シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第五十三話 夢への翼  

 

 

 

 

 

「先輩っ!!!」

 

 クリスの大きな声と共に、バタンッ!!と高級そうな襖が勢いよく開かれる。

 

「翼さんお怪我は――」

 

「マリア、翼さんの容態は――」

 

 クリスだけでなく、切歌と調も続けて飛び込んでくる。じ部屋へと飛び込んだ。検査入院中で来られない響を除き、装者達全員が翼の身を案じて駆けつけていた。

 

「「「あっ!?」」」

 

「「「あっ……」」」

 

 しかしその部屋の内部を見た瞬間、三人は言葉を失った。当の翼はすでに目を覚まし、奏やマリアと共に元気そうに作業をしていたのだが、問題はその部屋の惨状だった。

 衣服は散乱し、箪笥は開きっぱなし。

 まるで小規模な嵐でも通り過ぎたかのような有様である。

 

「先輩、あんた……」

 

「お願い、何も言わないで……」

 

 後輩達に見られたくなかった“醜態”を前に、翼は顔を真っ赤にして俯く。そのあまりの羞恥に、いつもの凛とした姿は見る影もない。

 クリス達もまた、その空気に何も言えず、ただ微妙な沈黙だけが部屋の中に流れた。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 とても少女が荒らしたとは思えない酷い部屋であっても、六人もいれば片付くのはそう難しい事では無い。

 本来であれば、後輩に部屋の片付けを手伝わせるなど翼のプライドが許さない。

 しかし当の本人が片付け下手である以上、説得力などあるはずもなく、半ば強引に手伝われる形となっていた。

 

「そんで、先輩の様子は?」

 

「身体の方は問題ない。直接的なダメージは少ないし、大きな怪我も無かった」

 

 片付けの最中、クリスが隣で作業をしている奏に小さな声で尋ねる。二人の視線の先では、翼が切歌達と楽しそうに談話しながら服を畳んでいた。

 

「ただ……問題は“心”の方だ。ここに帰って来てから、明らかに翼の様子が重い。もしまた、アイツらが襲って来たら今度は対処出来るかどうか……」

 

 付き合いの長い奏は、その笑顔の陰りに気づいていた。

 十年ぶりの実家への帰郷、複雑な想いを持つ父親との顔合わせ、鍛えた剣技がオートスコアラーによって意図も容易く砕かる。

 そんな数々の試練が、彼女の剣のように磨かれた心に決して小さく無いキズを作っていた。

 心の強さが強度に関係するシンフォギアを纏う装者とって、それは命取りとも言える状態である。

 

「クリス達も知ってるんだろ? 翼ん家の事情」

 

「ああ、前に先輩から教えてもらった事がある」

 

 クリスはS.O.N.G結成当初。

 共に戦う仲間として互いの背負うものを皆で語り合い、響の提案の元、半端無理矢理円陣を組まされた日のことを思い出していた。

 

「パパ……か……」

 

 クリスは静かに呟く。

 父親と複雑な関係の翼。そんな彼女の姿を見てクリスは、既に他界した自分の両親のことを思い出していた。

 その時。スッと、襖がゆっくりと開いた。

 

「翼お姉ちゃん、ここに居るの?」

 

 細く開いた隙間から、ひょこっと小さな顔を覗かせるユウ。

 

「もう怪我はいいの?」

 

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫よ、怪我は大きく無かったから」

 

 柔らかく微笑む翼。

 その笑顔に、ユウもほっとしたように頷く。

 

「そっか! 良かった〜。ねぇお姉ちゃん、よかったら少し話さない?」

 

「えっ? でも……」

 

 翼は部屋を見渡す。

 彼女にとってユウからのお誘いは何よりも嬉しかった。しかしまだ部屋の片付けが残っているというのに、部屋主である自分が離れるのは忍びない。

 

「あたし達なら大丈夫デス!」

 

「うん、もう片付けも終わるし、翼さんはゆっくりしてて」

 

 しかし切歌と調は笑顔で見送る。

 彼女達もまた、翼が心身的に傷付いているのを直観的に察していた。少しでも療養してもらう為にも、ゆっくり話す時間が必要だと思っていた。

 

「今の貴女には、少しでも癒す時間が必要よ。ユウとゆっくりお話しでもして来なさい」

 

「マリア……ありがとう。それじゃ行きましょうか、ユウ」

 

「うんっ!!」

 

 翼は眩しい笑顔で答えたユウの手を取ると、部屋の外の縁側へと案内し二人で腰を下ろした。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 翼が気を失っている間にもかなりの時が経過していた。

 日が沈み夜空には美しい満月が姿を見せ、照らされた屋敷の鹿威しが、カポンッと気持ちのいい音を鳴らしている。

 しかしそんな風流溢れる光景に反して、翼の心は晴れやかではない。

 

「見て見て! 今日は満月だよ!」

 

「本当、綺麗ねぇ……」

 

 夜空が大好きなユウは、満月と満点の星空を指差しながら、嬉しそうに声を弾ませる。

 

「なんだかこうしてると、未来お姉ちゃん達と流星群を見に行った日を思い出すね」

 

「そうね、あの日もこんな風に綺麗な夜空だったわ。私は早々に出撃する事になっちゃったけど……」

 

 二人はいつだか響達を含めた四人で、こと座流星群を見ようとした日を思い出す。その時期の響と翼は微妙な関係であり決して満足に楽しんだ時間とは言えなかったが、今のユウ達にとっては大切な思い出の一つだった。

 

「ねぇ、また皆んなでお星さま見ようよ! 流星群じゃなくても、お姉ちゃん達と一緒ならきっと楽しいと思うから!」

 

「ふふっ! その時が楽しみだわ」

 

 ユウは振り向き、にぱっと笑う。

 その無邪気な笑顔に、翼の暗い顔に少し笑みが戻った。

 翼自身もそれが分かったのか、フッと一息付くと己の胸の奥に溜まった淀んだものを吐き出し始めた。

 

「砕かれてしまったわ……剣と鍛えた誇りも……この身も」

 

「翼お姉ちゃん……」

 

「駄目ね私は、この体たらくでは……ますますもって、お父様に“鬼子”と疎まれてしまう」

 

 翼は幼き頃に八紘から、軽蔑の言葉を投げかけられた事を思い出していた。

 そんな時、ふわりと翼の頬に柔らかい感触と甘い香りが鼻をくすぐる。ユウは横から翼の頭を胸元へと抱き寄せていた。

 

「翼お姉ちゃんは、剣なんかじゃないよ」

 

「ユウ……?」

 

「もしお姉ちゃんが剣なら、こんな風に痛くて抱きしめられないもん」

 

「その言葉は……!」

 

 それはかつてユウが、傷付いていた翼に投げかけた言葉。まだ奏が意識を取り戻す当てもなく、自信を剣として磨き上げ、傷つけていたあの時である。

 

「姉ちゃんは、剣でも道具でも無い。大好きな夢を目指して自由に羽ばたく、“翼”お姉ちゃんだよ。だから、砕かれてなんかない、きっとまた立ち上がれるよ」

 

「ユウ……貴方は本当に変わらないわね」

 

 翼は愛しそうに目を閉じ、ユウの背中に手を回した。

 辛い時、苦しい時、いつもこの少年は自分が最も欲しいと思った言葉をくれる。そんな優しさが心地よく、つい身を委ね甘えてしまう。

 

「……ねぇ、翼お姉ちゃん。一度お父さんと、ちゃんと話し合って見たら?」

 

「でも、私は……お父様に軽蔑されて……」

 

「本当にそうなのかな?」

 

「えっ?」

 

 翼は思わず顔を上げる。

 彼のその問いは、今まで一度も疑ったことのない“前提”を揺らすものだった。

 

「実はさっき言ったことはね、翼お姉ちゃんのお父さんから聞いたんだよ」

 

 ユウは先程翼の父である八紘と話した。

 その中でユウは、翼に関する事で一つ気になることを聞いていた。

 

「“自由に羽ばたく、翼”。八紘さんがお姉ちゃんに名付けた願いなんだって」

 

「私の名前を……お父様が?」

 

 翼は信じられない、とでもいうように目を見開いた。

 

「うん、昔お母さんが言ってたんだ。名前はただの呼び名じゃない、名付け親の大きな想いや願いが込められた大切なものだって!」

 

 翼は自分の名付け親を知らなかった。

 世話係の侍女達が言うには親族の誰かという事は聞いていたが、まさか自分を忌み嫌っている父だとは思いもしなかった。

 

「こんな素敵な名前を付けてくれたお父さんが、心の底から翼お姉ちゃんを嫌ってるなんて無いと思う」

 

「お父様……」

 

 ユウの話を聞いた翼は、無意識に自分のスカートを握る手に力を込める。彼女の中で知らなかった“事実”が、心の奥に沈んでいた何かを揺らしていた。

 

「翼お姉ちゃん……怖いの?」

 

「ええ……」

 

 彼の言うことの意味は分かる。だがそれでも翼の記憶の奥底には軽蔑されたあの日の出来事が残っていた。

 自らの父親に罵声を浴びせられ、口汚く罵りれるあの時の恐怖は、彼女にとって何よりも変え難いものとなっていた。

 

「大丈夫だよ、お姉ちゃん」

 

「ユウ……?」

 

「お姉ちゃんが怖いなら、ぼくが勇気を上げる。ぼくだけじゃない、奏お姉ちゃんやクリスお姉ちゃん達も居る。お姉ちゃんは一人じゃないんだよ」

 

 そんな彼女を見たユウは、縁側から立ち上がると翼の前で腰を下ろし、震えるその手を優しく握った。

 恐怖のせいか冷えて冷たくなった翼の手を、春の陽気のような暖かさが包み込んだ。

 

「それに……お話しは出来る時にしておかないと、いつかきっと後悔すると思うから」

 

「ユウの言う通りだぜ、翼」

 

 不意に背後から掛けられた声に、翼ははっとして振り返ると、そこには部屋の片付けを終えた奏とクリスが立っていた。

 真剣な二人の表情を見ると、ただ様子を見に来ただけではないことが伝わってくる。

 

「翼、お前の家の事情は聞いてるし、親父さんと複雑なのも分かる。でも……」

 

 奏は、少しだけ言葉を選ぶように間を置く。

 

「……確かに今、生きているんだ」

 

「奏……」

 

 奏の両親はノイズの被害となり帰らぬ人となった。

 その過去があり、ノイズへの復讐の鬼となり戦う戦士だった過去がある。

 

「先輩……今会えてる人が、明日も会えるのが当たり前とは限らないんだぜ。……アタシ達のパパやママみたいにな」

 

「雪音……」

 

 クリスの両親は、幼き頃のテロによって失われた。

 それにより世界を憎み、力によって平和を手にしようと狂ってしまった。

 

 奏とクリス、この二人も親を亡くす悲しみと虚しさを共有する者たちである。彼女達もまた、父親と話せずいつか後悔する翼の姿を見たくない、そんな思いでこの場へとやって来たのだ。

 三人の言葉を受け止め、翼はゆっくりと瞳を閉じる。

 確かに怖い――けれどこのまま何もせずにいることの方が、もっと後悔するのではないかという思いが、胸の奥を打ち鳴らす。

 

「ありがとう、三人とも。私、行ってくるわ」

 

「ぼくもついて行く!」

 

「ええ、貴方が一緒なら百人力よ」

 

 差し出されたユウの手を迷いなく取り、翼はそのまま縁側から立ち上がる。足取りは軽く、どこか心が弾んでいるようにも見えた。迷いを振り切るように、二人は廊下の向こうへと駆け出していく。

 

「全く……世話の焼ける先輩だぜ」

 

「その割にはどこか嬉しそうだな、クリス?」

 

「そ、そんな事ねぇよ!」

 

 顔を真っ赤にし即座に否定するクリスだったが、奏の言葉は図星だったのだろう、その声にはどこか柔らかさが混じっていた。

 フロンティア事変で受けた恩を、いつか返したいと願っていたクリスにとって、こうして翼の力になれたことは、確かに嬉しいことだった。

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

「お父様!!」

 

「翼……?」

 

 翼の大きな声に呼び止められ、自室に戻ろうとしていた八紘は驚いたようにこちらを向く。

 

「お父様、お話しが――」

 

 翼がそこまで言いかけた時。

 激しい爆発音が、屋敷内に轟いた。

 

「な、何だ?!」

 

「お父様!」

 

 翼は素早くユウと八紘を己の後ろに隠し、二人の前に躍り出ると、爆発に巻き上がった土煙の先を睨みつける。

 茶色い煙を切り裂き、因縁の相手であるファラが再びその姿を見せた。

 

「貴様は!? 要石を破壊した今、貴様に一体何の目的があるッ?!」

 

「ふふふ、私は歌が聞きたいだけ……けど、歌わないのなら、貴女の大切な物が砕かれるわよ?」

 

 感情の宿らない人形の瞳が、ゆっくりと動く。

 その視線は、翼の背後にいるユウと八紘へと向けられ、無機質な刃の切先が、迷いなく二人を指し示した。

 

「そんな事、させるものかッ!」

 

 翼は二人の姿を隠すように一歩前に出ると、胸元のペンダントに手を添え息を整えた。

 

「Imyuteus amenohabakiri tron……」

 

 詠唱と同時に光が弾け、蒼き装甲がその身を包む。旋風のように吹き上がるエネルギーと共に、翼は一直線にファラへと突き進んだ。

 

「ふふっ。剣であるその身、哲学が凌辱しましょう」

 

 どれほど鋭く、どれほど鍛え抜かれた斬撃であろうと、ファラの剣殺し(ソードブレイカー)に触れた瞬間、あまりにも容易く崩壊してしまう。まるで存在そのものを否定されるかのように、翼の剣は形を保てないでいた。

 

「さぁ、今度はこちらから行きましょうかッ!」

 

「くっ!!」

 

 攻守が逆転する。

 翼は砕かれることを前提に、新たな剣を次々と生成し、防御へと回る。破壊される度に次を生み出す、その連鎖でかろうじて致命を避けていた。

 だが、そんな防御が長く続くはずがない。

 

「先輩ッ!!」

 

 騒ぎを聞きつけたクリス、マリア、切歌、調の四人が一斉に駆け込んでくる。状況を一目で把握し、即座に援護へと動こうとした。

 だがその瞬間、上空からキラリと光る物体が飛来する。

 

「っ!? 皆、避けて!」

 

 マリアの鋭い声に、全員が反射的に飛び退いた直後、地面に突き刺さる硬質な音が響いた。

 クリスが足元を見ると、彼女のつま先の少し手前に見覚えのある黄金のコインが地面へと突き刺さっていた。

 

「やっぱりテメェかッ!?」

 

 クリスは、コインが飛来した方角を睨みつける。

 するとやはりそこには、ディーラーの如く優雅に、指の間でコインを弄びながら立つレイアの姿があった。

 

「お前達の相手は私だ。派手に邪魔させて貰うとしよう」

 

「たった一人で、わたし達四人を抑えられるとでも?」

 

 挑発に対し、調が即座に応じる。しかしレイアはわずかに肩を竦めるだけだった。

 

「そこまで自惚れ屋では無いさ……ファラッ!!」

 

 呼びかけに応じ、ファラがわずかに笑みを深める。そして二人は同時に、小さな結晶カプセルを取り出した。

 緑と黄色、不穏な光を放つそれが、躊躇なく地面へと投げ捨てられる。

 

「いらっしゃい。《メルバ》!」

 

「こい、《ゴルザ》ッ!!」

 

 結晶の砕ける音と共に、異質な気配が膨れ上がる。次の瞬間、空間そのものを押し広げるように、巨大な影が姿を現した。

 

『キシャアアアアアアアアッ!!!』

 

『グオオオオオオオオオオッ!!!』

 

 屋敷の外に現れた二体の巨影。翼を広げるメルバ、重厚な体躯のゴルザ。それぞれが咆哮を上げ、空気を震わせる。

 

「なっ、コイツらは!?」

 

「ミカは良くやってくれたわ。おかげで闇の眷属を錬金獣にする事が出来たんですもの」

 

 これは実際に存在するゴルザ達ではなく、ミカの持ち帰った超古代の因子を解析し、作り出した錬金獣である。

 

「これで戦力は四体三……いや、それ以上か?」

 

「くっ……!」

 

 レイア一体なら何とかなったかも知れないが、更に錬金獣が二体。数では優っているが、その戦力差は装者達にとって絶望的に不利な状況にあった。

 

「あらあら、助けは来ないようですわ……よッ!!」

 

「ぐぅッ!?……ああぁッ!!!」

 

 錬金獣に遮られ、援護を受けられない翼。

 剣殺しを持つファラ相手ではやはり相性が悪く、ついに防御を崩される。打ち込まれた一撃と同時に巻き起こる突風、翼は抵抗する間もなく吹き飛ばされ、地面を転がるように叩きつけられた。

 

「あらまぁ、お父様の前で何と情けない姿なんでしょう。貴女の歌がこの程度なら、なんとも興醒めですわ」

 

「くっ……私は……」

 

 嘲笑混じりのファラの言葉が突き刺さる。

 倒れ伏したままの翼の視界の端で、砕け散った自身のアームドギアが無残に転がっていた。

 それは彼女の誇りであり、己の心の刃。

 その象徴を幾度となく否定され、砕かれ続けたことで、再び胸の奥から戦意が剥がれ落ちていく。

 立ち上がろうとする意志すら揺らぎかけた。

 だがその時、それまで戦いを見守るしかなかった八紘が、静かに一歩前へと踏み出した。

 

「歌え、翼ッ!!」

 

「お父様……?」

 

「風鳴の道具でも剣でもない、夢を追う事を恐れない“翼”としての歌を、私に聞かせてくれッ!!!」

 

「八紘さん……!」

 

 その声には命令でも叱責でもない、ただ一人の父親としての願いが込められていた。

 ユウはその横顔を見つめながら理解する。今踏み出されたその一歩は、単なる前進ではない。長い間目を背け続けてきた“娘”という存在と、真正面から向き合う覚悟を決めた、確かな一歩だった。

 

「それが、お父様の望みなら。聴いてください、風鳴八紘の娘……“翼”の魂の歌をッ!!」

 

 折れかけていた心に火が灯る。

 父親が踏み出した一歩、その勇気は翼の内に残っていた迷いを焼き払い、再び立ち上がる力へと変わっていく。

 翼は折れた刀を支えに身体を起こし、ゆっくりと立ち上がると、迷いなく胸のコンバータへと手を伸ばした。

 

「イグナイトモジュール、抜剣!!」

  

 《ダインスレイフ》

 

 機械的な音声と共に、魔剣の呪いがその身を包み込む。かつてならば心を蝕んだその闇も、今の翼には揺らぎを与えない。迷いを断ち切った心は呪いすら力へと変え、ギアは漆黒に染まりながら、新たな段階へと昇華していく。

 

「ハアァッ!!」

 

「味見させていただきます」

 

 踏み込みと同時に、空気が裂ける。翼の漆黒の太刀と、ファラの剣殺しが激しくぶつかり合う。

 

「いくら出力を増したといえど、それが剣である以上、私には毛ほどの傷すら負わせる事は敵わない」

 

 イグナイトモジュールを発動し、圧倒的な力を得た天羽々斬だが、やはり剣である以上剣殺しとぶつかり合った瞬間に砕ける。

 その筈だった。

 鍔競り合うファラの剣殺しに、確かな亀裂が走る。

 

「ッ!? あり得ない、哲学の牙が何故ッ!?」

 

 ソードブレイカーが砕かれる。

 咄嗟に後ろに下がった事で直撃は避けたが、哲学兵装が破られた事に驚きを隠せないファラ。

 そんな彼女とは対照的に、翼は揺るぎない眼差しで敵を睨みつける。

 

「貴様はこれを剣と呼ぶのかッ!? 否ッ、これは夢に向かってはばたく“翼”ッ! 貴様の哲学に、翼はおれぬと心得よッ!!」

 

 言葉と共に踏み込む。二本の太刀を携え、空を裂くように迫るその姿は、まさに名の通り“翼”が羽ばたくかのように様に美しい太刀筋だった。

 

「くっ! そんな言葉遊びで……!!」

 

 ファラは新たにソードブレイカーを二振り取り出し、翼の太刀を受け止める。しかしやはり太刀は砕けず、イグナイトの出力と、何よりも揺るがぬ意志が、剣という概念すら塗り替え始めていた。

 出力を増したギアと、翼の鍛え抜かれた剣技に次第に押されていく。

 

「ファラ!?……くっ!」

 

「やらせるかよッ!!」

 

 劣勢を悟ったレイアが援護に入ろうとした瞬間、クリスの放つ弾丸が軌道を遮る。

 

「ならば……ゴルザ、メルバッ!!」

 

 命令に応じ、二体の錬金獣が咆哮する。

 マリア達のスピードに翻弄されていた巨体が、ギロリと視線を翼へと向けた。

 

『グオオオオオオッ!!!』

 

『キシャアアアアッ!!!』

 

「……っ!?」

 

 次の瞬間、二体の怪獣が同時に攻撃を放つ。ゴルザの超音波光線、メルバのメルバニックレイ。

 回避は間に合う。だが――

 

「はっ!? お父様、ユウッ!!!」

 

 咄嗟に跳び退く翼。

 しかし背後にある屋敷、そしてそこにいる二人を守る術は無かった。放たれた光線が直撃し、縁側一帯が激しく爆発を起こす。爆煙と炎が視界を覆い尽くした。

 

「そんな……お父様……ユウ…………」

 

「いや、見てみろアレ!」

 

 血の気が引く。全てを失ったかのような絶望が胸を締め付ける翼。だがクリスの叫びに、反射的に視線を向ける。

 爆煙が晴れていく。その中から現れたのは巨大な“銀の右手”だった。

 

「あれは……!」

 

 誰もが見間違えるはずがない。何度も、何度も自分達を守ってくれたその手。

 光の粒子が集い、手首、腕、肩、そして全身へと形を成していく。

 

「ウルトラマン……ティガ」

 

 銀の手に守られるようにして攻撃を遮られた八紘は、ゆっくりとその巨人の姿を見上げる。

 彼はその瞬間を見ていた。怪獣達の攻撃がこちらへと飛び火した瞬間、側にいた少年が自分を守る様に前に出たところを。

 そしてその少年の姿は、この場から消えていた。

 

「まさか……君が……?」

 

 確認する様に呼びかける声に、ティガは一瞬八紘を見下ろすと、ただ無言で頷いた。

 

「お父様、ご無事ですか?! ユウは?」

 

「彼も無事だ。お前は、お前の勤めを果たせッ!」

 

 ティガは八紘をその掌に乗せると、屋敷から離れた場所に下ろした。父の言葉を信じ頷いた翼は、再び目の前の敵達と相対する。

 

「来たな、ティガの巨人」

 

「これで戦況は逆転ね」

 

 マリアの言う通り、翼はファラを押し返し、怪獣の利もティガが来た事で大きく変わった。

 ゴルザとメルバは確かに脅威だが、かつてティガはその二体を同時に相手取り、勝利している。加えて、今はイグナイトを発動できる装者達が揃っている。

 条件は明らかに、こちら側へと傾いていた。

 

「フッ……それはどうかな?」

 

「何ですって?」

 

「見せてあげましょう。錬金術最大の奥義をッ!」

 

 意味深にほくそ笑んだファラとレイアは、それぞれが使役する錬金獣の肩へと飛び乗った。

 そして二人は、錬金獣を召喚した結晶を手に持つと、天へと掲げた。

 

「ゴルザ――」

 

「メルバ――」

 

「「合体せよッ!!!」」

 

 二つの結晶が空中へと放たれ、引き寄せられるように重なり合う。その瞬間、ゴルザとメルバの身体が強烈な光に包まれた。あまりの眩しさに、ティガ達は思わず腕で視界を遮る。

 やがて光が収まり、再び視界が開けたその先には、異形の存在が立っていた。

 

 《合体怪獣 ゴルバー》

 

『ギャオオオオオオオオオオォッ!!!』

 

 ゴルザの屈強な肉体に、メルバの巨大な翼と尻尾。

 二体の特徴を無理やり繋ぎ合わせたかのようなその姿は、単なる融合ではなく“再構築された怪物”と呼ぶに相応しい存在だった。咆哮一つで空気が震え、地面が軋む。

 

「な、何だよコイツは……?!」

 

『まさか!? オートスコアラーが、アレを出来るなんてっ?!』

 

 驚愕に染まるクリス達の耳に、通信が割り込んだ。

 

「知ってるの、エルフナイン?!」

 

『はい。錬金術の基本は構造の理解、分解、再構築で成り立っています。そしておそらく錬金獣も、その錬金術で生成されています。錬金獣を一度分解し、再び一つに再構築させたのが、あの合体怪獣だと思われます』

 

『エルフナインちゃんの言う通りです。あの怪獣から、ゴルザとメルバ、二体分のエネルギーが感知できます』

 

 エルフナインの解説を補完する様に、友里の通信が聞こえる。

 

『まさか、これ程の膨大な錬金術を、キャロルなら兎も角オートスコアラーが行うなんて……』

 

「何だって鎌わねぇ! 数が減った分やりやすいっての!」

 

『油断しないでください。錬金術とは等価交換です。二体が一体になったと言う事は、それだけ強さを増している証拠ですから!』

 

『エルフナイン君の言う通りだ。出し惜しみをせず、全開の戦力を持って、怪獣とオートスコアラーを撃破せよ!!』

 

 エルフナイン、そして弦十郎の力強い指示が装者達の耳に響き渡る。それに応えるように、全員が一斉に胸のコンバータへと手を掛け、イグナイトを同時に起動させた。

 装者達とオートスコアラーの、総力戦が始まろうとしていた。

 

『デュアッ!』

 

 ティガの飛び込みによって、再び戦いの火蓋が切られた。

 ティガはゴルバーへと組み付き、その巨体ごと押し込むようにして移動を開始する。屋敷への被害を最小限に抑えるため、戦場そのものを引き離す判断だった。

 巨人と怪獣の足が地面を削りながら、激しい軋みを伴って位置がずれていく。

 

『ギャオオオオッ!!!』

 

 当然、ゴルバーも黙って押し切られる訳がない。

 大地が陥没する程踏み締めて抵抗すると、押さえ込もうとするティガの両腕を、強引にねじ開けるように振りほどいた。そのまま振り抜かれた剛腕が、容赦なく叩きつけられる。

 

「グッ……ッ!?」

 

 両腕を固め防御するティガ。

 しかしゴルザの肉体を持つゴルバーの膂力は凄まじい。衝撃は受け止めきれず、巨体が押し返され、地面を滑るように後退させられる。

 

「ンーーハァッ!」

 

 次の瞬間、ティガの全身が赤い光に包まれた。

 瞬時にパワータイプへと変化し、その場で踏みとどまる。筋肉の膨張と共に出力が跳ね上がり、再び振り下ろされたゴルバーの腕を、今度は真正面から受け止めた。

 巨人と怪獣の剛腕が組み合う。数秒の拮抗と後、次第にティガの方が勝り、ゴルバーの両腕を押し返す。

 

『ヂャッ! ハァッ!!』

 

 均衡を崩したその瞬間を逃さず、ティガは両腕を弾き飛ばすと同時に一気に間合いへ踏み込み、連続打撃を叩き込む。拳、拳、蹴り、ゴルザの体を持つだけあり体表は強固だったが、パワータイプのティガの重い打撃に、苦しそうな声を上げながら後退した。

 ティガは間髪入れず、追撃として渾身のハイキックで首を狙う。

 

『ギャオオオオッ!』

 

 だがその瞬間、ゴルバーの背にあるメルバの翼膜が勢いよく開き巨大な羽を広げる。巨大な羽が空気を叩きつけ、その巨体が一瞬の内に上空へと跳び上がる。

 当然ティガの大振りの蹴りは空を切り、大きく体勢を崩してしまう。

 

『ギャオオオッ!!』

 

『デュアァゥッ……!!?』

 

 その隙を逃さない。上空へ退いたゴルバーは、ほとんど落下と言える速度で急降下し、鋭利な両脚の鉤爪を振り下ろした。背面から斬り裂かれたティガの背に火花が散り、巨体が膝をつく。

 更に追撃を放とうと、頭部のメルバの部位が怪しく光り、メルバニックレイが放たれた。

 

『ッ!?……ンーーハァッ! デュアッ!!』

 

 接近する光弾を察知したティガは、スカイタイプに変化すると軽量化された身体が一瞬で跳ね上がり、光弾の直撃を寸前で回避する。空中で軌道を変えながら、降り注ぐ光弾の雨を高速機動で掻い潜る。

 回避と同時に逆に間合いを詰めたティガは、その勢いのまま強力な飛び蹴りを繰り出した。

 

『デュアッ!!』

 

 全体重と加速を乗せた飛び蹴り。

 かつてメルバを地に叩き落とした一撃。空中戦での決定打となるはずの渾身の攻撃だった。

 

『ギャオオオオッ!!!』

 

 頭部を撃ち抜くその蹴りが途中で止められる。

 ゴルバーの腕――ゴルザの剛腕が、その脚を掴み取っていたのだ。

 

『ッ……?!』

 

 ティガは即座に身体を捻り、拘束からの離脱を試みる。

 しかし、ゴルバーの握力はそれを許さない。スカイタイプの力では振りほどけず、逆にそのまま動きを封じられてしまう。

 

「それが貴様の弱点だ。貴様の《タイプチェンジ》は、一つの能力に特化する代わりに、必ず別の能力が落ちる……だが、このゴルバーは違う。二体の怪獣の長所を掛け合わせ、欠点を埋めた存在だ」

 

「……あの忌々しいキリエル人に教えられたのは癪だけどねぇ」

 

 ゴルバーの肩の上で戦況を見下ろしながら、レイアとファラは愉快そうに口元を歪める。

 以前のキリエロイドIIとの戦いを観察していた二人は、その戦いの光景から、二体の怪獣を掛け合わせ、隙の無い怪獣を作り出すことを思いついたのだ。

 次の瞬間、ゴルバーの頭部が再び光を帯びる。

 今度は回避の余地はない。至近距離の完全拘束状態で、必殺の一撃を叩き込もうとしていた。

 だがその瞬間。

 

 ドォンッ! ドォンッ!!

 

 連続する爆発が、ゴルバーの頭部を横から叩いた。

 

「そいつから離れなッ!!」

 

 ティガを救ったのは、クリスの放ったミサイル弾頭だった。イグナイトモジュールによって出力を増した弾幕が次々と炸裂し、ゴルバーは鬱陶しそうに頭を振る。

 

「行け、チビすけ共ッ!!」

 

 ゴルバーが爆発に気を取られている内に、クリスは二本の大型ミサイルを撃ち放っていた。

 それだけでは大きなダメージを負わせることは出来ない。発射されたミサイルの上に、小さな影が乗っていた。

 

「いくよ、切ちゃんッ!!」

 

「はいデスッ!!」

 

 それは調と切歌だった。空中戦の出来ない彼女達は、クリスの大型ミサイルを足場にすることで、強引に高度と機動力を得ていた。

 

「狙うは――」

 

「羽デスッ!」

 

 《α式・百輪廻 var IGNITE》

 《切・呪りeッTぉ var IGNITE》

 

 丸鋸と大鎌。イグナイトによって強化された漆黒の刃が、空中で巨大化しながら放たれる。連続して叩き込まれる回転刃が、ゴルバーの翼へと集中する。

 

「「ハアァッ!!!」」

 

 そして最後に足場としていたミサイルを、勢いよく蹴り飛ばし、ゴルバーの両羽へと推進力ごと叩きつけた。

 

『ギャアァッ!!!』

 

 ゴルバーの皮膚は硬く破壊には至らない。

 だがそれでもダメージを与え、空中でのバランスを崩させるには十分だった。

 翼を乱されたゴルバーは体勢を崩し、そのまま重力に引かれるように地上へと落下していく。

 

 ドォンッ!!

 

 大地を揺らす衝撃。土煙が舞い上がる。

 その隙に拘束を振りほどいたティガは、空中で体勢を立て直し静かに着地する。

 そんなカレの側へ、すぐさま翼が駆け寄った。

 

「ティガ焦るな、貴方は一人では無い! 例え奴らの力が貴方を上回っていても、私達が援護する。私達をもっと頼ってくれっ!!」

 

『……ッ!(コクッ)』

 

 翼力強く頷くティガ。その肩へ、翼は迷いなく飛び乗る。そして反対の肩にもう一人。

 

「付き合うぜ、先輩」

 

「雪音……」

 

「あんたの親父さんに、あんたの歌を届けてやろうぜッ!」

 

「ああ、力を貸してくれ雪音、皆んなッ!!」

 

 翼の呼びかけに応えるように、各所で戦っていた装者たちが一斉に声を上げる。戦場に再び、確かな連携の気配が満ちていく。

 その時、再びエルフナインからの通信が入った。

 

『解析、出来ましたっ! その怪獣の弱点は頭部です!』

 

「頭、だと?」

 

『はい! やっぱり思った通り……あの合体、完全ではありません!

 

 彼女はゴルバー出現直後から違和感を覚えていた。

 純粋な錬金術師であるキャロルなら兎も角、彼女が作った人形であるオートスコアラーがこんな高度な錬金術を行えるとは思わなかった。

 合体が錬金術によって行われた現象なら、その専門家であるエルフナインであれば、その歪な部分を調べるのはそう難しい事ではなかった。

 

『調査の結果、複数の部位に“融合不全”が確認されました。特に歪みが大きいのが、頭部の角部分です!』

 

「……あそこか!」

 

 翼は即座に視線を向ける。確かに、ゴルバーの頭部は完全に一体化しておらず、無理やり繋ぎ合わせたような歪な構造をしていた。

 

『あそこを破壊すれば、構造が維持できなくなり、大幅な弱体化が見込めます!』

 

『よし各員、ウルトラマンと協力し頭部を集中的に攻撃しろ。スピードを生かし、コンビネーションで撹乱しながら戦うんだ!』

 

「了解! 行きましょう、ティガ!」

 

 ティガは頷き、翼とクリスを肩に乗せたまま一気に前へ踏み出した。

 

『ギャオオオッ!!』

 

 向かってくるティガを撃退する為、ゴルバーは再びメルバニックレイを放つ。

 

「そうは問屋が卸さねぇッ!」

 

 飛来する光弾に対し、クリスは大型のミサイルを大量に放ち光弾と衝突させる。光弾とミサイルがぶつかり合い、ゴルバーの目の前で大きな爆煙が立ち上る。

 その黒煙を、切り裂く青い影が一つ。

 

『はあぁッ!!!』

 

 《蒼ノ一閃》

 

 漆黒の太刀を携えた翼が、煙の中から飛び出した。その勢いのまま斬撃を振り抜き、フォニックゲインを込めた一閃を叩き込む。

 

『ギャオォッ!??』

 

 頭部に斬撃を受け、ゴルバーは怯んだように後退する。

 だがしかしそれだけで倒せる程甘くは無い。ゴルバーは即座に反撃に転じ、その巨大な手で翼を掴み取ろうとする。

 

『ハァッ!!!』

 

 だがその手が届くよりも早く、ティガが踏み込み、蹴りで腕を弾き飛ばす。その勢いのまま連続の蹴りを叩き込み、反撃の隙を与えない。

 

「くっ! 何してるのゴルバー、振り払いなさい!」

 

 蹴りの衝撃で足場が揺れるファラは、鬱陶しそうに叱咤する。その声に反応したゴルバーは、体を反転させその長い尾を振るって距離を離そうと動く。

 

「「そうはさせないッ!」」

 

「デスッ!」

 

 《SERE†NADE》

 《非常Σ式・禁月輪》

 《断殺・邪刃ウォttKKK》

 

 だがそれよりも早く、マリア、調、切歌の三人が行動を起こす。地上を駆けていた彼女達は、尾が振り抜かれるよりも先に、自分達の中で突進力と貫通力の高い技をぶつけ、その動きを完全に止めた。

 

「地味な邪魔をするんじゃない!」

 

「そいつは、こっちのセリフだッ!!」

 

  レイアが黄金のコインを構え、投擲の軌道に乗せようとする。だが、その動きを読むようにクリスの弾丸が撃ち込まれ、コインを叩き落とした。

 その隙に翼は上空へと飛び上がった。両脚のスラスターが蒼い軌跡を引き、一気に上空へと跳躍する。

 そして、ゴルバーとその肩に乗るオートスコアラー二体の“影”目掛けて無数の刀剣を放った。

 

 《千ノ落涙×影縫い》

 

 翼の放った刀剣が、まるで相手の影を縫い付けるが如く突き刺さり、それと同時にファラ達の動きを止めて見せた。

 

「う、動けない……」

 

「今だ、ティガッ!!」

 

 翼の合図に頷いたティガは、一瞬距離を取り光のエネルギーを右手に集中させると、体全体で飛び込む様にしてその手刀を振り払った。

 

 《スラップショット》

 

 光の刃と化したティガの手刀は、ゴルバーの頭部の融合しきれていない継ぎ目を正確に切り裂いた。

 

『ギャオオォォォォッ!!!』

 

 悲鳴にも似た咆哮が響く。

 弱点とされていた頭部の角が砕け、苦悶に身をよじるゴルバーは、影縫いの拘束を力任せに破ると、そのまま上空へと飛び上がった。

 

「逃すんじゃねぇぞッ!」

 

 クリスの叱咤が飛ぶ。

 ティガは即座にそれを追う、スカイタイプの機動力で、一気に上空へと駆け上がる。

 迎え撃つように、ゴルバーが頭部を発光させる。

 しかし砲口である頭部を破壊され、《ゴルメルバキャノン》の軌道も威力も乱れ、光の雨となって拡散した。

 ティガは恐れず光線光弾の雨を掻い潜り、そしてゴルバーの頭上をとった。

 

「共にいこう、ティガッ!!!」

 

 翼の掛け声と共に二人は必殺の構えを取る。

 翼は巨大な大太刀をさらに肥大化させる。全身から溢れるフォニックゲインが刃へと集束し、蒼い光が刀身を満たしていく。

 一方、ティガは両腕を広げ、チャージしたエネルギーを光弾として放たず、胸のプロテクターへと収束させる。圧縮された光が、内側から脈打つように輝いた。

 

 二つの力が、同時に解き放たれる。

 翼の《蒼ノ一閃 滅破》と、ティガの《ティガスラスター》が合わさり、更に巨大な青い光の斬撃を作り出した。

 

 《ランパルド光斬》

 

 ファラとレイアは咄嗟にバリアーを張り斬撃を防ごうと試みる。しかし、翼達が放った斬撃は一切の抵抗を許さずバリアーを破壊し、その先にいるゴルバーを切り裂いた。

 

「ダメ押しだ、持ってけェッ!!!」

 

 《MEGA DETH INFINITY》

 

 その隙にチャージを終えていたクリスが、ダメ押しとばかりに十二機もの大型ミサイルを連続で射出する。

 翼の影縫いによって、ゴルバーの体に縫い付けられているファラとレイアに、逃げる術はもう無かった。

 

「ここまで……だな。私らしい派手な散りざ――」

 

「マスター……どうか、ご無事で――」

 

 遅い来る爆炎の中、レイアが小さく笑い、ファラは静かに目を閉じた。

 その直後、夏の夜空に決着を知らせる巨大な爆発が広がった。

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 戦いが終わり一夜が明けた。

 夜遅くの出撃と激しい戦闘が続き、疲労の溜まった装者達はそのまま屋敷で夜を過ごした。

 

「それでは、お父様」

 

「ああ……」

 

 玄関先で向き合う翼と八紘。

 その距離は、昨日までとは明らかに違っていた。互いに踏み出すことを恐れていた二人は、昨夜誰にも見られぬ場所で言葉を交わしていた。

 そこで彼女達がどんな話をしたのかは分からない。

 だが何処か付き物の取れたような二人の柔らかい表情から、彼女達の問題は少し前に進んだんだと察せた。

 

「励めよ、翼」

 

「……っ、はいっ!」

 

 翼は思わず息を呑み、そして柔らかく笑った。

 防人でも歌姫でもない、ただ一人の少女としての、どこか幼さの残る笑顔だった。そんな光景を、奏達は暖かい眼差しで見つめていた。

 挨拶を終え一行が屋敷を後にしようと、背を向けたその時。

 

「星乃くん」

 

「ん〜?」

 

 不意に呼び止められ、ユウが振り返る。

 

「あの子を……翼を、よろしく頼む」

 

 一瞬だけ、ユウは目を丸くする。

 だがすぐに、その短い言葉から多くの意味を理解した彼は、いつものようにふわりと柔らかい笑みを浮かべた。

 

「うん! 任せて、お姉ちゃん達は、ぼくが命がけで守るから!」

 

 ユウはぺこりと頭を下げると、くるりと踵を返し、先へ進んでいた翼たちの背中を追いかけていく。少年の小さなその背は、朝の日差しのように暖かくそして眩しく見えた。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 一つの戦いが終わり夜が明けた後も、S.O.N.G本部では次なる戦いへ向けた解析が進められていた。静まり返った室内に端末の駆動音だけが響く中、友里が結果を持って司令席へと歩み寄る。

 

「司令、《深淵の竜宮》のデータ解析完了しました」

 

「そうか、結果はどうだった?」

 

「はい。エルフナインちゃんが確認した所、キャロルが狙っている聖遺物が絞れました」

 

 司令用の椅子に座り一息つく弦十郎は、友里が差し出した資料を手に取る。

 それによれば、恐らくキャロルが狙っているのは、《ヤントラ・サルヴァスパ》と呼ばれる聖遺物。あらゆる機械の起動と、制御を可能にする情報収集体であり、チフォージュ・シャトーを完成させるた為のトリガーパーツだと予想される。

 

「何程な……ならば、その聖遺物を先に確保し、敵を迎え討つべきか」

 

 キャロルの目的がはっきりしているなら、先手を打てるはずと踏んでいた。

 しかしそれは出来ない理由があった。

 

「いえそれが、ヤントラ・サルヴァスパは既に日本にはありません」

 

「何だと?」

 

「四年ほど前に、とある研究の為に日本から米国へ移動されていたようです」

 

「米国だと? 一体誰が、何故そんな事を……?」

 

 当然の疑問だった。聖遺物の国外移送など、通常では考えられない。しかし資料には正式な手続きを経た形跡が確かに残されている。

 

「それが、その研究主任の名前を調べてみたところ……」

 

 言いづらそうに口ごもる友里と藤尭。その様子を不審に思いながら、弦十郎は自ら資料へと目を落とす。

 確かに彼女達の言う通り、とある研究者の手によってら日本から米国へ委託された形跡がある。弦十郎は、その研究者の名を調べていく。すると、資料の最後の部分で弦十郎の視線がピタリととまった。

 そこに記されていた名前は、彼が見間違えるはずのないものだったからだ。

 

 “星乃 大吾”。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 同時期、チフォージュ・シャトー内部。

 

「ふふふっ、遂に見つけたぞ」

 

 ヤントラ・サルヴァスパが既に日本無いことを知っていたキャロルは、その経歴を辿り遂にその現在地を知る。

 キャロルの手前には、まるで占いに使用するかのような大きな水晶が置かれていた。

 

「まさか、こんな事になっているとはな、これは面白くなりそうだ……ふふふ、はははははっ!!!」

 

 既に無人となったチフォージュ・シャトー内に、キャロルの虚しい笑い声がこだまする。

 彼女が見る水晶の中には、真っ暗な宇宙空間と《MARS三号》と書かれた大破した宇宙船の映像が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

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