ワノ国のある地には巨大な岩が置かれてあるが、その前には小紫――私が立っていた……何やら異様な気配を漲らせている二本の刀を握りながら――
「……さすが光月おでんの愛刀だけはあって、異様な気配をしているな」
「――でも!小紫なら大丈夫だよ!」
「えぇ、小紫ならやり遂げますよ」
そして、私の後ろからそう声を上げてくれているのは――スサノオさんとヤマトとマリアだった。
「……「天羽々斬」と「閻魔」――その斬れ味をぜひ、拝まなきゃな」
「私は小紫さんの新しい振る舞いを見るのが楽しみだわ!」
「……あの二振りを果たして扱えるのか……?」
「「「…」」」
それだけではなく――暴獣海賊団の皆、そして河松とイヌアラシとネコマムシ――しまいにはおじじ様までもいる。
彼らは私が新たな愛刀にしようと考えている「天羽々斬」と「閻魔」の斬れ味の小手調べをしようとしているところを見物してきたのだ。
そして、その視線を背に私は早速取り掛かろうとする。
「ゆくぞ!!」
私がそう雄叫びを上げた途端に「天羽々斬」と「閻魔」の二振りの力を解放してみせた。
その二振りから異様な風が吹かれながら私は巨大な岩に駆け寄り――飛び跳ねた。
「はぁ!!」
私が二振りを高速で強烈な勢いで振り回し続ける事で岩が削されていった。
「はぁぁぁぁぁ!!」
岩が私により削られていくうちに何かを形作られていった。
その作業が順調に進められているところで私は突如二振りを振り回すのを一旦止め――滑らかに着地した。
「「「おぉ〜」」」
そして、そこには――実に荘厳な仁王像が建てられていた。その見事さに見物していた者達も感嘆せざるを得なかった。
「な、なんと……!あの二振りを容易く使い熟せるとは……!!」
「――まぁ、光月おでんの娘……他愛もない事でしょうな……」
「(……それに、あの時感じた小紫様の覇気は半端じゃーなかった――この結果は必然かもしれんな)」
「(……しかし、あれ程の覇気を放てる小紫様――一体、どのような経験を積んできたというのだ……)」
「天羽々斬」と「閻魔」の特性を知ってるおじじ様は私が何の影響もなくそれを使い熟せてみせたという事実に驚愕せざるを得なかった。
対して河松とイヌアラシとネコマムシの方は――妙に納得できていた。実は彼らが勧誘を受けた際に彼女の覇気を身を持って受けていたからこそ、今更驚きをほとんどみせないのだ。
「いいじゃないか!!」
「素晴らしい映えわね」
「…」
そして、ヤマト達は仁王像の映えを惜しげもなく讃えた。どこに出しても恥にならない映えだと――
――ただ、そんな中でスサノオさんだけは真面目な表情を浮かべていた。そして私も……
「……フン」
自身が形成した仁王像に私は不快そうに鼻を鳴らし、二振りをX字に構え――振り下ろした。
そうして放たれた斬撃を身に受けた仁王像は真っ四つになり、崩れ落ちていった。
「「「!!?」」」
「……だろうな」
突如の事にヤマト達が驚愕する。その一方でスサノオさんはその背景を理解できているようで軽く頷いた。
ただ訳が分からず混乱しているヤマト達がもちろん私の意図を問いかけてくる。その問いかけに私は――
「映えが良くないからよ……そして、なぜそうなってしまったかというと……」
「この二振りを上手く扱えなかったからね……」
不満気な私からのその説明にヤマト達は驚愕した。あの像はどう見ても映えが良いように見受けられたにも関わらず、私が粗悪品だとみていたからだ。
もしもそうだとしたら、私の剣士としての腕もなかなかだ。その腕が少しといえブレるとは……「天羽々斬」と「閻魔」は随分なじゃじゃ馬だと――
ヤマト達が驚愕している中、おじじ様が私に問いかけてくる。
「では……その二振りを愛刀とするのを止めると?」
「いいえ、この二振りを扱えられる時こそが――」
「剣士として更なる上へ昇れる……!」
私は天に掲げる「天羽々斬」と「閻魔」を不敵そうに見上げる――
……必ずあなた達を扱ってみせるわ……!!!
●
「天羽々斬」と「閻魔」に対しての小手調べを終えた私達は――その地でピクニックをしていた。
その地は荒れていたワノ国が自然を取り戻している甲斐はあって、自然環境が十分に整えられていた。そんな地を皆がそれぞれ思いのままに楽しんでいる中、私は――座しているスサノオさんに寄り添っていた。
スサノオさんに甘えている私に彼は微笑み話しかけてくれる。
「リュドドド……やはり、扱いにくいか?」
彼も気に掛けている「天羽々斬」と「閻魔」に関して私が感じている事を包み隠さずに言う。
「えぇ、随分なお転婆でした――だからこそ、やり甲斐はあるのですが」
「リュドドド!そりゃそうだろう!お前ならやれるさ!」
自信を持ってそう言ってみせる私にスサノオさんはそう言ってくれる。彼は〝エレインホール〟での私の力を身をもって知ってるからこそ――その二振りさえをも制御できる筈だと確信しているのだ。
そんな彼からの言い草に私も胸に喜びがこみ上げ――
「「天羽々斬」と「閻魔」をすぐものにするのはもちろんですが、古代文字も順調に学んでいます……これであなたを十分に手助けできるかと」
つい胸を張る私にスサノオさんも笑みを浮かべた。そして思い出す――彼が私の抱いている野望を初めて知った時を……
●
「オレが百獣海賊団を……!?」
それは〝エレインホール〟を出港してからしばらくの時だった。
オレは小紫が親父――カイドウに対してどう考えているのかを明確に知りたい為にそのあたりについても彼女と議論をしていたが……
小紫もオレ達の「新鬼ヶ島計画」と同じ企みを抱いているのにも驚いていたが――正念場はその後だ。
親父に対しての復讐……は想定内として、このオレを最強の海賊王にしようとするのはまだいいとして――親父から百獣海賊団を奪おうと企んでいるのはさすがに想定外だった。
「えぇ」
驚愕するオレに小紫は不敵に笑う。それは粛清されても無理もない程の企みを堂々と口にし、それでいて怯んでいない彼女の度胸は見事だとしか言いようがなかった。
その態度にオレは一旦冷静になる――が、やはり動揺が収まらない。そんなオレに小紫は寄りかかる。
「何を驚くんです?そもそも、カイドウさんの息子であるあなたがいずれ百獣海賊団を引き継ぐのは確実でしょう?」
「……ただ、普通に引き継ぐという形はあなたも望みでない筈」
「ちょうど、あなたが海賊王になったカイドウさんを倒して「最強」になるのを目指しているんでしょう?なら――」
「そうなれば、それだけに留まらずに海賊王の座と百獣海賊団を手にするのが道理です」
「……そういう形であれば、あなたも上等な筈――おそらくカイドウさんにとっても」
小紫がそう論説する。
その理にオレも唸らざるを得なかった――自身も理に適っていると考えているからだ。それならオレも親父も皆も――そして、小紫も折り合いを付けられる事になるだろう。
そこまで考えた途端にオレは苦笑を浮かべざるを得なくなった。
「……そんな展開を描いていたとはなぁ」
最強だと自負している自身が敗北するだけに留まらずに自身が積み上げてきた百獣海賊団を奪われる――ある意味親父に致命的なダメージを与えるといっても過言ではない案を発想した小紫にオレは苦笑しながらも感嘆した。
その感嘆に小紫は微笑む――ただ、それは苦笑にも見受けられていた。
「……この私は確かにあなたをお慕いして支える覚悟を決めましたが、だからってカイドウさんに対しての憎しみを捨てるつもりはありません」
堂々とそう言い張る小紫だが、その途端に眉をひそめる。
「かといって、あの方を慕っているあなたを悲しませたくない」
その考えを持っている故に2つの感情の矛盾に悩まれるハメになってしまった小紫だが、それによる苦悩を感じさせない程に活発的な笑みを浮かべる。
「だから、こういう案にしました――いかがですか?」
そう挑発するかのように積極的に言い張る小紫の姿にオレも苦笑を浮かべた。
「リュドドド……こりゃ、とんでもねぇ女に惚れてしまったな」
改めて小紫に惚れてしまった自身に苦笑するオレに小紫は妖しく笑う。
「この私の心を盗ったんです……その責任を取ってもらいましょうか」
いやらしくも笑う小紫からのその言葉にオレも獰猛な笑みを浮かべる。
「リュドドド!!!言われるまでもねぇ!!!」
そして高笑いを上げた。
「リュドドド!!そうだな!!オレは「最強」になる為に親父を倒すのを目指してきた!!!」
「なら!!いっそ、そのまま――百獣海賊団をもらうのもアリだな!!!」
「惚れた女がわざわざここまでお膳立てをしてくれたんだ――やるしかねぇだろ!!!」
妖しく微笑んでいる小紫の前でオレはそう宣言する――
●
あの時、私の案に乗ってくれたスサノオさんは「天羽々斬」と「閻魔」をなんとか扱うようにしてみせ、古代文字も覚えようとしている私の姿勢にますます腹をくくるようにもなってくれた。
――しかし、私を愛しそうに凝視してくれるスサノオさんは眉を少しひそめた。
「……お前がオレを支えようとしてくれているのは感謝しているが……」
そう感謝を告げてくれているスサノオさんは――突如真剣な表情を浮かべる。
「――お前自身は何か野望を持っていないのか?少しは持ってもいいと思うんだが?」
私の姿勢に思うところがあるスサノオさんがそう問いかけてきた。彼は私が自身をぞんざいに扱うのではと懸念しているのだ。
それを理解している私は微笑み――
「心配してくれてありがとうございます……しかし、私が心からそうしたいと思っています」
「……そうか」
ハッキリと私がそう表明するとスサノオさんは目を少し見開き――深く頷く。そんな彼に私は言葉を続ける。
「それに――海賊王になるには〝ひとつなぎの大秘宝〟を手にする――すなわち、〝ラフテル〟に行く必要があるんですが……私もそこには何としてでも行きたいと思っております」
「!」
真剣にそう言い始める私にスサノオさんは目を見開き、耳を傾げる。
「……ここから海に出て――様々なもの……世界を見てきました」
初めてワノ国から海に出た時を懐かしげに思い返していた私だが、すぐ顔をしかめた。
「……そして知りました。世界の有り様を――」
重々しくそう言う私は目にしてきた様々なものを思い返していた。
――フレバンス王国の滅亡
――天竜人に弄ばれた奴隷達
――ソード王国の有り様
――そして、如何なる所々が乱れている様を……
その様々な出来事から世界は心から平和とは言えず――それこそ地獄だといっても過言ではなかった。
「だからこそ――父…光月おでんの意図が気になるんです」
そんな世界の有り様を思い返した私はだからこそおでんの意図が理解に苦しんでしまう。
「〝ワノ国を開国せよ〟――それがおでんの言い遺した言葉です」
河松から聞かれたその言葉を思い返す私はその意味に関して考察せざるを得なくなった。
「こんな世界でワノ国を開国すると――征服される可能性が高い」
「ワノ国の民を守る為に裸踊りさえしてきたおでんがそれを許すのでしょうか?」
「〝バカ殿〟と称されてるおでんでもさすがにそこまでに愚かじゃない――にも関わらずにそうすべきだと言い張っている」
私が知っているおでんの性格からその頼み事には矛盾が生じる事になる。
「なぜなのか?それは――〝ラフテル〟で見たのだから……!ワノ国開国を目指す程の何かを……!」
「一体――何を見たのか、私はそれを知りたい……!」
「だけど、頂いた「おでん漫遊記」でも書かれていたであろうものを破れている……」
「ならば、何としてでも〝ラフテル〟に行かなければ……!」
そう熱心にそう言い張る私にスサノオさんも納得する。
「その疑問ももっともだ――〝ラフテル〟は〝ひとつなぎの大秘宝〟も重ねて海賊王になる為に行かなければならねぇと思っていたが……」
カイドウに立ち向かったおでんの勇姿を思い返したスサノオさんも彼の隠された意図に興味を惹かれていく。
「そういう背景だとかえって――気になるな……!」
「えぇ、そうですとも」
その隠された意図から〝ラフテル〟への興味がますます高まったスサノオさんに私も頷く。
「……それに気になるといえば――母、光月トキの意図も気になりますね」
そして、自身が引き続き気になる事をも口にする。
「トキは兄、光月モモの助と数人を未来に飛ばした」
「そして……その時を待てという詩を残した――」
「〝20年〟とハッキリと言いきった……」
トキが取った謎めいている行為を私は思い返した。その不可解な点にスサノオさんも口を開いた。
「あぁ、それにオレも気になった。未来に何かが起こるのを妙に分かってるような内容だったな?と思ったな」
その詩の明確さにスサノオさんも違和感を覚えていた。ふと何かに気付いた。
「――そういえば、おでんも何やら未来で何かが起こるのを確信していたな」
そう呟いた彼の頭には最期を迎えようとするおでんの姿が思い浮かんだ。それは何かを確信しているようだった。
『……確かにオレは負けた……だが、ウチの侍達をナメんじゃねぇぞ!!!生き残り、逃げ延びても……いつか必ず、必ずだ……カイドウ……!!オレの侍達はいつか仲間を引き連れ、お前達に挑みに行くぞ……!!』
その言葉にスサノオさんは気を引き締めていた。それは今も鈍らないが、今思い返してみれば――
「……〝ラフテル〟には未来の予言があったかもな。それ程に未来を確信している……!」
その確信の強さにスサノオさんがそう推測する。その可能性を私は否定できなかった。
「かもしれませんね――」
そう相槌を打つ私は目を鋭くする。
「だからこそ――確実に何かが起こる未来に備えて、まずはこのワノ国を作り変えなければなりません」
「そう――完全に百獣海賊団の国にする為に……!」
そう宣する私にスサノオさんも相槌を打つ。
「そうだな。たとえオレと親父達が強くても、その基盤が揺らげば話にならねぇからな……!基盤を固くするに限る!」
その実に合理的な考えを口にするスサノオさんはふと私に視線を続ける。
「……しかし、おでんの娘であるお前がそれを言うのにはさすがに予想外だったがな」
「新鬼ヶ島計画」に積極的な私に微かに目を見開くスサノオさんに私は微笑む――目を暗くしながら……
「……別にワノ国なんかに未練はありませんから」
冷たくそう宣する私は思い返していた。私の親友であった2人の女の子を――
『――だとしても!何かにも負けずに胸を張って生きるの!私達は!』
『……うん!』
それは苦境に立たれてもたくましく生きる姉妹だった。その気高い意思は――
『あの憎きオロチに媚びる害虫の店は潰せぇ!!』
『害虫は死すべし!!』
――穢らわしき闇により踏みにじられてしまった。
あんな醜き者が〝侍〟?そんな者が住むワノ国?そんな国を救う?そんなの、そんなの――
「認めてたまるか……!許しておけるもんですか……!」
そう怒りの形相を浮かべた私が恐ろしげな声で言い張る。
「こんな国を救うぐらいなら、さっさと滅ぼしてあなたの国を建てるに限る……!」
そんな私の姿を目視したスサノオさんは皮肉気な笑みを浮かべた。
「……あ~ぁ、「光月家」の姫にもこうまで愛想を尽かされたとは……さすがはワノ国、腐敗極まりだな」
「……まぁ、いいか。おでんを罵倒する奴らの運命等、知った事じゃねぇな」
そう皮肉を言い、しまいにはそう言い締めるスサノオさんに私も頷く。
「えぇ、自ら救おうとしていた者達を貶したんです。なら容赦する義理がどこにもない」
「そのまま滅ぼして――そこから誕生するのです」
「スサノオさんが君臨するにふさわしき国を……!」
そう言い張る私の目には――写されているであろう……新たなワノ国を……