シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第五十四話 サ・ヨ・ナ・ラ地球

 

 

 

 

 

 

 その日ユウは、検査入院を終えた響を迎える為、政府御用達の病院へと来ていた。

 

「響お姉ちゃん、退院おめでとう」

 

「もう〜ユウくんってば大袈裟だよ〜」

 

 そう言いながらも、響の表情はどこか嬉しそうで、頬を緩ませている。

 

「えへへ! 一度こう言うの言ってみたかったんだ」

 

 無邪気に笑うユウにつられるように、響も笑みをこぼした。戦いの最中には見せない、柔らかく穏やかな時間である。しかし、いつまでも病院の前で立ち話をしているわけにもいかない。二人は自然と手を繋ぎ、本部へと向かって歩き出す。

 

「未来姉ちゃん達は色々用事があって来れてないけど、皆んなもよろしくって言ってたよ!」

 

 本日、未来は学校の用事で来られず、他の装者達もそれぞれ忙しく動いていた。

 数日前、最後のオートスコアラーを撃破し、残る敵はキャロル一人となったことで、S.O.N.Gは決戦に向けた準備に追われている。空気はどこか張り詰め、嵐の前の静けさのような緊張感が漂っていた。

 

「そっか、じゃあ早く皆んなと――」

 

 そこまで言いかけた時、響のスマホが大きな着信音を鳴らした。

 

「あっとごめんね、未来達かなぁ?」

 

 慌てて響はスマホを取り出し、通知を確認する。

 その瞬間、響の笑顔が凍った。

 通知の相手は、未来達でも弦十郎達でもない。

 

 ――『お父さん』

 

 彼女の父、立花洸からの通話だった。

 響は眉間に皺を寄せ顰めた後、その通話をOFFにした。

 

「響お姉ちゃん……?」

 

 ユウの呼びかけに、響はすぐには答えなかった。

 数秒の沈黙の後、やがて彼女は何事もなかったかのように笑顔を作り、ユウをぎゅっと抱きしめる。

 

「えへへ〜今日はユウくんと、ずぅっと一緒に居たいな〜」

 

「うん、良いよ! じゃあ今日は響お姉ちゃん達の所に泊まるね!」

 

 皮肉にもその笑顔は、ユウの苦手な張り付いたような笑顔だった。

 本当は聞きたかった。「お父さんの事はいいの?」と。けれど、その言葉は飲み込む。

 必要が言葉は既に投げかけた、それでも響自身が父を必要としていないのなら、これ以上自分が踏み込むべきではない。どんな選択をしても支えると決めたのは、自分なのだから。

 ユウは甘えてくる響を笑顔で受け入れる。

 

 その時、再び響のスマホに連絡が入る。

 一瞬、また父からの連絡かと身構える響。しかし今度の連絡は弦十郎からのものだった。

 響は慌てて通話に出る。

 

「はい、こちら響です!」

 

「響君、今君のいる場所の近くから、強力なエネルギー反応が検知された。付近で何か変化は無いか?」

 

「変化ですか? いえ、おかしな事は何も――」

 

 もしやキャロルの襲撃かと辺りを見回す響。

 しかし通りにあるのは普段と変わらぬ人の流れであり、特に異変は見当たらない。

 だが次の瞬間。

 遠方から、地を揺らすような爆発音が轟いた。

 

「わ、わわっ!?」

 

「ユウくん!」

 

 激しい振動に体勢を崩しそうになったユウを、響はとっさに支える。二人で視線を向けると、少し離れた発電所から白い煙が立ち昇るのが見られた。

 ただの事故ではない、響は直感的にそう理解する。

 

「ユウくんはここで待ってて。わたしは発電所の人達を助けに行くから」

 

「う、うん! 気をつけて……」

 

 言い終えるより早く、響は駆け出していた。誰かが困っているなら助ける。それが彼女の在り方だからだ。

 対して嫌な予感がするユウは、響が見えなくなった頃、黙って後をつけようと足を向ける。

 

「……えっ?」

 

 しかしユウはふと足を止める。

 視界の端に映った人物に大きな目を更に見開いた。

 

「……お父……さん?」

 

 見間違えるはずのない、大好きな父親の姿だった。胸の奥に閉じ込めていた記憶が、一瞬にして彼の心の中に蘇る。その大吾はユウの姿を見つめていると、フッと笑みを見せ、歩き去って行った。

 

「待って、お父さんっ!!」

 

 ユウは慌ててその後を追いかける。

 だがしかし、父の影は曲がり角を曲がった先で、まるで最初から存在しなかったかのように跡形もなく消えてしまった。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 シンフォギアを纏った響は、現場へと急行しながら通信を繋ぎ、弦十郎達へ状況を確認する。

 

「一体、何が起こったんですか?」

 

『今分かっているのは、先程確認された高エネルギーは宇宙からの飛来物だったようだ』

 

「宇宙から……? 隕石って事ですか?!」

 

 思わず声を上げる響に、ナスターシャが冷静に応じる。

 

『いいえ、隕石にしては被害が少なすぎます。それに反応の質が違う、鉱物ではなく金属に近い反応です。それに、この波形は――』

 

『っ!?……司令、落下物の反応が動いています!!』

 

『何だとッ!? 響くん、気をつけろッ!』

 

 警告と同時に、響もまた異変に気付いた。

 立ち上る白煙が徐々に晴れていき、その中に巨大な影が浮かび上がり、やがてその正体が姿を現す。

 それは金属で構成された怪獣だった。ロケットのような流線型の胴体に、無機質な手足、鎌のように湾曲した両腕。明らかに自然界の生物とは異なる異様な存在だった。

 

 《複合怪獣 リガトロン》

 

『キュアアアアァッ!!!』

 

 機械的な咆哮が響き渡る。リガトロンはゆっくりと視線を落とすと、足元の発電所へと両腕を伸ばした。

 

『これは!? 発電所の電力が急激に低下しています! 恐らくあの怪獣が吸収しているものと』

 

『ネロンガと同系統の能力か……いや、それ以上だ。響くん、直ぐに妨害しろ! 翼達も向かっている、連携して撃破するんだ!』

 

「分かりました!」

 

 即座に応じた響は、イグナイトモジュールを起動し、怪獣へと突貫した。橙黒の一筋の光が槍となり、リガトロンの頭部へと叩き込まれる。

 

「……えっ?」

 

 全力の一撃、イグナイトモジュールを発動した響の一撃は、剛力怪獣を怯ませる程の突破力をもつ。

 しかし、その一撃を受けてなおリガトロンは一歳揺るぐ事なく、反対に響の方が弾かれた。

 

「しまっ――」

 

 呆気に取られる響へと、怪獣は頭部を発光させ撃墜の構えをとる。空中で身動きの取れない響は、咄嗟に防御の為ガントレットを構えた。

 しかしそれ攻撃が放たれるよりも早く、側面からの攻撃が怪獣の頭部を叩き、攻撃力を阻害した。

 

「無事か、立花!?」

 

「翼さん! 皆んなっ!」

 

 無事に着地をした響の元へと、イグナイトギアを纏った装者達が駆け寄る。翼、クリス、マリア、調、切歌、全員が揃っていた。

 

『キュアアアアァッ!!!』

 

 だが安堵する間もなく、再び咆哮が響く。煙の中から現れた怪獣は無傷だった。

 

「な、無傷だと……!? 何て硬てぇ装甲してやがる!」

 

 クリスが思わず声を漏らす。翼は即座に指示を出した。

 

「龍墜の陣を取れ! 発電所を守るぞ!」

 

 翼の指示に頷いた装者達は、対怪獣のフォーメーションを組む。四方八方に散り、手数とスピードで頭部を集中的に攻撃を仕掛ける。

 だが攻撃は通らない。刃も弾丸も、その装甲を傷付けるには至らなかった。

 その間にも、怪獣はエネルギーを吸収し続ける。

 

『キュアアアアァッ!!!』

 

 やがて発電所のエネルギーを吸収し切った怪獣は、高らかに吠えながら上空を見上げた。

 

「何かして来る、みんな離れてッ!!」

 

 マリアの声に全員が即座に距離を取る。

 次の瞬間、怪獣の背部から白煙が噴き出した。

 数秒の噴射の後、六十五メートルもの巨体が浮き上がり、遙か上空へと飛び去って行く。

 響達はそれを、ただ見ている事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 

 その晩、病院に入院している星乃茜は、静かな病室のベッドで眠りについていた。窓から差し込む月明かりが白いシーツを淡く照らし、機械の規則的な音だけが静寂の中に響いている。

 そんな穏やかな空間の中、ふとベッドの傍らに一つの人影が立っていた。気配を感じた茜は、眠い瞳を瞬きさせ、薄目でその人影を見つめる。

 

「あら……大吾さん、帰って来たの……?」

 

 寝ぼけたような声で、茜は力の入りづらい右手をゆっくりと持ち上げた。

 その震える手を大吾の影が、まるで壊れ物を扱うかのように、そっと優しく支えた。

 

「おかえりなさい……大吾さん……」

 

「ただいま、茜……」

 

 確かに返ってきた言葉。懐かしく、優しく、忘れたことなど一度もなかった声だ。

 茜の瞳から、一筋の涙がこぼれる。二人は静かに、だが確かに手を握り合った。四年という時間の隔たりを埋めるように、何も言わずとも通じ合う想いを確かめるように。

 それはずっと伝えられなかった言葉を、ようやく交わし逢えた夜だった。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 一晩が明け、S.O.N.Gの調査チームによる現場検証が一通り完了した。

 怪獣の落下と激しい爆発、そして大量の煙から、当初は大規模な被害が想定されていた。しかし詳細な調査の結果、あの煙はすべて怪獣自身の体内から噴出されたものであり、着地の際に推進と減速のために意図的に吐き出されたものであることが判明した。

 その影響で視界こそ大きく遮られたものの、建造物への直接的な被害は最小限に抑えられ、発電所に勤務していた人員にも負傷者は出ていないという報告が上がっていた。

 

「たが、一体あの怪獣は何だ……? 錬金獣と言うやつなのか?」

 

「いいえ、あの怪獣からは錬金術の反応が一切ありませんでした」

 

 怪獣の調査を担当していたエルフナインが、静かに首を振る。キャロルの生み出した錬金獣には特有のエネルギーパターンが存在する。だが、今回出現したリガトロンにはそれが見られなかった。

 

「だとしたら、アレは自然の生物って事デスか? そんなのあり得るんデスか……?」

 

 切歌の声には戸惑いが色濃く滲んでいた。これまで様々な怪獣と対峙してきた彼女達であっても、あのような機械的構造を持つ存在は経験がない。

 

「……自然の生物とは、言えないかも知れません」

 

「どう言う事、マム?」

 

 静かに口を開いたナスターシャに、全員の視線が集まる。

 

「回収したサンプルから装甲を分析したところ、あの怪獣を構成している金属は……地球由来の合金であることが判明しました」

 

「何だとッ!?」

 

「それってもしかして……何処かの国の兵器って事かよ!?」

 

 つい声を荒げてしまうクリス。しかしその問いに、ナスターシャはゆっくりと首を横に振った。

 

「いいえ……あれは兵器ではありません。あの合金は、本来“あらゆる環境に適応するため”に開発された特殊素材です」

 

「どうして、マムがそんな知ってるの?」

 

 調の疑問はもっともだった。

 ナスターシャは一瞬だけ言葉を選ぶように沈黙し、それから静かに答える。

 

「あの金属を作ったのは、“私達”だからです」

 

「な!? どう言う事ですか、それは!!」

 

「…………これを見て下さい」

 

 翼の問いに、ナスターシャは端末を操作する。モニターに映し出されたのは、昨日出現した怪獣――リガトロンの静止画像だった。

 それだけでは何も分からない。だがナスターシャは無言のまま、怪獣の一部をズームアップさせていく。

 リガトロンの側頭部、その部分に刻まれている文字、それは間違いなく地球の言語だった。

 

『MARS三号』

 

 それはかつてユウから教えてもらった事のある、彼の父親が旅立つ宇宙船の名前だった。

 

「あの怪獣は、マーズ三号……星乃大吾が乗っていた宇宙船そのものなのです」

 

 ――パリンッ!

 

 ガラスの砕け散る音が、司令室に響き渡る。

 思わず皆が視線を向けると、俯いた状態の弦十郎が、感情を抑え込むように手を振るわせていた。彼の手元には、砕かれたガラスのコップが散らばっていた。

 

「説明を……頼む、ナスターシャ教授」

 

 声は低く抑えられていたが、その奥には押し殺した感情が滲んでいた。親友が乗っていた宇宙船が、怪獣として帰還したという現実。その衝撃を、必死に押し留めているのが分かる。

 彼と同様、大吾を友とするナスターシャは、無言で頷いた後話を続けた。

 

「あの怪獣が飛来した瞬間から、私はMARS三号と同一の反応を感知していました。それだけではありません……あの怪獣からは、以前私達が追っていた聖遺物、《ヤントラ・サルヴァスパ》の反応も確認されています」

 

「確か星乃大吾さんは、その聖遺物を日本から米国に移動させていたんですよね?」

 

「はい、彼は聖遺物の力を使って宇宙を目指すロケットを作っていました。しかし本来使用する予定の物を、彼は使わずにいた……」

 

 本来なら大吾はディグの紋章を使用し宇宙へと飛び立つ予定だった。しかしフィーネと米国政府の計画を妨害する為、紋章を使用しなかった。

 だがそれだけでは宇宙へと飛び立てない。そこで彼がディグの紋章の代わりに選んだのが、《ヤントラ・サルヴァスパ》だったのだ。

 

「確かにヤントラ・サルヴァスパは、あらゆる機械の起動と、制御を可能にしますから。その性質を利用すれば、宇宙船の開発にも活かせるはずです」

 

「恐らく大吾も、その考えに至ったのでしょう。そしてあの合金は、彼の火星探索の為に、私と櫻井了子、そして大吾の三人で共同開発したものです」

 

 次々とピースが揃っていく。

 宇宙船の名前、大吾しか知らなかった聖遺物の反応、そして彼らが作り上げた合金。

 それら全てが、あの怪獣の正体を決定付けていた。

 

「じゃあ、あの怪獣はやっぱりユウくんのお父さんの……」

 

「ナスターシャ教授、生命反応は? 大吾はあそこに居るのかッ!!」

 

 ついに弦十郎が身を乗り出す。押さえ込んでいた感情が溢れ出た瞬間だった。すぐにマリアが前に出て、その肩を押さえる。

 

「少し落ち着いて、司令」

 

「す、すまん……」

 

 死んだと思っていた親友の生存の可能性が僅かでも出て来た弦十郎は冷静さを保つのが難しくなっていた。

 短く謝るが、その瞳の奥にはまだ揺れが残っている。

 

「残念ながら、それはまだ分かりません……なのでこれから、MARS三号に使われていた通信網を利用してコンタクトを試みてみようと思います。藤尭さん、友里さんお手伝いお願いします」

 

「「分かりました!」」

 

 二人は即座に端末へ向かい、操作を開始する。室内には再び緊張が満ちていく。

 その様子を見ながら、クリスが小さく呟いた。

 

「なぁ、この事ユウには……」

 

「……辞めておきましょう、まだ何も確証を得られていないもの。それに、どちらにせよ彼にとっては酷な話になるわ」

 

 マリアの言葉に、誰も反論はしなかった。

 もしこれが真実ならば、それは希望であると同時に、あまりにも残酷な現実でもあるのだから。

 

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 その頃ユウは母親のお見舞いに来ていた。

 枯れていた花と、新しく持って来た花を入れ替える。

 

「ふぁ……」

 

「お母さん寝不足? 駄目だよ、夜更かしは美容や健康に良くないんだから」

 

 ユウは腰に手を当て頬を膨らませる。茜はそんな姿が微笑ましく、柔らかい笑みを浮かべた。

 

「あらあら。これじゃどっちが母親か、分からないわね」

 

 冗談めかした言葉の後、茜はふと窓の外へと視線を向けた。青く広がる空を見上げるその横顔は、どこか昨夜の余韻が残っているようだった。

 

「昨日はつい夜遅くに話し込んじゃったから」

 

「話し込むって……誰と?」

 

 何気ない問いかけのやり取り。しかし帰って来たのは、ユウの想像外の答えだった。

 

「大吾さんよ」

 

「……え?」

 

 一瞬、言葉の意味を理解できず、ユウは目を瞬かせる。

 

「昨日、ふと目が覚めたらね……大吾さんが、すぐそばに立っていたの。だから、つい懐かしくてね」

 

 茜はその時のことを思い出すように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。声色は穏やかで、まるで本当にそこに“彼”がいたかのような、そんな確信を含んでいた。

 

「久しぶりにね、昔みたいに他愛もない話をしたの。宇宙のこととか、ユウの事とか……本当に、昔と変わらないままで」

 

 そのすっきりとした表情には、寂しさよりも、どこか満ち足りたものがあった。この四年間ずっと溜め込んできた不安やストレスを、大吾と話した事で吐き出せたのかもしれない。

 

「……きっと夢だったんでしょうね。でも、嬉しかった」

 

 そう言って、茜は自分の右手をそっと見つめる。眠りから覚めた時には、当然そこに大吾の姿はなかった。それでも、あの時確かに握られていたはずの温もりだけは、まだ残っている気がした。

 

「ふふっ、もしかしたら、本当に帰って来てたのかもしれないわね」

 

「お父さんが……」

 

 ユウは昨日の出来事を思い出していた。

 離れた場所から自分へと微笑みかける大吾の姿。すぐに消えてしまったが、もしかすると茜もまた同じものを見たのかも知れない。

 だがなぜそんな事が起こっているのかは、今のユウには分からなかった。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

「これは……この基地に、謎の通信が入りました! 発信元は、MARS三号です!」

 

 藤尭の声が司令室に響く。端末の画面には、先ほどまで沈黙していたはずの通信ログが激しく明滅している。

 

「何、向こうから通信だとッ!? すぐに出せ!!」

 

 弦十郎が椅子から身を乗り出す。

 先程まで幾度となく試み、すべて失敗に終わっていたMARS三号との交信。その相手から、逆に接触があったという事実に皆息を呑んだ。

 藤尭と友里が即座に操作へ移り、回線の安定化を図る。すると司令室のモニターに映像が流れ出した。

 まるで異空間のような波打つ背景。その中心に、かすかな人影のような輪郭が浮かび上がる。

 

『ち……うの、ひと……とよ、き……るか』

 

「ノイズが酷いですね。調整しますから、少しお待ち下さい!」

 

 エルフナインが端末に手を走らせる。複雑な波形を解析し、不要な干渉を除去していく。その操作に呼応するように、映像と音声は徐々に輪郭を取り戻していった。

 その姿を見た瞬間、弦十郎とナスターシャの目が見開かれた。

 

『地球の人々よ、聞こえるか?』

 

「……大吾!」

 

「あれが、ユウくんのお父さん……?」

 

 画面に映るのは、弦十郎と同じくらいの体格を持つ短髪の男。顔立ちは母親似のユウとは大きく似ていないが、その瞳の色と、どこか柔らかな気配が、あの少年の面影を感じさせていた。

 

「大吾、オレだ! 弦十郎だ!!」

 

「星乃大吾、私達の声が聞こえますか!?」

 

『この声は……ゲン? それにナスターシャ教授も! そこに居るんだな、良かった!』

 

 弦十郎とナスターシャが同時に呼びかける。画面の向こうの男は、一瞬だけ目を細めた後、嬉しそうに反応を示した。

 

「大吾、生きていたのか?」

 

『……いいや。俺の肉体はとっくの昔に滅んでいる。ここに居るのは、魂という名のエネルギー体だけだ』

 

「そ……うか……」

 

 弦十郎の声は、かすかに震えていた。生存の希望を持っての問いかけ、しかし返ってきた答えは、残酷な現実だった。

 

「星乃大吾、一体何があったのです? あなたの事情は聞いています。その後今の貴方に何が起こっているのですか?」

 

 ナスターシャが問いを重ねると、大吾はわずかに視線を伏せ、そして語り始めた。

 

「あの日、俺達が作った宇宙船は爆破し、俺の肉体もその時息を引き取った。だけど宇宙船の心臓部と、聖遺物はまだ残っていた。そこに残る膨大なエネルギーが、ある生命体を引き寄せてしまったんだ」

 

 フィーネと米国政府の策略により、爆散したはずのMARS三号。しかしその残骸は宇宙を漂い続け、そこに残されたヤントラ・サルヴァスパとコアのエネルギーが、宇宙を彷徨う未知の存在を呼び寄せた。

 

『そいつは、エネルギーを求め彷徨う生命体だった。大破したMARS三号ごと取り込み……その時、俺の魂も一緒に巻き込まれた』

 

 そして取り込まれたMARS三号は、怪獣の再生力により形を生成していった。

 それこそがあの怪獣、リガトロンの正体だったのだ。

 

『この怪獣は、膨大なエネルギーを求め地球へ飛来した。このままでは地球上のエネルギーが全て食い尽くされてしまう。頼むゲン、コイツを止めてくれ』

 

「何を言ってるんだ、大吾! 直ぐに上に掛け合う、お前を救う方法を見つけてみせる!」

 

 弦十郎が強く言い切る。しかし大吾は、静かに首を横に振った。

 

『もう間に合わない……コイツは地球のエネルギーに味をしめた。今度の被害はもっと酷いことになる! そうなる前に、君達の手で、コイツを倒すんだ!」

 

「貴方の家族は、どうするつもりですか! 坊やは……ユウは、貴方の生を望んでいるはずです!」

 

 ユウの名を聞いた瞬間、大吾は一瞬目を細める。その表情は、どこか遠くを見るようで、それでいて優しさと悲しみを帯びていた。

 

『ナスターシャ教授……俺はもうこの世の存在じゃ無い。生きている者は、死人に引っ張られてはいけない。俺よりも、今生きている人々を守って欲しい……彼らを、あの子を守れるのは、今生きているキミたちだけなんだ!』

 

 ノイズが一層強まり、そこで通信が途絶えてしまう。

 弦十郎やナスターシャだけでなく、その場にいる全員が言葉を失っていた。

 だがその時、緊急のアラームが響き渡る。

 

「怪獣出現!? 現在、発電所を目指して進軍しています!」

 

 オペレーターの報告が現実を突きつける。

 弦十郎は一瞬だけ目を閉じ、そしてゆっくりと開いた。

 

「……………………S.O.N.G出撃だッ!」

 

 司令としての覚悟と、一人の男としての苦悩を胸に抱きながら決断を下す。

 親友の願いを背負い、避けることの出来ない戦いへと、彼らは再び向かうことになる。

 

 

  ☆

 

 

 戦場へと到着した装者達は、発電所へと迫るリガトロンの進路を遮るように布陣した。巨大な機械の怪獣は、無機質とも動物的とも言える足取りで進み続けている。

 

「……なぁ、本当にやるのか?」

 

「クリス?」

 

 張り詰めた空気の中、クリスがぽつりと呟く。

 

「クリスちゃんの気持ちも分かるよ……だって、あそこにはユウくんのお父さんが……」

 

 彼女達はユウと一緒に過ごす中で、彼がいかに父親を尊敬しているかをよく知っていた。

 その噂の男が、今怪獣となって目の前に居る。

 

 もしかしたら――元に戻せるかもしれない。

 もしかしたら――もう一度、親子として言葉を交わせるかもしれない。

 

 そんなありもしない僅かな可能性が、ギアを握る手を鈍らせていた。

 

『皆の気持ちもよく分かる。だが、この発電所は関東電力の約六十%を担っている超重要施設だ。もしここが破壊されると、都市機能は完全に麻痺してしまう。何としても怪獣を近づけてはならん!』

 

 通信越しの弦十郎の声が響く。その声は厳しくも、どこか苦しみを帯びていた。

 

「けどよ……」

 

「よせ雪音、一番辛いのは司令達なんだ」

 

 親の大切さを誰よりも知っているクリスが、なおも言いかける。その言葉を、翼が静かに制した。

 星乃大吾――彼は翼にとっても恩人であり、無関係ではいられない存在だ。しかし一番の親友であった弦十郎が決意した以上、自分達が言う事はない。

 

「私達はS.O.N.Gの一員として、自分の任務を全うするだけだ!」

 

 強く言い切る。その言葉は、自分自身へ言い聞かせるようでもあった。

 

「行くぞッ!!」

 

 翼の号令と同時に、装者達は一斉に動き出す。胸元のイグナイトモジュールが起動し、禍々しくも力強いエネルギーがそれぞれのギアを包み込む。

 迷いを振り切るように、彼女達は地面を蹴った。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

「また、あの怪獣だ」

 

 ユウもまたリガトロンの襲来を確認していた。

 病院の屋上から確認できるリガトロンは、真っ直ぐに発電所を目指していた。あそこが襲われれば、この街全体の電力が奪われ大きな被害を出してしまうだろう。

 ユウはディグの紋章を握りしめ、スパークレンスを作り出そうと念じる。

 

「果たしてキサマは、アレと戦えるかな?」

 

「……っ!?」

 

 不意に背後から聞こえた声に、ユウは勢いよく振り向く。給水タンクの上に腰を下ろしながら、こちらを見つめるキャロルの姿がそこにあった。

 

「キャロ……ちゃん?」

 

「久しぶりだな、小僧」

 

()()()()、なんかじゃ無いよ。毎日お話ししてるでしょ?」

 

 柔らかく返された言葉に、キャロルは鼻で笑う。

 

「ふん、やはり気がついていたのか」

 

「分かるよ。エルちゃんの向こうから、いつも見てたでしょ?」

 

 ホムンクルスであるエルフナイン。その視覚や記録がキャロルに共有されていることを、ユウはずっと前から感じ取っていた。それでもあえて口にしなかったのは、理由があった。

 

 “そっか! じゃあその目でよーく観ててね、ぼく達のこと! そしてよく知って欲しいんだ。ぼく達がどんな人か、「君たち」に”

 

 怒りや憎しみではなく、日常や笑顔を。その中で少しでも何かが変われば、戦わなくて済む未来があると信じていた。

 

「相変わらず甘い奴だ。だが、だからこそ今回の怪獣は丁度いい。キサマにオレと同じ思いを味合わせてやれるのだからな」

 

「どう言う事? キャロちゃん、あの怪獣の事知ってるの?」

 

 ユウの問いに、キャロルの口元がゆっくりと歪む。その笑みは、怪しく愉悦に満ちていた。

 

「アレは、お前の父親だ」

 

「……え?」

 

 あまりにも唐突な言葉に、思考が一瞬止まる。何を言われたのか理解できず、ただその場に立ち尽くすユウを見下ろしながら、キャロルは淡々と続けた。

 

「キサマの父親、星乃大吾が乗っていた壊れた宇宙船を、怪獣が取り込んだ。その時に、遺体と魂もな」

 

「あそこに……お父さんが……」

 

 ユウは再び怪獣へと視線を向ける。

 何となくそんな気はしていた。昔父親に見せてもらったMARS三号の姿、その面影を思い出させるあの怪獣。

 そして何処となく感じる父親の気配、それらは全てリガトロンによるものだった。

 

「つまり、アレと戦うと言うことは、キサマは自分の手で父親を、殺すと言うことだ」

 

 逃げ道を一切残さない、残酷な事実の提示。なによりキャロルのそれは、冷酷な断定だった。

 

「あの怪獣は、キャロちゃんが……?」

 

「そうだ、オレが呼んだ」

 

 ユウは数日前に、謎の聖遺物関係のエネルギーが空に放たれたという報告を、緒川から受けていたのを思い出す。

 宇宙を漂うヤントラ・サルヴァスパを回収する手段。

 聖遺物を取り込んだ怪獣は同等のエネルギーを求めている。そこでキャロルは聖遺物のエネルギーを数日かけて空へと放つ事で怪獣への撒き餌としていた。

 

「さぁ、愛する父親をその手で殺し、オレにヤントラ・サルヴァスパを寄越せ! そして、オレと同じ痛みと苦しみを知れッ!!」

 

 狂気じみた笑い声が響き、キャロルの姿は風に溶けるように消えた。

 

 しかし彼女の策略とは裏腹に、ユウの瞳には怒りも悲しみも、ましてや絶望の感情など無かった。

 ユウはリガトロンを見据えていると、ディグの紋章が淡い光を点滅させる。

 

「……心配してくれてるの、ティガ?」

 

 それもその筈、彼は今あれだけ尊敬する父親を倒す為、変身しようとしているのだから。ディグの紋章が少年を労るように、静かに点滅を続ける。

 

「うん……ぼくは、お父さんが大好き。

 

 ユウは、ゆっくりと息を吸い込み、紋章を握る手に力を込める。

 

「でも、もうお父さんは居ない……だからこそ、お父さんが大好きだったものを守るんだ」

 

 それは悲しみを押し殺した言葉ではない。現実を受け止めた上で、それでも前を向こうとする決意の言葉だった。

 

「お父さんはね、宇宙も好きだったけど……宇宙から見る地球が、一番好きだって言ってた。ぼく達が生きてる、この場所が」

 

 脳裏に浮かぶのは、優しく笑う父の姿。遠い宇宙を語りながらも、最後には必ずこの星の美しさを誇らしげに語っていたあの声。

 

「そんな大好きな地球を、父さんに壊させたりなんかしない!!」

 

 その瞬間、ユウの迷いの無い言葉に反応するように紋章の光強くなる。点滅していた光が一つに収束し、手の中の紋章が変化した。

 

「ティガァッーーー!!!」

 

 手の中のスパークレンスが展開し、少年は光となった。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

「ぐっ……時間切れか」

 

「こっちも、ガス欠だ……」

 

 膝をついた翼の身体から、蒼い光がほどけるように散り、シンフォギアが粒子となって消えていく。辺りを見回すとクリスやマリア達も同じく、次々とギアが強制解除されていくのが見える。

 

「コイツ、硬すぎる……デスよ」

 

「うん、まるで難攻不落の要塞……」

 

 切歌と調の言葉は、大袈裟ではない。イグナイトモジュールを解放し、限界まで出力を引き上げた攻撃でさえ、リガトロンの装甲には有効打を与えられない。

 発電所は守れている。しかしそれだけで削ることも、崩すことも出来ないまま、時間だけが一方的に奪われ、イグナイトモジュールの活動限界を超えてしまった。

 

『デュアッ!』

 

 だがその時、眩い光と共に現れた光の巨人。

 ウルトラマンティガが、リガトロンの前に躍り出て、発電所を守るように構えた。

 

「ティガ……」

 

 心強い友人の出現。しかし今の彼女達の心境は複雑なものが巡っていた。

 武器を握る手に力の入らない装者達を置き、ティガはリガトロンへと向かっていく。

 

『タァッ! ハァッ!』

 

 先手を取るように踏み込み、手刀から繋げて頭部を掴み、膝蹴りを叩き込む。しかし重く鋭い連撃でありながら、リガトロンの装甲はびくともしない。

 

『キュアアアアァッ!』

 

『……ッ!?』

 

 鎌のような腕が横薙ぎに振るわれ、ティガの身体が大きく回転する。だが巨人は衝撃を逃がしながら着地し、即座に体勢を立て直すと再び打撃を加えていく。

 だがやはり、リガトロン相手には効果が薄いのか、逆に返しの一撃で簡単に弾かれてしまう。

 

『キュアァッ!!』

 

 リガトロンは両腕を重ね、青白い雷撃を放つ。

 瞬時に前転してこれを回避するが、その直後重い装甲からは想像もつかない速度で接近し、再び腕を振るう。

 ティガは間一髪これも躱し距離を取るが、狙い澄ましたように放たれる破壊閃光が直撃し、激しい爆発が周囲を包み込んだ。

 激しい閃光と共に爆発が発生し、辺りの森が炎に燃える。

 

「ティガっ!?」

 

「待ちなさい、響。今の私達に出来る事は無いわ。兎に角、安全な場所に避難しましょう!」

 

 マリアの言う通り、通常のギアすら纏えない自分達に出来る事は何も無い。装者達はギアの再装置が出来るようになるまで、装者達は炎の中から離れ、森の奥へと退避していく。

 

 燃え上がる炎の中、ティガは立ち上がる。

 両腕を額の前でクロスさせ、勢いよく解き放つ。その瞬間、ティガの身体が赤一色に染まった。

 

『デュアッ!』

 

 パワータイプへと変化したティガは、力任せに突進すると下から掬い上げるように右腕を振るい、リガトロンの巨体を転倒させた。

 そのまま馬乗りになり、首元へと腕を絡め、力強く締め上げる。装甲が軋み、メキメキと不吉な音が鳴り響くが、それでも砕ける気配はない。続けて拳を振り下ろしていくが、やはり有効打は見られない。

 

『……ッ?!!』

 

 突如、背面のブースターが唸りを上げた。

 ロケットのように噴射された煙と推進力が、ティガの身体を強引に引き剥がす。木々を薙ぎ倒しながら転がった巨人は、すぐさま立ち上がり、両腕を広げてエネルギーを集中させる。

 

『ハァッ!!!』

 

 《デラシウム光流》

 

 パワータイプの必殺技がリガトロンの胸部を捉える。

 膨大なエネルギーの奔流が直撃し、空間が歪むほどの光が爆ぜ、衝撃波が周囲の炎を吹き飛ばした。

 

「やった!」

 

 調が歓喜の声を上げた。

 超高密度のエネルギーの衝突に勝利を確信する。

 しかし。

 

『キュアアアアァッ!!!』

 

『……ッ!!?』

 

「なっ!? 効いてないデスか!?」

 

 デラシウム光流の直撃を受けて尚、リガトロンは大きなダメージを感じさせず高らかに吠えた。

 ティガはそれを見据えながら両拳を構え、戦う意志を表明する。

 

 ピコーン   ピコーン   ピコーン

 

 しかし膨大なエネルギーの消失に、カラータイマーが点滅を始める。もう長時間の戦闘は難しい。

 

『キュアアァッ!!』

 

 リガトロンは両手の鎌を鋏のように動かし突進する。

 カラータイマーの点滅に脱力感を感じたティガは、咄嗟に反応がおくれてしまった。

 次の瞬間、その首元を両腕で挟み込まれ、強引に動きを封じられる。

 

『グッ……ウゥ……』

 

『キュアァッ!』

 

 苦しそうな声を上げるティガ。リガトロンはそんなカレの首を固定したまま、その巨体を持ち上げてしまう。

 そしてそのまま、全身からエネルギーを電撃として放出した。拘束されたまま逃げ場を失ったティガの身体を、激しい電流が容赦なく駆け巡る。

 

 ピコーン ピコーン ピコーン ピコーン ピコーン

 

『グッ……アアアァッ!!!』

 

 ダメージに比例するように、カラータイマーの点滅は急速に激しくなる。光が短く、不規則に瞬くたびに、その命の灯が削られていくようだった。

 

「このままじゃ、ティガがっ!」

 

「クソッ! まだ再起動しねぇのかよッ!」

 

 援護に駆けつけたいクリス達だが、ギアは未だ応答しない。どれだけ聖詠を重ねても、ペンダントは沈黙したままだった。

 

「お願い、応えてよガングニール……!」

 

 響が必死に祈るように呟く。だがその願いも、今は届かない。

 

「……? 見て、アレ!!」

 

 だがその時、マリアの声に全員の視線が一点に集まる。そこでは、ティガを締め上げていたリガトロンに、明らかな異変が起きていた。

 

『キュ……アア……ァッ!!!』

 

 バチバチバチッ、と突如銀の装甲から激しく火花が散る。装者達が何が起きたのか分からず見つめていると、リガトロンの体がまるでより大きな力に押さえつけられているかのように震えだした。

 

(俺の子に、手を出すなッ!!!)

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

「一体何が起こっているんだ?!」

 

「分かりません。ですが怪獣の内部から何らかのエネルギーが逆流して破壊が生じているようです!」

 

 司令室でも同様に、その異常は確認されていた。モニターに映る数値は乱れ、リガトロン内部のエネルギーが不規則に暴走している。

 

「内部からだと! まさか、大吾が?」

 

 弦十郎達の予感は当たっていた。

 怪獣によって魂をエネルギーの一部として取り込まれた大吾。彼はその性質を逆に利用しリガトロンのコントロールを奪おうと抵抗しているのだ。

 

(彼は今、戦っているのですね。例え魂だけになっても……あの子を守る為に)

 

「オレ達に出来る事は、何かないのか……?」

 

 親友が命を賭けて怪獣と戦っている、自分達に何か出来ないのか。弦十郎は拳を強く握りしめる。

 ふと、彼の視線が机の上に置かれた一枚の写真へと向いた。そこには若き日の自分と、隣で笑う親友の姿がある。

 その瞬間、弦十郎の中で一つの考えが閃いた。

 

「藤尭、友里、至急星乃大吾の……特に家族の写真を中心に関連資料を集めろ。そして、MARS三号のコンピュータに送信するんだ!」

 

「「了解!」」

 

 理由を問うことなく、二人は即座に動く。端末が次々に起動し、膨大なデータが引き出されていく。

 やがて司令室のモニターに、無数の写真が映し出された。

 

 宇宙へ旅立つ前の一枚。

 家族三人で寄り添う写真。

 まだ幼いユウを抱き上げる大吾。 

【挿絵表示】

 

 茜と並び、穏やかに笑う若き日の姿。

 歩き始めたばかりのユウに手を伸ばす光景。

 結婚式での誓いの瞬間。

 そして――生まれたばかりのユウを抱く茜と、その傍らで優しく見守る大吾。

 

 そんな様々な想い出が、MARS三号のコンピュータへと次々と流れ込んでいく。その度に、怪獣の内部のエネルギーがより上昇していく。

 

「頑張れ、大吾! もう一度……もう一度人間として生きるんだッ!!」

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

『キュアアアアァッ!!!』

 

 リガトロンの装甲から溢れる火花がより強くなる。

 司令部との通信を繋いでいる翼達も、その光景の変化を理解していた。

 

「眠っていた大吾さんの意思が覚醒したんだ……」

 

「ユウくんの、お父さんが……」

 

 例え魂だけになろうとも、家族への想いで怪獣へと抵抗を示す大吾の意志。装者達は無意識のうちに、深い敬意を抱いていた。

 内部からの破裂によって装甲が次々と砕け、拘束していた力が急速に弱まっていく。ついにティガを解放したリガトロンは、まるで自らの意思で距離を取るかのように、苦しげに後退した。

 

(お父さん……?)

 

 突如動きのおかしくなった怪獣。ユウは直感的に、それが自分を守ろうとしてる父親の意思だと理解した。

 呆気に見つめるユウの脳裏に、大吾の声が響く。

 無抵抗に両手を広げるリガトロン。ユウにはその姿が父親の影と重なって見えた。

 

(撃て、ユウッ!!)

 

(……! うんっ!!)

 

 父親の覚悟に、少年は迷わず応える。

 一瞬強く拳を握りしめた後、ティガは力強く頷くと、素早い動作でマルチタイプへと変化した。

 両手をクロスさせた後、水平に広げエネルギーを胸に収束させる。

 

「ま、待って、ティガッ!!!」

 

 トドメを刺そうとするティガを、咄嗟に引き留めようと声と共に手を伸ばす響。

 しかしティガは止まらない。迷わず腕をL字に組み、集束したエネルギーを解き放った。

 

『デュアッ!』

 

 《ゼペリオン光線》

 

 眩い銀の光が一直線に放たれ、リガトロンの胸部をとらえる。その瞬間、激しい閃光が戦場を覆い尽くした。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 白い光の空間、その向こうにユウは父の影を見た。

 それは先日見たような朧げな影ではない。はっきりとした輪郭を持つ、記憶の中と変わらない父の姿である。

 

「お父さん!」

 

 胸の奥から溢れ出た声に突き動かされるように、ユウは駆け寄っていく。大吾はその様子を穏やかな眼差しで見つめていた。

 

「おかえり、お父さん」

 

「ああ……ただいま、ユウ」

 

 それは、四年という長い時間を越えてようやく交わされた、何よりも大切な挨拶だった。

 そのやり取りのあと、大吾の視線は自然とユウの胸元へと向けられる。

 

「やっぱりティガは、お前を選んだか」

 

 その言葉には、どこか納得したような響きがあった。

 それは今回の出来事だけではない。古代に預言された“光を継ぐ者”としての使命。大吾はその役目をユウに託した。

 

「俺はティガの力が怖かった……この力が争いを生むんじゃないか、この力が滅びを呼ぶんじゃないか……そんな迷いがあった」

 

 “俺は結局、その石に光を灯すことはできなかった……。でも、お前なら――できるかもしれない”

 

 ユウは宇宙は飛び立つ直前に、父が言った言葉を思い出す。あの時から大吾は、より純粋な心の光を宿す自分の息子こそが、ティグの紋章を継ぐにふさわしいと感じていた。

 だが同時に、その力がもたらす戦いに、我が子を巻き込んでしまうことへの葛藤も、確かに胸の中にあった。

 

「すまなかった、ユウ。お前にこんな事を背負わせてしまって……」

 

「んーん、ぼくは嬉しいんだ。ティガのお陰で、大切な人達を守る事が出来る。ティガが居たからぼくは独りぼっちじゃ無かった!」

 

 迷いのない言葉だった。

 父を失い、母が倒れ、世界が色を失いかけたあの日。そんな中でユウを支えてくれたのが、カレの光だった。

 だからこそ、この力を受け取ったことに、後悔など一つもない。

 

「だから、ぼくは大丈夫だよ、お父さん!」

 

「……そうか」

 

 四年ぶりに会った息子は、最後にあったあの日と変わらない、純粋で眩しい笑顔を見せた。

 その姿を見て、大吾はようやく自分の選択が間違いではなかったと心から思えた。

 やがて大吾の体が光の粒子となって散り始めていく。

 

「そろそろ……時間みたいだな」

 

「ねぇお父さん……最後に一つだけお願いしても良い?」

 

「ん、なんだ?」

 

 少しだけ照れたように頬を染めるユウは、小さくもじもじと手を擦り合わせる。

 

「ぎゅって、して良い?」   

 

「当たり前だろ、ほら!」

 

 そんな可愛らしいお願いに迷いなく頷いた大吾は、腰を落としその大きく腕を広げる。ユウの表情が、ぱっと明るくなりその胸へと飛び込んだ。

 首にしがみつくように抱きつく小さな身体を、大吾はしっかりと抱きしめる。

 

「大好きだよ、お父さん!」

 

「俺もだ、ユウ。地球を……母さんを頼んだぞ!」

 

「うんっ!」

 

 そのまま二人の親子は、言葉を交わさず互いの想いを確かめ合うように抱きしめ続けた。

 やがて辺りの空間が光に包まれ消滅していく。

 それでもユウ達は、その感触が完全に無くなるまで、抱きしめる力を弱めることはなかった。

 

 

 

 光が収まった後、そこに残されていたのは、完全に崩れ落ちた怪獣の亡骸だった。

 やがてその残骸から、淡く輝く光の塊がふわりと浮かび上がる。それはまるで意志を持つかのようにゆっくりと宙へ昇り、夕焼けの宙へと吸い込まれるように帰っていく。

 その光景を、誰も言葉を発することなく見送っていた。

 それが何であったのか、誰もが分かっていたからだ。

 

『……デュアッ!』

 

 戦いを終えた巨人は、しばしその場に立ち尽くし、光が消えていく宙を見上げていた。やがて静かに身を翻し、光とは反対の方向へと飛び去る。

 その後ろ姿は、何処か寂しげに見えた。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 怪獣との戦闘が終了し、現場では事務員やスタッフ達による事後処理が進められてる。

 そんな中、ユウはS.O.N.G本部へと呼び出されていた。

 

「お話って何? おじさん」

 

 いつものように無邪気な声で問いかけるユウ。

 だがその場にいる弦十郎も、響達も、すぐには答えられない。皆がどこか言いづらそうに視線を逸らし、重たい空気が室内に流れていた。

 特にユウの正体を知るナスターシャとエルフナイン。二人の気遣うよな視線から、話の内容は予想出来た。

 

「……お父さんの事だよね?」

 

「っ!? 知っていたのか、ユウ?」

 

「うん、実は――」

 

 ユウは先日父親の影と出会い、母である茜も同じような経験をした事を話した。

 

「そんな事が……」

 

「恐らく、家族を思う純粋な気持ちを怪獣が理解出来ず、星乃大吾さんの意識がその能力を借りて実体化したのだと思われます」

 

 ユウの話を聞きエルフナインが仮説を立てる。

 それが真実かは分からない。だが少なくともあれが家族の想いによって起きた奇跡であることだけは、誰もが疑っていなかった。

 父と思いを交わし合ったのを思い出し、ユウは響の方へと歩み進めた。

 

「ユウくん……?」

 

「響お姉ちゃん、お父さんともう一度話し合お? やっぱり親子の絆は、大切にした方が良いと思うから」

 

 父がいなくても、自分達がその代わりになればいい。そう思っていたが違った。

 ほんの一瞬でも、父と再び向き合えたことで気付いた。

 どれだけ似ていても、どれだけ想っても、代わりにはなれないものがあるのだと。

 今、響の中に空いているその隙間を、本当の意味で埋められるのは父親である洸だけだ。だからこそ、出会うことの出来るその機会を逃してはいけない。

 

「ユウくん……うん、そうだね。わたしも、もう逃げないよ」

 

 そしてそれは響も同じだった。

 彼女もまた、ユウと大吾の関係を見て、父親と言う存在に少し恋しさを覚えていた。

 自分の心に空いた隙間、これを埋めるには逃げるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 その晩、響と未来の部屋にお泊まりに来ていたユウは、二人がお風呂に入っている間に寮の屋上へと移動し、夜空を見つめていた。

 宝石のように煌びやかな星々、その一つの何処かに、宙へと昇った父親の光が含まれていると思うと、不思議と心強く感じた。

 

「ご苦労だったな、小僧」

 

「キャロちゃん」

 

 上空からの声に振り向くと、いつの間にそこに居たのか、隣の手すりに背を預けているキャロルの姿があった。その手には黒い書物のような物が握られている。

 

「貴様のおかげで、ヤントラ・サルヴァスパはオレの手に入った。これで計画は最終段階に進む」

 

 ソレこそが彼女達が探していた聖遺物、《ヤントラ・サルヴァスパ》である。リガトロンが爆発する寸前、キャロルは内部から盗み出していた。

 

「オレが憎いか? 目的のため、怪獣と化した父親と戦わせるよう仕組んだ、このオレが!」

 

「憎んでなんかいないよ」

 

 悪魔のような狂気じみた笑みを浮かべるキャロルに、ユウはハッキリと言い返す。あまりにもあっさりと返され、キャロルは驚いたように目を見開いた。

 

「キャロルちゃんのおかげで、ぼくはもう一度お父さんと会えた。もう一度お父さんと言葉を、想いを交わすことが出来た」

 

 胸に手を当て、あの時の温もりを確かめるように目を閉じるユウ。その表情は、悲しみではなく、確かな満足と安らぎに満ちていた。

 

「だから……ありがとう、キャロちゃん!」

 

 あまりにも真っ直ぐで、何の裏もない感謝の言葉。その一言に思考が一瞬止まる、罵倒も憎悪も返ってこないことが理解できず、その眩しい姿が余計にキャロルの怒りを買う。

 

「キャロルちゃん、君もお父さんの想いと向き合うべきだよ」

 

「何だと!? このオレが、父の命題を無視していると言いたいのかッ!!」

 

 父親の命題という名目で、全ての計画を行っているキャロルにとって、それは罵倒以外の何者でもなかった。

 しかし激昂するキャロルに対しても、ユウは一歩も引かない。

 

「そうだよ、君のお父さんはこんな事を望んでなんかない」

 

「貴様に、オレの父の何が分かるッ!!」

 

「分かるよ。ぼくはキャロちゃんの記憶を見た。ぼくのお父さんと同じ、優しい目をしてた。君が誰かを傷つける事なんか、望んで無かったよ」

 

 その言葉に、キャロルの表情がわずかに揺らぐ。ユウはそこで一度言葉を区切り、静かに問いかけた。

 

「ねぇキャロちゃん……あの日君が見たのは、本当にティガだったの?」

 

「な……何を言っている……?」

 

 キャロルはまるで、心の奥の突かれたくない部分を突かれたかのように全身を硬直させる。

 

「君のお父さんが亡くなった日の記憶を見た。ぼくの夢に出てきたのは巨人じゃなくて、あの日戦った“悪魔”と同じ姿だったよ」

 

「……悪……魔…………?」

 

「ねぇキャロちゃん、どっちが本当の君の記憶なの?」

 

 その瞬間、キャロルの意識の中で何かが大きく軋んだ。燃え盛る街、倒れ伏す父、そしてその向こうに立つ影。その姿が、巨人と異形の怪物とで交互に揺らぎ始める。

 

「あ……ああァッ!!!」

 

「キャロちゃんっ!?」

 

 キャロルは頭を押さえ、その場に蹲る。

 視界が歪み、記憶が混ざり合い、耐え難い痛みが脳を揺さぶる。ユウの呼びかけも、もはや届いていなかった。

 

「キャロちゃん、どうしたの?! 大丈夫?!」

 

 ユウは思わず駆け寄ろうと一歩踏み出す。しかしキャロルは、そのまま意識を失うようにしてその姿を消してしまった。

 

「キャロちゃん……」

 

 無人のなった屋上で、ユウは再び彼女と衝突する事を覚悟し、もう一度星空を見上げ勇気を胸に宿すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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