〝バシレウス〟の本拠地の情報を手にする為にそこから亡命してきたといわれる子供達との議論を試みていたペイン。
その議論が予想外の展開で終わろうとする――その瞬間に1人の海兵が登場してきた。
その青年――オサムの登場が一応終わった話に何かをもたらされるのだろうか……
「や、やぁ……」
取り柄がない自身の事に気付いてくれた子供達に対してオサムは苦笑しながら手を上げる事で応えた。その途端に子供達もはしゃぎ始めた。
「メガネだ!」
「あれから会えなかったから気になってたんだ〜!」
どうやら海軍に不信感を抱く中で彼に対しては負の感情を抱いていないらしい子供達が陽気な様子で次々にしゃべっていった。
その明るさ、そして初対面以来彼らに顔を見せていないという事実にオサムも苦笑を深くせざるを得なくなる。
確かに海軍G-3基地に辿り着いた子供達と最初に遭遇した彼であるが、その地位が高くはない故にそれより上の地位に就く海兵に彼らの事を託すしかできる事はなかった。
だが、正義感を持つ上に面倒見が良いところがあるオサムはそれ以来も子供達の事を気にかけていた。〝バシレウス〟の侵攻が発生してしまった事でますます気にならずにはいられなかった彼は彼らの今の様子を見に行こうとしたのだ。
――そこで子供達が何と亡命してきた筈の〝バシレウス〟に連れて行くのを要求していて、それに海兵が応えようとしている場面にオサムが遭遇する事になった。
突然の事である故に混乱しながら反応的に隠れた彼だが、子供達の要求にペインが応えるのを認識した途端に素早く彼らを制止しようとした。
まだ混乱が収まっていないオサムはそれでもペインと子供達が行おうとする事の無茶さを彼ら自身に理解してもらう為に言葉を選ぼうとするが――
そこに自身に気付いてくれた子供達が親しく接してきた事で彼の緊張感が解かれてしまった。ただ、そうなった事で逆に少しずつ冷静になってきた頭を再び混乱させられてしまったオサム――にペインが声を掛ける。
「あの――えぇっと……名前何でしたっけ?」
「!――オサム伍長です!」
「オサム伍長でしたか。私はナガト准尉です」
その問いかけを受けた彼が自己紹介して敬礼したのに対してペインも敬礼を返した。もっとも、彼は身分を偽ったが……
一旦挨拶し終えた2人は続いて議論を始める。
「さ、さっきも言いましたが――その子達を〝バシレウス〟に連れて行くのは危険です!いくら、その子達が現場に詳しいだろうが――自ら希望していてもです!」
子供達を〝サンモン〟への侵攻を行ったあの〝バシレウス〟に連れて行く事の危険性を伝えようと努めるオサムに対してペインも真剣な表情を浮かべながら頷く。
「――えぇ、その危険性はしっかり理解しております。確かにこの子達が自ら希望しても止めるのが道理です」
その意見を認めるかのように説く彼にオサムは少し安堵の表情を浮かべ、一方で子供達も顔を激しくしかめた。だが、そんな彼らに構わずにペインが言葉を続ける。
「――ですが、子供がさらわれたんです」
「そして、この子達が助けを求めている――海兵である我々が動かない訳にはいかないのでしょう」
「「「!!」」
堂々と厳かにそう言い張る彼の姿にその場にいる人々が少し気圧された。
「……そ、その――上層部がその事を認めているんですか?」
辛うじてオサムが投げかけてみたその確認に対して彼は――キッパリ答えた。
「いえ、認めていません。それどころか――彼らは知らない筈。これは我々の独断ですから」
「「「!!?」」」
それはある意味海軍に対しての背任行為だとみられかねない事を堂々と宣したペインにオサムも肝を抜かれた。冷や汗をすごく流している彼が何とか声を出してみせる。
「き、気は確かですか!?勝手に動いたら……!!」
上層部の意思を求めずに独断で動けようとするペインを何とか止めようとするオサムに対して彼は口を開く。
「えぇ、海軍の者として取る行動を考えれば――確かに愚ですね」
そう断言した彼の顔には――不敵な笑みが浮かんでいた。
「――ですが、我々は正義の海兵です。そんな我々が助けを求める子供達に背を向けるのでしょうか……?」
「!!」
――それはあまりにも青臭い精神論だ。
……だが、それに対してオサムは声を失った。それもその筈。彼自身も正義を成し遂げたいと考えた為に海軍に入ったのだ。
そんな背景だからこそ、今は組織内で生きる厳しさを知ってしまったオサムでもその考えをバカにできなかった。
つい固まった彼――に子供達が素早く近寄った。
「!」
「お願いだよ!メガネ!」
「私達はただ仲間を助けたいだけなんです!」
「あんた達、海軍に迷惑をかける訳でもないから別にいいんだろ!」
「…!」
仲間の身を案じる故に懇願してくる子供達の姿勢にオサムも息を呑んでしまう。
――オサム伍長
彼は良くいえば真面目で正義感が強いが……悪くいえば向こう見ずな男である。
……まず、彼は基本的にはかなりの慎重派だ。それは最悪の事態を想定してそれを回避しようとする程だ。その為に一見常識人にみえらるんだが……
一方で異常な程に利他的な側面を併せ持っており、自身の弱さと不利益を全て理解した上で人助けに突っ走る傾向もまたみられている。
もっと言うなら――目的の為ならば自身の安否と周囲からの評価は全く勘定に入れていない割と常軌を逸した精神性の持ち主ともいえよう。
現に――彼は過去に海軍の入隊試験の結果に納得がいかず、不合格になった理由を説明された上で後方支援として入る事を勧められたのを受け入れられず、基地に乗り込んで上層部に直談判しようとした事もあった。
……なお、こうした無謀な行動は自身がこうするべきと思う事から逃げないようにやっているという考えを基に行動しているらしい。
すなわち、自身の弱さを自覚しているからこその自戒であるとも意識しているといえるだろう。
そのような性分である彼が――今の状況に遭遇し、そして……子供達からの懇願を受けた。もちろん、その瞬間にオサムの頭に〝それ〟が思い浮かんできたのだ。
その途端に意を決したかのような表情を浮かべた彼の口が開かれる。
「――分かった!君達を止めない!!」
「「「!!」」」
さっきの困惑している様子とは一変させて真剣な表情を突如浮かべた彼にその場の人々が肝を引かれたものの、宣されたその内容に子供達は顔を明るくした。そしてペインは冷静にオサムに声を掛けようとする。
「――オサム伍長。そ「そして!」れ――!?」
だが、彼が何かを言おうとするのを遮ったオサムが続いてそれを口にする。
「――僕を仲間に加えて下さい!!」
「!」
それは真剣な表情を確かに浮かべている彼からの堂々とする志望にペインも眉を上げた。
「……さっきも言ったが、これは我々の独断だ。だからバレたらただでは済まなくなるが――それでもか?」
その深刻性から険しい表情を浮かべた彼からそう確認してくれたのに対してオサムは……
「はい……しかし!僕がそうするべきだと考えているからです!!」
「そう考えた以上――やらない訳にはいきません!!」
自身の考え、信念を口にする彼の目差しは強かった……それにペインももはや何も言えなくなった。
「…(この者はどうやら強い正義感を持っているようだから、最初はオレ達を制止し次にその要求を出してくるまでは読めたが……)」
実は子供達の要求に応えようとする時に制止してきたオサムの姿勢からその強き正義感を見抜いていた彼は言葉を選んで場をさりげなく誘導する事で事態を収拾させようとしていたのだ。
「(だが、ここまで強いとはな……これは――君を仲間に加えないと言っても頑として動かないんだろうな。こりゃ)」
しかし、彼の正義感の強さを見間違えてしまったペインは少々妙な事になった状況の進捗に関して考えられざるを得なくなった。
そして――
「……分かりました。そこまで言うのでしたら――迎え入れない訳にはいきませんね」
「…!」
しばらく思案に耽った彼が根負けしたかのようにそう宣するとオサムも思わず表情を少し崩しかけた――が、そこをペインが鋭く言い付けてきた。
「ただし!さっきも言いましたが、そうなった以上君の身もただではならなくなりました――それを理解して、そして覚悟してくれ」
「!……はい……!」
その忠告とそれから読み取れる深刻性にオサムも身を引き締め――深く頷いた。それを目視したペインは続いてその場を見渡して……
「――これからさらわれた子供を救出しに〝バシレウス〟に向かう!!」
「「「はい!!」」」
堂々としたその宣言に子供達とオサムも頷いた――
●
「「「……へ?」」」
さらわれた子供を救出する為に〝バシレウス〟に向かうにはまず海軍G-3基地から秘密裏に上手く出られた子供達とオサムだが――辿り着いた場で目を真ん丸にして口を大きく開けていた。
それもその筈。何せ――
「「「…」」」
彼らが着いたのはカイリュー号――海賊船であったからだ。
無論――そこに乗っている海賊達が彼らを囲んでいた。
「……何だぁ?テメェらは……?」
「……なぜガキ共が……?」
「……っていうか!何で海兵がここにいるんだ!?」
その海賊達も彼らの存在に訝しげにしていた。
そんな彼らに凄まれている子供達とオサムは今身を置かれている状況に呆然とした。
「な、ナガトさん……こ、これは……?」
完全に訳が分からないその状況を把握する為に困惑しながら顔を向けたオサムの目には――海兵の軍服を脱いで普段の服装に戻ったペインの姿が映されていた。
その姿を目視した彼はその時に今の状況を悟った――
「あ、あんた――海賊だったのか!!」
「その通り」
それはすごく驚愕したオサムの言葉を彼が率直に肯定した。
その途端にオサムはすぐ険しい表情を浮かべながら持ってきた銃を素早く構えた。だが、その姿勢を受けて海賊達ももちろん身構えた。
「おぉん!?やんのか!?コラ!!」
「ハッ!――ここでやろうとは……いい度胸している!!」
「くっ……!!」
海賊船にたった1人だけ乗り込んできただけにあきず、自身達を相手に戦おうとする彼の姿勢にナメられたようで良い気分ではない海賊達はそれぞれ武器を手にしながら殺気立った。
そんな彼らに囲まれているオサムは歯を食いしばらざるを得なかった。
今身を置かれる状況ももちろんだが――その上にここに連れてきてしまった子供達を何としてでも逃さなければならないという義務もあるので問題はかなり深刻であったからだ。
「(クソ!!こういう事になるなんて……!!上層部が認めていない時点で怪しむべきだったか!!)」
今の状況へ至る過程を思い返した彼は自身の失態を後悔せずにはいられなかったが……
「(――いや!いくら失態を悔やんでもしょうがない!!今はここから子供達を逃がす手を考えなければ……!!)」
それでも何とか気を引き締めてみせたオサムは海賊達への警戒を解かず――そして子供達に視線を一瞬向けてみる。肝心の彼らは――縮み上がっていた。
当然だ。突如海賊達に囲まれて凄まれている状況だ。半端ではない勇気を持っている子供達でも怯えてしまうのも無理ではなかった。
その姿を目視した彼は海兵としてますます腹をくくった。
「(この僕は――海兵だ!!)」
「(判断を間違えてしまったが……だからって、ここで指をくわえる訳にはいかない!!)」
……といえ、多くの海賊に囲まれているオサム――それは実に多勢に無勢だ。そんな状況にいる彼はそれでも子供達を何としてでも逃がそうと奮起していた。
一方でその意思に勘付いたのか海賊達もますます殺気立ち始める。
もはや一触即発――そんなところにその声が響かれた。
「落ち着け、オサム。大丈夫だ――君達も安心してくれ」
海兵のフリをやめた筈のペインがオサムと子供達に対して変わらない調子で声を掛けた。
「「「!」」」
そんな彼の姿勢にその場にいる人々が驚愕し――そして眉をひそめた。
「……ヤヒコ。そういえば、コイツらを連れてきたのはお前だったな……どういうつもりだ?」
「あぁ――なぜ、この船に海兵とガキ共を連れて来やがったんだ?」
海賊達が今の状況を作った張本人であるペインにその意図を問い詰める。その様子にオサムも訝しげにした。
「(!!……海賊達も予想外なのか……?これは一体……?)」
――それは誰も彼も訳が分からなくなったその不明瞭な状況だった。それに対して人々も困惑していた……その時だった。
「何事だ?」
「「「!!」」」
突如その場に響かれたその声に人々がハッとし、視線を一気に向ける。そこには――海賊がいた。
――ただし、ただの者ではない。それはあまりにもデカくて風貌も厳つい上に半端ではない威圧感を放っていた。
そんな大男――〝暴獣のスサノオ〟がオサム達の前にその姿を現してきたのだ……