シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり) 作:トライダー
「そうか、ミカはゴルザに目をつけたか」
ミカがゴルザの眠る地へと向かって、数時間後。
眠りから意識を取り戻したキャロルは、玉座の間でファラたちから現状の報告を受けていた。
「でも意外ねレイア、てっきりゴルザは貴女が狙っていると思っていたのだけど」
“大地を揺るがす怪獣”であるゴルザの力を行使するならば、地の属性であるレイアが最も適していているはず。だが今回彼女は、その力ををミカへと譲った。それは派手好きなレイアにしては珍しい選択だった。
「“今”のゴルザには、ミカが相応しい……そう思っただけさ」
「確かにな、今のゴルザの力を最大限に活かせるのは、ミカしかあるまい」
ファラはまだ僅かに疑問を残していたが、彼女達の主人であるキャロルだけは、レイアの意図を理解していた。
レイア達から情報を受け取ったミカ。彼女は目的の場所である《霧門岳》の休火山、その地下深くへと降りてきていた。
赤く染まる空洞。熱気が肌を刺すように吹き荒れ、壁の至る所からマグマが流れ落ちている。
そしてその大空洞の中心、映像で見た通りの光景がそこにあった。
「ニヒヒッ! 見つけたゾォ〜!」
巨大な逆さの影。
それこそが“超古代怪獣ゴルザ”だった。
まるで天井から生えた岩山のようにも見えるその巨体は、目を閉じ眠っているかのように微動だにしない。
だが寝ている訳では無い。
ミカが見渡すと周囲のマグマが、自然の流れに逆流し、上部にあるゴルザの身体へと流れ込んでいるのが見える。
ティガに手傷を負わされたゴルザは、この火山の地下深くへと潜り、マグマのエネルギーをその身に蓄える事で回復と強化を図っていたのだ。
「お前、“炎”の力が欲しいのか? だったらくれてやるゾ! その代わり、何としてもあの巨人をぶっ殺してやるんだゾッ!」
ミカの全身が燃え上がる。
戦闘特化のオートスコアラーであるミカには、短時間ながら自身のエネルギーを膨張させる決戦機能が備わっている。決戦機能《バーニングハート・メカニクス》を発動させ、全身を炎に包まらせたミカは、そのまま煮えたぎるマグマへと飛び込んだ。
ミカの体内に宿る炎が、眠れる火山の心臓を揺さぶる。
活性化したマグマが凶暴な熱量を帯び、轟音を立てながらゴルザの体内へと流れ込んでいく。
『――グオォォオオオオッ!!!』
青みがかっていたゴルザの体表が、赤黒く灼けた色へと変わり、閉じられていた瞼がカッと見開かれた。
地鳴りのような重い唸り声に呼応するように霧門岳全体が揺れ、激しい地響きに襲われた。
☆
ミカによる地下道襲撃から後日。
現在S.O.N.Gの面々は、『休眠中だった火山が突如として活性化した』という報告を受け、その原因を探るため霧門岳を目指し航行していた。
「調が悪いんデス!」
「切ちゃんが無茶するからでしょ!」
「調が後先考えずに飛び出すからデス!」
「切ちゃんがわたしの事を足手まといに思ってるから!」
潜水艦の医務室。戦闘から目を覚ました切歌と調は、顔を合わせるなり口論を始めていた。
戦闘時間が短かったお陰で怪我も最小限で済んだ。しかし二人の友情には、肉体よりもずっと大きな傷が刻み込まれていた。
「傷に障るからやめてください! そんな精神状態では、イグナイトモジュールを制御できませんよ?!」
「エルフナインさんの言う通りです。貴女達は、自分の敗因を理解出来ていないのですか?」
エルフナインとナスターシャに諭され、流石に二人は口論を止め渋々黙り込む。しかし互いに目を合わせた瞬間に、プイっと同時に顔を逸らす。
未だ二人の中の溝は深いようだ。
やがて簡単な検査を終え、メディカルルームは出た後、切歌と調は扉の前で互いに顔を見合わせる。
「「…………ふんっ!」」
短い息を吐いて、再び反対方向を向いた。
顔を合わせるだけで胸の奥のモヤモヤが広がり、言葉が出てこない。
その時、二人の背後の扉が開き、姿を現したエルフナインが薬と注射器を差し出した。
「これを、調さんと切歌さんに」
「model_K……?」
「オートスコアラーの再襲撃が予想されます。投与はくれぐれも慎重に。体への負担もそうですが、ここに残されたLiNKERにも、限りがありますので」
自分達がギアを纏うのに必要な貴重な薬。
前回の戦闘では、足の引っ張り合いで、LiNKERをただただ無駄にしただけに終わってしまった。
エルフナインが直接手渡しに来たのは、その事を咎める為でもあるのだろう。
二人はLiNKERを手に取りながら、一つ一つの戦いの重要さをその胸に刻んだ。
☆
本部が霧門岳へ到着するまでの間、戦闘員である装者達はそれぞれ休息を取る。
その間、弦十郎やナスターシャ等の大人達は司令室で現状の把握を試みていた。
「霧門岳……ですか」
「何か気になることでもあるのか、ナスターシャ教授?」
「はい……霧門岳には、私も気に留めていた事があるのです」
「一体どう言うことですか?」
ナスターシャの意味深な言い方が気になった、緒川が尋ねる。
「フォトスフィアの事は知っていますね? 地球上のエネルギーの流れ道を記録した《レイラインマップ》です」
ナスターシャはかつて、フロンティアに残されていたレイラインマップに沿わせることで、 世界中の人間から微量のフォニックゲインを集め、月の落下を止めて見せた。
そして前回のガリィの襲撃時、筑波の異端技術研究機構で研究されていたフォトスフィアのデータの一部が奪われたと言う報告があったのを思い出す。
「この霧門岳という場所は、特にそのエネルギーの流れが多く集中しているポイントなのですよ。先日のフォトスフィアのデータの強奪、そしてデータ通りのポイントでの異変、無関係とはとても思えません」
「今回の火山の活動は、キャロル達が関与していると……どう思う、エルフナインくん?」
「可能性は高いと思います。キャロル達……特に炎の力を強く持つミカなら、火山を活性化させる事は可能です。ですがその目的が分かりません」
キャロル達の目的は世界の分解である。火山を噴火させて辺りに被害を出す事はできても、世界を分解すると言った目的とはとても届かないだろう。
いったい霧門岳に何があるのか、彼らはこの後その理由を思い知る事になる。
☆
共有スペースで休息を取ろうとしていた切歌と調の二人は、大きなソファーの両端に座る。
距離が離れ複雑な空気を醸しながらも、二人はそれ以上離れる気はないようだ。
「わたしに、言いたい事あるんでしょ……?」
「それは、調のほうデス!」
「わたしは…………」
それっきり調は口を紡いでしまった。
“このままではいけない、早く仲直りしたい”。そんな思いでお互いに同じ部屋にいる事を選んだのだが、想いとは裏腹に言葉は喉の奥で引っかかり出てこない。
「……調お姉ちゃん、切歌お姉ちゃん居る?」
そんな微妙な空気が部屋に充満しかけた時、扉の隙間から、小さな顔がひょこっと覗いた。
「あ、ユウ……どうしたの?」
「クリスお姉ちゃん達から聞いたの。二人が喧嘩してるって」
「け、喧嘩ならもう終わったデス! 元通りの仲良しデスよっ!」
「うそ、だって一緒に居る姉ちゃんは達は、いつももっと楽しそうにしてるもん!」
嘘をつかれたユウは、「むー!」と柔らかい頬がぷくっと膨らませる。
大事な弟に心配を掛けたくなくて咄嗟に誤魔化したが、子どもの純粋な目には一瞬で見破られてしまう。
「そもそも、どうして二人は喧嘩しちゃったの?」
「それは調が――」
「切ちゃんが――」
「同時に喋っちゃダメ。お互いのお話をちゃんと聞こ? 先ずは切歌お姉ちゃんから」
ユウはソファーの真ん中に座ると、二人を交互に見る。
流石に子どもを挟んでまで喧嘩は出来ず、二人は渋々と口を開いた。
「……調が無茶ばっかりしようとするから、調の事はあたしが守るって言ってるのに」
「……わたしは、わたしを助けてくれた、切ちゃんを助ける為にこの命を賭けたい。なのに、切ちゃんはわたしを足手纏いみたいに扱って……」
二人の想いの丈をしっかりと聞いたユウは、にぱっと笑顔を見せた。
「――なんだ、良かった!」
「「えっ?」」
あっさりとそう言い切ってしまうユウの姿に、二人は気の抜けた声を出してしまう。部屋中に充満していた重苦しい空気が、ふっと軽くなった気がした。
「お姉ちゃん達が喧嘩したって聞いたから、お互いの事を嫌いになっちゃったのかなって心配してたんだ。でも実際は、その反対だったんだね!」
「反対……?」
「うん! 二人は、お互いが大好きだから喧嘩しちゃったんだね」
「大好き……だから?」
「切歌お姉ちゃんは、調お姉ちゃんが大好きだから守りたい。調お姉ちゃんは、切歌お姉ちゃんが大好きだから傷ついて欲しくない。たったそれだけの事だよ」
互いが互いを想い合う強い気持ちが衝突し合い、そのせいで二人の心にマイナスな感情を生み出してしまったのだ。
だとすれば仲直りするのは難しい事ではない。
「そもそも、これって喧嘩するような事なの? お互いがお互いを大切に思うなら、お互いがお互いを守ってあげれば良いんじゃないの?」
「お互いが……お互いを、守る……」
「うん! ねぇ覚えてる? 秋桜祭の日、お姉ちゃん達は一緒にお歌を歌ったでしょ?」
ユウが言っているのは、フロンティア事変の頃。
攫われたユウは、二人に頼みリディアンの学園祭に連れて行ってもらった。
その日二人は、ユウを喜ばせようとデュエットを歌い、クリスに負けない最高の歌を歌った。
「ぼくね、あの時のお姉ちゃん達の歌が一番好き! 心から楽しそうに、二人で力を合わせてるお姉ちゃん達が大好きなんだ!」
調と切歌の頭の中にも、あの日の記憶が蘇る。
クリスに対抗して挑んだ、あの楽しい時間。
切歌が隣にいて、調がそばにいて、だからこそ余計な不安を感じることなく、全力で歌えた。
それは、前々回の戦いでの時も同じだった。
結果的にミカに及ばなかったが、二人で支え合い歌ったあの瞬間は、間違いなく最高の力が出せた。
それは信頼できる“相棒”が隣に居たからなのだ。
「そっか……そんな大切な存在を、わたし達は遠ざけようとしていたんだね……」
「全く……バカ、デスよ……」
互いが支え合うから全力が出せるのに、その相手を遠ざけようとする。強くなりたいと願っていた筈なのに、寧ろその可能性を自分達で潰していたのだから皮肉な話である。
「調、ごめんなさいデス。調の気持ち……全然考えてなかったデス。これからも一緒に居てくれるデスか?」
「当たり前だよ、切ちゃん。わたしこそ自分の事しか考えてなかった。……わたしは強くなりたい。だからわたしを守って、わたしも切ちゃんを守るから!」
「……っ!!! 勿論デス! 一緒に強く、カッコよくなるのデェスっ!!」
互いに想いを通じ合わせる事が出来て嬉しくなった切歌は、そのまま調へと抱きついた。
「良かったぁ。やっぱり二人は仲良くしてるのが一番だよ!」
互いの温もりをしっかり感じ合っている二人を、ユウも微笑ましそうに見守っている。
その時、本部全体に重いアラートが響き渡った。
☆
「何が起きたっ!?」
「霧門岳を超高密度のエネルギーが移動していますっ!」
その異変に真っ先に反応したのは、司令室に居た弦十郎達だった。
友里が端末を操作し、霧門岳の上空からの地図を映し出す。サーモグラフィーの画面が真っ赤に染まり、霧門岳全体の熱が急激に上昇しているのが分かる。
だがその中で、より強い熱源が動いていた。
「これは……! まさに先程私が言ったのと反応が一致します! まるで龍脈のエネルギーその物が動いているかのような……」
龍脈――地球を巡る自然エネルギーの流れ。
それ自体が動くなどあり得ないはずだ。理解の及ばないナスターシャが驚きを隠せないでいると、霧門岳の映像を映すモニターに変化が現れる。
地震が強まり、霧門岳の山頂が爆ぜた。
マグマが吹き上がり、そして割れた大地から、あの忌々しき怪獣がその姿を現した。
「……ゴルザ」
S.O.N.Gの面々は、その姿に身を震わせた。
彼らが初めて怪獣と対峙し、人間の無力さを思い知らされた原因ともなる存在に、無意識に恐怖を思い出していたのだ。
しかもその姿は前回よりも大きく変化していた。
青黒かった外皮は赤く染まり、胸に流れるマグマのような血脈がドクンッドクンッと脈動している。
全身の筋肉も一回り以上膨れ上がっており、体内に含んでいる熱やエネルギーは前回の比ではなかった。
《超古代怪獣 ファイアーゴルザ》
『グォオオオオオオオオオオオオォッッ!!!』
前回よりも“強化”されたゴルザが、霧門岳の大地を揺るがす。咆哮と共に共鳴するように霧門岳の大地が震え上がる。
一歩、踏み出すごとに地表が弾け、爆発が起きた。
それはまるで、大地そのものがゴルザの力に怯えているかのようにであった。
「……くっ、全員に出動の要請をッ! あの日の借りを返すぞッ!!」
☆
出撃の為、ミサイル発射官に到着した調と切歌。
まだ他の装者は到着していない。
しかしすでに絆を取り戻し、共に戦う覚悟を決めた二人は、ギアを纏い出撃の準備を整えていた。
「二人とも、頑張ってね!」
「大丈夫。ユウから“おまじない”もして貰ったし、今のわたし達は無敵だよ」
「デスデス! あたし達の力とユウの“想い”が重なれば、敵なんていないのデス!」
まるで頭の中の暗闇が晴れたかのような、清々しい気分で二人は発射官へと入り、戦場へと飛び立って行った。
二人が去ったあと。
ユウは格納庫に取り付けられた小さなモニターへと視線を向ける。
「ゴルザ……!」
かつて自分が戦い、取り逃してしまった宿敵。
その恨みの籠った獣の瞳はかつての敵を探していた。
やたら無闇に地を砕き、炎を撒き散らすその姿が、自分達を呼んでいるかのように感じ取ったユウは、強く拳を握りしめる。
その時、翼たちが格納庫へと駆け込んできた。
「ユウ、暁と月読は?!」
「お姉ちゃん達なら、もう行っちゃったよ!」
「出遅れてしまったか……私達も直ぐに――うわあっ?!!」
翼たちが発射管へと向かおうとしたその瞬間、激しい衝撃が艦体を襲った。
床が大きく傾き、潜水艦の甲板が軋む。
「一体何が起こったッ?!」
司令室では、霧門岳を映していたモニターが突然切り替わる。
映し出されたのは暗い海底の光景。
そこには、潜水艦を掴み出撃を妨害しようとする“巨大な影”が映っていた。
「海底に、巨大な影……?! くそ、先に奴を排除しなくてはっ!! 全エンジン始動! 圧力調整、急げッ!」
ミサイル発射管が塞がれ、装者たちは出撃できない。
弦十郎は即座に指示を飛ばし、艦を浮上させようとする。
「ここでは戦えない。皆、ブリッジを目指すぞ!」
弦十郎の意図を察した翼達も、発射官ではなくブリッジからの出撃を試みる為、格納庫を後にした。
残されたユウは、誰もいなくなった静かな空間でモニターを見つめる。
爆炎の向こうで暴れるゴルザの姿。
「こっちは翼お姉ちゃん達に任せて、ぼく達はゴルザを!」
無人となった格納庫の中。
カメラの死角に隠れたユウは、《スパークレンス》を天へと掲げた。
☆
分解した出撃用のミサイルから飛び降りた調と切歌は、街を目指し歩みを進めるゴルザの前へと立ち塞がる。
目の前の巨獣から発せられるエネルギーに、ギアを纏っていながらも高熱を感じていた。
「ゴルザ……前に響さん達でも倒せなかった強豪……」
「でも、今のあたし達なら!」
「うん! 二人でなら、先輩達だって超えられる!」
今の二人に、恐れは無かった。
隣に信頼できる“親友”が、共に戦う“相棒”が、どんな脅威にも立ち向かえる勇気をくれるから。
『グオオオオオオッ!!!』
「来るデスよっ!?」
ゴルザが額のツノに炎のエネルギーを集中させる。
膨大な熱が集まり、強化された光線《超高熱熱線》が放たれようとしていた。
切歌達は向かって来るであろう一撃に、アームドギアを強く握りしめて身構える。
『――デュアッ!』
しかし熱線が放たれる直前、眩い光の中から飛び出したウルトラマンティガが、ゴルザの頭部を蹴り飛ばした。
逸れた熱線が、地面を焼き抉る。
「ティガ! 来てくれたんだ……」
ティガは振り向き、二人の無事を確かめると、ゴルザを睨み付け構えた。
ゴルザもまた、怨敵であるティガの姿を認めると、怒りと闘志を混ぜた雄叫びを上げる。
『デュアッ!』
『グォオオオオオオオオオオオオォッッ!!!』
超古代からの因縁深き巨人と巨獣が、霧門岳の大地で再び対峙する。
巨大な体を揺らし、ゆっくりと進軍するゴルザ。
対してティガは勢いよく距離を詰め、もう一度強力な飛び蹴り叩き込んだ。
『――デュッ?!!』
だが、今度はティガの方が弾かれた。
勢いと体重を乗せた渾身の蹴りだったが、ゴルザはそれを胸で軽々と受け止め、衝撃をそのまま跳ね返したのだ。
ティガは地を滑りながらも体勢を立て直し、再び攻撃を仕掛ける。
『ハッ! ハッ! チャァッ!!』
拳での連撃、頭部への手刀に胴体への蹴り。
様々な打撃を繰り出すが、ゴルザの山のように重い体は一切揺らがない。寧ろ攻撃の衝撃の反発に、ティガの方がじりじりと後ろに押されていく。
『グォオオォッ!!!』
対してゴルザの攻撃。
太い腕による振り下ろしを、ティガは両手で受け止める。しかし重い一撃を吸収しきれず、ティガの身体が左右に流され、ボールのように弾き飛ばされた。
『クッ……チャッ!!』
受け身を取り、すぐに体勢を立て直したティガは、牽制として《ハンドスラッシュ》を放つ。
放たれた光弾が一直線にゴルザの胸を撃ち抜く。
『グオオォッ!!』
『……ッ?!!』
しかしティガの放った光弾は、ゴルザの身体へと吸い込まれてしまった。
“強化”されたゴルザは、単純に力を増しただけでは無く、光波熱線を取り込み“吸収”する能力を得ていたのだ。
『ンーーハァッ!』
光線技が通用しないと分かったティガは、格闘戦に特化する為、前回同様《パワータイプ》へとチェンジし、拳を構えゴルザへと向かって行く。
『グオオォッ!!!』
『チャッ!!!』
爆発を続ける火山を背に、赤い巨獣と赤い巨人が正面からぶつかり合い、二体はがっぷり四つに組み合う。
マルチタイプでは、揺らぎすらしなかったゴルザの身体が、パワータイプの力で押さえ込めるようになる。
二体の力は互角、組み合いながらもその位置から全く動くことがなく、踏み込む地面だけが抉れ陥没していく。
『グッ……ヂャァ……!?』
二体の力は互角。
ならば体格と体重で勝るゴルザの方が有利である。次第にティガの方が押され始め、背が弓のように沿っていく。
「切ちゃん、わたし達も――」
「おっと! 邪魔をするんじゃないゾッ!」
「「っ!?」」
ティガだけでは手に余る。
調と切歌がカレの援護に向かおうとした時、上空から真紅のカーボンロッドが飛来した。
咄嗟に身を翻し避ける。槍のように尖った結晶は、地面に突き刺さり、熱を帯びた煙を立ちのぼらせた。
既に三度目となるその攻撃を、見間違う二人では無い。切歌達が視線を上に向けると、宿敵であるミカがこちらを見下ろしていた。
しかしその風貌は、これまでのものとはまるで違っていた。
ゴスロリ風のドレスは弾け飛び、人形の陶器の身体が露になり、特徴的なロール髪も真っ直ぐに伸び、炎のような輝きを放っている。
「やっぱりお前デスか!」
「このゴルザの熱も貴女が?!」
「いんや、コイツは元々この地でマグマのエネルギーを溜め込んでいたんだぞ。だからワタシの持つ炎の力を足してやったんだゾ」
ゴルザとミカ。炎の力をその身に宿す二体は、今お互いのエネルギーを共有していた。
本来なら《バーニングハート・メカニクス》を発動させたミカは、四分間しか活動出来ない。
しかし今のミカは、ゴルザから流れて来る膨大なエネルギーを受け取り、無限の活動時間を得ていた。
「お陰でワタシにも力が溢れて来るゾォ! この力であの巨人に逆襲出来るゾッ!!」
「そんな事させない!」
「決着をつけてやるデスッ!!」
ゴルザだけでも手に余るこの状況で、力を増したミカに好き勝手をさせては戦況が崩壊しかねない。
調と切歌は迷わず、目の前で立ち塞がる因縁深き敵へと戦いを挑む。
《α式・百輪廻》
《切・呪リeッTぉ》
まず先行した調が、ツインテール型のギアから無数の小型鋸を射出し、それに続くように切歌も複数の刃を放った。
光を反射させて煌めく二色の刃。
しかしそれは、ミカへと到達する前にその体表を覆う高熱によって焼失してしまった。
「その程度じゃ、この炎のカーテンを越えることは出来ないゾ?」
「「だったらァッ!!」」
《災輪・TぃN渦ぁBェル》
《Δ式 艶殺アクセル》
小技では炎を突破出来ないと理解した切歌達は、高速で回転をし、刃の威力を上げ突進する。
空気を切り裂く程に回転した二人の刃が、炎の壁を破る。しかしミカに到達する前に、カーボンロッドで受け取れられ届かず、反対に弾き飛ばされてしまう。
「ヒヒッ! 前に手も足も出なかった癖に、パワーアップしたワタシに勝てる訳ないんだゾ!」
前回同様、こちらを小馬鹿にするような声。
しかし今の二人はそんな挑発で心を乱されない。
自分達が戦える回数は限られている。だからこそ、一度の戦いにすべてを懸ける。その覚悟が、心の奥でミカの炎以上に燃えていた。
「調、もう一度デスッ!!」
「うん、何度だってぇッ!!」
切歌と調は立ち上がり刃を突きつける。
ミカの圧倒的な力に、幾度となく弾き返されるが、その度に立ち上がり刃を向ける。
「そんな、やばれかばれの攻撃じゃ…………ヌゥ?」
余裕を見せていたミカの表情が、わずかに歪む。
楽々と受け止めていたミカだったが、立ち上がる度に力を増していく二人の刃に、カーボンロッドが次第にヒビ割れていくのを感じる。
二色のシンフォギアが奏でる《ユニゾン》が、相乗的に調達の力を強めていたのだ。
「ナヌゥッ……?!」
ついにミカのカーボンロッドが砕け散った。
爆ぜる光と衝撃にミカの身体が大きく後退し、バランスを崩す。
「今デス調ッ!!」
「うん――」
二人は手を取り合い、空高く跳び上がる。
そして互いの脚部アーマから、巨大な大鎌と大鋸を作り出し蹴りとして叩き込む。
それは前々回の戦いでミカに通用しなかった合体技。
「バカの一つ覚えでェッ!!!」
ミカは前々回同様、炎の盾を作り出し受け止める。そして盾を爆発させて、調達を吹き飛ばすつもりだった。
しかしミカは侮っていた、この二人はもう以前の二人では無いのだ。
「――ナッ?!」
黒煙の中から二色の刃が煙を突き破り、ミカの目前へと迫った。ミカは慌てて両腕を十字に組み、刃の侵攻を受け止める。
「グ、ぬぬぬぬ……ヌゥあぁッ!!!」
両腕に大きな傷を受けながらも、ミカは渾身の力で切歌達を吹き飛ばした。
「ハァ……ハァ……お前達のようなジャリンコが……半人前が、ワタシに勝てる筈が無いんだゾ!」
それは強がりだった。
もし前回までのミカだったら、今の一撃でやられていた。それ程までに、今の二人は前よりも強くなっていた。
「……確かに、あたし達は子供デス。自分達の事しか考えず、一人では何も出来ない半人前デス」
「でも……一人では何も出来なくても、二人ならっ!!」
「「何だって出来る(デス)ッ!!!」」
二人は同時に胸のコンバータに手を添える。
相棒を頼るという新たな強さを手にした彼女達に、もう恐れは無い。目の前のミカやゴルザにも劣らない二人の熱い心の炎が、コンバータを起動させた。
「「イグナイト・モジュール抜剣(デス)ッ!」」
《ダインスレイフ》
コンバータが変形し二人の胸を貫く。
心の奥から闇が溢れ出し、主人を乗っ取ろうと膨れ上がるが、調達は手を結び合い堪える。
(子供扱いされるのが嫌だった……足手纏い扱いされるのが嫌だった。でもそれはわたしの勘違いだった……皆んなはわたし達を大切に思ってくれているだけ、だったら皆んなの優しさに、わたしは応えたい)
(子供扱いされたって良いんデス。あたし達よりもずっと小さな子供だって、強い心で誰かを勇気づけられるんデスから!!)
自分達を勇気づけてくれた大人達、仲間達、そして太陽のように眩しい少年を心の光と変え、彼女達は己の闇を乗り越えた。
二人のギアが変わる。
黒く艶やかで、何処か“大人”の雰囲気を感じさせる妖艶な姿。
黒く染まった赤と緑の刃が戦場へと降り立った。
「「はあァッ!!!」」
強化されたアームドギアを手に、二人はミカへと向かう。ミカもまたカーボンロッドを両手に、二人の怒涛の攻めを受け止めていく。
もうミカの中に油断は無い。目の前の二人の装者を最強の好敵手とし、その力を振るう。
「最強のオートスコアラーであるワタシには、届かないゾッ!!!」
最強の力を惜しみ無く使うミカは、たとえイグナイトを使用していても攻めきれない。
だがそれはあくまで“個”としての強さ。
「調ぇッ!!」
「うん!」
《断殺・邪刃ウォttKKK》
《非常Σ式・禁月輪》
そんな物の限界をとっくに知っている二人は、手を取り合う強さを力に変える。
切歌の放ったアンカーがミカを捉え、反対側で構える調の車輪ギアに連結される。
「お前が最強のオートスコアラーなら……!」
「わたし達は、二人で最強の……!」
「「ジャリンコだァッ!!!」」
《禁殺邪輪 Zあ破刃エクLィプssSS》
そして切歌は両足に構えた大鎌をバーニアで押し込み、調は刃の車輪を加速させる。連結したアンカーが、二人を引き寄せ更なる力を乗せた。
「足りない出力をかけ合わせて――」
ミカは咄嗟に炎のバリアを張り、攻撃を押し留める。
だが、それでは押さえ切れない。
調と切歌、二人の膨大なフォニックゲインと、炎のエネルギーが衝突し合い、巨大な爆発が巻き起こった。
☆
「はぁ……はぁ……やったデスよ調!」
「うん……切ちゃん……」
遂に宿敵へのリベンジを果たした二人。
限界を越えた戦闘の果てに、肩で息をしながらも互いに微笑み合う。
『グオオォッ!!!』
「「……っ!!?」」
だが、その安堵も束の間。
ゴルザが、轟音と共に二人へ視線を向ける。運命共同体であったミカが敗れたことを本能で察したゴルザにとって、切歌達も標的と変わったのだ。
額のツノが赤く光り、超高熱熱線が目前へと迫る。
『デュアッ!』
しかし熱線が調達を捉えようとしたその直前、ティガは二人の体をバリア状の光で包み込む。眩い泡のような光の膜が展開され、直撃した熱線を受け流した。
ピコーン ピコーン ピコーン――
『フッ……!?』
「ティガっ!?」
確実に二人を守るためにエネルギーの半分を消費し、強固なバリアーを作り出したティガ。しかしその代償は重く、片膝をつきカラータイマーが赤く点滅を始めた。
『グオオォッ!!!』
『フゥ……フゥ……デュアッ!』
脱力感を感じ、息を切らしながらもティガは拳を握りしめ目の前の巨獣を睨み付ける。
少年は諦めない。
短い時間しか戦えず、それでも全力で挑み、雪辱を果たした二人のお姉ちゃんを見ていたから。
彼女達の勝利が、彼の背を押す。
『チャッ! ハーーーッ!!』
残されたエネルギーは僅か。
だがティガは敢えてそれを節約するのではなく、残ったエネルギーをかき集め、自身の能力を高めた。
膨大なエネルギーを含んだ右拳が赤く発光する。
『デュアッ!!!』
《ティガ・電撃パンチ》
光が雷鳴のように弾け、轟音が空を裂く。
ティガの拳がゴルザの胸を撃ち抜き、爆撃にも似た火花が奔った。
『グオオォッ?!!』
『デュアッ!』
《ティガ・電撃キック》
破壊力を増した一撃に、流石のゴルザもたたらを踏む。
ティガはその隙を見逃さず追撃を加える。
蹴り、拳、、踵落とし、アッパー、ゴルザが体勢を立て直す前に次々追撃を与えていく。
ピコーン ピコーン ピコーン ピコーン――
一見ゴルザを押しているように見える。
だがそれは、消える前のロウソクの火のような刹那の輝き。
ティガの一撃がゴルザを怯ませる度、カラータイマーの点滅が強まっていく。
切歌と調は、その姿に時間制限で苦しむかつての自分たちの姿を重ねていた。
「このままじゃティガが……でも、どうすれば良いデスか?」
ティガの攻撃は確実にダメージを与えている。
それでもやはり決定打に欠ける、強化されたゴルザを倒すには、“必殺の一撃”が必要となる。
しかし今のゴルザには光線技が通用しない。
実体を持つ攻撃、それも桁違いの破壊力を持つものでなければ倒せない。
「切ちゃん、これ見て!」
切歌が考えを巡らせていると、何かに気がついた調が、ティガの張ったバリアに触れる。
その瞬間、イグナイトの鎧が眩く光り、ティガのバリアの光が呼応するように強まった。
調は感じ取った。
自分たちの周囲を包む高密度の“フォニックゲイン”が、ティガの放つ“光”と共鳴しているのだと。
「……これデス! 調、もう一度力を合わせるデスっ!」
「うん! 今度こそ、わたし達でティガを助けるんだっ!」
同時に同じ考えに至った切歌と調は手を繋ぐ。
二人の活動時間も残り少ないが、再び《ユニゾン》を紡ぎ、残る全てのフォニックゲインをバリアへと注ぎ込む。
二人の歌に呼応して、ティガのバリアがさらに強く輝きを増していく。
「ティガ、わたし達を使ってッ!!!」
『……ッ!? (コクッ)』
その光景から二人の意図を察したティガは、切歌と調のフォニックゲインで強化されたバリアを、《ウルトラ念力》で眼前へと持ち上げる。
「いくデスよ、調ッ!!」
「うん!」
一か八かの危険な賭け、だが二人に恐怖は無い。
“二人なら何だって出来る”。
その心意気と最強の友への信頼が彼女達に勇気を与え、その歌をより美しいものへと昇華させていく。
二人の力を得たティガのバリアが、赤と緑の眩い二色の光の玉へと変化する。
『チャッ! ハーーー……』
ティガは念力でバリアーを持ち上げたまま、必殺技の構えをとる。そして二色の眩い光の玉へと、《デラシウム光流》をぶち当てた。
『デュアッ!!!』
《ウルトラブリット》
ティガの放ったエネルギーの奔流が推進剤となり、バリアを弾丸のように撃ち出す。
音の壁を貫き、赤と緑、二色の螺旋状の渦が空間を裂くように一直線に突き進む。
『グオオォッ!!!』
ゴルザは腕を広げ、そのエネルギーの塊を受け止めようと構える。
しかしゴルザは気が付いていない。
それは“光線”ではなく、強固となったバリアを光線で撃ち出した“弾丸”なのだ。
当然カレの能力では吸収出来ず、赤と緑の閃光が一直線にゴルザの胸の中心を穿ち貫いた。
『ゴ……グオ……オォ…………』
何が起きたのか理解できず、ゴルザが呻き声を上げようとする。
しかしその咆哮に反応し、胸の中心に開いた巨大な風穴から亀裂が広がり、ゴルザの肉体がヒビ割れ崩れ去って行った。
熱風が吹き抜け、戦場に静寂が訪れる。
――ファイアーゴルザ撃破。
☆
最強の敵、強化されたゴルザとミカを撃退し終えた後、その後の対処は素早かった。
ティガは残ったエネルギーで火山の熱を冷まし噴火を抑え、S.O.N.Gの職員たちは付近の消防と協力し周囲の火災を迅速に鎮火。
そのおかげか、街への被害はゼロで済んだ。
全ての作戦を終えた装者たちは、本部に帰還し再び集結する。
「良くやったな二人とも!」
「オートスコアラーを倒すだけじゃなく、ゴルザの野郎まで倒しちまうとはなっ!」
「本当、強くなったわね……調、切歌」
翼、クリス、マリア、自分達が尊敬する先輩達に褒められて、調達は照れ臭そうに頬を染める。
しかし思い出したかのように真剣な表情に引き締めると、弦十郎達に向き直り深々と頭を下げた。
「これまで独断が多く、ご心配をお掛けしました……」
「これからは気を付けるデス……」
「お、おぉ……珍しくしおらしいな?」
最年少の割に反骨心の強い二人は、弦十郎達の指示に違反して自分達の意思を貫き、無茶する事も多かった。
そんな彼女たちが、素直に頭を下げる姿に弦十郎は少し面食らってしまう。
「わたし達が背伸びしないでできるのは、受け止めて、受け入れること……」
「だから、ごめんなさいデス……」
「う、うむ……分かればそれでいい」
一つの壁を乗り越え少し大人になった調達、マリアにはそんな二人の姿が少し大きくなったように見えた。
「足手まといにならないこと……それは強くなることだけじゃない。自分の行動に責任を伴わせる事」
弦十郎たちへの謝罪を終えた調は、次に響のもとへと歩み寄り、再び頭を下げた。
「ごめんなさい、響さん……」
「調ちゃん? 良いんだよ、わたしの方は怪我も――」
「違うんです。その事もですけど、わたしが謝りたいのは、初めて会った時……貴女に投げかけた言葉……」
響は思い出した。
まだ出会って間もない頃、調が投げつけたあの強い言葉を。
“それこそが偽善! 痛みを知らないあなた達に……誰かの為だなんて言ってほしくない!!”
あの日の棘を、調は今ようやく抜こうとしているのだ。
「ずっと謝りたかった。薄っぺらい言葉で、響さんを傷つけてしまったこと……」
「ごめんなさいの勇気を出すのは、調一人じゃないデスよ……あたしも、ごめんなさいデス」
震える調の手を取り、彼女の隣で切歌も同じように深く頭を下げる。
響は何も言わず、二人を力強く抱きしめた。
「そんなの……良いんだよ」
いろんな想いや答えがあったが、それを言葉にしようとしても安っぽくなってしまう。
だから響はそれだけ呟き、行動で示した。
その優しく力強い抱擁が、自分達の罪の清算を感じさせ、二人は自然と涙をこぼしていた。
「皆んな〜! ご飯出来たよー! 早く一緒に食べよ!」
遠くからユウがコチラを呼ぶ声が聞こえる。
平和な日常の象徴とも言えるその柔らかい声に、皆はフッと笑みを溢し、いっときの平和へと戻っていくのだった。
☆
霧門岳から遠く離れた森の中。
戦闘区域から離れ、S.O.N.Gの鑑識が行き届かなかったその場所でミカは倒れていた。
「レイア、助かったゾ……」
「随分と派手にやられたな、ミカ」
調達に敗れる寸前、ミカを救出したのはレイアだった。しかしギリギリのタイミングだった為、全身にダメージを抱えほぼ半壊していた。
しかしそれでも生き延びた。ガリィ同様キャロルの指示を、この二体も破ったのだ。
「お前とゴルザが蓄えたエネルギーは、私達が預かっていくぞ?」
「おお……後は頼んだゾ…………」
レイアがカプセルのような物を取り出しミカへと向けると、彼女の身体から赤い粒子が飛び、カプセルへと吸い込まれていく。
数秒と経たずミカの目は閉じられ、動かない人形へと変わった。
「…………全ては、マスターの為に」
そう呟くレイアの表情は、どこか寂しげだった。