シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり) 作:トライダー
十年前、私は家を出た。
本格的に出たのはそれから二年後。しかしそれとは別に家出をした事がある。その時の私はただ単純に自分の家が嫌になり逃げ出した。
私は僅か五歳で聖遺物を起動させた。異例の出来事に周りの全員が驚いた。
嬉しかった、これであの厳しいお父様もやっと私を認めてくれると……そう思っていた。
でもそれからが私の辛い日々の始まりだった。
年相応とはとても言えないしごき、あれぐらいの年齢なら友達と遊びまわるのが普通なのだろうが、当時の私にはまともに出掛ける事すら許されなかった。
生傷の絶えない厳しい鍛錬や教育、そして普通ならかけられる親からの愛情すらも、家庭の事情で受けることさえ出来なかった。
聖遺物を使いこなす為、ノイズを倒す為、この国を守る為。
いくらそう思おうとも幼少の頃の私の心は耐えられず、叔父様の屋敷へと逃げ出してしまった。
叔父様は何も言わずに匿ってくれたが、私はお礼の一つも言わずに塞ぎ込んでしまった。
何の為に、誰の為に毎日辛い思いをしているのかが、私には分からなくなって、このまま何も考えずに消えてしまいたいとすら思っていた。
(…………何だろう? 話し声が聞こえる……)
いつものように屋敷の一室で塞ぎ込んでいたある日。
屋敷の中の来客用の間が騒がしい、私は聞き慣れない声に不思議に思い、襖を少し開き覗き込んだ。
「見ろ弦、俺たちの希望だ!」
「はははっ! 希望か……相変わらずお前は、言う事が大袈裟だな!」
「何が大袈裟だ。子供は未来の希望で光だ!」
私の叔父、弦十郎に茶化されようとも気にした様子のなく、胸を張って堂々と言い切ったのは、叔父に負けず劣らずのガタイの良い大柄な男の人。
「おお翼、すまん起こしてしまったか」
「弦、この子は?」
「風鳴翼。オレの姪にあたる子だ。翼、こいつは”星野大吾”オレの友人だ」
「星野……大吾」
聞いた事がある。叔父の幼馴染で無二の親友とまで言われている男。彼の話をする時の叔父様はいつも楽しそうに笑うのが印象的でよく覚えていた。
大吾さんは腰を落とすと、視線を合わせ右手を握手の形に差し出した。
「初めまして翼ちゃん。俺は星乃大吾、叔父さんの友達さ、よろしく」
「……よろしく……お願いします」
つい視線を逸らしてしまう。彼の眩しいぐらいに真っ直ぐな目に、この屋敷に逃げ込んでいる自分が嫌になったのだ。
丁寧に挨拶してくれているのに目も合わせない、もしこの場にお父様がいれば厳しく叱られただろう。
「良かったら君も挨拶してくれないか?」
「え?」
大吾さんが声を掛けると、屋敷の奥から綺麗な女の人が現れた。そして茜と呼ばれた女性の腕に小さな包みが抱き上げられていたことに気がついた。
私は不思議そうにその包みを覗き込んだ。
「これは、なに?」
腕の中には赤ん坊がいた。
しかし生まれて初めて赤ん坊を初めて見た当時の私は不思議に思い、つい失礼な言い方をしてしまった。
「命さ」
「命? これは生きているの?」
「そうよ。こんなに小さくても確かに生きているの」
その時は信じられなかった。
小さく美しい、まるで人形のようなこの子に命が宿っているとはとても思えなかった。
不思議そうにまじまじと見つめていると、赤ん坊の目がゆっくりと開かれた。
パッチリと開いた瞳は、宇宙のように澄んだ紫色をしていて、まるで吸い込まれるように私は、その瞳をずっと見ていたくなった。
「あ…………」
自分でも気づかないうちに伸ばしていた私の指を、赤ん坊がギュと握る。私の指よりも小さな手、なのに力強く確かな命の暖かさを感じた。
確かめるように私の指を握った赤ん坊の表情が、笑顔に変わった。
「わ、笑った! かわいい……」
「これが命、そして希望さ」
「希望?」
「ああ、一つの命には宇宙にも負けない無限の可能性が広がっている。今はまだ小さく弱い光かも知れないが、成長すれば大きく力強くなり、そういった光達が結び合い、より大きな光となって未来を紡いでいくんだ」
「すごい……」
その暖かさに自然と声が漏れるが、大吾はゆっくりと首を振った。
「凄いのは君さ。それを守っているのが、君なんだからな」
「私が……?」
「そうだ。君が守っているのは、決して家柄だけじゃない。もっと大きくて大事なものを君は守っているんだ。もし挫けそうな時があったら、この子の笑顔を思い出してみてくれ」
もう一度赤ん坊を見る。その無邪気な笑顔に先程まで沈んでいた気分が洗い流されるようだ。
言葉では彼の言っている意味の半分も理解出来ていなかったと思うが、この笑顔を見ていると何となく分かる気がした。
「この子のお名前は?」
「星野結。俺たちの希望で、光だ」
それから少しして大吾さん達は帰ってしまった。互いに忙しい立場である為長いは無用だ。
それまでユウの頬をつついたり、代わりに抱っこさせてもらったりとしていた私は、帰ってしまうことに寂しさを覚えてしまったが我儘は言えない。
「叔父様、これから直ぐにお稽古をつけてください!」
「翼、お前……」
「私、あの子を守りたい! あの子が生きて、あの瞳が見通す未来を守りたいのです! お願いします!!」
彼らの車の背が見えなくなってから数秒も経たずに、私は叔父様に頭を下げていた。
「いいだろ。しかし遅れた分手加減はせんぞ?」
「はい! お願いします!」
思えば今の私があるのはあの日の出会いがあってこそ。
シンフォギアの適合者としてではない、防人としての私が、初めて生まれた瞬間だった。
「はあああぁっ!!!」
昼下がりの無人の街を蒼き閃光が駆け巡る。
シンフォギアを纏った翼がノイズの群れを薙ぎ払う。 その戦いぶりはまさに一騎当千、荒ぶる神が如くだった。
近づくもの、触れるもの全てを切り刻むとでも言うような戦いぶりに、モニターしている二課の面々も声が出なかった。
「現場に到着しました! ノイズは………………ってあれ?」
シンフォギアの力を上手く扱えず出遅れてしまった響が到着した頃には、既に最後のノイズが倒された後だった。
「あ、翼さん!」
「………………」
辺りを見まわすと翼を発見したので声をかけようとしたが、翼は目もくれず風のように立ち去ってしまう。
「翼さん……」
響は翼の去った後を、ただ茫然と見つめていた。
「あれから一カ月、良い兆候は見えんな」
翼が響に刃を向けると言う一悶着があってから約一月。二人の装者の間に出来た溝は埋まる事が無く、微妙な距離感が保たれたままだった。
「だから言ったのよ。女の子の心情は複雑だって。なのに弦十郎くんてば、『友情なんてもんは、同じ目的を目指して駆けていれば自然と育まれるものだ』だなんて言うんだもん」
「むぅ……近頃の若者は難しいな。オレの若い頃ならこれで無二の友が出来たものだが」
「それは若者とか関係なく、貴方達が単純だっただけ!」
かつて共に腕を磨き実力を競い合った
「しかし、何とかしないとな」
楽観的に捉えている場合じゃ無い。現状のノイズ達であれば翼一人で事足りている。
しかしもし強力な個体、それこそ二人が協力しなければ敵わない程の強力な敵が現れた時、今の二人では無残に敗北するだろう。
「しっかし、いかんせんオレはこう言ったお悩み相談は苦手だからな。こう言う時、大吾の奴ならもっと上手くやるんだろうが……」
「居ない人に頼ってちゃダメよ? 今生きている人だけが未来を作れるんだから」
「分かっているさ」
人の心に寄り添う事が得意だった親友。
しかし彼はもう居ない。わかってはいるが弦十郎は、彼のような男が再び現れる事を望まずにはいられなかった。
「翼お姉ちゃん、また響お姉ちゃんと仲直り出来なかったの?」
「…………ええ」
ノイズとの戦い後、今日の分の仕事を終わらせた翼は急いで帰宅し、ユウと今日の出来事を話す。
一日の疲れを労う為に、ユウに膝枕してもらいながらだ。
「むー! でも響お姉ちゃんの事叩いちゃったんでしょ? じゃあちゃんと謝らないと駄目だよ!」
「わ、分かってる! 確かにあの日の私はやり過ぎていた。だけど……」
やり過ぎたとは思う反面、あの時感じた気持ちは今も変わらない。奏の代わりになると言った彼女を許す事も、認める事も出来ない。真面目な翼の性格上、本心から謝罪の気持ちが持てない中途半端な謝罪をするなど許さず、ズブズブとこの複雑な感情を引き摺る事になってしまっていた。
次の日、一通りの家事を済ませたユウは街へと繰り出していた。
愛用のローラーシューズで悠々と街中を滑る。
「う〜ん……」
この一ヶ月で滑り慣れた道を進みながら、腕を組み考えるのは二人のお姉ちゃんの事。
どちらの事も大好きなユウは、どうにかして二人の間を取り持ちたいのだが――
(きっと二人共何か勘違いしちゃってるんだよね。響お姉ちゃんいい人だし、ちゃんと話し合えば分かり合えると思うのに)
――とは言え心情的に切り出しにくい翼と、いつもはガンガンいく響も恐縮しているのか上手く話しかけられていない。二人の間に微妙な距離感が出来てしまっているのが、この問題の肝だ。
だとしたら第三者が間に入り、取り持つのが一番なのだが――
(でも翼お姉ちゃん頑固だからな〜。ぼくが一緒に謝りに行くってなったら嫌がるだろうし……)
――どうにか都合良く二人を合わせられないか?
しかし翼は兎も角、響とは前回の一件以降会っておらず予定を合わせるのは難しい。
首を捻りながら考え込んでいると、見覚えのある背中が目に入る。
「あ、未来お姉ちゃんだ!」
後ろから見える特徴的な大きなリボンに直ぐに気がついたユウは、嬉しそうにゆっくりとその背中に近づく。
「おね〜ちゃんっ!」
「ひゃぁっ! も、もう〜ユウくん、いきなり後ろから抱きついたら駄目だよ〜」
そうは言いながらも、未来の口元はニヤけていた。
「えへへ〜ごめんなさい! 未来お姉ちゃん見つけたら嬉しくて」
イタズラっぽくチロっと舌を出す。そんなあざといユウの仕草に、未来はつい昇天しそうになるのをなんとか堪えた。
「あ、そうだ! ユウくん、今晩時間ある?」
「どうして?」
「今日の夜に響と一緒に、こと座流星群見に行くの。響もユウくんに会いたがってたから、良かったらどうかな?」
「本当!? いくいく、絶対行くっ!」
未来の両手を握りその場で飛び跳ねながら喜ぶ。
誘っておいてなんだが、今時の男子小学生が星に興味あるのかと不安だったのだが、全力で喜びを表すユウの姿を見て杞憂に終わって安堵する。
「あ! 翼お姉ちゃんも一緒に行っていい?」
「え? 翼……って、もしかして風鳴翼のこと?」
「うん! ぼく翼お姉ちゃんのお家でお世話になってるの」
「ええっ!? ど、どう言う関係なの?」
一カ月前に出会った謎の少年と、人気アーティストの風鳴翼、どう言う接点があるのか想像も出来なかった。
「えーとね、さいじゅうようきみつだから、話したら駄目なの」
「……何だかよく分からないけど、良いよ。響も翼先輩に会いたいって前から言ってたし、丁度いいかも」
実は既に顔見知りで、現在複雑な関係なのだが、そうとは知らない未来は快く承諾する。
「わーいわーい! 早く夜にならないかな〜!」
運良く響と翼と自分達を合わせる算段が叶ったのも嬉しかったが、それ以上に皆と一緒に流星群を見れる事の方が嬉しかった。そんなユウには、間違いなく父親の血が流れているのだった。
「僕ね、今晩翼お姉ちゃんと一緒にお星さま見たい!」
「緒川さん、今晩のスケジュールの変更をお願いしますっ!!」
この日緒川の仕事が倍増した事は言うまでもない。
街を照らす夕陽が鎮まり、月が我先にと輝き星々が顔をのぞかせる時間。
約束の時間になり、ユウと未来は街外れの丘に集まっていた。
「未来お姉ちゃん、響お姉ちゃんは?」
「もう直ぐ来ると思うけど……」
学園の課題を提出する為に遅れている響と、仕事の都合で遅れる翼を二人でベンチに座って待つ。
「わあ〜! お姉ちゃん見て見て、すっごい綺麗だよ〜!」
「え? あ、本当だ!」
嬉しそうに空を指差すユウに釣られて、未来も空を見上げた。
街を見下ろせるほど離れた高台は障害物も無く、満点の星空を邪魔するものはいない。
星の一つ一つが見つめているだけで吸い込まれそうになるぐらい輝いている。流星群はまだ始まっていないが、それでも満足出来そうなぐらい星空は美しかった。
「綺麗……」
「そう言えばお姉ちゃんは、流星群が何で毎年見れるのか知ってる?」
「え? えーとぉ……」
「流星っていうのは太陽の周りをぐるぐる回ってる彗星から出たチリの集まりなんだ。その彗星がまいたチリが地球の周りに来た時に、大気圏でプラズマ発光した時に出来るのが流星なんだ。地球も毎年同じところを通ってるから毎年同じ時期に流星群が見られるんだよ」
「へぇ〜そうなんだ。ユウくん詳しいんだね?」
「うん! お星さま大好き!」
(あ〜、かわいい〜)
意気揚々とするユウの姿に、未来は誘った自分を褒めてやりたかった。
「ごめ〜ん! 遅れたー!」
空を見上げていると、聞き覚えのある声が聞こえ振り向く。なんとか課題を終わらせた響が、こちらへと手を振っていた。学園からここまで走って来たのか、その表情は既に疲労困憊の様子だった。
「響お姉ちゃ〜ん!」
「ユウく〜〜ん!!」
しかしひと月ぶりにユウと会える嬉しさか、響はスピードを緩める事のなく抱き合った。
「ん〜スベスベモチモチいい匂い……やっぱりユウを抱っこするのはたまりませんなぁ、うへへへ……」
「うみゅ〜ほっぺ、くすぐったいよ〜」
一ヶ月分の栄養を味わうような頬擦りにくすぐったさを感じるが、ユウ自身も久しぶりに響に会えた嬉しさか笑顔になっていた。
じっくりと補給を終えると流星群までまだ少し時間がある為、二人はユウを挟む形でベンチに座り再び空を見上げる。
「あれがベガ。こと座のα星で、こと座で最も明るい恒星で全天21の1等星の1つなんだよ。で、あれがうしかい座のαアークトゥルス、おとめ座のα星スピカに、しし座のβ星デネボラ。あの三つの明るい星を結んだのが、春の大三角で――」
「あ、あーく?……あるふぁ……?」
ユウが星に詳しいと言う話になり、春の有名な星を教えてもらっていたが、星の名前など星座占いぐらいでしか聞いたことのない響には理解が難しかった。
「ユウくん本当に詳しいんだね」
「えへへ! ぼく将来は、お父さんみたいな宇宙飛行士になりたいんだ。だから今からお勉強してるの」
「そうなんだ。ユウくん、お父さん事好きなんだね」
「うん! お父さんもお母さんも大好きっ!!」
未来と響に頭を撫でられ眩しい笑顔を見せる。
そんなユウの笑顔に二人が不気味にニヤけていると、近くから車の止まる音が聞こえて来た。
「ユウ! 待たせた………………っ?!」
「翼、さん……?」
「立花…………」
丘への階段を登って来た翼が、ユウと一緒に居る二人の少女、そのうちの一人が響だと気づいた瞬間、緩んでいた顔が引き締まった。
「翼お姉ちゃん!」
「うそ、本当に翼先輩だ……」
翼の存在に気づいたユウは、ベンチから勢いよく飛び降りると翼の腰へと抱きつく。
それだけでいつもなら頬がニヤケるところだが、他の人しかも因縁のある響が居る為、表情筋に力を入れてなんとか堪えていた。
「ユウ、どう言うことなの?」
「お姉ちゃん、響お姉ちゃんとお話ししよ? ちゃんとお話しすればきっと仲直りできるよ!」
「……………………」
響の存在に踵を返そうとする翼を、抱きつく力を強くして抑える。お腹に顎をつけたまま見つめてくるユウの真っ直ぐな瞳に、翼はつい目を逸らしてしまっていた。
「…………」
丘の上が静寂に包まれる。
普段なら元気よく切り出す響すら無言になってしまい、この空気の意味が分からず未来は居心地を悪く感じる。
そんな静寂を壊すように甲高い電子音が鳴り響いた。
「「っ!?」」
音の元は響と翼の懐から、同時に鳴った事から二人はそれが二課によるものだと察した。
「ご、ごめんね未来」
直ぐに出たかった響だが、彼女がシンフォギアを纏いノイズと戦っている事を秘密にしている未来が近くにいる為、少し離れて通話に出た。
「はい、こちら翼」
翼も三人と離れてから出ようと思ったが、ユウが離れてくれないのでそのまま通話に出た。
「はい、はい……分かりました。直ぐに向かいます」
「はい……………………分かりました」
二人の予想通り通信の内容はノイズの出現。ここから直ぐ近くに出たらしく二人に出動の要請が出た。
「未来……ごめん、わたし………………」
「…………分かった、寮のカギ……開けておくね」
この一カ月、未来に秘密でノイズと戦うために、彼女との約束を無理矢理破ってしまう事が多かった。
だから今夜一緒に流星群を見るのをずっと楽しみにしてくれていた。それを破らなくてはならない事に響は、心を強く痛める。
「ユウ、分かったでしょ? 私も行かないと」
「ダメっ!」
翼もまたユウを説得して現場に向かおうとするが、ユウは抱きついたまま離れなかった。
「ユウいい加減にしなさい! 大事な仕事があるの、分かるでしょ?!」
いくらユウが可愛いと言っても、己の中の“剣”としての使命を邪魔されては翼も穏やかではいられず声を荒げてしまう。
しかしそれでもユウは離れなかった。
「いい加減にするのはお姉ちゃんだよ!? お仕事を理由に逃げないでっ!」
それどころか翼以上に声を荒げ、彼女の怒気を押し返してしまった。
ユウの大声を初めて聞いた三人は呆気に取られてしまう。
「私は、逃げてなんか……」
「お姉ちゃん、死んじゃったら、もう会えないんだよ?」
「っ……!?」
その言葉思うところがあった翼は、弱々しく閉じていた目をカッと見開いた。
「ぼくのお父さんは、ぼくがもっと小さい頃に宇宙の事故で亡くなっちゃったんだ。もっと一緒に遊びたかったし、もっと宇宙の話を聞かせて欲しかった。でももう居ないんだ、笑う事も喧嘩する事も出来ない、そうなったらもう遅いんだよ? そうなったら一生後悔するんだよ?!」
「私は後悔なんて……」
「嘘! だってお姉ちゃん毎日辛そうな顔してる、毎日泣きそうにしてる。それはきっと毎日後悔してるからなんでしょ?」
ユウの前では笑顔を見せる翼だが、その笑顔にも僅かながらの影を感じていた。
毎日翼を送り迎えして、一緒に晩御飯を食べているユウにはそれがよく分かっていた。
「お姉ちゃんが毎日ここに居ない誰かを見てるのは分かってる。だけどそのせいで今ここにいる人達から目を背けるのはやめて? ぼくもうお姉ちゃんに後悔して欲しくないんだっ!」
それが誰なのかユウには分からなかったが、彼女が周りにいる人から目を背けて良い理由にはならない。
彼女はもっと自分と自分を助けてくれている人に目を向けるべきなのだ。
そして認めるべきだ。目の前に居るのは、今ガングニールを持っているのは、奏ではなく響なのだと。
彼女がどんな思いで戦っているのか、それすらも知らないくせに、認めるも何も失礼な話なのだ。
「立花……」
「は、はい!」
優しい目でユウの髪を撫でた翼が響へと視線を移す。
二人のやり取りをジッと見つめていた響は、急に話しかけられシャキッと背筋を伸ばす。
「あの日の事はすまなかった。ごめんなさい」
「い、いいえ! わたし本当に気にして無いですから!」
憧れの存在であった翼に頭を下げられ、響はバタバタと両手を振る。
「ユウありがとう。でも今は行かなくちゃいけないの、この仕事が終わったら、ちゃんと彼女と話し合う。だから今は行かせて?」
「お姉ちゃん……うん、わかった。ごめんね意地悪しちゃって」
翼は首を横に振ると優しくユウを抱きしめ返した。
ほんの数秒後、響に短くアイコンタクトを送ると星の見える丘を後にした。
「ユウくん……」
一人になったユウの背中を響と未来が見つめる。
先程まで楽しそうに話していた大好きな父親。そんな彼を事故で既に亡くしているのにも関わらずあんなに眩しい笑顔を見せられるのは何故なのか。
響と未来の胸に複雑な心境が巡る。
「響お姉ちゃんも用事があるんでしょ? 早く行って」
「う、うん……」
その事が気はなったが、今は他にする事がある。
響もまた丘を後にして翼の後を追った。
取り残された未来とユウの間に複雑な空気が舞う。
「ユウくん、君は……」
「むー! 響お姉ちゃんも未来お姉ちゃんも、どうしてそんなに悲しそうな顔をするの?」
「え?」
「もしかしてお姉ちゃん達、ぼくを可哀想な子だと思ってるの?」
「そ、それは……」
未来はつい目を逸らしてしまう。
他人を可哀想など思う事は失礼でしかない事は分かっている。しかしそんな経験をこんな少年が背負ってるとなれば、そう思わずにはいられなかった。
「確かにお父さんは居ないし、お母さんともあんまり会えないのは寂しいけど、ぼくは大丈夫だよ。だってお父さんはいつもぼくを見守ってくれてるもん!」
そう言うとユウは、夜空を見上げ一番輝く星を指差した。
「お父さんは言ってたよ? 居なくなった人はお星さまになってお宙から見守ってくれてるって。だからぼく良い子になって、見守ってくれてるお父さんを安心させてあげたいんだ!」
「……そっか」
ユウの笑顔の訳を聞いた未来は、彼のもう片方の手を握ると、一緒に星を見上げた。
ぽつぽつと流れ始めた流星が、彼を元気付けているように思えた。
ノイズの集団がほぼ一箇所に集まっているのを聞いた翼と響は、付近の森林公園へと向かう。
目的地には情報通り大量のノイズが居るが、翼が先陣を薙ぎ倒し、残った余り物を響の素人パンチで倒した。
「立花……貴女は一体何の為に戦うの?」
「翼さん?」
素人の響をサポートする為、彼女の近くで戦っていた翼が響へと声を掛ける。
「教えて、立花響が何の為に歌うのかを……」
戦闘の最中、本来ならこんな無駄話をするなど言語道断。
しかし響は真っ直ぐ答える。
この一ヶ月間溜め込んだ思いを吐き出すように。
「わたし、人助けが趣味なんです」
「人助け?」
「勉強とかスポーツとかって誰かと競い合って結果を出さなきゃいけないじゃないですか。そういうのはどれも苦手で。でも人助けって誰かと競い合わなくてもいいじゃないですか、自分には特技とか誇れるものが無いから、せめて誰かの力になりたいって思うんです」
翼は一切茶化す事のなく、響の言葉に耳を傾ける。
「原因はやっぱり……〝あの日〟かもしれません」
「あの日……」
響と翼は同時に全く同じ日の出来事を思い出す。
ノイズによりライブが無茶苦茶にされ、謎の怪獣の出現により一人の戦士を失ってしまった“あの日”。
「あの日、たくさんの人がそこで亡くなりました………でも、わたしは生き残って、今日もたくさんご飯を食べたり、笑ったりしています。だからせめて……」
「その人たちの代わりになりたい……?」
「そう思った日もありますけど、今は、自分の意思で誰かを助けたいんです。いつまでも守られた事を、負い目に思いたくはないから」
助けられた責任を果たし、自分もまた誰かを助ける、それが立花響がシンフォギアを纏う理由。
ノイズを倒す為に歌を歌った翼や奏とは違い、“守る為”の力なのだ。
「あとやっぱり、わたしユウくんを守りたいです」
「え?」
「あの子の真っ直ぐな目がこれから見つめていく世界を守ってあげたいです!」
此方は今さっき出来た新しい理由。
自分に勇気をくれた笑顔の素敵な少年。
翼の怒声にも怯まず、自分の意思を貫き通した。そんな純粋で真っ直ぐな彼の未来を守るのも自分の使命なのだと思ったからだ。
”私、あの子を守りたい! あの子が生きて、あの瞳が見通す未来を守りたいのです!”
かつて自分が語った防人となる覚悟、あの人同じ思いを響もまた背負ったのだ。
「そう、貴女の戦う理由は分かった。だけどその覚悟がどれほどのものかまだ分からないわ」
「翼さん……」
「だから、これからの貴女を見せて? 共に戦い、その中で貴女の覚悟が張りぼてでは無い事を、見定めさせて貰うわ」
「っ!!……はい! よろしくお願いしますっ!!」
全てを認めたわけでは無い。でも共に戦う者としてそばに居る事を認めくれたのだ、此処からは自分の頑張り次第。小さな変化だが間違いなく大きな一歩、響は嬉しくなり最後のノイズを倒した後、翼へ右手を差し出した。
その意味が分かった翼も同じく右手を差し出し、強く握手をする。
「えへへ! ユウ君の言う通り、わたし達分かり合えましたね翼さん!!」
「ふふっ……ええ、よろしく」
”ちゃんとお話しすれば仲直りできる”。
子供らしい安易な発言。しかし安易たがらこそ、それがそれが世の中の真理なのかも知れない。
「かー! 甘ったるくて聞いてらんねぇなぁっ!!」
「「っ!?」」
謎の声が聞こえ、二人は素早く手を離し辺りを確認する。声の位置がわからずウロウロと辺りを見回す響とは対照的に、翼は敵の気配を探りその場所を見つけた。
「立花、あそこだ!」
「え?…………人影?」
月が雲に隠れているせいで辺りが暗闇に包まれ、その姿を鮮明に知る事はできないが、その影の形がノイズではない人の形をしている事だけは理解できた。
「仲直りだぁ? 政府の人間が、んな甘い事言ってるから何も変わらねぇんだよ」
「……え? 女の……子?」
その背丈は小柄な響よりも更に小さく、声もまた成人しているとは思えない程に高い。
少女らしき影が、カツンカツンとヒールのような音を鳴らしながら、ゆっくりと此方に近づいて来た。
「そんな……あれは…………」
雲が晴れ、月の光が公園を照らした。
満月の眩ゆい光は、暗い夜の公園でも明るくさせる。そんな光に照らされ、少女の影の姿も明確に捉える事が出来た。
全身を銀の鎧に身を包み、肩にはトゲトゲしい薔薇のような物も巻き付いている。小さな頭部は赤いヘルメットと青いバイザーに覆われ、その表情を計り知る事は出来なかった。
鎧から見える銀髪や少女は初めてだが、その異様な形状の鎧には見覚えがあった。
「ネフシュタンの……鎧…………」
“あの日”の事件によって失われた完聖遺物、《ネフシュタンの鎧》だった。