突如〝サンモン〟の平和を脅かした〝バシレウス〟の侵攻はその立案者にして指揮者であるハイレインの逃走により終わりを迎えた。
――だが、だからといってそれで一件落着する訳ではない。
「――被害の程度は?」
海軍Gー3基地――そこでも〝バシレウス〟の侵攻による被害を免れずに損害されているが……その中にある広間に人々が一堂に会していた。
その厳粛な雰囲気が実に漂われている中でそのうちの1人が声を上げた。そんな広間でも中心に位置している男――彼こそが海軍Gー3基地長マサムネ中将である。
その彼の基で行われているのは……海軍Gー3支部の上層部の海兵達が海軍Gー3支部と〝サンモン〟の今後に関しての会議である。
とにかく、マサムネがそう話題を取り上げるのに応えてある男が立ち上がり、口を開く。
その者――マサフミ中将は海軍Gー3基地を含む今の〝サンモン〟全域の状況を全て把握している故にその関連情報をマサムネ達に対して報告しようとする。
「はい。まず〝サンモン〟の被害ですが……」
「――被害状況25%」
「――死者0名、重傷者44名、軽傷者136名」
「――以上が今における〝サンモン〟の被害実態です……詳細は資料をご参照下さい」
その説明、そして配布資料に記載される被害の状況に人々が顔をしかめざるを得なくなった。
「……これはひどいな――ここ近年でも被害がない訳ではなかったが……ここまで被害が及ぶものでもなかった……!」
「あぁ……だが不謹慎かもしれないが、死者がいないのが不幸中の幸いだな」
「そうだな――それもこれも現場の皆がよくやってくれたからでもある」
その被害の規模に関して人々がそう意見を交わす中でマサフミが説明を続ける。
「……続いて――ここ海軍Gー3基地の被害ですが……」
「……被害状況20%」
「……死者数12名、重傷者8名――それが今における海軍Gー3支部の被害実態です……詳細は資料をご参照下さい」
その内容に人々もさっきよりさらに苦悶の表情を浮かべずにはいられなかった。
当然だろう。支部といえ海軍基地――難攻不落であるべき筈の正義の砦がまんまと侵入されて、しまいにはそんな被害を出してしまったのだから……
その動かしがたい事実を前に悔しさを噛みしめざるを得ない人々――の中から声を上げられる。
「――あの爆発は一体どこから!?本当に阻止できなかったのか!?」
その疑問に対してもマサフミが答えようとする。
「それは分かりません……何せ、目撃したであろう者も全員爆発に巻き込まれてしまったので」
「……ですが、皆がしてくれた入念な調査により――その発生点が侵入者の付近であるのが辛うじて分かりました」
「ここから推測になりますが……おそらく侵入者が爆弾を持っていて、それを起動されたんでしょう……なおそれが侵入者自身の意思による自決ななか、もしくは口封じか――その辺りは明確ではありませんが」
その答え……というか、不確かな情報に人々が唸ってしまう――ところで沈黙を守っていたマサムネが口を開く。
「……情報が少ない上に今時点でその結論しか出せない話題を続けても無意味だ。次に移せ」
その威厳で確かな説得力にマサフミも頷き――
「はい、それでは次の議題に入ります――敵対戦力ですが……」
そうして〝バシレウス〟関連情報が海軍Gー3支部の上層部、少なくともその部屋にいる人々に展開される。
「これは亡命者と捕虜の証言を基づいているので間違いはありません」
「……〝バシレウス〟か」
「あそこは不加盟国ながらも手強くて我々でも手を出せなかったから、その全貌が長らく謎だったが――こういう形で知る事になるとはな」
「……しかし、実は一国ではなく四国による連合だったとは……随分と独特な有り様だな」
それにより彼らには謎だった〝バシレウス〟の全貌を知る事ができた事態、そしてその有り様に驚愕せずにはいられなかった。
「……だが、その目的は?」
「あぁ、我々が保護した亡命者達を捕らえにやってきたと思っていたが……今の〝バシレウス〟の状況を聞くとどうにもそれだけではないような……」
「……それは」
そんな中でその疑問を上げられ、それに対して共感の声も上げられた。
彼らも最初こそ海軍Gー3支部が亡命集団を保護したという事情からそういう訳だと思っていたが、たった今知らされた〝バシレウス〟の情勢によりその意図が分からなくなり困惑しているのだ。
一方でマサフミはその疑問には口をつぐんでいた――彼はその目的には心当たりがあるものの、その重要性から果たして口にしていいのだろうかと考え悩んでいるのだ。
そんな彼――を援助するかのようにマサムネが口を開く。
「……その目的には心当たりはある」
「「「!?」」」
「それは本当ですか!?」
その言葉に人々が驚愕する。その反応にマサムネは頷き
「あぁ――ただし、それは後で説明する。今は状況把握だ」
その堂々な言葉に人々もいったん気を引き締め、会議に専念する。
確かに今は海軍Gー3支部の方針を決める為に情報把握が優先だ。それに疑問に対しての答えも後で説明されるんだ。なら、それで良い。
そう人々の意識を整えられたのにマサフミは頷き説明を続ける。今度は――〝バシレウス〟の戦力だ。
「――以上が今回侵攻を決行した〝バシレウス〟側……正確にはハイレイン派の戦力です」
明らかにされたその戦力の詳細に人々が息を飲んでしまう。
「――こっちにはマサムネ中将とマサフミ中将とタクミ中将がいる上に優秀な海兵達がいるといえ……」
「あぁ……間一髪だったかもしれませんね」
「……ヴィザ――あの男の事は我々でも小耳に挟んでいます……それ程の者が来ていたとは……!!」
その戦力の層とそれによってもたらされたであろう効果に人々は冷や汗を流し――そして、今の状況にむしろ安堵感を覚えられた始末だ。
……さらに――
「……確かに奴らの侵攻をしのげられた。それは喜ばしい事だ。ただ――」
「……!!――あぁ!そうだ!あの時――そこにいたのは奴らと我々だけではなく――変な勢力もいたよな!?」
「!!そうそう!私も見たぞ!?あれは観光客らしいが――絶対違うだろ!!」
その重苦しい雰囲気の中で突如取り上げられたその事に人々も次々に声を上げていった。
それもその筈だろう。〝サンモン〟が侵攻を受けている危機的状況の最中で侵入者達とは全く違う謎の勢力の登場、それも観光客らしいという事に人々も混乱せざるを得なかった。
それでその正体に関して人々が騒がしく話し合い、訳が分からないという事も重ねて混乱を深くしていく中でマサムネが声を出す。それも不思議な事にその騒音の中さえでも響くような声で。
「静まれ」
その声が響かれた事で騒いでいた人々が静かになった。そんな状況下で彼がマサフミに確認を投げかける。
「……例の勢力の正体を掴めたか?」
「はい、確定ではないんですが……目撃した海兵達からの情報である海賊団の可能性が浮上しました」
「「「海賊!?」」」
「おいおい!あの時ここに海賊もいたのか!?」
「おそらく」
その正体が海賊であるという可能性に人々が度肝を抜かれた。そんな彼にマサムネが声を掛ける。
「その海賊団とは?そして、その根拠は?」
「えぇ、情報によればその勢力の者らしい2人がいたんですが、その特徴からこの者達である可能性が高いと睨んでいます。それに伴い、その海賊団がそうであるとみています」
その問いかけに応えてマサフミはその2枚の手配書を人々にみせる。
「その2人こそが――〝鉄槌のジャック〟と〝狂獣の小紫〟である可能性が高いです!!」
「従ってこの2人が所属する暴獣海賊団――それこそが謎の勢力の正体かと思われます!!」
●
「――なるほどな」
一方で〝サンモン〟の端っこ辺り――人目になかなか付かないそこにはカイリュー号が留まっていた。
そこでオレ達が議論していた――そう〝サンモン〟での事を話題としていた。
「……〝バシレウス〟――不加盟国の中にはそのようなところもあったとはなぁ」
「えぇ」
そんな中でオレは関心あり気にその独特的な有り様の〝バシレウス〟に関してそう言った。それに相槌を打ったのが――ハッテンである。
そう実は――彼、そしてペインとキサメはオレの指示に従い、〝サンモン〟が陥った状況の背景情報に関しての情報収集を実行したのだ。そう、それこそ……
「――よくやってくれたな!お前ら!」
「まさか――海軍基地に潜り込むとはな……大した度胸だぜ!!」
「いえいえ、ただ――〝バシレウス〟がその基地にも攻撃を仕掛けて混乱が発生したので、それに乗じただけですよ」
「えぇ……やはり、ああいう混乱だとかえって潜りやすくなってしまうな……」
情報を入手したその腕前、その度胸に対してオレが率直に称賛するとハッテンとペインが謙虚にもそう返した――
そう、彼らは大胆にも海軍Gー3基地内に潜り込んでいたのだ。そして、そこでもちろん情報を入手してきたのだ。
なお、さすがに彼らも最初こそ海軍基地に潜り込むつもりはなかったが、〝バシレウス〟が基地にも攻撃を仕掛けていった事態から何かを匂った故にその判断を下したのだ。
そうして基地内に潜り込んだ2人のうちハッテンはその中を探っていくうちに――マサムネ中将とヒュースの戦いに遭遇した。
陰からそれを様子見していた彼はそこで格納庫に潜り込もうとしている兵士の存在に気付いた。抜け目がないハッテンはその者に〝幻火〟を掛けた事で情報を手にできたのだ。
まんまと多くの情報を手にしたハッテンの腕前にキサメは感嘆の声を上げた。
「全くもって脱帽です――私なんか、街で暴れた兵士達に尋問をして情報を手にしただけなんですから」
そして自身の行った事を振り返ってみた彼はその小規模に苦笑せずにはいられなかった。そんな彼にハッテンが声を掛ける。
「そう?話を聞くと君は基地から遠いところにいたんでしょ?もしも気付いたら君なら僕達と同じ活動ができたと思うけどな〜」
「……フッ、そう評価してくれるとありがたいものですね」
彼の意見にキサメが苦笑するが、その笑い方が少し穏やかになっているように見受けられていた。そんな彼らについ微笑んだオレは――皆を見渡す。
「――お前らもスッキリできたかぁ!?」
「「「もちろん〜〜!!」」」
「オレ達の息抜きを邪魔しやがったから、そうなるんだ!!」
「おぉ!!そうとも!!」
その反応に頷いたオレは続いてある者達に声を掛ける。
「――リュドドドドド!!お前らもよくやったじゃねぇか!!聞いたぞ!!――すごい戦いをしたとよぉ!!」
「……フン」
「えぇ」
オレがその事を喜ばしく口にするとその当人達――ゼノンがそっぽを向き、小紫が微笑む。
「特にぃ!!小紫ぃ!!実に最高の戦いだったそうじゃねぇか!!その上に勝ったなんてな!!」
小紫とヴィザの戦いを耳にしたオレはその凄まじさに興奮を抑えらずにはいられなかった。
聞いただけでもこうまで興奮するぐらいだ――きっと生で見ればもっと感動できた筈だ。そう考えるとその戦いを拝められなかったのが悔しく思わずにはいられなかった。
そんなオレに対して小紫は穏やかに微笑む――しかし、その口角が少し震えていた……実はオレからの称賛を受けた彼女はそれが実に誇らしくて喜びの激情を抱いたのだ。
ただ、それを知られたくなくて上品に振る舞っているのだ。そんな彼女ができるだけ冷静に口を開く。
「当然ですよ――あなたの隣に立つ者として、それぐらいを成し遂げなきゃ――話にならないんですからね」
「!!……リュドドド……お前って奴は……!」
「スサノオさん……」
熱っぽく見つめ合うオレの間には――桃色の雰囲気が漂っていた……
「……随分と余裕だな」
だが、その雰囲気を打ち破るかのようにゼノンが声を掛けてきた。少し不機嫌そうなに顔をしかめている彼にもオレは笑みを浮かべる。
なお――オレとの見つめ合いを邪魔された小紫はじっと彼を凝視していた……
「おう!お前も中々だと聞いているぞ!!」
「……あぁ、お前はもちろん――そこにいるヤマトを倒す為には立ち留まらない訳にはいかないんでな」
率直に称賛するオレの態度に目を細めるゼノンはそう宣しながら――ヤマトを凝視する。その視線に対して彼女は怯まず、それどころか――ニコリと微笑み返す。
「――ははっ!!いい熱意じゃないか!!――いつでも歓迎だよ!!」
「……フン」
負の感情を抱かずに親しく接しようとする彼女の態度によりゼノンは毒気を抜かれ――そっぽを向いた。そんな彼らについニャリとしてしまうオレに対して今度はジャックが声を掛ける。
「……ただ、オレ達は予想より目立ちすぎた――〝バシレウス〟の奴らはとにかく、海軍の奴らに気付かれたかもしれねぇ……!」
「……それはそうですね。少々名があったらしいヴィザ翁とあれだけの戦いをしたこの私も意識されるのでしょうね」
ゼノンとランバネインの戦いの規模、そしてその場には海兵がいたという事実からジャックがその懸念を口にすると小紫もヴィザとの戦いの規模を思い返し、その可能性をも口にする。
そんな彼女達にオレは笑みを浮かべる。
「リュドドド!!別に構わねぇよ!!オレ達がバレねぇようにしているのは余計な面倒事を増やすのを防ぐ為だからな!!ましてや〝サンモン〟を出た今となってはな!!」
「――そうだな」
「そうですね――ふふっ、これで手配書の金額も……!」
その言葉に2人も相槌を打ち、そして小紫は何かほくそ笑んでいた……
とにかく騒いでいるオレ達に今度はペインが声を掛ける。
「……それで〝バシレウス〟はこのまま放置で?」
その問いかけによりオレもすぐ真剣な表情を浮かべる。
「……そうだな――ハッテン、奴らの目的は一体何だったんだ?」
そしてハッテンにそう確認してみる。それに彼は頷き――
「あぁ、奴らが〝サンモン〟を攻め込んだのは海軍が回収したものを手にする為だったんだ。それが――」
「――「メーテール」……というものらしい」