ONE PIECE 荒ぶる暴獣の猛威   作:ウェイブロック

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第121話〝その老人、強し〟

時は遡って――

 

 当初のその戦場で2人の男女と老人が対峙していた。

 

「アハハ!!さぁ!やろうよ!!」

 

「お手合わせ願いします」

 

 老人を前にその男女――ヴァニカがハイテンション的に戦いの誘いをかける一方でハクジは礼儀正しく手合わせのお願いした。

 その態度は正反対ながらも同じ事を申し込んだ2人に対して老人――ヴィザは微笑み

 

「うむ……任務に励みたいところですが、このまま行かせてもらえないようだ」

 

 その姿勢、そして覇気により事柄をまんまと進めるのが難しいとヴィザも判断し――剣を抜いた。

 その途端にその場の空気が重くなった。

 

「アッハ♪」

 

「……やはり目に違わぬ猛者でしたか」

 

 抜剣したヴィザの激しき覇気にヴァニカが狂喜し、ハクジは感服した。

 そうして――ハクジ、ヴァニカとヴィザの戦いが始まろうとする……

 

「…(あの翁はただならぬ強さを持っているようだ……こっちから仕掛けようとしても思わしくない結果にしかなるまいな)」

 

 ヴィザの覇気を感じたハクジはその強さの程を勘付き――そう考えた。

 

「(だが……これから如何に対処すべきか――)」

 

 だからこそ、ハクジは自身がどう動くべきなのか決めかねていた――そんなところに

 

「アッハ!!」

 

「!?ヴァニカ!?」

 

 ヴァニカがヴィザに駆けていった。そんな彼女の合理的とは思えない動きにハクジも慌ててしまう。その焦燥感を感じたのかヴァニカが狂気の笑みを浮かべながら言い放つ。

 

「このままジッとしてもつまらないよ!!やっぱ戦わなくちゃ!!」

 

「あの戦闘狂が!!」

 

 そう、活発的であるヴァニカは様子見さえを取らずに自ら仕掛けようとしたのだ。その姿勢にハクジも苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべながら駆ける。

 一方でそんな彼女にヴィザは微笑む。

 

「ホッホッ……戦いを楽しむ――それは理解できますぞ」

 

 ヴァニカの好戦的思想にヴィザも共感していた。

 

「といえ、それは浅慮ではないかな?」

 

 そして、その姿勢にはそう評するヴィザが剣を素早く振った。その速さは実に――目にも止まらなかった。

 故にその剣によりヴァニカもあっけなく両断された――かと思われた。

 

「おおっと!?」

 

 だが、その剣を身に受ける前にヴァニカが素早く背を反らした。その即座の反応をみせた彼女にヴィザもさすがに驚く。だが、まだだ。

 

「〝紅いケダモノの足〟!!!」

 

 ヴァニカの足には血で怪物の足を形作られていて、その足を彼女が背を反らした勢いでヴィザに蹴り上げた。

 

「―」

 

 その蹴りがヴィザの顔を潰す――かと思われたら、彼が身体を屈める事でかわされた。

 

「まだまだぁ!!!」

 

 それでもヴァニカの攻撃はまだ終わらない。

 彼女の蹴り上げた足を今度は勢いよく振り下ろした。だが、それさえをも避けたヴィザを今度は血で怪物の手を形作った両手〝紅いケダモノの手〟で振り回す。

 その怒涛の攻撃でもヴィザは涼しい顔で小さく動く――しかし、その動きは実に的確で――だからこそかわされた。

 

「!」

 

 そこでヴィザは気付く。ヴァニカがいるのとは逆方向にハクジが構えをとっているという事に。

 

「ごめん!!」

 

 そう詫びを入れたハクジがヴァニカの動きに合わせて拳と蹴りをヴィザに対して放ち続けた。

 ――多勢に無勢を好まないハクジがこういう状況を構築したのは――ヴィザがそれ程に強いからだ。そのあまりな強さにハクジは癪に障りながらもヴァニカと共闘すべきだと判断したのだ。

 そうして、ヴィザはヴァニカとハクジからの攻撃を迎える事になるが……

 

「!!」

 

「おぉ!?」

 

「ホッホッ」

 

 2人が放つ攻撃をヴィザは――調子を崩さずに避けてみせた。それもさっきとは違って老人には素早く鋭い動きをするようになった事で攻撃を避け、しまいには剣で防いだ。

 

「失礼」

 

「「っ!?」」

 

 やがてヴィザは2人の間を飛び跳ね、少し離れた場に着地した事で難から逃れてみせた。そんな彼の動作にヴァニカもたまらずに子供のように盛り上がった。

 

「アッハ♪すごいすごい!強いじゃん!」

 

「お前は……だが、確かに」

 

 そんな彼女の態度に呆れるハクジもヴィザの見事な身振りに感嘆の声を出さずにはいられなかった。そんな2人にヴィザも微笑む。

 

「何の何の、あなた達だってやるじゃないですか」

 

「そちらのお嬢も浅慮に見えて実はよく考えていて動いている」

 

「君も実に熟練な動きをしている。しかも――」

 

「――「武装色の覇気」をよく鍛えていますな?その覇気はただではないようだ」

 

 2人の動作をヴィザが率直にそう評価し、しまいにはハクジの武装色には秘密が存在しているのを見抜いていた。

 その彗眼にハクジもますます感嘆する。

 

「そこまで見通しでしたか――さすがだ」

 

「いいじゃん!こう強いとますます滾るよ!!」

 

 一方のヴァニカもその強さに戦意をさらに燃え上がらせる。その姿勢にヴィザも眉を少し上げた。

 

「おぉ……ご元気なお嬢だ――しかし」

 

「……気付きかな?」

 

「「!?」」

 

 その含みのある言い草に2人が訝しげにする途端にその身体から――

 血が湧き出た。

 

「あぁ!?」

 

「これは……!!」

 

 ヴァニカがたまらずに悲鳴を上げた一方でハクジは苦痛な表情を浮かべながら自身達の身体を確認すると気付く。

 ――その身体には少なくはない数の斬られた跡が付けられているのを……それはつまり――

 

「――そう、攻撃を避けたついでに斬らせて頂きました」

 

 その事実からハクジがある可能性を考え付いた瞬間、ヴィザがそう告げてきた。

 そうなのだ、さっきハクジ達の攻撃をヴィザがただ避けただけではなかった。彼が小さくながらも的確な動作している上に――素早い剣さばきをした事でハクジとヴァニカを気付かせない程に斬り捨てていたのだ。

 

「ぐ……!!」

 

「……マジ?」

 

 自身も気付けなかった程のヴィザの神業にハクジも唸り、ヴァニカもさすがに唖然とせざるを得なかった……

 

「――なら!!これはどう!?」

 

「〝紅い海〟!!!」

 

 だが、すぐ気を取り直したヴァニカの身体から多量の血が湧き出てきた。

 その血の波が襲い掛かってくるのにヴィザは次の手を打つ。

 

「失礼」

 

 彼は地を勢いよく蹴り――空中に浮かんだ。そう――ヴィザも〝月歩〟の使い手だったのだ。

 

「いやはや――これは確かに〝紅い海〟ですな……ん?」

 

 目下に広がられる〝紅い海〟にヴィザも感嘆の声を上げ――そして何かに気付く。その瞬間、〝紅い海〟の水面から――巨大な血の塊が彼に向かって湧き出てきた。

 

「!!」

 

 それにヴィザも軽く驚く――が、すぐ冷静になり

 

「―」

 

 その巨大な血の塊を何の事はなく斬り捨てた。

 

「…!!」

 

「おぉ!!」

 

 だが、両断された血の塊――の片方の片面からヴァニカが姿を現してきた。そして右拳を構えていた……

 

「!」

 

「〝二千五百枚瓦正拳〟!!!」

 

 素早く態勢を整えようとするヴィザに対してヴァニカは右拳を叩き込んだ。

 今度はそれを直に受けたヴィザが〝紅い海〟に勢いよく吹っ飛ばされた。

 

「…!」

 

 そんなヴィザに対して今度はハクジが右拳を構えながら近付いてきた。彼は吹っ飛ばされているヴィザに拳を叩き込むべきだと判断し、その場から勢いよく飛び跳ねたのだ。

 

「―」

 

 拳を放とうとするハクジに対してさえもヴィザは吹っ飛ばされた態勢のまま――何と、その勢いを利用しながら剣を勢いよく振ってみせた。

 

「!!」

 

 その勢いを重ねて剣がハクジの拳を斬り捨てた。それにハクジは目を見開き、ヴィザは微笑む。

 

「残念ですが――……!?」

 

 だが、今度は彼の方が驚愕した。

 ――右拳を斬り捨てられた筈のハクジは……もう既に左拳を構えていた。

 

「〝滅式〟!!!」

 

 彼は全身全霊をかけて左拳をヴィザに放った――

 思いにもよらないその搦め手にヴィザもまんまとやられた――かと思われた。

 

「――フン!」

 

 だが、彼は剣を振った勢いを利用する事で自身の態勢を整えらせ――そして、両足をハクジの放つ拳に付けた。

 そのまま――ハクジの拳を発射台としたヴィザは強烈な勢いで飛び放たれていった。

 

「何!?」

 

 自身の搦め手にさえも反応してみせた、それもあまりにも想像を絶する形であるのにハクジも驚愕せざるを得なかった。

 それ程に度胸がある行為を成し遂げてみせたヴィザは――

 

「おっと」

 

 勢いよく飛ばされながら態勢を立て直し――空中に浮かぶ。

 一方でハクジは〝紅い海〟に到着した――なお、ヴァニカはもう既に到着していたが……

 

「……いったぁ〜い!!」

 

 その彼女はそう声を上げた。

 つい痛みに泣き出す子供のような表情を浮かべたヴァニカの右手には――鋭く斬られた跡があった。

 実はさっきの〝二千五百枚瓦正拳〟に対してヴィザは剣を振った事で防衛したと同時に攻撃をも行っていたのだ。

 

「〜これでもダメなのぉ!?」

 

 自身の策、特に拳には自信があったらしく、ヴァニカが右手をぶらぶらさせながら泣き言を言わずにはいられなかった。

 その悔しさには共感できるハクジも歯を食いしばりながらヴィザを見上げる。

 そんな2人にヴィザは笑みを浮かべる。

 

「――いやいや!君達はやはり素晴らしい!」

 

「君の戦略と拳はもちろんだが、まさか――」

 

「お嬢が「魚人柔術」と「魚人空手」を繰り出してくるとは!」

 

 ハクジとヴァニカの戦いぶり、特に彼女がその武術を繰り出したという事実に対してヴィザがそう称賛する。

 それにやさぐれているヴァニカも態度を一変させ無邪気に笑う。

 

「アッハ♪――そうだよ!私は「魚人空手」と「魚人柔術」をマスターしているんだ!」

 

「――この私の能力とは相性が良いのもあるからね!」

 

 つい得意気になる彼女はそう言い張った――そうなのだ。

 実は戦闘狂なヴァニカはその闘争心を満たす為に暴獣海賊団の海賊達にも戦いを挑んできたのだ。

 如何なる者達にも挑戦したが、その中には――ジャックも含まれていた。その彼との手合わせの際に繰り出してきた「魚人空手」にヴァニカは注目した。

 「魚人空手」、そして「魚人柔術」。水を利用できるという真髄をなすその武術と自身の〝チチチチの実〟の能力の相性が良いんだと気付いたヴァニカはすぐジャックに教えを乞ったのだ。

 

 そうして――「魚人空手」と「魚人柔術」を修得してみせたヴァニカはさっき、まず〝紅い海〟の中から掌底の要領で巨大な血の塊を撃ち出す――〝槍波〟を放った。

 しかも――その〝槍波〟の中にヴァニカ自身が潜り込んでいった。彼女はその〝槍波〟さえもヴィザには通じないかもしれないと考えたからだ。

 その考えた通り、〝槍波〟を両断された瞬間にその中から現れたヴァニカが〝二千五百枚瓦正拳〟をヴィザに放つ事で撃破しようと考えたのだ。

 

 その一方でヴァニカの策が失敗した場合に備えてハクジも策を講じていた。それは――ヴィザに拳を確実に当てる為に右拳を囮にする事で隙を作らせてから片拳を放つというものであった。

 そんな2人の策さえもヴィザには通じなかった。といえ、そんな彼も高揚できたようだ。

 

「いやはや……君達の戦いぶりに私も血が騒げましたよ」

 

「それは何よりだ……!」

 

「――でも!あんたを必ず倒すんだからね!!」

 

 ヴィザからの率直な称賛にハクジもつい笑みを浮かべた。ヴァニカも戦意を激しく燃え盛らせ――そう宣言した。

 その姿勢にヴィザも笑みを浮かべた――が、すぐ沈んだ表情になる。

 

「……できれば、このまま君達と戦いを続けて楽しめたいのは山々ですが――」

 

 そして、辛そうにそう口にする。

 

「――今は戦争中です。この私にも任務を請け負っている。兵士としてそれを果たしなければならない」

 

「故に――この辺で終わりにさせて頂きます」

 

 しまいにそう宣言したヴィザは――剣を下方向に掲げる。

 その内容、何より今のヴィザのさらに強まってきた覇気にハクジは息を呑み――

 

「――ヴァニカ!!気を付けろ!!」

 

「分かってるよ!!」

 

 素早くヴァニカに警告した。彼女も同じように危機感を抱いたらしく、すぐ身構えた。

 

 ――その途端

 

 ハクジとヴァニカの身体が突如さらに斬り刻まれ、血が湧き出た。

 

「……は?」

 

「な、何だと……!!?」

 

 いつの間に斬り刻まれてたという事態にヴァニカも呆気に取られ、ハクジも衝撃を受け動揺する。そんな2人にヴィザは申し訳なさそうにする。

 

「……申し訳ない。だが、少なくとも君達が気にする事はない」

 

「……君達がこの攻撃に反応できないのも無理ではないのだから――」

 

 宥めるかのようにそう言い張るヴィザは手に持つ剣――「オルガノン」をちらりと見る。

 

 

「オルガノン」――

 

〝バシレウス〟の設けた「武器に〝悪魔の実〟を食べさせる」ルール通りにその剣にもまた実を食べさせていたのだ。なお、その実とは――〝ザンザンの実〟。

その能力は斬撃そのものを操る事ができるというものである。

それこそ「オルガノン」そのものを振るわなくても――斬撃を放てる程だ。

その能力によりハクジとヴァニカはヴィザが「オルガノン」を振っていないという事も重ねて、まんまと斬撃を身に受けてしまったのだ。

 

 それを知る由もない2人は傷を負わされすぎた事もあってあっけなく――倒れた。

 

 

『暴獣海賊団 ハクジ&ヴァニカ

  VS

 バシレウス ヴィザ』

 

『サンモン

「ある地の戦い」』

 

『勝者 ヴィザ』

 

 

「……申し訳ない」

 

 倒れ、それっきり動かない2人の姿を凝視するヴィザは詫びを入れ、そして次の行動に移そうとする。

 

「さて、これから任務を――……!」

 

 自身のやるべき事を果たそうと足を進めるヴィザ――の前に新たに現れた者がいた。それも2人。

 その2人にヴィザは眉をひそめる。

 

「どなたですかな?」

 

「オレ達は海兵だぜ!」

 

 その問いかけに対してキッパリとそう答えたのは――灰がかった癖のある茶髪と眠たげな目つきの黒目と顎髭が特徴な男性だった。名はケイという。

 なお、その目にはその虹彩と瞳孔の部分がハイライトのない格子模様になっているらしい。

 とにかく、笑みを浮かべながら言い放ったケイに続いて、もう1人も口を開く。

 

「ここであんたを倒したろか」

 

 ヴィザに対してそう宣したのは――ゴーグルをかけている硬そうな毛質の黒髪オールバックと常にキッと引き締めた太めの眉毛と下がった口端が特徴のソース顔をしている男性だった。名はタツヒトという。

 

 

――その地で新たな戦いが始まろうとする……

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