ワノ国 鈴後――
あそこはかつて霜月牛マルが治めていた地であった。雪が降り積もっている。その地は今――
ワノ国と海外両方の特徴もみられている建築物が立ち並んでいる。しかも、まず花の都に近しい地形には料理施設が、遠しい地形には温泉施設が建てられている。
それを目にするだけで休養に努められる地なのだと印象付けていた――
その鈴後だった地の中心として建てられた居城からオレと親父、ヤマトとキングさんとクイーンさん……そして小紫が見下ろしていた。
そう、オレ達は「新鬼ヶ島計画」にちなんでそれぞれの郷で進めていた工事がようやく完了できたらしく、その視察に来ているのだ。なお、小紫は「光月家」の人間である上に「新鬼ヶ島計画」に強く賛同しているのもあって、視察に参加するのを認められたのだ。
「これは衛生に良さそうですね」
今の鈴後の有り様に小紫が感嘆しているのにオレはつい胸を張ってしまう。
「リュドドド!!そうだろ!いつも雪が降り続けているここは――「温泉」と「料理」の街にしようと考えていたんだからな!!」
鈴後をそういうふうに改革した理由をオレは小紫に説明した。その内容に彼女も納得でき、頷く。
「そうですね。温泉は雪と相性が良いらしいという情報があるので良い見方ですね」
「そんな情報があるんだ!――でも雪の中での温泉と食事も気分が良くなりそうだね!」
そして小紫が挙げたその情報にヤマトが目を見開くが、確かにと元気に頷く。
「ウォロロロ!おう!疲れを癒やすだけじゃつまらねぇからな!!」
そんなヤマトにつられて親父もそうニャリとする。
「ムハハハ……良い料理をちゃんと用意しているんだろうな?」
「……食いしん坊が」
一方でクイーンさんは「料理」の街で用意されるであろう料理に対しての期待が高まっているのにキングさんも呆れていた。
だが、それはそうとしてと気を立て直すキングさんはある問いかけを親父に投げかける。
「それで――この地の名は?」
「おう!ここの名は――」
その問いかけに待っていたかのように親父はニャリとして言い放つ――
「鈴後」改め――「ニット」!!
●
「ウォロロロロ!!雪景色に酒!!たまらねぇだぜ!!」
「リュドドドド!!全くだな!!」
「そうだな――ただ、酒は程々にな。これから色々な場所を見回る必要があるんで」
「そうッス。ここで暴れられちゃたまらねぇからッス」
それは広大な温泉であった。しかも、雪景色に囲まれている中で浴槽の壁面と底面を石で構成して景観を演出していて、自然な雰囲気を出している――そんな温泉にオレと親父達は浸っていた。
オレはもちろん、親父も雪景色を鑑賞しながら酒を飲んでいて満喫していた。キングさんとクイーンさんも同じく満喫しているが、それでも視察を忘れない為に親父に酒を飲みすぎないように注意していた。それに同感しているオレからも言っておく。
「キングさんとクイーンさんの言う通りたぜ。まだ見回り終えていねぇのに酔っ払うのはどうかだと思うぞ」
懐刀からの忠言、そして息子も加勢してきたのを受けて親父も苦笑せざるを得なかった。
「ウォロロロ……分かってる。だからこそ量に気を付けているぜ」
そう、親父自身もさすがに今回の飲酒には注意を払っていた。その姿勢にオレも頷き
「それはそうとして――いい温泉だ」
オレは身を浸っている温泉の水を手掲げながら呟くとクイーンさんは自慢気に言い張る。
「ムハハハ!!スサノオ達が話した温泉に関しての様々な情報を元に参考しているからな〜♪」
そう――ワノ国以外の国々にも温泉が存在していて、そこにオレ達も浸っていた。それでオレ達が話したその情報をクイーンさんは参考にして温泉の質を上昇させてみせたのだ。
そんなクイーンさんの手際の良さ、それによる温泉の質にオレも感嘆せずにはいられなかった。
「さすがクイーンさん。文句がねぇいい温泉だぜ」
「ウォロロロ!!くるしうねぇぞ!!」
「ムハハハ!!そんなにホメんなよ〜♪」
オレ達からの評価にクイーンさんも胸を張っている中でキングさんは冷静に言う。
「……温泉施設に関しては無問題……だな」
●
「はぁぁ〜気持ちいいぃ〜」
「うふふっ、そうですね」
一方でスサノオさん達が浸っているのとは違う温泉に小紫――私とヤマトが浸っていた。その湯も実に上質で私達も満足できていた。
「――どうかな!?ここは!?」
ふと、ヤマトが突如私にそう問いかけてきた。彼女的にはワノ国の人間である私に感動を聞く事で改革の成果の程度を知ろうという意図だろう。そして私は――微笑む。
「えぇ、実に良い温泉です――やはり「新鬼ヶ島計画」はやり甲斐がある……!」
今身を浸っている温泉に関してそう評価する私もそれだけでも「新鬼ヶ島計画」をやる価値を実感せずにはいられなかった。
その言葉にヤマトは――真剣な表情を浮かべ、しかしすぐ笑う。
「――そうだね!!」
活発に笑うヤマトにつられて私も笑う。そして雪が降ってきている空を見上げ――呟く。
「……そのまま――汚れを洗い流してくれる」
●
「ムハハハハ!!」
クイーンさんは上機嫌だった。それもその筈。何せ――
「ウメェじゃねぇか!!おい!!」
彼は目前に広がっている豪華な料理を貪り食っていて、その味を満喫していたからだ。そんな姿に
「……やはり豚じゃねぇか」
「リュドドド……」
キングさんが呆れていて、その言葉が少なからず的中している事実にオレも苦笑せざるを得なかった。だが、そんなオレに
「スサノオさん――これ、美味しいですよ」
――小紫がそれはまた見事な料理の一部を箸で掴んで差し上げていた。彼女がそう評して差し出している料理にオレも興味を持ち
「ん!どれどれ」
それを口の中に入れてみた。そして
「――おぉう!!いいじゃねぇか!!」
その味を堪能でき、そう評せずにはいられなかった。それ程の味を込められている料理に感心できたオレはふと視線を向けてみると――
「ガツガツ!」
「ガツガツ!」
「…ガツ」
――親父とヤマトとキングさんもまた料理を堪能していた。その様子にオレも笑みを浮かべ
「リュドドド……腕を上げたんじゃねぇか――」
「――明日郎!」
オレがそう称賛を送った。そして、その先には――明日郎が立っていた。そう、オレ達の前に提供された料理には彼が関わっていたのだ。
その称賛に明日郎もニャリとする。
「ヘヘッ……これでもオレは多くの料理を見てきたんだぜ?」
彼はそう言い張る――そう、その野性的な風貌とは意外に彼は料理の腕が上手いのだ。
そもそも、彼は〝食〟に命を懸けているのだ――だが、そんな彼を満足させられる料理となかなか遭えない時期があった。その時にそんな料理になかなか遭えないなら――自ら作ればいい!そう考えた明日郎はそこから料理の道を歩き始めたのだ。
それから色々あってオレの船に乗った彼は様々な所々の料理に遭い続けて、その知識を身に着けるようになってきたのだ。その甲斐はあって実に多彩な料理を生み出せてみせたのた。そんな料理の味をオレ達――暴獣海賊団も満喫できていた。
だが、知っている時より上げたと感じさせる程の明日郎の腕にオレも微笑む。
「リュドドド……これなら、いずれここをお前に任せても大丈夫だな」
オレがその可能性を口にすると明日郎が片目を見開き
「……ん〜まぁ、任せされるなら上手い料理を用意するぜ!」
一旦心構えをしておいた彼はそう宣する。その姿勢に満足するオレの隣で小紫も微笑む。
「本当に素晴らしい腕ですね……本当に」
穏やかに微笑んでいる小紫だが、その目は明日郎をじっと凝視していた。
「…!?」
その視線に何か危機感を覚えた明日郎は冷や汗をかいてしまう――その一方でオレは親父に声を掛ける。
「どうなんだ?」
その問いかけに食事から顔を上げた親父は笑みを浮かべていた。
「おう!!ここはもはや文句がねぇな!!」
●
ワノ国 兎丼――
あそこはかつて雨月天ぷらが治めていた地であった。かつては森深き地で、しかし黒炭オロチの影響で荒野になってしまっていた。その地は今――
森深き地に戻っていた。
……ただ、その森の密度は天ぷら時代より増されている上に多くの猛獣が生息している。そう、実はワノ国全般に生息している生物達のほとんどがその地に集まられているのだ。
それを目にするだけで獣が生きる地なのだと印象付けていた――
その兎丼だった地の中心として建てられた居城からもオレ達が見下ろしていた。
「リュドドド……昔より強くなっているんじゃねぇか。ここの生物は」
その地で生息している多くの生物から感じられる力にオレも軽く驚く。そんなオレに親父とキングさんは反応する。
「ウォロロロ!!驚いたか!?」
「あぁ、ここの生物は強くさせてきたからな」
「コイツらの質は悪くはねぇからな……それを利用しない手はぬぇからな」
キングさんがそう説明する通り、ワノ国に生息している生物は独特で――質も良い。だから親父達はそんな生物の飼育を行ってみたのだ。
その甲斐はあって、多くの生物の身体能力が過去より高くなってきたのだ。その強さはワノ国の者でもそうそう撃破できにくい程になっているそうだ。
「ほぉ~」
「へぇ!――一体どんな動物がどう強くなったのかな!」
その説明にオレが感嘆し、ヤマトも興味をすごく惹かれた。そして――小紫は微笑む。
「これで囚人採掘場からの脱獄もさらに困難になりましたね」
そう妖しく微笑む小紫の目は――森林に囲まれている建物――囚人採掘場を凝視していた。そこは百獣海賊団と黒炭オロチに対して反抗的な者を収監している監獄なのである。
実はある意味百獣海賊団への敵意が全て一ヶ所に集まられているといっても過言ではないので、兎丼の改革に伴い囚人採掘場をも改築させていったのだ。その結果として、それはかつてとは見違えたように要塞と化していた。
あれでは囚人の脱獄が困難になっただろう。しかも、その上にその周囲を猛獣が生息している。もはや脱獄の効率性が限りなく零に近付けられたといえよう。
その事実からワノ国の民の反逆は今時点ではほっといても無問題だと小紫もほくそ笑む。
「……ワノ国の反逆等――認めるものか」
小紫が重々しくそう言い張る。その姿勢に真面目な表情を浮かべざるを得ないオレだが、すぐ雰囲気を切り替える為に素早くクイーンさんに問いかけてみる。
「クイーンさん、ここは生物の飼育場と監獄としてだけ機能させるつもりなのか?」
この地の役割に関しての確認にクイーンさんは得意気な笑みを浮かべる。
「ここが生物の飼育場と監獄として機能させるのはもちろんだが!それだけじゃねぇだぜ〜♪」
「ここは他の郷より環境が整えられているよな?――だからこそ耕地としても機能させるつもりだぜ!」
――そう、この地は他の郷より最も自然環境が整えられている為に全ての郷の中でも農林水産分野の発展が進められているといえる。その事実にオレ達も感嘆する。
「へぇ!」
「わぁ!――でも、確かにここならいいものを作れそう!」
「かつて荒れていたこの地でその分野の発展が進んでいたとは――素晴らしいですね」
「だろだろぉ〜!?♪」
オレ達がそう和気藹々と話し合っている中、やはりクイーンさんが親父に勢いよく問いかける。
「それじゃ――この地の名は!?」
「おう!ここの名はな――!」
その問いかけに親父はニャリとして言い放つ――
「兎丼」改め――「ナター」!!
●
「ムハハハ!!どうよ!?」
そうクイーンさんはオレ達に対して胸を張っていた。そして、そんな彼がオレ達に見せたのが――
「これは……悪くはないものですね」
小紫はそう呟きながら手にある食糧――イチゴとみかんを見極めていた。その意見にオレも共感する。
「料理とかに関しては素人なオレも映えが悪くねぇと考えさせる程だからな」
そう言うオレの手には――じゃが芋とトマトがあって、そして目前にも食糧が多く置かれてあった。その映えはオレが今まで見てきたものの中でも上質だった。
「ムハハハ……専門が全然違ぇかもしれねぇが――結局、物作りだろ?なら、手を抜く訳にはいかねぇからな……!」
オレの言葉にクイーンさんはそう言い張る――科学者気質な彼だからではのプライドだった。
そのプライドに妙に納得できてしまったオレは苦笑して――そして視線を向ける。
「……ヤマトとも仲良くやっているな」
そう呟くオレの視線先には――ヤマトが猛獣と仲良くやっている事態が展開されていた。
「うん!コイツらも可愛いよ!」
「ガル!!」
「ガゥ!」
その呟きにヤマトも自身が手懐けている猛獣に関してそう評した。なお、彼女から可愛いと評された猛獣の外見は別にそんな事はなく――恐ろしげな風貌になっていた。
「ウォロロロ!ヤマトなら手懐けられると思ったぜ!」
そんなヤマトの様子に親父も自慢気にする――そもそも、「ナター」に生息している猛獣はそうそう人になびかないのだ。そんな猛獣が頭を下げられるのはそれより強い生物――すなわち、親父達であった。故に親父達に対してには頭を下げているのだ。
なお、オレ達の方は会った事がない為に最初こそなびかず――それどころか容赦なく襲い掛かったのだ。もちろん、オレ達に呆気なく返り討ちにされたら慎ましく頭を下げていた。
そんな猛獣、そして食糧に関しての状況にオレも笑みを浮かべる。
「ん――いいじゃねぇか。これなら生物の飼育、食糧も問題なさそうだ」
「そうですね。仮に海外からの輸入がなくなってもしばらくやっていけるぐらいですね」
オレが無問題だと結論を下し、小紫もそう評価する。その意見に親父も頷き――
「よし!!これでここは見終えたし――次はいよいよ……」
そう言う親父の目は――小紫を凝視していた。対する彼女は怯まずに穏やかに微笑んでいる――が、どこか緊張を感じられていた。それにつられたのかオレも胸内に好奇心が湧き出てくるようになった――何せ、次は……
オレ達がつい緊張してしまう中で親父はついにそれを口にする。
「――光月おでんが治めた地……九里!」