

「機能向上に加え、イグナイトモジュールも組み込んでいます。それと……」

 

「復活のアガートラーム……」

 

 ナスターシャが、手に持ったギアペンダントをマリアへと差し出した。

 それは亡き妹の形見であるアガートラーム。その力の証が今マリアの元へと戻って来たのだ。

 

「改修ではなく、コンバーター部分を新造しました。マリア、一度神経パスを通わせている貴女なら、問題なく身に纏えるはずです」

 

「ありがとう、マム。セレナのギアを……もう一度。この輝きで、私は強くなるわ」

 

 これはただのアクセサリーではない、愛する妹の平和を願う想いの証である。

 ナスターシャから受け取った胸の内に抱きしめ、マリアは改めて戦う覚悟を心に刻む。

 

「うむ。新たな力の投入に伴い、ここらで一つ特訓だ!」 

 

「「「「「特訓っ?!」」」」」

 

 機嫌の良さそうな弦十郎による唐突な提案に、装者達は一斉に間の抜けた声を上げた。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

「あははっ! 気持ちいい〜!」

 

 真夏の太陽が容赦なく照りつける浜辺。

 澄み渡る青空の下、ユウは裸足で波打ち際を走り回り、足元でパシャパシャと水しぶきを上げていた。

 

『オートスコアラーとの再戦へ向け、強化型シンフォギアと、イグナイトモジュールを使いこなす事は急務である! 近く、筑波の異端技術研究機構にて、調査結果の受領任務がある。諸君らはそこで、心身の訓練に励むと良いだろう!』

 

 それが翼達が弦十郎から与えられた指令だった。

 現在弦十郎達が研究機構に向かっている間、彼女達は付近のプライベートビーチで特訓を行うこととなった。

 

「くっ! なんてタフなメニューの連続なんだ……」

 

「奏さん、いつの間にこんな鬼畜なトレーニングを……」

 

 真っ白な砂浜に膝をつく翼と調。

 二人だけで無く、息を切らし汗だくとなった水着姿の装者達が、奏とエルフナインが用意したトレーニングに屈していた。

 そんな彼女達の手には、カラフルなビーチボール。

 もちろんこれ自体は、トレーニングでも何でも無く、息抜きのレクリエーションなのだが、彼女達を苦しめているのは別の要因であった。

 

「つ、次は先輩からのボール……だぜ」

 

「わ、分かってるッ!!」

 

 装者達が立ち上がる。ビーチボールを手に持った翼が、頭上に高く上げる。

 

「はあッ!」

 

 気合いと共にボールを打ち出そうとした瞬間、彼女の耳に甘い声が届く。

 

「翼お姉ちゃん、頑張ってー!」

 

 砂浜の上を裸足で跳ねながら元気よく手を振るユウ。勿論彼も水着である。

 海水パンツにいつもより薄地のパーカーを軽く羽織った格好。インナーは無く、ざっくりと下ろしたファスナーのしたから、白く柔らかそうな肌が覗かせていた。

 

「……フ、フヒヒッ!」

 

「喝ッ!!!」

 

「――あいった!?」

 

 だらしなく鼻の下を伸ばしていた翼の後頭部に大きなハリセンが叩き込まれる。

 衝撃に突っ伏して倒れる翼の後ろには、ハリセンを肩に担いだ奏が、鬼の形相で彼女達を見ていた。

 

「まったく、そろそろ学習しろお前ら!」

 

「そんな! こんな魅力的な状況で精神統一など不可能デスよ、奏教官!」

 

「黙らっしゃい!! 最近のお前達は、煩悩に正直過ぎるんだよ! 今日という今日は、その煩悩まみれの頭叩き直してやるからな!」

 

  イグナイトモジュールを制御するには、強い精神力が不可欠。

 その訓練のために奏とエルフナインが考案したのが、“どんな誘惑の中でも心を乱さない”という過酷すぎる修行だった。

 しかし《愛する弟》と《水着》という最強の合体に、煩悩まみれのショタコン軍団の精神は耐えられずハリセンの嵐を喰らっていた。

 

「お姉ちゃん達、大変そうだね?」

 

「そうだね〜。もし私だったら発狂しちゃってたかも〜」

 

「あはは! 未来お姉ちゃんったら冗談ばっかし〜!」

 

 皆の特訓を見守りながらユウと、鼻の下を伸ばした未来は、少し離れたパラレルの下で休んでいた。

 

「ほらほらユウく〜ん。日焼け止め塗ろうね〜!」

 

「えー別にいらないよ? 日焼け止めって、ぬるぬるしてて嫌いー」

 

「だめだめ〜。ユウくん綺麗な肌してるんだから、日焼けしちゃったら勿体ないでしょ〜? ほらほら、良いではないか良いではないか〜! ウヘヘ!」

 

「やーん!」

 

 膝の上に乗せたユウに、未来は鼻息を荒くしながら半ば無理矢理日焼け止めを塗っていく。

 そんな光景を、響達は羨ましそうに見つめていた。

 

「おいコラずるいだろ! 何でお前だけ!!」

 

「だって私は、特訓関係ないも〜ん」

 

 未来が笑顔で舌を出す。

 この特訓はあくまで装者たちのためのもの。お手伝いとして同行している未来には、一切関係がない。

 正直、未来の暴走気味な“愛情表現”も矯正したかったが、奏は苦い顔で黙って頷いた。

 

「ほらほら! よそ見してないで次、響!」

 

「は、はい! 煩悩退散煩悩退散煩悩退散……」

 

 まるで念仏の様に唱え雑念を祓い、響はビーチボールを打ち上げる。青空の下をフワリと浮かび上がるカラフルなボールは、エルフナインの方へと落ちていく。

 

「行ったよ、エルフナインちゃん!」

 

「は、はい! そぉ――あれ?」

 

 まるでスローモーションのように落ちてくるボール。

 しかし打ち返そうとしたエルフナインは、豪快に空振りそのまま転んだ。

 

「な、なんでだろう? 強いサーブを打つための知識はあるのですが、実際やってみると全然違うんですねぇ?」

 

「背伸びをして誰かの真似をしなくても大丈夫。もっと優しく、こんな感じに」

 

 お手本を見せるように、マリアが脱力した状態で軽くボールを叩くと、ボールは綺麗な山なりの起動でクリスの方へと飛んで行った。

 

「弱く打っても大丈夫。大事なのは、自分らしく打つことだから」

 

「はい、頑張ります!」

 

 エルフナインとマリアが笑顔を交わし、鬼教官・奏の監視のもと、再び地獄の特訓が再開された。

 その後暫くビーチバレーを繰り返した後、心身の限界を迎えた装者たちは、それぞれビーチチェアに寝転がっていた。

 

「地獄の特訓だった……」

  

「何処のどいつだぁ~? “こんなの余裕だ”なんて言いやがった無責任やろうは……」

 

 翼を睨みつけながらクリスは、溶けるようにビーチチェアにへばりついている。もう数えるのも面倒な程のハリセンをくらい、彼女達の頭からは謎の湯気が立ち上っていた。

 そんな中、唯一無傷のエルフナインは、パラソルの端からわずかにのぞかせる太陽を見上げる。

 

「晴れてよかったですね」

 

「昨日、台風が通り過ぎたおかげだよ」

 

「日ごろの行いデース!」

 

「あらそう? なら夏休みの宿題は、順調に進んでるのよねぇ?」

 

「デッ?! そ、それはぁ〜……」

 

 マリアに痛いところを突かれ、切歌は自然を泳がせる。実際はほぼ白紙状態なのだが、そんな事を知られればマリアを経由してナスターシャにまで伝わり、二人がかりの雷が落ちるだろう。

 

「ゆ、ユウは夏休みの宿題どうなってるデスか〜?」

 

 その光景が目に見えていた切歌は、誤魔化すように隣でジュースを飲んでいるユウへと視線を向けた。

 

「ぼく? もう終わらせたよ」

 

「え、もう? ずいぶん早く終わらせたんだね」

 

「うん! だってこの夏休みは、お姉ちゃん達といーぱい遊びたかったんだもん!」

 

(((キュン!)))

 

 真っ白な歯を見せて笑うユウの笑顔に、彼女達の胸がときめく。自分達と過ごす事を心から楽しみにしてくれている少年の純粋さにハートを撃ち抜かれ、彼女達の鼻息が荒くなり始めた瞬間。

 

「――喝ッ!!!」

 

「「「あいったッ!!?」」」

 

 再び奏のハリセンが降りかかる。何故かついでに未来も巻き込まれていた。

 

 

 

  ☆

 

 

「「「コンビニ買い出しジャンケンポンッ!!」」」

 

 装者達にとって地獄の特訓もひと段落した後、空腹を感じた彼女達は、飲食物の補給の為当番を決めていた。

 

「あはははは! 翼さん変なチョキ出して負けてるし!」

 

「変ではない! かっこいいチョキだッ!」

 

「斬撃武器が……」

 

「軒並み負けたデス!」

 

 珍しくも勝負は一瞬で決まった。負けたのは翼、調、切歌、皮肉にも自信が信頼する武器属性が敗北を引き寄せ、三人は盛大に落ち込みながら買い出しに向かう準備をする。

 

「好きな物ばかりでなく、塩分やミネラルを補給出来るものね。あと翼」

 

「どうした?」

 

 マリアは、自分のカバンから取り出したサングラスを、翼へと掛けた。

 

「貴女は人気者なんだから、これ掛けていきなさい」

 

「ぷぷっ、まるで母親だな!」

 

 どこか母親めいた口調に、背後からくすくすと笑い声が漏れる。

 

「黙りなさいクリス。そんな歳じゃあないわよ」

 

「ふーん……」

 

 ニヤニヤと笑うクリスは、少し離れたところで響たちと話しているユウの首に腕を回した。

 悪戯っ子のような笑みを浮かべ、耳元でひそひそと囁く。

 

「なぁ、ユウ……ちょっと協力してくれよ」

 

「んー? うん、いいよ!」

 

 数回頷いた後、ユウはニッコリ笑ってマリアのもとへ駆け寄った。

 

「えへへ! マリアお母さん、だ〜い好きっ!」

 

「っ!!!!!???」

 

 両手を胸元に寄せ上目遣いで見つめた後、まるで子犬のような甘えた声の愛の言葉。

 その仕草と耳障りの良い声に、脳内がシェイクされグルグルと目を回した後、マリアは鼻血を垂らしながらユウを強く抱きしめ叫んだ。

 

「私がお母さんよっ!!!」

 

「喝ッ!!!」

 

「ぐはっ!――くっ……不覚……(ガクッ)」

 

 それだけ言い残しマリアは砂浜へと沈んだ。

 

「ニシシッ♪」

 

(((あれは、しゃあない……)))

 

 イタズラが成功したクリスは笑みを浮かべ、他の皆も逃れようのない罠にかかったマリアに同情し合掌していた。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 しばらく歩き近くのコンビニを発見した翼達は、頼まれた買い物を終え帰路に着こうとしていた。

 

「切ちゃん自分の好きなのばっかり……」

 

「こういうのを役得と言うのデース!」

 

「マリアに叱られちゃうよ?」

 

「その時は、調も一緒だから怖くないデス!」

 

「もう〜。分かった、でも宿題の事までは責任持てないからね?」

 

「う、バレていたデスか……」

 

 仲のいい二人のやり取りを静かに見ていた翼は、ふふっと笑みをこぼしていた。

 

「相変わらず二人は姉妹のようだな」

 

「なにを他人事みたいに言ってるデスか?」

 

「えっ?」

 

「翼先輩も、わたし達の大切なお姉さんだもん」

 

「デスデス! お姉さんがいっぱいで、あたし達は幸せものデスっ!」

 

 さも当然のように言い切る二人の姿に、翼は優しく口元を緩めた。

 

「……そうね。私も、大切な姉や弟、そして可愛い妹がたくさんいて幸せよ」

 

「「えへへ〜!」」

 

「あ、ちょっと! 歩きずらいわよ二人ともっ!」

 

 嬉しくなった二人に左右から抱きつかれ、翼はふらふらと体を揺らす。口ではそう言いながらも、翼もまた調達に負けない笑顔を見せていた。

 

 皆が待つ海岸まで後半分というところで、翼達はとある社の前に野次馬が集まっているのを発見する。

 釣られて見てみると、破壊された社の周りに巨大な氷柱のようなものが突き刺さっているのが見える。

 野次馬達は、昨日の台風の影響かと話しているが、切歌達はこの超常的な力に心当たりがあった。

 

「これって……まさか…………」

 

 

 

 

 

 

 そしてその予感は、まさに的中していた。

 

「っ!? ガリィ!!」

 

 翼達の帰りを待つ待機組の前に、水のオートスコアラーであるガリィが姿を見せていた。

 海から噴き出した水柱の上で、バレリーナのように優雅に舞っている。

 

「夏の思い出作りは十分かしらぁ?」

 

「んなわけねえだろ!!」

 

 未来達を守るように前に躍り出たクリスと響は、自身のペンダントを強く握りしめ詠唱した。

 

「Killter Ichaival Tron……」

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron……」

 

 赤と黄色のシンフォギアが戦場に姿を現す。

 すぐさまクリスは、ボウガンを水柱へと向け、こちらを見下ろすガリィへと矢の雨を繰り出す。

 しかし矢がガリィの体を捉えた瞬間、その体は水風船のように破裂した。

 

「「なっ!?」」

 

「どこみてんのぉ?」

 

「「――っ!! うわあぁっ!!?」」

 

 水の分身に気を取られた二人の背後にいつも間にか姿を現していたガリィが、クリス達を吹き飛ばす。

 

「くっ! キャロルちゃんの命令で動いているの!?」

 

「そうとも言えるし、違うとも言える」

 

「ちょっせぇ言い方、してんじゃねぇッ!!」

 

 二人の攻撃をふらりと躱し、ガリィは手に持っていた召喚用テレポートジェムを投げ捨てる。白い砂浜に禍々しい赤黒い錬成陣が出現し、アルカ・ノイズ達が姿を現した。

 

「はっ! いまさらこんな数ッ!!」

 

「ここはわたし達に任せて、マリアさんは未来達を!」

 

 少なくはないが、前回の激戦に比べれば明らかに驚異の数ではない。ましてや対アルカ・ノイズ用に改修されたシンフォギアの敵ではない。

 だがそれでも最悪の事故を防ぐ為、響はマリアに非戦闘員を逃すように促す。

 

「待って。ユウは……ユウはどこに行ったの?!」

 

「ユウくんならさっき、キャンプファイアー用の薪を取りに行くって……」

 

「そんなッ! 仕方ない、ユウを拾って避難するわよ!」

 

 未来とエルフナインを連れ、マリアは少し離れた林のほうへと走った。

 そんな彼女達の動きを見て、ガリィは不敵な笑みを浮かべる。

 

 

 

   ☆

 

 

 

「よっと! とりあえずこれくらい持って行こうかな?」

 

  乾いた薪を両腕いっぱいに抱えたユウは、軽く息を吐きながら踵を返す。

 その瞬間、背筋を撫でるような冷たい気配を感じ取った。

 

「見つけたわよ、ぼくちゃん?」

 

 声と同時に、地面が凍りつくような音が響く。

 ユウは反射的に飛び退いた。直後、彼の足元わずか数センチの地面に、巨大な氷のツララが突き刺さる。

 

「あらら? 避けられちゃった、意外によく動くのね」

 

「ガリィ……さん?」

 

「覚えてくれていて嬉しいわ〜ん! でも、人形なんだから、ガリィって呼び捨てで良いのよぉ?」

 

 嬉しそうに目を細めながら、ガリィはジッとこちらを睨みつけ、ペロリと舌舐めずりをする。まるでヘビがカエルを狙うようにじっくりと、それでいてゆっくり距離を詰めようとする。

 ユウも警戒をしながら、ガリィから目を離さないようにしながらゆっくりと後ろに下がる。

 

「キャロちゃんの命令なの?」

 

「半分正解、半分不正解! マスターは、巨人となったアンタを殺したいみたいだけど。そんな面倒な事せず、変身する前のアンタを潰した方が話が早いでしょ?」

 

 そう言った瞬間、ガリィは幾つもの氷塊をばら撒くように投げつける。

 地面を強く蹴り転がりながら回避したユウ。

 しかし一瞬で距離を詰めたガリィが、腕を突き出して来る。ユウは体勢を崩しながらも、柔らかい体を生かして次々と回避を試みる。

 しかしそれも長く続かない。数分と経たずガリィに首を掴まれたユウは、そのまま木へと押し付けられた。

 

「あっ……ぐぅ……!」

 

「はい、ざんね〜ん」

 

 逃れようともがくが、ガリィの腕はまるで木に打ち付けられた釘のようにまるで動く気配がない。

 そんな彼へと、ガリィは顔を近づけ、舐め回すようにユウの顔を視察する。

 

「……にしってもアンタって、本当に綺麗な顔しているわねぇ? 大きな目、長いまつ毛、透き通った肌、柔らかい唇……想い出の吸収なんて長らく使ってなかったけど、久々の相手が、こんなに美味しそうな子なら文句ないわ〜」

 

「う……んんっ……!」

 

 まるで芸術品を扱うかのような優しく、それでいて滑らかな手つきで顔を撫でられ、ユウはくすぐったさと苦痛の混じった声を漏らす。

 

「大丈夫。痛い事なんてしないわよ? ちょーと、お口とお口をくっ付けるだけ」

 

「え、それって……?」

 

「そ……キ・ス」

 

 妖艶に呟いた後、ガリィは自分の唇を舌で舐める。その仕草でユウの顔色が蒼白する。

 

「い、いや! だめっ……! それはいやっ!」

 

「ほらほら、抵抗すんなっての」

 

 ユウは両手で唇を覆い隠すが、ガリィに掴まれ頭の上に押しつけられる。

 それでも顔を全力で背け口元を隠そうとするが、もはやその程度の抵抗など何の意味も無かった。

 

「それじゃあ、いただきま〜す」

 

 顔を背け、口を紡いでいるユウの唇へと、ガリィの唇が触れそうになったその瞬間。

 

「離れろ、この変態がァッ!!!」

 

 怒りの炎に燃える拳が、青白い人形の頬を打ち抜いた。

 

「ぶっ……ガハッ!」

 

「マリアお姉ちゃん!」

 

「ユウ! 大丈夫だった? 酷いことされてない? 唇は無事?!」

 

 拘束を解かれ、木からずり落ちそうになるユウの体を大切に抱き止めるマリア。慌てて口元を確認するが、マリアの素早い救助により、少年の純潔は保たれた。

 

「やってくれたわね! このハズレ装者がッ!!!」

 

「こっちのセリフだッ!!! うちの子の純潔を汚そうとした罪! 償わせてくれるわァッ!!!」

 

 素手で殴り飛ばされ、プライドを傷つけられたガリィだが、自分達のものであるユウの唇を汚そうとした怒りはそれを超えていた。

 

「星乃さん!」

 

「ユウくん無事っ!? 大丈夫だよ、お姉ちゃんが後で上書きしてあげるからねっ!!」

 

「二人とも、ユウをお願い!」

 

 マリアは、エルフナインと未来にユウを預けると、ペンダントを手に目を瞑った。

 

「Seilien coffin airget-lamh tron……」

 

 マリアの美しい歌声が木々にこだまする。

 力強い詠唱と共に、彼女の身に鏡のように煌びやかな、白銀のシンフォギアが纏われた。

 

「あれが、マリアさんの……!」

 

「はい、新生アガートラームです!」

 

 それこそが、完全なる復活を果たしたセレナの――そしてマリアのシンフォギア《アガートラーム》だった。

 

「銀の腕……それが、お前のギアかッ!!」

 

 飛び退き距離をとったガリィは、錬成陣を展開させ複数のアルカ・ノイズを召喚した。

 久しぶりの実戦、多数に無勢。しかしそれだけの不安要素を抱えていながらも、マリアは冷静に左腕のガントレットから短剣を抜き出す。

 向かって来るノイズの群れ、マリアは短剣に連なるように新たな短剣を生成すると、それらを一斉に投擲した。

 

 《INFINITE † CRIME》

 

 無数の銀の刃がノイズの壁を切り崩し、マリアはそれに続くように突っ込んだ。

 一見頼りなさを見せる短剣だが、マリアのアームドギアはその小さな見た目からは想像できない切れ味でノイズの体を切り裂いてゆく。

 無数のノイズを中央突破していくマリア。しかしそんな彼女を取り囲むように展開したノイズが、四方八方から襲い掛かる。

 だがそれは、マリアの計算の内だった。

 

 《EMPRESS † REBELLION》

 

 マリアは短剣の刃を連らせ、蛇腹剣のように伸ばすとまるで鞭を振るかの如く華麗にぶん回した。

 急激に変化する広範囲の刃の道に、意思を持たないノイズ達が対応出来るはずもなく、瞬く間にその数をゼロへと減らした。

 

(いける……! もう私は、弱いあの頃の自分じゃない!)

 

「ウワーアタシマケチャウカモー」

 

 明らかに棒読みのガリィ。

 マリアは気にした様子もなく短剣を片手に突き進む。

 短剣を逆手に構え、ショートフックの動きで素早く切り掛かるが、ガリィはバレリーナのように優雅であり変則的な動きで舞い捉える事が難しい。何度か体に触れる機会があったが、凍らせ刃と化した右手に簡単に受け止められてしまう。

 

「ほらほら! そんな攻めじゃ届かないよッ!」

 

「舐めるなァッ!」

 

 《INFINITE † CRIME》

 

 蹴りで距離を取らされたマリアは、すぐさま短剣を生成し投げ放つ。

 しかしガリィは周囲に水の玉を複数出現させ、それらが次々と短剣を飲み込み、勢いを殺して止めてしまう。

 

「はい残念〜」

 

「なっ!?」

 

 それだけでは終わらない。短剣を取り込んだ水が今度は凍りつき氷のナイフへと変化する。

 マリアの短剣を自分のものとしたガリィが、お返しとばかりに撃ち放った。

 

「くっ!……」

 

 《EMPRESS † REBELLION》

 

 マリアは転がるように回避し、すぐさま短剣を蛇腹剣に変化させて振るう。

 

「それも無駄ぁッ!!」

 

 ガリィは右腕の氷刃を鞭のように伸ばし、迎撃する。

 

「くっ!……」

 

「あっははははァッ!!」

 

 空中で銀と氷の刃が衝突し合う。

 まるでこちらの得意武器をあえて真似し、実力差を思い知らせるような相手の戦法に、マリアは半ば意地になりながら剣を振るう。

 しかし斬撃の拮抗は次第に押され、マリアの方へと徐々に近づいてゆく。

 

「ああッ……!?」

 

 拮抗が破れ、ガリィの氷刃が地面を抉る。

 その瞬間、地面から氷山のような塊が突き上がり、マリアの体を吹き飛ばした。

 

「強い……! だけど!」

 

「あっはははっ! やっぱりハズレ装者じゃこの程度よね! 正規適合者のお仲間ちゃん達に、代わってもらった方がいいんじゃない?」

 

「――っ!? 舐めるなッ!」

 

 やはりオートスコアラーの性能は、改修したシンフォギアを上回っている。しかし自分達には、新たに手にした“切り札”がある。

 マリアは胸の中心のコンバータのスイッチを押し手に取った。

 

「お姉ちゃん駄目っ!!」

 

 ――だがその腕を、ユウが抱きしめるように止める。

 

「ユウっ!? どうして――」

 

「焦っちゃ駄目だよ。響お姉ちゃん達もすぐ来てくれるから、力を合わせよ? 一人で無茶しちゃ駄目だよ!」

 

「でも……」

 

 ユウは嫌な予感がしていた。

 一見美しく戦う戦乙女のような姿、しかしそんな中時折見せるマリアの表情が、何処か焦りを思わせるのをユウは感じ取っていた。

 そんな荒んだ心でダインスレイフを、コントロール出来るとは思えない。

 

「ほらほら、どうしたのぉ〜? まさかと思うけど、怖くなっちゃったぁ? 弱い奴が過ぎた力を望むなんて、身に過ぎた事をしないほうが良いわよぉ?」

 

「私は……弱くないッ!!!」

 

 《ダインスレイフ》

 

 ユウの静止を振り払ったマリアは、改めてコンバータのスイッチを押し自らへと突き刺した。

 

「ぐっ…………あ、あ゙あ゙あ゙ッ!!!」

 

 胸の内を掻き回されるかのような感覚と共に、マリアの白銀のギアを禍々しい黒いオーラが呑み込んでいく。

 

「弱い……自分を…………殺すんだァッ!!!」

 

 血が滲むほどに噛み締め、力任せに闇を押さえ込もうとする。しかし押さえ込もうとすればする程、己の中の闇はどんどん膨れ上がっていく。

 

「ぐ……グアアアァッッ!!!』

 

「チッ、獣と落ちやがったか……」

 

 舌打ちをするガリィの言う通り、苦痛に苦しむマリアの顔が、次第に獣のような形相へと様変わりして行く。それは正に、あの日響が犯した“暴走”の姿だった。

 

「マリアお姉ちゃんっ!」

 

 膝をつき、獣へと変わろうとしているマリアのそばに寄り添い、ユウは優しく抱きしめる。

 

「落ち着いて。大丈夫だよ、お姉ちゃん。ぼくがそばに居るから、落ち着いて心を沈めて……」

 

『ヴゥ……ウウううう…………」

 

 胸元に頭を抱き寄せ、彼女の耳元で優しい声を投げかける。接触する事で、マリアの周りの闇がユウへと触れるがその瞬間、まるで蒸発するかのように闇は消滅していく。

 

(星乃さんが、ダインスレイフの呪いを中和している? まさかそんな事が……)

 

 ダインスレイフの呪いは、装者だけでなく触れたもの全てを闇に誘う恐ろしいものだ。

 にも関わらずユウには、その闇の呪いがまるで効いていない。それはつまり彼の心の中に、“闇”と呼ばれるものが全くと言って良いほど存在しない証拠だった。

 

「弱くても良いんだよ。強くなくたって、マリアお姉ちゃんは、もっと大切なものを持ってるんだから……」

 

「う……私は、私…………は」

 

 優しい声と共にゆっくりと頭を撫でる。

 そんな少年の光に絆され、次第にマリアの闇が消失していく。

 そしてマリアの身体から、黒いオーラが消失すると、シンフォギアも消失する。

 そしてマリアは、ユウの腕の中で子供のように安らかな寝顔で眠っていた。

 

「チッ、失敗しやがって。まあ良いや、この坊やを改めていただいて――」

 

(何をしているガリィ?)

 

(げっ、マスター?)

 

 当初の目的を果たそうとした時、頭の中にキャロルの念話が響いた。ガリィはイタズラがバレた子供のようにバツの悪そうな顔を見せる。

 

(余計なマネをするな。オレ達の獲物はティガの巨人だ、その小僧には手を出すな)

 

(ふーん。マスターってば、この坊やにはお優しいんですねぇ?)

 

(……………………黙れ。どちらにせよ他の歌女達もそちらに到着する。オレ達の目論見は失敗だ、今は撤退しろ)

 

(はーいはーい)

 

 適当な返事を返し、ガリィはテレポートジェムを使いその場から立ち去った。

 響達他の装者が到着したのは、そのすぐ後である。

 

 

 

 

 

 

 

  






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