第113話〝心変わり〟
一見穏やかに見える海上。
そこを進む船が一隻。それが――
「暴獣海賊団の久しぶりの航海だぜ!!」
「そうだね!!――やっぱり海を旅するのには心が踊れる!!」
――オレが率いる暴獣海賊団の船〝カイリュー号〟であった。
一面に広がっている海景にハイテンションなヤマトにオレも笑みを浮かべた。
「まぁ、オレ達――暴獣海賊団は百獣海賊団の傘下筆頭として活動しているんだ。親父達から頼まされば冒険を中断する必要があるからな」
そして、つい今までオレ達の冒険を中断せざるを得なかった事情――というか、暴獣海賊団の有り様に関してオレがそう説くとヤマトも少し真剣な表情を浮かべる。
「うん!分かってるよ!」
そう返してきたヤマトが突如活発な笑みを浮かべ直す。
「でも!新しく変わった郷等を見回って楽しめたけどね!!」
しばらくワノ国に留まっていた時を思い出したのか、心が弾んだヤマトにオレも苦笑を浮かべた。
――実はオレ達は百獣海賊団の傘下筆頭ながらも一海賊団として海を渡ってきたが……つい以前までは事情が発生し、冒険を一旦中断していたのだ。そうさせる程の事情とは……
「……ジニーは大丈夫だったか?ステラ?」
「――はい。まだ治療中ですが、容態が落ち着いています」
オレはステラにその確認をしてみた。それに対してステラも真剣に頷きながらそう返した。
――そう、オレ達がまだ航海していたところに難病にかかっている女性――ジニーと出くわしたのだ。弱りながらも赤ん坊を抱えている彼女をオレはほっとけられずにワノ国へ連れ帰っていったのだ。
その帰還を機としてやるべき事もまたたくさんできた為にオレ達はしばらくワノ国に留まる事になったのだ。
――そして、そのやるべき事はやり終えられた事で今年の〝金色神楽〟が閉幕してから暴獣海賊団の航海を再開させたのだ。
ちなみにジニーはまだ全快できている訳ではないが、容態が落ち着いている上に気分が良くなっているらしい。彼女にとって愛しき人との会話ができた今ではかえってだ。その状況に親友であるステラも喜ばしそうにする。
その報告にオレも頷く。
「そうか……ジニーの身柄は引き続きクイーンさんに託すとして――」
ジニーの件に関してそう締めるオレの視線が続いて他に向けてみる。それは――
「えぇ――この私が監督しているのもそうですが……よくやってくれていますよ」
――オレにとって大切な女、小紫だった。彼女はその意図を勘付いている故に微笑みながら答える――ある者達に視線を向けながら。
「――河松とイヌアラシとネコマムシは……」
――かつて光月おでんの家臣であった河松とイヌアラシとネコマムシの3人だった。
彼らは怨敵である〝百獣のカイドウ〟の息子であるオレの船に乗っている為に乗り心地が悪そうにしていた。
それでも乗らざるを得なかったのは――主君おでんの忘れ形見である娘、光月日和――すなわち小紫の存在があったからだ。
他でもならぬ主君の娘からの要求を受けているんであれば、彼女に仕える形といえ軍門に不服ながら降らざるを得なくなったのだ。
逆にいえば、それ程の義務感を持っている3人を小紫が監督しているなら……今時点では大丈夫だろう。
「――といえ、あのように乗り心地が悪そうなままじゃ……」
何だかんだで暴獣海賊団に加入する事になってしまった3人の表情が硬いのも無理もねぇ……自身達はもちろん、主君おでんを死に追い込んだ親父の息子であるオレの船に乗っているという事実に不服になるのが道理だろう。
だがオレは過去がどうであれ、今は仲間になった以上――その心身を良くしたいと考えている。最も、その3人との間の溝もある故にその方法を思い付けられず、悩むしかなかった。
そんなオレに小紫が声を掛ける。
「……あ奴らとの間に関しては――時が解決してくれるんでしょう……何せ……」
その対処に関して意見を出してきた小紫が妖しく微笑む。
「……最初こそ憎しみを抱えていた私も時を重ねたら暴獣海賊団に情が沸くようになった上に」
「――あなたと共にいるのを選んだですから……!」
「!」
小紫が堂々と言い張った言葉には説得力が確かにあった。それにオレも目を見開き――そして笑みを浮かべる。
「……リュドドド……確かになぁ」
そう納得したオレは空を見上げ――
「焦りは禁物だ。今は様子見として、オレ達はいつものようにしよう」
「はい」
オレがその結論を下すと小紫も微笑む。そう話が付いたオレ達にヤマトが声を上げる。
「まぁ!気持ちを新たにしようよ!せっかく冒険を再開させたんだし!」
その少し重いような雰囲気を切り替えようとするヤマトの姿勢にオレ、そして小紫も微笑む。
「おう!」
「うふふっ、そうですね」
その言葉に従ってオレ達は海面に視線を向けて航海を楽しもうとする。
――そうして暴獣海賊団は海を滞りなく進んでいった……
●
〝カイリュー号〟の船上から海面を眺めてる者達がいた――河松とイヌアラシとネコマムシだ。
その3人は海面をぼんやりと眺める――ようにみられて、実は――まず河松は少し感嘆していた。
「……そうじゃった――これこそが海だ……!……少し思い出してきた」
「……あぁ、そういえばゆガラは我らと違って幼き頃から海に出た事がなかったな」
「そういえばそうじゃったな」
目前に広がっている海景につい感激を覚えざるを得なかった河松の姿にイヌアラシとネコマムシもその理由に見当が付き、納得した。
――河松は幼き頃に母と共にワノ国に漂着して以来、それっきり海に出る事はなかった。だからこそ、どのような形であれ海に久しく出られた彼はその絶景により遠き日の記憶を刺激され、郷愁を感じられた。
対するイヌアラシとネコマムシの方は――同じく幼き頃にゾウからワノ国に漂着したが、海に出たおでんに同行して白ひげ海賊団とロジャー海賊団の船に次々に乗って海を渡り続けてきたという経歴を持っている。こうして航海も久しぶりだが、複雑な感情を抱えていた。
そんな2人に河松は確認してみる――これからに希望を抱く為に……
「――冒険は期待できるのか?」
その問いかけに硬い表情を浮かべていた2人も明るくなる。
「……それは安心していい!!」
「てきだ!世界は広いからな!!」
そして気が高ぶった2人がそう言い張る――2人共追憶したのだ。おでんに同行した事で経験できた濃厚な冒険を。
その冒険の日々に思いを馳せたイヌアラシとネコマムシだが
「……ただ、乗る船が違うだけじゃ――乗り心地がこうも悪くなるとは」
「てきだ」
「……そうか」
白ひげ海賊団とロジャー海賊団と違って、色々な意味で暴獣海賊団の船の乗り心地に対しては快く感じていなかった。そんな2人の意見に河松も気を引き締め直す。
「……だとしても、この道を選んだのは他でもならぬ拙者達だ。その事実から目をそらしてはならん……!」
そしてスサノオと談笑している小紫の姿を凝視する河松は重々しくそう言い張る。その言葉にイヌアラシとネコマムシも口を閉じ――しかし深く頷く。
「……うむ、確かに我らは――おでん達に背く事になろうが……小紫様に仕える覚悟を決めた……!」
「そうだ。わしらも腹をくくるしかぇい――小紫様の為に動く――何があろうとも……!」
その3人は覚悟を表明し合い、頷き合う――
――光月おでんの敵であった百獣海賊団の軍門に降る事になろうが、小紫に仕える。
――その事実から逃げられない……楽になる訳にもいかない。
痛々しくながらも覚悟を決めた河松とイヌアラシとネコマムシ。
そんな3人に声を掛けられる――
「――取り組み中のようですが、よろしいですか?」
「「「!」」」
突如の声に3人がハッと視線を向けるとそこには――
「!シシリアンとペドロか」
「……そして、そ奴は――」
――シシリアンとペドロ、そして……
「えぇ、キサメです」
そうキサメは河松に対して挨拶した。自身に挨拶してきた男に河松も目を細める。
「……一体何の御用か?」
「えぇ、いや」
警戒して身構えている河松の姿勢にキサメはしかし笑みを浮かべる。
「……魚人である上に「赤鞘九人男」の1人に数えられるあなたと少しでも話をしてみたくて来ただけですよ……よろしいですか?」
「…」
紳士の如き説明するキサメに河松は口を開き――考えを巡らせていた。彼的には彼が百獣海賊団配下の海賊だが、同じ魚人であるという事実が不思議な事に心に来ていた。故に彼は警戒を少し解かずとも――
「……拙者には何を聞いてみたいんだ?」
向かい合う事にした。その姿勢にキサメも喜ばしそうに笑みを深くし――
「小紫さんから聞きましたが、あなたの河童流に興味を持ちましてね――」
そう言い張る――彼的には魚人島から遠く離れた地でそれも独特の武術を体得している河松に興味を惹かれている上に血が騒がずにはいられなかった。
少し気配が荒ぶってきたキサメに河松は身構えながら――口元をつい緩ませていた。
「……お主は魚人島での武術を体得しているのか?」
「えぇ、もちろんですよ」
そして河松もそう返してみるとキサメも肯定した。その答えに河松も続ける。
「……どうにも拙者は幼き頃に魚人島を出たらしくな、その仔細は知らないんだ――だからこそ興味がある……教えてくれるか?」
「えぇ、構いませんとも」
その要求にキサメも快く承諾した――が、河松からの引き続きの要求に顔をしかめざるを得なくなってしまった。
「――魚人島、そして魚人と人魚に関しても教えてくれるか?」
キサメと話した事で自身のルーツに興味を持つようになった河松がそう言い張った。その要求にキサメもつい言葉をどう選ぼうと考える事になってしまった。
「……えぇ、構いませんが――」
「!」
「――良い話になれませんよ?」
やがてキサメが辛うじてそう言うしかなかった。その忠告に河松もつい思い出してしまう――自身が異形として迫害されたのを……
彼の様子から恐らくそういう類の話だと勘付いてしまった河松は歯を食いしばり――
「……構わぬ、それでも知りたい」
しかし、それでも要求する――彼的にはそういう事実から目をついそらしていたが、小紫はそれから目をそらさずに何とかしようとしていた。
なら、そんな彼女に仕える身としてこれからは正面から立ち向かなければならない――
そう考えた河松がその要求を迷いなく出してきたのに対してキサメは――何を思ったのか、つい口元を緩ませ……
「……分かりました。それでしたら――」
「あぁ」
そうして自身の武術、そして魚人島とその歴史に関して河松とキサメは議論を始める――
●
一方でイヌアラシとネコマムシは――シシリアンとペドロと議論をしていた。
「……やはり苦悩しているな……!!イヌアラシさん、ネコマムシさん」
「…」
彼らが苦悩しているのを勘付いたシシリアンとペドロは彼らに気遣わしげにする。だが
「……そういうゆガラだって」
「あぁ、お互い様だ」
イヌアラシとネコマムシも目前の2人も同じく苦悩しているのに勘付き、そう指摘した。それに彼らも苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「…!」
「……そりゃ、それはそうですが」
シシリアンが口を固く閉じるよそでペドロが口を開き――観念したかのように説明する。
「……やはり、我々ミンク族と兄弟分「光月家」とワノ国に関しても悩まされざるを得ないのですから……!!」
「「……っ」」
ペドロが明かしたその悩みにイヌアラシとネコマムシも言葉を失ってしまう。そんな2人にペドロは言葉を続ける。
「……我々ミンク族は「光月家」とワノ国、モコモ公国まで滅ぼした百獣海賊団を討ち取るという使命を果たさなければならぬ――最初こそオレはそう思っていました!!」
そうペドロを含むミンク族がその目的を抱えながら生きてきた――
「――だけど、その考えに疑問を持たざるを得なくなってしまった……!!」
だが、それに陰りが見られるようになってきた。なぜかというと――
「その理由の1つはもちろん――小紫の存在……!!」
そう――まず小紫が関係しているからであった。
「小紫が――光月おでんの娘であるのにも関わらずに百獣海賊団側につき、ワノ国を滅ぼそうとしているのだから……!!」
彼女の姿勢にミンク族は動揺せざるを得なかった。もちろんペドロも動揺していたが……
「……だが、小紫がワノ国を滅ぼしたがっているのも理解できる……!!それ程に奴らはダメだった……!!」
苦々しく言い張るペドロの頭にはワノ国の民――その心根を思い浮かべた……
「あれじゃ――仮にカイドウと黒炭オロチがいなくても、そりゃワノ国がメチャクチャにされ――光月おでんもあのような最期を迎えたんだろう……!!」
「「…!!」」
ペドロがそう言い張るのに対してイヌアラシとネコマムシも何も言えなくなる。そこにシシリアンが口を開く。
「……オレは――」
「……国を滅ぼしたスサノオを討ち取ると誓った」
「……だが、暴獣海賊団で活動していて――アイツ……明日郎とやり合ううちに――」
重々しく言い続けるシシリアンの硬い表情が突如歪まれる。
「――うかつにもその日々が楽しいと思ってしまった……!!」
「……スサノオを討ち取ると誓った筈のオレがこうなるとは――実に……情けない……!!」
そう複雑な感情を抱えてしまったシシリアン。そして
「……仕方があるまい」
そんな彼を――他でもならぬペドロが慰める。
「……仮にある者が悪でも、見方を変えればそうではない事もある」
「……スサノオが心の底から悪であれば、オレも心置きなく憎められるが……」
「……困った事にあの男は――そんなに悪い者ではなかった……!!」
ペドロがそう言い張るのに対してシシリアン――そしてイヌアラシとネコマムシも否定できなかった。実は彼らもスサノオが自身達の意思をできるだけ尊重しようとする姿勢を複雑ながらも――つい好ましく思ってしまったからだ。
そんな彼らにペドロは表情をなんとか引き締めてみせる。
「……いつまで悩んでも仕方がない――なら、今の状況を受け入れ――ミンク族の為にできる事を考えよう」
ペドロが堂々とそう意見するとシシリアンも相槌を打つ。
「あぁ……今のところではスサノオの元で活動を続けるのも良かろう」
そう彼らが真剣に議論するのを受けてイヌアラシとネコマムシもハッとする。
「……うむ、そうたな――いつまで悩み続けるんじゃ、もはや逃げにしかなるまい」
「あぁ、今は状況を見極めよう」
イヌアラシとネコマムシはおでんへの忠誠を捨てて百獣海賊団の軍門に降った今だからこそ、覚悟を決める……
そして
「……百獣海賊団の海賊共と違って、ここの者達の心根が良いのは複雑だが……不幸中の幸いだな」
「あぁ、少なくとも暴獣海賊団でならこれからもやっていけそうだな」
暴獣海賊団の海賊達の気前の良さに対して河松とイヌアラシとネコマムシは複雑ながらも――暴獣海賊団でなら苦悩せずにやっていけると考えるようになる――
●
それから時が過ぎ――
「島が見えてきたな!!」
その景色にオレがそう声を上げた――航海を再開させた暴獣海賊団が海を進んでいくうちに次の島が見えてきたのだ。
それに歓声を上げたオレにフドウが声を掛ける。
「だが、あの島には海軍支部が所在されているようだ」
「でしたら、慎重にする必要がありますね」
その忠告に小紫もそう意見する。それにオレも賛同する。
「――よし!!できるだけ目立たずに動こう!!」
――だが、その島から発生した騒動に暴獣海賊団も巻き込まれる事になる……