シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

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第五十七話 友を救う歌がある

 

 

 

 

 

 ――チフォージュ・シャトー中枢区画――

 

 そこは太陽の光すら届かない、巨大な要塞の最深部。

 無数の配線が蜘蛛の巣のように張り巡らされ、壁一面には用途不明の装置や演算機構が脈動するように稼働している。低く唸る駆動音と、時折響く電子音だけが薄暗い空間に反響していた。

 その奥の壁には赤、青、黄、緑の光を怪しく点滅せる四本の管が見られる。薄暗い空間の中でモゾモゾと動き回る四つの影があった。

 

「ったく、もう少し早く再起動出来なかったの?」

 

「そう言うな、あれだけ派手にやられていたんだ。再生には地味に、時間を有する」

 

「ニヒヒッ! 久しぶりの起動で、張り切ってるんだゾ!」

 

「それは皆んな同じよ。ようやくあのキリエル人に一矢を報いることが出来る」

 

 四つの影は確かめるように手足を動かすと、背中に繋がれたそれぞれの色の管を外し立ち上がった。

 全員が立ち上り、四つの影は互いを見渡すと一斉に頷きあう。

 

「「「「全てはマスターの為に」」」」

 

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

 

 

「キサマは、あの時のキリエル人ッ!!」

 

 手を取り合い、ようやく分かり合えたユウ達の前に、全ての元凶たるキリエル人が姿を現した。

 キャロルは力の入らない目で、その怨敵を睨みつける。

 だがキリエル人は、そんな視線など見えていないかのように意にも介さない。

 

『錬金術師と聞いて少しは役に立つと思っていたが、どうやらハズレのようだ。所詮は人間、やはり救世主となる資格を持つのは、我らのような偉大な種族のみ』

 

 キリエル人は肩を竦めるように言った。

 その声に含まれるのは、焦りや怒りでは無く、ただ使い潰した駒への失望だけ。

 ユウはそんなキリエル人へと、鋭い視線を向ける。

 

「どうして……どうして、こんな酷いことを!?」

 

『酷い? 全てはキサマのせいだ、ウルトラマンティガ』

 

 震える拳を握りしめるユウに対し、キリエル人は怒気を発しながら彼を指差す。

 

『我らキリエルの星でその巨大な姿を見せ、我が物顔で闊歩する。我らが受けるべき信仰を奪ったキサマが全ての元凶だ! キサマを消す為なら、我らはどんなゴミでも利用してやろう』

 

 あまりにも自分勝手な理屈を並べるキリエル人。

 元々カレらとまともな口論など出来るはずないと、分かっていたユウは質問を変える。

 

「……どうして、ティガの復活を知ってたの?」

 

 ティガが本格的に目覚めたのはここ一年の間。しかしキリエル人達は、それよりも数百年以前から暗躍していた。

 それはまるで、最初からティガの復活を知っていたかのようである。

 

『預言が降ったのだ。キサマと……“あのお方”が目覚める時が近付いていると』

 

(あのお方……? まさか、ユザレさんが言ってた“邪神”?!)

 

 かつてユザレは言っていた。

 ティガの封印が弱まっているのは、邪神が目覚める時が近づいているからだと。

 この語り方から導き出される答えは一つ、キリエル人と邪神は、浅からぬ関係にあると言う事。

 

「でも……では何故キャロルの記憶を改変したのですか? チフォージュ・シャトーが完成して、もしティガが負けていたら、あなたの言う世界が分解されるところだったんですよ?!」

 

 エルフナインの言う事は最もだった。

 カレらの言葉をそのまま受け取るなら、キリエル人は自らの支配する世界を、自ら滅ぼしかねない計画を進めていた事になってしまう。

 

『構わんさ』

 

 だがキリエル人は、あまりにも平然と答えた。

 

『世界を分解する“魔女”を消し、混乱する人間どもを我らが導けばいい。その為には、世界などいくら滅びようとも我らには関係ないのだ』

 

 キャロルの瞳が大きく揺れる。

 つまり最初から、彼女は利用されるだけの存在だった。世界を破壊しかけたところでキリエル人が自分を討つ。そうすれば人類は救世主として彼らを崇める。

 全ては恐怖と混乱を利用し、人類を支配する為の筋書きだったのだ。

 

『我らが支配する世界で再び《地獄の門》を開き、力を蓄える。そうすれば、やがて目覚める“あのお方”も敵では無い。邪魔なものを全て消し去り、この星を真にキリエルの物とするのだ!!』

 

 キリエル人の目的は、この星の完全なる支配。

 “あのお方”と呼んでこそいるが、決して邪神を崇めているわけでなく、寧ろ煩わしくすら思っているようだ。

 だが、そんなキリエル達の思惑など、ユウにはどうでもいい。

 

「……そんな事の為に、キャロちゃんを利用したって言うの?」

 

 ユウは痛む右手の拳を、強く握り締め震わせる。

 今大事なのは、そんな身勝手な欲望の為だけに、キャロルが全てを奪われたという事実だ。

 

「許さない……キャロちゃんから、お父さんを奪って、大切な想い出を変えたお前達を、ぼくは絶対に許さない!」

 

「お前……」

 

 これまで、たとえ自分の命を狙われても怒りを見せなかった少年。そんなユウが今、初めて明確な怒りをその拳に込めていた。

 彼にとっては、自分が殺されそうになった事よりも、友達を悲しませた事のほうが許せなかったからだ。

 

『許さないだと? それは我らのセリフだ! 今日こそ、その煩わしい姿を焼き尽くしてやるッ!!!』

 

 その瞬間、ユウ達の周囲を取り囲むように、数十体もの人影が現れる。それらは全てキリエル人だった。

 青白い炎の影が、等身大のキリエロイドの体を形成する。

 

『キサマらが倒したのは、所詮末端の眷属の者たちだ。真のキリエルたる、我らの敵では無い』

 

 以前より遥かに数を増したキリエロイドの軍団が、青白い炎を一斉にユウ達へ向けた。

 ユウは二人を庇うように前に出る。

 しかし、未だスパークレンスは離れた場所へ転がったままで、変身は出来ない。

 それだけではなく、彼の手足も先程の戦いによるダメージで既に限界を迎えて、逃げることも出来ない。

 

(数が多い……どうにかして、あそこまで行かないと!)

 

 もう一度先程の力を行使する事も考える。

 しかしあれはあくまで咄嗟の行動であり、自分でもどうやって力を使ったのか分かっていない。

 窮地を脱する方法を模索するが、それを待ってくれるキリエル人では無い。

 悪魔の手から一斉に獄炎が放たれる。

 

 だがその瞬間、突如舞い降りた四つの影が、ユウ達の前へ躍り出る。正面に障壁を展開すると、轟炎を受け止め防いだ。

 

「マスター、ご無事ですか〜?」

 

「ガリィ……?」

 

 キャロルの瞳が大きく見開かれる。

 そこにいたのは、自らの手で想い出を奪い、機能停止させたはずのガリィだった。

 彼女だけではない、自分達を取り囲むようにして、他のオートスコアラー達が守るように佇んでいた。

 

「ミカ、レイア、ファラ……お前達、何故?」

 

「遅れて申し訳ありません。チフォージュ・シャトーのエネルギー、少し使わせて貰いましたわ」

 

 風の障壁で自分達を守るファラが答える。

 機能を停止させられたガリィと、爆破によって死を偽装したミカ達。彼女達は自身が撃破された時に、チフォージュ・シャトーの最奥へと転送される仕掛けを施していた。

 例え想い出を失い破壊されようとも、チフォージュ・シャトー内のエネルギーを使用し、再起動出来るようにする仕掛けだ。

 全てはチフォージュ・シャトーが完成した頃に姿を現すと予想していた、キリエル人からキャロルを守る為の備えだった。

 

「少年、ここは派手な私達に任せて、お前は地味に役目を果たせ!」

 

「……! 分かった、二人をお願い!」

 

「ぼくちゃんに、言われるまでも……無いわよ!」

 

 苦しげな声でガリィが言い返す。

 再生したとはいえ、今の彼女達は応急処置の状態に過ぎず、攻撃を受け止めるその手足が次第にひび割れて行く。長く保たない事など、誰の目にも明らかだった。

 それでもユウは、かつて敵としても戦った、その頼もしい背中を信じる。靴底のローラーを展開し、炎の隙間を縫うように一気に駆け抜けた。

 

『そいつを逃すなッ!!』

 

「邪魔するんじゃないゾッ!」

 

 包囲を抜けたユウを追おうとしたキリエロイドへ、ミカとファラが同時に攻撃を仕掛ける。

 爆炎と風刃が交差し、追撃を強引に妨害した。

 そうしている間に、ユウは転がっていたスパークレンスを掴み取る。

 

「よし、これで――」

 

「ミカ、ファラッ!!」

 

 エルフナインの悲痛な声が伝わる。

 声の方を向くと、攻撃に回っていたミカとファラの腕が吹き飛ばされ半壊していた。

 

「ガリィ……レイア!」

 

 それだけでは無い。

 防御に回っていたガリィとレイアの障壁も遂に破られ、その陶石の手足を砕かれていた。

 だが自身の体を砕かれても尚、オートスコアラー達の視線はキャロルの身を案じていた。主を守るというその使命だけを胸に、彼女達は最後まで立ち続けている。

 その姿に心を動かされたユウは、痛む体に鞭を打ちながら、スパークレンスを胸の真ん中で展開させた。

 

『デュアッ!!!』

 

 再び等身大サイズに変身したティガ。

 瞬時に跳躍し、半壊したオートスコアラー達にトドメを刺そうとするキリエロイド達へと、《ハンドスラッシュ》を一斉に放った。

 光刃が奔り、キリエロイド達をまとめて撃ち抜く。

 

『キ、キリィッ!!?』

 

 吹き飛ばされる炎の影。

 ティガはそのまま着地すると、オートスコアラー達を庇うように立ち塞がった。

 

「ふ、ふふ……流石だな……後は頼んだぞ、ウルトラマン」

 

 ティガは無言のまま、その言葉に応えるように小さく頷と、拳を強く握り締め、迫り来るキリエロイドの軍団へ向かって駆け出した。

 

「お前達、何故……何故オレなんかの為に……」

 

 キャロルは目の前で倒れる、半壊したオートスコアラー達に震える声を漏らす。

 キリエル人にまんまと利用され、不本意な作戦に突き合わせた無力な主人。そんな自分を守る為に、何故彼女達はその身を捧げるのか、キャロルには分からなかった。

 

「我らは人形……マスターの言葉が絶対……ですが、それ以上に大切なものがあるだけですわ」

 

「マスターを守る事、それがわたしらの使命……ガリィが教えてくれたんだゾ」

 

 損傷した身体を支えながら、ファラとミカが笑った。

 自分達はあくまで人形。“主人の指示通りに動く”のが当たり前の存在だと、そう思っていた。

 だがそれだけでは、本当の意味で主人を守る事は出来ないと気づいた。

 だからこそ彼女達は、人形としての定義を超え、自分達の考えて自分達の出来る方法で主人を守る事を選んだ。

 

「ガリィ……」

 

「ちょっと〜勘違いしないでくださいよ。あたしはただ……あのキリエル共の思い通りになるのが、気に食わなかった……だけですからぁ〜」

 

 掠れた声でありながら、ガリィはいつもの軽い調子で話す。オートスコアラーの中でも特に高いプライドを持つ彼女だからこそ、その選択に至ったのかもしれない。

 最も役立たずだと思っていた彼女が、何よりも自分のことを考えていたのだ。

 キャロルは改めて、過去の自分の愚かさを呪った。

 

「キャロル、ここは危険です。ボク達は早く避難しましょう」

 

「だが、まだアイツが……」

 

 キャロルの視線の先では、ティガがキリエロイドの軍団を相手に一人で戦っている。既に彼の体も満身創痍の筈なのに、少年は一歩も退かずに戦っていた。

 エルフナインは、そんなティガの背中を真っ直ぐ見つめながら、静かに微笑む。

 

「彼ならきっと大丈夫ですよ。信じましょう、ウルトラマンを……ボク達の友人を」

 

 エルフナインの言葉に、キャロルはもう一度戦うティガを見つめた後、強く頷きテレポートジェムを叩き割る。

 転送用の錬成陣が、キャロルとエルフナイン、そして倒れるオートスコアラー達を包み込み戦場から転送させた。

 

『デュアァッ!!!』

 

 《ゼペリオン光線》

 

『キ、キリィィィッ…………』

 

 ティガの必殺の光線が、キリエロイドの軍団を薙ぎ払い一掃していく。

 確かにキリエロイドの軍団は強敵だ。

 だがティガは、かつてより強大な存在であるキリエロイドIIを撃破し、その戦いを経て更に力を増していた。

 その上、今のユウは怒りにより、その感情を爆発させている。もはや通常のキリエロイド程度では、ティガの敵にならない。

 気付けば、周囲のキリエロイド達は全て消滅していた。

 残るは全ての黒幕たる、あのキリエル人だけ。

 

『おのれ、忌々しき光の巨人め……だが、調子に乗るのもここまでだッ!!!』

 

 ティガが戦闘を行っている間、キリエル人はチフォージュ・シャトーの中央に設置されている巨大な機械的装置に手を伸ばしていた。

 その瞬間、チフォージュ・シャトー全体へ、凄まじい電流が奔る。城そのものが悲鳴を上げるように振動し、紫電が内部を駆け巡った。

 

『……フッ!?』

 

 キリエル人は、チフォージュ・シャトー内部に蓄積されていた膨大なエネルギーを逆流させ、自らの身体へ流し込んでいた。

 逆流したエネルギーが、キリエル人の全身を包み込む。

 それと同時に、チフォージュ・シャトー内部が激しく揺れ始めた。

 壁が裂け、天井が崩れ落ち、空間そのものが悲鳴を上げる。暴走したエネルギーに耐え切れず、巨大錬金術要塞が崩壊を始めていた。

 

『チャッ……!』

 

 ティガは即座に自身の体を光の玉へと変えると、崩れ落ちる壁や瓦礫をすり抜け、一気に城の外へ脱出した。

 その背後で、チフォージュ・シャトーが激しく爆ぜ、狂気じみた笑い声が響き渡る。

 

『フッ……フハハハッ!!! 力が、力が漲るぞ! 見るがいい愚かな人間共、真なるキリエルの更なる進化の姿をッ!!!』

 

 崩壊するチフォージュ・シャトーの中心へ、膨大なエネルギーが収束し、激しい閃光が白全体を包み込んだ。

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

 

「な、何が起こってるの……?」

 

 最後の錬金獣を撃破した響達も、その異様な光景を目撃していた。空に聳える錬金術の城が突如、激しく光を点滅させる。

 まるで暴走する心臓のように激しく明滅しているそれは、紫色の雷光を放ち空を裂き、周囲の空間さえ歪ませていた。

 

「なんだあの光……?」

 

「嫌な感じデス……」

 

 翼と切歌が警戒を強める。

 その時、チフォージュ・シャトーを見上げていた響達の背後で、突如赤い光が出現した。

 

 全員が一斉に振り返る。

 そこに浮かび上がっていたのは、幾度となく見てきた転送用の錬成陣だった。

 光が収まると、ボロボロになったキャロルを抱えるエルフナイン。そしてその周囲には倒れ伏したオートスコアラー達の姿もあった。

 

「キャロルちゃん?!」

 

「てめぇ、何しやがったッ!」

 

 驚きの声を上げる響。

 クリスは突如現れた敵の大将に対し、即座にアームドギアを展開し、キャロルへ銃口を突きつけた。

 

「ま、待ってください! キャロルは敵ではありません!」

 

 だが引き金が引かれるよりも早く、エルフナインが片手を必死に伸ばし制する。

 

「エルフナイン? 一体どう言う事だ?」

 

 翼の問いに、エルフナインは先程までチフォージュ・シャト内であった事を、ユウの部分だけを省いて全て話した。

 

「キリエル人が……キャロルちゃんを……」

 

「陰湿なアイツららしい、ムカつくやり口だ!!」

 

 響の表情が苦しげに歪め、クリスは舌打ち混じりに吐き捨てながら拳を叩いた。

 

「オートスコアラー達は、そんな主人を助けようとしたのね……彼女達なりに」

 

 マリアは半壊したオートスコアラー達を見下ろす。

 全ての力を使い切ったのか、彼女達は既に動かない人形と化している。だが、その傷だらけの姿からは最後まで主人を守ろうとしたのは想像に難くない。

 装者達はそんな彼女達の姿に心からの敬意を表した。

 

『詳細は分かった。キャロルの処遇は後にして、今はキリエル人の野暮を食い止めるぞ!』

 

「……ありがとうございます!」

 

 融通を気かけてくれる弦十郎に礼を言うエルフナイン。

 その時、異様な明滅を続けるチフォージュ・シャトーから、小さな光球が飛び出す。

 東京の街へと降り立った光の玉は、次第に大きくなり人の形を作り出した。

 

『デュア!……フゥ……フゥ』

 

「ティガ?!」

 

 装者達の前へ降り立ったのは、ウルトラマンティガ。

 だが、その姿はあまりにも痛々しい。

 胸のカラータイマーは既に赤く点滅し、荒い呼吸を繰り返している。片膝をつき、今にも倒れそうなほど消耗しているのが傍目からも分かった。

 

「ティガ、大丈夫?」

 

 調達はティガへと呼びかける。

 だがカレは応えず遥か上空、崩落を始めるチフォージュ・シャトを見上げていた。

 やがてチフォージュ・シャト全体が禍々しい閃光を放つ。目を貫く程に激しい光に、ティガを含めた全員が一斉に目を閉じる。

 数秒後の静寂、光が収まる。

 皆はその閃光が放たれた方へと再び視線を向けた。

 

 そこには、更に禍々しい姿となった“悪魔”がいた。

 左右対称の白と紫色の体表。とても羽根とは思えない歪な器官を背中に生やし、胸の中心には心臓のようなコアが見える。その顔つきはキリエロイドIIと比べて更に狂気に歪んだ“楽”の表情をしていた。

 

 《炎魔神 キリエロイドIII》

 

『…………』

 

 

【挿絵表示】

 

 

 今までのキリエロイドの姿とは一斉を風靡する形態。

 キリエロイドIIIは羽のような器官を羽ばたかせる事すらなく、重力を感じさせないかのように、ふわりと地上へ降り立つ。

 認めたくはないが、その姿は少し神々しく感じた。

 

『見なさいこの美しい姿を。これこそが天使を超え、神へと進化した真なるキリエルの姿』

 

 まるで自分に酔うように、キリエロイドIIIは自身の体を撫で回す。やがて満足したのかティガと、その後方にいるキャロル達へ視線を移した。

 

『神たる我が支配する世界には、“光の巨人”も“魔女”も相応しくない。我自らが粛清してしんぜよう』

 

(そんな事……絶対にさせないッ!)

 

 ふらつく足取りで立ち上がったティガは、手刀と拳を構え、降り立つキリエロイドIIIを見据える。

 

『チャッ……!』

 

 ピコーン ピコーン ピコーン

 

 胸のカラータイマーは早くも点滅を始めている。

 キャロルとの死闘、そしてキリエロイド軍団との連戦。ユウの肉体も、ティガのエネルギーも、既に限界寸前。

 それでも彼は退かない。

 その背には守りたい人達がいる、守りたい笑顔がある。それがある限り、彼はここから一歩も下がらない。

 

『デュアッ!』

 

 ティガは駆け出し、一瞬にして距離を積めた。

 どちらにせよ長期戦は不利、短期決戦を臨むために一気に攻撃を仕掛ける。

 

『ハッ、ハッ!』

 

 疲弊してるとは思えない鋭い連撃、しかしキリエロイドIIIは、その猛攻を片手だけで捌く。

 まるで子供の手でも受け流すかのような、圧倒的余裕。

 

『タァッ!!』

 

 拳撃が届かないと察したティガは、その場で身体を回転させ、鋭い回し蹴りを放つ。

 キリエロイドIIIは、まるで重力そのものを無視するように浮かび上がった。風に流される羽のような不気味な回避に、蹴りは空を切る。

 ティガはその後を追うようにして拳を突き出す。

 

『フッ……!?』

 

 だがキリエロイドはその拳を片手で軽々と受け止めた。

 掴まれた腕を振り払おうと力を込めるティガ。

 しかしその右腕は、まるで巨体な万力にガッチリ固定されたかの様に動かない。

 

『キリィッ!』

 

 キリエロイドは、固定した腕を回転させ、合気道の様に投げ捨てる。ティガの巨体が豪快に回転し、アスファルトの道路へと叩き付けられる。道路が砕け、巨大なクレーターが生まれた。

 

『クッ……ハアッ!!』

 

 《ハンドスラッシュ》

 

 受け身を取り起き上がったティガは、牽制として光弾を放つ。矢のような光の弾が、真っ直ぐにキリエロイドの体を捉える。

 

『キィリッ……キリキリッ!』

 

『……ッ?!』

 

 だが光弾は爆発する事なく、まるでキリエロイドの肉体に吸い込まれるかのように消滅してしまった。

 この光景には見覚えがある。ファイアーゴルザの《光線吸収能力》だ。

 

『キリィッ!!』

 

 反撃とばかりにキリエロイドが手を翳す。

 すると凄まじい冷気が放出され、辺りのビルが一瞬にして凍りつく。当然その冷気は、範囲にいたティガの足を捉え凍らせた。

 続けてキリエロイドが両手を突き出すと、腕の間に紫色の雷光が迸る。そして放たれた電撃は氷を伝導し、捉えられたティガへ直撃した。

 

『グァアアアアァァァッ!!!』

 

「ティガっ!?」

 

「どうして?! キリエル人にあんな力は無かった筈!」

 

 マリア達の知るキリエロイドは、炎を聖なるものとして使役していた。あんな光線吸収能力や、冷気や電撃を使う姿は見た事がない。

 しかしキャロルだけは、その謎の能力に覚えがあった。

 

「ヤツめ、まさか……」

 

「どうしたんですか、キャロル?」

 

「ヤツが出現した瞬間、チフォージュ・シャトーが消滅した。破壊されたのかと思ったが違う。ヤツは()()()()()()()()()()()()()全てを取り込んだんだ」

 

 チフォージュ・シャトーには膨大なエネルギーだけでなく、キャロルが溜め込んできた錬金術の知識が含まれている。その中には当然、錬金獣を作る為に集めた怪獣のデータもあった。

 キリエロイドは、チフォージュ・シャトーをの全てを取り込む事で、その膨大な知識を自分のものとし、錬金術や怪獣の能力を再現しているのだ。

 

「キャロルを利用するだけでなく、その知識までも……!」

 

 錬金術師にとって己の知識や研究データなどは、命の次といっても差し違えない程大切なものだ。

 キリエル人は家族や想い出に手を出すだけでは飽き足らず、その知識にまで土足で踏み荒らす。

 怒りを堪えるエルフナインの口元から鮮血が垂れる。

 

(小僧……)

 

 しかしキャロルは己の知識が汚された事よりも、目の前で闘う巨人を気にしていた。

 自分の集めた知識で巨人を倒す。そんな以前は望んでいた筈の光景が、皮肉にも目の前で行われていた。

 

「私達も行くぞ!」

 

「でも翼さん、あたし達もイグナイトモジュールを使い切っちゃったデスよ?」

 

「それはティガも一緒だよ切ちゃん。カレも今自分の限界を超えて戦ってる。わたし達も、根性だよ!」

 

「調……分かったデス! 女のど根性を見せてやるデェス!」

 

 彼女達も万全ではない。既に何百というアルカ・ノイズ、何体という錬金獣と戦っている。

 しかし目の前でカラータイマーを鳴らしながら、今まで以上の強敵と相対している。そんな彼を前にして、泣き言を口にする者など誰一人としてなかった。

 それぞれのアームドギアを構え、装者達は一斉に前線へ向かって駆け出していく。

 

「アレでは駄目だ……今のあいつらでは、ヤツには勝てん。エルフナイン、手を貸せ」

 

「キャロル?」

 

「あいつらを……友を助けるぞ」

 

「……っ! はいっ!!」

 

 エルフナインの瞳が大きく見開かれる。

 かつては“失敗作”と呼ばれ、存在価値すら否定されていた自分。

 そんな自分を今、キャロルは必要としてくれている。

 オートスコアラー達にとってそうだったように、エルフナインにとってキャロルは、もう一人の自分であり、同時に母のような存在でもあった。

 だからこそ、その言葉が何よりも嬉しかった。

 エルフナインは涙を滲ませながら、力強く頷いた。

 

 

 

 

  ☆

 

 

 

「オラオラオラァッ!!!」

 

 《BILLION MAIDEN》

 

 クリスのガトリングが火を吹き、キリエロイドIIIの背面を捉える。しかしキリエロイドIIIは大きく怯む事すらせず、振り返り様に片手を翳すと、巨大な火球を放った。

 

「ぐあぁっ!!?」

 

「クリス先輩ッ!」

 

 咄嗟に火球を回避したクリスだが、爆風に吹き飛ばされビルから投げ出される。

 そのまま地へと叩き付けられそうになる彼女を、ビル群へアンカーを撃ち込んだ切歌が、高速で滑空し救助した。

 

「マリア、月読、三方向から仕掛けるぞ! 今の私達では一撃貰うだけでも終わりだ、決して近づき過ぎるな!」

 

「「了解!」」

 

 翼、マリア、調の三人は、ビルの屋上を飛び移りながら、三方向から円を描くように間合いを図る。

 三人は威力が減衰しないギリギリの距離を保ち、一斉に攻撃を仕掛けた。

 

 《千ノ落涙》

 《INFINITE†CRIME》

 《α式 百輪廻》

 

 刀剣、短剣、丸鋸、三方向から放たれた刃の弾幕。当然キリエロイドに逃げ場はない。

 

『キリィッ!』

 

 だが刃が着弾しようとした瞬間、キリエロイドIIIを中心に、凄まじい突風が吹き荒れる。

 

「「「うわぁッ!!?」」」

 

 質量の軽い刃の群れは、一瞬で弾き飛ばされる。

 さらに連なるように、少女達の軽い身体までも宙へ浮かび上がり、強引に吹き飛ばされた。

 

「はあああああぁ……!」

 

 皆が上空で戦う中、響はビルとビルの隙間に姿を隠し、両足で大地を踏み締め力を溜めていた。

 飛び道具のない響は、自然と敵へ肉薄する事になりリスクが高い。ならば攻撃の頻度を減らす代わりに、一撃の威力を高める戦法を選んだ。

 

「ハァアァッ!!!」

 

 突風が収まった瞬間、腰のブースターを吹かせ、右腕のガントレッドを強化した響が突撃する。

 音の壁を破り、突き進む響の拳がキリエロイドIIIの頭部を捉えようとした瞬間。

 黄金の壁が出現した。

 

「なっ?!」

 

 それはキリエロイドIIIが作り出した金属の盾。

 力を込めた響の拳は黄金の壁を撃ち破る。しかしそれによって威力と速度が減衰してしまう。

 キリエロイドIIIの口元が、愉悦に歪む。

 空中でピタリと止まったかのように減速する響へと、その悪魔の手を伸ばしていく。

 

『デュアッ!』

 

 その巨大な手が響を握り潰そうとするよりも早く、《パワータイプ》に変化したティガが阻んだ。

 響が方向転換し、無事に着地したのを確認したティガは、一気に距離を詰め拳を叩き込む。

 

『キリキリッ』

 

 しかしパワータイプの打撃でも効果が薄いのか、キリエロイドはこちらを嘲笑うかのように、笑みを浮かべる。

 ティガは拳に込める力を更に高め、渾身の一撃を振り抜く。

 

『フッ……?!』

 

 だが拳が到達した瞬間、キリエロイドの体が液体のように揺れる。打ち抜かれた肉体が、水面のように波打ち、二つに分裂した。

 

 キリエロイドは水の錬金術を使い、自らの体を液体に変え二体の分身を作り出したのだ。

 分裂した二体のキリエロイドは、液状化した腕を鋭利な刃へ変化させる。

 

『『キリッ! キリィッ!!』』

 

『グ……アアァァッ!!?』

 

 次の瞬間、無数の斬撃がティガを襲った。

 腕のそものを剣と変えたキリエルの刃は、ティガの肉体を深く傷つけ、幾つもの光の粒子を血液のように散らしす。

 

「はぁ……はぁ、これが錬金術を手にした、キリエル人」

 

「まるで……はぁ、オートスコアラー全員と戦っているみたい……」

 

 マリアの言う通りだった。

 キリエロイドIIIの力は、単純な身体能力だけではない。

 キャロルの錬金術を取り込み、多彩な搦手までも自在に操っている。

 

『グッ……ンーーーハァッ!!』

 

 全身を切り刻まれる痛みに耐えながらも、ティガは後ろへ下がり距離を取る。

 パワータイプでは錬金術による搦手に対処出来ない。

 そう判断したティガは、再び《マルチタイプ》へと戻る。そして両腕を組み、胸の中心へ力を集中させた。

 

『ハァッ!』

 

 《タイマーフラッシュ》

 

 カラータイマーから放たれた眩い光の波紋が周囲へ広がる。その光が、尚も増殖しようとしていたキリエロイドIIIの分身をまとめて消し飛ばす。

 だがそれはあくまで分身だけ。

 消える事のない本体は、そのまま一気に距離を詰めると、再び剣と化した腕を振り下ろした。

 

『グアァァッッ!!?』

 

 肩から腰に掛けて、豪快に切り裂かれる。

 あまりにも深い傷。

 ティガの身体から大量の光が漏れ、遂に片膝をついた。

 

 その隙を逃さず、キリエロイドIIIが首を狙って剣を振り下ろすのを、ティガは咄嗟に右腕を盾にして受け止める。

 火花が散り、剣を受け止めた右腕が激しく軋む。

 キリエロイドIIIは、そのまま全体重を掛けて押し込んで来るのを、ティガは全身に力を込め必死に堪えた。

 

「このままじゃ、ティガがっ!!」

 

「だが、闇雲に向かっても状況は一転しない……一体どうすれば……」

 

 通常のギアでは、キリエロイドIIIに傷を付けることすら出来ない。それどころか、自分達を庇うティガの足を引っ張る形になってしまう。

 

「皆さん、大丈夫ですか!?」

 

「エルフナインちゃん!……それに、キャロルちゃんも」

 

 駆け付けて来たエルフナインの姿に、響達は目を見開く。その肩には、消耗し切ったキャロルが支えられていた。

 

「お前達、手を貸せ」

 

「……何だと?」

 

 強い口調のキャロルに、訝しむ翼。

 空気が険悪になる前に、エルフナインが慌てて前へ出た。

 

「ティガを助ける方法があるんです! その為には、皆さんの力も必要なんです!」

 

「わたし達の力も?」

 

 調が問い返す。

 キャロルは苦しげに息を吐きながらも、真っ直ぐティガを見据えた。

 

「オレの持つ“想い出”、そしてお前達の《絶唱》。その膨大なフォニックゲインを、ティガへと送るんだ。条件が互角なら、アイツはきっと負けない!」

 

 チフォージュ・シャトーのエネルギーを取り込んだキリエロイドIIIと、連戦続きのティガ。今の二体には、体内へ蓄積されたエネルギー量に決定的な差が存在している。

 だからこそキャロルは、この場にいる全員の残存フォニックゲインを束ね、ティガへ送り込もうとしていた。

 

「それを……信じろって言うのかよ?」

 

 クリスが険しい目付きでキャロルを睨む。

 例えキリエル人の策略があったとしても、これまでキャロルが行ってきた事実は消えない。

 多くの人を傷付け、世界を滅ぼそうとした。

 それを簡単に許せるほど、彼女達は甘くない。

 それはクリスだけでは無く、翼やマリア達も同様の想いだった。

 

「……信じて欲しい」

 

「っ!?」

 

 疑念と警戒の視線が突き刺さる中。キャロルは、ゆっくりと頭を下げた。

 そのあまりにも真っ直ぐな姿に、装者達は息を呑む。

 

「オレは……“アイツ”を助けたい。幾度となくアイツを殺そうとしたオレを、信じる事は出来ないと思う。だけど頼む、力を貸してくれ」

 

「キャロルちゃん……」

 

 響の瞳が大きく揺れる。

 続くように、エルフナインもまた一歩前へ踏み出した。

 

「キャロルはもう一人のボクです。彼女の罪はボクも一緒に償います! だから今だけは、ボク達を信じてください!!」

 

「わたし……信じるよ!」

 

 キャロルとエルフナインの姿に、最初に心を動かされたのは響だった。

 

「エルフナインちゃんは、わたし達の大切な仲間で友達だもん! そんなエルフナインちゃんが信じるキャロルちゃんを、わたしも信じるよ!」

 

 キャロル自身を、まだ完全には信じ切れない。

 それでも、ここまで自分達を助けてくれたエルフナイン、共に戦ってきた彼女の事なら信じられる。

 響のその言葉に、他の装者達も互いに視線を交し頷く。

 

「……感謝する」

 

 キャロルはダウルダブラを掻き鳴らし、ファウストローブを身に纏う。彼女も殆ど力を失い、大人の姿になれないが、少女の姿のまま鎧を纏った。

 

「立花、マリア、頼んだぞッ!」

 

「「はい(ええ)ッ!!」」

 

 翼の号令と共に、装者達は陣形を組む。

 中心に立つのは弱々しくも歌を紡ぐキャロルと、彼女を支えるエルフナイン。最前線に響、その背へ左手を添えるようにマリアが立ち、後方左右へ翼、クリス、切歌、調が展開する。

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl……

 Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

 装者達は《絶唱》を奏でる。

 響の力を束ねる力、マリアの力を制御する力を段階的に発動させ、他の装者がサポートする。かつてフロンティア事変で起こした奇跡を、コンビネーションで必然的に起こす陣形。

 装者と錬金術師の歌に反応するように、ダウルダブラが光を放ち、膨大なフォニックゲインが溢れ出す。

 

「くっ……これが、キャロルの持つフォニックゲインなのか……!?」

 

「一体、どんな出力してやがんだよ……!」

 

 翼とクリスが呻く。

 その圧力は、装者六人分を合わせてもなお匹敵するほど莫大だった。

 

「だとしても、やってみせる! 六人と一人の絶唱を、ガングニールで束ねッ!!」

 

「アガートラームで制御ッ! 再配置するッ!!」

 

 響達は歯を食いしばって耐える。

 絶唱を紡ぎながらそのフォニックゲインを受け止め、増幅させていく。

 

「うぐぅッ……!!?」

 

「キャロルっ!」

 

 途中キャロルの歌が乱れる。

 

「無茶しないで下さい。力を使い過ぎては、残ったパパとの想い出も燃え尽きてしまう!!」

 

 既にキャロルは、大半の想い出を燃料として消費していた。これ以上力を使えば、最後に残った大切な記憶までも失われる。

 それら全てを失えば、キャロルという存在そのものが、壊れてしまうかも知れない。

 

「構うものか……復讐にしか取り柄の無かったこの力……友を救う為なら、この想い燃え尽きたとしてもォッ!!!」

 

 キャロルは叫ぶ。

 その歌声は震えながらも、決して止まらない。

 数百年積み重ねた知識は、結局何一つ意味が無かった。

 だからこそ今度こそこの力を、この知識を、大切な誰かを救う為に使いたい。

 

「これは……キャロルちゃんの“想い”!?」

 

 歌を通じてキャロルの“想い”が皆の脳裏に流れ込む。

 彼女が今、どんな想いで歌っているのか、どんな想いで託そうとしているのか。その全てが、フォニックゲインと共に響達の胸へと流れ込んでいた。

 

「わたし達が受け止めて、絶対に届けるんだァッ!!!」

 

 装者達の歌声がさらに高まる。

 増幅されたフォニックゲインが、一つの巨大な光となって収束していく。

 

「S2CA・セプタゴンバージョンッ!! わたし達の想い、受け取って、ティガァッ!!!」

 

 響が拳を突き上げる。

 それに反応するように、虹色の螺旋が天へと昇って行く。六人の装者、二人の錬金術師、ティガを助けたいと言う純粋な想いが、鼠色の雲を貫いた。

 

 

 

  

  ☆

 

 

 

『デュ……ァッ――』

 

 キリエロイドの苛烈な一撃を真正面から受ける。

 ティガの巨体が大きく仰け反り、限界を超えて酷使され続けた肉体は、もはや踏み留まる力すら残ってなく、轟音と共に倒れ伏した。

 ピコーン、ピコーン、と弱々しく鳴り続けていたカラータイマーの光も、今や風前の灯火。やがてティガの双眸から光が失われていく。

 

『弱い……あまりにも弱過ぎる。この程度の存在を救世主として崇めるとは、やはり人間とはどこまでも愚かな生き物だ』

 

 仰向けに倒れるティガを、見下し嘲笑うキリエロイド。

 その視線は、微々たる点滅を進める胸の宝玉へと向けられていた。

 

『キサマの力の源は知っている。その宝玉を砕き、確実なる最後を下してやろう』

 

 キリエロイドは、剣のような両腕を揃えると、超高速で回転しながら飛翔。火、水、風、土、四属性をその身に纏いドリルのように降下する。

 狙いは、力の源である《カラータイマー》。

 その執拗なまでの憎悪と破壊衝動は、皮肉にもかつて復讐へ全てを捧げていた頃のキャロルを彷彿とさせた。

 

『…………』

 

 ティガは動かない。

 意識を失っているのか、それとも既に立ち上がる力すら残されていないのか、微動だにしない。

 死の刃が、ゆっくりと、確実に迫っていく。巨人と悪魔の距離があと数メートルにまで迫る。

 

 ――だがその瞬間、天より七色の奔流が降り注いだ。

 

『キッ……?!』

 

 虹色の光は、まるで巨大な螺旋を描く濁流のように鼠色の空を穿ち、ティガへと降り注ぐ。

 突如として現れた未知のエネルギーに、キリエロイドが初めて明確な動揺を見せた。

 

『ギリィッ!!!』

 

 だが、キリエロイドは止まらない。回転の勢いを一切緩める事なく、破壊の刃はそのまま一直線に突き進む。

 そして遂に悪魔の刃が、《カラータイマー》を捉えた。

 

 

 

 

 

 

 






 《炎魔神 キリエロイドIII》

 チフォージュ・シャトーを吸収し、さらなる進化を果たしたキリエロイドの姿。
 膨大なエネルギーだけでなく、シャトー内に蓄積されたキャロルの錬金術の知識そのものを己の物とした。それによって彼女の錬金術と、彼女が研究していたあらゆる怪獣達の能力をその身に宿している。
 キャロルから奪った力を使い、再びこの星の支配者を目指す。




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