ONE PIECE 荒ぶる暴獣の猛威   作:ウェイブロック

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第107話〝天狗山飛徹〟

――〝月は夜明けを知らぬ君。叶わばその一念は〟

 

――〝二十年を編む月夜に九つの影を落とし〟

 

――〝まばゆき夜明けを知る君と成る〟

 

 

 光月トキの残した詩が「光月家」支持者の心に希望を灯していた。

 ――いつか「光月家」の侍達がワノ国を救ってくれる。

 彼らがそんな真しやかな伝説を心の支えにしていた。

 ……しかし、ある出来事がその希望を打ち砕いてしまった。

 それこそがある晒し首だった。

 いつもはカイドウと黒炭オロチへの敵対者の首を晒してきたが、今回は特別だった。

 

「……今回は誰がやられたんだ……」

 

「……アシュラ童子……え!?それってあの「赤鞘九人男」の……!?」

 

「な!?「赤鞘九人男」がとうとう……!」

 

「……ちょっと待て!「赤鞘九人男」が1人でも討ち取られたという事は……トキ様の詩はどうなるんだ!?」

 

 晒し首を見物した人々がその身元にどよめいてしまう。

 〝九つの影〟――ワノ国を救う筈の「赤鞘九人男」の1人が討ち取られてしまった――

 その事実が意味するもの。

 それは――トキの予言が実現しない、もはやただの戯言に成り下がってしまったといえよう。

 それを悟った者は絶望し――手と膝をついてしまう。

 そんな者は少なくはなかった。

 百獣海賊団と「黒炭家」へのワノ国の反逆の火は一気に弱りきってしまった……

 

          ●

 

 アシュラ童子の死の報せはワノ国全般に行き届いていた。

 それこそある村に住んでいる者にも届いていた。

 

「っつ!……ぬぅ……」

 

 その者は――天狗だった。

 否、よく見れば天狗の面を被っている――人間だった。

 彼は〝天狗山飛徹〟という。

 

刀鍛治

天狗山飛徹

(美少女こけしコレクター)

 

「……アシュラ童子が……「赤鞘九人男」の1人が討ち取られたとは……!!!」

 

 そして光月トキの詩を信じて「光月家」の帰還を待ち望んでいる者でもある。

 だからこそ――「赤鞘九人男」の1人が討ち取られたという事実に顔を青ざめる。

 何せその事実からワノ国の民が心の支えにしていた予言がただの戯言に成り下がるのを勘付くからだ。

 彼はたとえ「赤鞘九人男」の1人が討ち取られても――「光月家」の帰還、そして彼らがワノ国を救ってくれるのを信じてはいる。

 だが、他の民はそうはいかないだろう。

 〝九つの影〟――「赤鞘九人男」の1人が討ち取られて、それでも「光月家」の帰還をどうして信じる事ができよう?

 

「このままでは……いずれくる未来の戦に侍達が参加してくれなくなってしまう……!!!」

 

「それどころか未来に希望を持てなくなり、命をやけくそに投げてしまうかもしれぬ……!!!」

 

 ワノ国の絶望に拍車がかかる事態に天狗山飛徹は歯を食いしばる。

 かなり悪い事態だ――それでも諦める訳には……!!!

 

「何か……何か手は……」

 

 彼が事態を少しでもひっくり返す手を考える。その時――

 外から鐘の音が響いてきた。

 

「!?何じゃ!?」

 

 その音に天狗山飛徹が外に出てみると――

 

「集まれ――!!この編笠村の処遇に関しての報せがある!!」

 

「九里改革に伴って――この編笠村は消えてもらう事になった!!」

 

「なーに、安心しろ!新たな住みどころを用意してある!悪くはねぇ所だぜ!!」

 

「スサノオ様の名の下にお前らに悪いようはしねぇから安心しろ!!」

 

「詳しく説明してやるから、集まれよ〜!!」

 

 百獣海賊団の海賊達が天狗山飛徹の住む村――編笠村を歩き回っていた。村の処遇を大声で言い放ちながら――

 どうやら九里改革によって編笠村の消滅が決まったそうだ。

 

「っつ!!この村が消えるんだって!?」

 

「――でも、新たな住みどころを用意してあるんだって」

 

「――それにスサノオだって。その名といえば……」

 

「あぁ!カイドウの息子といえ、話が通じる方だ!彼は暴行を禁止する令を出す等オレ達を悪く取り扱わない方だそうだ!」

 

「――そのスサノオが関わっているんなら……聞きに行こうぜ」

 

「「「おう!」」」

 

 編笠村の者達は海賊達から村の処遇を聞かれて動揺するも一瞬、スサノオが関わっているのを知ると彼の評判から悪い事にならない筈だと思い直す。

 それで話を詳しく知りたいと大人しく海賊達についていく。

 

「これは……まずい!」

 

 その様子を見た天狗山飛徹はこのままでは自身が囚われてしまうと焦った。何せ彼は――

 しかもそれだけではなく、あるものまで奪われてしまうだろう。

 そう思い至る天狗山飛徹はすぐ家に帰り、あるものを手にする。

 それから彼は家の玄関に駆けると――

 

「どこに行こうとしてんだ?天狗様よぉ」

 

「報せに来ただけで何もしないのによぉ〜」

 

「スサノオ様から暴行を禁止されているけど、怪しい態度をとられると――少し強硬な手段を取らざるを得ないぜ?」

 

 海賊達が立ち塞がっていた。逃げ道を絶たれてしまった天狗山飛徹は冷や汗をかきながら下がる。

 

「く……!」

 

「おいおい!どこに行こうってんだ!?」

 

 1人の海賊が天狗山飛徹の肩を掴むと彼がその手から逃れそうとして思わずあるものを落としてしまった。それが海賊達の目にかかる。

 

「お?これは……刀じゃん!」

 

「しかも……いかにも業物って感じじゃね?」

 

「いいね!オレ達がもらっておこうか」

 

 刀――それも3本の刀だった。

 立派な映えしているそれらを気に入った海賊達は手にする。

 しかし天狗山飛徹は海賊達から刀を取り返そうと抵抗した。

 

「返せ!!それは持つべき者に渡すべきだ!!」

 

「あぁ?うるせぇよ!」

 

 天狗山飛徹は自身の刀で抵抗しようにも海賊達に返り討ちされてしまう。

 

「オレ達がありがたく使ってやるから感謝しろよ!!」

 

「「「ギャハハハハ!!」」」

 

「くっ……!!」

 

 その嘲笑に倒れ伏せる天狗山飛徹は悔しげに歯を食いしばる。

 

          ●

 

鬼ヶ島

 

「刀を振っただけで干からびただと?」

 

「は、はい!そうなんです!!」

 

 キングさんが部下の案内に従いながら、その報告を復唱してみた。

 どうにもある海賊が奪ってきた刀を振ってみた――ただそれだけなのに突如凄まじい斬撃が飛び――身体が干からびて息絶えてしまったという。

 あまりの異常事態にキングさんも目を細める。

 そしてたまたま近くにいた為に同行した私が口を開く。

 

「待って……刀を振っただけで干からびた?」

 

「……小紫、心当たりあるのか?」

 

「……えぇ、すごくね……ねぇ」

 

「は、はい!?」

 

「他に斬れにくい刀もある?」

 

「え、えぇそうなんです!別の奴があの刀とは違う刀で試しに果物を斬ろうにも――なぜか斬れないんです!!」

 

「!!やはり……」

 

「……すごく心当たりがありそうだな?」

 

「えぇ……ただ確認しなければ……」

 

          ●

 

「……クイーンの疫災弾を受けた訳じゃねぇんだな?」

 

「は、はい!!」

 

 キングさんが訓練室の床にあるものを凝視しながら確認する。

 そのものとは――ミイラだった。そう、干からびた死体だ。

 それを見たキングさんは続いて壁に視線を移す。そこには――

 深い斬撃の跡があった。それを見て彼は呟く。

 

「……随分凄まじい斬撃だっただろうな……」

 

 キングさんは続いて私に声を掛ける。

 

「で、その刀は何なんだ?……小紫?」

 

 しかしその声が聞こえない程に私は興奮していた。ある二本の刀を見ながら――

 

「……間違いない……これは……「天羽々斬」と「閻魔」!!!」

 

 

「天羽々斬」――

 

光月おでんの愛刀にして大業物21工の一振り。

その斬れ味は〝天をも斬り落とす〟とまで謳われる。

ただし――「持ち主を認めない限り、斬れ味を決して発揮しない」という特性を持つ為に極めて制御が難しい。

 

 

「閻魔」――

 

同じく光月おでんの愛刀にして霜月コウ三郎に作られた大業物21工の一振り。

その斬れ味は〝地獄の底まで斬り伏せる〟とまで謳われる。

ただし――「持ち主の覇気を強制的かつ過剰に引き出せて斬撃に乗せる」という特性を持つ為に極めて制御が難しい。それこそ実力が伴わない者が振るえば、それだけで干からびてしまうという。

 

 

「――この二振りが今目の前にあるなんて……これらを持っていた者は!?」

 

「え!?あ、はい!天狗山飛徹というジジイです!」

 

「九里の編笠村だという村に住んでいた!」

 

 海賊達から天狗山飛徹についての説明を受けた私とキングさんは考察する。

 

「父――光月おでんの愛刀を、それも二振りを持つ老人――キングさん!」

 

「あぁ……もしかしたらオレ達の探し求めた男かもしれねぇ」

 

 私達の頭にある人物が浮かんでくる。

 もしも彼だったら――スサノオさんの野望に一歩進められる!

 ニャリとしてしまう私達は海賊達に声を掛ける。

 

「その天狗山飛徹を連れてきなさい」

 

「傷1つも付けずにだ……!」

 

「「「え、え!?……あ、はい!」」」

 

 その指示、特にキングさんの言葉に海賊達は目を見開く。

 無理もない。キングさんは百獣海賊団の意にそぐわぬ者を焼き尽くしてきた男。なのにそんな彼が価値も見出そうにない老人を傷付けるなと言い張ったのだ。

 だが価値も見出そうにない筈の老人にはすごく価値があるもの……!……あぁ、そうそう。

 

「あぁ……河松とイヌアラシとネコマムシも連れてきなさい」

 

「は、はい!」

 

 その老人こそがあの人物であるかとうかは河松達に確認してもらわなければね……

 

          ●

 

「今度は何じゃ!わしをどうするつもりじゃ!」

 

 抵抗している天狗山飛徹が私達の前に連れ込まれてきた。

 

「小紫様……これは?」

 

「「…?」」

 

 私の呼びかけに応えてきた河松がイヌアラシとネコマムシを代表して自身達を呼びかけた理由と目前の状況に関して問いかける。

 

「ふふっ、すぐに分かる事よ」

 

「「「?」」」

 

 不敵に笑う私の言葉に3人がますます疑問を深くする。

 そんな私達をよそにキングさんは天狗山飛徹を拘束している者に命じる。

 

「ソイツの面を外せ」

 

「なっ!?」

 

「はい」

 

 その命に天狗山飛徹が動揺するが構わずに面を外されようとする。

 

「待て――」

 

 天狗山飛徹が慌てて止めようにも面を外されてしまった。そして彼の素顔が露わになる――

 

「「「あっ!!!?」」」

 

 その顔を見た河松とイヌアラシとネコマムシの顔が驚愕に染まった。

 その反応にキングさんと私はほくそ笑んだ。

 

「ふふっ、あなた達が驚愕するという事は……間違いないようね」

 

「そうらしいな……全く煩わせやがって……」

 

「なぁ?――光月スキヤキ……!!!」

 

「くっ……!!」

 

 その言葉に天狗山飛徹は否定できずに呻いてしまう。

 そう――天狗山飛徹……彼の正体は私の実父、光月おでんの父親にしてワノ国先代将軍――光月スキヤキ!

 

元ワノ国将軍

光月スキヤキ

 

 かつてスキヤキは病に伏して、黒炭オロチを〝将軍代理〟に指名した上で病没した……と表向きはそういう事になっている。

 だが真相は黒炭ひぐらしがスキヤキに化けて「黒炭家」側に都合が良くなるように振る舞ってきたのだ。少なくとも指名した時はもう既にひぐらしがスキヤキに化けていた。

 おでん達はスキヤキがオロチ達に殺されたと思っていたが、実はスキヤキは生きていた。オロチが何を考えているのか分からないが、彼を殺さずに城の地下に幽閉したのだ。

 カイドウさん達は「光月家」と「黒炭家」の問題だと放置していたが、〝ロード歴史の本文〟解読の手段を持っていると知った時は態度を一変させた。

 おでんが〝ロード歴史の本文〟を解読できているのは光月家に古代文字の読み方並びに彫り方を伝授されているからだという事から亡き彼の代わりにその父であるスキヤキを利用しようと企んだ時には彼が命からがら牢獄から逃げ出してしまった。

 もちろんスキヤキを捜索してきたが、姿はおろか影さえも見つけられなかった。

 このままでは〝ロード歴史の本文〟解読が不可能になってしまう――スサノオさんを海賊王へ導けない――私はそう焦ってしまった。

 だが、今ここにスキヤキがいる!……あとは古代文字の読み方と彫り方を教えてもらわなければね……

 ふふっ、光月おでんの父親という事は私の祖父でしょ……なら、挨拶しなければね。

 

「初めまして――おじじ様……!!」

 

「!?なっ……」

 

 私の挨拶におじじ様は目を見開いてしまう。

 無理もない。息子の仇敵である百獣海賊団配下の海賊が突如親しげにそう挨拶してきたのだから――

 

「おじじ様……!?」

 

「えぇ、この私はあなたの息子、光月おでんの娘――日和でした。今は小紫を名乗っています」

 

「な……!?」

 

 私の身元におじじ様はますます驚愕する。

 

「お前が――おでんの娘……わしの孫じゃと……!?」

 

「えぇ」

 

「恐れながらスキヤキ様……」

 

 唖然とさせられるおじじ様に河松が声を掛ける。

 

「この方が光月おでんの娘であるというのは真でございます」

 

「なんじゃと!?」

 

「「「えぇ」」」

 

 衝撃を受けるおじじ様に河松――イヌアラシとネコマムシも頷く。

 

「――それなら、なぜ……」

 

 顔を青ざめるおじじ様が私を凝視しながら声を震わせる。

 

「……なぜ、百獣海賊団に身を置く……!?奴らはおでんを殺めたのだぞ!?」

 

「……あぁ、それなら――」

 

 その問いかけに私は口を開く。

 百獣海賊団配下に身を置く過程とワノ国の闇、そしてスサノオさんへの想いを――

 そう聞かれるおじじ様の顔が青ざめていく。私が語り終えた時は既に彼が俯いていた。

 

「……わしは……オロチにワノ国を乗っ取られて、我が子を死に至らしめられただけではなく……我が孫が自ら魔道を進められたんだな……!!!」

 

 その事実におじじ様も涙を流した。そんな彼に私は声を掛ける。

 

「800年も詰まったワノ国の腐敗が全てを引き起こしていたのですよ……まぁ、あなたが為政者としての力量がないのも確かにあるかもしれませんけどね……」

 

 その指摘におじじ様も言い返せない。しばらく俯いている彼が頭を上げて私に問いかける。

 

「それで……わしをどうするつもりじゃ……?」

 

 生気がなくなっているおじじ様がそう問いかけるのを待っていたかのように私は笑みを浮かべる。

 

「ふふっ……光月家に伝わられる古代文字の読み方と彫り方を伝授して頂きたい。光月家の血を受け継ぐ私にはその権利がある筈」

 

「なっ!?」

 

 私がそう要求するのにおじじ様が目を見開く。しかしそれも一瞬、すぐ真剣な表情になる。

 

「いくら我が孫といえ、百獣海賊団配下の海賊に教える訳「断ると――民を抹殺します」が……な、何じゃと!?」

 

 おじじ様が要求を跳ねつけようとするが……それは予想内。断る場合の事態を教えてやった。

 そう――選択肢さえも与えないという事をね。

 

「言っときますが……ワノ国を救おうとしていたおでん達を無責任に罵倒した者達ですよ?それを掃除しても――私はなんとも思わないですね」

 

 私が淡々とそう言うが、おじじ様が顔を青ざめてしまう。

 いくら我が子達を罵倒した者でも民――元将軍として守らなければならないと考えているようね……窮屈でござるな。

 

「ワノ国を乗っ取られたという大失敗をしでかしたあなたにもう選択肢は残されていませんよ」

 

「うぅ……」

 

「さぁ――どうしますか?伝授しますか?それとも――」

 

「民を見捨てますか?」

 

「うぅ〜!!!」

 

 私の問いかけにおじじ様は葛藤する――が、ガックリと項垂れ、そして土下座する。

 

「――わし、光月スキヤキは……日和、そなたに光月家に伝わられる古代文字の読み方並びに彫り方を伝授しよう――」

 

 おじじ様がそう表明したのに私は歓喜の感情が湧き上げざるを得なかった。 

 これで海賊王への道をまた一歩進んだ!

 だが、そう歓喜する私をよそに伏せているおじじ様の胸中には――

 

「(何とかしても……こ奴らに隠されている「アレ」の存在を悟られてはならぬ……!!!)」

 

 そう決意を固めていた……

 

 

――こうして百獣海賊団は〝ロード歴史の本文〟の解読手段を手にした。これで海賊王への道をまた一歩進んだといえる。

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