「――で!?次はどうすんだ!?」
堂々と立つオレが興味あり気にそう問いかけてみる。
それは一見何の事はない光景だが、実は本来なら常人が受けていれば確実に立てられずに倒れていく程の特異性を有する攻撃を両足に受けたにも関わらずに展開されているその事態にハイレインとミラも愕然する……
「――でしたら!更なるツボを突いて、この技の深さを思い知らせてあげましょう!!」
だが腹をくくったのか、すぐ気を引き締めたミラが負わされたダメージにより四つん這いせざるを得ないハイレインの前に立ち構えながら――手に持つ「スピラスキア」から更なる長くて鋭い針を数多く生成してみせる。
「――隊長!サポートをお願いします!」
「!――あぁ!」
その最中で彼女が後ろに留まる彼に対してその要求を出す。それからハイレインもその覚悟を感じ取り、異議を唱えずにそう返した。
その返事を背に受け取ったミラは激しく身動きをする事でその勢いを受けた数々の針がそれぞれ如何なる方向からオレに強烈な勢いで向かっていった。そして、その狙いは……
「(この私には見えるのよ……!……あなたの肉体のツボがね!!)」
そう――〝鍼灸施術〟に長けるように洗練してきた彼女の目にはオレの身体に存在している数々のツボが浮かんで見えているのだ。
それもその中から確実に痛みを与えるタイプのツボを見捉えたミラはそこに針で突く事で刺激を与えようとする。
さっきの状況から針がその肉体を刺し貫く事が叶わなくても――ツボを突く事が可能である事が分かった今、致命的なツボを突けておけば化け物めいたオレでもおそらく……一時的でも無力化できる筈――ミラがそう考えながら、状況を見極めようとする。
一方でオレは――
「リュドドド!!――確かにそれはオレでも効くな!!だから……」
同じくさっきの状況からその効果を率直に認めているオレはまず「神武」を空中に掲げる。
「――食らわない!!」
そう言い張った途端にそれを強烈な勢いで振り回す。
「〝軍荼利泌弘万〟!!!」
その技がさっき「アレクトール」で作り出された生物の群れを粉々にしてきたように数々の針をも粉々にしてやった。
「くっ!!」
その事態にミラが顔をしかめるものの、そのデタラメさを思い知らされた事もあってそうひどい驚きをみせていなかった。といえ、次の手に関して悩まされざるを得なくなったところに――
「――ミラ!!離れろ!!」
「!」
突如響かれたその声に彼女は目を見開き――しかし、すぐ従いその場を離れる。その途端にその後ろから――何と約10匹のサメが湧き出てきた。
「ほぅ……!!」
「――一か八か……!!」
その光景に「神武」を空中に掲げながら回し続けているオレが感嘆する一方で態勢を整えて何とか座しているハイレインが険しい表情を浮かべながらそう言い放った……
さっきまでの自身の攻撃が通れないオレの異様な強さに彼はミラが参戦してくれても事態が好転できる事はないと結論付け、何とかしようと頭脳を全力で巡らせてみた。
やがて着想したその手を打って出てみる事にしたハイレインは全身全霊をかけて「アレクトール」から数々のサメを生み出し、オレに対して襲い掛からせる――
――そして、そのうちに更なる行動に移していった……
とにかく、さっきより素質も勢いも一味違う生物の登場とその迫りに対してオレはー
「リュドドド!!面白れぇ!!――じゃあ、こうだ!!」
「〝八卦螺旋〟!!!」
さっきから回し続けている「神武」をサメの群れに対して勢いよく投げた。
元々「アレクトール」に生み出された生物と「スピラスキア」に生成された針を粉々にするだけはあって勢いが凄まじい回転力に加えてオレの尋常ではない腕力による投擲の勢いも重ねた事でもはやその威力もさらに烈しくなった〝八卦螺旋〟がオレに襲い掛かろうとするサメの群れを横から立て続けに粉々にしていった。
その烈しく回転されている「神武」を難なくキャッチしたオレだが――粉々にされたサメの群れの辛うじて残った欠片がそれでも襲い掛かろうとしてみせる。
「おっと、それんじゃ――もう一度!」
「〝軍荼利泌弘万〟!!!」
だが、その欠片にさえもオレは再びその技で吹き飛ばしていった……
「……っと、これでおしまいか?」
一欠片さえも残されずに完全に消えていったのを確認したオレは試みにそう言ってみる。それに対して――ハイレインとその前に立つミラは険しい表情を浮かべながら……しかし何も言えない。
「…?」
その様にオレはどこか違和感を覚えたが……とりあえず近付いてみる事にした。
「……それで?もう打つ手なしか?」
やがて2人の目前に立ったオレが改めてそう言うが、対する2人は黙り込む……しかも、動くどころか微かの反応さえをもみせない。
「……?妙だな?さっきとは様子が何か違うな?お前らは何かというか、もっと――……!?」
少し戦っただけでもハイレインとミラの気質をある程度理解したオレは今の彼らの様子がさっきとは違うと確認を持つ。
それを指摘しかける途端に脳にある事が浮かんだ。
――「アレクトール」の能力を……
「――そういう事か!?」
それを思い出したオレは目前の異様な状況からある可能性を着想した瞬間、ハイレインとミラが突如オレに抱きついてきた。
ミラの方はとにかく――〝雷電八卦〟を含むオレからの攻撃を受け続けてきた事で溜まったダメージでもはや動けにくくなった筈のハイレインがそうとは思えない程の身動きをみせたという事実、そして……その2人の顔が生気が感じられないように無表情である事から着想したその可能性が的中したのを悟る。
「――こんなものまで……!!」
逆に判明したといえるその事実にさすがに汗を流したオレがそう言いかけた瞬間にその2人の身体が突如発光し――
――その場に広く明るく光り輝かれた……
●
「――体調は?隊長……」
「……あぁ、まぁまぁだ……」
その船の船上にそんな事態が発生した一方でその船の近くの海をその小船が進んでいた……それには数人が乗り込んでいるが――その中には何と、スサノオに抱きついた筈のハイレインとミラの姿もみられた。
「しかし、さすがです。あの化け物の目を欺けられたとは……」
「……一か八かの策が上手くいって良かったよ……だがな、そういう賛辞はやめてくれ。かえって惨めになる」
今自身達があの化け物めいた男からまんまと逃走を成し遂げられたという事実からその状況を作り出してみせたハイレインの尽力をミラが率直に賞賛するが……
対する彼は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらそう言い張る。
そう、実は――オレに抱きついたハイレインとミラは本物のハイレインによって「アレクトール」で生み出された複製人間だ。
なお、さすがに人間を作るとなればかなりの気力がかかってしまう上にいざ作り出されても他の生物より身体能力と素質が少し弱くならざるを得なくなっている。
といえ一時的だが、スサノオの目を欺くぐらいはしっかり果たしてくれたらしい。
ちなみにサメの群れに一瞬気を向けたオレの隙を見逃さなかったハイレインが素早く複製人間を生み出したのも今の状況に至る一因にもなっていた。
……作戦失敗もあるが、自身とミラの攻撃がオレに通じない時点で彼はもう既に逃走に専念する結論を下した。
その心づもりで脳を全力で動かし数々の策を練っていくうちに浮かび上がったその策に全身全霊をかけてみた結果――今こうして逃走を成し遂げたハイレイン達。
――だが、その惨状に変わりはなかった……
「……今ここで言うのもあれのようで申し訳ありませんが……これからどうしましょうか?」
「……そうだな。さっきからそれを考えている」
さっきの賞賛を拒否したハイレインの気持ちを理解できてしまうミラは苦悶の表情を浮かべながら――それでも補佐としてそう言わずにはいられない。
――これからの方針を考える為に……
そう、そもそも〝サンモン〟遠征は〝バシレウス〟議長の座に就くに値する手柄を手にする為にハイレイン達が決行したというのに……その結果はあまりにも――最悪であった。
「……まさか――あのヴィザが討たれたとは……!!これ程に最悪な事はそうあるまい……!!」
判明する被害の程度にハイレインはそう嘆かずにはいられなかった――
そう……弟ランバネインと優秀な部下ヒュースの敗北、〝あれ〟の入手失敗、亡命集団の捕獲失敗――
――だが、それより何なのが――〝バシレウス〟の五指に入る程の猛者であるヴィザの死であった……
〝サンモン〟遠征を成功させるどころか取り返しが付かない程に甚大な被害を出してしまったという事実がハイレイン達を憂鬱にならせざるを得なくなった。
……成果といえば――問題行動が目立ってきたエネドラの排除成功。そして……
「……亡命者2人を捕獲できたんですよね?」
「……だが、被害の程度をみれば――何の慰めにさえもなれない」
その情報はハイレイン達がもう既に把握したが、それをミラが改めて指摘するが彼はそれに価値を感じられなかった。そして――燃え盛っている艦隊を凝視し……
「……今は〝バシレウス〟帰還に専念しよう。考えるのはそれからだ」
「……そうですね」
同じくその光景を目視するミラがその方針に賛同する――そう、作戦失敗と被害をどれだけ嘆けても……もうどうにもならない。なら――今で最適な行動を取るべきだ。
スサノオはもちろんだが、艦隊がああなった以上――その張本人もまだいるかもしれない。そんな状況下で更なる被害を出すのを避ける為に――さっさと〝バシレウス〟へ帰還すべきだと……
そう考えをまとめたハイレイン達の小船が海を静かに進んでいく……
――だが、彼らはまだ知らない……
――災難がまだ終わっていないのを……
――それどころか……
●
「スサノオさん!!」
一方で〝バシレウス〟の船に空中から凄まじい勢いで飛翔する者がいた――フドウだ。
彼は今まで何かをやっていたというと――敬慕する者から任された役に従い、その船以外の艦隊に対して攻撃を仕掛けていたのだ――スサノオさんの邪魔をさせない為に……
なお、艦隊にはそれなりの猛者が数人乗っていて、その彼らと戦うという事態もあったが――それだけだ。
彼が自負する炎にものをいわせてその者達ごと艦隊を燃やしていった。その様を見届けたフドウはただ1隻だけ残っている船を遠目に見守ったが……
そんな最中で彼は気付いた。戦ってなお、それでも無問題だと感じさせられる程のスサノオの覇気に異変が起こったのを……
どうにも、その異変がただではないと勘付いたフドウはす ぐ彼の元に参ろうと飛翔していった……
「スサノオさん!!」
難なく船上に到着したフドウの視線先には――
「ん!――おぉ!フドウか!」
腕を組んでいて――ストレッチをしているオレの姿があった。
その様子に安堵感を覚えたフドウはすぐ気を取り直して状況を把握しようと口を開く。
「すみません。あんたの覇気に異変を感じたんで……」
「あぁ!――いやな、思わぬ攻撃にまんまとやられてな……」
「それが実に効いてな……ま、だからこそ今ストレッチをしているんだ」
その言葉により彼が慌ただしくやってきた理由に合点がいったオレから今の事態に至った経緯を説明した。
そう、さすがに人間型の生物だけはあって今までとは度合いが極めて違う痛みがオレの身体を走らされた。それによってオレもさすがに一時的に身動きできなくなった。
だが、それでも気を失わず――そして身体も動くようになったが……身体を走っている痛みがなかなか収まっていない。それでストレッチをする事で体調を調整しようと試みたのだ。
「!……あんた程の者がそうするとは……そんな事があるんだな」
自身が敵なしだと確認を持つ程のスサノオが痛みを感じさせられたという事実にフドウも驚愕せざるを得なかった。そんな彼にオレは苦笑を浮かべる。
「まぁな――心配かけたか?安心しろ!今はもう大丈夫だ!!」
自身の体調が大体治まってきたのを感じたオレがそう宣する。その言葉にフドウも微かに目を見開き、そして微笑む。
「……フッ、そのようだな」
そう頷いた彼に対して頷き返したオレは続いて周囲を見渡す。
「――よし、こういう様なら……奴らへの落とし前はつけられただろうし――もういいだろう!!」
「このままカイリュー号に戻るぞ!!」
「はい」
今の事態からそう判断したオレは手に持つ電伝虫を通って〝サンモン〟に散らばっている皆にそれを告げる。
「――という事で、船に戻るぞ!!」
『了解!』
『分かりました』
『まぁ!確かにスッキリできたし!』
オレからの告げに皆も問題なく承諾してくれている。その事にオレも満足気に頷く。そんな中で――
『――スサノオさん!!』
「ん!?どうした?」
『えぇ、少々――』
「…!!」
その何か訳アリのような声にオレも険しい表情を浮かべ、目も鋭くする……
――こうして〝バシレウス〟による〝サンモン〟遠征は幕を引いた……