――手配書発行による騒ぎからしばらく
落ち着けた船員達はカイリュー号の船上で仕事をする、意のままに行動していた。
そんな中――
「「〜♪」」
ある2人の女性――小紫とブラックマリアが三味線を弾いていた。
その前で鑑賞している者達はその楽音にうっとりと聴き惚れていた。
「はぁぁ〜///なんて…なんて素敵な響き……!///」
「そうね〜…楽音もそうだけど……小紫の美貌もなかなか……!///」
その楽音、そして小紫の美貌に対して者達は感嘆のため息を漏らさずにはいられなかった。
その称賛に小紫達は一瞬目を合わせ――微笑む。
その華やかな雰囲気の一方でざわざわするところも存在していた。
「――暴れてやるぜ!ヒャッハー!」
「――あ、あぁ〜…ぼ、僕はダメだぁ〜……」
そこである男――ペインがなにやら……調子に乗るチンピラの如きと自己肯定感がドン底な振る舞いを人前にみせていた。
「――ご覧いただき、ありがとうございました!……これでいいか?」
しまいには礼儀正しく人好きのする青年のようにも振る舞ってみせたペインはすぐ普段の無表情を浮かべた。
そんな彼に対して、者達は――
「……スゲェ!違和感が全くねぇぇ!」
「あぁ……!そりゃ、スパイをやれる訳だ」
彼の自然的な振る舞いを者達は素直に称賛した。
――実はペインが「世界政府」からのスパイであった事実は暴獣海賊団の者達にはもう知る事になっているが……
〝ヤヒコ〟としての振る舞いを知っているからこそ、ペインの演技力に者達も興味を惹かれるようになった。
そうして――ペインの演技力を見定める事になったのだ。そして、その腕に対して暴獣海賊団は率直に称賛を送った。
下心のない称賛にペインは呟く。
「……まさか、潜入能力がこういうふうになるとは――」
●
そんな状況をうかがっている者がいた――オレだ。
「……小紫とペインが皆と上手くやって何よりだ」
小紫とペインが皆と上手く付き合っている状況にオレも満足気にできた。
「……あの時は大事になっちまったなと思ってたな」
今でこそ、このように小紫とペインが交流できているが……あの時――2人の身元が露見した時はそりゃ騒がしかった……
オレはそのひと悶着の事を思い返していた……
●
「「「小紫が光月おでんの娘ぇぇぇえ!!!?」」」
「「「ヤヒコとタングがスパイィィィイ!!!?」」」
――それは〝エレインホール〟での動乱が収束され、オレ達――暴獣海賊団もいったんカイリュー号に集結した時だった。
小紫とペインが意を決して明かした身元に皆ももちろん驚愕せざるを得なかった。
「そうなの!!?小紫が光月おでんの娘なんだって!!?」
「え、えぇ……」
そんな中で光月おでんに熱中していたヤマトは素早く小紫に寄りかかっていた。その姿勢に小紫も気後れせざるを得なかった。
「じゃあ!じゃ「そんなのどうでもいい!!!」――!!?」
はしゃいでいるヤマトが言葉を続けるのを突如その大声に遮られる。
――ジャックが目を血走らせ、青筋を立てて殺気に溢れていた……否、彼だけではない。
――暴獣海賊団の海賊達のほとんどが小紫とペインを睨みつけていた。
それもその筈。仲間だと思っていた2人が実は胸内では逆心を抱いていたのだから……その事実に激しい怒りを感じずにはいられないだろう。
そのもっともな怒りをたくさん浴びている小紫とペインは――怯まずに真剣に受け止めてて……
「「「!?」」」
――2人は正座していた。
突如のその姿勢に少し驚きながらも警戒を怠らないジャック達に対して2人は口を開く。
「……皆さんの怒りももっとも……!そもそも、この私は黒炭オロチと百獣海賊団を倒す力を身に付ける為にスサノオさんの元に身を寄せていたのですから……!」
「……このオレも「世界政府」から潜入を命じられ、実行したのは確かだからな……!」
懺悔するかのように自身の行為を改めて口にする2人。その内容にジャック達もピクピクする。
――だが、それもまだ甘い。
「「……何より――」」
「「――よりにもよって……スサノオさんを攻撃してしまった……!!」」
「「「……あ゛ぁ゛?」」」
「「「ええ〜〜!!!?」」」
2人からハッキリ言い放たれたその事にジャック達から恐ろしげな唸り声を出され、驚愕されてもいた。
「――殺す!!!」
慕っているスサノオを攻撃したという事実からもはや、その2人を完全に許さなくなったジャックはショーテルを2人に強烈な勢いで振り下ろそうとし――
「……何のマネだぁ!!?」
――止められた。
――2人に振り下ろす筈のショーテルは横からの剣に止められていたのだ。
それを受けてジャックはその剣の主に対して声を上げる。
「――フドウゥゥゥ!!!」
――「降魔」で止めてきたフドウにジャックは怒りを爆発させた。
ジャックには気に食わないが、フドウが自身と同じくスサノオに忠誠を誓っている事を認めていた。
そんな彼が自身を止めたという事実にジャックは怒りながら動揺していた。
そんなジャック、そして他の者達に対してフドウは重々しく告げる。
「……お前達、スサノオさんの意思を聞かずに処遇を勝手に決めるな……!」
「「「!!?」」」
「…!」
その警告に皆も言葉が出なくなり、ジャックも目を大きく見開く。
「……だが!コ「そもそも」イツ――……!」
それでも何かを言おうとするジャックにフドウは言葉を続ける。
「――こ奴らがそうであるのはスサノオさんも見通しだ……それでも受け入れたんだ」
「「「!!!?」」」
フドウから明かされたその事実に皆も驚愕せざるを得なくなり――一気にオレを凝視してくる。
ずっと沈黙を守っていたオレも肯定するかのように頷く。
「あぁ――この2人、あとタングドーサムの身元にオレも勘付いてな……」
「それでも様子見としてそばに置いていたんだ」
「もちろん――小紫はとにかく、ペインとタングの事についてはフドウとキサメに警告しておいた」
その説明に皆が今度は一気にフドウとキサメに視線を向ける。その視線に2人も肯定する。
「その警告を受けたオレはペインとタングを監視していた」
「まぁ、私も同じくそうですね」
その説明から小紫達をオレが受け入れてなお、監視していたという事実にジャック達も口を閉じざるを得なかった。
「……だが!だとしても――コイツらが暴獣海賊団の――スサノオさんの敵に違いはねぇ!!!」
それでもそう言い張るジャックに共感の声が出る中――小紫は口を開く。
「皆さん」
「「「!」」」
「確かに私が大それた事をしてしまったのも否定できません」
「あなた方の制裁を避けずに受けましょう」
「……ただ――」
そこまで言いつける小紫の真剣な目がジャック達を見渡す。
「――我々の命はスサノオさんに預かっております」
「すなわち――彼が死を望まない限り、何かがあっても死ぬ訳にはいきません……!」
「……裏を返せば、彼が死ねとおっしゃった際にはこの手でこの命を絶ちましょう……!」
「……オレも同じ覚悟だ……!」
ハッキリとそう言い放つ小紫、そんな彼女に同感するペインの覚悟にジャック達も圧倒される。
「……本当にお前らは――スサノオさんに命を預かったのか?」
「えぇ、私の全てはスサノオさんに差し出しました」
「あぁ、「世界政府」よりスサノオの駒になった方が良いからな」
確認に対してのその返しを聞いてもなお、ジャックが考え得る懸念を示してみる。
「……そう言ってる今もスサノオさん達を倒し――ワノ国を取り戻すのを企んでいるんじゃねぇか?」
そう言ってみた途端に突如その場の空気が重くなった――
「「「!!!?」」」
「これは……!!!」
その空気に者達が慄き、気絶する者も出ている中、ジャックはその源に見当を付いた――「覇王色の覇気」だ。そして、それを放ったのが――
「…」
――小紫だった。
彼女が覇王色を放ってきたのだ。慄いているジャック達に彼女の口が開く。
「それはありません」
そう重々しく告げる小紫の表情は人形の如き――無だった……その目もまた冷たかった……
「……民の為に戦った筈の光月おでんと「光月家」――おハネとおカタちゃんもを切り捨てたワノ国なんかの為に戦う事等――金輪際あり得ません……!」
「「「……!!!」」」
小紫が心を込めるその断言、覇気にジャック達も息を呑む……
なお、その言葉にブラックマリアとヤマトも苦悶の表情を浮かべていた。彼女達が察した小紫の意図に明日郎ももちろん勘付く――
――彼が口を開く。
「……そりゃな〜ワノ国はクソだからな〜」
ワノ国の闇を思い返した彼も頷いて肯定する。
小紫と明日郎等といったワノ国の人間のそんな反応を目視したジャックは彼女がワノ国の為に戦わない事は一応本当だろうと思い直した。
「……だが、なぜスサノオさんに全てを差し出せたんだ?」
「お前にとってスサノオさんは――親父、光月おでんを死に追い詰めたカイドウさんの息子だぞ?」
だが、まだ懸念を抱いているジャックがそれに関しても口にしてみる。
その問いかけに対して小紫は――
「……私は――」
そう口を開きかける小紫の顔は――赤くなっていた。
「――スサノオさんを思い慕っていますから……!///」
「「「……へ?」」」
頬を赤くしながらそう言う小紫にジャック達が呆気に取られる。
そんな彼達を見かねたオレも補足しておこうと口を開く。
「その……なんだ……」
「……小紫がオレに惚れてくれていてな――それこそ「光月家」より優先してくれる程にな」
「「「…!!!?」」」
小紫がオレに対してその想いを抱いているという事実に皆も衝撃を受けた。
そんな彼らにオレは更なる事実を明かす事にした。
「――このオレも小紫に惚れていてな……その手を離したくねぇんだ」
「「「へ!!?」」」
それはまた――小紫からの思慕に満更ではないと考えているオレの姿に皆も凄まじい衝撃を受けざるを得なかった。
その一方で2人の想いになんとなく勘付いていたフドウも「あ、やっぱり?」と考え、ヤマトも「来たぁぁぁ!!!」と表情を眩く輝かせていた。
「待てぃ!!」
「「「!?」」」
そして、その事態に待ったがかけられた。
その声に皆が一気に視線を向けると――ハンコックが堂々と登場してきた。
「まだ、まだ――そう決まった訳ではない!」
「スサノオさんの隣に立つのは――このわらわじゃ!」
「……あ゛?」
その宣言に思慕の表情を浮かべていた小紫も気を引き締め――ハンコックの前に素早く立ってみせた。
「……スサノオさんの隣を任せて頂けられるのはこの私ですから……どうぞ、ご無理なさらずに結構ですよ?」
「フン!駄々っ子が何をほざくのじゃかな〜?」
「「あ゛ぁ゛?」」
嫌口を言い合い、しまいには互いに相手を睨みつけ合う小紫とハンコックの姿に皆も呆気に取られ、その凄まじい覇気の張り合いに冷や汗を流してしまった。
「リュドドド……」
その張り合いに苦笑せざるを得なかったオレはいったん気を取り直して皆に向かって呼びかける。
「皆!」
「「「!」」」
その呼びかけに呆気に取られていた皆も意識をオレに戻す。それが確認できた途端に改めて宣する。
「――見ての通り、小紫とペイン、そしてコナンはオレに恭順の意を示してくれている!」
「――その強さはもちろんだが、「光月家」と「世界政府」の立場によってもたらされる利益はデカいぞ……!」
「「「…!!」」」
小紫とペイン達が改めて本当の意味で仲間になる事で発生する利益の存在を口にすると皆の目色も変わる。
「そりゃ、小紫達は牙を剥いてきちまったが……」
「――その件はオレの面に免じて一度ぐらいは流してくれるか?」
「……他でもならねぇスサノオさんがそう言うなら」
このオレの頼みにジャック達も利益の件も重ねられてやっと矛を収めてくれた。
「……小紫、ペイン」
「!はい、何でしょうか」
「…」
そしてジャックは小紫とペインにある確認を試みたくて声を掛ける。
「お前らは……本当にスサノオさんの為に戦うんだな?」
「えぇ」
「あぁ」
その判然な返答にジャックも意を固めた。
「……なら、一度だけは水に流してやる」
「……ただな」
「また裏切りやがったら……一欠片さえも――残さねぇぞ……!」
ジャックからの迫力がすごく込められる脅しに対して小紫とペインは――
「はい」
「あぁ」
真剣に頷いてみせた。
――こうして小紫とペインは改めて暴獣海賊団に加入した……
●
それからカイリュー号の船上の雰囲気も落ち着いていった……ただ
「――石像にしてくれようぞ!この獣が!」
「――そちらこそ斬り捨ててくれるわ!この蛇が!」
――小紫とハンコックが相変わらず張り合いを続けていた。
そんな張り合いをある2人が凝視する。
「……さすが、スサノオさんだな。あの人を求めて女共があのように張り合っている……」
「……だな」
――フドウとジャックだ。
小紫とハンコックの張り合いから慕っているスサノオの魅力を改めて認識できた2人だが……
「……といえ、女の戦いとやら――は面倒くさそうだな」
「全くだな……これは収まりがつけにくくなりそうだな……」
「女の戦い」に対してフドウとジャックがそう言うが……
「……いや、お前らもああいうだっだぞ?もちろん、キングさんとクイーンさんもそうだったがな」
あのような張り合い方に見覚えがあるオレがそう指摘しておいた。
「「…」」
「……そんなバカなって顔をしてもダメだからな?」
2人揃って心外だという顔を向けてきたフドウとジャックに対してオレは冷静にそう言う。
●
「……フドウとジャックの奴らにも困ったもんだぜ」
あの時を思い返したオレはフドウとジャックの反応に苦笑を浮かべた。
そして、船上の様子を見渡すオレはその和気藹々さに微笑みを浮かべる。ふと
「…!」
「!」
三味線を弾いている小紫と目を合わせた。そして――
「……ニコ」
「……フッ」
互いに微笑んだ……
●
時は過ぎ――夜
カイリュー号の船上に立っているオレはその場から月光に照らされる海面を眺めていた。
そんなオレに――小紫が近付いてきた。
「――どうしましたか?……あの時、微笑んでくれたようですが……」
「……いやぁ、お前らが楽しくやって何よりだと思ってな」
小紫からそう声を掛けられ、その疑問にオレはそう返した。
「そうでしたか」
その答えに小紫も納得し――
「――えぇ、楽しくやっています」
「そうかそうか!」
穏やかに微笑みながらの答えにオレも嬉しそうにし――
「……やっぱ、お前は笑うのがいい――すごく可愛ぇぞ!」
そして表情を引き締めるオレが心を込めてそう断言し、笑みを浮かべる。
「……スサノオさんったら///」
その言葉に小紫も顔を赤くしてしまう。そして、彼女はオレの隣に立つ。
「……スサノオさん」
「ん」
「……私はあなたの為になら――全身全霊を傾けましょう……!」
そう獰猛な笑みを浮かべる小紫がそう宣言する――
その宣言にオレも笑みを浮かべ
「……あぁ、頼りにするぜ……!」
――そうして語り合った2人はカイリュー号の船上から月光に照らされる海面を眺めていった……いつまでも……