さらわれた仲間を救出する為に〝バシレウス〟の城内を駆けていたエマ達――
それを拒絶するかのようにその行き先に突如兵士達が立ち塞がった。
そんな壁を粉砕しようと彼女達の援護を請け負った暴獣海賊団の海賊達が動く――前に何の因果なのか海賊達に同行した海兵、そして他でめならぬエマ達が自ら銃を手にし挑んだ。
――仲間を助けるんだ。それならば、いつまで人任せせずに自身で行動すべきだ――そう考えた彼女達が兵士達に立ち向かってみせたのだ。
そんなエマ達に兵士達は容赦なく襲いかかるが――
「……何とかなっちゃったね」
「……そうだね」
「「「全くもってそうだね」」」
深刻な雰囲気の中で行動を始めた筈のエマ達は呆然しながら雑談していた――そして、その周囲には死屍累々が広げられていた。
そうなのだ、彼女達が兵士達を見事撃退してみせたのだ。まだ子供達である自身達が今の状況を作り上げたのが信じられなく、呆然していたのだ。もっとも……
「……まぁ、ユーマとオサムさんがほとんど倒してくれたからのもあるけどね」
エマが言い放ったその言葉により彼女達の視線がその2人に注がれる。
――そう、それは実に見事な戦いぶりを展開して兵士達を蹴散らしてやった2人。そのうちの1人であるオサムは突如視線を一気に浴びた事でつい狼狽し、冷や汗をすごく流した。
「あ、いや……そ、そうなのかな〜僕は別に大した事をしていないというか……」
彼があたふたしながら何としてでも否定しようとする一方でもう一人のユーマは――目つきを〝三〟にして口を尖らせる、実にそのように毒気の抜けた顔をしていた。
「どうもどうも」
「……どう見てもすごそうには見えないこの2人がこれをやったからすごいよね……」
「……そうだね」
その姿勢を目視した誰かがそう言った程にあまりにも間延びした雰囲気を晒し出している彼らだが、それとは裏腹に確かな実力を持っているからこそ兵士達の撃退に貢献できたのも確かだ。
それ故にエマ達から頼もしく見られる事になったユーマとオサムだが
「――いやいや!そういう君達もよくやっているじゃないか!本当に意外だったよ!」
「まぁ、エマ達も兵士候補として鍛えられたからな。そりゃ弱くはないよ」
オサムが自身だけの手柄ではないのだと立証する為か素早くそう言い放ち、ユーマもニッと笑みを浮かべながら共感して彼女達の実力の訳を説明した。
――そうオサムとユーマの戦いぶりが目立っているように見受けられるが、実は鍛えられてきたエマ達もそう負けられなくてしかも仲間を助ける為に自らから戦おうとしたのだ。
その姿勢が兵士達を撃退する一助となれたといっても過言ではないだろう。
〝バシレウス〟の兵士達もまた鍛えられている故に決して強くはない筈なんだが、それさえを撃破できた彼女達の強さ、それを支える覚悟も中々だといえよう。
「――いえいえ!私達はそんなの……!」
「むしろ、あなた達に助かってもらえたというか……」
「いやいや!君達は自分に自信をもっと持っていいと思うよ!」
「そうそう〜皆も弱くはないのだから〜」
といえ、どうやら自身の能力にそれ程に強い自負心を持っていないらしいエマ達とそれを何としてでも自覚させようと努める2人の間に雑談が発生した――そこに
「……いやはや、これはすごいな」
「「「!」」」
暴獣海賊団の海賊達から声を掛けられた。
それに目を見開く彼女達に対して海賊達――の中のハクジは苦笑を浮かべた。
「――君達の覚悟が強い上に鍛えられているのは分かっていたが、ここまでとは……これでは君達の援護を請け負ったオレ達の面目が立たないな」
「そうね〜いざという時は手助けしようと思ったんだけど……その必要はなかったわね……!」
さすがは鍛錬を怠らない格闘家、エマ達の素質を見抜けた彼だがそれでもその程が予想以上であるという事実に驚愕を隠せなかった。
そして今展開されたその状況により援護の意味を見失いかけてしまう事に苦笑せざるを得ないハクジに続いてマリアも軽い驚きを込める笑みを浮かべながら軽口を叩く。
もちろん、戦闘の最中に彼女達の身が僅かでも危うくなった時はすぐ介入するつもりであったが……その戦いぶり、そして今の状況からその必要も消えた。
その事実にマリアはむしろ笑みを深くした。
「――可愛らしいだけじゃなくカッコよくて――素敵じゃない……!」
「!……そ、そうなのかな〜///」
「み、皆がそう言うのなら……///」
その言葉はもちろん周囲からの称賛にエマ達も羞恥心を感じながらも自身達の能力に対してようやく自負するようになっていった。
その姿勢に周囲も微笑む――そのように和気藹々とする雰囲気が展開された場だが――
「――さて、皆さんが落ち着くようになった事でそろそろ元々の目的に戻りましょう」
突如――キサメが穏やかでしかし真剣な姿勢でそう言い放った。突如の事に一瞬首を傾げた人々だが、すぐハッとする。
「――そうだった!ノーマンとチカを助けるんだった!」
「そうだよ!話し合う場合じゃなかった!」
自身達がやろうとする事を思い出し慌てるエマ達に今度はハッテンが声を掛ける。
「――〝焦りは禁物〟だよ。思い出せたなら、まずは慌てずに急ごう」
「「「……!……はい!」」」
彼が救出活動を順調に進めるようにする為にあえて掛けてやったその言葉を受けて慌てていた彼女達も何とか意識を引き締めらせてみせた。
「――それもそうですね!急ぎましょう!」
「あぁ……邪魔者も恐らく少なくなっただろうし……」
真剣な表情を浮かべられたエマがそう宣し、それに続いてその場に倒れている兵士達の姿を眺めるオサムがそう判断する。
――だが、その途端にその中の1人が辛うじて立ち上がろうとしていた。
「「「!!」」」
「そ、そうはいくかぁ……!」
その事に目を見開くエマ達に対してその兵士は弱々しくも断固たる態度を示してみせていた。
「な、何としてでも貴様らを――あが!?」
だが、その者が突如何かを身に受けてその勢いで壁に叩き付けられた。
その何かとは――糸であった。そして、それを放ったのはもちろん……
「!マリアか」
「えぇ」
それを知っているハクジがそう検討を付いた通り、マリアがその兵士の所作を封じる為に糸を放ったのだ。またそれだけに留まらず――
「――念には念を♪」
まだ倒れていて立ち上がる様子をみせてこない兵士達にも容赦なく糸を放ってやった。
それより兵士達が全員身体を糸に包まれた――これで万が一でも再起して何かをしてくる事もなくなったといえよう。その状況にハクジも頷き――
「――よし!これで邪魔の心配も消えた!――行くぞ!」
「「「はい!」」」
そう言い放った。それにエマ達も従いその場を離れて、そのまま仲間の元に駆け向かった――
「…(この子達――やっぱりいいわね……)」
エマ達が仲間のいるであろう場に繋がる廊下を駆けている最中であるが……そんな中で彼女達に同行しているマリアは――優しげな微笑みを浮かべていた。
――まだ幼くても、さらわれた仲間を何としてでも助けようと全力を尽くしている子供達の姿勢が彼女の心を震わせていた。
何せ、その姿からある者達の事を思い出さずにはいられないのだ。そう……過酷な環境に身を置かれてなお、それでも全力で生き抜けようとして――そして無惨に殺されてしまった2人の女の子の事を……
「(やっぱり、この子達は――おハネとおカタちゃんの事を思い出させるわね……!)」
そのたくましい精神性から亡き親友達を連想したマリアはその懐かしさに感傷に浸り――そして、苦悶する。
――あれだけ良い子だった2人が理不尽な理由で殺されたという事実はもちろん、今エマ達もまた過酷な状況に置かれているという事実にマリアも苦悶せずにはいられなかった。
「…〜っ!!(あの2人といい、この子達といい――何で、何でこうもつらい目に遭うのよ!!性根が一欠片さえも悪くはない筈なのだから、そこまでされるいわれはない筈よ!!)」
彼女達が身を置かれる状況に関してマリアは心から嘆き――そして激しき怒りが湧き出た。
彼女はそれ程にあの2人と似てるエマ達に対して他人事とは思えず、放置できなかったのだ。だからこそなのか――
「(――この子達をおハネとおカタちゃんと同じ目にはさせない!!)」
彼女達には2人のような最期を決して迎えさせないんだとマリアはそう心に固く決めていた。
その決意を抱えているからこそ〝バシレウス〟で実行すべき数々の役割を海賊達がそれぞれ請け負おうとする中で彼女はエマ達に同行するのを選択したのだ。そして――
「……(小紫、この子達は私に任せて――あなたはそちらに専念してね……!)」
他の場にいるもう1人の親友に対してマリアはそう念じた。
――そう、実はおハネとおカタの姉妹のように自身で生き抜けてみせようと努める子供達の姿勢に小紫もまた心を震わされ、その力になりたいと考えていたのだ。
……ただ、行われた情報収集から判明・推測される〝バシレウス〟の戦力の程から彼女自身はもちろん――河松とイヌアラシとネコマムシの3人を監督する役目をも果たさなければならない故に決戦に参加せざるを得なくなった。
それはすなわち――子供達に同行するのが困難になったといえよう。
その事実に小紫も苦悶していた――お慕いしてるスサノオの助けになりたい、でも子供達の助けにもなりたい……その2つの志望の板挟みに悩まされた彼女――にマリアが声を掛けた。
その気持ちが理解できる自身にその役目を任せてほしいと言い張る彼女に小紫も面食らうもすぐ承知し――任せてくれた。
――あの子達をお願いね。
――おハネとおカタちゃんの二の舞はもうごめんだからね。
「……えぇ、任せて」
エマ達の事を自身に託した際の親友が浮かべた凛々しくて、しかし僅かに悲痛さがみられる表情とその言葉を思い出したマリアは真剣な表情を浮かべ、密かにそう呟く……
――あの忌まわしい悲劇の繰り返しを何としてでも起こさせまいと固い決意を胸内に抱えるブラックマリアがさらわれた仲間を助けようとする子供達に同行していった……
●
――そこは〝バシレウス〟の中枢の城内の間であるか……暗い闇と気味悪い静寂が広げられていた。
それもその筈――そここそが人を閉じ込める場……牢獄なのだから……
そういう役割を持つ場だけはあって鉄格子を多く設置されていた――そのような場なんだが……そのうちの一ヶ所には2人が閉じ込められていた。
――それこそが……
「……気分は大丈夫かい?――チカ……」
「……うん、大丈夫だよ……ノーマン」
――さらわれた子供達、ノーマンとチカであった。
少し衰弱しているようにみられる彼は寂しげに縮まっている彼女を心遣って、それに彼女も辛うじながら微笑んでそう答えた。
――2人は〝バシレウス〟、正確にはハイレイン派に囚われてその本拠地でしばらく幽閉された。そして中枢の城で会議が行われるのに伴い、その牢獄に移されてそこで幽閉されたのだ。
仲間から強引に引き離されてから過ごせざるを得なくなった幽閉の日々に2人共疲労しきったのだ――それでもせめてものの抵抗としてまだ屈していない様子をみせていた。
「……でも、私達どうなるんだろうね……」
それでもやはり限界らしく、チカは自身達の末路に関して嫌でも後ろ向きに考えずにはいられなくなっていた。
その一方でノーマンは――弱々しくも微笑んでいた。それもどこか確信めいていた……
「――大丈夫だよ。皆……エマが来てくれるよ」
彼がハッキリとそう言い張った――そこには疑いの余地がないように見受けられた。その断言に彼女はしかし疑わしげにしていた。
「皆が?……でも、皆は……」
チカは自身を含む子供達の能力を知っている。それ故に共感できなかったのだ。
「――確かにユーマ君がいるけど……それでも1人だけだよ?皆は弱くはないかもしれないけど……それでもまだ足りないよね?」
確かに皆が兵士候補として鍛えられた故にそれなりの実力を有しているのはそうだが、〝バシレウス〟の力を考えると不足だといえる事実を口にする彼女にノーマンはしかし微笑み続ける。
「――ふふっ、そうだね……でも」
そして天井を見上げる――彼は思い出しているのだ。
「――〝彼女〟は不思議な力を持っているんだ。それこそあり得ない事態を引き起こしちゃった程なんだ」
〝彼女〟――エマと関わるうちに目にしてきた数々の事態を思い出したノーマンが笑みを深くする。その詳細を知らないチカは面食らう。
「――そうなの?」
「そうなんだよ」
驚愕からそう言わざるを得ない彼女に彼はそう返す。そして
「だからこそ――今回もそうなるんじゃないかと思うんだ」
続いてそう言い放った――
――そして、それが当たるかのように
2人がいる間の扉が突如吹っ飛ばされた。
「「!?」」
突如の事に2人が目を見開くのをよそにその声が響かれる。
「「「ノーマン!!!チカ!!!」」」