「……ハハハ!!確かにたかが骨だとみるべきではないようだ!!」
空中を浮かんでいるゼノンの背中から生えている骨を目視したランバネインが率直にそう評価する。
彼的にはさっきゼノンから伸びてきた骨が自身の身体はもちろん――それなりの硬度を持ち合わせている「ケリードーン」さえをも微かながらも破損したという事実から低く見ないように心掛けていたが……まさか空を飛ぶ性能までも持つとは。
そうランバネインが感嘆するのに対してゼノンは――心なしか、彼には珍しく少し穏やかな表情を浮かべ――口を開く。
「……まぁ、〝こういうもの〟はかつてのオレも考え付かなかったがな」
そう呟いたゼノンは過去を思い返す――
●
ゼノン。
彼はその過去から力こそが全てだと考え、残忍で冷酷な戦士として行動してきた。
……だが、そこまで彼が全てを捧げてきたというのに――そんな彼は自身の手で殺してしまった親友の面影を感じさせるヤマトに敗北してしまったのだ。
しかも、それだけに留まらず――その彼女によって強引に暴獣海賊団に入れられた。
敗北しただけでも屈辱なのに、ヤマトに振り回されているという事実を癪に障っているゼノンだったが……入れられた暴獣海賊団の航海で彼の人生観を一変させられた。
彼は今まで海に出た事はあったが、それは他国への遠征の為だけでそれ以外に何もなかった。だからこそ、暴獣海賊団の航海はゼノンに衝撃を与えた。
色々な景色がゼノンの灰色い視界に色を与えたのはもちろんだが――それよりなのが暴獣海賊団の戦い様、そしてその縁で拝めたあの「四皇」の一角、百獣海賊団の事だった。
――仲間を切り捨てないにも関わらずに強大な強さを発揮した暴獣海賊団の有り様。
――弱肉強食な思想を持つにも関わらずにワノ国の発展を促した百獣海賊団の有り様。
その事実がゼノンの乾いた心を響かせていた――そして
『ねぇねぇ!ゼノン!』
『……何だ』
ある日、ヤマトがゼノンに迫ってきた。
彼女はゼノンに何か思うところがある故に世話を焼いているのだ。彼自身はそれをうっとうしく感じている――と同時にその心のどこかで心安らぎを微かながらも感じていた。
だが、この時のヤマトの迫りがゼノンに更なる転換を与えた。
『君の能力――色々な骨を出せるよね!?』
『……まぁな』
ヤマトが熱心にそう問いかけるのに訝しげにするゼノンもそれでも答える。それに顔をぱあっと輝かせたヤマトは続いて問いかけてみた。
『じゃあじゃあ!動物の骨も出せる!?』
『…!!』
――何の事はない。ヤマトはただ動物の骨を見てみたいと考えた故に無邪気に問いかけただけだ。
だが、その内容にゼノンは――目を見開いた。
『……いや、それは――』
『――考えた事もなかったな……!!』
なぜか固まったゼノンが辛うじて――そう口にした。
そう――彼は自身が強くなる、強くならねばならないんだ――そう考え続けてきた……そう、自身に強いプレッシャーを与えすぎた。
その影響なのか、ゼノンの視野を狭められていた。故にその発想がそうそう出てこなかったのだ。
考えた事もなかったその事にゼノンもハッとした。
『……まさか、お前に気付かせてもらうとはな……!』
『へ?へ、あ、そうなの?』
さっきから妙な反応をみせ、しまいには不敵な笑みを浮かべながらそう言ってきたゼノンにヤマトも呆気に取られた。だが、ゼノンは笑みが湧き出てくるのを抑えられなかった。
――そうか、このオレはまだ強くなれるのか。
――そして、その事を気付かせてくれたのがよりにもよってコイツか……
――ヤマトの強さを知りたいからこそ、おとなしく暴獣海賊団に入ったが……
『……無駄でもなかったか』
今後自身がやるべき事を見出したゼノンが笑みを浮かべる――
それから、ゼノンは自身の能力によって動物の骨を出す、そして扱うのを試み続けてきた。その成果としての1つこそが――
「〝骨羽翼〟」
ゼノンの背中から生えた骨の羽翼。それは鳥とコウモリの羽翼部分の骨格を基にして数々の図体が大きな骨で構成したものだ。
それを羽ばたかせる事でゼノンも空中を飛び浮かんでいるのだ。
「……オレはまだまだ強くなる」
その時を思い返したゼノンはつい感傷に耽った――が、すぐ気を取り直し目前のランバネインに意識を向ける。
「〝無間骨牙〟」
ゼノンが掲げた手から数々の骨が生え、ランバネインに向かっていった。
「オォ!!」
その攻撃に対してランバネインは空中を勢いよく蹴り、横方向に駆け向かった事で避け――そして、もう既に「ケリードーン」の砲口をゼノンに向けていた。その中は光っていた。
「…」
それにゼノンは怯む事がなく、そして空振りした筈の数々の骨から新たに骨が生え、ランバネインの方に向かった。
「!?オォ!?」
「……ナメるなよ」
その思いがけない攻撃にさすがに驚愕したランバネインだが
「――何のぉ!!」
――それでも自身の身体を無理矢理動かし空中を再び蹴った事でその攻撃を避けながら上方向に登ってみせた。
「!」
その迅速な対応にさすがに目を見開いたゼノンにランバネインはニャリとし
「悪いな!!」
彼が構えた「ケリードーン」から弾が強烈な勢いで放たれ続けた。それはやはり素早くて、ゼノンも避けようとしても間に合わず――
空中に爆発が起こされた。
「……今回はどうかな?」
弾がゼノンに当たったように見えたランバネインだが、さっき攻撃を受けた彼の姿には傷が微かさえも見当たらなかった事実からそう期待を持たずに注意を払うように姿勢を整える。
やがて広がられた煙が晴れると――
「……ほぉ」
――ランバネインの懸念通り、ゼノンは傷を負わなかったのだ。
実はランバネインからの攻撃に対して彼は新たな骨を出し、それで防いでみせたのだ。それこそが――
「〝骨殻鉄壁〟」
それは今まで出したのより図体が大きくて硬いように見受けられる数々の骨で構成された壁だった。それもその筈。
如何なる動物の骨でも硬度を誇ると謳われるサイとグリズリーの骨なのだから。それだけに留まらずにその骨にさらに武装色で覆わせていたのだ。
そんな骨の壁に防衛させてもらったゼノンが傷を負わずに済んだのも無理もないだろう。
だが、その壁さえも――確かにゼノンに届かなくても……そのものが崩壊させられていた。すなわち、それ程に「ケリードーン」の破壊力も高いといえるだろう。
〝骨殻鉄壁〟が崩壊させられた事で散らばった数々の骨片が落ちていく様を凝視するランバネインも笑みを浮かべる。
「……うむ!!今のところ互いにダメージを与えていないな!!」
「……で、どうするつもりだ?」
今の戦況を改めて認識し、爽やかに笑うランバネインをゼノンは冷静に見ながら問いかける。
その問いかけを待っていたかのようにランバネインは笑みを深くし――
「――こうするまでよ!!」
そう宣したランバネインはすぐ空中を蹴り、別の方向に向かった――そして、そこで空中を再び蹴った事でさらに違う方向に向かい――その繰り返しでランバネインは空中を、それもゼノンの周りをデタラメに飛び回ってみせた。
「!!」
「ハハハ!!このオレを追えるかな!?」
自身の周りに展開された異常な事態にゼノンも険しい表情を浮かべるのに対してランバネインはそう挑発してきた。
彼が空中をデタラメに飛び回る事でそのあまりにもな不規則さからゼノンもその足さえも掴めにくかった。だが、ランバネインが続いて何をしようとするのを勘付いた彼はすぐ次の行動に移した。
同じくその動きを勘付いたランバネインも空中を飛び回りながら――攻撃を開始した。
「――オラァ!!」
空中を飛び回ったランバネインがゼノンに向かって掲げる「ケリードーン」の砲口から弾を放たれ続けた。それも彼がゼノンの周りを飛び回る影響で全方位から数多くの弾がゼノンに向かって襲い掛かった。
「チッ」
その攻撃の厄介さに舌打ちをせずにはいられなかったゼノンは上下前後左右――全方向に向かってサイとグリズリーの骨を多く生やし覆ってみせた。
「〝骨殻鉄球〟」
――ゼノンを隙間さえも残さない程に覆う球体状の骨……〝骨殻鉄球〟を多くの弾が容赦なく襲い掛かった。
空中にさらに大きな爆発が立て続けに起こった。
やがて煙が手広く広がってくるのを空中に浮かぶランバネインが警戒しながら凝視する。
「…!!」
そして、その煙から下方に落ちていくものがあった――ゼノンだ。その姿はボロボロで、しかし何やら――身体の各部位を骨そのものが占めているように見受けられた……
――実は〝骨殻鉄壁〟を破壊された事実から「ケリードーン」の威力を理解したゼノンは〝骨殻鉄球〟だけじゃ足りないだろうと判断し、自身の身体を強化する決意をした――そう〝狂骨魔人〟をも発動していたのだ。
だが、そこまでしたにも関わらずにさすがに今回の攻撃は異常に凄まじかったらしく〝骨殻鉄球〟を破壊し、そのままゼノンにも届いたのだ。
その決して軽くはないダメージにより彼も意識を失い、地に落下しようとしていた。そんなゼノンに対してランバネインは――
「……こういうやり方は好きじゃないが……」
浮かない表情を浮かべているランバネイン――が装備している「ケリードーン」の砲口はゼノンに当てていて、その口は光っていた……
――実は今でこそどう見てもランバネインの勝利だと見なしてもいい状況であるといえ……ゼノンの実力は彼の予想を容易く超えていた。それに加えて彼が放った殺気を身に受けたランバネインはこのままゼノンが終わるとは思えなかった。
故に今進めている計画はもちろんだが、今後の為にここでゼノンを完全に排除すべきだとランバネインは判断したのだ。
――たとえ、それが彼にとっては気に入らない死体蹴り的なやり方であろうが……
「……悪く思うなよ。これもお前が強いという証になるのだから――」
やはり不服な表情をするランバネインが重々しくそう呟くのにつられて「ケリードーン」の砲口の中の光が強まる――
――これでゼノンを消す。
そう考えたランバネインがせめてものとしてゼノンから目をそらさずに凝視しようと意識を向けると――
「……気にするな」
「!!?」
――何と、意識がないのだと思われたゼノンがしっかりランバネインを凝視しながら口を開いてきた。
――実はゼノンは大きなダメージを受けてなお、それでも意識を落とさなかったのだ。たが、このまま戦っても勝機を掴みにくいと判断した彼は気を失うフリをする事でランバネインの隙を誘おうとしていたのだ。
その作戦が功を奏したらしく、つい動揺してしまったランバネインの様子を見逃さなかったゼノンは落下しながら――手を彼に向けた。
「フン!」
そして、その手から新たな骨が強烈な勢いで放たれた。その狙い先は――「ケリードーン」の砲口だった。
「!!」
それに気付いたランバネインは冷や汗を流す――無理もない。「ケリードーン」は今まさに放射しようとするところだ。すなわち――エネルギーが溜まっているといえる。
そこに何かを砲口の中に入れられるだけで放射のタイミングを失うエネルギーが暴走し――爆発を起こしてしまうだろう。
故にランバネインは「ケリードーン」での構えを解き、攻撃をかわそうとする――が、ゼノンから放ってきた骨が彼の左腕に巻き付けた。
「!?これは……!?」
それに目を見開くランバネインがその腕を凝視すると――それは連携状の骨だった。しかも、その骨をゼノンの手から伸びている故に彼と繋がっている。
ランバネインがその事を理解した途端に彼自身もゼノンの落下につられて落ちていった。
「ぐ!この……」
「まだ終わりじゃないぞ」
落下させられているランバネインが何とか腕に巻き付けられている骨を外そうとするところにゼノンがそう言ってきた。
その言葉を実証するかのようにその連携状の骨の先に付けられている何かがランバネインの顔に向けていた――
「…!!」
その何かにランバネインは目を見開く――それは肉食動物の顔の骨だった……
「〝骨獣牙蛇尾〟」
その獣口がランバネインの肩に噛み付いた。
「オァ!?」
その思いがけない攻撃、それにもたらされた痛みにたまらず叫んだランバネインにゼノンは自身から伸ばしている〝骨獣牙蛇尾〟を力いっぱい引っ張り――彼を地に叩き込もうとする。
「ぐ……オォ!!」
その意図に勘付いたランバネインは何とか空中を蹴ろうとし――しかし、肩に噛み付いている〝骨獣牙蛇尾〟の咬合力がさらに強まってきた事で痛みも強まり――身体から力が抜けてしまう。
打つ手がなくなったランバネインはそのまま――地に勢いよく叩き付けられた。
「がぁ!?」
それによってダメージを負ったランバネインだが
「ぐ…何の……」
それでも辛うじてゼノンに攻撃しようと「ケリードーン」を掲げようとし――
「〝無間捻骨〟!!!」
だが、空中から落下してくるゼノンがその身体から生えた数々の回転する骨を突っ込ませてきた。
その骨がランバネインの身体を貫き――しまいには「ケリードーン」までも貫いた。
その途端に爆発が起こった。
「…」
やがて爆発が晴れたその場にゼノンは手軽に着地した。そして――そのところに足を進めてみる。
「……終わりだ」
「……あぁ、そうらしいな……ハハハ……」
ゼノンがそう宣するとそれに対して賛同の声を出したのは――ランバネイン、それもその容態は瀕死だった。身体を回転する鋭い骨に貫かれたのに加えて「ケリードーン」を破壊された事での爆発を身近に受けたんだ。
これではもはや戦闘不能だと見なしていいだろう。そんなランバネインの姿にゼノンも鼻を鳴らす――
『暴獣海賊団 ゼノン
VS
バシレウス ランバネイン』
『サンモン
「ある地の戦い」』
『勝者 ゼノン』