どう見てもただの者ではない、それどころか強大な威圧感を放つ海賊――〝暴獣のスサノオ〟の登場によってその場の雰囲気が一変された。
「スサノオさん!」
「スサノオさん……」
元々彼と関わっている海賊達は今更戦慄する事なく親しげに呼びかけるが……それでもその威圧感には畏敬の感情を抱えらざるを得なかった。
――そして、オサムと子供達は……
「「「…!!!」」」
その顔を青ざめて固まっていた――
――無理もないかもしれない……海賊船にまんまと乗ってしまった上に海賊達に囲まれるだけでも危機的状況なのに、そこに怪物染みた大男が目前に現れてきたのだ。
これでは彼らも慄いても仕方がないだろう。
「(や、ヤバイ……詰んだ)」
ついさっきは子供達を何としてでも逃がそうと奮起していたオサムでもそう諦念を抱かざるを得なかった。
なお、子供達の方では……あまりの恐怖感を抱いたらしく声を出せず涙を少し流しかけていた。
そんな彼ら――に気付いたのかスサノオが凝視する。
「「「…!」」」
その視線にオサムと子供達も今更ようやく震え上がった。だが、それに構わずに彼の口が開かれようとする。
それを見た彼らはきっと死刑宣言されるだろうと考え、それによって恐怖感が強まり――目を固く閉じた。
――そしてスサノオは宣する……
「……いや、何で?」
――オレは純粋な疑問符を浮かべながら首を傾げていた。
「……いやいや?なぜ海兵がここにいるんだ?」
「しかも……子供?――までいるんだ?」
カイリュー号に海兵と子供達――海賊船には場違いな存在がいるという事態にオレもその疑問を口にせずにはいられなかった。
「「「……へ?」」」
その途端にオサムと子供達は何かがあったのかポカンとした。そんな彼らをよそにペインが素早く口を開いてきた。
「スサノオさん。オレが説明します」
「ぜひ、そうしてくれ」
どうやら、今の状況の張本人であるらしい彼の言葉にオレもその背景をすぐ把握したい為にそう言った。
それにペインも頷き――説明した。
――今の状況こそが自身が行った海軍G-3基地内での情報収集の結果であるという事を……
そう〝バシレウス〟から亡命した子供達の要求とオサムの志願に関しての事を彼が詳しく説明した。
それを聞いたオレは――
「……なるほどなぁ〜それでこの状況か」
納得し、そして目前の状況を改めて見てみる事でその背景を完全に把握でき――苦笑を浮かべた。
そんなオレに対してペインは頭を下げた。
「申し訳ありません。あなたの意見を聞くべきなのは理解していますが……あの時はそれが困難な状態でしたので独断せざるを得ませんでした」
潔く謝罪してきた彼の姿勢にオレもつい苦笑を深くした。
「リュドドド……まぁ、そんな状況じゃ――仕方がねぇな」
聞いてみれば実に複雑な状況に遭いながらも思案して判断を下してみせたペインにオレは感心せざるを得なかった。
それに続いて新たな声が響かれる。
「――といえ、亡命者達を連れて行くまではいいとして……海兵まで連れてくるとは……何というか――予想を超えてくれるね」
「えぇ、さすがですね」
――このオレに同行していたハッテンとキサメがペインに対して感心、そして呆れの混ぜ合わせた反応をみせていた。
もちろん彼らも同じく情報収集を行っていて、それで情報を確かに入手できたが……その収穫さえを超える結果を出してきたペインに2人も色んな意味で肝を抜かれたのだ。
――まぁ、仲間の身を案じる子供達の要求を聞き届けて連れていくまではいい。海兵を連れていく事に関しては彼が頑固で強い正義感を持っているのもあって海軍基地内で面倒事を起こさない為にあえてそういう判断を下らざるを得なくなるのは理解する。
――だが、それでもやはり海兵をカイリュー号に連れてきたのは大胆か何とかいうか……
ペインの理解を超えた行為に関して考え悩まされる2人に対して彼が声を掛ける。
「しょうがないだろう――今更海軍基地内で面倒事を起こす訳にはいかないんだろう?」
「……それはそうですけど」
「しかし……」
「……それに――」
「「!」」
何の事はなく平然とそう言い張る彼の姿勢に2人も何ともいえない表情を浮かべた。それで何かを言おうとする彼らにペインは不敵な笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「たった1人で、しかも強くはない海兵と子供達だ。別に問題はない筈だ」
「……仮にどんな者がやってきても――別に暴獣海賊団が揺るぐ事はないんだろう?」
「「「…」」」
堂々とそう言い放った彼にハッテンとキサメ、そしてオレも口を一文字にした。
――つい入ってきてからそんなに年月を経ていないにも関わらず暴獣海賊団に対して大きな信頼を寄せているペインの姿勢にオレ達も何ともいえない感情を抱いたのだ。
そうして――その場に静寂が広げられた……
「……思ったんですが――」
そんな中でキサメが口を開く。
「ヤヒコって……天然では?」
「あ、やっぱ君も思ってた?」
「リュドドド……」
彼が口にしたその意見にハッテンも共感していて、オレも苦笑を浮かべるが否定もしなかった。そんなオレ達の意に気付かないのかペインが純粋に首を傾げた。
何だかんだで少し柔らかい雰囲気が漂わられたが――
「――さて!」
その雰囲気を切り替える為にオレはそう声を出す。
「雑談はここまでにして――検証を始めるか!」
「そうですね」
「確かに」
「そうしましょう」
オレがそう宣するとペイン達も頷き、そして呆然としているオサムと子供達に対して視線を向ける。
状況が読みにくくなった故に困惑していた彼らもオレ達から視線を向けられた事で我に返り、身を引き締めた。そんな彼らに対してまず――
「そう固くする事はない」
――ペインが声を掛けた。
今その場で彼らと僅かながら関わりがある彼が会話を行う事になったのだ。
「君達が海賊のオレ達を信用できないのは理解する」
「――だが、オレ達が君達に手を加える事はない」
海兵に変装した時と同じ誠実な態度でそう話す――説得しているペインの姿勢にオサムは――目を鋭くした。
「っ!!――そんな気前のいい事をどれだけ言っても――お前の事はもう信じるのか!!」
彼はペインを睨み付けながら声を荒げ――拒否の態度を取った。
……無理もない。海兵に変装した海賊の言葉等、果たして信じられるのだろうか?
そういう意味ではもっともな反応をみせたオサムの姿勢を受けてペインはしかし不快な感情をみせずに深く頷き――
「……だろうな、お前がそういう態度を取るのも理解できる」
「――だが、教えよう」
そして彼は真剣な表情を浮かべて口を開く。
その表情、姿勢には実に凄みがあって――それ故に気圧されたオサムと子供達にペインは言い放つ。
「まず、ここはオレ達――暴獣海賊団の船だ。すなわち、地の利はこっちにある」
「次に君達はたった1人でしかも強くはない海兵と子供達だ」
「そんな存在等――オレ達がわざわざ騙してやる必要はどこにもない。ぜいぜい、さっさと排除するのがオチだろう」
無表情な彼が言葉を濁さずに言い放ったその事実にオサムと子供達も固まってしまった。
――そうなのだ。暴獣海賊団は地の利がある上に十分な実力を持っている。一方ではたった1人の海兵と子供達だ。
これでは――確かに暴獣海賊団が彼らをわざわざ騙す必要性がみられない。もっとも……
「その事は君達も勘付いている筈だ」
「「「っ…」」」
その指摘にオサムと子供達も呻いてしまうが否定もできなかった。
実はかなりの慎重派である故か、ある程度頭が回るオサムと子供の身ながら聡明である子供達も今身を置かれる状況から騙されるまでもない程に自身達の立場がかなり低いのを認識していた。
……だからこそ、海賊達がいつまでも襲ってこなく自身達の身が今も無事であるという事に疑問を感じていた。
その意図がさっぱり見当が付かないが――かといって弱みをさらけ出す訳にもいかないので、彼らは少しながら強硬な態度を取らざるを得なかった。
だが、ペインがその状況を改めて指摘した事で彼らも戸惑わせられた。
ますます訳が分からなくなった事で困惑していながら、しかし警戒を解かない彼らに対して彼は言葉を続ける。
「……オレ達、暴獣海賊団が君達に手を出していないのは――」
「――こちらのスサノオさんが〝バシレウス〟から脱走してみせた者達の度胸に報いたいと考えているからだ」
「「「!!?」」」
ペインによってようやく明らかにされたその理由に彼ら、特に子供達は驚愕した。そんな彼らに今度はこのオレが近寄った。
「……リュドドド――そうだ」
自身達の目前に近付いてきた大男が浮かべた笑みは獰猛ながら――どこか陽気さを感じられていて、だから子供達も奇妙ながら安堵感をつい覚えた。
それにつれてオレも言葉を続ける。
「――お前らは子供の身ながら危険を覚悟してまで〝バシレウス〟から脱走したんだろ?」
その言葉に子供達もハッとして――深く頷いた。
「――はい!そうなんです!あそこは私達が生きてはいけないと思ったんです……だから脱走を実行したんです!」
「……このオレ達は確かにガキだ――だからって従ってやる筋合いがどこにもないからな……です」
そのリーダー的存在であるエマとレイが子供達を代表してその考えを説明した。
聡明である彼女達は今までの進捗状況、ペインとオレが口にした言葉から今ここで自身達の考えを説明した方が良い結果に結び付くだろうと見込んだのだ。
現に――その内容にオレも満面の笑みを浮かべた。
「――リュドドド!!」
「――誰かの掌で踊らされるのを良しとせず!!」
「――仲間達との未来を求めて危険な事を実行するその度胸!!」
「そういうのはなぁ!!――大好きだ!!」
「だからこそ……手を貸したくなるんだよな!!!」
そしてエマとレイ達に対して好意をも示した。
その姿勢に彼らは表情を明るくし、一方でオサムは驚愕した。
「ち、ちょっと待って!!」
つい声を上げずにはいられない彼にその場の人々が視線を一気に向けた。その視線にオサムは一瞬怯むもすぐ真剣な表情を浮かべる。
「……本当は何を企んでいるんだ?暴獣海賊団――」
彼はオレ達を前にそう問いかけた――実は海賊と顔を合わせる経験がある故に自身の欲望に正直な海賊が好意で人助けをする等あり得ないのを知っているのだ。
それでもやるというのは――必ず何か思惑があるからだと考えたオサムはそれを把握する為にその問いかけを率直に投げてみたのだ。
そんな彼にオレは――不敵な笑みを浮かべる。
「――リュドドド!!別に何もねぇよ!!ただコイツらに手を貸したくなっただけだ!!」
あっけらかんとそう言い放ったオレにオサムも目を真ん丸にして口をあんぐりと開けた。
「え!?……海賊なのに?」
「おう!海賊だからこそだ!!」
呆然とする彼に対してオレは言葉を続ける――自身達の海賊としての有り様を口にする為に……
「このオレ達がそうしたいと思ったから――そうしてやるまでだ!!」
堂々と言い放たれたその考えにオサムもとうとう――白目になっていた……
「そ、そんなメチャクチャな……」
「――そういうお前はどうなんだ?」
「っ…」
辛うじてそう呟いた彼だが――逆にそう問いかけられた途端に口をつぐんだ。直接そう言われた事でつい目をそらしてしまった物事を認識せざるを得なくなったのだから……
「…(確かにこの者達は――海賊だ)」
「(でも、その思惑がどうであれ……確かにこの者達は子供達の為に動いている――僕達と違って……)」
「(っていうか――正義なのに子供達の危機に動けない僕達とは……?)」
突如突き付けられたその事実に苦悩せずにいられなくなってしまったオサム――をよそに今度はエマが声を掛けてくる。
「――あの!本当に〝バシレウス〟に連れていくんですよね!?私達の仲間を助けに!!」
おそらく縋る思いで投げられたであろうその問いかけにオレは笑みを浮かべ――
「おう!そのつもりだ!!」
誤魔化さずにそう答えたオレの姿勢にエマは表情を明るくし、そしてレイも深く頷き――
「――でしたら、オレ達が案内しましょう――〝バシレウス〟へ……!」
――そうしてオレとエマ、レイの間に議論が開始されようとするが……
「――ちょっと待って!!!」
「「「!」」」
そこに固まっていた筈のオサムが声を上げてきた。
驚愕するオレ達に顔を向けてきた彼はさっき苦悩していた様子から考えられない程に凛々しかった。
その様子に眉をひそめたオレ達に対してオサムは――言い放った。
「――この僕も同行する!!」
「「「!!」」」
その内容にオレ達も驚愕せざるを得なかった。それに構わずに彼は言葉を続ける。
「……色々ありすぎるこの事態に対しては何を言うべきなのか――この僕には情けない事に分からない」
「――だが、お前達が子供達を救出しようと動いているのにこの僕が指をくわえる訳にはいかない!!」
「この僕も海兵として子供達を救出する!!」
「――そして!お前達が何かをしようとする時は問答無用で倒す!!」
「分かったか!!海賊共!!」
海賊達に囲まれているにも関わらずにその宣言を堂々と出したオサムのあまりにも無謀な姿勢にオレもつい――笑みを浮かべた。
「――リュドドド!!よく生意気な事をほざいたな!!海兵がよぉ!!」
「あぁ、海兵だからこそだ」
オレが威圧感を放ったのに対して彼はつい冷や汗を流した――が、それでも立つ――立ってみせた。
その姿勢にますます笑みを深くしたオレは……
「――なら!お前も話し合いに加えてこい!!」
「!……あぁ」
認められたオサムを加えたオレ達は改めて――議論を開始した。
――そして
「リュドドド!!これから〝バシレウス〟に向かうぞ!!」
「「「おう!!」」」
――エマとレイが率いる亡命集団と海兵のオサムを加えた暴獣海賊団は〝バシレウス〟に向かっていった……