ONE PIECE 荒ぶる暴獣の猛威   作:ウェイブロック

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第137話〝場違いな存在〟

 〝バシレウス〟の中枢として建てられた城――その外観は実に風格があって、その力を表現しているようだった。

 それ程の城は今――突如空を飛翔する帆船の突撃を受けていた。

 本来なら海を渡る筈の帆船が空を飛翔するだけでも十分異常なのに、それが城に押し込んだというあまりにも衝撃的な事態に城下にいる人々も固まらざるを得なくなった。

 それ程に人々を驚愕させた事態だが――実はオレの〝風雲〟で空を浮かばせられたカイリュー号が〝バシレウス〟の中枢を囲む島々を通り越して、そのまま中枢の城に強引に押し込むという形で辿り着けたのだ。

 その事実を知らずその光景に固まり続けた人々だが――事態を少しずつ飲み込むうちにようやく我に返った。

 

「て、敵襲だ!!」

 

「皆!!動けぇ!!」

 

 認識したこの事態から敵襲だと判断した人々は混乱しながらも素早く自身のやるべき事を果たそうと動き始める――

 城下の人々がそう動き出しているのをカイリュー号の船上から目視できたオレはついニャリとした。

 

「――よ〜し!お前ら!!いいかぁ!?」

 

 そしてオレが皆を見渡しながらその形勢についての確認を投げかけてみるともう既に準備万端な皆が応えてくれた。

 

「「「おう!!」」」

 

「もちろん〜!!」

 

「オォ!出陣じゃぁ!!」

 

 それはそりゃ気持ちいいその雄叫びに頷いたオレは続いてある方向へ視線を向けた。そこには――

 

「――お前らはどうだ!?」

 

「――はい!」

 

「大丈夫です!」

 

 オレからの問いかけに答えたのは――何と子供達だった……そう〝バシレウス〟からの脱走集団であった。

 海軍G-3支部で保護されている筈の彼らがなぜかカイリュー号に乗っていたのだ。そして、それだけではなく……

 

「……これで良かったのかな……?」

 

 そのそばには何と――たった一人だが、海兵の姿もあった。

 アンダーリムのメガネをかけている一見地味なその青年は冷や汗をすごく流している程に不安に感じていた。

 ……まぁ、海賊船の中に海兵がたった一人でいるからな……その胸内がすごく安らかではないのも理解できる。

 それ故にそのそわそわしている様子に海賊であるオレでもつい苦笑せざるを得なかった……そして、なぜそうなったのか――その理由を思い出した……

 

        ●

 

時は少し遡って――それはオレが〝バシレウス〟に向かうのを決意した直後であった。

 

 〝バシレウス〟の攻撃を受けてしまった海軍G-3基地ではその損害を修復されているが……その中のある部屋には――子供達が留まっていた。

 彼らはもちろん亡命集団である……なんだが、海軍に保護してもらえた事で安全になった筈の彼らはしかし険しい表情を浮かべていた。

 

「……あれから時間が過ぎたけど……ノーマンとチカを救出できたと聞いていないな」

 

「……っていうか、そもそもちゃんと動いているのか……?」

 

 重苦しい雰囲気の中で子供達はそう議論し始めた――そう、実はまず仲間2人を〝バシレウス〟にさらわれてしまったのだ。

 すぐ助けに行こうとした子供達をタクミ中将が説得した事で一旦海軍に任せてみたが……

 ――それから時が過ぎても……2人が無事に救出されたという情報を受け取れていない。

 その事実に子供達も少しずつイラ立たずにはいられなくなったのだ。それに伴い仲間達を助けに行かせてもらえない、それどころか今でも救助できていない海軍に対して不信感を抱くようになってしまう……

 子供達がその感情を抱き始めているのに勘付いたのか、ついさっきまではイラついていた彼らをタクミ中将が落ち着かせ続けていたが……

 

「……ここでこんな事を言いたくはないけど――」

 

 それでも焦燥感を収められていない子供達の中から1人が声を上げる。

 

「――いくら海軍が正義の軍隊といっても……所詮できる事は限られてるんでしょ?ここ――〝サンモン〟がこうなっている今ではかえって」

 

「……同感だな。〝サンモン〟の復興と非加盟国の人間救出……海軍にとってはどっちを優先するのかは目に見える」

 

 暗い調子で言い張られるその考えに黒髪でつり目な少年――レイも相槌を打つ。子供達の中でも最も合理的である彼が続いてそう指摘する。

 実は子供ながら異常に聡明である子供達はその意見には異議を唱えられなかった。そして結論を出さざるを得なくなった――海軍がノーマンとチカを救出するつもりがないというのを……

 

「――クソ!!所詮「世界政府」の犬か!!」

 

 その可能性に至った途端に子供達の中で1人がそう怒りを露わにする。そんな彼を周りの子達が宥める。

 

「落ち着いて――気持ちは分かるけど」

 

「あぁ、そうだよな〜ムカつくよな〜」

 

 もっとも、宥める子達も同じくイラついていた――何せ、周囲が自身達の存在を見てみないふりしているように感じられずにはいられないだろう。

 イラつきが強まってきた子供達――の中から突如声を上げられる。子供達が一気に視線を向けるとそこには――赤毛の女の子……エマがいた。

 彼女は真剣な表情を浮かべながら子供達に対して口を開き始める。

 

「今嘆いてもしょうがないよ!――ノーマンとチカを助ける為に何かができるのかを考えよう!!」

 

「「「!」」」

 

 エマが言い張る内容に子供達もハッとする。続いてレイも頷く。

 

「あぁ、海軍に任せた事で時間を無駄にしてしまった……急がなきゃな」

 

「「「!」」」

 

 その意見に子供達も再びハッとする。

 

「〜〜そ、そうね!こうなる以上、私達が動かなきゃ!」

 

「そ、そうだね!」

 

 自身達のリーダー的存在であるエマとレイの姿勢を受けて子供達も気を引き締める。そして

 

「――ノーマンとチカを助けるのはもちろんけど、問題はどこに逃げるか……」

 

「……ん〜ここも信用できなくなったし――」

 

 彼らは自身達にとって果たすべき目標、それにはできる事を考え付こうと脳を全力で回らせる。そんな子供達――に突如声を掛けられる。

 

「――やぁ、君達」

 

「「「!!」」」

 

 子供達のいる部屋に1人の海兵が入ってきたのだ。その青年が穏やかに挨拶したのに対して子供達はしかし警戒する――が、すぐ気付く。

 

「――あれ!?あなた……前追手が来た時に僕達を助けてくれた海兵さんだ!」

 

「本当だ!」

 

 目を真ん丸にする子供達に海兵――ペインは苦笑した。

 ――そう、彼は再び海兵に変装して基地に潜入したのだ。そして子供達の前に再び姿を現したペインは優しく声を掛ける。

 

「――ごめんな?仲間をなかなか救出できなくて……私達の事を信じられなくなったんだろう?」

 

「!ま、まぁ…それは……」

 

「そ、その…ごめんなさい……」

 

 その誠実な詫びに海軍に対して腹立っていた子供達も少し狼狽えた。その様子にペインは苦笑する。

 

「ハハッ……被害者である君達が謝る事はないよ」

 

「そ、それはそうかもしれませんが……」

 

「な、何ていうか……」

 

 優しくそう言ってくれる彼の姿勢に子供達もつい心を許しかけてしまう。だが――

 

「……それで一体何の用ですか?」

 

 一方でレイは警戒を解かずにそう言い放つ。

 合理的である上に如何なる時でも冷静でいるようにしている彼はペインに対して注意を払っている――これはレイ自身の素質もそうだが、仲間達を守る為にはちょうど良いのだ。海軍に頼れられないのが分かった今ではかえってだ。

 その問いかけに対してペインも真剣な表情を浮かべる。

 

「うん!私がここに来たのは――君達に聞きたい事があるからなんだ」

 

 真剣な彼の言葉に子供達はつい身を引き締める。そんな彼らにペインは――それを堂々と言う。

 

「――君達が持っている〝バシレウス〟に関しての情報を教えてもらいたいんだ」

 

「「「!!」」」

 

 その内容に子供達はもちろんレイまでも目を見開かざるを得なかった。

 

 ……実は〝バシレウス〟に向かう決意をしたスサノオ達だが――肝心の本拠地を知り得ていなかった。

 兵士から情報を取ってきたハッテンもそうなるのを想定しなかった為にその辺りの情報を取っていなかったのだ。

 それで――その情報を手にする為にペイン、そしてハッテンとキサメがもう一度海軍G-3基地に忍び込んでいったのだ。そこは侵入を受けた事で修復を進めると同時に警戒をしているようだが、それでも高い隠密能力を持つ3人にとってものではなかった。

 とにかく――まずはキサメは基地のどこかで規模が小さい、しかし放置できない程のトラブルを起こした事で海兵達の注意を集めるようにする。それによってハッテンとペインの情報収集も円滑に進められていくだろう。

 それでハッテンは牢に入れられたであろう〝バシレウス〟の人間から、ペインの方は〝バシレウス〟から亡命してきた子供達から情報を手にする事になっているのだ。

 

 〝バシレウス〟の事を教えてくれという要求に驚愕している子供達に対してペインはできるだけ穏やかで誠実な姿勢で言葉を続けようとする。

 

「私達は――〝バシレウス〟に向かおうと考えているんだ。その為に詳しい情報を必要としているんだよ」

 

「「「…!!!」」」

 

 情報を求められる理由、そしてその真剣さに子供達も心揺れていた。

 

「っ…だが――」

 

 まだ疑念を抱いているレイが何かを言おうとする――その瞬間にすぐエマが口を開いてきた。

 

「――本当に〝バシレウス〟に行くんですよね!?」

 

 真剣な表情を浮かべている彼女はペインの目をまっすぐ凝視しながらそう確認する。その目から彼は目をそらさず――頷く。

 

「あぁ、行くつもりだ」

 

「――それなら教えますが……条件が1つあるんです!」

 

 その即答に何か意を決したのか彼女がそう言い張った。それにペインも身を引き締める。

 

「それは?」

 

「――私達を連れて行って下さい!!」

 

「!?」

 

 だが、予想外の内容に彼も少し動揺せざるを得なかった。

 

「――だが、それは」

 

 せっかく亡命してきたのにその地に彼女達を再び連れていくという事に彼も困惑しているところにエマを支援するかのように子供達も続く。

 

「私達は仲間が心配なんです!!」

 

「オレ達は仲間を迎えに行かなければならねぇんだよ!!」

 

「…!!」

 

 さらわれた仲間の身を案じる子供達の強い目差しにペインもハッとする。しばらく思案に耽る彼は頷き

 

「……あぁ、連れて行こう」

 

「「「!!」」」

 

 真摯に宣されたその言葉に子供達も顔を明るくした。

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 もちろん明るい表情を浮かべたエマがそれでも冷静さを努めながらそう確認を投げたのに対してペインは優しく微笑み――頷く。

 

「あぁ」

 

 ……普通に考えれば、いくら他でもならぬ子供達自身が望んでいてもわざわざ逃げてきたところに彼らを連れて行く等――愚であるしかいいようがない。

 ましてや彼が親切に子供達を連れて行く筋合いはない。

 ……だが、子供達のそうまでしても仲間の身を案じる気持ちをペインも理解できてしまうのだ。彼自身もある意味そうともいえるのだから――

 

「…(おそらく、お前もそうしただろうな)」

 

 つい過去に想いを馳せずにはいられなかった彼がそう考えていた。だからこそ、子供達の意思を汲んで彼らを連れて行く事に決めたのだ。

 

「(こうなると――スサノオさんに話を付けなればならないな……)」

 

 もちろん子供達をカイリュー号に連れて行く場合に関しても彼が思案に耽らざるを得なくなった――ところに

 

「ま、待って!」

 

「「「!?」」」

 

 その場に1人の海兵が新たに姿を現してきた。

 それはメガネをかける地味な青年だった。彼が「正義」の文字を刻んだコートを着用していないという事からそう高くはないだろう。その姿にペインは目を細める。

 

「(准尉以下の海兵……だが、ここで下手な騒ぎを起こしたくはない。なら、ここは)何事ですか?」

 

 胸内そう考えた彼は一旦真剣な表情を浮かべながらそう口にする。それを受けて青年は冷や汗を流しながら、それでも口を開く。

 

「あ、いや……子供達を〝バシレウス〟に連れて行くなんて……危なくないですか!?せっかく亡命してきたのに!」

 

 そのもっともな懸念を口にする彼に対してペインはだからこそ慎重に言葉を選ぼうとする。

 

「えぇ、その懸念はもっともです。だから――」

 

 だが、言葉を続けようとする彼を突如子供達が遮った。

 

「あ!ここに着いた時に会った海兵だ!」

 

「あっ!本当だ!」

 

「あぁ!あのメガネだ!」

 

「「!!」」

 

 その中の1人が目を真ん丸にしながらそう指摘した事で他の子達もその海兵の事に気付いた――そう、実は子供達が海軍G-3基地に辿り着いた時に最初に遭遇した海兵こそが――彼なのであった。

 そういう背景な故か子供達は彼に気付けたのだ。

 そんな彼らと自身を凝視してくるペインに対して海兵は苦笑しながら手を上げた……

 

「や、やぁ……」

 

 ――その海兵の名はオサム。海軍G-3支部の伍長である。

 彼は子供達の事が気がかりな故にその様子見にやってきたのだ。

 

 

――そうして物事は予想外の方向に進む事になる……

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