――今のワノ国を滅ぼして、新たなワノ国を建てる
その野望に燃えている私の中にはワノ国に対しての愛着は存在していなかった。
「――まぁ、ワノ国がダメだったのは否定しねぇが……中にもあのおでん達のように気骨がある奴もいるぜ?お前はもちろん、明日郎とマリア等といった奴らが……!」
そんな私にスサノオさんが一応そう指摘してきた。そう、どうしようもないワノ国にも気骨のある人間が存在しているという事を――
その事実には私も率直に肯定する。
「えぇ、もちろん。この国にもそんな者達がいらっしゃっている事は不幸中の幸いです」
「しかし、その者達におハネとおカタちゃんのような事に遭ってほしくありません……!だからこそ、その者達をあなた達が保護してくれているのは心から感謝します……!」
そう、ワノ国の者が全員そうではない。おでん達もそうだが、おハネとおカタちゃんの存在から気骨のある者も少なからず存在している。
そんな者達は百獣海賊団にとってもこれからには必要だと考えているスサノオさんが保護してくれているという事実には私も心から感謝せずにはいられない。
「あとは、残りの奴らは――せいぜい使い切りましょう……私達の為に」
そして、残りの人間――ほとんど確実に心根が腐ってるであろう者達には素っ気ない私が冷たくそう宣する――彼らを百獣海賊団配下の糧に容赦なくさせる事を。
「……容赦がねぇな。まぁ、だからスキヤキにああいう脅迫ができたんだろうな」
ワノ国の民には厳しい方策を練っている私の姿勢にスサノオさんは苦笑しながらも私がとったおじじ様に対しての脅迫のカラクリを改めて理解し、感心する。それにつられて私もニャリとする。
――そうです。おじじ様――光月スキヤキはおでんの父親で仮にもワノ国の将軍であっただけはあって、なかなか固い意思を持っているらしい。そんな心を揺り動かすには――ワノ国の民を使えばいいだけだ……!
要求を断られたら民を掃除すると宣言したが、そもそも掃除しようと考えているのは――そういう人間だけにしている。そういう人間だからこそ、仮にそうなっても――別に何も思いません。そう、これこそが一石二鳥です。
ワノ国の民の上手い使い道を発想してみせた私にスサノオさんはその発想力に冷や汗を少し流すと同時に「新鬼ヶ島計画」に関して新たな着目を得られたと笑みを浮かべる。
だが、突如真剣な表情を浮かべる彼は気にかかっているある事を私に対して明確に言ってみる。
「しかし、ワノ国を滅ぼすのは別にいいが……それは――」
「親しき者を切り捨ててまでか?」
スサノオさんからついにそう指摘される。それは私の姿勢を責めるように聞こえるが、その意図に私は勘付く。
「……アシュラ童子の件ですか」
そう、親しき者さえをも斬り捨てる私の姿勢にスサノオさんは思うところがあるようだ――正確には私の心情を気にかけているようだ。そんな彼の意図に私もつい笑みを零す。
やはり、彼は優しいですね……だけど
「そりゃ――彼にも情がない訳ではありません。欲をいえば、彼も来て欲しかったですが……」
そう思っている私は彼を勧誘してきたが……
「あのように意思が固ければ、逆に生かすとかえって私達の害にしかなりません」
そう、あれ程に意思が固ければ勧誘が不可能になってしまいます。本物の〝侍〟の気骨さと忠誠心もそうそうバカにできないのは私がよく知っている。
……だからこそ――彼を粛清した……
そう淡々とそう言う私だが、その目には微かだが――歪んでいるのをスサノオさんは見逃さなかった。
しかし、それを指摘しない彼をよそに私は微笑んでみせる。
「それに――彼の死はトキの予言を潰すのに使わせて頂けたですし」
アシュラ童子の死を私はそう言ってみせた。
そう――トキの言い遺した詩は百獣海賊団配下はもちろん、この私にとっても不都合だった。
そこで詩の中の〝九つの影〟――それから連想される「赤鞘九人男」の1人を晒し首にしておく事でその詩に縋り付いている者の心を折る必要があった。
そういう意味ではアシュラ童子の拒絶は私にとっては実に渡りに船だった――
そうニコリとする私をスサノオさんは凝視する。そんな彼に私はからかうように聞く。
「……嫌になりました?こんな私」
妖しく笑う私にスサノオさんは――獰猛な笑みを浮かべていた。
「リュドドド!お前はこのオレの為にしてくれたんだろ!?」
「そんな女をなぜ嫌になる!?」
「むしろ――いい女だと思うぜ!?」
「!!……スサノオさんったら……///」
率直にその事を迷いなく言いきってくれるスサノオさんに私も頬を赤らめる。その姿に密かに口を緩ませているスサノオさんはすぐ口を開く。
「……ただな」
そう呟くスサノオさんは私を寄せ――自身の膝に寝かせる。
「たまには休めよ。オレにはお前が必要なんだからな」
「倒れると困るからな」
そうスサノオさんは言い張る――彼は私が無理し過ぎてしまうのを恐れているのだ。故に私自身の心身に優しくしようとしているのだ。
その優しさに感激せずにはいられない私は微笑みながら、しかしハッキリと言う。
「ありがとうございます……しかし、それ程に心配しなくても大丈夫ですよ」
「あなたを支える決意をした時に外道に堕ちる等――そのぐらいの覚悟は済ませておりますよ」
その覚悟を表明する私にスサノオさんは頷き、ふとある方向を向く。
そこには――おじじ様と河松とイヌアラシとネコマムシが座していた。彼らは会話しているが、元気がなく静かだった。
それを凝視するスサノオさんは呟く。
「……やはり、オレ達の事を良くは思っていねぇな。まぁ、怨敵だからな」
「えぇ、それでは百獣海賊団配下の戦力になれないでしょう。だから――」
そう、だからこそカイドウさんから彼らの勧誘を頼まれた時に私はそれを考え付いた。
「河松とイヌアラシとネコマムシの〝侍〟としての忠誠心を裏手に取って、私に仕えさせてみました」
「おかげでそういう形で百獣海賊団配下の戦力としてできた」
自身の身分を利用してその3人の忠誠心を裏手に取り、まんまとこっち側に寄せてみせたという私にスサノオさんは感心する。
「リュドドド……思ったが、賢いじゃねぇか」
「ふふっ……これでも力だけじゃなくて知識を身に着けてきたんで――新たなワノ国の在り方を考える為に」
感心するスサノオさんに私はそう返す。その考えを自身も持って勉強しているスサノオさんも私の姿勢に共感する。
「リュドドド!その通りだな!力を持っても、賢くなければ、ただの力に過ぎねぇからな!」
その考えに相槌を打ってくれたスサノオさんは少し真剣な表情になり
「……〝奴〟は放置か?」
そう意味深に問いかけてきた。その意図を問題なく理解した私は頷き
「〝彼〟は――そのまま泳がせます」
●
ワノ国 花の都
そこはワノ国の中心に位置する都で、桜の花びらが舞い散っている中で将軍の住む城を中心に侍と町人達が暮らす長屋が整然と並んでいる。その中にはある屋敷も建てられていた。
「ありんす♡」
「おっほ〜〜!!」
その屋敷には多くの遊女がいて、その彼女達が男達を相手していた――そう、遊郭としても機能していた。それこそが――
「いや〜!さすがだな!ここは!」
「そりゃそうだろう!何せ――あの〝居眠り狂死郎〟の屋敷だからな!」
――ワノ国の大物の1人〝居眠り狂死郎〟の屋敷であった。
彼は花の都の裏社会を取り仕切るヤクザ一家〝狂死郎一家〟の親分でありながら、ワノ国の将軍から覚えが良い程の大物だ。
そんな者の屋敷が盛り上がっているのも道理だろう。
そんな屋敷の中のある部屋で主である狂死郎は――凄まじい形相で涙を流していた。
「ウゥゥ……!!」
人が見れば、何か耐え難い程の悲しき出来事に遭ってしまっただろうと察してしまう程に彼が嘆いているが、なぜかというと――
「アシュラ童子……!」
アシュラ童子の死が関係しているのだ。
彼の晒し首を目視してしまった狂死郎はその死を嘆いていたのだ。そもそも、彼にとってアシュラ童子は同胞なのだから――
そう、狂死郎はアシュラ童子と同じ「赤鞘九人男」の1人――傳ジローであるのだ。
彼は主君である光月おでんの仇討ちに備えて〝居眠り狂死郎〟として身分を隠しながら、その時を待っていたのだ。だが、かつて苦楽を共にして仇討ちの際に一緒に戦う筈の同胞の死が傳ジローに決して軽くはない衝撃、そして悲しみをもたらした。
「ウゥゥ……!!なぜです……!!」
――そして、アシュラ童子の死はもちろんだが傳ジローの胸を抉っているのはそれだけではなかった。
彼を苦しみもだえらせるもの。それは――
「……日和様……!」
亡き主君、おでんの娘である光月日和――の暗躍であった。
彼女はご乱心してしまったのか、あろう事かにおでんの仇敵である百獣海賊団配下に身を置いて海賊として活動しているのだ。
その事実が傳ジローに激しき動揺と混乱を与えていた。
「……日和様は本気で百獣海賊団の海賊として……?」
過去に日和を百獣海賊団から離そうと試みた時の彼女からの拒絶、そしておでん達だけに飽きずにアシュラ童子をも殺めた百獣海賊団から即座に離れていない様子から傳ジローはその意図に関してそう見当せずにはいられなかった。
もしもそうであれば――もう一度彼女を説得せねばならないと考える傳ジローだが……
「しかし、あの方は拙者の正体を容赦なくバラそうとしていた……」
肝心の日和は関わろうとしている傳ジローに対して、その正体を周囲にバラすと脅して関与を拒絶している。傳ジローは彼女かまさか本気でバラす訳がないと信じたい一方で不穏な雰囲気を漂わせてきた今の彼女ならやりかねないとも考えずにはいられなかった。
故に――下手に動く訳には行けなくなってしまった。
「だが、拙者が今もこうしているのは――あの方がバラさないからでは?」
だが、そのもどかしい状況はアシュラ童子の晒し首で一変された。「赤鞘九人男」の1人が百獣海賊団によって処刑された時、傳ジローは焦った。何せ、日和に正体を勘付かれた今では危ういからだ。だが――
今のところ、自身を捕らえようとする様子がなかった。その事に疑問符を抱くも大人しくするしかなかった。
「日和様も……百獣海賊団を倒そうとしているのでは?」
今の自身が無事という事実から傳ジローはそう希望を持ってしまうが――
「……いや、そう希望を持たない方が良いかもしれん」
今の日和から感じてしまう不穏さから注意を払う必要があると彼は思い直さざるを得ない。
「……あぁ!あの方が何を考えているのか――それを聞きたいのにうかつに動けない!」
日和の意図を知りたくても、自身を明確に拒絶している彼女によって正体をバラされかねないという八方塞がりな現状に傳ジローはもだえ苦しまざるを得なかった。
●
「彼は他でもならぬ私の態度により疑心暗鬼に陥っているのでしょう」
〝居眠り狂死郎〟――傳ジローをあえて泳がせておく事でその状況に陥った筈だと分析した私は妖しく微笑む。
その考えにスサノオさんは目を細める。
「だが、なぜそうしているんだ?アイツらとは何が違うんだ?」
〝アイツら〟――河松達に一瞬視線を向けたスサノオさんはその疑問を口にする。
そのもっともな疑問に私は答える。
「それはあなたが考える通り、今の彼の立場とそこに至ってみせた程の能力が関係するのです」
「あ〜やっぱり?」
私が説明するその考えにスサノオさんも思い当たる節があって、深く頷いた。そう――
「せっかく黒炭オロチの身近にいるんです……しばらくそこにいてもらいましょう――そして、時が来たら勧誘しましょう」
「――ただ、わざわざオロチの懐に潜る程の頭脳と活動力を持つ男です。そんな男をおじじ様達と今関わらせるのはやめておきましょう」
あのオロチの懐に潜り込んでいたというせっかくの利点をなくしたくない、そしてそれ程の能力を持つ男を抵抗感がまだなくなっていないおじじ様達と少しでも関わらせると逆に不都合な事になる危険性が高いという理由で私は傳ジローをしばらく泳がせるのを判断した。
その理由にスサノオさんも頷き、そして――感嘆する。
「しかし、〝居眠り狂死郎〟……傳ジローか。まだそんな侍がいるとはなぁ」
傳ジローの姿勢にスサノオさんも感動を覚えた。その考えに私も共感し――
「えぇ、だからこそ――いずれ勧誘するつもりです」
故に傳ジローを百獣海賊団配下の戦力に加えようと企んでいた。
とりあえず傳ジローの処遇に関してそう締めた途端にスサノオさんはついに――その題を出す。
「……お前は」
口を開き始めるスサノオさんの目は私の事を真剣に凝視している……
「……未来に帰ってくるモモの助達はどうしようと考えているんだ?」
ついに投げかけられてしまったその問いかけに私もつい黙ってしまう。そして、顔を上げてスサノオさんと顔を合わせる。互いに凝視し合う中で私は重々しくながらも――口を開く。
「……彼らは――ワノ国等の何もかもを諦めてどこかで生きてもらおうと思います」
私は苦し紛れにそう案を出す――さすがに兄となると私でもやはり手をかけるのには気が引けてしまう。
……だが――
「……でも諦めずに立ち向かってくるつもりなら――」
「その時は……」
そう呟く私の目は――冷たくなっていた……
「……退場してもらいましょう」
――〝暴獣〟の為に咲き誇る華の棘はかつての縁さえを消そうとする……
●
スサノオさんと私が議論しているのを密かに覗き見している者達がいた。それこそが――
「……真にスサノオ……様を慕っておるな」
そんな私達の様子におじじ様――光月スキヤキはそう呟いた。その言葉に河松とイヌアラシとネコマムシも頷く。
「さようですな」
「うむ……」
「…」
小紫――光月日和がよりにもよって怨敵カイドウの息子をお慕いしているという事実を改めて見せられたスキヤキ達は憂鬱にならざるを得なかった。故にしばらく静寂してしまう場だが――
「……真に今の小紫に仕えるのか?」
「「「……はい」」」
スキヤキからのその確認に3人は頷く。そして理由を口にする。
「あの方を請け負ったのは他でもならぬ拙者です。故にあの方にどこまでついていく覚悟でございます。それこそ地獄だろうが――」
「そもそもおでん様を守れなかった不甲斐ない我らがそのまま自由にする道理がどこにもないのでしょう」
「同じく」
河松達がそれぞれ重々しく言う。そして――
「……ワノ国を変える――その野望に不謹慎ながらも惹かれてしまいましたので……」
河松がそう言うと他の2人も頷く。ワノ国の民の不義理さを何よりもよく知っている3人が口にするその理由にスキヤキも口を閉じてしまう。
そして思い浮かんでしまう。河松達から聞いたおでん達に対してのワノ国の民達の罵倒、そして小紫が話したおハネとおカタに起こってしまった惨劇を――
それを知ったスキヤキはそのあんまりな惨さに歯を食いしばると同時にそんな出来事を作り出したワノ国の民の人間性に気付けず、その欠点を解消できなかった自身の不甲斐なさを痛感してしまった――
故にワノ国を作り変えてみせるという小紫の考えをスキヤキは否定できなかったのだ。
「…」
ワノ国に起こっている様々な問題に悩まされずにはいられないスキヤキは見上げる――曇りがない青空を……
そんな絶景にスキヤキはたまらずにそれを呟く――
「……このワノ国が滅ぼされようとするのも――必然であったかもしれぬな……」
――他でもならない「光月家」の者によって滅びに導かれていこうとしているワノ国の運命にスキヤキは思いを馳せていた……