シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第四十八話 向き合う時

 

 

 

 

 

「あ、響さん!」

 

「響さんー! こっちデスよー!」

 

「遅れてごめん、二人とも」

 

「いえいえ、あたし達も今来た所デスから!」

 

 響が現場付近へと到着した頃、既に調と切歌も到着し装者が揃うのを待っていた。駆けつけた響を、二人は手を振って迎える。

 

「あれ? 響さん、何かニヤけてません?」

 

「そ、そんな事ないよ?!」

 

「それにデスね……スンスン、この匂いは…………」

 

「さ、さあ〜二人とも! 早く行かないと、人助けがわたし達を待ってるよぉ〜!」

 

 何かに勘づいた二人に、響はわざとらしく誤魔化しながら地下へと向かって行った。もし一人だけユウとの時間を過ごしていたと知られれば、後でどんな制裁が待っているか分からないからだ。

 

「「むぅ〜〜!」」

 

 しかしその誤魔化しも虚しく、調と切歌は不機嫌そうに頬を膨らませる。その嗅ぎ慣れた匂いと、機嫌の良い響の姿から二人の中でもう答えは決まっていた。

 調達は後で翼達への報告とのちの制裁を決め、響の後をついて行くのだった。

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron……」

 

「Various shul shagana tron……」

 

「Zeios igalima raizen ……」

 

 それぞれのギアを身に纏い、彼女達は地下の通路を駆け抜けて行く。

 やがて到達した地下の目的のポイントで待ち受けていたのは、複数のアルカ・ノイズ。そしてその奥の壁際で細工をしている一体のオートスコアラー、ミカだった。

 

「――アイツは!」

 

「この前の……オートスコアラー!」

 

 ミカの姿を認識した瞬間、切歌と調は己のアームドギアを握りしめる力を無意識に強めていた。

 二人の脳裏に浮かぶのは、前回の敗北。

 自分達の全力、それも二人がかりでありながら手も足も出ず良いようにやられてしまった苦い記憶。それが二人の心の奥底に消えない淀みを生み出していた。

 

「来たなァ。だけど、今日はお前たちの相手をしてる場合じゃないんだゾッ!」

 

 右手を壁に翳し、空いた左手に抱えた大量のカプセルを豪快に投げ捨てる。すると更に多くのノイズ達が姿を現し、ミカの姿を覆い隠してしまった。

 

「くっ! 逃げるなデスッ!!」

 

「切歌ちゃん?!」

 

「今度こそ、倒してみせるッ!」

 

「調ちゃんっ!?」

 

 まるで弱い自分達など眼中にないかのようなミカの物言いに、苛立った切歌と調が同時に飛び出した。

 しかし同時に飛び出したせいで、お互いにぶつかりそうになり、つんのめってしまう。

 

「切ちゃんは響さんとノイズを、あのオートスコアラーはわたしが……」

 

「そんな事させられないデス! アイツはあたしに任せて、調は下がってるデスッ!」

 

「二人とも何言って――」

 

 なんと二人はその場で言い合いを始めてしまった。

 しかし当然ノイズは待ってくれない。動きの止まった三人に向けて放たれた攻撃を、散開し回避する。

 

「やああァッ!」

 

 切歌が壁を蹴り、ノイズの群れを飛び越えると鎌を振り下ろす。しかしその刃はミカのカーボンロッドに軽く受け止められ、あっさりと弾き飛ばされる。

 

 《非常Σ式 禁月輪》

 

 今度は反対方向から調が、刃を車輪状に変化させ壁を走り、ミカへと向かって行く。

 

「邪魔するんじゃないゾ」

 

「そんなっ?!」

 

 しかしその突進もミカは片手の力で簡単に受け止めてしまう。その後ミカは、ボールを打つかのように側面から弾き、車輪ごと調を吹き飛ばしてしまった。

 

「あうっ……!」

 

「まだまだデスッ!!」

 

 調が体勢を崩し、今度は切歌がミカへと向かって行く。

 切歌がやられれば調が向かい、調がやられれば切歌が向かう。しかしその攻めは明らかにバラバラであり、各個撃破されるだけだった。

 

「切歌ちゃん、調ちゃん! バラバラに攻めちゃダメだよ! せめて一緒に――――」

 

 二人がミカのみに集中している為、実質一人でノイズを相手している響が声を上げる。しかし完全に頭に血が昇っている二人には、まるで聞こえていなかった。

 

「「あっ……!?」」

 

 ついに二人は、ミカに攻撃を仕掛ける前に空中でぶつかってしまう。そのまま二人はもつれ合い、転がるようにして地面へと落ちた。

 

「……お前達、何がしたいんだゾ?」

 

 二人の互いの足を引っ張り合うかのような動きに、敵である筈のミカですら呆れてため息をついていた。

 

「何で邪魔するデスか、調ッ!!」

 

「切ちゃんこそ、わたしの前に出て来ないで!」

 

「こっちのセリフデスよ! 調を守るのはあたしの役目なんだから、後ろから援護してて欲しいのデスゥ!」

 

「そんな事頼んでない! 切ちゃんこそ下がって。わたしの命は切ちゃんに助けて貰ったもの、だから切ちゃんを守る為に使うんだ!」

 

「そんな事勝手に決めないで欲しいデスッ!!」

 

「勝手なのはどっちッ!!」

 

 ついにその場で喧嘩をし始めてしまう二人。

 本来ならこういう時は、マリアやナスターシャに喝を入れて貰うべきなのだ。しかし地下深いこの場では通信を試みる事が出来ない。

 そんな調達へと容赦なくミカは、片手を翳し掌から炎を放った。

 

「調ちゃん、切歌ちゃん、危ないッ!!?」

 

「「――っ!? うわぁあッ!!!」」

 

 響の呼びかけのお陰で一瞬素早く反応できたが、避け切ることはできず切歌達は、爆発の余波で壁へと叩きつけられた。

 

「駄目、このままじゃ……」

 

 思った以上のノイズの数に、響はイグナイトモジュールを起動する暇すら与えて貰えない。一仕事を終えたのかミカは手を離し、倒れ伏した調達へと近づいて行く。

 

「ヒヒヒッ! どうしたんだジャリンコ共、この前の方がマシだったぐらいだゾ? やっぱジャリンコじゃ相手になんかならないんだゾォ〜!」

 

「な……めるなデスゥッ!!」

 

「今のわたし達には、“コレ”がある!」

 

「駄目、二人ともッ!」

 

 宿敵であるミカに見下されるように挑発され、立ち上がった二人は、怒りのまま胸のコンバータへと手を伸ばす。

 しかし今の彼女達の精神状態ではイグナイトをコントロールする事が出来ないのは、第三者である響から見ても明らかだった。

 

「「イグナイトモジュール抜剣ッ!」」

 

 感情に任せたまま二人はコンバータのスイッチを押し込んだ。しかし彼女達の思いとは裏腹に、コンバータは反応せず無音を貫いていた。

 

「は、発動しない……?!」

 

「何でデスかっ!!?」

 

(これは、ナスターシャさんが言ってた“セーフティ”……?)

 

 理解が追いつかずスイッチを何度も押し直す調達だったが、一人冷静に戦況を見ていた響は、その理由が分かっていた。

 響は先日の海での一件の後の、ナスターシャ教授との会話を思い出す。

 

『全くマリア、感情のままにイグナイトを使用し、あまつさえ暴走しかけるとは……どれだけ危険な力かは、事前に伝えていた筈でしょう?』

 

『ご、ごめんなさい……マム』

 

 母のような口調で叱るナスターシャに、マリアは小さく肩を落とす。

 その姿を、翼と奏が気遣うように見つめていた。

 

『やはり“暴走”は危険です。ですので貴女達のギアに新たに改修を加えておきました』

 

『改修……デスか?』

 

『はい……貴女達の精神状態を事前に察知し、もし暴走の危険性が高いようなら、自動的にセーフティが掛かるようにしておきます。これで暴走の危険は大きく減るでしょう』

 

『でもマム……それだといざという時に……』

 

『……そうです。ですからこそ、あなた達は“自覚”を持って戦わねばなりません。力に溺れず、己の心を保ちなさい。それが戦場に立つ者の責任です』

 

 暴走の危険は減るが、いざという時にイグナイトを使用できず敗北の可能性が高まるという事でもある。

 危険性よりも安全性を考慮した改修であるが、同時に暴走し辺りを巻き込むぐらいなら、そのままやられてしまった方が良いという厳しい判断でもあった。

 

「何で……何でデスかッ!!」

 

「くっ…………!」

 

 しかしそんな出来事も、今の冷静さを失っている二人の頭からは抜け落ちていた。

 いや例え覚えていたとしても、『自分の精神が不安定だ』などとは、自身では気が付かないのかもしれない。

 

「歌わないのかぁ? 歌わないと死んじゃうゾ!」

 

 二人の様子を焦ったそうに見ていたミカだったが、ついに限界を迎えたのか左掌から火炎を放射した。

 

「「ああァッ!!?」」

 

「切歌ちゃん、調ちゃん!!」

 

 ミカの放った炎は、足元へと着弾し爆発を起こすと、切歌と調を吹き飛ばした。倒れ伏した二人へと、ようやくノイズを駆除した響が駆け寄る。

 

「ニヒヒッ!」

 

 ミカは笑顔を見せながら三人へと掌を向け炎をチャージする。響は二人の盾になろうと両手を広げ前に出る。

 だが、今にも火炎を放とうとした時、ミカの脳裏にファラからの念話が入った。

 

『――道草は良くないわ、ミカ』

 

「正論かもだけど……鼻につくゾ!」

 

 舌打ちと共に、ミカは炎をかき消した。

 そして、不満げに肩を竦めると、その場を後にする。

 後に残ったのは、傷だらけになった調達とそんな二人を介抱する響だけである。

 

「響……さん、わたし……また何も…………」

 

「う、ううぅ…………」

 

 調と切歌は、自分の無力さを痛感し、涙を流しながら意識を失うのだった。

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 丁度昼の三時を過ぎた頃。

 街のファミレスの窓際の席に、ユウと洸が向かい合って座っていた。

 どちらも複雑そうな表情を浮かべ、互いに言葉を探すように視線を泳がせている。

 

「「…………」」

 

 二人の間に会話はない。

 方や先程響を助ける為とは言え、勢いよく体当たりした相手。方や響との家庭の複雑な縺れを見られ、不審者として対処して来た相手。

 お互いに居心地の悪さを隠しきれず、まるで見合いのような沈黙が続いていた。

 

 “君……良かったら、話を聞かせてくれないか?”

 

 店に謝罪しに来た時、偶然出くわした洸にそう声をかけられ、ユウは思わず了承してしまった。だがいざ向かい合うと、どう切り出していいか分からず、二人の間には気まずい空気だけが流れていた。

 

「はい、お冷どうぞ!」

 

 そんな時ユウの手元へと、女性の店員が運んで来てくれたお冷が、優しく置かれた。

 

「ありがとう、お姉さん」

 

「うんうん! ねぇ君、何か酷い事されそうになったらすぐに言うんだよ?……………………はい、どうぞ」

 

 ――ダンッ!

 

 対して洸の前に置かれたお冷が、テーブルを鳴らすように強く叩きつけられ、中の水が跳ね飛び散る。

 

「ど、どうも……」

 

 ビクッと震えた後、洸は軽く会釈する。

 自分を睨み付けるた後、厨房へと戻る店員を見送る。その先では、店長が腕を組みじっと睨みを効かせていた。

 先程の騒ぎの一件で、すっかり洸はこの店の怪しい者リストに登録されてしまったようだ。

 

「あの……さっきは、ごめんなさい」

 

「え? あ、あははは……いや良いんだよ、特に怪我も無かったから」

 

「本当にごめんなさい。……でも、貴方が響お姉ちゃんを泣かせた事は許してませんから」

 

 咄嗟とは言え暴力を振るってしまった事を謝るユウ。しかし謝罪しながらも、その瞳は大好きな響を悲しませた洸への強い怒りと敵意を見せていた。

 

「そ、そうか……泣いていたか、あの子は」

 

「うん。おじさん、響お姉ちゃんのお父さんなんでしょ? なのに何で、お姉ちゃんを悲しませるような事するの?」

 

「それは…………えっと……」

 

 少年によるド正面からの問いに、洸は言葉を失う。彼の胸の奥に、突かれたような痛みが走った。

 しばらく沈黙を保った後、洸は先程響に見せたのと同じように乾いた笑顔で頭を掻いた。

 

「あ、あはははっ! 君は響とは仲が良いのかい?」

 

「…………うん。一年くらい前からよく一緒にいるよ」

 

「そっか……じゃあ君からお願いしてくれないかな?」

 

「お願い?」

 

「そう、響との関係をやり直す為に、間を取り持って欲しいんだよ」

 

 それは先程、響にした提案とほぼ同じ。

 娘である響に母親との取り持ちを否定されて、今度はその娘との取り持ちを赤の他人の少年へと頼もうとしているのだ。

 

「おじさんは、響お姉ちゃんとやり直したいの?」

 

「当たり前じゃないか……だって、おれは……………」

 

「どうして? おじさんは、自分から出て行ったんでしょ?」

 

「あ、あはははっ! そうなんだよ、あの時は生活が苦しくてねぇ」

 

 再びユウに痛いところを突かれ、洸は笑って誤魔化そうとする。そんな彼を見たユウは、手元の水を少し飲むと、洸の乾いた表情をジッと見つめた。

 

「そう言うところ、やっぱりおじさんと響お姉ちゃんって似てるね」

 

「……え?」

 

「そうやって嘘をつく時、笑って誤魔化そうとするところ」

 

 その言葉に洸の手がピタリと止まった。

 

「響お姉ちゃんの事は大好きだけど、そうやって無理して作った笑顔は嫌だな」

 

 無理をしている時、誰かに嘘をつく時、都合の悪い事を誤魔化す時、響はよく頭を掻きながら乾いた笑いをしているのをユウは覚えていた。

 そして目の前の男性は、そんな響と同じような動きで、彼女以上に心のない笑顔を見せている。

 響が怒ったのも話の内容以上に、その張り付いたような笑顔に問題があったのかも知れない。

 

「ねぇ、おじさんは本当に、生活が辛かったから出て行ったの?」

 

「あ、ああ……そうだよ。世間からの批判殺到に嫌がらせ、辛く厳しい日々だったから……」

 

「でも、辛かったのはおじさんだけじゃなくて、響お姉ちゃん達もなんでしょ? だったら一人よりも皆んなでいた方が、辛いのも分かち合えたんじゃないの?」

 

「……え? そ、それは……………………」

 

 洸は答えず、考えるように黙り込んでしまった。

 それはまるで、本当に答えが分からなくなっているような、そんな表情である。

 ユウには、一つ疑問に思っている事があった。

 

 “昔はカッコよくて優しくて、大好きなお父さんだったのに、今日会ったら全然違う人になってた”

 

 さっき響が言っていた過去の父親の姿。

 あの響がそこまで慕っていた上、どこかしら彼女とよく似た雰囲気を感じさせる所から、その言葉に間違いは無いのだろう。

 だとしたら、あのお人好しの響とよく似たこの男が、辛い目に遭っている家族を見捨て出て行くとは、どうしても思えなかった。

 

「おじさん、今の生活も大変なんでしょ?」

 

「そうだね……仕事を辞めて、ガソリンスタンドでバイトしながらその日その日を生きている状態さ」

 

 ユウは洸の顔色を見る。

 目は虚で、頬がコケていて、外で働いているにしては肌が白い。

 辛い環境から逃げて来たにしては、とても安らいでいるようには見えなかった。

 もしかすると蒸発してからの生活の途中で精神を病んでしまい、そのせいで過去の記憶に蓋をして、有耶無耶になっているのかもしれない。

 

「ねぇおじさん、響お姉ちゃんってどんな子供だったの?」

 

「え? ええっと……」

 

 だからユウは、まず先に彼の過去を取り戻す事を選んだ。突然の質問の変化に洸は戸惑いながらも、頭に手を添え過去の記憶を辿っていく。

 

「……そうだね……響は、よく泣く子だった…………」

 

「え、そうなの? 寧ろよく笑ってる人だと思った」

 

「昔はね、寂しがり屋で泣き虫な子だったんだ」

 

 普段の響から想像出来なかったユウは、思わず驚きの声をあげてしまう。その姿に、フッと張り詰めていた重い空気が緩み、洸の頬にも少し笑顔が見える。

 

「あれは五歳ぐらいの頃かな……公園で一緒に遊んでる時に盛大に転んでしまって大泣きしたんだ。だからおれは、魔法の言葉を教えてあげたんだ」

 

「魔法の言葉?」

 

「“へいき、へっちゃら”って……響はそれを聞いて嬉しそうにしてたな」

 

「響お姉ちゃん、今でもその言葉使ってるよ。きっとその日からよく笑うようになったんだね」

 

 ユウが大好きな響の笑顔。

 今の彼女の明るい性格があるのは、父親から貰った魔法の言葉があったからなのだろう。

 それ以降、洸は喉の奥に引っかかっていた物が綺麗に抜けたかのように、過去の記憶をスラスラと喋り出した。

 

「小学生に上がる頃、響は急に違う色のランドセルが良いって言い出したんだ。しかも黄色かオレンジ色が良いって言うんだよ。当時黒と赤以外の色は珍しかったから、探すのに苦労したもんだよ。結局地方まで車で探しに行って、妻からこっ酷く怒られちゃったなぁ……」

 

「それは大変だったねぇ」

 

「うん。でもランドセルを背負った響が、ありがとうって言いながら笑う姿を見たら、そんな疲れも吹っ飛んでしまったっけ……」

 

 遠くを見つめ、家族の昔話をする洸の目は、自然と優しいものへと変わっていた。

 赤ん坊の頃、幼稚園、小学生と昔の話題は徐々に現代のものへと近づいていく。

 そして遂に話は、運命の分かれ道である中学生の頃へと変わった。

 

「…………そうだ、あの子は辛い事故にあって、それでも毎日必死でリハビリを頑張ってた……“へいき、へっちゃら”って笑顔で…………」

 

 穏やかだった声が、少しずつ掠れていく。

 楽しかった過去から一変して最も辛い過去に変わり、当時の記憶を一つずつ丁寧に思い出す。記憶を一つずつ掘り起こすたび、洸の手は、震えを堪えるように強く握りしめていた。

 

「リハビリが終わって……家に帰って来て……またいつもの日常が帰って来ると思っていた…………でも、そうはいかなかった」

 

 洸は震える両手で頭を抱える。

 両手だけでなく、僅かに光の戻って来た瞳や、歯もガタガタと振るわせていた。

 

「世間からの批判殺到や嫌がらせが多くなって…………でも、()()()()()()()()んだ。寧ろ、家族の笑顔を取り戻す為、おれが頑張らなきゃって…………」

 

「……じゃあおじさんは、どうして響お姉ちゃん達から逃げたの?」

 

「おれは……おれはぁ………………っ!!?」

 

 ユウからの追及に、洸は全身の震えを強めた。

 遂に耐えられなくなったのか、その場から逃げ出そうと立ち上がる。

 だが、そんな彼の手をユウは掴み引き止めた。

 

「逃げないで、思い出して……おじさんが何をしてしまったのか。そして思い出して……自分が何者なのか。向き合う時は、今だよ」

 

 少年とは思えない強い眼差しに、洸は逃げ出すことが出来ない。そして彼の問いかけが、心の奥底で何度も反復される。

 

「おれは……あの子の“父親”だ…………なのにおれは、会社で落ちこぼれていくのに耐えられず酒に逃げて。そして……家族に手をあげてしまった」

 

 三年前のライブの事故で命を落とした者の中には、彼の務める会社の取引先の社長令嬢もいた。それが引き金となって彼は社内プロジェクトから外され、社内でも持て余されることが増えた。

 そして結果酒に溺れ、家庭内でも暴力を振ってしまった。

 

「おれは、家族を守らなきゃいけなかったのに。おれが家族を苦しめてしまったんだ…………」

 

 声が震え、目の奥に涙を滲ませながらも、洸は答え続けた。

 

「それに耐えられなくなって、家を出た。おれが居たら、響達が不幸になるって……本気で、そう思ったんだ……だから」

 

 そうして逃げた先でも、まともな生活など出来なかった。

 過酷な環境と孤独、そして罪悪感に精神を病み。

 耐えきれなくなった洸は、心の崩壊を抑える為に自分自身の最も罪深い部分に、無意識に蓋をしてしまった。

 だから響と再開しても、自分の罪や責任に気が付かず、まるで別人のように娘と接してしまったのだろう。

 

(“自分が側に居たら不幸になるから出て行った”、か…………こう言うところも、響お姉ちゃんと似てるんだね)

 

 ユウはかつて響が、装者として戦っている事を未来達に隠していた姿を思い出した。

 皆んなを不幸にしてしまうから、皆んなを傷つけたくないから、何も言わずに自分一人で背負って苦しむ。

 そんな姿が重なって、間違いなくこの二人は親子なのだと、ユウは思った。

 

「おれは……あの子に一体なんて事を……響に……響に謝らないと……」

 

 洸は顔を覆いながら、絞り出すように呟いた。

 それは懺悔の言葉であり、同時に“父親としての心”がまだ残っている証でもあった。

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

「これで~! どや~!」

 

 チフォージュ・シャトー玉座の間。

 ミカの掛け声と共に翳された掌から、幾筋もの光が広がり、部屋の中央に巨大な地図が浮かび上がった。

 それは、彼女が地下施設から奪い取った電力経路のデータである。

 

「派手にひん剥いたな。ん……?」

 

 ミカは台座から飛び降り、背を向けて歩き出す。その背中には、明らかに苛立ちが見られる。

 そんな彼女を、ファラとレイアは穏やかな声で呼び止めた。

 

「どこへ行くの、ミカ? 間もなく想い出のインストールは完了するというのに」

 

「自分の任務くらいわかってる! きちんと遂行してやるから、後は好きにさせてほしいゾ……!」

 

「ガリィが居なくなってイラついてるのは分かるけど、少し落ち着きなさい、ミカ」

 

 ファラの言う通り、今のミカは大きな苛立ちを抱えていた。

 オートスコアラーに友情という機能はない。

 しかし最強のオートスコアラーである自分を下し、ガリィが消える原因となった巨人へと、自分でも分からない程の巨大な怒りを持て余していた。

 

「巨人を殺すと言う、私達の派手な計画は変わっていない。だが今の貴様に勝算はあるのか?」

 

「わたしには“奥の手”がある!! それと錬金獣を掛け合わせれば――」

 

「無理だ」

 

 レイアの言葉が冷たく響く。

 はっきりと真実を伝えるようなその一言に、ミカはピクリと肩を揺らした。

 

「お前の《バーニングハート・メカニクス》でも、ティガの巨人の前では誤差でしかない。それに既に何体もの錬金獣が奴に敗北している。このまま挑んでも、ガリィの二の舞だろう」

 

 ゲスラ、ネロンガ、レイロンスと言った錬金獣だけでなく、宿那鬼やエノメアといった異形の存在もティガに敗れている。

 既に通常の錬金獣では倒せない程に、ティガも装者達も力をつけていた。

 そんな事は自分でもよく分かってるミカは、苛立ったように地団駄を踏む。

 

「だったら、どうすれば良いんだゾッ!!」

 

「落ち着きなさい、ミカ。貴女が働いている間、私達も遊んでいた訳では無いわ」

 

 ファラは口を開き、虚空へと手を広げる。

 すると彼女達の席の間の中心部に、黄色く光るホログラムの地球儀が映し出された。

 それはフォトスフィアと呼ばれる物で、地球上のエネルギーの流れ道を記録したレイラインマップである。

 レイアが手を動かすと、フォトスフィアが回転する。そして、無数のエネルギー線が交わる一点が赤く点滅していた。

 彼女はその一点を指先で示す。

 

「このポイントに行くといい。そこにお前が望む派手な力が眠っている筈だ」

 

「望む力……?」

 

「そうだ、お前と同じように巨人への逆襲を狙う、大きな大きな力……」

 

 レイアがホログラムをタップすると、天井に映像が映し出された。

 そこには岩に覆われた空洞。地面も壁も赤く輝くマグマで満たされ、灼熱の熱気が画面越しにも伝わってくる。

 

 そして空洞の中央、最初はただの岩山かと思えたそこに、()()()は居た。

 次第に輪郭が見えてくるそれは、巨大な頭部。

 まるで天井に逆さに張り付くように、息を潜めて眠る一体の怪獣。

 それはかつてティガと死闘を繰り広げた、《超古代怪獣・ゴルザ》の姿だった。

 

「……ニヒッ!」

 

 ミカの唇が、不気味に吊り上がる。

 眠りながらもその巨大な体から、ミカは強い復讐の炎を感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

  

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