ONE PIECE 荒ぶる暴獣の猛威   作:ウェイブロック

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第125話〝真なる忠誠〟

「…」

 

 地に横たわるヴィザの死体を私は凝視していた。

 ……例え、どれだけ熟練した剣豪だろうが――今はもうただのものだ。それにいつまで気にかかる事はないだろう。

 ――だが、それでも私は彼から目をそらせなかった……何せ、今でこそ私が勝ったものの彼の剣は実にあっぱれだった。

 故にそれ程の技術を積み重ねてきたヴィザに敬意を払わずにはいられなかった。

 そう思った私は今も彼を見続けていた――

 

「〜〜小紫ぃ!!」

 

「!うわっ」

 

 そこにヴァニカが私を抱きしめてきた。

 突如の事に驚いた私だが、ふと見渡してみると――ハクジと河松達も近付いてきた。なお、その表情は何か昂っているのを抑えているように見受けられていた。

 私がそう認識するとヴァニカが私の両肩を掴んで、そして感激に浸る笑顔をみせる。

 

「すごいすごいよ!!あのジイさんを倒したなんて!!」

 

 彼女が私を揺さぶる程にはしゃぎながらそう言った――自身も適わないと思わせたあのヴィザを私が撃破したという事実にヴァニカも激情がすごく滾ってきただろう。

 そんな彼女の感動にはさすがに共感しているらしいハクジも口を開く。

 

「あぁ、まさかあの翁を倒したとは……実に見事だ」

 

 その言い草は平静にみえて高揚が見え隠れしていた。

 

「……全くだ」

 

「「あぁ」」

 

 ハクジが贈るその称賛に河松達もまた高揚を抑えながら賛同した。

 皆からこうまで称賛してくると――さすがに私も羞恥心を感じざるを得なくなった。

 

「――まぁ、当然でしょう。いずれ「世界一の剣士」になる私ですから」

 

「そうだね!!――だから!!」

 

 だが、努めて平静を装ってみせる私が胸を張って表明するとヴァニカは相槌を打ち――そして、身構える。

 

「やろうよ!!今すぐに!!」

 

「断ります」

 

 さすが戦闘狂だ。彼女も深手なのに、そんなの関係なしに私と戦おうと迫ってきた。

 私達の戦いの熱に当てられた彼女は闘争心が新たに湧き出てしまっただろう。といえ、すぐ断ったが。

 

「えぇ〜〜!!何でよ!!」

 

「いや、当然だろ」

 

 私の拒否に文句を言うヴァニカだが、ハクジがツッコんでくれた。

 

「今のお前達は深手だぞ。そんな状態で戦えるか」

 

 続いて理由――というか、今の状況をも説明してくれた。そうなのだ。私達はヴィザとの戦いの影響で今重傷である。そんな状態じゃもうこれ以上は難しいだろう。

 

「えぇ〜……でも〜」

 

「ヴァニカ」

 

 それでも納得できず頬を膨らませるヴァニカに私は声を掛ける。

 

「あなたは血が滾る戦いをしたいんでしょう?」

 

「?まぁそうだけど?」

 

 その問いかけに彼女が首を傾げながら肯定すると代案を口にしてみた。

 

「なら、今ではそのような戦いができないと思うので、後で全快できたら――やりましょう」

 

「マジ!?いいの!?」

 

 その案にヴァニカも顔を輝かせた。

 

「えぇ、それでどうします?」

 

「うんうん!今はやめとくよ〜♪」

 

 それでそう確認してみると今度はヴァニカも受け入れ、大人しくする。その様子に苦笑する私に

 

「小紫様!!手当てを」

 

 河松達が手当てをしようと迫ってきた。それに対して私も素直に受け入れる。

 

「よろしくね――痛くてしょうがない」

 

 そうなのだ。今、私は足で何とか立っているが……今の容姿は人が見れば痛々しくなっていた。

 まず胸に深い傷を負わされ、そこから血がすごく流れていた。各部位にも深い傷を負わさていた。

 そのあまりにも痛々しい姿に違わぬように痛みを感じていた。

 だからこそ、ゆっくり座した私が河松達からの応急処置を大人しく受けていた――

 

「……しかし、生きて勝ったのは良かったものの――何という無茶を……」

 

「えぇ――あの翁と話した際にあなたがおっしゃった覚悟を耳にさせて頂きましたが……やはり生きてこそ――私はそう思います」

 

「えぇ――死んではどうにもならんなるがやろう」

 

 その最中に河松達がそれぞれ私に対して意見を述べた。

 今の私が何かを考えていようが――それでも私の事を大切に思っている彼らだからこそ、私が覚悟を決めて戦いに身を寄せようとする姿勢に肝が冷えずにはいられなかったのだろう。

 ましてや、重傷を負わされてしまった今の私の痛々しい姿を目にした彼らはヴィザとの会話を耳にした事で私の意思が固いのを理解したものの、やはり意見を言わずにはいられなかった。

 そんな彼らに私は――

 

「……心配かけたね。あなた達」

 

「「「!!?」」」

 

 穏やかな苦笑を浮かべながら――素直に詫びを入れた。その態度に彼らはなぜか驚愕した。

 ――実は光月おでんの娘であった私があろう事かにその怨敵である〝百獣のカイドウ〟配下に下り――しまいには「赤鞘九人男」の1人であったアシュラ童子をその手で処刑したという事実からもはや私は狂ってしまったかもしれない――彼らがそう考えずにはいられなかった。

 そんな訳で私が河松達にも冷淡に接するだろうとも考えていたのだ。

 そんな彼らの胸内を察した私は苦笑を浮かべた。

 私に言わせればアシュラ童子の件は条件が悪かったからあのような結果になってしまっただけで、自身に仕えてくれている上に純粋に気遣ってくれている河松達の事をぞんざいに扱うつもりは別にない。

 その辺りの認識を誤解している河松達に対して私は――活発的な笑みをみせる。

 

「でも、こればかりは譲れないのよ。この私が心からやりたいと思っているから」

 

「「「!!」」」

 

「……それは」

 

 その笑み、そして表明に彼らも目を見開く。そして私は立ち上がり――宣言する。

 

「この私は世界中の剣士達と戦い、勝利し――いずれ「世界一の剣士」になってみせる!!!」

 

「あなた達もこの私を信じて、その時を見届けなさい!!!」

 

 ハッキリそう宣言した私が豪快な笑みを浮かべた。

 

「「「!!!」」」

 

 その宣言、しまいには笑みに河松達の心臓が強く打つ。

 ――実は彼らもヴィザとあれ程の決闘を披露し、勝利を収めた私の勇姿に魂を震わされずにはいられなかった。

 それだけに留まらずに剣士の頂点に登ると表明した私の豪快な笑みによって本当に叶えるのではとも考えずにいられなかった。

 

――世界一の剣士として君臨する小紫。

 

 その姿――そして、彼女がさらに歩き進んでいくであろうその先を河松達は心から見たくてしょうがなくなった。

 そう――私の全てに魅せられた時点で彼らの半端な腹はようやく完全に決まったといえるかもしれない。

 

「「「――小紫様!!!」」」

 

「!」

 

 突如声を上げた河松に私が反応すると――河松達が揃って私の目前でお辞儀をしていた。

 

「――この河松!!」

 

「このイヌアラシ!!」

 

「このネコマムシ!!」

 

「改めて――あなたに仕えます!!!――光月おでんの娘でもないあなた本人に!!!」

 

 堂々とそう表明した。

 ――今でこそ彼らは私に仕える形になっているが、それはこの私が君主であるおでんの娘であるからに過ぎなかった。すなわち――ある意味〝私〟を見ている訳ではないともいえるかもしれない。

 だが、今の彼らは〝私〟を直接見て――仕える決意を固めたのだ。

 そんな彼らの意志に肝を抜かれた私だが、すぐ微笑んだ。

 

「……ふふっ、相変わった――改めてよろしくぞ。あなた達」

 

「「「ははっ!!」」」

 

 

――河松とイヌアラシとネコマムシは「赤鞘九人男」から完全に離脱し、小紫に仕える事になった……

 

 

 その成り行きにハクジとヴァニカは圧倒されていた。

 

「な、何かすごいね〜」

 

「…」

 

 呆気に取られたヴァニカをよそにハクジは真剣に凝視していた。

 彼もまた誇りを持つ戦士である故か、その背景を完全に把握していないものの河松達の決意には何ともいえない感情が湧き出ずにはいられなかった。

 だからこそ、その事態をただ見届けるハクジだが、ふと視線を向けてみる。

 そこには――何もない……ただ、さっきまで海兵達がいたところだった。

 

「…」

 

 それを目視したハクジは興味を失ったかのように小紫達に視線を戻す――

 

        ●

 

 その戦場から駆けている集団がいた――ケイとタツヒトを筆頭にする海兵達だ。

 襲撃者の1人であるヴィザが撃破されたのを確認した彼らは重傷で動けられない者達に肩を貸しながらその戦場から撤退したのだ。

 そもそも〝サンモン〟での騒動がまだ収束されていない。故に足を休む余裕が彼らにはないのだ。

 

「……ええんかな?あの人らに対しての無干渉決めるん?」

 

「しょうがねぇだろ」

 

 駆けているタツヒトがふとその動向に関しての懸念を口にするとケイが口を開く。

 

「あのジイさんを撃破しちゃった美女さん達はマジで強い……今の状況下でああいうのには下手に出ない方がいい」

 

「……でも、今は弱ってるよな?それやったら――」

 

「いや、出方がどうであれ止める方がいいな」

 

 タツヒトがその事を指摘するとケイがキッパリと言い切った。

 

「……あんなに強いんだぜ?アイツらがどこかに所属せず、そして仲間が他にいないと断言できるか?」

 

「!そりゃそやけど……」

 

 言い放たれたその可能性に口をつぐむタツヒトにケイは苦笑する。

 

「まぁ、不幸中の幸いというか――あの真面目な空手家なんとかいう奴が言ったけど……アイツらは〝サンモン〟に手を出すつもりがない、そして襲撃者に腹を立っているようだ」

 

「……なら、襲撃者にはアイツらをぶつけようぜ」

 

「そうすれば、こっちの負担もなくなる」

 

 不敵な笑みを浮かべながらその策を述べるケイにタツヒトも真面目な表情を浮かべる。

 

「……ほんまにあくどいな〜」

 

「おいおい〜ひどい事を言うなよ〜」

 

 戦略としては正しいかもしれないが、やはりあくどいともいえる策を練るケイにタツヒトは堂々とそう言い張った。

 その見解は心外だというケイからの文句をタツヒトは聞いたのか聞いていないのか気を取り直していた。

 

「……まぁ、今はそれでええ。〝サンモン〟を守らなあかんからな」

 

「そうそう、それでいいよ〜」

 

 自身の使命によりタツヒトが気合いを入れ直すのにケイも満足気に頷く。そのまま彼らは駆けていった――

 

 

 

「…(実はあの美女を狙おうと思ったよな〜)」

 

「(その時だったな……寒気がしたのは……まるで竜の逆鱗に触れちゃったような……)」

 

「(それで分かっちまったな……あの美女にどう手を出そうと瞬間にオレの命が終わるのを……)」

 

「(だから関わらない……いや、マジで)」

 

 そう顔を青くしていたケイの胸内をタツヒトが知る由もないまま――彼らは足を進める……

 

        ●

 

 〝バシレウス〟のある船の船上でオレとハイレインが戦っていた。

 その戦況は互角のようだが……実はオレが全力を少し出しきれていなかったのだ。

 

 ――小紫の事が気にかかっていたからだ。

 

 さっき「見聞色」で確認してみると、彼女はしゃれになれない程の強さを持つ者と対峙していた。

 その事に焦ったオレだが……小紫が「世界一の剣士」を目指しているのを知っているからこそ――彼女を信じてオレはできる事をやるしかなかった。

 だが、やはり気がかりだったオレの本調子でないのをいい事にハイレインが愉快そうに攻撃を仕掛けてきた。

 

「どうした?やはり何かが気になるのか?」

 

「チッ」

 

 オレの様子を目視したハイレインがそう挑発めいた発言をしてきたのにオレは舌打ちをせずにはいられなかった――その時だった。

 

「…!!」

 

 事態が変わったのをオレは理解した――そう、小紫の勝利を。

 その事実にオレは目を見開き――そして笑みを浮かべた。

 ――それなら話は決まった。

 そう考えたオレから湧き出る覇気の勢いがさらに強まった。

 

「!?」

 

 オレの覇気が突如大きくなった――それも尋常ではない程に。その事態に目を見開いたハイレインにオレは雄叫びを上げ――「神武」で叩き潰そうとする。

 

「!?――くぅぅぅ!!」

 

 強烈な勢いで放たれた「神武」にハイレインは耐え――しかし、結局吹っ飛ばされた。それでも何とか態勢を立て直した彼は冷や汗を流しながら――笑みを装う。

 

「……さっきとは何か違うな?何かいい事があったか?」

 

「リュドドド!!まぁな!!だからこそオレも負けられねぇなと思ってな!!」

 

 オレの姿勢が一変されたのに気付いたハイレインは挑発のつもりかそう言い付けるも、対するオレは機嫌を損ねずにそう言い放った。

 その言葉に彼も訳が分からなくなる。

 

「?……何の『隊長!!』――ミラ?」

 

『大変てす!!――ヴィザ翁が討たれました!!!』

 

「!!!?」

 

 そんな彼に突如その報告が入った。

 冷静沈着なミラが電伝虫を通してまでに狼狽しているらしい事に目を見開くハイレインもその内容には固まるしかなかった。

 

 ヴィザの敗北――

 

 それがハイレイン達に与える衝撃は大きかった。

 

「(ヴィザが敗れた……?信じられん……!!!)」

 

 動揺せざるを得なかった彼に追い打ちをかけるかのようにその報告もまた入った。

 

『――実はさっきランバネインも敗れて海軍に捕らえられました!!』

 

「!!?」

 

 その内容にハイレインもさすがに狼狽せずにはいられなかった。だが、すぐ今後の方針に関して頭脳を限界を超えてまで回転させてみる。

 

「(――どうする!?)」

 

「(そもそも、あのヴィザが敗北した場合の手順を全く考えていない!!)」

 

「(そのヴィザに続いてランバネインも敗れたとなると……作戦そのものが難航してしまう!!)」

 

「(クソ!!勝算があるから、今回の作戦を決行したというのに――こんな事になるとは!!!)」

 

 もはや〝万事休す〟といっても過言ではない状況に陥ってしまったハイレインが焦りまくると――電伝虫が再び鳴った。

 

「今度は何だ!!」

 

 余裕が消え失せたハイレインがイラ立ちのあまりについ怒鳴りつけたが、構わずに新たな報告が入ってくる。

 

『―』

 

「…!!」

 

 そして、その内容にハイレインは目を見開く――

 

        ●

 

海軍Gー3基地――

 

 〝サンモン〟に所在する海軍Gー3支部の基地だが――その内部はひどく損害されていた。

 そして――

 

「く、クソ……!!」

 

 そこからうめき声が上げられていた……

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