シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり) 作:トライダー
夏の昼下がり、とあるアパートの一室にピンポーンとチャイムが鳴り響く。
「お父さん、来たよ」
「ああ、いらっしゃい。星乃くんも来てくれたのか」
「えへへ〜! こんにちは、洸さん」
家主である洸に出迎えられ、響とユウは部屋の中へと入る。室内は一人暮らしの男性にしては比較的綺麗に片付いていたが、それでも棚の上に雑誌が不自然に積み重ねられていたり、テーブルの端に小物がまとめて寄せられていたりと、所々に無理矢理片付けた痕跡が見受けられた。
「お父さん、慌てて片付けたでしょ?」
「あはは……バレたか」
「分かるよ、だってお父さんの娘だもん!」
響はどこか得意げに胸を張りながら満面の笑みを浮かべる。その表情からは、ちゃんと父親の事を理解出来ている事に対する嬉しさが溢れ出していた。
「響お姉ちゃんも、よく未来お姉ちゃんに怒られて、慌てて片付けてるもんね」
「ちょっ!? ユウくん、そう言うのは言わなくて良いんだよ!」
慌てて否定する響だったが、ユウから見れば二人は驚くほどよく似ていた。部屋を散らかしてしまうところも、怒られてから慌てて片付けるところも、そして誤魔化そうとするところまでそっくりで、改めてこの二人が親子なのだと実感させられる。
その後、三人は雑に押し込まれていた物を改めて整理しながら部屋の掃除を手伝う事になった。ユウが指示を出し、響が小物を運び、洸が苦笑しながらそれに従う。その様子はどこか家族団欒のようで、掃除をしているだけなのに自然と笑い声が絶えなかった。
やがて部屋が綺麗に片付くと、三人はテーブルを囲んで腰を下ろす。雑談も落ち着いたところで、自然と話は本題へと移っていった。
「そっか……お父さん、お母さんとお話ししたんだ」
「ああ……」
話題は響の家族の問題について。
一週間前、洸は響の実家へと足を運んでいた。その時、響も一緒について行くと言ったのだが、洸は首を横に振った。自分自身の罪と向き合う為に、自分の口で謝る為に、その責任だけは誰にも背負わせたくなかったのだ。
「お母さん……何て?」
「最初は、顔も合わせてくれなかったよ……」
彼の話によれば、まともに顔を合わせられるようになるまで三日も掛かったらしい。毎日実家へ通い続け、何度も頭を下げる洸の姿を見ていた祖母が、「せめて話だけでも聞いてあげなさい」と母親を説得してくれたのだという。
「おばあちゃんが……」
それでも最初は同じ部屋に入る事すら許されず、ようやく顔を合わせられた後も口を利いてもらえない日々が続いた。それでも洸は諦めなかった。どれだけ冷たくされても、どれだけ拒絶されても、毎日実家へ通い続け、ただひたすらに謝罪を続けた。
そしてある日、積もり積もった感情が限界を迎えたのだろう。響の母親は洸へ向けて激しい言葉をぶつけた。
置いて行かれた悲しみ。一人で抱え込んだ苦しみ。娘へ寂しい思いをさせた怒り。何年もの間、胸の奥へ押し込めてきた想いを全て吐き出すかのように、彼女は洸を責め続けた。
洸はその言葉を一切否定せず、ただ黙って受け止めた。言い返す事もなく、逃げ出す事もなく、ただひたすら頭を下げ続けた。
そして全てを吐き出した翌日。ようやく心の整理がついたのか、二人は改めて向き合い、少しずつ言葉を交わせるようになったのだった。
「ほんの少し、前に進んだ……かな?」
「そっか……良かった」
まだ以前のように一緒に暮らせる訳ではなく別居中、それでも止まっていた時間が少しだけ動き出した事実に、洸と響は穏やかな笑みを浮かべる。
「洸さん、大変だったでしょ?」
「いいや。本当に大変だったのは皆んなの方さ。オレは少しでも、その時間に寄り添えたらと思う」
「うん、それが分かってるなら大丈夫。きっと洸さんは、やり直せるよ!」
「ありがとう、星乃くん」
そう言うと洸はユウの頭を優しく撫でる。
子猫のように気持ち良さそうに目を細めるユウは、その手が間違いなく“父親の手”の暖かさだと感じ取っていた。
「しかし、この子が男の子とはね。初めて聞いた時の衝撃は忘れられないよ」
「だよね〜。わたし達の自慢の子だからねぇ!」
「えへへ、ぎゅー!」
響は満面の笑みを浮かべながらユウを抱き寄せる。ユウも嬉しそうに抱き返し、二人は自然と身を寄せ合った。
とても微笑ましい光景なのだが、目の前の子が男の子だと知った今では、父親としては少し思うところがある。
洸は間を測るように一つ咳払いをした。
「ん、んん! その……少し近過ぎるんじゃないか? 相手は、その男の子なんだし……」
「は、何? 文句あるの?」
出来るだけ穏便に距離を取らせようとしたつもりだったが、その言葉は見事に響の逆鱗へ触れてしまったらしい。
響は笑顔を浮かべたまま視線だけを向ける。その目は、とても父親に向けるものとは思えないほど鋭かった。
「い、いやその……」
「お父さんに泣かされたあの日、慰めてくれたのはユウくんなんだけどな〜」
「うっ!……わ、分かったよ。二人の関係には口を出さないから、せめて清いお付き合いをしておくれよ?」
その事を持ち出されてしまえば何も言い返せない。
痛いところを突かれた洸は複雑そうに顔を顰めながらも、降参するしかなかった。
「えへへ〜! 良かったね、ユウくん!」
「んー? うん!」
響はさらに強くユウを抱き締め、そのマシュマロのように柔らかな頬へ自分の頬を擦り寄せる。ほんのり赤く染まった頬と、幸せそうに細められた瞳。その表情は、とても弟に向けるものとは思えなかった。
一方のユウは、何がそんなに嬉しいのかよく分かっていないのか首を傾げている。しかし嬉しそうな響の姿を見て、満面の笑みで応えた。
「はぁ……」
そんな二人の様子を見つめながら、洸はため息を吐く。
自分の娘が幸せそうなのは嬉しい。
だが、その相手があまりにも可愛らしい小さな男の子というのは、父親として非常に複雑だった。
☆
同時刻、風鳴八紘邸。
今日は家主である八紘の発案で食事会が開かれていた。
翼はもちろん、付き添いとして奏やマリア、そして弦十郎も招かれており、客間に賑やかな顔触れが揃っている。
豪華な料理が並び、家族水入らずと言っても良い穏やかな時間の筈だった。
「…………」
しかし、当の八紘は終始無言を貫き、ただ静かに箸を動かし、時折湯呑みに手を伸ばすだけ。
その圧倒的な存在感と威圧感は健在であり、翼はもちろん、数々の修羅場を潜り抜けてきた奏やマリアでさえ何を話して良いのか分からない。弟である弦十郎ですら下手な口出しを避けている辺り、その空気の重さは相当なもの。
客間には食器の触れ合う小さな音だけが響き、誰もが何となく居心地の悪さを感じている。
「翼」
「は、はいっ!」
そんな中、不意に名前を呼ばれた翼は、思わず背筋を伸ばしながら上擦った声を上げてしまう。
その様子にマリア達は「そんな緊張しなくても」と言いたげな視線を向けるが、当の本人にそんな余裕は無かった。
「最近、仕事の方はどうだ?」
「はい。その……次のライブは、奏の希望で日本で行う事になりました。なので暫くは、こちらに滞在するのが多くなると思います」
「そ、そうそう! やっぱり、早く日本の皆んなに、あたし達の歌を届けてやりたかったからな!」
重くなり過ぎた空気を少しでも和らげようと、奏も慌てて会話へ加わる。
しかし八紘は「そうか」と一言呟くと沈黙を保った。再び重い空気が、客間に広まる。
誰も次の話題を切り出せず、重苦しい空気が客間を満たしていく。そんな時間がしばらく続いた後、八紘が再び不意に口を開いた。
「……チケットは」
「は、はいっ!」
「チケットは、“父親”でも取れるのか?」
「……っ!?」
一瞬だけ翼の目が見開かれた。
父が何を言いたいのか、その真意はすぐに理解し、彼女の胸の奥が熱くなる。
「はい! 関係者なら、特別枠として別に招待する事も可能です!」
「そうか」
返ってきた言葉はそれだけ。けれど、その一言だけで十分だった。
今までの八紘なら、きっとそんな事は聞かなかっただろう。ライブへ行きたいとも、娘の歌を見たいとも、決して口にはしなかったはずだ。
だからこそ、その何気ない問い掛けが嬉しかった。翼は溢れそうになる笑みを何とか堪えながら箸を握り直す。
向かい側に座る父は相変わらず厳格な表情を崩していない。だが、その口元はほんの僅かに緩んでいた。
そして、その変化に気付いたのは翼だけではない。
奏とマリアは顔を見合わせながら小さく微笑み、弦十郎もまた何も言わず静かに湯呑みを傾ける。
ようやく、本当に少しずつではあるが。風鳴家の止まっていた時間もまた、前へ進み始めていた。
「ところで翼、最近星乃くんとはどうなんだ?」
「えっ?!」
「「っ!!?」」
本当に何の前触れもなく話題が変わる。
先程まで仕事やライブの話をしていたはずなのに、突然飛び出した名前に翼はもちろん、二人のやり取りを見守っていた奏とマリアまで同時に肩を震わせた。
「ど、どどどどうしたのですか、お父様っ!!? いい、いきなり!?」
「好きなのだろう? 彼の事が」
「ななな、何故それをぉっ!!?」
心の奥底に隠しているつもりの図星をつかれ、翼は食事中にも関わらず大きな声を上げてしまう。もしこれが普段の食事の席なら、八紘から厳しい叱責が飛んできていただろう。
(おい、どうすんだよ……)
(なんで、私に振るのよ?)
(“同類”として、助け舟出してやれよ)
(五月蝿いわよ、奏!)
視界の端では奏とマリアが小声で何やら言い合っているが、翼にはそれを気にする余裕は無い。弦十郎も巻き込まれたくないのか、湯呑みに口をつけ誤魔化している。
「どうした? 好きでは無いのか?」
「愛していますっ!!」
((言った……))
恥ずかしそうに顔を真っ赤に染める翼だったが、自分の想いに嘘は付けない。父親の前で堂々のショタコン宣言に、マリア達は恐る恐る八紘の顔色を窺う。
「フッ……そうか」
怒るのか、呆れるのか、それとも説教が始まるのか。そう思っていたが、予想に反し八紘は安心したように一息つく。
「アレは、いい男だ」
「……え?」
「お前も風鳴の女なら、欲しいものは絶対に手にして見せろ」
「は、はいっ!」
父親にユウとの関係を認められた事が、よっぽど嬉しかったのだろう。先程まで真っ赤だった顔をさらに赤く染めながらも、今までで一番元気な返事を返していた。
しかし流石に見過ごせなかったのか、弦十郎が咳払いをしながら口を挟む。
「ん、んん! 兄貴、ユウはまだ十歳なんだが? それに歳の差もあるし……」
「そんなもの二十歳を超えたら関係ない。それどころか、今のうちに目をつけておかないと、何処かの誰かさんのように行き遅れる事になるぞ?」
「なっ!? 今はオレのことは関係ないだろう!?」
「いい歳まで遊び呆けて、婚期を逃し親友に先を越されたのは事実だろう?」
「それを言うなら、兄貴だってな――」
気付けば話題は完全に別方向へ飛んでいた。
テーブルを挟んで始まる八紘と弦十郎の応酬は止まる気配が無く、妙なところで兄弟喧嘩が勃発してしまう。
翼に助けを求めようと思った奏だったが、その本人は頬を真っ赤に染めたまま、どこか幸せそうな顔で虚空を見上げており、既に戦力外だった。
(おいおい……どうすんだこの空気)
(パパさん公認とは。正直、少し羨ましいわね)
(いや、あたしが言いたのはそう言う事じゃねぇんだけど……)
マリアは妙に感心したような顔をしており、奏は頭を抱える。唯一そのカオスな状況を冷静に見ていた彼女は、呆れたように深くため息をつく。
先程まで重苦しい沈黙に包まれていた食事会は、いつの間にか騒ぎの絶えない賑やかな場へと変わっていた。
☆
「エ〜ルちゃん! 来たよ!」
その日、ユウはエルフナインから「大事な話がある」と呼び出され、彼女の自室へと足を運んでいた。
「いらっしゃい、星乃さん」
「あれ? マムさんも来てたの?」
「ええ、彼女の仕事の手伝いをね」
ラボも兼ねているエルフナインの部屋には、彼女だけではなくナスターシャの姿も見える。二人は作業机へ向かい、何やら真剣な表情で作業を続けていた。
「何作ってるの?」
「LiNKERですよ」
「マリア達が無事に戦い抜くためにも、何としても新型のLiNKERが必要となってきますからね」
現在マリア、切歌、調が使用しているLiNKERは、初期に開発された肉体への負荷が大きいタイプだった。これまでは何とかそれで戦い抜いてきたもが、その代償は決して小さくない。だからこそエルフナイン達は、少しでも彼女達の負担を軽減する為、新型LiNKERの開発を進めていた。
「でもLiNKERって、作るのとっても難しいんでしょ?」
「そうですね。ボク一人では、開発するのは難しいと思います。でも、ナスターシャ教授……そしてキャロルの知識があればきっと大丈夫! 近いうちに皆さんに、専用のLiNKERを提供できると思います!」
そう語るエルフナインの表情は自信に満ちていた。
元々の彼女はどちらかと言えば引っ込み思案で、自分の意見を強く主張する事も少なかった。だがキャロルという、もう一人と自分との統合を経て、以前よりも遥かに前向きで芯の強い少女へと成長していた。
「とは言っても、私の知識はどちらかと言うとDr.ウェルの物になりますが……」
「ウェルさんの?」
LiNKER制作の第一人者であるウェル博士。
ナスターシャはF.I.S時代に、もしも彼が裏切った際、LiNKER制作を自分達で行えるように研究資料の一部をコピーしていた。
現在のLiNKER制作では、その当時のデータを参考に行われている。
「そっか……そう言えば、ウェルさんって今どうしてるんだろう?」
ユウが素朴な疑問を呟いた時、エルフナインは両目を閉じる。再び開いた時、その目つきは力強い鋭いものへと変化していた。
エルフナインの人格が、キャロルと変わった証拠だ。
「今日お前を呼んだのは、その事についてだ」
「どう言う事、キャロちゃん?」
キャロルはウェル博士との交流を語った。
以前、政府のエージェントに追われる彼を助けた事、そして光の巨人の力を求める彼に、その力の一端の在処を教えた事を。
「巨人の石像は、一つだけではない。オレはとある遺跡で、別の石像を見つけたんだ」
「それって……ティガ以外にも巨人が居たって事?」
「……分からない。だが、オレは巨人の力を求める奴に、その石像をくれてやった」
「では、今ドクターはその遺跡で石像の研究を行なっていると?」
「いや……この体の調子が戻ってから、その遺跡を独自に調べてみたんだが、既にもぬけの殻だった。奴にはレイアの妹を預けていたから、そいつを使って移動させたんだと思う」
「あの、巨大なオートスコアーですか……」
ナスターシャはかつてクリスを襲撃し、潜水艦を押し留めた巨大な影を思い出す。
あれほど巨大な存在であれば、石像のような超重量物を運搬する事も不可能ではないだろう。彼は今も自分達が観測できない場所で、力を溜め込んでいる可能性が高い。
「ヤツの執念は狂気じみている。きっと近いうちに、何かを仕掛けてくる筈だ。気をつけろ、小僧」
「うん、分かった。ありがとう、キャロちゃん」
強い眼差しで頷くユウ。
その姿を見て、満足そうに微笑んだキャロルは、目を閉じエルフナインと切り替わる。
まだ統合したばかりの身体は万全とは言えず、力の強いキャロルによる長時間の活動は負担が大きい。だからこそ普段はエルフナインが表へ出ており、必要な時だけキャロルが表に現れているのだ。
「そう言えば、レイアさん達の様子はどう?」
レイアの妹の話題で思い出したのか、ユウはふと部屋の奥へ視線を向ける。そこには、まるで展示されている人形のように眠り続けるオートスコアラー達の姿があった。
レイア、ガリィ、ミカ、ファラ。かつてキャロルの為に戦い、最後には命を懸けて自分達を守ってくれた彼女達は、今も修復用の装置に繋がれ眠り続けている。
「今はダメージの回復と、エネルギーの蓄積を優先させていますから。四体同時に起動するのは、まだまだ先になりそうです」
キリエル人との戦いで受けた深刻な損傷、そしてエネルギーの源だった“想い出”を失った事により、彼女達は今や動かぬ人形となっていた。それでもエルフナインは諦めていない。例え時間が掛かろうとも、いつか再び彼女達を目覚めさせたいと思っていた。
「いつか前みたいに一緒に過ごせたらと思います」
「うん、そうだね。この子達も、エルちゃんとキャロちゃんの大切な家族だもんね!」
あの戦いで彼女達が身を挺して自分達を守ってくれなければ、キリエル人に勝つ事は出来なかっただろう。だからこそユウは、もう一度彼女達と話し、あの日伝えられなかった感謝の言葉を直接伝えたかった。
そんな願いを胸に抱きながら静かに眠る彼女達へ優しい視線を向けた後、ユウはラボを後にする。
「じゃあ、また夜にね!」
扉が閉まり部屋の中に再び静寂が戻ると、エルフナインとナスターシャは作業机へ向き直り、新型LiNKERの開発作業へ戻っていた。端末を操作する音と機械の駆動音だけが響く中、しばらく無言の時間が続く。
その沈黙を破ったのはナスターシャだった。
「……一つ良いですか、キャロル?」
「何だ?」
エルフナインが静かに目を閉じる。そして再び開かれた瞳には鋭く理知的な光が宿っていた。人格がキャロルへ切り替わった。
「さっきの話、司令達には話したんですか?」
「いや、この事を知っているのは、オレ達“四人”だけだ」
その四人と言うのは、ユウ、キャロル、エルフナイン、ナスターシャである。
おおよそ予想のついていたナスターシャは、納得したように頷きつつも、一つ気がかりがあった。
「何故ですか? ドクターを追うなら、風鳴司令に伝え、諜報部に捜査させるのが一番では?」
彼女の指摘尤もである。
ウェルの事をユウに教えたのは、間違いなく彼の身を案じてのことだろう。
しかしそれならば、組織の力を使って確実な対処をするべきだ。だがキャロルはそれをしなかった。
「なら、どう伝える?」
「え……?」
「ウェル博士がウルトラマンの力を自分のものにしようとしている。そう伝える事自体は簡単だ。だが、それを知った政府はどう考える? ウルトラマンの力を人間が利用出来る可能性があると知れば、いずれウルトラマンそのものの調査を進めるだろう。そして、もしそうなれば……」
「ウルトラマンの正体が……人間だという発想に辿り着く……ですか」
キャロルは静かに頷いた。
ウルトラマンの力は人間が手に出来る。その考えに行き着けば、いずれ『ウルトラマンの正体は人間ではないか』という発想へ辿り着く。
そして政府が本気で調査を始めれば、ユウの正体に近付く可能性は決して低くない。そうなれば国連や各国政府は間違いなく彼をを研究対象として扱うだろう。
「あの男はあくまで国連の人間だ。ウェルを追うとなれば、間違いなく上層部に報告する事になるだろう」
「だから貴女は、この話を彼の正体を知る私達に止めたのですね」
風鳴弦十郎個人は信用出来る。それはキャロルも認めている。しかし、その上の存在まで信用出来るかと問われれば話は別だった。組織とはそういうものだ。一人が秘密を抱えていても、上へ報告する義務から逃れる事は出来ない。
全ては一人の友人を守る為の考えだった。
「にしても……ふふっ!」
「……なんだ?」
「いえ、貴女がそこまであの子の事を考えくれているなんて、と思いまして」
ナスターシャの言葉にキャロルは眉をひそめ、何か言い返そうとしたものの、言葉は喉元で止まり、しばらく考え込むように視線を逸らした後、みるみるうちに頬を赤く染めていった。
「………………ふんっ!」
やがて誤魔化すように鼻を鳴らしたキャロルは、そのまま引っ込んでしまう。
そんな反応があまりにも分かりやす、再び表へ出てきたエルフナインは、ナスターシャと顔を見合わせると同時に吹き出した。
☆
「弦おじさ〜ん! こっちこっちー!!」
その晩、ユウ達は町外れの丘、かつて響や未来と一緒に星を見上げた、あの場所へと集まっていた。
夜空には無数の星々が輝き、街明かりから少し離れたその丘は、静かで穏やかな時間に包まれている。
装者達と未来の他にも、ナスターシャやエルフナインの姿も見える。しかしそれ以外にも、ユウにとって大切な人が来る事になっていた。
「お母さ〜ん!!」
弦十郎が押す車椅子に座るのは、病院服の上から薄いケープを羽織った茜の姿があった。愛する母親の到着にユウは愛らしい笑顔を見せ駆け寄る。
「お久しぶりです、義母様!」
「あら、久しぶりマリアちゃん。この前のライブ見たわよ〜三人共とっても綺麗だったわ」
「あ、ありがとうございます!!」
「母さん、寒く無いか? 夜は冷えるから、体冷やすなよ!」
「ふふ、ありがとう、クリスちゃん」
「お義母さん、喉渇いてないデスか? あたし達、お水持ってきたデスよ!」
「沢山あるから、いっぱい飲んで。水分補給は大事」
「ありがとう、切歌ちゃん、調ちゃん。今は大丈夫よ、後でいただくわ」
茜の姿が見えた途端、入り口付近に居たマリア、クリス、切歌、調の四人が一斉に駆け寄っていく。それはもう誰の目から見ても分かるほど露骨。対し出遅れた響、翼、未来は悔しそうにその光景を見つめていた。
「全く、お前たちは……」
「まあまあ、賑やかで良いではありませんか」
「お久しぶりです、ナスターシャ教授。いつもうちの子が、お世話になってます」
「いいえ、いつも坊やに助けてもらっているのは、私達の方ですよ」
久しぶりに顔を合わせるS.O.N.Gのメンバーに、茜は一人一人へ穏やかに声を掛けながら挨拶を交わしていく。そんな中、ふと見慣れない少女の姿が目に止まった。
「あら? 貴女は?」
「えっと、ボクはエルフナインです……。星乃さんの……と、友達です!」
「あらあら〜そうなの。ユウと仲良くしてあげてね」
「は、はいっ!」
茜の持つ独特な柔らかい雰囲気に、エルフナインは緊張しているのか、慌てた様子で背筋をピンと伸ばす。
その姿がどこか微笑ましく見えたユウは嬉しそうに笑うと、自慢するようにエルフナインの両肩に手を乗せた。
「エルちゃんって凄いんだよ! ホムンクルスさんで、凄い錬金術師で、キャロルちゃんって言うもう一人の人格があるんだ!」
「ほ、星乃さ――お前なっ?!」
一切の嘘のない事実なのだが、一般人である茜に説明する内容としてはあまりにも突拍子も無く、思わずエルフナインの身体からキャロルの人格が表へ飛び出してしまう。
「あらそうなの。それは凄いわねぇ」
「いや、信じるのか?!」
しかし予想に反し、茜はその事実をあっさり受け入れてしまった。あまりにも自然な反応だった為、逆にキャロルの方が驚いてしまい、思わず大きな声を上げてしまう。
「まぁ、世界は広いからねぇ。そう言うこともあるわよ」
「いや……そう言う問題か?」
あっさりとそう言いのける茜に呆れるキャロル。
難しい理屈に囚われる事なく、目の前の相手を受け入れる。その大らかさと懐の深さに、その場にいた誰もが、この人は間違いなくユウの母親なのだと思わざるを得なかった。
皆との挨拶を終えた後、ユウと茜は小さな巾着袋から線香とライターを取り出し火をつける。茜から線香の束を受け取ったユウは、丘の上に設置した石段に乗せる。
やがて立ち昇った白い煙は夜風に揺られながら空へ溶けるように流れていく。
皆は空を見上げた後、両手を合わせて目を閉じる。
「皆、今日は集まってくれて、ありがとう」
暫く無言の空間が続いた後、目を開いた茜が皆を見渡し改めて感謝の言葉を口にする。
今日はお盆、皆が集まったのは亡くなったユウの父、大吾を見送る為だった。
「でも良いのか、こんな簡単な見送りで……」
「うん、お父さんは星空が好きだったから。きっとこっちの方が喜ぶよ!」
大吾の遺体は怪獣化した、MARS三号の爆発と共に完全に消滅している。
その為、彼には正確な墓が無い。
もちろん正式な墓を建てる案も出ていたが、最終的にユウと茜が選んだのは、この星空がよく見える丘で祈りを捧げるという形だった。
「お父さんは、きっと“光”になったんだよ」
「光……?」
「うん、人間を超えた光になって、あの星の向こうから見守ってくれている。ぼくは、そう思うんだ」
あの日、怪獣と化したMARS三号が消滅する瞬間、光の塊が宙へと飛んでいくのを見た。
それが何だったのか証明する術は無い。けれどユウはそれが、光と化した大吾の魂だと直感的に理解した。
だからこそ墓石の前ではなく、この星空の下で送りたかった。誰よりも宇宙を愛し、誰よりも星を愛した父だからこそ、この場所から見送る事が一番相応しいと思えたのだった。
「ここなら、星が綺麗に見えるから、お父さんにも届くと思ったんだ……」
そう言いながら父が旅立っていった空の方角を見つめるユウの頭を、弦十郎が優しく撫でる
「ユウ、ありがとうな」
「弦おじさん?」
「オレはな、もしかしたらウルトラマンが大吾なんじゃないかって思っていたんだ」
「えっ?……どうして?」
「何となくな、似ているんだよ。どんな相手でも決して逃げず、何かを守る為に力を振るうカレの姿が、アイツと重なって見えるのさ」
達人である弦十郎なら、その者の立ち方や戦い方だけでも相手の本質を見抜く事が出来る。まして相手が長年共に過ごした親友なら尚更だった。
ユウの戦法は、幼き頃に大吾から教わった基礎を元にした我流。だが知らず知らずの内に、その背中を追い続けていたのだろう。
誰かを守る為に前へ出るところも、自分が傷付く事を恐れないところも。そして、どれだけ絶望的な状況でも決して諦めないところも。
気付けばその姿は、弦十郎の知る大吾と重なっていた。
「だから、もしかしたら大吾まだ生きているんじゃないか? そんなありもしない希望に縋ってしまっていた。結局オレはアイツの事を割り切れていなかったんだ……」
弦十郎はそう呟きながら、自身を責めるように拳を握り締める。
親友を失った現実を受け入れたつもりでいた。だが心のどこかでは、ずっと否定したかったのだろう。
もしかしたら生きているのではないか、もしかしたら帰って来るのではないか。
そんな希望を捨て切れず、親友の幻影を追いかけてしまっていた。
「でもお前は違う、父親の死を受け入れ前に進んでいる。そんなお前を見て、オレも見習わなくてはと思ったんだ」
「ぼくの方こそ、ありがとうおじさん。お父さんの事を、大事に覚えていてくれて」
「フッ……大吾! お前の息子は、オレ達が何があっても守ってみせる! だから、安心して見守っていろッ!!」
弦十郎はユウの肩に手を乗せながら、親友が居るであろう空の向こうへと拳を突き上げる。
彼は改めて、親友の忘れ形見を守り続ける事を、心に誓うのだった。
「師匠だけじゃありませんよ!」
「私達だって、ずっと側でユウを守り抜くからな!」
「えへへ! ありがとう、お姉ちゃん!」
響と翼もまた迷いなくそう言い切る。その言葉にユウは満面の笑みを浮かべた。
口にこそ出さなかったが、他の皆も同じ気持ちだった。マリアもクリスも、切歌も調も、そして戦う力を持たない奏や未来でさえ同じように頷いている。
「見て見てお母さん! ぼくの周りには、こんなに沢山の人が居るよ!」
眩しいほどの笑顔を皆へ向けた後、ユウはくるりと振り返りながら茜へ両手を広げる。
「だから、ぼくは大丈夫だよっ!」
「ええ、そうね……」
ユウの曇り一つない笑顔に、その姿を見つめる茜もまた、どこか儚げでありながら優しい微笑みを返す。
祈りが済んだ後、皆は星空を見上げながら各々雑談を始める。元々今回集まったのは、大吾の見送り以外にも、皆で星空を見たいと言うユウの願いを叶える為でもあった。
現在ユウは、皆から少し離れた所でエルフナインと二人で空を見上げていた。
茜は彼に聞こえないように、皆に声をかける。
「皆、あの子と仲良くしてくれてありがとう」
「何言ってるんですか、茜さん。当然ですよ!」
「響の言う通りです。私達だって、好きでユウくんと一緒にいるんですから!」
自分達の気持ちを代弁するような響と未来の言葉に、他の装者達も少し照れくさそうな表情を浮かべながら頷く。
「ありがとう……これからも、あの子を支えてあげて」
「勿論デス! って言っても、ユウはしっかりしてますから、殆どする事ないデスけど……」
「うん。わたし達の方が、お世話になることも多い……」
切歌と調の言葉は決してお世辞ではなく、ユウは年齢の割に驚くほどしっかりしている。
精神的にも強く、誰かを支える事に長けていて、実際に彼女達の方が助けられた場面も数え切れないほどあった。
しかし茜が言いたいのはそう言うことではなかった。
「……あの子はね、私に『早く良くなって』とは言わないの」
「……えっ?」
その言葉に、その場の空気が少しだけ静まる。
茜は夜空を見上げたまま、小さく息を吐いた。
「きっとあの子は分かっているのよ。私の体が、もう良くならないことが……」
「茜……」
弦十郎は知っていた、茜の容体はかなり悪く、今日も“亡くなった夫の墓参り”という体が無ければ外出を許可されなかった程だ。
そして息子であるユウは、その事実をずっと幼き頃から知っていたのだろう。
「だから、あの子はいつも『ぼくは大丈夫だよ』って言うの……きっと、そう遠くない未来に居なくなる私を、不安にさせない為に……」
大事な息子を残してしまうという精神的不安。
ただでさえ体の悪い茜にとって、これ以上の毒はない。
だからこそユウは、少しでも母が安心できるように、『自分は大丈夫』という姿を見せようとしていた。
まだ両親に甘えているのが当たり前の年代の幼い少年が、ずっとそう振る舞い続けている。
「だから、あの子を支えてあげて……」
茜は自分で話しながらも、そんな健気な息子の姿を思い浮かべ、次第に目元へ涙を滲ませていく。
「茜さん、ユウのことは心配しないで下さい。さっきも言った通り私達が剣として盾として守り、そして支えていきます」
「それに、お前の体の事も現在治療法を探している。だから諦めるな、あの子にはお前が必要だ」
涙を零さないよう必死に堪えながら、それでも茜は感謝の言葉をと共に頷く。
そんな彼女の姿を見た装者達は、改めてその覚悟を強めていくのだった。
「んー? お母さん達、何話してるんだろ?」
「気にするな、小僧」
ホムンクルスである彼女の五感は、普通の人間とは比較にならないほど鋭い。なのでキャロルとエルフナインには、茜達の会話が聞き取れた。
だからこそキャロルは、ユウの服の袖を掴み振り向かせないようにする。母親の涙を彼に見せたくなかったから。
「それよりも、あの星は何だ?」
「んー? アレはね!」
キャロルは誤魔化すように空の星を指差す。
今二人がしているのは、夜空に浮かぶ星や星座を指差し、その名前を当て合う遊びだった。満天の星々が広がる夜空は都会では中々見られないほど美しく、ユウは楽しそうに一つ一つの星を指差しては名前や逸話を語っていく。
「キャロちゃんは、星に詳しいの?」
「少しはな。錬金術と星には繋がりがあって、パパから昔教えてもらった事がある」
「へぇ〜そうなんだ!」
父親との想い出を振り返っているのだろう、キャロルの瞳は星空に負けない程煌めいていた。
「ふふっ!」
「何だ?」
「んーん、やっぱりお父さんの話をしてる時のキャロちゃん楽しそうな顔してるなって思って」
「み、見るな!」
「えへへ、や〜だ!」
悪戯っぽく笑いながら覗き込んでくるユウに、キャロルは思わず顔を背ける。だが視線を逸らそうとしても、彼は楽しそうにその表情を追い掛けてくるものだから余計に恥ずかしい。
(おい、エルフナイン変われ!)
(駄目ですよ〜。キャロルだって、嬉しいくせに)
心の中で助けを求めるが、返ってきたのは楽しそうな声だった。人格を切り替えて逃げようにも、エルフナインは面白がっているのか協力する気配が無い。結局キャロルは照れながらもユウの視線を受け止めるしかなかった。
やがて冷静さを取り戻したキャロルは、何やら思い詰めるように息を吐く。
「そう……パパとの大切な想い出。なのにオレは、間違った復讐に囚われ、憎しみのままに燃やし尽くしてしまうところだった……」
「キャロちゃん……」
「オレの人生は……オレの数百年は、一体何だったんだろうな……」
キャロルは力無く星空を見上げる。
頭上に広がる満天の星々は、父と共に夜空を見上げていたあの頃と何も変わらないが、そのその下の景色は違う。
建物が立ち並び、人々の暮らしも文化もあの頃とは変わり果てている。自分が知っていた時代はとうの昔に終わり、愛した人々も帰る場所も失われてしまった。
偽りの記憶を植え付けられ、憎しみだけを支えに数百年もの時を生き続けた。
だが、その果てに残ったものは何だったのか。
キャロルは自分自身の人生の意味を見失いかけていた。
「無意味な事なんてないよ」
その言葉にキャロルが視線を向ける。
ユウは同じように星空を見上げながら、ハッキリとそう言い切った。
「だって、そのお陰でぼく達は出会えたんだよ」
「小僧……」
数百年という途方もない時を生きたキャロル。だが、その長い時間を生き延びたからこそ二人は出会えた。
もし彼女洗脳が、ウルトラマンの目覚めていない後数年早く解けていたら、きっとキャロルはキリエル人に消されていただろう。
今この瞬間まで生き続けたからこそ、彼女は新たな仲間と出会い、新たな未来を手にする事が出来たのだ。
「確かにキャロちゃんにとっては、辛い数百年だったのかもしれない。でも今を生きてる。だったら、これからぼく達と、もっと楽しい想い出を作っていけばいいんだよ!」
「新しい……想い出……」
「うん! キャロちゃんの想い出は、ここから始まるんだよ!」
ユウはキャロルの両手を包み込むように握りしめ、その瞳を真っ直ぐ見つめる。
そこあったのは同情でも憐れみでも無い。
ただ、これから先を一緒に歩いていこうという真っ直ぐな想いだけだった。
「ありがとう、ユウ。オレ達の友……」
星のように美しく輝く紫色の瞳を見つめ返しながら、キャロルは優しく微笑む。
過去には決して戻れない。ならば現代で出会えた奇跡を喜び、今を幸せに生きよう。
それこそが、自分を愛してくれた父へ捧げる、何よりの贈り物になるはずなのだから。
「「「「「ユウ(くん)ーー!!!」」」」」
その時、響、未来、切歌、調が勢いよくユウへと飛びつく。何が起きたのかとキャロルが目を見開いていると、遅れてクリス、翼、マリアもその流れに参加する。
「わっ! どうしたのお姉ちゃん達!?」
「ユウくん! お姉ちゃん達がそばに居るからねっ!!」
「絶対にユウくんを独りぼっちにしないからっ!!」
「寂しかったらいつでも言うんデスよっ!」
「いつだって、わたし達に甘えて良いんだからね!」
茜からユウの気苦労を知った響達は、少年を抱きしめたくていてもたっても居られなかった。
七人のお姉ちゃん達に揉みくちゃにされるユウは、喜びつつも、次第にくすぐったそうな表情に変わる。
「お前達……良い加減にしろォッ!!!」
その光景を見ていたキャロルが我慢の限界を超え、風の力でユウ以外の彼女達を吹き飛ばす。
「のあっ!!? てめぇ、何しゃがんだよっ!!」
「やかましい! このショタコン共め、この友人であるオレが近くに居るうちは、お前達の好きにはさせんぞっ!!」
「えー! そんなのずるいよ、キャロルちゃ〜ん!」
抗議するクリス達と、それを真っ向から迎え撃つキャロル。いつものようにやいのやいのと口論を始める少女達を前に、事情を理解していないユウは、ぽかんとした表情でその様子を見つめていた。
「ねぇ、マリアお姉ちゃん。“ショタコン”ってなぁに?」
「え、ええっ!!? そ、それはええとぉ……ゆ、ユウみたいな可愛い男の子が好きな人の事かな〜?」
流石に説明に困ったのだろう。マリアは頬を引き攣らせながら何とか言葉を選ぶ。しかしその返答を聞いたユウは、何故か安心したように満面の笑みを浮かべた。
「そっか! 良かった!」
「「「「「えっ?」」」」」
「ぼくもお姉ちゃん達の事、大大大好きだから、お揃いだねっ!」
熱った頬を赤く染めながら、一切の曇りも無い笑顔でそう言い切るユウの姿に、少女達の心は見事に撃ち抜かれる。同時に脳内で理性という名の鍵が壊れる音が聞こえた気がした。
「「「「「ユウ(くん)ーー!!!」」」」」
「やーん!」
「ええい! 近づくな、変態女ども、母親の前だぞ!!」
思わず飛びつこうとする翼達を、キャロルが追い払おうとする。そんな賑やかな光景を、茜や弦十郎達は離れた場所から見守っていた。
「あらあら、あの子ったらモテモテね」
「良いのか、茜。本当にアイツらが側に居て……」
「あら? 何か問題かしら? みんなとっても良い子達よ。きっとあの子達なら、ユウを大切にしてくれるわ」
「まぁ、お前が良いなら良いんだが……」
鼻息を荒くし、とても見せられない表情をしている少女達の姿は、客観的に見れば中々に危険な光景。弦十郎は呆れた声を出すが、当の茜はその光景を微笑ましく見守っている。
「あの子にはきっと、人を結ぶ力があるのよ」
「人を結ぶ……か、そうかも知れないな」
茜の言葉を噛み締めながら、弦十郎は再び騒いでいるユウ達へ視線を向けた。
クリス、マリア、調、切歌そしてキャロル。
かつて敵同士だった少女達が、一人の少年を中心に集り、笑い合っている。
茜の言う通り、ユウには人を惹きつけ、人と人を結び付ける不思議な力があるのかもしれない。
丘の上に響く賑やかな笑い声を聞きながら、弦十郎はそんな思いと共に星空を見上げる。
その時、遠くの小さな星が一瞬、光を強めた気がした。
ご愛読ありがとうございます。
これにてGX編完結となります。続きであるAXZ編、XV編はプロットを組み直しますので、次回の投稿は暫く先となりますが、投稿出来る内容になり次第再開していこうと思いますので楽しみにお待ちください。
ここまでの物語の評価・感想なども励みになりますので是非お待ちしております。他にも物語についての質問などもあれば、なるべくお答えしていこうと思いますのでお気軽に送ってください。