サンモン――
そこは他の島々と比べれば、別に独特的な文化を持っているとはいえないだろう。
その代わりとしていえるのは――その島は極めて平和になっているという事実であった。
無論、そこには騒動が全く起こっていない訳ではない上に海賊等からの蹂躙を受けた事がない訳でもない。だが、その島には――海軍支部Gー3が所在されているのだ。
しかも――そこに所属する海兵達は他の支部のより精鋭であるらしく、島内の騒動と海賊等からの蹂躙を円滑に解決していったそうだ。
その確かな成績により住民達も深き信頼を置く事ができ、今も〝サンモン〟で笑いながら平和に過ごせている。
そんな島にオレ達は――上陸していた。
「――分かるよな?目立たないようにしろよ?」
……といっても、オレ達は――軽く変装していた……目立たないように。
例えば、このオレの場合は――ヒゲメガネをかけている上にアロハシャツを着ていた。おそらく滑稽な格好になっているだろうな……
その事に微妙な気分を抱いているオレはいったん気を取り直し、暴獣海賊団の皆にそう注意した――
――そもそも、オレ達はそんな格好で隠れもせずに堂々としたい上に海賊だけはあって暴れたい意気盛んな性分だ。だが、たまにはゆっくりと息を抜きたいと考える時もある。
そんなオレ達が今回では〝サンモン〟で息抜きをするつもりだ。別に敵はいねぇだろうしな!――ただ、その島には海軍支部が所在されている上にそこでの海兵達の素質もなかなかバカにできねぇらしい。
さらに――オレ達暴獣海賊団の名も世に広く響き渡られた。これでは仮にオレ達が〝サンモン〟を堂々と歩こうとしたら――騒動が確実に発生し、息抜きできる余裕さえも作られないだろう。
そういう事情からオレ達は変装する事にしたのだ。そう考えたオレは皆がちゃんとその事を理解できているのか確認してみたのだ。それに対して――
「分かってるよ!――にんにん!」
そう返しながら、何かハイテンションな様子をみせる女性――ヤマトだ。
黒ハットを含む黒い服装をしている彼女的には自身の服装もあって、まるでスパイのように振る舞っているという事実にワクワクを抑えられないようだ。
「本当にヤマトは……だが、分かってるならせいぜいにしろよ」
そんなヤマトにフドウはそういさめた――が、そういう彼だっていつもの服装を微かさえも変えていなかった。
なぜかというと――そもそも、彼はその身元を隠す為に最初から変装しているのだ。それ故に今更だろうとの事だった。
そんな彼にツッコまずにいられなかったのが――
「――そういうテメェこそ目立つ格好してんじゃねぇか!やはり鳥頭か!?」
――ジャックだった。ただ、そう指摘した彼自身は一応いつもの服装を変えているが……豹柄のコートを着ていた。そんな格好もあって彼の武骨を全く隠せていなかった。
そんなジャックの容姿をフドウはしばらく凝視し――鼻を鳴らす。
「……フン、魚風情が何かをほざいているな」
「あぁ!?――そういう引っ込み思案こそ何をほざくんだ!?」
「「あ゛ぁ゛!?」」
やはりというか、相変わらずケンカを始めようとするフドウとジャック――そんな2人を咎めるかのように突如声を掛けられた。
「――あなた達!ここではケンカはよしなさい!スサノオさんが目立たないようにと言ったでしょう!」
――小紫がオレの意図に沿う為にフドウとジャックにそう忠告したのだ。その言葉に2人共ハッとし――
「「!……フン!」」
「……全く、いつもケンカ――あなた達も飽きないわね」
いったんケンカを収めたものの互いに顔を背け合うフドウとジャックにそう呆れをみせる小紫は続いて自身の身体を見てみる――
「……やっぱり、納得できない」
そう不満を言わずにはいられなかった――実は彼女はこのオレに恥じないように身なりを整えているのだ……だが、その外見はあまりにも華麗すぎて今回では目立たざるを得なかった。
故に変装する必要があった――そうして、かつての凛々しい女侍の容姿に戻っていた。今の自身の姿が小紫には不服だった。
「……この姿では――スサノオさんを喜ばせられるのだろうか……」
「あ、いや……今回は変装する必要があるから仕方がねぇんだ――それに」
不服そうに頬を膨らませる小紫にオレは素早く声を掛ける。
「今でも十分にキレイだと思うぜ――さすがお前だ。その美しさは隠そうとしてもそうそう隠せない訳だ」
「///……ですが」
オレからの称賛に小紫もつい頬を赤らめるが、それでも不満を解消できなかったのか何かを言おうとする。だが、そこに――
「仕方がないのよ。小紫♪」
「!マリア」
突如マリアが小紫に声を掛ける。彼女は何か含みがあるような笑みを浮かべていた。
「スサノオさんはね――」
「あなたの美しさを人々が拝めるのが気に食わないのよ――まぁ、その美しさは自分だけで独占したいのよ♪」
「!」
その意見に小紫が素早く視線を向けてみるとオレは――
「…」
――不自然な方向に顔を向けていた。そんな姿に小紫も目を見開き
「……うふふっ、スサノオさんったら///」
嬉しそうに微笑んだ。それを感じ取れたオレも羞恥心を感じた。
「…///」
そうしてオレと小紫の間には何か桃色の雰囲気が漂ってきた。
「「…」」
「わぁ……!」
「うふふ……」
その雰囲気にフドウはやれやれといった反応をみせる一方でジャックは何ともいえない表情を浮かべていた。
そしてヤマトは頬を赤らめながら目を輝かせ、マリアも柔らかく微笑む。そして、この者達は――
「……スサノオ様は本当に小紫様を大切に思っているんだな」
「うむ……とりあえず、そういう心配は無用か……?」
「あぁ……あの様子を見たら、そう考える方がしょうえいろうな」
河松とイヌアラシとネコマムシはただ、真剣に凝視していた――しかし、その雰囲気は微かだが軽くなっていた。
実は彼らはオレが小紫の事を心から愛してはおらず、彼女の想いを都合が良いように利用し尽くすという可能性を危惧していたのだ。
だが、今までのオレ達の様子から彼らもその想いが本物だと理解せざるを得なかった。故に心配無用だろうと判断し、とりあえず少し安堵したのだ。
そんな3人をよそに小紫も今の雰囲気を切り替える為か、素早く視線をマリアに向け――そして微笑んだ。
「――そういうあなたも昔とは見違えたじゃない……!マリア」
小紫がマリアを見上げながら感嘆した。そう、彼女は小紫と同じく美しく成長したのはもちろんだが、それだけに留まらず――その身長はそれ程に高くなっていた――巨人族に及ばずとも並の者以上だという程に――そう、異常的に。
「えぇ――でも、これだとしたらやっぱり私のルーツには巨人族が関係しているのかしらね……」
その事実からマリアも自身のルーツに関しての疑惑を深めずにはいられなかった……
とにかく、そうして――変装しているのもあって皆が和気藹々と語り合っていた。その様子につい笑みを浮かべたオレだが
「……お〜い!そろそろ、街に行ってみようぜ!」
そろそろ、その談笑を終わらせて〝サンモン〟の周遊を始めようと宣してみた。その宣言に皆も頷き、その街に向かって足を進もうとする――
●
「賑やかだな」
「あぁ……こういう様を見るとここの海兵の能力が高いのが分かるな」
――〝サンモン〟の街中をオレ達は何の事はなく歩き進んでいた。そこにいる人々の賑やかさにオレも感嘆し、フドウも率直にそう評価した。
それに間違いはねぇだろう。今まで見てきた所々でも人々が笑いながら過ごしている事もあったが……ここはそれらよりも明るく見受けられる。
そういう状況を作ってみせた程の海軍支部Gー3にオレも微かに興味を惹かれざるを得なくなった。
……まぁ、それはとにかくとして――
「よし!お前ら、ここで分けようか!」
「「「おう!」」」
ここで数グループに分けようとオレが宣し、皆も応えた。それに頷き――
「よし、じゃ「わわっ!?」―あん?」
「あぁ!すみません!」
言葉を続けようとするオレに突如ぶつかりかけられた。このオレはもちろん何の事はないが、相手を確認する――そして目を見開く。何せ――
「……子供?」
それは――子供だらけの集まりだったからだ。
まぁ、子供だらけだからといって何の問題がある訳ではない。ただ、街中を遊ぼうとする集まりと考えるのが道理だろう――だが
「……おい、お前ら――」
オレは思わずその集団に声を掛けずにはいられなかった。なぜなら――その子供達は全員ボロボロのコートを深く着ている上に様子が何やら穏やかではなかったからだ。その様子にただならぬものを感じたオレは声を掛けようとするが
「すみません!急いでいるんです!」
「ごめんなさい!」
「「「ごめんなさい」」」
それより素早く子供達が駆けていった――海軍Gー3基地の方向へ
「……何だぁ、あのガキ共〜」
「……無礼者共が……」
一応謝罪していたといえ、オレがせっかく声を掛けようとするのをはねのけた子供達の態度がフドウとジャックの逆鱗に触れてしまったようだ。その子供達に容赦なく攻撃を仕掛けようとする2人にオレは素早く宥めておいた。
「リュドドド……気にすんなよ。アイツらはちゃんと謝っていたぜ?だから、オレは別に気にしねぇぜ?」
「……スサノオさんがそう言うなら」
「…」
オレが笑みを浮かべながらそう言い張ると2人共不服ながらも矛を収めてくれた。だが、今度は小紫が確認してくる。
「よろしいんですか?」
――実は同じく様子がおかしい子供達の事を気にかかっている彼女は少なくともオレの意図には勘付いているが、一応確認の為に口にしてみたのだろう。
そんな彼女にオレも頷く。
「あぁ、そりゃ気になるが……アイツらは海軍に向かっている。なら、オレ達が出る幕はねぇからな」
その子供達が海軍Gー3基地に向かっている事からオレがその判断を口にすると小紫も納得し、そして周遊に戻っていった……
――だが、その時は気付けなかった。
――出くわした子供達こそが騒動のきっかけになるという事に……
●
「はぁはぁ……」
「頑張れ!!もう少しで海軍Gー3基地だ!!」
海軍Gー3基地に向かってその子供達は必死に駆けていた――その基地が見えてくるとそのうちの数人が限界を迎えたのか息切れを起こした。
そんな子供達を他の子供達が速度を落とさずとも、激励を送りながら肩を貸してあげていた。
そうして子供達が基地に順調に向かっているが……
「……でも、大丈夫かな?あの「世界政府」の手先なんて――」
だが、海軍Gー3基地に大分近付けられた事で逆に不安になってしまったのか、ある子供がその懸念を口にせずにいられなくなった。
それに対して子供達は――
「……それは分かってる。だが、上がどうしようもなくても――下は逆にまともな事もあり得るんだ」
「そう!だから徹底的に検討してきたんでしょ!」
「あぁ!あそこは全ての海軍支部の中でもまともな部類に入る!」
――理解を示しながら、そう提言していた。
――実はその子供達が前までいた場所は特殊で――だからこそ「世界政府」の闇を知る事ができたのだ。その直轄の組織ともいえる海軍を子供達は心から信用できる訳ではなかった。
それでも――「あの場所」より随分マシだ。それに暗い情報が聞こえてこない海軍Gー3支部なら大丈夫な筈だと判断した――否、そこに賭けるしかなかったのだ。
そして――
「はぁはぁ……着いたぞぉ!!」
「う…ん……!!」
「はぁ……やった……」
ついに海軍Gー3基地の門に子供達が辿り着けられたのだ。
それによって安堵できた故につい力が抜けてしまった彼ら――に向かって1人の海兵が慌てながら駆けていた。
「だ、大丈夫!?君達!?」
その眼鏡をかけている一見地味な青年が子供達の身を案じた――
●
それから時が少し過ぎ――
「大分ここを堪能できたか?」
〝サンモン〟内でのある宿でオレ達はゆっくりしていた。
〝サンモン〟を周遊して、そこでの文化を満喫できたオレ達は空が少しずつ暗くなってきた為に宿に泊まる事にしたのだ。
〝サンモン〟の文化を満喫できたオレは皆がどう感じたのかを確認してみると――
「まぁ、ここもなかなか悪くはなかったな」
「……なんか、海軍がめずらしく働いたのを見た気がするな」
フドウが〝サンモン〟に関してその評価を下す一方でジャックはそれを否定せず、むしろその平和を築いてみせた程の海軍の活動を初めて見たかのような反応をみせる。
その意見にヤマトと小紫も苦笑する。
「はは……まぁ、確かに――今まで会った海軍は強さもあって働いているのを実感できなかったからね〜」
「えぇ……むしろ、本来こうなるべき物事では?――まぁ、そうじゃないからこその今の世界の有り様ですから、嘆かわしいですね」
海軍に関して彼女達からもそれぞれ意見を口にする。その意見にオレも相槌を打ち――
「……まぁ、だからってここを別にどうしたいとは思わねぇから、大人しくしようぜ」
「「「はい」」」
〝サンモン〟での方針をオレは改めてそう説明する。それに対して皆も異議を唱えなかったのにオレも微笑み――
「…!!」
だが、すぐ何かに気付いた――続いてフドウとジャック、ヤマトと小紫も気付く。
その瞬間
その場が揺れていた。
「「「!!?」」」
その場にいる人々が戸惑われた――もちろん皆も戸惑ったが、さすが暴獣海賊団の船員として活動してくれているだけはあって、素早く冷静になり状況を把握しようと宿の外に出ていった。
するとそこには――
「!!」
〝サンモン〟付近の海には――艦隊が存在していて、そこから飛んできた砲弾が〝サンモン〟のあちこちを撃っていた――
――そう〝サンモン〟は今、攻撃を仕掛けていたのだ。
●
〝サンモン〟を襲いかかっている艦隊――の中心として海を進んでいる大船の船上には数人が立ち留まっていた。
彼らはあちこちから煙が上がっている〝サンモン〟を凝視しながら口を開き始める。
「さて、海軍がどう出ますかな?」
「大した事ねぇよ!海軍なんか!」
「いやいや、ここのはなかなかに手強いらしいぞ」
「……いずれにせよ、倒すのみ」
「……今のところ作戦は進行中ね」
その者達がそう口々にしている中で明らかに一味違う雰囲気を放っている男が1人――
「……これで決めてみせよう――」
――そうして暴獣海賊団が遭遇する事になる騒動が始まる……