ONE PIECE 荒ぶる暴獣の猛威   作:ウェイブロック

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第98話〝ペイン〟

「……あの拳にはオレの全力だけではなく――お前のエネルギーをも加えていたんだがな……」

 

 堂々と立っているオレの姿にペインは呆れながらそう呟いていた。

 ――さっきオレに放たれた〝神羅天征〟にはペインが能力で吸収した〝暴獣のスサノオ〟の強大なエネルギーを込められているだけはあって、その威力は桁外れだった。

 それこそ、受けた者の肉体が木っ端微塵になる程なのだ――なのに……

 

「……それでも効かないとは――どれだけの怪物ぶりなんだ?」

 

 ……それ程の攻撃を受けてなお、五体満足しているオレの姿にペインが呆れるのも無理ではないだろう。

 そんな彼にオレは口を開く。

 

「いやいや!効いたぜ!オレもさすがに意識が飛びかけていたし!!」

 

 オレは声を弾ませながら、そんな事を遂げてみせたペインを褒め立てずにはいられなかった。

 それもその筈。如何なる攻撃を受けても効き目がないオレをそういう状態に追い詰められたのは親父――〝百獣のカイドウ〟、そして〝火災のキング〟と〝疫災のクイーン〟ぐらいだった。

 裏を返せば、そう容易に破れにくいオレから一瞬意識を奪えたペインの実力にオレは感銘を受けずにはいられなかった。

 そんなオレからの称賛をただ受けるペインはオレの腹部に視線を向ける。そこには――確かに赤く腫れているように見受けられていた。

 その事からオレにダメージを確かに与えられたのをペインは理解した――だが……

 

「……お前に与えたダメージがその程度だと――かえって、自分の無力さを痛感するがな……」

 

「!……あ〜悪ぃな!そんなつもりはねぇが……」

 

 自身の無力感に少し俯いてしまうペインの姿にオレは少し面食らい、一応謝っておく。

 その姿勢にペインも眉をひそめる。

 

「……敵に、それも潜入したスパイに謝るのか」

 

 そう、暴獣海賊団への潜入という不埒をした敵に対して謝ろうとするオレの姿勢がペインには風変わりに感じていた。

 その疑問に一理あると考えたオレはその理由を率直に口にした。

 

「あ〜……お前がオレ達の中に潜入しやがったのには確かにイラついているが――」

 

「――ただな!お前の事が嫌いになれねぇからかもな!」

 

「!?」

 

 オレが自身に対してそれ程に嫌悪感を感じていないという事実にペインも驚愕せざるを得ない。

 そんな彼にオレは言葉を続ける。

 

「……お前は本心を上手く隠しているようだが――それでも真面目な姿勢までさすがに変えられなかったようだな?そう――お前は良くも悪くも任務に専念してきたな?」

 

「そういう姿勢がオレにはむしろ気に入ってしまったからだろうな」

 

「…!!」

 

 オレが自身を気に入るその理由にペインも何とも言えない感情を抱き、そのまま口を閉じてしまう。

 だが、それに構わずにオレは率直に言ってみる。

 

「……それで、お前は一体何を迷っているんだ?」

 

 ペインとの戦いの際にに思い浮かんできたその疑問をオレは容赦なく口にしてみる。

 ――普通に考えれば、スパイが敵からの質問に答える道理がどこにもない筈なんだが……

 

「……オレは――」

 

 だが、ペインは口を開く――その調子は弱々しかった。

 

「……このオレは「CP9」の人間だ。すなわち「世界政府」に従わなければならない――なんだ……」

 

 

――ペイン

 

彼はかつて――ある島の孤児だった。

その島は荒れに荒れていて、そんな中を彼は苦しみながら生きてきた。そんな彼が「世界政府」に拾われて「CP9」の一員として生きる事になった。

生きる糧を与えられた恩を感じた彼は「世界政府」に忠実で任務に専念し結果を出し続けてきた。

 

……だが、任務であちこちに出張った彼は目にする事になってしまう――あちこちで起こっている数々の悲劇を……

――そして、彼が「世界政府」に所属しているからこそ認識する事ができてしまった――その組織の仕組みの歪みを……

――何より……天竜人というおぞましい存在をも知ってしまった。

その数々の事実を認識してしまった彼はやがて、ある考えを抱く事になってしまう――

 

――それは……彼の故郷はもちろん、世界をこういう有り様に構成しているのが――他でもならぬ「世界政府」であるという事であった……

 

――そして、元凶だといっても過言ではない「世界政府」に最初から彼がいいようにされているのではないかという事である……

 

その考えを自覚した彼はものすごく愕然してしまっていた――

それでも彼は――「世界政府」の任務に専念し続けていた……

――「CP9」の一員として長らく修練された影響で彼の姿勢がそうそう簡単に変えられないのもあるが……ある考えを持っているからであった。

 

――ああいう「世界政府」でも世界秩序が一応維持されているという事実であった。

 

たとえ歪んでいても、世界秩序が維持されていれば――犠牲が存在しても……救われている、暮らせている者もまた存在しているといえる。

その事実から歪んでいる秩序だろうが崩壊されば――不要な犠牲が大量に出てしまうだろう。

だからこそ――彼は「世界政府」による秩序の維持に貢献せざるを得なかった……

それでも、彼の胸内では――不服の叫びを上げていた……

「世界政府」の為に心から動く気にもはやなれない彼は自身の実力を隠すようになっていった……

 

そんな彼はある時、暴獣海賊団への潜入を命じられた瞬間から彼の運命が変わっていった――

 

フレバンス王国の件で「世界政府」に嫌がらせをし、〝聖地〟を襲撃して天竜人から奴隷を解放してみせた暴獣海賊団。

 

その暴れぶりが秩序を歪める危険性がある為に彼らの事を忌々しく思う筈が――彼の胸内は……痛快な気分だった。

とにかく、彼が〝ヤヒコ〟として潜入した暴獣海賊団の中から彼らを観察する時であった。彼らのメチャクチャながらの有り様を彼は気付かないうちに――羨望していた……

……そして――何の因果か、暴獣海賊団はよりにもよって――コナン達の任務先に寄ってしまったのだ。

面倒だと考えていたら、そこから発生した騒ぎに巻き込まれて事態が目まぐるしく動いているうちに――スサノオと小紫の決闘を目撃するハメになっていた。

「四皇」〝百獣のカイドウ〟の報復がある危険から少なくとも〝暴獣のスサノオ〟に手を出さないという決まりになっていたが……スサノオの小紫に対しての対応を見ていた彼は――スサノオの事を試みたくなり、挑んでいった……

 

 

「そしてオレの見込み通り、お前は――本物だ……!――〝暴獣のスサノオ〟……!」

 

 そう語り続けていたペインはその締めとして――オレの事を認めるという提唱を出した。

 その提唱にオレもしばらく黙る。やがて口を開く。

 

「……それで?お前は――どうしたい?」

 

 そう問いかけてみる――目前のペインが何を迷っているのかをオレはやっと理解できたが……一応な。

 その問いかけにペインは――俯く。

 

「……分からん」

 

「……お前を――あなたを始末したくない……!」

 

「……だが、オレは一応「CP9」の人間だ。その使命を果たしなければならない……!」

 

「……だから――どうすれば……!」

 

 ペインがそう血を吐く思いで言い放ったのにオレも少し当惑せざるを得なかった。

 ペインはオレへの想いと「CP9」としての使命感の間に揺れ動いていたのだ。

 

「…(どう声を掛ければいいんだ?)」

 

 そんなペインに対しての言葉を思案するオレ――をよそに彼に声が掛けられた。

 

「ペイン」

 

 俯いているペインに対して声を掛ける者――小紫だ。

 彼女から声を掛けられるのに首を傾げるペインに小紫は真剣な表情を浮かべながら口を開く。

 

「……あなたが「世界政府」に義理付ける事はない……なぜなら――」

 

「それはあなたが「世界政府」に縛られているのを意味するから……」

 

「!!!」

 

 静かながらそう言い張る小紫にペインは目を見開く。そんな彼に小紫は言葉を続ける。

 

「……あなたは「世界政府」による歪んでいる秩序でも維持されば、犠牲の数が少なくなれると考えているんでしょうが……」

 

 そう言う小紫の頭には――フレバンス王国を含むあちこちでの悲劇、天竜人から解放された元奴隷の人々の姿、そして――歪んでいる世界秩序……

 

「……「世界政府」によって構成されたこんな世界のあり方じゃ――恨みが生まれ続けるわ……!」

 

「――そうして……溜まっていく恨みの暴発は――恐ろしいわよ……!」

 

 続いてワノ国の腐敗、それが引き起こした惨劇を思い返した小紫の目は――冷たかった……

 その目つき、説得力にペインも息を呑んでしまう。だが、小紫は容赦なく続く。

 

「……あなたがどれだけ動き回ろうが――〝焼け石に水〟!」

 

「「世界政府」は自分で作ったゴミの山の中に沈んでいくのがオチよ……!」

 

 そう宣する小紫に今度はハンコックが共感する。

 

「……確かにそうじゃな――そなたがいくら動くだろうが――あの「世界政府」が気にするとは思えぬな」

 

 ハンコックの言葉に頷く小紫はペインに言う。

 

「……あなたは義理なんかより――自分の心に従って……!」

 

「――今のあなたと似たような様態に陥った私だからこその――忠告よ……!」

 

 そう言い放った小紫も確かに――光月家への義理と自身の心の間で揺れ動いてきた……そんな彼女からのその言葉はペインの心に響いていった。

 ハッとするペインは小紫を凝視し、そしてオレに視線を向け――瞼を閉じながら思案に耽る。

 

「…」

 

 しばらく思案に耽るペインをオレ達も様子見する。

 やがて――心が決まったのか、目を開けたペインはオレに顔を向けて――

 

「――オレが暴獣海賊団に入るのを認めてもらえるか……?」 

 

 その問いかけに対してオレは――笑みを浮かべた。

 

「おう!歓迎するぜ!」

 

 ペインが暴獣海賊団への加入を希望してくるという事実をオレは喜ばしく受け入れた。

 その答えにペインは安堵するかのように微笑みを浮かべ――

 

「……改めてよろしく頼みます……!」

 

 

――こうして「CP9」の〝ペイン〟は暴獣海賊団への加入を本当の意味で果たす事になった……

 

          ●

 

〝エッジオブパシフィック〟本社社長室――

 

 〝エッジオブパシフィック〟の頭脳を司るその部屋は――半壊されていた。

 そこは戦いの余波を受けてそういう状態になったのだ。そして戦いを行ったのが――

 

「ハァ…ハァ……強いな、君は」

 

 まず1人は――〝エッジオブパシフィック〟の社長である。

 ――ただ、その姿はボロボロだった。そんな彼をそうさせているのが――

 

「……私が強いのはもちろんですが――」

 

 ――コナンであった。

 彼女は「CP9」に所属するだけはあって、実力を持っているのはもちろんだが――

 

「……あなたがそれ程に強いのは予想外でしたよ」

 

 そんな彼女にさえも社長はそうそう容易に始末されていなかった。その事にコナンは軽く驚いていた。

 そんな彼女に社長は不敵な笑みを浮かべる。

 

「……ふふっ、君を驚かせて何よりだよ」

 

「……この僕――ゼロは格闘術を心掛けていてね……そうそう始末できるとは思わない事だ……!」

 

 そう社長――ゼロがそう言い放つのにコナンは納得するかのように頷く。

 

「……そうね、あなたへの認識を改めなければならないようね……!」

 

「来い」

 

 そう宣しながら身構えるコナンに対してゼロも身構える。

 そのまま戦いが続けられる――かと思われたら

 

 その場に音が響かれた。

 

「「!」」

 

 ――コナンの服からその音が響かれていた。その音が何なのか見当を付いた彼女はそこから――電伝虫を出し、そのスイッチを押す。

 

「こっちは仕事中よ」

 

 かかってきたのが誰なのかコナンも分からないが、先にそう言っておく事で余計な会話を省こうとするが……

 

『コナン』

 

『その仕事は中止してくれるか?』

 

「!?」

 

 その声から電伝虫の先の相手が誰か分かったコナンだが、その内容に驚愕せずにはいられない。

 

「な、何を言ってる――『コナン』―!?」

 

 だからこそ声を上げずにはいられないコナンの声を電伝虫が遮る。

 

『……お前は』

 

『いつもオレと共に事をしてくれていたよな』

 

『……なら、オレを信じて今は矛を収めてくれるか?』

 

 その言葉にコナンも口を一文字にし――

 

「……えぇ、そうしましょう」

 

 その頼みに従ったコナンは大人しくする。

 

『あぁ、感謝する――説明する』

 

「…(大した事じゃなかったら容赦しないわよ……ペイン)」

 

 そう考えるコナンはペインからの説明に耳を傾げる――

 ――そして、驚愕する事になる……

 

          ●

 

〝オーシャンヴァリー〟で最も高い建物の楼上

 

「――やったんだね!皆!」

 

「……ふぅ~なんとかな――しかし、色々ありすぎだろ」

 

 そこにいるヤマトとヴォイジは――気が抜けているように見受けられていた……実は2人は今の状況関連の情報仔細を受け取ってきたばかりである。

 ――そう、スサノオと小紫の悶着はもちろん〝エレインホール〟でのあちこちにいる仲間達の情勢、何より――ハッテンが〝黒の組織〟の残りのメンバー達を撃破できたという情報を受け取った2人は如何なる反応を次々にみせ続け――最終的には安堵した。

 

「……さて、後は――ヤマトちゃん!」

 

「うん!」

 

 そして、今の状況を把握したヴォイジはこれからやる事を理解し、それをヤマトに言う。

 その意図を理解しているヤマトも頷き――

 

「――皆の者よ」

 

 ――その足元に集まっている人々に向かって口を開く。

 その口から出された声は重々しかった――ヤマトが変身している〝大口真神〟の外見に違和感のない程の調子であった。

 喋り始めた白い狼に足元の人々が一気に視線を向ける。

 そんな人々にヤマトはそれを告げる――

 

「――この地を蝕んでいる悪意は全て消え去った」

 

「だから――安心するが良い」

 

「「「…」」」

 

 その告げに人々は呆気に取られる――が、それも一瞬。その内容を理解した人々はすぐ歓声を上げた。

 ――そう、非常事態は終わったのだ。

 

 

――こうして〝エレインホール〟を巻き込んだ禍は今ここに幕を閉じた……

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