シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第四十七話 再会

 

 

 

 

 

 

「がぁああああああああぁァッッ!!!」

 

 チフォージュ・シャトーの中央。

 玉座の下で跪く青い人形に、黄色い雷撃が容赦なく飛来し、叫び声が轟く。

 

「何故使命を無視した、ガリィ?」

 

 右手から放った雷撃を納め、主人キャロルが冷たく問いかける。答えねば再び放つとでも脅すように、雷をバチバチと迸らせる。

 

 キャロルが問うているのは、先日の装者達との戦闘の一件。

 本来オートスコアラー達に与えられた使命は、『ダインスレイフの呪われた旋律をその身に受け、チフォージュ・シャトーへとエネルギーを送る』。

 だがガリィは、イグナイトを纏ったマリアの一撃を受けぬまま、命からがらこの城へ逃げ帰ってきた。

 

「…………別にぃ、ただ命が惜しくなっただけですよ〜」

 

 雷撃を受け、焦げついた身体にも関わらず、いつもの調子を崩さずに答えるガリィ。

 その軽薄さが、キャロルの怒りにさらに油を注いだ。

 

「役目を果たす事も出来ず、命を惜しみ逃げ出す人形とはな。残念だよガリィ……お前がそこまで出来損ないだったとはな」

 

 怒りとも呆れともとれる表情で冷たく言い放ったキャロルは、右手をガリィへと翳す。

 その瞬間、ガリィの足元に赤黒い錬成陣が浮かび上がった。

 

「お前の機能を停止する。倉庫で永遠に眠っていろ」

 

「良いのですか、マスター? ガリィが欠ければ必要な力が足らなくなりますが?」

 

 ファラが静かに問いかけるが、キャロルは振り向きもせず淡々と答える。

 

「構わん。方法などいくらでもある。必要なのは“結果”だ。エネルギーさえ集まれば、それでいい」

 

 その言葉とともに、ガリィの体から赤黒い霧のような光が立ちのぼる。キャロルの掌がそれを吸い上げ、まるで魂を搾り取るように奪っていった。

 

「う……ガ、グゥッ!!」

 

 身体を震わせ、ノイズの掛かった声を発しながらガリィは、最後に他のオートスコアラー達を見つめていた。

 

「……ふふっ、後は頼んだわよ、アンタ達……マスター、のタメに……ガガッ」

 

 キャロルの手によって、足元の錬成陣からエネルギー源である“想い出”を抽出されたガリィ。遂に彼女は、糸の切れた動かないただの人形と化した。

 

「……ふん、その役立たずを片付けておけ」

 

 キャロルはその光景を見て、まるでゴミを見るかのように鋭く目を細めた。

 

「お前達もよく立場をわきまえることだ、役に立たないと判断した物はこうなると胸に刻んでおけ」

 

 興味を失ったように視線を逸らし、キャロルは再び玉座に腰を下ろし、そのまま静かに目を閉じると、意識を“向こう側”へと沈めた。

 主人の意識がこの場から切り取られたのが分かった三体のオートスコアラー達は、動かなくなったガリィの下へと近づく。

 

「ガリィ……」

 

「まさか貴女がここまでの覚悟を持っていたとはね……」

 

「その決意に、派手に喝采を贈るとしよう」

 

 両脚を破壊され、雷で焼かれ、エネルギーを抜き取られた姿。彼女と一番付き合いの多いミカは、その無惨な姿を悲しそうに見下ろしている。

 ミカ程では無いが、ファラやレイアも同族のこんな姿を見て何も思わない訳ではない。

 

「マスターのため……か。“人形”としては邪道だが……それもまた、ひとつの“在り方”かもしれない」

 

 レイアの呟きに、他の二体がゆっくりと頷く。

 

「私たちも、“騎士”としての覚悟を決めるとしよう」

 

 三体のオートスコアラーは、顔を見合わせ頷く。

 その瞳は、覚悟を決めたガリィと同じ光を灯していた。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 本日は夏休みの合間の登校日。

 午前中のみの簡単な授業が終わった放課後。帰り支度をしている響を、未来が心配そうな表情で見つめていた。

 

 ――その理由は、あの日。

 海での特訓の夜、買い出しに出たコンビニで偶然出会った“響の父親”が原因だった。

 

「私、余計なことしたかもしれない……」

 

 不安げな未来の声。けれど響は、そんな彼女に振り向いて笑い返した。

 

「そんなことないよ。未来のおかげで、わたしも逃げずに向き合おうって決心がついた」

 

「……本当?」

 

「ホントだって。ありがとう、未来」

 

「うん、わかった……」

 

 それでもまだどこか心配そうな未来に、響は笑って手を振った。

 

「じゃあ、ちょーっと行ってくるから、先に帰ってて!」

 

 教科書を全部鞄にしまい、勢いよく立ち上がった響は未来達に挨拶をした後教室から出る。

 すると廊下の向こうから、鞄を背負ったユウが此方へと駆けてくるのが目に入った。

 

「あ、響お姉ちゃん! 一緒に帰ろ?」

 

 響を発見したユウは、嬉しそうに大きく手を振り、トテトテと愛らしい足音を鳴らしながら近寄ってくる。

 

「ユウくん……ごめんね。今日この後、ちょっと用事があるんだ」

 

「え〜! そうなんだ……」

 

 ユウは大きく肩を落とし落ち込む。しかし彼は、響の表情の違和感に気がつくと、覗き込むように彼女の両瞳を見つめた。

 

「響お姉ちゃん、なんだか辛そうな目をしてる……大丈夫?」

 

「え?……あ、あははっ! 気のせいだよ! ほらほら、へいきへっちゃらっ!」

 

 心の奥底を覗かれたような響は、大袈裟に力瘤を作るような動作で誤魔化す。それ以上を悟られないように、響はその場から逃げるように立ち去った。

 そんな背中を、ユウはじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 街中の小さなファミレス、その窓際のテーブル席に響と、彼女と同じ髪色の痩せた男が座っていた。

 

 彼の名は立花洸、“響の父親”である。

 先日のコンビニで出会い、その時響は思わず逃げてしまった。だが、そんな響を心配した未来が間を取り持ち、今日の父との会合が設けられたのだった。

 

 三年ぶりの親子の再会、しかしその空気は最悪だった。

 二人がテーブルに座り、既に十分以上が経過しているが、その間彼等は無言だった。いつも天真爛漫な響も、珍しくムスッと口を尖らせ黙りこくっている。

 手持ち無沙汰の洸は、足を組み直したり、グラスに刺さったストローを弄ったりなどしているが、その動作が余計に響を不機嫌にさせていた。

 

「……前に、月が落ちる落ちないって騒いだ事件があっただろ」

 

 ようやく洸の方から口が開かられる。しかしそれでも無言を貫く響を見た後、少し間を置いて話を続けた。

 

「あの時のニュース映像に映ってた女の子が、お前によく似ててなぁ……。以来お前のことが気になって、もう一度やり直せないかと考えてたんだ」

 

「やり直す……?」

 

「勝手なのはわかってる……でもあの環境でやっていくなんて、おれには耐えられなかったんだ。なあ、またみんなで一緒に……母さんに、おれの事伝えてもらえないか?」

 

「無理だよ……」

 

 響は短く一言で答えた。

 三年前のライブの後、辛うじて一命を取り留めた。しかしリハビリを経た響を待っていたのは、事故当時の状況がきっかけとなった迫害であった。

 嫌がらせは家族にも及び、それに耐えられなかった洸は、突如家を飛び出しそのまま家に帰ることは無かった。

 大黒柱である父親に裏切られ、心身ともに追い詰められていく感覚を響は忘れられなかった。

 

「一番居て欲しい時にいなくなったのは、そっちじゃない……」

 

 視線を逸らし小さく呟く。

 それが精一杯だった。決して感情的にならないように、それでいて溜め込んだ言葉を漏らす。

 

「……あ、あはははっ! やっぱ無理かぁ。何とかなると思ったんだけどなぁ。いい加減時間もたってるし」

 

 あっけらかんと笑う、洸。

 本気で謝るでもなく、取り繕うような言葉ばかり。

 その軽い調子が、響の胸に楔のように突き刺さった。

 

「覚えてるか響、どうしようもないことをどうにかやり過ごす魔法の言葉。小さいころ、お父さんが教えただろ?」

 

 まるでこの話はもう終わりだと言うように、洸はあっさりと話題を変える。

 本気でやり直したいのなら、もっと誠意を見せてほしかった。そんな軽い言葉で誤魔化されるほど、彼女の心の傷は決して浅くない。

 そんな軽薄な父親の姿に、限界を迎えた響はついに立ち上がる。

 

「待ってくれ響!」

 

 父親の声に響は振り向く。

 淡い期待をしていた。もしかしたら、いなくなってから結構経つから、距離感を掴もうとして失敗しただけかもしれない。

 だが彼女のそんな想いは、突き出された一枚のレシートに裏切られる。

 

「持ち合わせが心もとなくてなぁ……」

 

「――ッ!!!」

 

 高校生の娘に奢ってもらうと言う精神。

 その情けない父親の姿に、かつて“憧れ”だった父の想い出が音を立てて崩れていく。

 ――大好きだった想い出が壊れていく。

 その暴力よりも痛い感覚に耐えられなくなった響は、今すぐこの場から逃げ出したかった。

 

「あ、待ってくれ響!」

 

「離してッ!!!」

 

 向けられたレシートを無視し、響は立ち去ろうとする。

 しかし洸は、慌ててそれを手放し、代わりに響の腕を掴んだ。

 響の大きな叫び声が店内に響き、周囲の視線が一斉に二人へと集まった。

 

「いやァッ!!」

 

 響の声が悲鳴へと変わりかけたその時。

 

 ドンッ――!

 

 突如洸の背後へと小さな何かが、勢いよくぶつかった。

 

「うわぁっ?!!」

 

 その衝撃に洸の体が僅かに浮き上がり、正面テーブルへと衝突した。皿やコップを薙ぎ倒し、ガンガラガッシャーンと激しい音が店内にこだまする。

 

「響お姉ちゃんを、いじめるなっ!!!」

 

「ユウ、くん……?」

 

 洸の背中からぶつかって来たのは、怒りに頬を膨らませたユウだった。

 響の様子がおかしいと思ったユウは、彼女の後をつけ離れた席から見守っていた。二人が何か言い合いをした後、嫌がる響の腕を掴む洸の姿を見た瞬間、ユウはお姉ちゃんを助けねばと駆け出していた。

 

「お、お父さん……」

 

「え?……お父さん?」

 

 放心していた響がぽつりと呟いた言葉を聞き、ユウはようやく自分が押し飛ばした男性が、彼女の父親なのだと知った。

 

「…………っ!」

 

「あ、待って、響お姉ちゃん!」

 

 意識を取り戻し、再び出口へと逃げ出す響を追いかけ、ユウも同じようにファミレスを後にした。

 

「ま、待ってくれひび――」

 

「お客さぁん?」

 

 そんな二人を追おうとした洸の肩に、ゴツく大きな手が置かれる。

 振り向くと、店長らしき長身でガタイの良い男が、こめかみに青筋を立て洸を睨み付けていた。

 

「どぉう言うことなのか、説明して貰いましょうかぁ?」

 

「あ、あははは………………」

 

 店中の睨みつけるような視線が洸へと集中する。

 今彼らから見れば洸は、女子高生に嫌がらせをし、妹らしき可愛い子に妨害され、逃げる二人を追おうとしている不審者でしかない。

 洸はそんな状況に苦笑いするしかなかった。

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

「待って、お姉ちゃん!」

 

 ファミレスから逃げ出した響。

 数分間、息を切らしながら走り続けた彼女は、少し離れた公園の真ん中でようやく足を止めた。

 

「響お姉ちゃ――」

 

 ユウが呼びきるよりも早く、響は彼を抱きしめていた。

 ふわりと柔らかい香りがユウの鼻をくすぐる。しかしそんな優しい香りとは裏腹に、彼女の声は弱々しく震えていた。

 

「お願いユウくん……抱きしめて」

 

「…………うん、いいよ」

 

 ユウは何も言わずに響の背中に手を回す。

 震える響は、痛い程に力を込めて抱きしめて来たが、ユウも負けじと強く強く抱きしめる。

 

「……頭撫でて」

 

「うん、いいよ」

 

「……キスして」

 

「チュッ……うん、何度でもしてあげるよ」

 

 心の傷を埋めるように甘えてくる響。

 そんな彼女の次第に高まる要求に、ユウは全て肯定し受け入れていった。

 暫くして二人は、木陰の広い公園のベンチに座る。

 

「ありがとう、ユウくん……」

 

「良いんだよ。いつだって側に居るから、辛い時は頼って」

 

 膝枕をしてもらいながら頭を撫でてもらっていた響は、少し落ち着いてきたのかゆっくりと口を開いた。

 以前の響なら一人で溜め込もうとしてしまったかもしれない。しかしこうやって素直に甘えられるようになったのは、それだけ少年の存在が、彼女の中で大きくなった証拠なのかもしれない。

 

「……あの人、わたしのお父さんなんだ」

 

「そっか……」

 

 響が何も言わないのなら、何も聞くつもりはなかった。だが彼女が自分から切り出したと言うことは、ユウに聞いて欲しいのだろう。

 

「お父さんの事、嫌いになっちゃったの?」

 

「……分かんない。昔はカッコよくて優しくて、大好きなお父さんだったんだ。……でも、今日会ったら全然違う人になってた」

 

「そっか、それは辛いよね」

 

 響は父親が大好きだった。

 ポジティブで責任感が強く、子煩悩ながら優しく家庭を支える良き父親。

 しかし先程あった男性は、まるで別人と錯覚してしまう程に違う雰囲気へと変わってしまっていた。

 

「…………ユウくんは良いよね。自慢のお父さんがいて……」

 

 思わずそう呟いてしまい、響はハッと息を呑む。

 自分の違い父親を尊敬し誇りに思っている少年を、いつも羨ましく感じていた。

 精神的に疲弊していたせいでつい漏らしてしまったが、それはあくまでも禁句であった。

 彼の父はもう生きて居ないのだから。

 

「ご、ごめん! わたし……」

 

「良いんだよ。きっとぼくも、お姉ちゃんと同じ立場なら、同じような事しちゃってたと思うから」

 

 起き上がり謝罪しようとする響の頭を優しく抑え、再び宥めるようにゆっくりと撫で、彼女を落ち着かせる。

 父親を尊敬しているのは自分も同じだった。

 もし大好きな父親が幻滅するような姿を見せたら。そう思うと、響の気持ちは他人事には思えなかった。

 

「何であんな簡単に、やり直したいとか言えるんだろう。壊したのはお父さんの癖に……」

 

 ユウのキュロットを、シワが出来るほど強く握りしめた後、響はふと力を抜いた。

 

「でも……壊したのはきっと、わたしも同じなんだ……」

 

 確かに出て行ったのは父親だ。しかしそもそもその原因を作ったのは、自分自身である事を思い出したのだ。

 

「それは違うよ」

 

「……え?」

 

「お姉ちゃんは、何も壊してなんか無い。その日の出来事は、ただの事故だったんだよ。誰も悪く無い、言うなら間が悪かっただけ。だから自分を責めたりしないで」

 

 ただの事故を自分のせいだと責めていてはキリがない。

 そんな風に自分を責めようとした響の髪を、ユウは優しく撫でる。その柔らかい手触りに、胸の奥のマイナスな想いが溶けていくような感覚を感じる。

 

「ユウくん……わたし、どうしたら良いんだろ。お父さんとやり直した方が良いのかな、それとも……」

 

「どっちでも良いんじゃないかな?」

 

「えっ?!」

 

 それまで優しく寄り添っていた声が、急にあっさりとした調子に変わり、響は思わず目を丸くした。

 だがユウは、ただ穏やかな笑顔を浮かべていた。

 

「どっちを選んでも、ぼくが響お姉ちゃんの側に居るのは変わらないよ。お父さんと離れることを選んで寂しいなら、ぼくがいっぱい愛をあげるし。お父さんとやり直す為に勇気が必要なら、いっぱい勇気をあげる。どっちを選んでもぼくは響お姉ちゃんの味方だから。……だから、ゆっくり選んで」

 

 父親とどうするか、どうなりたいかは他人である自分が決めることでは無い。

 ユウが伝えたかったのは、『どんな選択をしても、響は一人じゃない』ということ。だからこそ安心して自分が納得できる答えを自分で見つけて欲しのである。

 

「ありがとう、ユウくん……」

 

 昼下がりの木陰を、涼しい風が通り抜ける。

 膝の上の柔らかい感触と、少年とは思えない甘く清らかな香り。それに誘われるように、ウトウト響のまぶたが閉じられそうになった瞬間。

 響の端末に急遽通信が入った。

 

「わ、わわわっ!? は、はいこちら響っ!!」

 

『アルカ・ノイズの反応を検知した。場所は、地下六十八メートル、共同溝内であると思われる! 切歌くんや調くんにも直ぐに連絡する。我々も現在航行中だ、先に向かってくれ』

 

「分かりました!」

 

 弦十郎の指示に強く答える。

 その目は先程までの弱々しい少女のものではなく、一人の戦士のものへと戻っていた。

 

「本当にありがとう、ユウくん。わたし行くね!」

 

「うん! 頑張って、響お姉ちゃんっ!」

 

 笑顔を取り戻した響の首に抱き付き、ユウは最後にその頬へと軽く口付けをした。

 

「ゆ、ユウくん……もう慰めて貰わなくても、大丈夫だよ?」

 

「えへへ! 違うよ。今のは、ぼくがしたかったからしたの!」

 

(か、かわいいぃぃ〜〜〜〜っ!!!)

 

 照れているのか僅かに頬を染め、明るくウィンクするユウ。そんな彼の愛らしさに、一瞬意識が持っていかれそうになる響だったが、なんとか堪え任務へと向かって行った。

 

「頑張ってお姉ちゃん、ぼく達がついてるよ……………………あっ!」

 

 響が公園を去っていくのを見送った後、ユウは彼女を追いかける際、ファミレスでのジュース代を払い忘れていた事を思い出した。

 

「それに、お皿やコップも割っちゃったし……大変、直ぐに謝りに行かないとっ!!」

 

 響が向かった方とは反対方向へ駆け出し、ユウは先程のファミレスへと謝罪する為戻った。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

「ごめんなさいっ!」

 

「アッハッハッ! もう良いんだよ、こうやってちゃんと謝りに来てくれたんからね」

 

 ファミレスへと戻ったユウは、ジュース代を支払った後、店長らしき人物を見つけ、真っ先に頭を下げて謝罪した。大きなガタイの割に心優しい店長は、素直に謝罪するユウを豪快に笑い許してくれた。

 

「本当にごめんなさい。割っちゃったお皿やコップも、ちゃんと弁償します」

 

 しかし今のユウのお小遣いでは、飲食店の食器を弁償するのは到底無理があった。

 父の遺産も、入院中の母の貯金も、形式上はユウの名義になっている。しかし、当然そんな大金を子ども一人に任せられるはずもなく、現在は全て弦十郎が管理しており、ユウはお小遣いとして少しずつ受け取っている状態だ。

 それでもきちんと責任を取りたいユウは、弦十郎に連絡する為携帯を取り出す。

 その時厨房の奥から、疲れた様子の痩せた男が顔を出した。

 

「て、店長……皿洗い、終わりましたぁ〜」

 

 それは先程ユウが突き飛ばした、響の父親である洸だった。

 先ほどユウに突き飛ばされた後、洸は“女学生に絡んでいた不審者”として通報されかけたが、必死に弁明したことで、事情は店側にも伝わっていた。

 しかしその結果「父親なら自分で金払え!」と真っ当に叱られ、結局持ち合わせの足りない分を皿洗いで返す羽目になっていた。

 

「あれ? キミはさっきの……」

 

「響お姉ちゃんの、お父さん……?」

 

 互いの存在を確認した洸とユウは、複雑な感情を込めながら無言で見つめ合っていた。

 

 

 

 

 

 

  

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